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嫁姑のよくある話?

杖の星霊術士・アミナ

<嫁姑のよくある話?>

■担当マスター:炭酸水


 今日も昼食を終え、嫁と姑は台所で揃って洗い物をしていた。
 本当は嫁が一人で皿洗いをしていたのだが、姑が手伝いにやってきたのである。
 二人の作業は順調で、見る見るうちに皿は洗われていく。が、しかし。
「あっ!」
 と、言ったときには既に遅く、嫁の手から落ちた皿は床に当たって割れてしまった。
「こら! 危ないでしょう、さっさと片付けなさい!」
 姑が檄を飛ばし、急いで皿を片付ける嫁。
「全く、あなたはどうして手元に注意が向かないの! もっとシャキっとしなさい!」
 姑の言い分はごもっともである。
 だが、責め立てるような姑のお叱りは嫁を泣かせてしまったようだ。
 そこに、姑の声を聞いて孫がやってきた。
「あ、またおばあちゃんがお母さんを泣かせてる! いじめちゃダメなんだぞー!」
 ぽかぽかと姑を叩く孫。姑は孫に追いやられるようにして別室に行ってしまった。
 部屋の戸を閉め、一人、立ち尽くす姑。
「わたしと遊んでいる時は、あんなに可愛い孫なのに……」
 ぶつぶつと姑が呟く。いつものことだと慣れていたはずなのに、今日は黒い感情がふつふつと心に湧いてくる。
「……そうか、あの嫁が孫を操って私をこの家から追い出そうとしているんだ。そうに違いない……そうに決まっている」
 その理屈はおかしい。おかしいはずなのに、姑の中では『そうに決まっている』と確信を持ってしまっている。
「殺そう。孫を操る嫁も、私を追い出そうとする孫も、みんな殺そう」
 ゆらりと姑は歩き出す。その想いはもう、止マラナイ。

「みんな聞いて。マスカレイド事件が起こりそうなんだよ」
 杖の星霊術士・アミナは集まったエンドブレイカー達に語りかけた。
「あのね、とあるおばあさんがマスカレイドになっちゃいそうなの。おばあさんの他にお嫁さんとお孫さんが見えたから3世帯で暮らしているのかな」
 自分の見た『エンディング』を話すアミナ。
「おばあさんは口調がちょっとキツくって、お嫁さんは気が弱くてすぐ泣いちゃうみたい。それを見てお孫さんはおかあさんをいじめるなーって、おばあさんをポカポカ殴るんだけど……」
 頼もしい子どもだよね、とアミナはクスッと笑う。
「でも、お孫さんに叩かれるおばあさんの表情がすっごく悲しそうなんだよ。多分、おばあさんはみんなと仲良くしたいけど、ついキツく色々言っちゃうんだろうね」
「なるほどな、嫁姑の問題はよく聞く話だ」
 エンドブレイカーの一人が呟く。
「そこで、おばあさんがマスカレイドになる前に説得してほしいの。マスカレイドになる寸前で、おばあさんの考え方が不自然になっているから、そこを意識して説得すればいいと思うんだよ」
 おばあさんはマスカレイドの影響で負の意識に支配されようとしているので、おばあさんの本来の意識を強く保つよう説得すればいいだろう。
「おばあさんはお嫁さんやお孫さんを殺そうと、庭にある道具小屋に向かうみたい。その時はおばあさんが一人になっているから、説得するならそのタイミングだね」
 アミナはこほんっと咳払いをして、さらに続けた。
「あと、説得に成功してもおばあさんはマスカレイドになっちゃうの。もちろん戦うことになるから注意してね」
 マスカレイドは人型で、近くの道具小屋にあるスコップを振り回して襲い掛かってくる。
 油断をしなければ倒せないことはないだろう。
「この状態のマスカレイドを倒せば、おばあさんを無事に助けることが出来るんだよ」
 マスカレイドとなって悲惨な事件を起こす前に説得させることが出来れば、マスカレイドだけを倒しておばあさんを無傷で救出できるという。
 戦闘の騒ぎも、おばあさんが無事ならばごまかすことができるだろう。
「でも……万が一、本当はこんなことは考えたくないんだけど」
 アミナの表情がキッと締まる。先ほどとは打って変わって強めの口調に変わり。
「説得することができなかったら……マスカレイドになったおばあさんを助け出すことは、できなくなっちゃう」
 つまり、説得に失敗したら、マスカレイドを倒そうが、おばあさんは、死ぬ。
 そして、死体は消えることはない。
 そのときは騒ぎにならないうちにその場を離れるよう……アミナはゆっくりと、だがはっきりとそう告げた。
「大変だと思うけど、焦らずに対処すればいいんだよ。おばあさん自身も自分の口調が気になっているみたいだから、戦闘が終わったらアドバイスするのもいいかな〜と思うよ」
 アミナはいつもの調子に戻り、説明を終えた。
 さあ、おばあさんの説得に向かおう。

●マスターより

 初めまして。この度「エンドブレイカー!」のマスターとなりました、炭酸水と申します。
 まずはこのオープニングに目をつけていただきありがとうございます。
 ついに始まった「エンドブレイカー!」ですが、プレイヤーの方々と二人三脚で楽しみたいと思っております。
 どうぞよろしくお願いします。

 依頼としては、心情重視の説得依頼になります。
 オープニングにも書いてありますが、おばあさんが事件を起こす動機が良く判らないことになっていますので、そこを意識して説得するのがベターかと思います。
 マスカレイドは1体のみ出現します。
 武器はスコップで、突き刺すように攻撃してきます。
 特に振り下ろす攻撃は隙が大きいものの、かなりの威力を持っているようです。
 戦力的には優位に立っていますが、くれぐれも油断なさらぬようお願いします。
 では、皆様のプレイングをお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 剣の城塞騎士・エシラ(c00097)
3人の説得役の様子を見つつ、タイミングを見計らって途中で合流するよッ!
おばーちゃんが死んじゃう様な結末だけは絶対避けたいな…

戦闘が始まるまでは変に刺激しちゃわない様に武器は収めておく

そんな事したら、それこそ本当におばーちゃんの居場所なくなっちゃうよ…?
手を汚しちゃ駄目だよ、今ならまだ引き返せる。だから気をしっかり持って、頼むッ!


●戦闘
前衛/敵の左手側担当

周囲の物音などに気を張り巡らせ、なるべく大きな物音を立てない様に戦うよ

「待っててな、すぐ解放してあげるからッ…!

包囲網を抜けられたら、追いかけて前に回り込む
兎に角早い決着を目指す!

●戦闘後
こんなガサツな私が言うのも何だけどさ

例えば同じ事言うにも「大丈夫?」って気を使った一言を入れるとか
こうすれば上手く出来るよーってアドバイスしてあげるのはどうかなぁ?

直ぐに変わるなんてお互い無理な話さ
ちょっとずつでも良いから、仲良くできる様になると良いなッ!

● 大剣の城塞騎士・レナ(c00479)
「おばあちゃん、ちょっといいかしら?」

 エスカリーゼとラーレと一緒におばあちゃんに声をかけます。
「私たちはおばあちゃんを止めにきたの」
 武器を収めた状態で穏やかにおばあちゃんに話しかけます。
 
 おばあちゃんは、お孫さんもお嫁さんも本当に大切に思っているのに、どうして殺そうとしちゃうの?
 そんなことしたら、おばあちゃん絶対後悔するよ。

 ということを語りたいと思います。

 戦闘では私はおばあちゃんの正面。
 真っ向勝負よ! 


 説得に成功して、おばあちゃんが正気に戻ったらお節介ながらちょっとだけお説教。
 もうちょっと口調を穏やかにしなさいっ!
 ま、まぁ、みんなにお説教されたらおばあちゃんも大変だろうから私は控え目に。


 なお、一緒にいるエスカリーゼが切れた場合は苦笑しつつフォローに。彼女の心情は知ってるし、彼女を少し下がらせて私が説得に。

● 太刀の狩猟者・パピリオ(c00551)
【説得】
おばあちゃんと接触班が会話を始めた後
タイミングを見て合流、説得
警戒されないよう、説得中は太刀は鞘にしまったままにしておく

おばあちゃんも…仲良くしたかったんだよね。

心配で、つい強く注意しちゃったり…
それを「きつく怒った・怒られた」って誤解されただけ。

お嫁さんも、お孫さんも…
おばあちゃんのこと、嫌ってなんかない。

その黒い感情に身を任せたら…仲良くできなくなっちゃうよ…。

【戦闘】
私の立ち位置は中衛
前衛正面(レナさん・サフィニアさん)と
後衛(星霊術士4人)の間位の位置

基本、ファルコンスピリットで攻撃

おばあちゃんが後衛方向や他方向に抜けた場合は
即座に接近して食い止める

【戦闘後(説得成功時)】
おばあちゃんにアドバイスしてみる

心配で焦っちゃう時はあるけど
一旦心を落ち着けてから話してみてもいいかもしれない。

お嫁さんやお孫さんとも話してみたい
きっと、良い人達だと思う
…おばあちゃんの事は、好きだよね?

● 杖の星霊術士・ジャバゴ(c00858)
老人は大事にせんといかん
家族を持っているならば尚更、だ

説得時の行動
老女の説得はエスカリーゼ殿、ラーゼ殿にお任せするとして、
その間わしは周囲を警戒しておこう
まかり間違ってお孫さんが入ってきたりしたらややこしいことになるだろうからな
そうなった場合は、迷い込んできた子供のふりをして時間を稼ぐとしよう
「ご、ごめんなさい…飼っている猫がこっちの方に来たみたいで…」
とかなんとか言ったりして


戦闘時の行動
ポジションは後衛
マスカレイドの正面、間に前衛メンバー・中衛メンバーを挟んだ位置に立つ
マジックミサイルを使って攻撃
負傷した味方がいる時は星霊スピカを召喚して回復
回復は早めに
他の星霊術士メンバーと声を掛け合い、アビリティの重複や一人に負担が集中するのを防ぐ
ただし重傷の味方がいる場合はその限りではない
マスカレイドが前衛・中衛を突破してきた時は、まず距離をとることを優先
近寄られては勝ち目は薄いわい

● 大鎌の星霊術士・エスカリーゼ(c00967)
心情:家族の絆ってのは壊しちゃだめなのです。私は家族を失ったりもしてますからその大切さは誰よりもわかってるつもりです。だから絶対に守りたいのですよ

行動:私の役はおばあさんの説得なのです。とりあえずはおばあさんの話を親身になって聞いてあげようとおもうのです。ツッコミどころは満載とおもわれるので話を聞いた後にそこから突き崩していこうかと。おばあちゃんもきっと心のどこかで家族を愛してるとおもうのでそういった想いを引き出すことができればとおもうのです。あんまりぐだぐだいうようなら私が切れるかもしれませんけど『家族がほんとはどんだけあんたを愛しているのかわかってるですか!!』『あんたは家族を愛していねーですか!!』『あんたのほんとの気持ちを言ってみろなのです!!』といった感じですかね?

ことが無事に済んだら『あなたの懺悔、確かに聞き遂げたのですよ』と去り際に一言だけ

戦闘は後方からの回復支援なのですよ

● 扇の星霊術士・ラーレ(c02476)
事前に皆様が隠れる場所の把握、私はお婆様の姿を確認次第、彼女の元へ。
彼女が私たちの話を聴く(逃げない)体勢に入れば、待機してる方々へ合図。

お嫁さんは貴女に悪意が無い事を知っている筈。
お孫さんは母と貴女に仲良くして欲しいと思っているだけの筈。
嫁と孫と、御二人がどういう人間なのか
…私達よりもずっと理解されているでしょう。

そして御二人も、貴女が優しい事を知っている筈ですわ。
家事を手伝ったり、一緒に遊んでくれたりする貴女を。

だから…目を、覚ましてくださいませ。

■戦闘
前中衛の後方、敵の近接攻撃が届かない位置にて。
緩く囲う程度に両隣とは幅取り
敵が逃げるなら身体を入れて邪魔します。

1,2撃で倒れそうな方へ星霊スピカで回復。
無駄遣いは避け、癒し手の残りのガッツが皆様同程度であるよう心がけ
声を掛け合い、順次使用。急を要すれば限りではありません。
回復不使用時、流水演舞にて敵の進行方向の妨害を狙いつつ攻撃します。

● 太刀の魔法剣士・キーウィネルス(c02974)
【目的】
おばあさんを説得し万事円く収める

【心情】
家族の絆は何物にも変え難い宝物なんだよね
失ってから気付くんじゃ悲しすぎるじゃない
そうならない為にも楽してる場合じゃないよね

【陣形】
全体の中衛に位置し弱い部分をカバーしつつ動く

【事前準備】
可能であれば廻りの住人におばあさんの人となりや
この家族の普段の状況等を情報収集する

【説得】
基本的には関わらないが、埒が明かない時は
「ばあさん、あんた本当は何がしたいんだい?」
心の言葉で語ってみなよ、聞いてやるよと言う

【戦闘】
序盤は楽しつつ省エネ戦闘を心掛ける
ココいちでは、メイチの力で戦う

● 扇の星霊術士・レオルディン(c04433)
戦闘前●接触班の様子を見て、いつでも囲めるように家の影、庭など目に付かないところに待機。場所によっては地面に伏せる。
マスカレイド化が確認できたら後衛位置に移動、散開。
「さて、そろそろかな?サフィちゃん怪我しないでね、したら任せてねっ」

戦闘中●星霊スピカで回復行動メイン。前衛を抜けてこられたら攻撃。
「スーちゃんふぁいとっ!」

戦闘後●時間に余裕があればちょこっとお話していこうかな、と。頭はいい方のようですし。

「大事な人の大事な人だって思えば大事に出来ないかな?」
「お嫁さん、じゃなくて自分に娘がいたらって思えばもう一寸近づけないかな。お嫁さんのお母さんになってあげる位の気持ちでさ。一緒にお茶、とかお孫さんも一緒におやつ、とかそういうところから始めてみたら良いんじゃない?(焼き菓子なんかを手渡してみます)」

● 盾の城塞騎士・サフィニア(c04562)
ふむ、先ずは庭の中の物陰に隠れて接触班と姑殿の話に耳を傾けて、姑殿の事情を察する事に勤めてみよう。
ただ、誰よりも家族に諍いがある事が辛く寂しく。一緒に楽しく暮らしたいと思ってるのは姑殿ではないか?
だからこそ『棘』に侵される程に心痛めてしまったのかも知れんしな。
もし、話しかけるチャンスが巡って来るなら…。
本当に見たい物は孫や嫁殿が楽しく笑っている姿だと言う事を。
自分も一緒にそこに居たいと思い出させたい。
まだ、それを姑殿の手で取り戻せる事も。

戦闘での私の役目は文字通り盾役か。
レナ殿と並んでマスカレイドの正面に立ち塞がりディフェンスブレイドを使おう。
レナ殿や背後の後衛が手痛い攻撃を受けた時は、その者を庇って回復の時間を稼いで見せよう。

もし無事に…いや、無事に終わらせて姑殿に伝えねばならん!
最初は、一日一回でも良い、素直にありがとうと嫁殿に言う事を薦めたい。
只、素直に。
それが一番の潤滑材だと。


● ハンマーの群竜士・ライデン(c04776)
事前:
武器は戦闘になるまで収めておく。

物陰など隠れれる場所に待機して様子を見る。

接触班が姑と会話しこちらの話を聞いてもらえるようなら合流する。

説得:
接触班の説得の流れを重視し、うまく行っている様なら口は挟まない。

内容としては姑に昔の自分を思い出してもらい自身の状態がおかしい事を自覚してもらう。
自分が嫁入りしてきた時は姑との関係はどうだったのか。
自分が子供の時に母親と祖母が争っていた時どう思ったか。
その時の自分と今の嫁と孫を重ね合わせば誰も悪気がある分けではなく、またあなたを嫌っているわけではない事を理解してもらう。

戦闘:
前衛で右側面についてマスカレイドを半包囲する。

攻撃には基本パワースマッシュを使うが、バットステータス状態になった場合は解除されるまで竜撃拳に切り替える。

怪我の酷い者が攻撃された場合はかばいに入る。

事後:
もし説得に失敗の時はは撤退時に証拠となる物を残さないよう気をつける。

<リプレイ>

●ターゲットはおばあさん!
 見渡す光景には光が満ちて、昼前時ということを認識させられる。地区中の家は丁度昼食時。料理の匂いが街を覆い、それでご飯が食べられそうだ。
 それに食欲が刺激されたのか、大剣の城塞騎士・レナ(c00479)は大鎌の星霊術士・エスカリーゼ(c00967)の持ってきた弁当をばっくばっくと食べていた。
「流石私の幼馴染ね! 腹が減っては戦はできぬ、これは基本よ基本!」
 茶を飲みながら、レナはにこやかにそう言った。口元に米粒がついているのはお約束だろう多分。その顔をエスカリーゼはにこにこと見ているが、なんだかそれが黒く見えなくもない。
 姑を助けるために集まったエンドブレイカー達は目的の家の近くにある広場に集合していた。扇の星霊術士・ラーレ(c02476)が庭にみんなが隠れられる場所を探索している間、ここで待っているのだ。
 そこに周辺を見回ってきた一際長身の男、太刀の魔法剣士・キーウィネルス(c02974)が帰ってくる。
「おお、お帰りなさい。どうじゃった?」
 口調はまさしく老年のものだが声は幼い。杖の星霊術士・ジャバゴ(c00858)は帰ってきたキーウィネルスに尋ねた。
「んー、今は昼食時だから人通りは少ないね。これなら多少の騒ぎがあっても大丈夫だよ」
 ため息をつきながら、広場を見渡すキーウィネルス。
 そのキーウィネルスより長身の男、扇の星霊術士・レオルディン(c04433)は姉である盾の城塞騎士・サフィニア(c04562)に絡んでいた。
「ねーねー、疲れない? おひざ座る?」
 サフィニアに絡むレオルディン。サフィニアは実に嫌そうな顔をしている。黙れ愚弟! と今にも言い出しそうだ。
 そしてレオルディンよりもさらに長身の男、ハンマーの群竜士・ライデン(c04776)は褌一丁という白昼に出かけるにはあまりにも堂々すぎる格好をしていた。それが目に入ったキーウィネルスは何か着ろよ! と突っ込む。
 大人の男3人が、こんな感じで騒いでいた。身長高くて目立つんだから少しは大人しくしてください!
 騒いでいると、探索を終えたラーレが帰ってきた。
「ただいま戻りましたわ、皆様」
「隠れられそうな場所は見つかった?」
 と、剣の城塞騎士・エシラ(c00097)は尋ねる。
「ええ、道具小屋の近くに結構な倉庫がありましたわ。錠は掛かっていましたから、倉庫の陰に隠れることになりそうですけれど」
「それなら隠れることが出来そうだね」
 報告を聞き、すくっと立ち上がる。レナも丁度弁当を食べ終えたようだ。
「おばーちゃんが死んじゃう様な結末だけは絶対避けたいな……」
 向かう途中、呟くエシラ。庭に到着するとぞろぞろと倉庫の陰へ隠れた。今のうちに、と武器を収める。
 しばらくじっと待っていると、ガシャン、と皿の割れる音が聞こえた。
 迫りくるエンディングに固唾を飲む。顔につうっと汗が伝う。
 ヒステリックな老婆の声が聞こえる。幼い子どもの声が聞こえる。
 それからしばらくすると姑が姿を現した。その目は虚ろに、道具小屋を見据えている。
「行きますわよ」
 ラーレに続き、レナとエスカリーゼも立ち上がる。惨劇を阻止するために。

●狂気の老婆
 ふらり、ふらりと道具小屋へ近づく姑。
「おばあちゃん、ちょっといいかしら?」
 レナに呼びかけられて振り返る姑。
「何者だいあんたたち。悪いけど、あんたたちみたいなのに構っている暇はないんだよ」
 姑は見たこともない3人を見ても動じず、道具小屋に向かおうとする。
「私たちはおばあちゃんを止めにきたの」
「ちょっとあんたに用があるのですよ。話しを聞かしてもらえないですか?」
 レナとエスカリーゼの呼びかけに対し、何を話すことがあるんだい、と姑が聞き返す。
「おばあちゃんは今から何をしようとしているの?」
「嫁が可愛い孫を操って、私をこの家から追い出そうとしているんだよ。だから今から殺しに行くところさ」
 まるでそれが当然だろうという顔で。あっさりと姑は答えた。それがどれだけ異常なことなのか、姑は気づいていない。
「本当にそんなことしていいの? おかしいよそんなこと!」
「はあ、何かおかしいのかい?」
 レナが必死に踏みとどまる。しかし、姑はまたもやあっさりと。
 それを見ていたエスカリーゼが切れた。
「あんたは家族を愛していねーですか!!」
「な……小娘が! 分かったような口を聞くんじゃないよ!」
 どうやらエスカリーゼの激昂が燗に障ったらしい。怒鳴りだす姑。
 家族を失った過去のあるエスカリーゼにとって、姑の言動は許せなかったのだ。
 今にも飛び出しそうなエスカリーゼをレナが押し留める。それでもエスカリーゼは姑と怒鳴りあっていた。
「(今ですわね……皆様、出てきてください)」
 今なら姑が逃げないだろうと見たラーレが、隠れていた者たちに合図を送った。ぞろぞろと出てくるエンドブレイカー達。
「なんだいあんたたちは!」
「えーっと……初めまして。通りすがりのちょうちょです」
 律儀に自己紹介をする太刀の狩猟者・パピリオ(c00551)。ただ、場を和ませようとする気持ちが出すぎたのか、妙な自己紹介になってしまった。
「そんなに大勢で来ていたなんて! いいじゃないか、あんたたちの言い分を聞いてやろうじゃないか!」
 怒鳴り散らす姑。そこに、サフィニアが前に出て語りかける。
「そうやって怒鳴り散らしているが、誰よりも家族に諍いがある事が辛く寂しく、一緒に楽しく暮らしたいと思ってるのは姑殿ではないか?」
「ぬっ、……む」
 先ほどまでヒステリックになっていた姑が急に静かになる。それにパピリオが続く。
「おばあちゃんも仲良くしたかったんだよね。心配で、つい強く注意しちゃったり……それをきつく怒った、怒られたって誤解されただけ」
「そうだね……それは分かっているよ。でも、殺さなくちゃ気がすまないんだ」
「そんな事したら、それこそ本当におばーちゃんの居場所なくなっちゃうよ……? 手を汚しちゃ駄目だよ、今ならまだ引き返せる。だから気をしっかり持って、頼むッ!」
 エシラが必死に呼びかける。
 しかし、と唸る姑を見てこのままでは埒が明かないと思ったキーウィネルスがため息をつきながら姑に問う。
「ばあさん、あんた本当は何がしたいんだい? 心の言葉で語ってみなよ。聞いてやるよ」
「えっ……私は……!?」
 さらに唸る姑に、ライデンが語りかけた。
「ばあさん、思い出して欲しい。自分が嫁入りしてきた時、姑との関係はどうだったか。自分が子供のときに母親と祖母が争っていた時はどう思ったのか。孫の気持ちと過去の自分の気持ちを重ねあわせば、おのずと今の自分が如何におかしいかわかるのではないか?」
「昔……昔の私は……!」
「お嫁さんは貴女に悪意が無い事を知っている筈。お孫さんは母と貴女に仲良くして欲しいと思っているだけの筈」
 ラーレがゆっくりと語りかける。
「嫁と孫と、御二人がどういう人間なのか……私達よりもずっと理解されているでしょう。そして御二人も、貴女が優しい事を知っている筈ですわ。家事を手伝ったり、一緒に遊んでくれたりする貴女を」
「私は……私は……!?」
 頭を抑え、呻く姑。そして。
「だから……目を、覚ましてくださいませ」
 ラーレが最後にそう言うと、姑の目に光が戻った。
「そうだ、私は……殺したくなんて、ない……!」
 頭からゆっくりと手を放す姑。それを見てため息をつくエンドブレイカー達。
 しかし胸をなでおろす暇もなく、『ソレ』は問答無用に姑を襲う。
「殺したくない……殺したい……殺したくないっ……!」
 再び頭を抑える姑。ゆっくりと、しかし確かに、道具小屋へ向かう。
「ばあさん!?」
「殺したく……殺す……殺せない……」
 ぶつぶつと呟いていた姑の体が急にビクンッと痙攣する。
 そして、だらりと猫背になると、がらりと道具小屋の戸を開け、ゆらりとスコップを取り出した。
「みんな、今のうちに陣形を!」
 キーウィネルスが太刀を構えてそう叫ぶ。
 ゆっくりと姑がこちらを振り向く。その顔には滑稽だが不気味な仮面が笑っていた。

●力なきマスカレイド
 スコップを携え、ウォオォォォ……と呻くマスカレイド。
 事前にキーウィネルスが呼びかけたおかげで、陣形はすでに固まっていた
 3人の城砦騎士がマスカレイドの正面に立ち、その後ろにパピリオとキーウィネルス、右側面にライデン。さらに後ろには星霊術士4人が並んでいる。
「怪我しないでね、したら任せてねっ」
「エシラ・クラーレット参るッ!」
 と、剣を構えて叫ぶエシラ。それに反応したマスカレイドが素早くスコップを突き出してきた。突然の攻撃に驚き、エシラはまともに突きを食らってしまう。それを見たすぐさまジャバゴが星霊スピカを召喚し、回復に向かわせる。
「大丈夫? やはりマスカレイドね、老人じゃあんな突き出せないもの、ってどうしたの?」
 レナがエシラを気遣うが、エシラの表情は何故かきょとんとしている。
「いや、マスカレイドにしては、力が弱すぎない……?」
 確かに、エシラはマスカレイドの突きをまともに食らっているにもかかわらず、負傷が少ないように見える。
「おばあちゃんの意思がマスカレイドに抗っているのかもね」
 レナがスピカに癒されているのを見やると、マスカレイドの方へ向く。
 しかしマスカレイドはそこにはいない。ハッと後ろを見ると、城砦騎士の壁を突破したマスカレイドが後衛へ向かおうとしていた!
「とりさん、行って!」
 パピリオがファルコンスピリットを召喚し、上空から突撃させる。頭上からの急襲で思わず動きを止めるマスカレイド。
 さらに右側面からハンマーを叩きつけるライデン。まともに食らったマスカレイドが、ぐらりと体勢を大きく崩す。すぐさま体勢を直すが、そのいる場所は陣形のど真ん中である。
「ウァアァァァァァッ!」
 マスカレイドが声にならない雄叫びを上げる。スコップを突き出すように構えると、凄い勢いでそのまま星霊術士たちに突っ込んできた。
「あいつ、私たちを突破する気ですか!?」
 エスカリーゼがマスカレイドの意図を見抜く。4人の星霊術士の『壁』を突破し、マスカレイドは逃げるつもりだ。
 大鎌を振るい、マスカレイドの突破を寸前で阻止するエスカリーゼ。そこにラーレの放った水流がマスカレイドに衝突する。
 ビシィッ
 それはヒビが入る音。
「悲劇は、ぶち壊すに限りますわね」
 扇を向けながら、その視線もマスカレイドに刺す。
「じゃな。貴様に訪れることのなかった終焉、くれてやるぞい」
 這いつくばりながらも、それでも外へ向かうマスカレイド。それに向かってジャバゴの放ったマジックミサイルが次々と直撃する。
 ピシッ……バキィ……ン……
 そして、仮面は、粉々に砕け散った。

●嫁姑のよくある話。
 姑の目がゆっくりと開く。
「おや、気がついたようじゃな。みんな、姑殿が目を覚ましたぞい!」
 それを聞いて、庭の外から集まってくるエンドブレイカー達。戦闘の騒ぎをごまかしに行っていたようだ。
「はっ、私は何てことを……これから一体どうすれば……!」
 自らがやろうとしていたことを思い出し、泣き崩れる姑。
「……その、相手が泣かないよう言葉を選ぶ、と言ってしまえば簡単ですが、それが難しい事は私が身に沁みて分かっていますわ。」
 えぇ、私は実践出来ていません。と、ラーレが言う。微笑んでいるのにちょっと目が虚ろなのは気のせいだと思いたい。
「ですから、ええと……笑ってみれば、良いのではないでしょうか。……叔父の受け売り、なのですけれどね。」
 そこに嫁と孫が駆けつけてきた。
 戦闘中の音や呻き声を聞いて怖くて家から出られなかったらしいが、パピリオが呼んできたらしい。
 心配する嫁と、笑いながら話す姑。そこには和気あいあいとした空気があった。
「もう大丈夫そうだね。サフィちゃん、ご飯食べて帰ろーよー。カワイイ弟君がおごっちゃいますですよ?」
 と、レオルディンがサフィニアに呼びかける。しかし、サフィニアは物陰に隠れていた。
「しかし、なんだ……家族同士の擦違いは、本当に切なく悲し……グスッ」
 なんだか今回の事件で色々と思うことがあったらしく、サフィニアはぐすぐす泣いていた。はっと振り返ると愚弟が立っていたので脳天にチョップを食らわせておいた。
「な、何見とるん?! 泣いてへん! うち泣いてへんで!?」
 あわあわと取り乱すサフィニアと、その傍らに倒れるレオルディン。
 その光景を見て、くすくすと笑いが満ちた。
「まッ、とにかくおっつかれー!」
 エシラが満点の笑顔で声をかける。
 願わくば、この笑顔が絶えぬように、と。
戻るTommy WalkerASH