ステータス画面

砕け、クレイジータスク!

弓の狩猟者・ナターリア

<砕け、クレイジータスク!>

■担当マスター:千咲

●クレイジータスク
 ――とある昼下がりの小さな小さな村。
 巨大な都市国家の中でも下層に近いところにあるその村の人々は、ささやかな農地での耕作と、同じ層にある他の村とのささやかな交易とで生計を立てていた。
 その村のはずれ。既に老年の域に達した女性が上の方を見やる。彼女の名はエミナと言った。
「見上げたところで何が占える訳でもないけど……あの子は上手くやってるかねぇ」
 あとは暗くなるばかりの天井から視線を下ろし、疲れたように腰に手を当てて拳骨を作ってポンポンと叩きながら呟く。
 どうやら遠くに出かけている息子ダナンのことを思いやっているらしい。
「さて、それじゃもう一息かしらね」
 短く告げて家に戻るエミナ。
 中にはいくつかの反物が積まれ、さらに奥の方に機織りの道具が見受けられる。休耕の冬の間は彼女が生地を紡ぎ、息子がそれを売りに近隣の村を廻っているのだろう。
 親子2人が慎ましく暮らすには十分だった。
 こうしてエミナの1日は何事もなく過ぎ、やがて夜は更けゆく。
 それから程なくした就寝後まもなくのこと、突然ドーンという物凄い音が響き、合わせて襲ってきた激しい振動によりエミナが目を覚ました。地震? いや!
 様子を確かめようと寝室を出たところで再びの激震。思わずよろめき倒れるエミナ。倒れた彼女の眼前でバリバリッという一層激しい音と共に玄関の戸口に穴が出現した。そこから覗く大きな白い角先のようなもの。
「ヒイッ!」
 角は一瞬だけ引っ込んだかと思うと、再び轟音と激震が襲い、今度は戸口が完全に破壊されてしまった。そこで明らかになる謎の襲撃者――それは数匹の猪。
 角に見えた白いものは、中でもひときわ大きな1体の口元から大きくねじ曲がって前方へと延びた牙。体格もその牙もいずれにせよ規格外の猪は、すぐ後ろに2体もの凶悪な面構えの同類を従えて、鼻息荒くエミナに目をつけた。
「クレイジータスク……」
 それはこの地域に伝わる噂の圧倒的な強さを誇る存在の猪。だが飽くまで噂に過ぎず、それを目にしたものは誰も居なかったのだから。
 しかし目の前の猪は紛れもなくそこに居る。醜く変貌したその鼻先からブォッと興奮したように息を噴き出すと、満足に動けぬエミナに向け地面を蹴った。

●マスカレイド
「わたくしが目にしたのは、村はずれで1人暮らすエミナさんが、突如現れた巨大な猪によって住む家もろともメチャクチャにされてしまう姿なのです。普通の猪を逸脱したその姿は、勿論マスカレイドの力によるものでしょう」
 目の前のエンドブレイカーたちに、自らが見てしまったエミナのエンディングを語って聞かせる弓の狩猟者・ナターリア。
 平和な日常を蝕むマスカレイドの脅威。それを打ち砕き、あるべきエンディングを取り戻すのがエンドブレイカーの務めなのだ。
「マスカレイドとなった猪が現れるのは夜になります。見た目に違わず巨体から繰り出される突進は甚大な被害をもたらすことでしょう。外は暗いですし、家の中なら幾分有利に戦えるかも知れませんが……」
 そこで言いよどんだのは、中で戦うとなればエミナの説得が必須だろうから。
「わたくしが目にしたことを説明して理解して貰えれば早いのかも知れませんが、それはきっと難しい事でしょう。起きていない災いを信用して貰うのは勿論、家が壊れるのを認めて貰うなんて」
 いずれにせよ対処はお任せします。そう言い添えると、ナターリアは続けてマスカレイドの能力について語る。
「皆さんの瞳には、先頭の猪の顔にマスカレイドの証である仮面が映ることでしょう。知性こそ姿相応ですが、その力は付き従う2体の猪を遙かに凌ぐ存在になります。最も恐るべきは突進ですが、そうでなくとも前に突出したねじくれた牙は根本の直径にして10cm、長さにして20cmあまり。単に大きいと言う次元を超え、振るっただけでも十分に脅威たり得ます。ましてかの者の体を覆う強靭な表皮は、金属鎧の如き防御を誇ります。力押しで戦うならば相当に手強いものと心得てください」
 ナターリアは最後に、くれぐれも牙から目を放さぬようにと付け加え話を括った。
 嫌な予感――それが何なのかは分からなかったけれど。
「皆さんが協力し合えればきっと、エミナさんのエンディングを変えられると信じています。どうかご無事で……」
 ナターリアは静かに頭を下げ、今から旅立つ者たちの無事を祈っていた。

●マスターより

 初めまして。そして『エンドブレイカー!』の世界へようこそ。皆様の冒険の一端を紡がせて頂きます、千咲(ちさき)と申します。
 色々なタイプの依頼を提供していきたいと思っていますが、主にマスカレイドとの戦闘系が多くなるような気がしています。単なるパワープレイにならぬよう工夫していければと思っておりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

 敵は規格外の牙を持つ猪、クレイジータスク。顔つきはイボイノシシをより恐くしたようなイメージでしょうか。攻撃は牙がメインとなりますが、十分な助走ができそうならば積極的に突進して急所を貫こうと狙っています。どうやら夜の闇は敵にとっては支障とならない模様です。
 また、付き従う2体も前に突き出した牙を持っており、マスカレイドではないものの一般的な猪よりは遥かに強力です。ゆめゆめ油断されませんように。
 なお、本文中でナターリアも申し上げているように、くれぐれも牙には注意してくださるようお願いします。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 杖の星霊術士・フィリエル(c00138)
<戦闘>
・戦闘場所
家の前、屋外で行います。

・事前行動
まず昼間から行動を開始し、時間に余裕があれば、
他の方と協力して気休め程度ですが、罠の設置を行います。
また、夜の暗がりに目を慣らしておきます。
火付け役は他の方に任せます。
敵の接近は耳を澄ませて足音を警戒。
イノシシ型と言う事で足音を殺して来ると言う事は
流石に無いと思うから。

・戦闘行動
戦闘は3班に分かれて行動し、
私はどの班にも属さずに、後方から援護を行います。

初手は遭遇時に先制で「マジックミサイル」を放ちます。
以降、「マジックミサイル」を中心に攻撃し、
大きなダメージを受けた人が居た場合、
「星霊スピカ」を召喚して、即座に治療にあたります。
また、牙には細心の注意を払って行動。
ある程度の障害物等があればそれを挟むように対峙します。

優先順位
回復(大ダメージ)>射撃(倒れそうな敵)>射撃(イノシシ)>射撃(マスカレイド)

・戦闘後
家が破損した場合修繕手伝い

● 槍の狩猟者・リナ(c00286)
【説得・灯り】
基本はみんなにお任せ。説得はボク邪魔だろうし。
でも灯りの方で何かやることあったらみんなに合わせて頑張るよ。

【罠】
自分からは仕掛けないかな。でも仕掛けてる人のお手伝いはがんばる。
ボクも一応狩猟者だし罠なら役に立てると思うしね。

【戦闘】
ボクは小さいのBを担当するよ。
一緒なのはクライフォートと…もう一人?居たら一緒に頑張る。

どっちがAかBかはその場で即興。
班分けしてるし平気だよね。

戦い方はなるべく怪我しないように囲みながら。
出来たら相手に助走もつけさせないようにしないとね。
槍で近接戦が基本で、場合次第でファルコンスピリッツも使うよ。
フィリエルの回復もあんまり回数使えないみたいだから無茶しないようにしないと。

小さいのBが終わったらクレイジータスクを倒しに向かうよ。
基本的な動き方は小さいのBの時と同じ。
ただ、こっちの方が危ないからさっきより人数多くても気を抜いたりしないようにしないとね。

● ハルバードの魔法剣士・レギネー(c00311)
【事前に】
戸口の直線上20メートルほどの位置に、横に2つ落とし穴を掘るよ。
穴の位置は全員に伝えておき、ハニィ達がかかってしまわないようにしないとね。

【日が暮れてきたら】
家の陰に隠れて猪達を待ち、猪が落とし穴地点を通り過ぎたorかかったと同時にダッシュして、家と僕で猪を挟む位置に回り込む。勿論落とし穴は避けてね。
僕の狙いはただ一頭!クレイジータスクさ!
周りの取り巻きの動きにも注意しながら、極力回避&進路に立ちふさがったりして勢いを削ぎ、突進妨害をするよ。
そして隙あらばアビリティを使って、尻や脇腹をこの斧槍で突き刺してやるさ!
落とし穴が素通りされている場合、戦いながら穴地点に誘導してみるよ。
その牙からは毒液でも飛び出すのかい?だったらマントを顔に投げつけて防いでみるよ。
何にせよ牙に当たらないように留意しなくてはね。


自分で掘った穴は自分で埋めて帰るよ。家の修繕が必要ならそれも手伝うとしようか。

● エアシューズのスカイランナー・チェイン(c01534)
 まずは下準備として柵を出来るだけ多く用意しておこうか。これは進入を妨害するというより、突進の直線距離を稼がせない為のバリケード……まあ、壁としての役割は全く期待していなけどね。あと、焚き火なんかも効果的かもしれない。松明から引火させるだけでそれなりに燃えるように数箇所離して設置……できればね。まあ、ここまではオマケみたいな物だから。
 相手の方が圧倒的に有利な状態で戦う訳だし、やれる事はやってみよう。
 手は空いてる筈だから照明用の松明を用意して、敵が確認できたら着火。雑魚の相手をしつつ、用意した焚き火に引火して光量を確保。要らなくなったら松明は焚き火の中に投げ込んじゃおう……火事にならないように気をつけないとね。
 戦闘は長距離の突進を妨害する為に至近距離を保ち、後方に回り込むように動こう。攻撃よりもかく乱と回避を優先するよ。

● 弓の狩猟者・クライフォート(c01909)
【説得】の間、私は他の皆さんと戦闘する場所を探し、事前に簡単な準備をします

明かりとなる松明の作成と、マスカレイド達の行動の阻害になりそうな罠(草を結んで絡まりやすくしたり、浅めの穴を掘ったり)
簡単な目印もつけて自分たちで掛からない様によく確認

松明の明かりは、予め火をつける準備を整えておき、他の皆さんとタイミングを合わせて灯します
もしくは火をつけておいて覆いを取る!
戦闘は各自担当を決め、家に近づけない様に止める!
私がまず受け持つのは小さい方のB3!
小さいのを片付けて、クレイジータスクに行きます

仲間と力を合わせ、必ずやエンディングを変えてみせます!
松明の僅かな明かりでも、狙った的は外しませんとも(きり)
同じ小さいマスカレイド担当の皆さんを中心に、余裕があれば、危ない時に援護射撃を
やらせはしません、やらせませんよ!

● アイスレイピアのスカイランナー・トール(c03739)
まずエミナさんをパメラとクロスの二人に説得してもらい外に出ないようにしてもらう。その後マスカレイドを待ちうける。
待ち受ける場所は家から離れたやや開けたところでしたいと考えている。
待ち受ける際に夜遅くなってきた場合、灯りとして松明を指しておいてクレイジータスクがやってくるころ、音などで察知して近づいてきてから灯りをともす。
エンディングと余りにも違う状況はまずいんじゃないかと思ってるんでな。
戦闘だが各個撃破をねらう。ただマスカレードを相手にしているのはあくまで牽制で、他の猪を倒してからそちらを倒しにかかる。俺はマスカレイドではない雑魚猪を狙うぞ。
牙が非常に危険のようだから攻撃された際には深手を負わないように気をつける。スカイキャリバーでプラスワン効果が出たらもう一方の猪も狙う。
猪を倒したら、残っている猪がいればそちらをその後マスカレードを倒しに行く。アビは氷結剣でマヒればよいんだが。

● 大剣の魔獣戦士・クロス(c03805)
■住人の説得(昼間)

パメラを連れてばあちゃんの説得に向かう。

・害獣がこの付近に現れた
・害獣が家を襲撃しかねないので、夜までに避難する事
・避難が難しいなら絶対に表に出ない事

を丁寧に伝えた後、被害防止用に家の周囲に罠を仕掛けても良いかを聞く。
拒否された場合は被害が甚大になりかねない事を伝え説得。


■罠設置(夕方〜日没まで)

他の面子の指示に従う。


■戦闘前(日没後)

周囲の音に意識を集中する。
クレイジータスクの足音と目視を合わせて距離と方向を推測し、
彼我の距離が約30m程になった時点で合図を出して灯りを灯し、戦闘に入る。


■戦闘

近い方の猪にワイルドスイングを使用。指示があればそっちを狙う。
ダメージ蓄積を優先するが家に向かおうとした場合は吹き飛ばしを狙う。
プラスワンが発動した場合もう一撃は近い方を浴びせる。
猪2体が倒れた後はクレイジータスクに向かう。
クレイジータスクの牙には常に意識を配り不意の動作に備える。

● 鞭の魔法剣士・レイモンド(c04117)
成るようにしか成らないとはいえ、マスカレードは違うでしょ。
マスカレードの引き起こすバッドエンディング、変えて見せるよ。
作戦や説得なんかはみんなおまかせ、楽できていいねぇ(笑)
ぼくはクレイジータスクの相手をするよ。
残像剣でいなしながら、捕縛撃で足止めを狙うよ。
倒してしまえればいいんだけど、たとえ倒せなくてもみんなが鍋の具(?)を確保するまでは持たせて見せるさ。
エミナおばさんの暮らしを守るためだからね、多少の怪我は覚悟の上さ。
でもみんな強いからねぇ。それにエミナおばさんを助けたいという思いは一緒だから、すぐにかたをつけて集まってくれると信じているのさ。
終わったら鍋だね。
ひょっとしたら村の人達全員でも食べられるんじゃないかな、2頭分だし。たまにはこういうパーティーもあってもいいよね。
余った肉はハムやベーコンなんかの保存食にして、エミナおばさんにプレゼント。
庭先で大騒ぎしたお詫びを兼ねてね。

● 盾の城塞騎士・パメラ(c04182)
>説得
クロスさんと一緒にエミナさんの説得。
自分が城砦騎士であることをまず前置き。
・最近付近で害獣の、人と家屋への被害が多い
・本日この付近で見かけたという報告があった
・そのため自分と有志で警邏に回っている
ことを伝えその上で
・夜一人だと危険なので今夜は付近の住宅に避難させてもらうこと。
・付近に現れたらまずこの家が狙われるので家屋を守るために罠の敷設の許可
をお願いします。
拒否されたらせめて夜に不振な音がしても外に出ないこと、戸口に近づかないことをお願いします

>戦闘前行動
・罠敷設はお手伝い
・松明は自分用に1本。戦闘開始時にすぐ火が点くように油や松脂がたっぷりのを
・他、待伏せや戦闘までの行動は全体指針に沿って行動

>戦闘
・右手に盾、左手に松明を持ってクレイジータスクを相手に。
・敵と家屋と戸口の間に割り込み家屋を背に戦う。家屋への突入を食い止め
・助走の妨げになるよう正面に張り付いて突進させないようにする

● 太刀の群竜士・ベニ(c05235)
心情…大きな敵と戦う時気をつける事は、怯むと身体が硬直し普段通りの力が出せないと言う事、それに気をつけつつがんばって初陣行ってみよう。

行動…奇抜な服装をしているベニは、説得は他の人達にお任せしているので、戦闘に集中する為に日が沈む前に罠の場所を再確認しておきます。「適材適所て言うからね、ベニには人を説得なんて無理だし、だからこれはちゃんと覚えておかなきゃ、自分が引っ掛かってれば世話ないし。」

ナターリアさんの言っていた牙から目を放さぬ様と嫌な予感は頭に置きながら戦闘に入ります。
目標はクレイジータスク当然皆で攻撃しなきゃ倒せないのは充分に分かってるので、まずは動きを見つつダメージを蓄積させて行きます。
突進には充分に気をつけ絶対に正面に立たない様にします。
興奮させて罠に誘き寄せれればラッキーって感じで。
一定のダメージ蓄積までは竜撃拳で戦います。
皆が合流出来たなら一気に人数にモノを言わせ討伐する。

<リプレイ>

●交渉
「さて。パメラ、行こうぜ」
「ええ。参りましょう!」
 急ぎ訪れたエミナの家の前。大剣の魔獣戦士・クロス(c03805)がほんの少しだけ強ばった面持ちで盾の城塞騎士・パメラ(c04182) に声をかける。まぁそれも当然。別段、説得が得意な訳じゃない。今回、たまたま適任そうと言うだけなんだから。
 が、決めた以上はきっちりやるさ……パメラのきちっとした返事を聞きながら、少し前まで厄介な役目を引き受けちまった、などとこぼしていたクロスは苦笑気味に玄関の扉をノックした。
「はいはい、どちらさま!?」
 微妙に弾んだ感を含む声音と共に玄関を開けたエミナは、2人の姿を見て思わず溜め息。それは息子の帰りを期待していた母ゆえに。
「私はパメラと申します。城塞騎士団に所属しています。彼は仕事のパートナーで……」
「クロスだ。俺たちは害獣がこの付近に現れたと聞き、退治するためにやって来た」
 と、改めてこの付近で巨大猪が暴れる事件が発生している旨を告げる。その上で出来れば退治が済むまで避難していて貰いたい旨を告げる。
「だけど私にも仕事があるしね、それに息子が……」
「もちろん無理にとは言わない。だがその場合、片付くまで家に籠もってて貰いたい」
「本格的な退治は暗くなってからでしょう。ですから昼間は戻ってくださって構いません。それに……いずれにせよ今夜か、遅くとも明日の晩には片付くと思いますので、できれば……」
 クロスとそれに続くパメラ、2人の接し方の違いが却って信用を得たのか、エミナは態度を改め、では村長にでもお願いしてみようかねと告げた。
「すまないけど、送ってくれるかい?」
 腰の辺りに手を当て申し訳なさそうに告げるエミナに、2人は声を揃えて勿論、と頷く。
 そして送る途中、家を壊させぬためと罠を置く許可も得、交渉は概ね意図した成果を得たのだった。

●地鳴り
 そんな2人の様子を見に行ったアイスレイピアのスカイランナー・トール(c03739)が、いち早く戻って皆にそれを伝える。
「許可は貰った。皆で罠をしかけるぞ」
「よし!」
 素直に喜ぶ半面、同時に微妙な表情も見せるエアシューズのスカイランナー・チェイン(c01534)。
 柵を用意しようとしたのは良いが自作するしかなく、結局1つしか用意できなかったから。
「ま、壁としての役割は期待していなけどね」
 突進の邪魔にでもなれば……それで十分だった。
 一方、弓の狩猟者・クライフォート(c01909)は槍の狩猟者・リナ(c00286)と共に、脚を掛けて突進を阻むための草を編む。狩猟者同士、設置場所についての意見も合い、闇の中ならそれなりの効果が期待できそうに思えた。
「ではこっちは落とし穴だ。効果的に使えると良いな」
 とのトールの言を受け、ハルバードの魔法剣士・レギネー(c00311)が率先して土にまみれ、額に汗して落とし穴を掘り始める。
「穴を掘っている時でさえ僕は輝くのさ! ああっ、土まみれになって労働するのも気持ちが良いものなのだね!」
 などと自分に酔うレギネーを華麗にスルーし、杖の星霊術士・フィリエル(c00138)は戻ってきたパメラと共に松明を設置してゆく。
「松脂をたっぶり染み込ませて……」
「こんな感じで、いいかな?」
 などと。

 ――こうして皆の準備がひとしきり整う頃。天井の光はだいぶその色を落としてゆく。
 ナターリアの見たエンディングと違うのは、家の中にエミナがいないことと幾つかの罠。そして待ち受けるエンドブレイカー。
 罠の場所を1つ1つ確認して歩く太刀の群竜士・ベニ(c05235)に、リナが話しかける。
「お家を壊すなんて許せないよね。お家があるってすごいことなのに。無いと寂しいんだよ」
 だから絶対に止めるんだ、その強い意志のこもった台詞はとても6歳のそれとは思えない。
「そうね。普段通りの力が出せれば大丈夫。頑張ろう」
「うん」
 ゆうに自身の倍以上もある槍の柄を力強く握りながらも、ベニに励まされ、ニコッと年相応に無邪気な笑顔を見せるリナ。戦いに臨む皆の緊張も思わず解ける。
 だが、そんなゆとりも束の間。時は静かに過ぎ、やがてすっかり暗くなる――。

 ドドドド、ドドドッ……。

 地鳴りにも似た重たい音。
「来たか!」
 重たい何かが地面を走る際の地響き。
 闇にも慣れた視線の先に、件の猪たちが姿を見せる。それらは結った草に足を取られ止ったようだが、期待したように転がりはせず、それどころかブチブチッと草の千切れる音だけが響く。
「まぁ勢いを止めただけでも良しとしましょう」
 そう口にするのも無理はない。姿を見せた3体の獣は、それほどに大きい!
 いずれも通常よりひと回りは大きな体。だが、中でも他2体を率いるように堂々と真ん中を往くヤツは更にふた回り以上も。
 これがクレイジータスク!?
 巨体の正面に見える歪な牙、前方に突き出したその上方には、マスカレイドであることを示す不気味な仮面。
 が、それに怯むことなく一気に走り出るレギネーとクロス、そして鞭の魔法剣士・レイモンド(c04117)。
「エミナおばさんの暮らしを守るためだからね、多少の怪我は覚悟の上さ」
 そして彼らを援護するように続いたのはチェインにパメラ、クライフォート。
 3人は手にしていた松明に火を灯すと、いったん高々と掲げてから、設置場所に駆け寄り火を移す。
「チェイン・ザ・ブレイカー、壊し屋チェイン今から開業するよ!」
「皆さん、頑張りましょう、後ろはお任せください」
 そうして仄明るくなった戦場に、明かりの先で佇む巨大な猪の姿が一際映えていた。
「先制攻撃、いっけぇぇぇぇっ!」
 フィリエルの杖の先から7つ、いやそれ以上の魔法の矢が飛ぶ。
 それを合図に続いたリナは、クライフォートの矢を援護に受けつつ、脇の猪へと距離を詰め、自慢の槍に捻りを加えて突き出す。
 そしてもう一方にはクロスが最接近。手にした大剣を思いっきりなぎ払う。その勢いに吹き飛ばされ後退する猪。
 さらにエンドブレイカーたちは勢いを駆って組み伏せるべく攻勢に出る。が、猪どもも打たれるままではない。
 力の活かし方を熟知したように、クレイジータスクが目の前の相手を無視し地面を蹴って走る。標的は松明を掲げるパメラ。
 大盾を構え受け止めるも、巨大な牙に込められた凄まじい力で吹き飛ばされそう。
「ぐっ……」
 家を壊させまいと懸命に踏み留まる。
 一方、猪の1つがチェインに狙いを定め突進。その牙が突き立つ寸前、気づいた彼はその牙をクラッシュ、そのまま牙を踏み台にジャンプし、上空から右足で衝撃を叩き込む。
 更にもう1体の標的はクライフォート。彼女の露わな白い肌を牙がかすめ、朱がにじむ。
 一層激しさを増してゆく攻防。レギネーは苦労して掘った落とし穴を活かすため、自らを囮にして強引に誘導、片方の猪の突進を止めた。
「このチャンス、逃さない!」
 トールの青い瞳はタイミングを見逃さず、その足で地を蹴り宙を舞う。
 スカイランナーの名の通り、空を翔けたトールが猪の頭上高くアイスレイピアを構えた。そして、そのまま降下一閃、切っ先が猪の頭部を貫いていた。

 こうして1体が減ったことで戦局を表す天秤は、その傾きを大きく変えた。何より大きいのは癒しの手立てがあるという事実。
「スピカ! お願いっ!」
 フィリエルが肩に乗る星霊スピカを飛ばす。スピカが優しく撫でた傷口は、流れ出る朱の色を止め、痛みを和らげる。
「こっちもいい加減終わらせないと……」
 もう1体を相手取るリナの瞳に、焦りの色が浮かぶ。あと一、いや二撃。決定的なのを叩き込めれば……。
「勝つためなら……。私が脚を止めるっ!」
 リナの気持ちが通じたようにクライフォートが告げ、乾坤一滴の一矢を放つ。それが猪の前脚と体とを続けて貫く。
 するとリナは一気に戦場を駆け抜け、落とし穴を飛び越えながら槍を伸ばす。手にした右手と添えた左手、両の手に今まで以上の力を込めて。
 そして高速の踏み込みで猪の開いた口に槍の穂先を捻じ込むと、そのまま強引に突ききり、一息に猪の首の後ろまでを貫いたのだった。

●気違いの牙
 その頃、メインとも言えるクレイジータスクの方は、思いの外苦戦。
 他の猪同様にと思いきや、簡単には落とし穴の方に向かってはこず、逆に囲んだところを長い牙で薙ぎ払われると、正面に立ち塞がるのも容易じゃない。
「お前に残された選択肢は三つ! 解体されて鍋になるか、破壊されて鍋になるか、ぶっ壊されて鍋になるかだ!」
 チェインの左足から放たれた衝撃が一瞬だけ仮面の視界を隠す。その隙を突いてレイモンドの鞭が打ち据える。小馬鹿にした挑発を投げかけながら。
 ブオッ……!
 強い鼻息が漏れる。それは度重なる攻撃を喰らってなおも衰えていない証。
 それに気圧されぬようパメラが盾を構え、正義のココロで真正面から挑む――が、激しくぶつかり合うも重量の差か、そのまま押し返され、文字通り柵を木っ端微塵にした。
「まだ足りない、か。でもこっちだってまだまだ……」
 激しいパワーを目の当たりにしながら、ベニが負けじと拳を、そしてレギネーが斧槍を同時に突き出し、地を蹴っている後ろ脚を破壊しようと試みる。
 巨大猪クレイジータスクは、脚の付け根のあたりから鮮血を噴きつつもまだ佇む。
 ――まるで、倒れることを知らぬかのように。
 そこへ猪を片付けた仲間たちが参戦。攻撃の手を増やし、同時にここまで挑んできた仲間を支えるために。
 死力を振り絞り、突進を防ぐために前後を挟むと、手を休めることなく攻撃を繰り返す。
 正面に立つ者は規格外の牙によって突かれ、切り裂かれもするが、都度、フィリエルのスピカが抱きしめたり、小さい舌で傷口をなめ取ったり。
 そして……幾度か繰り返した激しい攻防の末、ようやくトールのアイスレイピアがマスカレイドの脚を凍りつかせた。その脚をレイモンドが鞭で絡め取り一気に腕を引く……ようやく巨体が揺らいだ。
「魔法の弾丸よっ! 撃ち抜けぇっ!」
「いい加減、倒れろ!」
 引く手に合わせるように、フィリエルの魔法の矢とベニの拳が叩きつけられる。研ぎ澄ました魔力と鍛え抜いた正拳と。
 直後、ドォという大きな音と共に巨体が地面に倒れゆく。
「さあっ、覚悟するがいい、この僕が退治してあげよう!」
 そして待ち受けていたかのようにレギネーが宣告。その狙い澄ました斧槍の鋭い穂先がマスカレイドの胸に穴を開けたのだった。

●終局
 ……ピクッ、ピクピクッ……命消える寸前の痙攣。
 それを見下ろしつつ、再び松明を手にしてくるくると弄ぶチェイン。
 ――が、その時。
 痙攣状態から一瞬だけ頭をもたげたヤツが、最後の力でその牙を飛ばした。野太い牙を。
「危ねぇなー」
 面倒そうに呟きつつも、注視していたクロスが大剣を地面に突き刺してそれを弾く。
「お前には怨みも辛みもないけど、やっぱりトドメ刺させてもらうよ、悪く思わないでね」
 ベニがすらりと太刀を抜き放つと、気合一閃! クレイジータスクの極太の首を断ち切ると、同時に仮面もパリンと音を立てて砕け散っていた。

「さて、と。片付いたところでいよいよメインディッシュの鍋だね。ひょっとしたら村の人達全員でも食べられるんじゃないかな、コレを別にしても2頭分だし」
「え……これ、食べるんですか? まあ煮込めば何とでもなりそうですが」
 旺盛なレイモンドの提案に、クライフォートは少しだけ驚いたように言葉を返した。
 でも、それはそれ。どうやら食べるのは確定事項らしく誰も異論は挟まない。
 そして翌朝、村の人々に報告すると共に調理場を借り、コトコト煮込んでる間に戦場付近の回復を図る。
(「罠の除去もがんばって、来た時よりも美しく……できるといいなぁ」)
 やる気満々のパメラ。その有り余る原動力は、きっと美味しい猪鍋。
 そんな訳でひとしきり働いて汗した後の報酬は、村人と一緒の鍋パーティー。
「たまにはこういうパーティーも、あってもいいよね」
 こうして皆、お腹いっぱい食べた後は、家族の分やら共に暮らす長屋の皆の分などお土産までもしっかりと確保。
 そこまでしてようやく、使命は果たしたと1人離れて満足げに煙草を吹かすクロス。
 一方でレギネーはいつの間にやらエミナの元へ赴き、花を一輪、差し出していた。騒動のお詫びを兼ねて。
 ……ふふ、息子さんと元気でね、ハニィ。
 こうして、不幸なエンディングの1つを無きものにしたことに達成感を覚えつつ帰路に着く面々。
「私達にはエンディングを変えられる力がある……ならばやります、これからもずっと……」
 その中で、クライフォートは今回の件を振り返りながら、1人気持ちを新たにしていた。
戻るTommy WalkerASH