<不幸宣告>
■担当マスター:扇谷きいち
●「哀れな娘よ、あなたは不幸だ。だがこの儀式で、その不幸な人生ともお別れです。おめでとう!」
教主と呼ばれた白い法衣姿の男が、手にしたヤットコをがちがちと鳴らして、笑った。
彼の周りにいる黒いローブ姿の人間たちも、笑った。
彼らの狂気の矛先を向けられた娘は、声も出せぬまま、泣いた。
娘はその日、街中で、突然三人組の男女に「お前は近々死ぬ」と宣告された。曰く、生まれつき不運を背負ってきたお前は、特別な儀式を受けねば若くして命を落とす、とのことだった。
考えてみれば、そんなのは根拠のない言いがかりにすぎないのだが、矢継ぎ早に繰り出される不吉な話に耐えられず、娘は誘われるまま、その儀式を受けるために彼らの施設についていったのだ。
そこで、娘は生贄にされた。
いや、生贄ですらない。ただ、血なまぐさい狂った遊びのおもちゃにされただけだ。
身体がどんどん壊されていく。流れ出る血とともに、命がこぼれ落ちていく。娘の口から出るものは、悲鳴ではなくしわがれた呻き声だけ。もう苦痛にのたうちまわる力すら残されていない。朦朧とする意識のなかで、娘はただただ自分の不運と、理不尽な死を呪った。
●
「それが、私が知り得たマスカレイドによる事件よ。ただし、これはまだ起きていない事件。私たちの力で防ぐことのできる結末なの」
剣の城塞騎士・フローラは口元を引き締めると、篭手に包まれた手をきつく握った。
都市の天井から降り注ぐ陽光のした、街の広場の片隅に集ったエンドブレイカーたちが、遠くない未来に起きるであろう事件の説明を、フローラから受けていた。
真剣な面持ちで話を聞いていた一同は、「ぜひ協力して」という彼女の言葉に、無言で頷き返す。
「そのマスカレイドは、ある秘密結社……いえ、宗教組織と言ったほうが近いかしら。それの教主を務めている男よ。信徒が街で強引に勧誘してきた人たちを、怪しげな儀式の生贄として、むごい方法で殺害しているの」
気の弱そうな人を狙って、物騒な話で不安にさせたあと、施設に誘い込むのが常套手段のようだ。人の心の弱さにつけこんだ卑劣な手口だが、その手口を逆手にとれば、犠牲者の代わりに結社の施設へと侵入することができるだろう。たとえ全員が勧誘されなくても、誰か一人でも勧誘されれば、うまくあとをつけてアジトを見つけることができるはずだ。
「殺人が行われている儀式の間は、どうやら施設の地下室みたい。マスカレイドである教主は、そこで生贄が連れてこられるのを待っているわ。施設内の人間で、彼一人だけ格好が違うから、見間違うことはないでしょう」
さらに、教主の周りには数人の信徒がいるが、彼らが歯向かってきたとしても、できうる限り命を奪わずに放っておいて欲しい、とフローラはつけ加えた。
「危険な仕事になると思う。でも、ここで私たちが動かなければ悲劇が起きてしまうわ。必ず、止めましょう」
そう言うと、フローラはエンドブレイカーたちの顔を、一人一人見回すのだった。
●マスターよりはじめまして、扇谷きいち(おうぎや・――)と申します。このたびは本シナリオのオープニングを読んで頂き、誠にありがとうございます。 このシナリオが、これからはじまる『エンドブレイカー!』の世界観を把握するための一助となれば、幸いでございます。 今回の敵は、マスカレイド1体と、召喚されて現れる配下のマスカレイド2体の、合計3体です。 教主であるマスカレイドは、巨大なハサミに変形させた両腕での接近攻撃を得意とします。また、ケガを回復させる能力を使用します。それ以外に能力はありません。 召喚される配下マスカレイド2体は、手にした大ノコギリで力任せに攻撃するだけで、特別な能力を持っていません。 また、施設内には人間の信徒がうろついていますが、これらを積極的に倒したり捕まえたりする必要はありません。 なお、オープニング中に登場するフローラは、シナリオには同行しませんので、ご注意下さい。 以上、よろしくお願いいたします。 |
<参加キャラクターリスト>
● 扇の魔曲使い・スーリア(c00156)
● 扇のデモニスタ・トシェ(c00643)
● ソードハープの魔曲使い・アクアレーズ(c00829)
● ナイフのスカイランナー・ソル(c01751)
● ハンマーの魔法剣士・リトレット(c02304)
● 爪の群竜士・ヴィナン(c02338)
● 剣の城塞騎士・クロアハルト(c02432)
● 扇の群竜士・ヴェロニカ(c02508)
● 槍の城塞騎士・ヨゼフ(c04167)
<プレイング>
● 大鎌のデモニスタ・イリューシア(c00113)
【追跡】
追跡〜信徒捕縛までの流れは他班に同じく
捕縛した信徒から、黒いローブを拝借
借りるな……たぶん返す
【施設】
>侵入
信徒へ成り済まし、ローブを目深に被り施設内へ
1人でいるような、手頃な信徒へ囮を引き渡す
やり取りを聞きつつ、異論等を唱える場合は指で制止
彼女に聞かれると、困るでしょう?
信徒を言いくるめた後、外で待つ6人を内部に
そのまま囮の元へ往き全員合流、信徒を去らせて儀式場へ
途中6人の事を問われれば、教主直々の勧誘を受けた者達、と
信徒が去らぬ場合は、教主の意向に寄るものだと告げ
教主様々?
>戦闘
雑魚に興味はない、狙うは白い法衣姿
戦闘開始の合図と同時に、教主への間合いを詰める
初手は近接・黒旋風を撃ち込み
同時に、一般信徒は刃向かわなければ危害を加えぬ旨を宣言
次手より後退し、デモンフレイムに切り替え
一般信徒等が不審な動きをすれば、警告と仲間への通告を
さぁ……棘ごと、仮面ごと、その咎を摘み取ってアゲル
● 扇の魔曲使い・スーリア(c00156)
追跡の班分けは、私は【C班】だよ
囮役の方の行動を、見逃さないようにしているの
聞き出したという合図があったら、急いで合流
施設到着後は、仲間の言うとおりに行動。黒いローブを着て信徒に変装しちゃうの
無用な争いはせずに、地下までいきたいな
誰だ、と聞かれたら、新しい同志なんです、と出来るだけ丁寧に返事
【戦闘】
リトレットさんと組んで、召喚された配下マスカレイドのうち、一体を相手取る
倒すのは教主優先だけれど、配下が邪魔なら先に配下を倒す
攻撃には、扇のアビリティである流水演舞を主に使用するの
一般信徒は、基本放置。でも、邪魔をしてくるのならば、警告
警告を聞き入れてもらいないのなら、武器の扇を振り上げての威嚇警告を行うの
応戦は最終手段。こちらからは手を出さない。しつこいようなら、誘惑魔曲を使用することも考える
事後は、速やかに脱出。脱出時、信徒に攻撃されそうになっても、応戦せずに避けるよ
逃げるが、勝ち?
● 扇のデモニスタ・トシェ(c00643)
@動機
慈悲の心を持ってしても、もはや心が通じる事はないのでしょう。悲しい事ですが、一人でもハッピーエンドへ導く事ができるのであれば、戦います。
@目的
宗教組織を壊滅させて、少女のバッドエンドを打ち破ります。
@手段
・侵入
囮として、気弱な少女を演じ勧誘を狙います。
勧誘されたら信徒に従いつつ、さりげなく施設の場所を聞き出します。
他の囮が勧誘された場合C班に合流します。
情報入手に成功した場合、わざとコケます。
それを合図と取った本隊の方々が奇襲を仕掛けてくれる筈です。
変装した方々と共に施設へ侵入し、本物の信徒へ再び引き渡されてそのまま地下室入り口に向かいます。
後は待機していれば、本隊の方々と再び合流できるでしょう。
・戦闘
教主を優先的に狙います。後列よりデモンフレイムで前列の方々の援護射撃を行います。
教主と配下を倒せれば、エンドブレイクは完了でしょう。
皆さんと成功の杯を傾けるため、頑張ります。
● ソードハープの魔曲使い・アクアレーズ(c00829)
クロアハルト君、イリューシア君と共にB班で行動
事前にロープを用意
記載部分以外の行動はA、C班に従う
A班を見失わない程度の距離を保って囮を追跡
囮の合図で信徒に駆け寄りロープで捕縛
黒いローブをはぎ取って信徒に成りすますよ
名前を聞かれた時の為に
一応ローブの持ち主の名前も聞いておこうかな
変装後はローブの下に武器を隠す
施設到着後は囮を施設の信徒に引き渡し
囮を慰めながら地下入口付近まで同行
入口を確認次第信徒にはその場で待機するよう伝え
私は戻って残りの仲間と合流
その後入口の信徒に後は任せるように言って
囮を残してその場を去らせる
地下室に全員侵入後
部屋入口の扉を閉めた音でソル君と共に
召還されるマスカレイドに備える
配下が現れたら誘惑魔曲と十字剣で攻撃するよ
※信徒への対応
抵抗される場合は首筋に武器の刃を沿わせて笑顔で脅すよ
いい子にしていれば苦しい事はしないよ
地下室では教主が囲まれた時点で壁際から動かないよう警告
● ナイフのスカイランナー・ソル(c01751)
事前に変装用の黒ローブと、捕縛用にロープを準備
囮が勧誘と接触したら追跡開始
囮以外のメンバーは3班に別れ(僕はヨゼフ・ヴィナンと一緒のA班)に別れ、気付かれないよう距離を保ち追跡
囮が合図(こける)したら勧誘の信徒を襲撃捕縛
地下儀式場の場所が割れてなければ、捕縛した信徒を脅し位置を聞き出す
後は準備した黒ローブを纏い、新しい同志を名乗り儀式場へ
戦闘開始まで変装は解かない
戦闘の邪魔をする信徒には武器を向け
「退け。それともキミが『不幸から解き放たれたい』のかな?」
と、暗に「邪魔すれば殺すぞ」と警告。戦意喪失を狙う
それでも挑んでくるなら応戦
出来れば魅了を狙ってトドメを魔曲使いに譲る
難しいなら、急所を外しトドメ
マスカレイドとの戦闘時、僕はアクアレーズと組み配下を先に片付ける
他の配下はリトレット達にお任せ
アビは、配下がいる時はスカイキャリバー使用
連続ジャンプ発動時、もう1体の配下を標的に
残り1体なら切り裂き使用
● ハンマーの魔法剣士・リトレット(c02304)
卑怯な真似、許さない
班分けする、私はC班
トシェとヴェロニカが生贄にされる娘の変わり、いわゆる囮
二人のどちらかがうまく勧誘をされたら見つからないように後をつけて施設の場所を押さえたい
私ではうまくいかないだろうし、勧誘されて不幸だって言われても、泣くことなんて出来ないから
不幸なんて自分がそう感じるだけのこと。人に決められるようなものじゃ絶対ないよ。
施設に着いたら仲間の言う通り行動する
あらかじめ用意しておいた黒いローブを着て信徒のフリ
無用な戦いは私達の消耗も考えて避けたい
怪しまれたら手を横に振って怪しく、ないよって言う
地下に着いたら私はスーリアとペアで配下マスカレイド1体を相手する
教主から倒すけど二人で倒せるなら倒してしまいたい
攻撃はパワースマッシュで。
思い切り、いくから
ただの信徒達はこちらへ戦いを挑んで来るならハンマーで脅す
思い切りハンマーで地を叩く、地面を叩き壊す(つもりで)
仲間の指示には従う
● 爪の群竜士・ヴィナン(c02338)
■追跡
ソルくん、ヨゼフくんと共にA班で行動
怪しまれないよう適当に話をしながら、一定距離を置いて囮を追跡
囮が合図したら、勧誘の信徒を捕縛
■施設内
事前に用意しておいた黒ローブで変装し、仲間に従って地下室まで移動
念のため、入り口からの経路はしっかり覚えておく
きょろきょろしたりしないよう気をつける
不審に思われないよう、僕はお口にチャックだね
■戦闘
地下室に全員入ったら扉を閉める。閉めたら戦闘開始
儀式用の道具等邪魔な物は蹴飛ばし、戦闘スペースを確保する
大きなものは入り口にぶつけて塞ぐ
但し、一般信徒には当たらないよう注意
大怪我させたら可哀想だしねぇ
攻撃対象は教主に絞る
逃走防止&一般信徒と分断のため、教主を取り囲むように移動
最初のうちは必中・毒狙いでアサルトクローを使用
ある程度ダメージを与えたら竜撃拳も交えて攻撃する
一般信徒が向かってきた場合、爪を振りかざして威嚇
その辺に落ちてる物を投げつけるのもアリかな
● 剣の城塞騎士・クロアハルト(c02432)
【追跡・侵入】
わたしはB班(勧誘信徒になりすます班)で
アクアレーズ殿とイリューシア嬢と共に行動
※待機から勧誘信徒の捕縛までは
他班基本事項に従う
勧誘信徒を捕縛した時点で
彼らから失敬した黒ローブで勧誘信徒に成りすます
B班と囮で先に施設内に侵入
近くに居る本物の信徒を探して
『少し用事があるから先に生贄を地下の入り口まで案内してくれ。
すぐに戻るから、そこで自分達が来るのを待て』と指示
A班とC班を施設内に侵入させ、
入口を確認したアクアレーズ殿と合流
共に入り口へ向かう
待機している本物信徒には去る様に指示
叶わなければ信徒を捕縛
囮と合流し10人で儀式場に突入
【戦闘】
戦闘開始・障害物、信徒対応は他者に準ずる
わたしは教主の相手だ
教主に近接攻撃が届く距離へ
逃走防止のため教主を包囲する陣形をとる
包囲網を掻い潜られないよう注意
ディフェンスブレイドで防御を固める事が出来たら
十字剣に切り替えて攻撃
● 扇の群竜士・ヴェロニカ(c02508)
■囮
まずは囮役だ、不幸そうな顔をしてぼんやりとしておく
扇は見えないように衣服の裾に隠しておく
時折顔を手で覆って泣き真似もしてみるか
上手く惹き付けられたら大人しくついていく
そんな有難い場所があるなんて知りませんでした、一体どこに?
と訊ねて施設の場所を探ろう
掴めれば転んで仲間に合図を送るよ
仲間と合流した時点で勧誘信徒に攻撃を
成りすました仲間と共に施設へ急ぐ
施設の中でも不幸そうな顔をしておどおどと振舞うよ
囮になれなかった場合はリトレット、スーリアと一緒にC班として行動
黒ローブで変装して、トシェが連れられていくのを追跡
■戦闘
仲間が全員揃い、扉を閉めて戦闘開始
その前に一般信徒が居れば警告して出て行かせよう
机やその他の障害物は邪魔で払いのけるついでに扉を塞いでしまいたいな
狙いは教主、あちらが異変に気づくより先に攻撃に出たい
彼を逃さないように竜撃拳で攻撃を
出来るなら同じ教主に当たる仲間と共に取り囲もう
● 槍の城塞騎士・ヨゼフ(c04167)
●事前
フローラの情報から得た黒ローブとできるだけ形状が似た物を用意
捕縛用にロープや猿轡準備
●追跡
ソル、ヴィナンと共にA班
世間話をして囮を勧誘中の信徒に気づかれないよう注意しながら追跡
施設前で囮と追跡班が合流し信徒を捕縛した時点で変装
囮が転んで合図したら物陰で信徒を取り押さえ、身包み剥いで
口を塞ぎ拘束し隠して放置
奪ったローブ等は成りすまし班に渡す
●地下まで
変装したまま信徒として振舞い全員で地下へ
誰何されたら
「新しく同志とさせて頂いた」
と応じ丁寧に今後ともよろしくと挨拶
儀式場前で信徒から囮を取り戻す際、応じなければ捕縛
●儀式場
全員が入ったのを確認し扉を閉める
鍵がかかっていれば蹴破る
教主との間に卓や祭壇のような障害物があれば蹴り倒し道を確保
間合いを詰め距離があればダッシュ攻撃
教主を囲むように位置取り
常に移動を阻害する形で動き疾風突きで最優先攻撃
地下の一般信徒は放置→警告→威圧+警告
最終手段で応戦
<リプレイ>
●「あんた! このままだと地獄に落ちるわよお!!」
背後でとどろいた怒声に、扇のデモニスタ・トシェ(c00643)は、びくりと肩を震わせた。目をしばたたかせて、ことさら不安げな表情を作ると、彼女はゆっくり息を吸い込んでから、振り返った。
彼女の目の前には、黒いローブの三人組がいた。間違いない、教団の勧誘役たちだ。
その様子を、遠くから見つめる少女が一人。トシェと同じく囮役を買ってでていた、扇の群竜士・ヴェロニカ(c02508)である。
すごい剣幕で、勧誘役は不吉な話をまくしたてている。本当に不安を抱えている一般人ならば、言いなりになってしまうのも、無理はない。
皆にとっては、あいつらもエンドブレイカーも、似たようなものなのかもしれないな……。トシェを連れて立ち去る勧誘役を追いつつ、ヴェロニカは小さなため息をついた。
勧誘役を捕縛する役を負った者たちも、尾行を開始していた。
「あんな風に、いきなり不幸と決めつけられること自体が、不幸だな」
「そうだねぇ。余計なお世話ってやつだよね」
不快の念もあらわな表情で、槍の城塞騎士・ヨゼフ(c04167)が呟くと、彼の隣をゆく爪の群竜士・ヴィナン(c02338)が、笑顔で相槌をうつ。ナイフのスカイランナー・ソル(c01751)も、視線を勧誘役に向けたまま、頷いた。
同年代の少年で構成された追跡組が、しばらく尾行していると、勧誘役が立ち止まるのが見えた。
そして、トシェが地べたに転んでいる姿も。これは、施設の場所を聞き出した合図だ。三名は互いに目配せしあうと、駆け出した。
「ほら見たことか! キミの不幸はすでに始まっ」
「はいはい、寝言は寝てから言ってね」
トシェを指差し嘲笑っていた黒ローブの一人が、ヴィナンの当身を食らい昏倒した。猿ぐつわを噛ませ、ロープで拘束して、三名は手早く勧誘役を路地裏に引き込んでいく。
「ふう……大変でした」
服についた埃をはらって、トシェが立ち上がる。彼女が寂しげな表情をしていることに気づき、ヨゼフはケガでもしたのかと声をかけるが、彼女は小さくかぶりを振った。
「この人たちとは、もう心を通わせることはできないのだと……そう感じたのです。それで、少し」
拘束されてもなお、憎悪に満ちた視線をぶつけてくる勧誘役。その深い心の闇の一端に触れて、トシェは心を痛めている様子だった。
●
後続組も続々と結集していた。扇の魔曲使い・スーリア(c00156)は、勧誘役から奪ったローブと、事前に用意したローブを見比べている。
「よかった、多少違いはあるけど、これならばれないね」
「借りるな……たぶん返す」
奪ったローブを羽織り、大鎌のデモニスタ・イリューシア(c00113)が、勧誘役を一瞥する。彼女と同じく黒ローブを着た剣の城塞騎士・クロアハルト(c02432)が、トシェに施設の場所を尋ねている。彼らは今から、勧誘役に成りすまして、施設へと侵入するのだ。
「そうだ、あなたのお名前は?」
施設に向かおうとしたその間際、ソードハープの魔曲使い・アクアレーズ(c00829)が思い出したように、勧誘役の一人に尋ねた。有無を言わさぬよう、剣の柄に手をやりながら。
教団施設は、意外にも表通りに近いところにあった。建物自体は開かれており、表向きはフツーの団体に見える。特別危険な雰囲気もなく、施設内に侵入した四名を見送り、表で待機している六名にも、疑わしい視線は向けられていない。
「こんにちは。精進してますか」
「ん……こんにちは。精進してる」
通りすがりの信徒に挨拶をされ、ハンマーの魔法剣士・リトレット(c02304)も、思わず挨拶を返した。
「あまり、コソコソする必要はなさそうだな」
施設内部に消えていく信徒の背を見送りながら、拍子抜けした様子で、ヴェロニカが呟いた。
一方、内部に侵入した四名もまた、特に見咎められるでもなく、施設内を探索していた。
教主の凶行を知る者は、教団のなかでも一部の人間だけなのかもしれない。目深に被ったフードの影から、辺りの様子を窺いつつ、イリューシアはそう考える。
地下へと通じる階段を探しているうちに辿りついたのは、大きな扉であった。遠目にもそれとわかる重厚な造りと、そして、扉の前に立つ見張りと思しき男が、明らかに他と雰囲気を異としている。
「止まられよ。そのほうら、見ない顔だな」
圧するような低い声で、見張りが四名を制した。
「ご心配なく。私たちはただの使いです。イワノフさんたちの……ね」
アクアレーズが、先に聞いておいた勧誘役の名を出し、意味深な視線を囮役のトシェに向けた。
「彼らに頼まれたんだ、まだ連れて来る人がいるから、先にこのイケニ……」
「しっ……彼女に聞かれると、困るでしょう?」
クロアハルトの言葉を、イリューシアが遮る。この二人の演技は効を奏した。訝しげだった見張りは、そのやりとりからなにか察したのか、得心した様子で気味の悪い笑顔を見せた。
部屋のなかにトシェが招かれて扉が閉まると、三名は「もう一人いるなら、早く連れてきなさい」と見張りに追い払われてしまった。
●
外で待機していた六名は、戻ってきた三名に導かれて、施設の地下へと急いだ。
例の部屋の内部に、地下へと続く階段があった。ちなみに、見張りは言うことを聞くタイプではなかったため、彼らは少々荒っぽい方法で室内に侵入した。
室内でトシェと合流した一同は、階段を駆け下りていく。あとは、教主であるマスカレイドを打ち破るのみ。長い階段を下った先には、物々しい鉄の門扉があった。
スーリアは、かすかに震える己の手を、ゆっくりと握りこんでいく。初めての戦いに、不安がないと言えば、ウソになる。
「不幸の宣告も嫌だけれど、生け贄の儀式はもっと嫌だよ」
そんなエンディング、ぶちこわす! 彼女は、自らを鼓舞し、扉を押し開いた。
彼らを迎えたのは、生ぬるい風、濃密な香の匂い、そして、くすんだ血と脂との臭いだった。
イリューシアが、地を蹴った。肩口に柄を預けた大鎌が、ランプの灯りを受けて赤い光点を宿す。彼女の瞳が見据えるのは、ただ一点、白い法衣の男……マスカレイドだ。
さぁ……棘ごと、仮面ごと、その咎を摘み取ってアゲル。払われた鎌が教主の腹を裂くのと、教主が変形を遂げたのはほぼ同時のことであった。ほとばしる血が床を汚すより前に、彼女の刃が再度教主の身体を薙いだ。
続々と儀式の間へと侵入し、態勢を整える一同。ヨゼフが壁にかかっていた大きな焼きゴテを取り、それをカンヌキ代わりに扉に通した。障害物らしき物も特になく、あるのは規則正しく床に並べられたランプと、部屋中央の祭壇くらいだ。
長剣に映った己の瞳を、クロアハルトは一瞬だけ見つめた。頭によぎったのは、心に巣食う弱い心の欠片。それを打ち払うように、彼は教主との間合いを一気につめ、迷うことなく白刃を突き出した。
剣が引き抜かれる。並みの人間であれば絶命しておかしくない怪我だ。しかし、仮面に覆われた教主の怪我は、見る間に癒えていく。そして、異形の腕が唸りをあげた。
「うわっ、……んとに、趣味悪いなあ」
教主のハサミが、ヴィナンの肩を骨ごと断つ。彼は相変わらず笑顔を湛えたままだが、その額には脂汗が浮いている。
「配下がきました!」
奥から駆けつけてきた配下マスカレイドを見止め、トシェが仲間に報せる。同時に、執拗にヴィナンを狙おうとする教主に向けて、彼女は扇を掲げると、暗い炎を射掛けた。
教主の身体を炎が呑みこむ。生肉が焼かれる強烈な異臭が満ちていく。
ソルは動じない。悪臭にも血流にも、なんら関心も寄せぬまま彼はアクアレーズに目配せして、天井ギリギリの跳躍で配下の一人に跳び掛かり、脳天に刃を突き立てた。
もう一撃! 鮮やかなピンク色のモノを頭頂から垂らしながら、なお抵抗を見せる配下に、ソルはナイフをくりだす。しかし、これは弾かれてしまう。意味不明な言葉をわめきながら、配下がノコギリを振りかざしてソルに迫った。
「残念ながら、そこまでです」
エンドブレイカーの真似事も、その不愉快な仮面も。
死角から忍び寄ったアクアレーズの一刀が、音もなく配下の脇腹を裂いた。踏み込んだ足を軸に彼の身体は円を描き、再び払われた切っ先が、首をはねていた。
視界が赤く染まる。澱のようにたまっていた古い血の匂いが、鮮血の匂いに洗われていく。
恐慌をきたしたのか、室内にいた信徒の一人が、叫びながらリトレットに突っ込んできた。
「手加減、できないよ」
しかし彼女がハンマーで地面を叩いて威嚇すると、信徒は慌てて壁際へと退いた。ため息をついて、彼女はもう一人の配下と交戦中のスーリアへと向き直る。
配下の持つノコギリが振り払われた。スーリアの褐色の肌が弾けて、飛び散った血肉がランプの火を揺らした。彼女は痛みに眉を寄せながらも、退くことはせず、扇を差し向けて軽やかに舞う。身体を覆う水流が、彼女の舞にあわせてさざなみとなり、配下の身体を撃った。
不利を見て、教主が動じた。ヴィナンは、その隙を見逃さない。先の返礼とばかりに教主に踊りかかると、彼はひときわ笑みを深めて、喉に押し当てた爪を滑らせた。
ヴィナンを振りほどき、教主がよろめく。泡まじりの血溜りが床に広がっていく。
罪深き教主に、ヴェロニカが肉迫した。若年ながらも積み重ねてきた鍛錬が、彼女の拳に力を与える。まっすぐ放たれた拳が、教主のみぞおちを深々と貫く。くの字に曲がった教主の懐にもぐりこむと、次いで彼女は鋭い肘鉄を叩き込んだ。
包囲を逃れようと身を翻した教主の背に、猛追するヨゼフが声をかける。
「お前は、逃がさない」
駆ける勢いを殺さず、手にした槍に力を乗せて、彼は間合いを詰めるや教主の背を貫いた。
教主は倒れない。体勢を整えようとした彼に、しぶとく生き残っていた配下の一人が襲い掛かる。
――だが。
「おしまい」
配下の脚が、ぐしゃぐしゃに粉砕された。たまらず転倒したその後頭部に、鉄鎚が下される。リトレットの、強烈にすぎる一撃。鈍い湿った音に混じり、床の砕ける轟音が地下室中に響く。邪魔者は全て排除した。彼女は仲間へ目配せする。
「今までに積み重ねた血の重さ、知るが良い!」
ヴェロニカが吼えた。全てがお前の悪業ではないにせよ、そのマスカレイドを招いたのは自分自身だ。その罪は償わなければならない。彼女の拳が空を切り裂き、教主の顔面を撃った。そのまま腕を振りぬけば、教主の身体は吹っ飛び、床の上を力なく滑っていく。
そして、教主はそのまま動かなくなった。
●
「汝、怖れより解き放たれよ。……眠れ、安らかに」
悪人ではあるが、死者は誰もが等しく尊い者だ。己の信念に従い、ソルは教主のまぶたを閉ざしてやる。戦いは、もう終わったのだ。
アクアレーズは、壁際で震えている信徒に目を向けると、「しばらくそのままでいてね」と笑顔で申しつけた。逃走に際して、彼らに邪魔されても困る。
「もう来たみたい。はやく、いこう」
階段を下りてくる足音が聞こえる。リトレットが撤収を促すと、スーリアが「逃げるが勝ち?」と笑った。
カンヌキを外すと同時に飛び込んできたのは、先の見張りたちだった。地下室の状況を見て絶句している見張りに、イリューシアは例の勧誘役がまだ外に放置されていることを告げ、じゃあね、とどこか艶深い微笑を向けた。
一同は階段を駆け上がり、施設内を走り抜け、表の人通りに紛れていく。
人心地ついたところで、もっとも危険な役を負っていたトシェが、ほっと安堵の表情を見せた。みなが、彼女の勇気と功績をねぎらう。
「それにしても、なんであんなの信じるんだろうね。理解できないや」
「安易な救済は、結局のところ、我が身を救ってくれなどしないのにな」
ヴィナンが、相変わらずの様子で笑うと、ヴェロニカが神妙な面持ちで頷いた。そのやりとりを聞いていたクロアハルトは、しばし考えをめぐらせたあと、口を開いた。
「つらくても、揺らぎそうでも、大事なのは己の心を保つこと。だが、それができない弱い人間がいることも、わたしには理解できるよ」
それでも、理不尽な死を迎えるのは嫌だ。その運命を変えることに、少しでも役立つなら、俺は戦おう。ヨゼフは心の内でそう呟くと、鮮やかな光に満ちた天上を見あげた。