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鉱山のコウモリ退治

竪琴の魔曲使い・ミラ

<鉱山のコウモリ退治>

■担当マスター:蘇我県


「女房の為ならえーんやこーら、っと!」
 作業員の野太い声とツルハシが岩を砕く音とが響く鉱山内。
 作業員達は今日も今日とて鉱石を手に入れるため、額に汗して働いていた。
「子供の為なら……お?」
 ツルハシが岩盤に食い込む。彼が想定したよりもその岩壁はもろかった。
 岩肌が崩れ、ぽっかりと穴が開く。
「なんだ?」
 作業員は更に穴を広げ、人が入れるほどの大きさにすると足元に置いていたカンテラを暗やみの中へと差し出してみた。
 すると――
「「「キィ! キィィ!! キュィィィ!!!」」」
 ネズミのような甲高い鳴き声と共に穴から飛び出してくるコウモリ達。
「う、うおおおおお!!? いた、こら、やめ、いたたたた!!!」
 作業員は全身をコウモリ達についばまれ、これはたまらんとばかりにカンテラやツルハシを投げ捨て、その場を逃げ出すのだった。

「鉱山がコウモリ達の巣とつながってしまったそうです」
 竪琴の魔曲使い・ミラは、エンドブレイカー達へそう切り出した。
 巣から出てきたコウモリ達はとにかく数が多く、作業員達も困り果てているのだという。
「コウモリ達に噛み付かれて怪我をしてしまったり、噛み付かれた跡をキスマークと間違えられて奥さんに引っぱたかれてしまった人もいるんだとか……」
 眉をハの字にしてうつむくミラ。ご愁傷様ですと小さくつぶやく。
「マスカレイドとは関係の無い騒動ですけど、だからって見過ごす事は出来ませんよね」
 情報によると、コウモリの数はざっと見積もって50匹ほど。
 特殊能力などはないが通常の固体よりもかなり大型かつ凶暴なコウモリが群れて行動しているとの事だ。
 普通に戦えばエンドブレイカー達が遅れを取る事はないが、鉱山内の通路は人が4人横に並べる程度の広さで、高さは3メートルほどしかない。
 また、閉山中なので鉱山内には灯りがなかった。
 コウモリ達は光源が無くても人間の位置を特定して攻撃してくるので注意が必要だ。
 エンドブレイカー同士で相談し、隊列を組んで灯りを持つ者を決めておくと良いだろう。
「鉱山のおじさん達の歌って、独特ですよね。歌詞が面白くて……」
 作業員達の歌を思い出したのか、険しかったミラの表情がふっと和らぐ。
「また、おじさん達の元気な歌、聴きたいな」
 笑顔と共に、そんな言葉を口にするのだった。

●マスターより

 初めまして、蘇我県と申します。
 シナリオ、宜しくお願いします。
 今回の敵はコウモリ50匹です。戦いは数だよってヤツです。
 巨大(翼を広げると1メートル程度の横幅がある)、好戦的な性格で群れて行動します。
 特殊な攻撃はありませんが、灯りと通路の狭さには気をつけてください。
 それと、落盤とか粉塵爆発などは気にしないで問題ありません。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 大鎌の星霊術士・フィオリス(c00380)
今回はコウモリ退治との事ですし…負ける訳にはいきませんね…。全部倒す為にがんばるのです…。
基本的に全体行動はレオンハルトさんとアルカナさんの指示に従います。
後、事前にランタンを確保しておきます。中は暗いらしいですし…ね。

まずは…コウモリの巣の場所を作業員のおじさんから聞いておきたい…です。
目星は付けておきたいですし…。
私は仲間の回復が役目なので…、
隊の中程から周囲と足元を警戒しつつ行動します。

戦闘に入ったら…私は被弾を避けたいので、大鎌を構えて防御重視です…。回転防御で身を守りつつ、弱ってる敵には攻撃も仕掛けます…。でも隊列を乱さないように気をつけます…。
怪我が酷い人がいたら回復を最優先にします…。
スピカを召還して、傷ついてる人を回復させるのです…。
誰一人も倒れさせはしない…ですっ。
傷が深い人が居たら自分よりも相手の回復を優先します。
後は通路での戦闘になった時は…後方も注意します。

● 暗殺シューズのスカイランナー・ユイン(c01509)
【心情】
おじ様好きのわたしとしては、おじ様が困ってるのは
放っておけないもんね。
50匹もいる大きなコウモリ相手だけど、
怖いって言ってられないよね。

大きな怪我だけはしないようにするよ。「アイツ」に
心配されるとウザイからねっ!

【準備】
鉱山のおじ様達に地図を借りて、カンテラも用意。
あと、素敵おじ様をチェック!!筋肉最高!!

【戦闘】
わたしは「A班」。
コウモリ群れの位置把握は、地面に餌や糞が落ちてる可能性大なので
天井だけじゃなく、足元にも注意しないとだね。

遠距離から「ソニックウェーブ」で攻撃するね。
通路が狭いから、周りに気をつけつつ。
回復役の人とは離れ過ぎない位置確保で。
戦闘時にカンテラが邪魔になったらその場に置いても大丈夫かな?
蹴飛ばさないように。

撤退条件は、回復切れで戦闘不能者がいる場合。
もちろん敵を深追いしない方向で。

【最後に】
素敵おじ様と仲良くなるチャーンス♪
あ、でも妻子持ちは駄目だー…残念!

● 弓の魔獣戦士・スーマ(c01516)
俺はB班に所属、だな
同じ班のレオンハルト、フィオリス、サレナ、エルティス、ヨロシク!
途中で一旦合流とかするんだったら周りに合わせるぜ。

自前のカンテラは忘れずに持っていくぜ。
地面に置いても転がりづらい優れもんだ。
戦闘中は蹴飛ばさないように邪魔にならない場所に置いておく。
もし壁にカンテラ用の引っ掛ける場所があったらそれを利用する。

鉱山に行く前に地図を借りられないか交渉に行く。
その時にコウモリが出た場所も大体でいいから聞いておく
が、コウモリが移動してる可能性もあるからそれに囚われ過ぎないように気をつける。

移動と戦闘は後衛に位置する。
後ろからコウモリが来ないかも警戒しておく。
戦闘は主に弓射撃で。
「中れこんにゃろー!」
後ろから攻撃された場合や、前衛をすり抜けて接近した敵がいた場合のみビーストクラッシュで攻撃。
自分が止めを刺したコウモリの数を覚えておく。
んで何匹倒したか仲間と数える。

● 斧のスカイランナー・エルティス(c02109)
祝、初依頼!
というわけでご家庭の家計のために
いっちょはりきって参りますよー。

>準備
予備用に自前のランタンを持っていくー。
腰のベルトにでも引っ掛けておくかな。
他の人の光源に何かあったら
自分で使うか後衛の人に託しますー。

>行動
B班の前衛…なのかな?
とりあえずは敵を倒すの頑張る心算ー。
耳をすませながら慎重に進むよー。
曲がり角や天井、くぼみなどに注意しときます。

>戦闘
接近した蝙蝠にアクスディバイドで攻撃。
ただ、うっかり巣が繋がった蝙蝠もある意味被害者だし
出来ればぶった切らずにどうにかしたいなぁ。
なんて甘い事を考えてます。
斧の側面を振り下ろせば気絶くらいさせられないかね。
そんな考えが通じないならガッツリぶっ殺しに行きますが。

>その他
倒した蝙蝠は持ち運べそうなら
帰りに1匹か2匹引き摺って
持って帰ってきてみようかなとか。
換金目的ですなー。
お金にならなそうならそのへんにうっちゃってきます。

● 扇の星霊術士・ライラ(c02438)
※準備※
光源を確保して坑道に入ります。
勿論、戦闘になったら地面において蹴倒さない様に注意です。

※感情※
同じ旅団のユインを含め【A班】のメンバーを活性化しています。
「ユインちゃん、お互い頑張るッスよ♪」

※心情※
「う〜ん、初依頼は緊張するデスねぇ〜☆」
エンドブレーカーとして初めてのお仕事なので、お気楽極楽なライラもちょっと緊張気味です。

※行動※
「酒場のテーブル」で打ち合わせた通り、『A班』後衛として行動します。
蝙蝠に対する対応や行動、撤退条件は話し合いで決まった通りに従います。
取り敢えず、蝙蝠と遭遇するまでは後方からの奇襲に警戒しつつ班の後ろについてます。
蝙蝠との戦闘になった場合ですが…
基本的に、アビ【星霊スピカ】での味方の回復に専念です。
「○○ちゃん…大丈夫デスか?」
遠距離攻撃アビもありますが、GUTSが心許ないのと、別行動のB班と合流した時用に温存しておきます。

● 槍のスカイランナー・ライゼ(c04700)
[準備]
まず、おじさん達に地図に坑道の地図を借りて、巣の位置も聞いておく。明かりは自分で用意。出来なきゃおじさん達に借りようかな。地図がなかったら、大まかな巣の位置だけでも聞きたいなあ。
[行動]
まずはみんなで巣に突撃!といっても後衛の人達を守りながらじわじわと制圧していく感じ。僕は前衛として、[疾風突き]を惜しみなく使って、後衛さんたちに傷一つ付けさせないくらいの気持ちで戦う。勿論、突出し過ぎないように気を使って。持ってるカンテラが邪魔ならそこら辺に置くなり臨機応変に。
どこが巣なのかは、近くにカンテラやつるはしが落ちてるはずだから分かるよね。
で、巣を壊滅し終えたら、いったん体制を整えて、班分けして各個撃破。僕はA班に入るよ。
皆で行動してたときと同じように、後衛に攻撃が行かないように全力で戦う。

※基本、レオンハルトさんとアルカナさんのプレイングに沿って行動。矛盾があればそちらに従う。

● 弓の狩猟者・サレナ(c04797)
○行動
まずは作業員さん達に話を聞くの
(指折り数え)鉱山内の地図、欲しい。蝙蝠に出会った場所、聞きたい。カンテラ、借りたい。歌、教えてほしい

ボクはB班として行動
地図を見てA班とは違うルートで蝙蝠退治に向かうね
ランタンを持ちながら後衛を進むけど、天井や横穴にも注意しながら進むよ

作業員さん達が襲われた辺りにはランタンやツルハシが落ちているはずだから、その辺りまで来たら特に警戒

○戦闘
ランタンを邪魔にならない場所に置いて武器を構える……!
後衛から弓で一匹ずつ狙撃。複数の蝙蝠に襲われている人を援護するように攻撃していくの
弱っている相手にはファルコンスピリットで確実にダメージを与えていく、ね
ファルコンスピリットは光ってるみたいだから瞬間的な明かりとしても使えればいいな、と思うけど……

倒した蝙蝠の数は忘れずにメモ。A班と合流した時に数を足して、残りどれくらいか確認したい

● 槍の魔法剣士・レオンハルト(c04873)
【班分け】敬称略
A班>アルカナ・ユイン・ライラ・ミント・ライゼ
B班>フィオリス・スーマ・サレナ・エルティス・私

【全体行動概略】※地図入手の場合
・ランタンは各個で所持。必要と感じたら運用。
・鉱山関係者から地図を必要数借り、蝙蝠の巣と繋がった所を確認。
・最大の群れがいると思われる蝙蝠の元巣直結ルートへは全員で進み、先ずコレを叩く。
・その後、地図から各班の侵攻ルートを決定。また班毎のチェックポイントを規定。
・チェックポイントに到達する毎に出口に戻り別班を待ち情報交換。
・定時報告と捜索&討伐を繰り返し、坑道内の蝙蝠を殲滅する。
・回復切れか生死不明者が出た場合、速やかに出口に戻り、全員揃ったら撤退。

【個人行動概略】
・B班前衛
・足元のゴミや壁に響く音などから群れの位置を捜索しつつ進軍。
・敵の数も多いので、アビは残像剣をメインにして攻撃。
・後衛を突かれないよう、深追いはせず、隊列を乱さない事に注意。

● 杖のデモニスタ・アルカナ(c05159)
鉱山夫の方々の脅威は早々に取り除かないといけないわね。
…暗闇での戦いね。視界には気を付けないと。

【全体行動概略】
(地図未入手の場合のみ、こちらとレオンハルトの指針で矛盾する所があればこちらを優先。それ以外はレオンハルトの指針に従う)
予め、巣の大まかな位置を聞いておき、鉱山の規模と照らし合わせ大体の見当をつけておく。
移動時は班分けをせず、全員で警戒しながら行動する。その際アルカナがマッピングをする。
ひとまず巣を目指して進み、巣を制圧する。
体勢を整えた後にコウモリの死体を数え、うち漏らしがあれば2班に分けて虱潰しに探索、入り口で合流する。
なお、戦力的に班分けが難しければ全員で移動する。
【全体行動概略ここまで】

私は筆記用具と羊皮紙を数枚、それとランタンを用意していくわ。
移動時は足元に注意。転んで余計な体力は使いたくないわ。
攻撃はマジックミサイルを主体に、敵の数が減ったらデモンフレイムを使うわ。

● 太刀の魔法剣士・ミント(c05218)
【持ち物】ランタン、地図(借りられれば)
【心情】今回は鉱山の蝙蝠退治、炭鉱夫の皆さんの生活を守りましょう。
「それにしても暗そうですね、ランタンがあれば大丈夫そうですが」
【洞窟内】
「蝙蝠がいそうな気配がたしかにしますね・・・」
前に目を配り、戦闘になったら太刀による居合斬りを使い、大型や多数の蝙蝠が出てきた場合は残像剣で手数を増やしてから攻撃を行います。
ちなみに戦闘中はランタンは置いておきます。
「一匹残らず切り落とさせていただきます!」
また後ろから攻撃を受けた場合はあせらず、前に注意しながら後衛を守りに行きます。
また数が多い場合は守りを固めて、一匹づつ確実に減らす方法で行きます。
巣を潰した後は『A班』の前衛として進んでいきす。戦法はさっきまでと変わりません。
仲間の疲労が激しい場合は一旦入口に戻ってB班と合流します。
その場合は回復をしてから残りの蝙蝠を殲滅します。
「これで全部でしょうか?」

<リプレイ>

●下っ端のエレジー
 丸太小屋のスキマから寒風が入ってくる。
 エンドブレイカー達は鉱山の手前、作業員用の詰め所を訪れていた。
「すいません、おじ様方……って、一人だけ?」
 素敵なおじ様を見つけたらチェックしておこうと思っていた暗殺シューズのスカイランナー・ユイン(c01509)は予想外の歓迎に面食らう。
 詰め所には背中を丸めて椅子に座っている作業員一人しかいなかったのだ。
「先輩達は凶暴なコウモリが一杯出たからって、飲みに行っちゃったよ。留守番に僕だけ置いて……」
 そう答える作業員はまだ20代前半といった所だろうか。体も細く、頼り無さそう、見るからに下っ端といった風体だった。
「全部見習いの僕に押し付けるんだ……」
「あ、そ、そう、なんです、か」
 引きつり笑いを浮かべて数歩後ずさりするユイン。
「(代わるか?)」
 弓の魔獣戦士・スーマ(c01516)は作業員へ聴こえないようにささやく。
「(あー、うん、お願い)」
 素敵なおじ様に会えなかった事もあり、出鼻をくじかれたユインは不完全燃焼といった様子でそのまま後ろへ下がる。
「えっと、俺達はその鉱山のコウモリ達を退治に来たんだが……坑道の地図とかないか?」
 スーマは色付きレンズをはめたゴーグルを外そうとしない。
 元来シャイである彼の所作に作業員も自分と同じものを感じたのかもしれない。前よりも舌が滑らかになる。
「え、そりゃ仕事用のならあるけど……見ず知らずの人達に渡しちゃっていいのかな」
「あー、そ、そうか。そりゃ俺達部外者だもんな」
 思わず納得して引き下がりかけるスーマ、あわてて斧のスカイランナー・エルティス(c02109)が作業員の肩へ手を置いた。
「いやいやいや、よーく考えてみなよ!」
 商人という仕事柄、身に付けた営業スマイルを振りまきつつ、腰のソロバンを引き抜いてシャカシャカと振る。
「地図を貸してもらった俺達がコウモリ達を退治すれば、兄ちゃん達も仕事が再開できて得になるだろ。俺達もコウモリ達を倒せて満足、ダレも損しない! な?」
 エルティスの勢いに押されてコクコクと首を縦に振ってしまう作業員。横のスーマも一緒になってうなづいていた。
「それに地図も別にくれって言ってる訳じゃなくて貸してくれるだけで良いんだ、終わったら返すからさ」
 スーマの駄目押しに、作業員は陥落した。
「わ、わかったよ。先輩達にはヒミツにしてくれよ」
「よーし交渉成立っ!」
 そろばんを腰に挟みなおし、エルティスは指をパチンと慣らした。

 詰め所のテーブルの上、借り受けた地図を開いて作戦会議を行うエンドブレイカー達。
「巣の位置がここだよね」
 槍のスカイランナー・ライゼ(c04700)が作業員から聞いたコウモリ達の巣があった場所を指し示す。
 そこは葉脈のように枝分かれしている坑道内、深部の通路だ。通路から横穴を掘っている最中にコウモリ達の巣にぶち当たってしまったらしい。
「ふむ、なるほど。ここまで巣が入り口から遠いと、引き返すのも一苦労になりますね」
 槍の魔法剣士・レオンハルト(c04873)はアゴに二指をそえて確認するようにうなづく。
「さて……どうするつもり?」
 杖のデモニスタ・アルカナ(c05159)の涼やかな視線がレオンハルトに注ぐ。
 その瞳はレオンハルトの心を透かしてのぞき込もうとしているようにも思える。
 エンドブレイカー達の一部は、今回の作戦をレオンハルトへと託していた。責任が重くのしかかる。
 しかし、その重みを全く感じないかのように、レオンハルトは二指をアゴから地図上へと動かした。
「問題ありません、当初の予定通り皆で巣を叩きます。ただ、こう致しましょう」
 揃えられていた二指が、コンパスのように開く――。

●B班のララバイ
 坑道内、エンドブレイカー達は二班に分かれて動いていた。
「ご飯の為ならえーんやこら、仲間の為ならえーんやこら……ん、違う?」
 作業員から教えてもらった歌をたどたどしく歌い上げる弓の狩猟者・サレナ(c04797)。
「………」
 ランタンの揺れる赤い炎を見ながら、サレナのうろ覚えな歌を聴いているとまるで子守唄みたいだと大鎌の星霊術士・フィオリス(c00380)は思った。
 だというのに、眠くなるどころか頭は冴えて感覚がどんどん鋭くなる。
 手元の明かりが無ければ一寸先も見えないような闇が続く。自身が怪物に飲み込まれていくようだ。
 視線を苔むした土壁に移せば、足が何本もある奇妙な虫が光を嫌って逃げていく。
「……!」
 目を見開かせて無言の恐怖に耐えるフィオリス。それに気づいたサレナが歌うのを止めた。
「怖い?」
「だいじょ……ぶです……っ」
 言いながらも視線を土壁から離せないフィオリス。サレナは、ランタンと壁の間に自分の手を割り込ませた。
「わんわん」
 土壁に浮き上がる犬の影絵。
「あ、犬……」
「こんこん」
 影絵の犬がキツネに変わる。
「キツネ?」
 サレナはコクコクとうなづくとキツネの耳部分の指を長く伸ばした。
「うさうさ」
「ウサギはそんな風に鳴かないんじゃない、かな……?」
 思わず笑みをほころばせるフィオリス。
「ん……」
 その笑顔を見て、サレナもかすかだが口元を弓なりに曲げる。本当はサレナも少し怖かった。
 怖いのは一人ではない、お互いがお互いに助けられている。
「せっかくの和やかムードに水を差しちまうけどさ、そろそろ来るぜ」
 スーマは持っていたカンテラを土壁の側へと置く。その側には横倒しのまま転がっているカンテラがあった。
「予定通りですね」
 片眼鏡へと指を添えるレオンハルト。レンズには坑道の先より飛来するコウモリ達の姿を捉えている。
「さて、鉱山の大掃除といきますか」
 エルティスもランタンを地に置き、背中の斧を抜き放った。
「ああ。影絵ショーの鑑賞料、耳を揃えて払ってもらうぜ!」

「ミルクティ!」
 サレナが即興で決めたスピリットの名前を呼ぶ。
 召還された鷹のスピリットがコウモリの片翼をツメでもぎ取り、地に這いつくばらせる。
「これで、じゅうっ……!」
 翼でレオンハルトを切り裂くべく頭上から急降下してくる1匹のコウモリ。
「当たれこんにゃろー!」
 レオンハルトは槍の石突き部分で弾き返すと、後ろから頬を掠めて飛んできた矢がそのコウモリを射ち落とした。
「暗所で狙いが定まらないのなら、そのゴーグルを取ったらいかがですか?」
「あっはっは……すまねぇ。それは勘弁してくれ」
 11匹目のコウモリを始末した所で軽口を叩き合うレオンハルトとスーマ。
 コウモリの数は一行に減ったようには見えない。
「ったく、キリないなぁ。一人当たり5匹倒せば終わる計算だろ?」
 ボヤきながらも楽しそうなエルティスの足元には、斧で両断されたコウモリの死がいが幾匹も転がっている。
 同時にその肉体は何カ所もコウモリに噛み付かれ、ついばまれてもいた。
 いかに地力で上回る相手といえどもこう数が多ければエンドブレイカー達も無傷とはいかない。
「怪我、治します……っ!」
「……っと、サンキュな」
 フィオリスのスピカがエルティスの腕をペロペロとなめて傷を癒していると、通路の向こうがにわかに騒がしくなる。
「ようやく来ましたか」
 目を細めるレオンハルト。よく通るライゼの声が、聴こえてきた。
「やあ、待たせたね、ヒーローは遅れて登場するもんさっ!!」

●A班のラプソディ
 コウモリ達の背後から出現したA班の面々が、無防備な背中を攻撃していく。
 B班よりも全体的に素早い面子が揃ったA班が別通路から進軍し、回り込むように巣を挟撃していたのだ。
「全く、初冒険なのにゼンゼン緊張してないデスね……」
 扇の星霊術士・ライラ(c02438)はハリセンを手でピシピシと叩く。
 自分が後衛で、ライゼが前衛でなければ言葉だけではなく実際にツッコミを入れたいところだった。
「何言ってんのさ、バリバリ緊張してるよ。カッコイイとこを見せなきゃね……って!」
 ライゼといえば浮っついた軽口を叩きながらも槍をしごき、疾風のごとき突きで1匹のコウモリを討ち取っている。
 狭い坑道内で槍という長物を使うのならば突く攻撃に集中した方が良い。
 軽口で巧みに隠されているが、比類なき観察眼と判断力がライゼにはある。
「良いからライラは私の後ろに入って」
 信用できるおかげで杖のデモニスタ・アルカナ(c05159)は、安心してライラの守りに集中できた。
 飛んでくる2匹のコウモリ。太刀の魔法剣士・ミント(c05218)が巨大な壁となって立ちふさがる。
「1匹残らず切り落とさせていただきます!」
 フェイントを駆使した残像を伴う斬撃が、1匹、2匹と連続でコウモリの翼を切り刻んでいく。飛行能力を失い、湿った足元にへばりつくコウモリ達。
 続けざまにまた3匹。
「チッ、2匹いったぞ!」
 ライゼが1匹を倒すも、残りの2匹は上空を突破して後衛のライラ達へと向かってくる。
「させないよ!」
 ユインの足が振りあがるのと、
「マジックミサイル、展開」
 アルカナの杖が5本もの魔法の矢を放ったのはほぼ同時だった。
「キュイ……ッ!」
 真空の刃と悪魔の炎。短い断末魔を上げて絶命するコウモリ達。
「わりィ、今度は4匹行ったわ!」
「どんだけ逃がしてるんデスかぁ〜!」
 言葉だけでもツッコミを入れるライラ。ハリセンを振り回し、やってきたコウモリを自ら叩き落とす。
「あはは、叱られちまったよ。折角見せ場を作ってやってるのに……まいったねこりゃ」
 ライゼはボヤきながら、坑道で灯りが届きにくい事、かつライラが自分の後ろにいる事を密かに感謝した。
 なぜならコウモリ達の度重なる攻撃に晒されて、体の前面が傷だらけになっているのが判らないから。
「大丈夫ですか?」
 横に立つミントは袈裟切りにコウモリを1体倒しながらライゼを気遣った。そう言う彼女も足をひきずっている。
「ピンチの時でも笑ってごまかす……ってね。仲間には絶対傷つけさせないつもりだったんだけどなぁ」
 血と汗と泥にまみれた顔でミントへニッと笑いかけるライゼ。
「ライラさん、ライゼさんに回復お願い」
 ミントは後ろを向いていて、彼を見ていなかった。
「そりゃねーよ……今のかなり良いセリフだったのに」
「一人で全部やるというのがどだい無理なのよ。守りを固めて1匹ずつ確実に減らすの」
「ミントの言うとおりよ」
 アルカナが虚空に悪魔の炎を出現させる。
「燃えなさい。デモンフレイム」
 ミントとライゼの上を巨大な炎が飛んで行き、コウモリを跡形も無く消滅させる。
「いやー私は助かってるけどね? 大きなケガしてアイツに心配されるのも……ウザイしっ!」
 この場にいない誰かの事を思いながら、足を振りぬくユイン。2発の衝撃波がコウモリを叩きのめす。
「けどま、ちょっとは私にも出番を回してね、っと」
 ユインは微妙な笑顔を見せる。会心の一撃をたたき出した時に、よりによって誰かの事を思ってしまっていたからだ。
「ライゼちゃん……大丈夫デスか?」
 ライゼの体を、ライラの星霊スピカが優しくなでていく。
「少しは頼って下さいッスよ」
 癒されて、苦笑いを見せるライゼ。
 その後、持ち直したA班はB班と共にコウモリ達の挟撃を再開。1匹も逃さずに50匹全てを討ち取る事に成功するのだった。

●エピローグ・レクイエム
 鉱山の外、詰め所へ立ち寄ったエンドブレイカーは地図とカンテラを作業員へ返し、コウモリは全て倒したと報告した。
「ありがとう! 早速先輩達に知らせないと――」
「ちょっと待って」
 駆け出して行こうとする作業員を呼び止め、アルカナは1枚の羊皮紙を差し出した。
「これは?」
「私がマッピングした地図よ。一部ルート……間違ってたから」
「地図まで直してくれるなんて……なんか、本当に申し訳ないな」
 趣味だから気にしないで、と付けたして一歩下がるアルカナ。
「ちなみにここで採れる鉱石とはどのような――」
 レオンハルトの問いかけには、煙草をくわえたスーマが答えた。
「鉄鋼石だよ。な?」
 鉱石大好きなスーマは、帰り道ずっとこの鉱山で何が採れるかを推理していたのだ。
「は、はい、そうです」
「やっぱりな! 露天掘りも良いけど、やっぱロマンは坑道掘りだよな!」
 誰も聴いていない事まで喋りだすのが、マニアのマニアたるゆえんかもしれない。
「ふむふむ……メモしとくッスよ」
 ハートと星型のアクセサリーがついたペンで鉱山の情報をメモするライラ。
 メモにビッチリと字が書き込まれている所を見ると、どうも彼女はメモ魔らしい。
 作業員と共に詰め所を出た一行。作業員が詰め所にカギをかけている間にミントは髪や服についた土ぼこりを叩き落す。
「あとで汚れをちゃんと落としたほうが良さそうですね」
 うなづくエンドブレイカー達。皆、血や泥、カンテラのススなどで汚れている。
「ボクはミルクティ……飲みたいな」
 みんなで、と付け加えるサリナ。一行は一仕事終えた充足感を胸に鉱山を後にするのだった。
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