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散った恋の行方

杖の星霊術士・アミナ

<散った恋の行方>

■担当マスター:相景狭間


●1つの恋のエンディング
 ラブストーリーは、ハッピーエンドで終わるとは限らない。
「ごめんなさい。貴方の事、そういう目で見れないの」
「そ、そんな……」
 地面に落ちた花束と、うなだれる青年。
 それは一目見て、青年が振られたと分かる光景だ。
 それでも青年は花束を拾い、再び女性に差し出す。
「……せめて、これを受け取って貰えるかい? 今まで通りの、友人の証として」
 何とか無理矢理の笑顔を作る青年。
 差し出された花束は、しかし……女性の手によって、叩き落とされる。
「いい機会だから、言っておくけど」
 叩き落とされた花束をビックリした顔で拾おうとする青年を、女性は冷たい目で見下ろす。
「貴方のそういう女々しい所がキライなの。もう会いに来ないでね」
 花束を拾ったポーズのまま動かなくなる青年に女性は背を向け、歩き出す。
 青年は、この女性の為なら何でも捧げようと思っていた。
 何でも……そう、例えば命だって捧げる覚悟もあった。
 でもそれは全て、意味の無いものになってしまった。
 自分の人生の意味は、あの人と会う為のものだと思っていた。
 なら、自分のこれからの人生の意味とは何だろう。
 考えても答えは無く。見物人達の憐れみと嘲笑の声が、彼の心を削ってゆく。
 ……家に帰って、青年はベッドに倒れこむように横たわる。
 考えても、考えても。この先どうすればいいのか分からない。
 思考を始めてから、すでに3、4時間は経過しただろうか。
 青年は、いつのまにか暗い思考にとらわれ始めていた。
 自分の人生に意味がなくなってしまったのは、彼女のせいだ。
 なら、彼女も相応の責任を取るべきだ。
 自分の人生が彼女のせいで意味をなくしたのなら、彼女の人生もなくなってしまうべきだ。
 青年は立てかけてあった剣を手に取ると、玄関の扉を開ける。
 時刻はすでに夕方。もう、彼女は家に帰っただろうか。
 青年は、彼女の家へと歩いていく。
 歩いて、歩いて……途中の道で見つけた忘れようもない、後姿。
「ギッ……」
 そして……響く、悲鳴にもならない悲鳴。
 女性に深々と突き刺さる剣。
 突き刺したのは、顔をマスカレイドの仮面に覆われた青年。
 そして響く音はただ、何度も……何度も女性を突き刺す、残虐な音。

●最悪のエンディングを、打ち砕く為に
「皆、マスカレイド事件の情報を見つけたんだけど聞いてくれるかな?」
 杖の星霊術士・アミナは、集まったエンドブレイカー達にに自分の見た青年の事を話した。
「彼、このままだと棘(ソーン)に憑依されてマスカレイドになっちゃう」
 そうなってしまえば、青年を救う方法は無い。
 アミナの見た未来は現実のものとなってしまうかもしれない。
「でも、今なら……彼を救えるよ。お願い、皆の力で彼を助けてあげてほしいの」
 件の青年は今、ここからそう遠くはない広場で楽しそうに女性と話している。
 女性の冷たい目に青年は気づいていないようだが……恐らく、もうすぐ「振られる」時がやってくるのだろう。
 それは仕方の無い事だ。
 だが、このままでは数時間後。マスカレイドとなった青年によって女性は殺されてしまう。
 もし、彼がマスカレイドとして事件を起こしてしまう前に、彼に前に進む力を与える事が出来たなら。
 彼が、完全なマスカレイドとなってしまう事を防げるかもしれない。
「それでも、マスカレイドになっちゃうし……皆を殺そうと、襲ってくると思う」
 だが、完全なマスカレイドよりはずっと倒しやすい存在になるし、マスカレイドを倒せば青年は無事に助けられる。
 使ってくるであろう武器も彼が家から持ち出そうとする長剣程度で、他に武器らしい武器もない。
 そう、そうなれば青年は死なず。
 青年に殺されていたかもしれない女性も死なない。
 そう……最悪のエンディングは現実とならない。
 時間的にいえば充分な用意をした上で、青年が家を出る前に訪問して説得する事も出来る。
 そして説得に成功すれば、青年の意識を失いマスカレイドとなって攻撃してくるが、このマスカレイドを倒せば、青年を無傷で救うことができる。
 青年さえ無傷ならば、戦闘の音を近所の人が不審がっても、ごまかす事が可能だろう。
 しかし、失敗した場合は話がかわる。
 説得できなければ、青年はマスカレイドとなってしまい、彼を救うことは出来ない。
 マスカレイドを倒せば、同時に青年も死亡し死体が残ってしまうので、騒ぎにならないうちにその場を離れなければならない。
「皆。頑張ってね!」
 そんなアミナの応援を受け、エンドブレイカー達は準備を始める。
 最悪のエンディングを、打ち砕く為に。

●マスターより

 はじめまして、相景狭間です。
 まずは、ここまで読んでくださった事への最大限の感謝を。
 これから、皆様の活躍を裏から支えていくべく全力で頑張っていきたいと思います。
 どうぞ宜しくお願い致します。

 青年の戦闘能力は、「その辺の人より少し強いくらい」となります。
 普通の剣を1本持っていますが、それを含めても、あまり強い相手ではありません。
 剣の使い方も「ぶん回す」ような感じで、色んな意味で普通です。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 弓の狩猟者・ラティス(c00616)
●心情
酷い振られ方したのは可哀想だけど男はもっとしっかり大人であって欲しいものだわ
前向きで希望溢れる人のほうが素敵だもん
そうなって貰えるといいな

●説得
買い物して青年の家に押しかけてパーティー
失恋体験話で仲間意識誘いつつ前向きになって貰う

ラティもね、こないだ失恋したの!ラティみたいないい女をふるなんて見る目ないよねっ
もっと相応しい相手がいるんだわ。そう思うでしょ!?

ん?何セラフ君
えー!軽い人嫌っ青年さんみたいな一途な人に想われたいわ〜

ケーキとかジュースとかいっぱいあるから、今日は盛り上がろう!

●戦闘
基本的に後衛で戦況の把握に務めるね
敵が凄い勢いで迫って来たりしたら大声で仲間に知らせる!

立ち位置や攻撃方法(ファルコンスピリット 、弓射撃 、通常攻撃)は距離等に応じて臨機応変にねっ

●事後
このままパーティーしよ♪
苺ケーキ〜

●口調
年関係なくタメ語で呼び方は男は君、女はちゃんづけ

● 暗殺シューズの群竜士・ジン(c01378)
【男の説得】一緒に買出しをして、男の家に押しかけて失恋パーティー。
自分もつい先日振られたと言う設定で、過去に「そもそも貴方誰?」と存在すら認識してもらえなかった失恋経験を苦笑しながら話しつつ、そんな過去を誇りにできるように頑張っていこうと、慰めるよりは共感を与えて、心を落ち着かせようと思う。
酒の方は勧めつつも自分は飲むフリで。
パーティーに誘うが必要なら、たまたま彼の失恋を知って、それならせっかくだし一緒にと言った感じで。

【戦闘】後衛から隙を見つけてソニックウェーブで援護射撃。基本的に邪魔にならない程度で、必要ないなら無理に攻撃しようとはしない。援護攻撃自体も、ダメージを与えるよりは気をこちらに向けさせて見方からの攻撃を誘おう。
彼の説得ができなかった場合は、撃退後にすぐ逃げられるよう射程の許す限り路地近くから攻撃。

説得に成功できていれば今度は新たなる恋路への再出発パーティーだな。

● 槍の魔法剣士・アルト(c01620)
【事前】
作戦をすり合わせておく。

パーティーでは自分の失恋話を聞いてもらう。
分かる、分かるよー!と相槌を打ちながら涙を流し、事前にでっち上げておいた悲恋話を披露。
「すっごい可愛い子だったんだよ。笑顔が可愛くて、気配りも上手で…。
でね?ちょーっと2人でお茶して、良い雰囲気になったから、所謂告白をね、したんだよ。
そ、そしたら…「あなたと居るとお茶が不味くなるわ。もう話しかけないで頂戴。」とか言われ…」
涙が溢れて続きが言えない。これは作り話なのになんでこんなに涙が…!

【戦闘】
前衛として行動。
隊列を組んで、後方へ攻撃を通さないように。
HPが低くなったら声かけを行い、回復をしてもらう。
前衛のHPが低くなっているのを見たら声をかけ少し下がらせる。

【事後】
説得成功ならパーティー再開。
君に素敵な出会いがありますように…。

説得失敗なら素早く退散。
きちんと逃げ切ってから黙祷。助けてあげられなくて、ごめんね…。

● 太刀の星霊術士・カノー(c01650)
準備
パーティものの買出し
青年の家の周辺環境チェック、怪しまれない程度に

説得
みんなで青年の家に訪問、ついでにパーティ
「カノーと申します。広場での一部始終、見せて貰い
ました。こちらで最近振られた方々の痛み分け会を
開催していまして、よろしければご参加頂けますか?
」のように青年の警戒を解き仲間をフォローします
目的は青年のパーティへの参加で、口上でご意見尊重
と言いう割りに諦めません
パーティで仲間の相槌しながら青年にも話掛ける
適当なところで自分の失恋話も切り出してさり気なく
青年を励ます
「何するか分からないならばとりあえず目を開けて、
周りの世界を見回しましょう」

戦闘
環境によって3/3/2/2か3/3/4の陣形使い分け
私は2列目で前衛、居合い攻撃を中心
前衛仲間のダメージがひどい場合のみスピカ使用
自身のGUTSも考慮してスピカは一回のみ

戦闘後
青年生還であればパーティ続行
死亡の場合事前確認した周辺環境を元に速やかに離脱

● 太刀の魔法剣士・カリス(c02727)
【心情】
愛ゆえに悩み、苦しみ…時に道を踏み外す…か。
愛憎は表裏一体。
今は難しいかもしれないが、人を愛するということの素晴らしさを再び思い出させることが出来れば…

【作戦】
皆で青年の家に押しかけて、青年を励ましつつ自分たちが主催する≪失恋パーティ≫に誘う。

いきなり見ず知らずの人間が多数押しかけては、青年も警戒するかもしれない。
事前に失恋パーティへの話の持って行き方等、各仲間の話に整合性が出来るように準備段階で良く相談しておこう。

状況にもよるが、武器を持ったまま押しかけるのは無用の警戒を与えるかもしれない。
必要なら、目立つ物々しい武器を持つ者が居たら俺が預かって、人目に付かない物陰に隠れるなどして、対応する。
不意の豹変、襲撃も考えられるから、異変を感じたら即座に戦闘態勢に移れるように留意。

【戦闘】
残像剣を主体にした前衛での攻撃に従事。
敵味方の位置関係を留意、お互いの動きを阻害しないよう立ち回る。

● 杖の星霊術士・セラフ(c03218)
ジンの失恋パーティーの準備中偶然現場見たから
ノリで大量の酒もってオマエもかよーと
押しかける流れだよな?
女の事で頭一杯だろうし強引にいかねーと
「細けえ事はいいじゃん!飲もうぜ!」
気合でペースに巻き込む

オレは失恋話担当
オマエの気持ち凄く分かるぜ…
オレ若い頃彼女に浮気された上逆ギレされて
「キモ!ってか同じ空気吸いたくないんですケド。
今すぐ死んでくんない?マジで」
って凄い顔で唾ペッって
死にたくなった…むしろ思い出して今すぐ死にたい

野郎や仲間が引く位の勢いで飲んで号泣

ラティスちゃんには
「オレどう?オレどう??」と迫ってあしらわれてかませ犬になる
…演技の筈なのに涙が出るのは何故なんだぜ…

戦闘は3、4列
オレはドア側最後尾で
退路確保と封鎖、近所への警戒兼ねる

結界陣展開、ミサイルで攻撃
要所でスピカ呼んで回復

倒したら世界にはイイ女が一杯いるぜ!と励まそう
殺したらダッシュ逃亡
荒れた現場は酒飲んで騒いだように偽装

● 杖の魔曲使い・エルファシェス(c04311)
人の想いって難しい問題よね…他人事とは思えないわ…
わたしのできる限りで尽力させていただくわ

買出し後に家へ訪問、の流れね。了解よ

>パーティ時説得
わたしの思は憐れみや同情ではなく…心からの信愛よ
自分以外の誰かを愛すことができる優しい青年さんだもの
今回は運命の糸が繋がっていなかったのよ
世に女性はたくさんいるわ…あなたのことを待ってるひとが必ずいるはずよ
ね、元気を出して?わたし達はあなたの味方よ

暗い思いが溶けるよう…あたたかく包み込む感じで接するわ

>戦闘
青年さんは剣使用で振り回し系の戦法…との情報だったわね

わたしは前衛。後衛さんを近接攻撃から護る置ね
連携重視、状況に合わせて立ち位置を考慮し
周囲足元の障害物等にも留意し戦うわ
使用技は「誘惑魔曲 」よ

敵の剣は杖での受け流しを目指すわ
直撃だけは避けたいところね


説得成功→青年さんの前途を祝して再パーティね
説得失敗→力及ばずごめんなさい…短く黙祷後、即撤退よ

● 杖のデモニスタ・ソルトエン(c05088)
○パーティ
人目を避けるためにも説得は彼の家で
一緒にパーティをし、マスカレイドになる前に彼を励まし説得させたいね
買出し後「失恋した仲間達が慰め合う為のパーティを開くところ、同じように失恋した彼を見つけたので誘う」という演技をしながら全員で彼の家に押しかける
この時に彼の意識をふった彼女でなく僕らの方に向けたいな

僕は相槌を打ったりして、様子を見て僕の話もするよ
「僕は君みたいな一生懸命な子って好きだなぁ。素敵な君やこの仲間達と出会えておじさんは嬉しい。」
「僕は自分の仕事ばっかりしてて好きな人さえ出来なかったんだぁ。新しい出会い、おじさんも探すから!一緒に頑張ろう!」

○戦闘
僕は後衛
アビリティは「マジックミサイル」を使用
彼や、攻撃を防いでくれる前衛の為にも全力で攻撃し戦闘を早く終わらせてあげたいよ


説得成功後は再びパーティをすることを提案

説得に失敗、青年が死亡した場合は買出し時に確認した逃げ道などで撤退

● ナイフのスカイランナー・ウェイン(c05411)
(書きかけ)
人一人の生きる意味が唯一つ、なんてこたねぇ。悲しみの深淵を覗いたからこそ生まれる強さ、優しさってもんもある。いつか誰かの支えとなる力、気付かせてやりてぇな。

■準備
やっぱ酒は欠かせねぇよな、うん。奴さんがイケる口かどうか判んねぇが。勿論、未成年なら飲ませねぇぜ。
訪問前に周辺の下見もしときてぇ所。万一の逃走経路を決めとく為にな。

すんなり家に入れるかどうかが勝負。押し売り宜しく、勢いに任せて上がり込むことになんのかね。考える時間を与えちゃいけねぇよな。

■戦闘
俺は前衛だな。間取りや家具にも注意を払いつつ、仲間と連携して敵を包囲するよう心掛けるぜ。攻撃は「切り裂き」を連発。迎撃の構えはリスキーだが、懐に潜り込んでの一撃が決まりゃ短期決戦を狙えんだろ。

<リプレイ>

●作戦開始
「……彼だね」
 広場の隅で、槍の魔法剣士・アルト(c01620) が呟く。
 一目見て高価と分かる花束を持っている青年と、面倒くさそうに髪を弄る女性。
 互いの表情までは見えないが、遠目に見ても2人の温度差が分かる光景だ。
 恋は盲目……とはいうが、そんな彼女の様子に青年は気づかないのだろう、一生懸命場を盛り上げようとしている。
 やがて、花束が地面に叩きつけられる音が響き……広場に居た人達が、一斉に青年達のほうへと振り返る。
 青年が振られる時が来たのだ……分かっていた太刀の魔法剣士・カリス(c02727)達は、その光景を眺める。
 出るべきは、ここではない。
「貴方のそういう女々しい所がキライなの。もう会いに来ないでね」
 足早に立ち去っていく女性と、動かない青年。
 人の不幸は蜜の味を体現するかのごとく、青年を遠巻きに何事かを呟く見物人達。
 やがてヨロヨロと立ち上がり、ふらふらと歩いていく青年。
 彼が持っていた花束は、地面にそのまま捨て置かれている。
 ボロボロで、数分前までの綺麗な姿は見る影もない花束。
 それを見て、カリスは青年の姿を花束に重ねる。
「愛ゆえに悩み、苦しみ……時に道を踏み外す……か。愛憎は表裏一体。今は難しいかもしれないが、人を愛するということの素晴らしさを再び思い出させることが出来れば……」
 そう、このままでは彼はマスカレイドになってしまうだろう。
 それを防ぐ為に、彼等は来たのだから。
「よし、この後は……ジンの失恋パーティーの準備中に偶然現場見たから、ノリで大量の酒もってオマエもかよーと押しかける流れだよな?」
「そうだね。じゃあ、急いで買い出しに行こうか」
 杖の星霊術士・セラフ(c03218)に暗殺シューズの群竜士・ジン(c01378)が頷き、作戦の流れを手早く確認する。
「買出し後に家へ訪問、の流れね。了解よ」
 杖の魔曲使い・エルファシェス(c04311)達は頷き、歩き出す。
 青年がマスカレイドとなるまで、あと数時間。
 そのエンディングを打ち砕く為の第一手「失恋パーティー」の買い出しは手際よく進み、如何にも買い出しの帰り道……という風体となる。
「よし、あとは彼の家に行くだけだね」
 杖のデモニスタ・ソルトエン(c05088)は、買いだしたモノを手に抱えて青年の家を眺める。
 ここからそう遠くはない青年の家に押し掛けるのが、この「失恋パーティー」作戦の肝だ。
 人目を避けるという意味もあるが、失恋した仲間達が慰め合う為のパーティーを開くところ、同じように失恋した彼を見つけたので誘う……という演技の一環でもある。
 そして、この演技こそが彼を説得する為に用意するフィールドでもあるのだ。

●失恋パーティー
「すんなり家に入れるかどうかが勝負。押し売り宜しく、勢いに任せて上がり込むことになんのかね。考える時間を与えちゃいけねぇよな」
 ナイフのスカイランナー・ウェイン(c05411)は言いながら、青年の家の扉を叩く。
 最初は反応が無かったが何度かドアを叩くと、疲れ切った顔の青年が扉を開ける。
「……え……と。どなたですか?」
 当然の反応だ。ドアの外に、知らない人間が何人も立っているのだから。
「カノーと申します。広場での一部始終、見せて貰いました。こちらで最近振られた方々の痛み分け会を開催していまして、よろしければご参加頂けますか?」
 手早く太刀の星霊術士・カノー(c01650)が手早く話しかけるが、青年はより一層不審そうな顔をする。
「悪いけど……」
 ドアを閉めようとする青年だが、それをセラフが何とか押しとどめる。
「細けえ事はいいじゃん! 飲もうぜ!」
 青年に答える暇を与えず、上がり込むセラフ。
「いや……その……困ったなあ……」
 ほぼ強制的に上がり込んでくる彼等に青年はしかし、困ったような顔をしつつも結局は家にあげる。
 ウェイン達に悪意がない事を感じ取ったのもあるだろうが、暗く沈んでいく思考をどうにかリセットしたいという気持ちもあったのかもしれない。
 早速買い出してきたものを並べると、パーティーらしき体裁が整い……そのまま流れるように失恋パーティーが始まっていく。
 机に置かれたものを適当につまみながら、各人の「失恋体験談」が披露されていく。
「すっごい可愛い子だったんだよ。笑顔が可愛くて、気配りも上手でね? ちょーっと2人でお茶して、良い雰囲気になったから、所謂告白をね、したんだよ」
 アルトは言いながら、自分の中に熱い涙がこみ上げてくるのを感じる。
 作り話のはずが、感情移入しすぎたのだろうか。
「そ、そしたら……あなたと居るとお茶が不味くなるわ、もう話しかけないで頂戴とか言われ……」
 続きが言えなくなってしまったアルトは、何とか酒でこみ上げてきた悲しい気持ちを押し戻す。
 言うべき事は言えたが、中々に辛い。
「ラティもね、こないだ失恋したの! ラティみたいないい女をふるなんて見る目ないよねっ」
「そ、そうですね。ラティさん……は綺麗な方だと思いますよ」
「もっと相応しい相手がいるんだわ。そう思うでしょ!?」
「相応しい相手……」
 そこに割りこんできたセラフが、酒を片手に調子のいい表情を浮かべる。
「オレどう? オレどう?」
「えー! 軽い人嫌っ。青年さんみたいな一途な人に想われたいわ〜」
 演技といえ速攻でフラれてキラリと涙を浮かべるセラフとけらけら笑うラティスを余所に、青年は少し考えるような素振りを見せる。
「オマエの気持ち凄く分かるぜ……オレ若い頃彼女に浮気された上逆ギレされて」
 そんな青年の肩に手を置くと、セラフは自分の体験談を語り始める。
「キモ! ってか同じ空気吸いたくないんですケド。今すぐ死んでくんない? マジで……って凄い顔で唾ペッって……死にたくなった……むしろ思い出して今すぐ死にたい」
 酒をあおるセラフの姿を見て何事か考えていた青年は、思い出したようにジンのほうへと向き直る。
「そういえば、この集まりは貴方の……」
 言いかけて、不謹慎だと思ったのか黙り込む青年。
 しかし、何か青年が自分を変えるチャンスを掴みつつある事に気付いたジンは、用意していた話を語り始める。
「自分もつい先日振られてね……まあ、そもそも貴方誰……なんて、全く認識すらされてなかったんだけどね」
 そんな過去を誇りにできるように頑張っていこうと思っているよ、と話を締めくくるジン。
 パーティーは楽しく進んでいく。だが……本番は、これからだ。まだ、エンディングは回避されていないのだから。

●マスカレイド
 最初は暗かった青年だが、段々と声の調子は明るくなり……何事か考え込むようになった。
 今も考え込んでいる青年に、エルファシェスが優しく話しかける。
「今回は運命の糸が繋がっていなかったのよ。世に女性はたくさんいるわ……あなたのことを待ってるひとが必ずいるはずよ。ね、元気を出して? わたし達はあなたの味方よ」
 あたたかく包み込むように話しかけるエルファシェスに、青年は頷いて笑顔を返す。
「ありがとうございます。そうですね……きっと、そうです。皆さんも、色んな事を乗り越えているんです。僕に出来ないはずはありませんよね」
 青年にしてきた色々な失恋話は、青年に何かのきっかけを与える事になったらしい。
 最初の暗い影はすっかり消えて、元々の青年らしさであろうと思われる暖かな雰囲気をまとっていた。
「でも、ありがとうございます。たかだが町で見かけただけの僕の事を、こんなに気にかけてくださるなんて……」
「気にしないでください。何をするべきか分からないならばとりあえず目を開けて、周りの世界を見回しましょう、ってね」
「そうですね、僕は自分と彼女しか見えていませんでした。世の中には、貴方達みたいな素敵な人もいるのに、ね」
 カノーの言葉に青年は笑い。
「僕は自分の仕事ばっかりしてて好きな人さえ出来なかったんだぁ。新しい出会い、おじさんも探すから! 一緒に頑張ろう!」
 ソルトエンの笑顔に、青年も屈託の無い笑顔で返す。
 もう、青年は大丈夫だ。だが、それでも。1度落ちた暗い影を求めて、棘(ソーン)が青年に憑依する。
 例え、青年がそんなものを求めていなくても。マスカレイドを、拒絶したとしてもだ。
 そして青年の顔に現れるのは、マスカレイドの仮面。
 手近にあった剣を掴んで引き抜く青年に、ソルトエンとセラフは手早く杖を構える。
 ここは家の中。場所としては広くないが、人目にはつかない。
「あとは青年を解放するだけだ……な」
 物陰にさりげなく隠していた長大な太刀を引き抜くと、カリスは青年と向かいあう。
 青年の意識はすでにない……が、説得は間違いなく成功した。
「落ち込んだ人の心に付け込むなんて卑怯者ねっ。ラティちゃんが成敗してくれるぅー!」
 ラティスの言葉は、実に文字通り。
 このままマスカレイドを「成敗」すれば、青年を救えるのだ。
 横斬りから縦斬りに続く十字剣を受けながらも、アルトは下がらず残像剣で青年を攻撃する。
「残念だったなマスカレイド。彼の恋も人生も、まだまだ長く続いていく。ここは君一人のエンディングだよ」
 ライトシュートを放ったジンは余裕気味にそう言い捨てる。
 そう、すでに最悪のエンディングは破壊された。あとは、助けるのみ。
 カリスの攻撃を受けてよろめく青年に、すかさずエルファシェスの誘惑魔曲が奏でられる。
 胸の前で両手を組み祈るような姿で歌われる魔曲は、青年……いや、青年を操るマスカレイドから闘志を奪っていく。
「懐に潜り込んでの一撃が決まりゃ……!」
 ウェインの横斬りから繋がる連続斬りが青年に叩きこまれ、青年は膝をつく。
「幸せな出会いとエンディングを」
 そして放たれる、ソルトエンとセラフのマジックミサイル。
 展開された結界陣は、マジックミサイルを必中の矢と変えて青年に炸裂し……青年の顔を覆っていたマスカレイドの仮面が、弾けるように砕け散る。
 そして……ガラン、と音を立てて床に落ちる剣。続けて崩れ落ちる青年を、カリスが支える。
 ……生きている。それを確認すると、全員が安堵の溜息を洩らす。これで……全てが終わったのだ。

●そして、それから
「……助けて、くれたんですね」
 まだぼうっとした頭で、青年はそれだけを語る。
「世界にはイイ女が一杯いるぜ!」
 な、と同意を求めるセラフに、そうですね、と青年は笑う。
「じゃあ、このままパーティーしよ♪」
 苺ケーキー、と言いながら走っていくラティスの後ろ姿を見ながら、青年はゆっくりと身体を起こす。
「こんなに苦しいのなら、愛などなくなってしまえばいい……そんな風に思った時期が俺にもあった……な」
「ええ、僕もそう思ってました……貴方達が来るまでは……」
 カリスの言葉に、青年は笑って。
「それじゃあ、青年さんの前途を祝して再パーティーね」
「今度は新たなる恋路への再出発パーティーだな」
 そんな事を言うエルファシェスとジンに、青年は朗らかな顔で答える。
「ええ、それと……貴方達の、これからの多幸を祈って」
 すでに机の上では、並べられたものを仲間達がパクついていて。
「うわ何この酒たかそー!」
「あ、勝手に棚開けないでくださいよ……ああ、もう。開けちゃダメですってば」
 セラフの手から酒瓶を取り上げる青年の顔には、もう暗い影など微塵もない。
「願わくば、彼の新しいラブストーリーが、ハッピーエンドでありますように」
「願わくば、貴方方の未来が、素晴らしいものでありますように」
 アルトの言葉に、青年も返礼して。
 互いに笑いあうと、全員がグラスを掲げる。
 今度は、何の打算も裏も無く。
 単純に、互いを祝い合う為のパーティー。
「彼と僕らの新しい出会いと未来に乾杯!」
 ソルトエンの音頭で、グラスが打ち鳴らされる。
 その音は、祝福の鐘にも似て。
 新しい人生を歩もうとする青年の未来を、祝福しているようにも聞こえた。
戻るTommy WalkerASH