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白薔薇姫に捧ぐ鎮魂歌

ハンマーの城塞騎士・グントラム

<白薔薇姫に捧ぐ鎮魂歌>

■担当マスター:星影しずく

 居住区から離れた区域。
 そこには柵で囲われた、真白き外壁の屋敷が建てられている。
 敷地内は隅々まで手入れが行き届いており、季節の花々が咲き誇る。近付けば、花の芳香が漂うだろう。
 屋敷の中は薔薇の造花が飾られ、数多の棺が規則正しく並べらた埋葬部屋となっている。
 埋葬部屋の中で一際目立つ棺があった。レースの装飾が施された小さな棺だ。その棺がシンと静かな空間にカタカタという音を響かせ揺れ動く。
 棺の揺れが止まったと同時に、棺の蓋がゆっくりと開いた。すると中から、フリルやリボンで飾られた可愛らしい純白のドレスを身に纏った少女が現れた。
 その少女の顔半分が仮面で覆われていた。
 少女の金色の髪が地を這うように伸び、白く小さな手が髪を飾る白薔薇のコサージュを愛おしそうに撫でた。
「あそぼ、あそぼ」
 マスカレイドとなった少女が無邪気に告げると、それに応えるように傍に在る複数の棺が揺れ動いた。その様子に少女が嬉しそうに笑むと、口許から鋭い牙が覗いた……。

「おぬしらに頼みがある」
 集まったエンドブレイカー達にそう切り出したのは、ハンマーの城塞騎士・グントラムだった。
 兜ごしに一同をゆっくりと見渡すと、手にしているハンマーの柄に指を絡ませ強く握り直し、一度大きく頷いて話を続けていく。
「とある場所に建てられた屋敷に安置されている死体が、アンデッドマスカレイドになったのだ。共同墓地では無い場所に安置されている辺り、身分が高いか裕福な一族なのであろう」
 多くの死体は共同墓地に埋められる。
 だが、裕福な市民は一族専用の墓地として、埋葬部屋を建て死体を安置しているようだ。
「率直に言う、市街にこのアンデッドマスカレイド達が溢れ出す前に倒して欲しい」
 グントラムは大きく息を吸い、言う。
「埋葬部屋は厳重に守られているのだ。厳重な事はいいのだが、それ故に現時点で埋葬部屋の異変に気付く者は居ない。異変に気付いてからでは遅いだろう」
 埋葬部屋から外に出てしまえば、アンデッドマスカレイド達がどのような行動を取るか解らない。だからこそ、早急の対処が必要だ。
「もう一つ、この屋敷への出入りを監視している管理人が1人いるのだ。そう簡単に中へ入る事は出来ないはずだ」
 管理人は埋葬部屋とは別に建てられた小さな監視小屋にいる。埋葬部屋の入り口がよく見える位置にあり、関係者以外が近付こうとすると威圧的な物言いをしながら近付いて来る。
 鎧に包まれた腕を口があるであろう兜の場所に宛がい、グントラムは思案する。
「手荒な真似はするべきではない。やむを得ない場合は気絶させるなどそれ相応の対処をしても良いが、出来得る限り穏便に済ませるといいだろう。管理人は仕事を全うしているだけで、非はないのだからな」
 一通り話し終えたグントラムは、もう一度エンドブレイカー達を見つめた。
「儂からは以上だ。嗚呼、おぬしらが向かう場所には棺が数多くある。棺をあまり壊さぬよう、留意して欲しいのだ。死者の眠りを妨げぬようにな。では、武運を祈る」
 マスカレイドとなってしまった、白薔薇姫達に再び永劫の安息を。

●マスターより

初めまして、星影しずく(ほしかげ・――)と申します。
私にとって初の依頼となる「白薔薇姫に捧ぐ鎮魂歌」のシナリオをお届けします。
皆様と物語を紡いでいける事への嬉しさと緊張が相成った複雑な心情ではありますが、精一杯力の限り尽くしたく思っている次第です。
どうぞ宜しくお願い致します。

●埋葬部屋
厳重な扉が2枚あります。鍵は管理人が所持しているようです。
扉を2枚開けると、棺と造花だけが存在する大きな部屋が現れます。

●管理人
同じ敷地内にある監視小屋にいます。
180cmある、がたいのいい男です。
責任感がとても強く、真面目で几帳面なようです。
埋葬部屋の鍵はベルトに括りつけてあります。

●アンデッドマスカレイド
▽少女×1
死して間もない10歳前後の少女です。
顔の半分が仮面に覆われています。
髪を飾る白薔薇のコサージュを大切にしているようです。
・金色の長い髪を操る(遠距離単体攻撃:締め付け)
・鋭い牙での噛み付き(近接単体攻撃:毒)

▽初老の男×5
仮面が顔全体を覆っています。
少女を囲むように立っています。
・ステッキを用いての殴打(近接単体攻撃)
・ステッキを失った場合、鋭く尖った爪での引っ掻き(近接単体攻撃)

●成功条件
アンデッドマスカレイドの全撃破。

それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 太刀の魔法剣士・マリス(c00270)
【事前準備】少女について、特にどんな子だったのかを中心に調べておきます。後、白薔薇のコサージュについても気になりますので、そちらも調べます。
【管理人】少女の友人として、お墓参りに来たとします。もし、直接の面識が不自然なら、文通相手だったとかにしたら良いかと思います。献花用に白薔薇を用意しておきます。装いはそれっぽくし、何か不審に思われたら、太刀は習ってる演舞を見せるかにします。交渉に失敗したら、状況によって忍び込むか実力行使になります。
【戦闘】前衛で壁作って陣形を崩されないようにします。残像剣で撹乱して的を絞らせないようにし、居合い斬りで留めを刺します。初老の男から倒しますが、少女の髪にも注意を払っておきます。
【戦闘後】綺麗に御片づけをします。納棺の際、少女は白い薔薇のコサージュが好きだったようなので、一緒に入れておきます。最後に献花し、安らかな眠りをお祈りします。

● 大鎌の魔曲使い・ロキヤ(c00476)
戦闘前:
『墓参りに来た子供達の付き添い』として、埋葬部屋の鍵を借りるべく管理人を説得。
それらしい風に見えるよう、身なりを整えて喪服を着て行く。
「…手数とは思うが、申し訳ない。この子達に友の平穏を祈らせてはくれないだろうか…?」
もしも管理人も着いてくるようなら、丁重に断ろう。
説得不可能或いはそれでも着いてくるなら…仕方無いので、ぶん殴って気絶させ、小屋に運ぶ。
部屋に入ったら、戸は両方閉めておこう。

戦闘:
持ち込んだランプは、邪魔にならん場所へ置く。
ポジションは後衛。
誘惑魔曲を使っての少女の牽制が主になる、だろうか。
…偽善かもしれんが。なるべく、傷は付けたくないのでな。
後衛の近くにまで初老の男が来た場合、黒旋風を使い近距離攻撃。
回避と防御は…出来る限りの努力はしよう。
棺は壊さないよう、注意

戦闘後:
全ての遺体を棺に戻し、何事も無かったかのようにしよう
「…良い夢を」
さて、鍵を返しに行かなければな。

● アイスレイピアの魔法剣士・カルト(c02165)
■戦闘前
管理人から鍵を借りてくるまで待機
借りる事が出来たら合流
埋葬部屋の扉は2枚ともきちんと閉じておく

管理人と揉め始めた場合(気絶させようとし始めたら)加勢
気絶させる事ができたら「すまない、少しの間鍵をお借りする」と謝っておく

■戦闘
ポジションは前衛
攻撃順位は初老の男→少女
どちらかと言えば攻撃より回避・防御が優先
主に氷結剣を使い攻撃

後衛を守る事が最優先、少女の遠距離攻撃には特に注意
アンデッドの為、無駄な攻撃をするより確実に出来る方法を、という考え
なのでまずは、倒す事より無力化する事を優先(凍らせる・四股を切り取ろうとする等)
「あまり傷を付けたりはしたくないのだが…仕方ないな」

■戦闘後
遺体を棺に戻し、周りにある戦闘の痕跡をなるべく消す
その後、無言で黙祷しておく

鍵は管理人に返しておく

● アイスレイピアのスカイランナー・レイユ(c02806)
>前準備
ランプ持参
戦闘中邪魔にならないように腰からつるす

>潜入
管理人から鍵を借りて来るまで近くの物陰に隠れて待機
入口が開くのを待つ



>戦闘
戦闘が始まったら私は前衛で少女マスカレイドのお相手
アイスレイピアのアビリティ中心にマヒを狙いながら攻撃、抑えをするわ

…あれがマスカレイドの仮面…か
なんか嫌な感じよね

>戦闘後
可能な限りお墓を元の状態へ

● 杖の星霊術士・ルミリア(c02918)
●情報収集
・彼女の生家を調べて近所の方から名前を聞き出します
・もし友達とか見つけたら、生前のお話なども少々

●墓守のおじ様
・あらかじめ花束を買っていって友達を装ってお墓参りをしたいと言って通して貰います
・もし、駄目なようなら夜中に忍び込みでしょうか?
その時は他の皆様について行きます

●戦闘
・当初は後衛からマジックミサイルで少女に牽制
・ただし(遮蔽で視線が通らない等)それが難しいようなら前衛のおじ様方を攻撃

・仲間で毒をくらった方、もしくはHPの50%以上のダメージを負った方が居ましたら星霊スピカを呼び出して回復を実施(毒が解除されるまで)
・その後余裕のあるときには自分を回復し、それ以外は仲間の回復

他、機会がありましたら
『そのコサージュを手向けてくれた方の事を思い出せますか?』と呼びかけてみます

●戦闘終了
再び遺体をそれぞれのお墓に埋葬しなおして、今度こそ安らかに眠れるようお祈り申し上げますわ

● 剣の城塞騎士・エリカ(c03255)
◆心境
初めての依頼、しっかりと成功させていきたいわね
ただ…「死した者までがマスカレイド化するなんてね」

◆行動
ランプ持参

まずは屋敷への侵入
ここでは役目も無いので、外で待機しているわ
「失敗したようなら、手荒な真似をするしかないわ
上手くやってきてね♪」(ウインク

埋葬部屋へ到着
マスカレイドとの対峙
アンデッドとの初対面に、ちょっと難しい顔
ただ、「死している以上は遠慮無用よね」

争った痕跡が残らないように配慮
特に少女の棺は無傷で残したいわ

まずはご老人から退場願いましょう
近接のみですので、防御をしつつ間合いを詰めて一気に仕留めたい
城塞騎士としての鍛錬が物をいうわね

自分の担当を倒し終えたら、仲間の援護へ
ご老人と対峙する仲間を援護
ただ、少女の担当が予想以上に厳しい戦いを強いられるようならそちらへ
倒した段階で判断するわ

◆事後
「ダメよお嬢ちゃん、遊びの時間は終わったの
今は安らかにお眠りなさい」
棺に少女を戻し、黙祷

● 大鎌の魔法剣士・リコリス(c03569)
・心情
まぁ、使者を運ぶのも仕事かしらね。

・戦闘準備
とりあえずランプを持参。

鍵の交渉などは、もうメンバーが決まってるからその人たちに任せて監視小屋のそば辺りで待機。
実力行使とかだと面倒だから穏便にすむと楽で良いわね。


・戦闘
まずランプは、戦闘の邪魔にならない所に置く。

ポジションは、とりあえず一番GUTSもあるし最前衛あたりかしら?

戦闘は、優雅に美しく。

後衛に敵が行かないように守りながら戦闘。

「さてと…貴女たちには此処で眠ってもらうわ。」

後は、回復役もほぼ居ないみたいだから攻撃は回避を優先。

前衛も互いを守りつつ戦えれば誰も倒れずに済むと思うんで皆に指示するなりなんなり。

そうそう、あと棺はあんまり壊しちゃいけないのよね。一応注意しておくわ。

攻撃優先は、初老>少女


・戦闘後
戦闘の痕跡を隠す。
少女の棺の上には、名と同じ一輪の「彼岸花」を手向ける。
「葬送完了…安らかに眠ると良いわ」
鍵は…返す人たちに任せます。

● アイスレイピアの魔法剣士・クゥーリオ(c04438)
●心情(真剣)
すこしかわいそうだと思う
同じくらいの歳で死んじゃってることにも、マスカレイドになってしまっていることにも
せめて安らかに眠れるように……一人の騎士として頑張るよ

●行動
『戦闘前』
鍵の交渉組が、扉の鍵を入手したら合流する
それまでは管理人に見つからない場所で残りの皆といっしょに待機してるよ
埋葬部屋の扉は外に音が漏れないように閉め忘れないようにしなきゃね

『戦闘』
ポジションは前衛
後衛に敵がいかないようにしながら、他の前衛と連携を組みながらまずは老人の相手をする
老人の生命力が高かったときは残像剣を駆使して両腕を切り飛ばし、氷結剣で足を凍らせて無力化する
老人を倒しきったら、少女の相手をするよ
意識するのは回避と防御、それと棺を壊さないようにすることだね

『戦闘後』
少女と老人たちの亡骸を丁重に弔う
「今度はゆっくり休んでね……おやすみ」
少女の髪に白薔薇のコサージュを飾りなおしてから、棺の蓋を閉じる

● 大鎌のデモニスタ・キサラ(c05008)
◆心情
アンデッドは完殺
亡骸は土へ……

◆準備
ランプを用意
少女の友人として管理人と会い鍵を借りる
ちなみに列席するだけで終始無言
うなづくくらいはするが喋らない
墓所に入ったら二重扉は厳重に閉じて管理人に気付かれないようにする

◆戦闘
ランプは床に置く
後衛
少女を狙ってデモンフレイム連射
後衛に移動してこないように攻撃で牽制する
「……死者は奈落へ。さっさと落ちろ」
外して棺を壊さないように注意はする
後衛に敵が来ることがあった場合、大鎌を持って前に出る
近接攻撃の優先順位は、初老の男>少女
攻撃はなるべく避けるように努力する

◆事後
遺体を棺に戻して戦闘の痕跡をなるべく消す
白薔薇のコサージュが残っていたら遺体と一緒に入れておく
「眠りなさい……永遠に」
鍵は管理人に返す

● 太刀の魔法剣士・プラティーヌ(c05456)
基本的に、「何か不測の事態があったときに対応できる」立ち位置
で動くようにします。

◆準備
亡くなった少女の身元を確認、情報を皆と共有。
身元のわからないように変装し、上等な喪服に着替えておく。
説得の際は邪魔にならないように離れて隠れています。
扉関係は他の人にまかせ周囲の警戒に回ります。


◆戦闘
「さ、遊びに来ましたわよ。お出迎えはまだですの?」
前衛として戦線を支えます。
攻撃できるなら毒攻撃のある少女を先に攻撃したいのですが
周囲を初老の男達が囲んでいるという事なのでまずはそれらの
数を減らします。
こちらのほうが人数が多いのでお互いの邪魔をしないよう気を
つけます。
依頼の通り、周囲の棺桶などを壊さないよう留意して戦います。
アビリティは居合い切りからの残像剣で超スピードバトルな
雰囲気です。

◆戦闘後
遺体を納棺するのを手伝います。
「おやすみなさいましな、今度はゆっくりと……」
自分の着ていた喪服などは処分します。

<リプレイ>

●護る者、偲ぶ者
 陽光輝く穏やかな日。
 綺麗に整備されている一本道を個々、様々な想いを胸に進む。道沿いには腰ほどの背丈の木が植えられ、そこを歩む者の心を潤している。
 暫くすると前方に真白き外壁の屋敷が見えた。
 頬を撫ぜる風と共に花の芳香が漂い、エンドブレイカー達を屋敷へと誘う。
 屋敷にそう遠くない場所で立ち止まった剣の城塞騎士・エリカ(c03255)は藍の髪を靡かせ、管理人の説得へ向かう仲間達を見つめた。
「失敗してしまったら、手荒な真似をするしかないわ。上手くやってきてね♪」
 金色の双眸。片目を瞬いてウインクをし、激励する。笑顔の彼女に応えるように説得へ向かう数名が頷いた。
「さ、いってらっしゃいまし」
 エリカに続いて言ったのは太刀の魔法剣士・プラティーヌ(c05456)だった。そう告げると、数名を屋敷へと送り出した。プラティーヌは上等な喪服に身を包み、素性が解らないよう変装した姿で周囲を警戒しながら身を潜めた。
 屋敷へ入るための鍵を入手するという重要な役目を担った者達は屋敷へ向かう。残った者達は集中を途切れさす事無く、周囲を警戒しながら待機する。

 花を持ち、シックな装いの面々が敷地内へと踏み入れる。
 すると間もなくして、小屋の中から体格のいい一人の男が出てきた。その男は眉間に皺を寄せ、真っ直ぐ此方に向かって歩いてくる。
「何の用だ。ここから先は立ち入れない決まりとなっている」
 低音で威圧的な物言いをする彼が、この屋敷を管理している男だった。
「友達のお墓にお花を添えたいと思いまして」
 その様子に怯む事無く、赤の大きな瞳で杖の星霊術士・ルミリア(c02918)が管理人を真っ直ぐと見上げる。
 ルミリアの傍に居たのはゴスロリドレスに質素なコートを纏い、頭にミニシルクハットを乗せた大鎌のデモニスタ・キサラ(c05008)だった。キサラは黙ったまま、ルミリアの言葉にこくんと小さく頷く。
「……手数とは思うが、申し訳ない。この子達に友の平穏を祈らせてはくれないだろうか……?」
 一歩離れた所に立ち、少女達を見守るように佇んでいた大鎌の魔曲使い・ロキヤ(c00476)が管理人へ一言添える。
 管理人は一人一人をしっかり見て行く。ルミリアが手にしている花束、そして白薔薇を持つ太刀の魔法剣士・マリス(c00270)に視線が向けられた。
「お願いします」
 管理人を見つめてマリスは言う。優しい香りのする白薔薇を大切そうに抱え直し、一度頭を下げた。
「失礼致しました。そういう事ならば、鍵を開けますので此方へ」
 頭を上げてください、と管理人は添える。先程までの硬い表情が和らぎ、どこか嬉しそうな様子でベルトに括りつけてあった2つの鍵を手に取る。
「……この子達に任せて頂けないだろうか」
 屋敷へと管理人が一歩踏み出した時、ロキヤが声を掛けた。立ち止まった管理人が振り返ると、ロキヤは一緒に訪れた少女達を見渡してから再度管理人へと視線を向けた。
 暫しの沈黙。管理人は少女達の前に立つと目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「わかりました。お嬢様も喜ぶ事でしょう」
 微笑みを浮かべた管理人は、キサラとマリスの小さな手に鍵を乗せ立ち上がる。そのまま、彼は敷地内の奥へと立ち去った。
 4人は管理人の姿が見えなくなるのを確認すると、お互いの顔を見合い安堵の笑みを浮かべたのだった。
「……キサラが開ける」
 静かに呟いたキサラは、その場から歩を進め屋敷の扉へ向かう。キサラに続いてマリスも扉へ歩み寄る。キサラは一枚目の扉の鍵を開けるとゆっくりとその扉を開いた。目の前に現れたのは2枚目の扉。そこでキサラはマリスを見つめる。
 キサラの視線に気付いたマリスは手の中の鍵を見つめた後、静かに鍵穴に差し込んだ。鍵を回すと鈍い金属音が鳴る。
「私の方も開きました」
 もう一つの扉を開けたマリス。二枚の扉が開いた事を確認したロキヤとルミリアは顔を見合わせ頷き、待機している仲間達の元へ知らせに向かった。

●彷徨いし亡骸
 エンドブレイカー達が屋敷の前で合流した。
(「すこしかわいそうだと思う。同じくらいの歳で死んじゃってることにも、マスカレイドになってしまっていることにも。せめて安らかに眠れるように……一人の騎士として頑張るよ」)
 アイスレイピアの魔法剣士・クゥーリオ(c04438)が神妙な面持ちで扉を見つめている。彼の手にはしっかりとアイスレイピアが握られ、決意が感じられた。
 そんなクゥーリオを筆頭に仲間同士目配せをすると脅威が待ち受ける屋敷の中へと入っていく。
「扉、閉めておくな」
 最後に屋敷の中へ入ったアイスレイピアの魔法剣士・カルト(c02165)は落ち着いた声色で仲間に伝えると、両方の扉を閉めた。
「さ、遊びに来ましたわよ。お出迎えはまだですの?」
 不敵な笑みを浮かべたプラティーヌは白で統一された部屋の中に向けて告げる。青の瞳で見渡すと視線の先には少女と男の姿があった。
 片手にステッキを持った燕尾服姿の初老の男が5体。彼らは人では無かった。否、人であったのかもしれないが、今は違う。男の顔全体を仮面が覆っているのだ。
「死している以上は遠慮無用よね」
 エリカが静かに言う。先程まで笑顔を絶やさなかった彼女の表情からは笑みは消え、難しい顔をしながら目の前に対峙した仮面のアンデッド達を見つめた。
 男達の中央には煌びやかな金色の髪と白薔薇のコサージュと純白のドレスに飾られた可愛らしい少女の姿があった。少女は突然の来訪者達に両手でスカートを摘み、お辞儀をする。
『あそぼ、いっしょ、ずっと』
 か細い声、たどたどしい話し方で少女が言うと傍に居る男達がエンドブレイカーにステッキの先を向ける。あどけない笑顔を浮かべた少女は嬉しそうにその場でくるん、と一度回って見せた。

 タンッと軽やかに床を蹴り上げ、大鎌の魔法剣士・リコリス(c03569)が対峙した男達と少女に接近する。広い部屋にしゃんと言う音が響く。その音は目の前の敵へと向けた、リコリスの大鎌につけられた鈴だった。
「さてと……貴女たちには此処で眠ってもらうわ」
 リコリスが大鎌を構えながら言うと、その声に5人の男達は丁寧に深々とお辞儀をし、顔を上げた瞬間一斉に襲い掛かって来た。
「まずはご老人から退場願いましょう」
 襲い掛かってきた男にエリカは防御を固めつつ一気に間合いを詰めていく。
「私のこの白刃をおみまいします」
 マリスは少女の髪の動きを注意しながら前衛へと立ち、陣形を崩されないように努めながら愛用の白刃の太刀で襲ってくる男を抜き打つ。マリスの攻撃に呻き声を上げ、男の体が床へ転がる。
 1体が倒れたが、統制の取れていない動きを見せながら構わず男達が次々と向かってくる。
「あなたの相手はわたくしですわよ」
 優雅に、舞姫の如く現れたのはプラティーヌ。美しい風貌の彼女の手に握られているのは肉厚な刃。舞うように駆けたプラティーヌから繰り出される抜き打ち、それに怯んだ男へ残像と共に幾度も斬撃が与えられた。その早い動きににあっという間に男が倒されると、仲間の邪魔にならないようにとプランティーヌは華麗な動きで一旦下がった。
 冷静に戦況を見ているのはカルト。カルトは無駄を省き、確実な攻撃を、と心の中で自分に言い聞かせた。その時、カルトの横を駆け抜けようと男が向かってくる。
「あまり傷を付けたりはしたくないのだが…仕方ないな」
 後衛を守る事を最優先に。カルトが手にしている細い刃が男の足を切りつける。男の足が凍っていき身動きが取れなくなったと同時に細身の刃が男に突き刺さった。
 床には動く事の無い、仮面を失った3体の男の姿。
 規則的に並ぶ棺、そして床に転がる3体の男の間を駆ける小さな黒い影が一つ。黒で統一された服を纏ったクゥーリオの姿だった。
「ボクに任せて!」
 その声と同時にクゥーリオから斬撃が繰り出される。目にも留まらぬ早さ、避けることすら儘ならず、ステッキを持つ男の腕がクゥーリオによって切り落とされた。
 ステッキを失った男は残った腕を振り上げ、長く伸びた爪でクゥーリオに牙を剥く。
「もう、休んでいいんだよ」
 男の爪がクゥーリオの白磁の肌に食い込もうとした瞬間、冷たい刃が男を貫く。ゆっくりと倒れていく男の姿を、息を乱す事無くただ静かにクゥーリオは見届けた。
 仲間達が男に専念し戦えるのは、少女を抑えているアイスレイピアのスカイランナー・レイユ(c02806)の姿があるからだ。
「……あれがマスカレイドの仮面……か。なんか嫌な感じよね」
 レイユは少女の顔の半分を覆う仮面と、自分よりも小さな少女の動きを赤の瞳で逃す事無く捉えていた。冷気を帯びた剣で少女の足を斬り付けると、あっという間に少女の足が凍り、少女は思うように身動きが取れずもがき、苦しむ。
 お墓である、この屋敷の中をあまり荒らさないようにとレイユは心がけていた。棺を傷つけないよう、最小限の動きに留め無駄の無い動きをしていた。
「危ないわ!」
 少女の相手をしているレイユに男が襲いかかろうとする。部屋に響いたのはリコリスの声。すかさずレイユと男の間にリコリスが入り、大鎌を使い牽制しながらレイユから男を引き離す。
 鈴の音を奏でながら大鎌を頭上で振り回し、舞うように優雅に美しいリコリスの攻撃に男は避ける事すら出来ずにあっという間に床に沈んだ。
「ふふん、いい感じですわね」
 プラティーヌが微笑む。男達はエンドブレイカー達にまともな攻撃を何一つ与える事が出来ずに再び眠りへ誘われた。
 残るは白薔薇の姫。
 少女の髪を飾るコサージュの花弁が一枚、はらりと落ちる。少女の瞳には動かなくなった男達の姿が映されていた。

●白薔薇遊戯
 この部屋を訪れてから、どれくらいの時間が過ぎただろうか。
 飾られている造花の薔薇は来た時と同じように咲き続けている。変化があったとすれば、数個の棺が少々破損している事。そして、床に眠る5体の男と未だに佇む少女の姿がある事。
 少女は大きな瞳でゆっくりと部屋の中を見渡す。
 先程まで一緒に過ごしていた男達が再び動く事は無かった。少女は眉尻を下げ、今にも泣き出してしまいそうな悲しげな様子で男達を見ていた。
 その隙にエンドブレイカー達は態勢を整え、今一度武器を少女に向けて構えた。
「そのコサージュを手向けてくれた方の事を思い出せますか?」
 ルミリアが少女に向けて問い掛ける。その声に促されるように少女は細く白い手でコサージュに触れた。だが、触れるだけで少女に変化は無かった。
『あそぼ、あそぼ!!!』
 エンドブレイカー達を強い眼差しで見つめた少女は、大きな声で遊びを乞うように告げると一気に金色の髪を伸ばし始めた。
「髪が伸びています。気をつけて下さい」
 変化にいち早く気付いたマリスが仲間に伝える。
 ルミリアは即座に魔法の矢を少女へと放った。光を帯びた矢が少女に体に突き刺さる。その衝撃で少女の小さな体が大きく揺れるが、髪は伸び続けたままだった。
 床を這うように伸びた髪は真っ直ぐキサラの元へ向かい、体を捕らえると同時に締め付ける。苦悶の表情を浮かべるも、キサラはすぐに金の瞳で少女を見据えた。
「……死者は奈落へ。さっさと落ちろ」
 不快感を露にしたキサラは体に髪が絡んでいる状態でも離す事無く大鎌を持ち、刃先を少女に向けた。そして少女へ向けて禍々しい黒炎を放った。
 大きな黒炎が少女を包む。だが、少女の髪がキサラの体を離す事は無かった。
「……幼くして死ぬのは、さぞ無念だったろうにな……」
 ロキヤは即座に大鎌を構え、少女に向けて切ないメロディを乗せた曲を歌う。鎮魂歌。なるべく、傷は付けたくないとの想いも込めて。
 少女に近付いたカルトは白薔薇のコサージュを壊さないように留意しながら、氷の刃で髪と共に少女を斬り付ける。髪は切られ、カルトの後ろからケホと小さな咳が聞こえた。髪に締め付けられていたキサラのものだった。
「あの方を癒してあげて」
 ルミリアの声に流れ星のように駆けて行く星霊スピカ。星霊スピカがキサラの元へたどり着くとぎゅっと抱き締めた。ぎゅっと抱き締めたまま、星霊スピカはキサラを見ていた。
「……ありがとう」
 小さく呟いたキサラが星霊スピカの頭を優しく撫でる。
 一度切られた少女の髪が再び伸び始める。その髪を避けながらクゥーリオが間合いを詰めていく。目の前に現れたクゥーリオに少女は咄嗟に口を開き噛み付いた。
「――っ!」
 鋭い牙を肌に突き立てられ、クゥーリオの表情に苦痛の色が浮かぶ。その痛みに耐えながら、クゥーリオは左手で少女の小さな体を抱き締めた。
「……一人で寝るのが、寂しかったのかな? でも、ごめん。ボクはまだ眠れないんだ」
 静かに、優しく少女に語りかけるようにクゥーリオは告げると少女から体を離す。その瞬間、キサラが再び放った二つの黒炎が少女を包み込んでいた。
 黒炎に包まれた少女の顔から仮面がサラサラと星の砂のように落ち、消えゆく。少女はそのまま静かに床へと倒れこんだ。
 訪れた静寂。
 煌星と共に星霊スピカがクゥーリオが受けた毒を癒す。
 レイユは赤茶のウェーブがかった髪を手ぐしで整え、服の埃を払うと静かにゆっくりと息を吐いた。

●捧げられし鎮魂歌
 レイユとカルトを始めとした全員で協力し、この広い大きな部屋から戦闘の痕跡を消して訪れた時のように元の状態に戻すように努めていた。
 レースに飾られた小さな棺の中で眠る少女。
 遊ぶ事は叶わなかったが、優しい想いに少しでも触れる事が出来たからか少女の表情はとても穏やかなものだった。優しい手つきでクゥーリオが少女の髪に白薔薇のコサージュを飾りなおし、ゆっくりと棺の蓋を閉めた。
「葬送完了…安らかに眠ると良いわ」
 その棺の上にリコリスが一輪の花を手向ける。
「眠りなさい……永遠に」
 リコリスの様子を傍で静かに見ていたキサラは少女の棺の上をそっと撫でると一言告げた。
 少女達を納めた棺を見ていたプラティーヌの表情は切なげなものだった。
「おやすみなさいましな、今度はゆっくりと……」
 落ち着いた声で告げられる言葉。その言葉に続いてエリカとカルトは黙祷を、献花をし終えたマリスとルミリアは安らかに眠れるようにと想いを込め、祈りを捧げた。
 全てを終え、元の状態に戻った部屋。
 ロキヤは帰り際、戦闘中と同じ鎮魂歌を少し歌う。
「……遊んでやれず、ごめんな」
 その曲を少女達に残し、屋敷を出る。鍵は管理人と接触した者達によって返された。
 生まれて間もなく死した少女。再び目を覚ましたのは、ただ、純粋に誰かと遊びたかっただけなのだろう。
 仮面が消えた白薔薇姫達は、ありのままの姿で再び永遠の眠りについたのだった。
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