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強面の、裏にあるのは……

トンファーの群竜士・リー

<強面の、裏にあるのは……>

■担当マスター:内海涼来


 売り手も買い手も活気づいている市場をひとり歩く、美しい女性がいた。市場の熱気に頬を紅潮させていた彼女は、どうやら気になる品を見つけたらしい。青い瞳を輝かせ、金色の長い髪を揺らしながら、彼女が店先に走り寄ったそのとき――。
「ちょっと待て! お前、盗みを働きやがったな!」
 ふいに、彼女の手首は強い力に捕らえられていた。振り返ると、そこには大柄な男が立っていた。たくましく日焼けした太い腕には、『自警団長』と書かれた腕章。
 彼女の表情に怯えの色が浮かんだが、
「そんな……誤解です! わたしは何も盗んでなんていません!」
 意を決したように、声を張りあげて無実を訴える。
「だったら、コイツは何なんだ?」
 自警団長はフン、と荒い鼻息をたてると、彼女の眼前に刺繍の施されたハンカチや細工物をつきつけた。
「スカートのポケットにまで、こんなに隠しているとはな……まずは詰所で話を聞こうじゃないか、来い!」
 そう一喝すると、自警団長は真っ青な顔をした彼女の手首をきつく握りしめたまま、市場のなかを威圧的に歩いていく。
「あーあ、あのねぇちゃんもヘマやったモンだな。この市場ではグレゴリオ自警団長が目を光らせているとは、つゆ知らずにさ」
「でも団長がいるから、オイラたちも安心して市場で商売ができるわけだし……おっかねぇけど」
 口々に言いたい放題の人々をかき分けるようにして歩く二人。しかし、たどりついたのは詰所ではなく、市場のはずれにある廃墟だった――。
(「どうして……どうしてわたしが、こんな目に……!」)
 薄暗く、すえた臭気に満ちた廃墟のなかで、彼女は泣き続けている。
 衣服はすべてズタズタにはぎ取られ、そのしろい体は今、自警団長から受けた暴力の傷跡と、乾ききらない血痕にいろどられていた。
「けっ、せっかくカワイがってやろうと思ったのによ――お前、泣いてばかりでつまんねぇ」
 自警団長は吐き捨てるように言うと、彼女の首に手をかけ、
「少しは楽しませてくれよ、な?」
 そのまま楽しそうに、指に力を込める。むごたらしい紫の痣を首に色濃くとどめた彼女が、最期に目にしていたものは――自警団長のゆがんだ笑みであった。自警団長はしばらく、彼女の死顔を愉快そうに見おろしていたが、その強面はゆっくりと、まがまがしい仮面に覆われていった……。

「……まったく、世も末だな。治安を守るべき自警団長がマスカレイドとなり、女性に言いがかりをつけて身柄を拘束するばかりか、詰所ではなく廃墟に連れ込んで、さんざん乱暴した挙げ句に殺してしまうとは」
 トンファーの群竜士・リーが、やりきれない、と言いたげな表情で首を振った。
「この女性の遺体が発見されたときに、こいつは『ちょっとばかり隙を見せたら逃げられてしまった。追いかけたが、見失ってしまってな……まぁ、だが、これも天罰だろう』などと、のうのうと言い訳までしている。自分が誰からも恐れられている、強面の自警団長という立場を悪用し、これまでにも数回、美しい女性をその毒牙にかけているなど――絶対に許せない!」
 組まれた二の腕の先まで毛先が伸びたリーゼントが揺れるのにも構わず、リーは激昂する。
「そこで、俺たちエンドブレイカーの出番だ」
 リーは我が身を親指で示しかけ、すこし気恥ずかしそうに下げた。
「狙いはただひとり、マスカレイドとなってしまった自警団長だ。まずは、わざと自警団長に捕まって、奴が俺たちの誰かをうまく廃墟に連れ込むように仕向け、奴の本性を引きずり出すんだ。だが……」
 そこで、リーは口ごもった。
「もともと腕っ節の強い自警団長だが、マスカレイドになってしまったあとでは、その力も倍増されている。攻撃的な性格も強まっているから、かなりやっかいな敵だ。それに、廃墟のある場所も市場にわりと近いし、誰かに見とがめられる可能性がないとも言い切れない……」
 リーはそこまで話し――我ながら気弱なことを、と言いたげな表情を見せる。しかし次の瞬間それを振り払うように、あかるい声を張りあげていた。
「だけど、ここで俺と皆さんが頑張らないと、マスカレイドの犠牲者はいつまでも減らないまま。だからここは、これ以上マスカレイドにふざけた真似をさせないように、気を引き締めて頑張っていこう!」

●マスターより

 はじめまして、内海涼来(うちのみりょうこ)と申します。今回は、オープニングを読んでくださって、誠にありがとうございます。まだまだマスターとして未熟な点もあるかと思いますが、皆さんと一緒に「エンドブレイカー!」の世界を楽しんでいきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

 自警団長は基本的に殴る、蹴るなどの素手格闘がメインですが、廃墟にあるかなり太めの棒などを得物にすることもあります。ちなみにこの廃墟はそれほど広くありません。また、強くはないですが、配下マスカレイドを2、3体呼ぶこともあります。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 太刀の魔法剣士・フィレシア(c01350)
●目的
秘密裏に団長の討伐

●作戦の流れ
1.《囮》が団長を廃墟へ誘導

2.《尾行》が団長と《囮》の後を追い、不測の事態に備える

3.《待ち伏せ》が廃墟へきた団長と《囮》と協力して戦闘開始
《尾行》も背後から退路を断ちつつ合流

●個人行動
《尾行》班

・犯行前
団長に付かず離れず目の届く範囲で普通に買い物を楽しむ市民を演じる
万が一自分が団長に犯人に仕立て上げられた場合、《囮》の役となり無力な少女を演じる

・移動中
団長との距離を保ち市民の演技を続ける
市場を抜けた場合は物陰に隠れて移動

・廃墟へ到着
直ぐには突入せず、周りの警戒し呼ぶ配下にも気付かれない様心がける
《待ち伏せ》が姿を見せ団長が配下を呼び戦闘態勢に入った所で静かに廃墟へ入り、背面から配下を奇襲
可能ならば即座に1体戦闘不能にする

「おいたが過ぎた様で御座いますわね。何、正義を語る積もりは毛頭御座いません…貴方の『エンディング』、気に入らない故食い破らせて頂きます!」

● 太刀のスカイランナー・ウル(c01622)
行動
▼囮作戦時
囮以外の女性が標的にならないよう配慮しつつ、尾行。(尾行部隊)
開始と共に全速力で駆けつけ、一撃を加える。
「…勝つのが俺の『悪』か、お前の『悪』か。…勝負だ」

▼戦闘時
柱を蹴りつけ、多次元攻撃を行う。一撃離脱が基本。
攻撃箇所は肘、膝などの関節部分。(主に行動の阻害が目的。攻撃をそらす。)
仲間の援護を第一とする。(特に、初めは囮役が戦線に復帰できるよう援護)
配下マスカレイド出現時は、配下を集中攻撃し、せん滅。
「…」

▼一般人に気付かれた場合
 気絶させて運ぶ。(コラ

● 大剣の群竜士・リリエッタ(c01975)
【作戦】
囮、尾行、待ち伏せの三班に別れ、マスカレイドをおびき寄せて倒す。
【行動】
敵と囮の尾行役。不審がられないよう固まらずにばらけて見張っているのが上等だろう。廃墟のほうへ行こうとする人がいれば危ないから行かないほうがいいと忠告して遠ざけよう。
一応私もつかまる可能性はあるわけだしそのときは屹然とどこへなりとも連れて行けというが。
尾行し、待ち伏せと囮班が的との戦闘に入った後は配下の出現を警戒しつつ相手の後ろを取るようにして奇襲を狙う。


戦う時にはひたすら竜撃拳打ちこもう。
配下がいないなら団長をねらうだけだが、いるのならば被害を拡大させないためにも先にそちらを倒すことを優先する。
私たちは回復手もいないし、戦闘の場所自体も長時間の戦闘は厳しいだろう、常に全力で攻め、打ち倒すことを考えよう。
首尾よく倒せたのなら速やかに撤収を、長居はよくないからな。

● ハルバードの城塞騎士・アクス(c02064)
俺は廃墟の中で物陰に隠れ、囮役が敵を連れて来るのを待つ。
戦闘は出来るならこちらの不意打ちで始めたい。それで不利になる、と言う事は無いだろうからな。
ただし、最初の一撃は仲間とタイミングを合わす! 流石に俺一人で突撃はしねぇ。
囮役の奴がこっちの攻撃の間に、戦闘準備を整えてくれる事を祈ろう。

攻撃は城塞騎士のアビリティをメインで使う。
ここぞと言う時、ミスできない時には疾風突きを使おう。
少しでも当たる確立を上げる為だ。

戦闘時に気を使う事は、周りの状況をよく把握し、特に足場には気を使う事。
廃墟なら煉瓦か何かがゴロゴロしてても不思議じゃねぇからな。
もし、敵がそれらを投げつけてきそうな時は、後衛の奴らに注意を促す。

配下が召喚された時には、そいつらを潰す事を優先する。
その時、団長の注意がこっちに向いてないか注意する。
あの攻撃をまともに受けるのだけは勘弁したい。
奴の攻撃は無闇に回避せず、きっちりと防御しよう。

● 槍の城塞騎士・ティール(c02667)
待機班として行動します。

廃墟に着いたら、あらかじめ周辺の地形を見ておき、遮蔽物や段差等の有無について把握し、仲間の間でその情報を共有しておきます。

それが済んだら手近な遮蔽物の陰に隠れて、囮役の仲間と自警団長が来るのを待ちましょう。
彼等が廃墟に入り、囮役の仲間を手に掛けようとした瞬間に飛び出して背後から疾風突きで強襲します。

戦闘開始後は尾行班の仲間と共に自警団長を挟み込むように布陣して攻撃します。
こちらは回復手段に乏しいですから、一人で複数の敵を相手にするような事は避けます。
また、仲間が複数の敵に攻撃されるような事があれば援護に向かいます。

上記のように回復手段がありませんし、ディフェンスブレイドをメインに使用して、守りを固めつつ攻撃するようにします。

戦闘終了後は速やかに撤収ですね。
誰かに見られていても、申し開きできる状況にはありません。顔を隠してダッシュで逃げます。

…やれやれ、辛い仕事ですね

● 杖のデモニスタ・セレン(c02756)
◎心情
自警団長あろうものがモラルを失い、
女性に乱暴するとは度が過ぎるようね。
二度とこのような事件が起きないよう徹底的にお仕置きするわよ。

◎行動
待機班でサポート。
待機中は一般市民が廃墟へ侵入できないよう言葉巧みに追い払う。

囮役が廃墟へ誘導し、尾行班が追跡。
待機班は廃墟内で待機。
囮と待機班が合流して戦闘開始し、尾行班が挟撃。

戦闘中もできるだけ市民が来ないかどうか周りに気を配る。

◎戦闘
後衛にて前衛班のサポート。
回復役がいないので高火力による短期決戦を試みる。
早期決着により自警団長との戦闘が他の一般市民に見られる確率を減らす。

基本は後衛にて、できるだけ自警団長と距離を置き、前衛の邪魔をしない程度にマジックミサイルで攻撃。
万が一自警団長が武器を持とうとした場合、デモンフレイムを腕に狙いを定めて攻撃する。

◎戦闘終了後
早めに撤収するように周りに声をかける。
見つかったら後々厄介なことになるわ。

● ハンマーのデモニスタ・タイニー(c02946)
囮役として行動。他の囮役と共に市場を回ります。その際、積極的にかわいい小物などを手に取っては物欲しそうにしながら戻すことを繰り返し、団長が難癖をつけやすいようにしてわざと捕まります。捕まってから廃墟につくまでは、団長に不審に思われないように気をつけて、うつむいてとぼとぼと素直についていきます。そのため、武器のハンマーは布やぬいぐるみで作ったカバーなどで擬装をしておきます。
廃墟について、待伏せ組と合流したら戦闘に入りますが、そのときにタイニーは団長にマスカレイドにいつからか、どうしてなったのか聞きながら戦闘します。狙うのは正面から多少攻撃をくらっても何度も何度も顔の仮面を狙います。仮面を壊すことができたら、もしかしたら団長さんは元に戻せるのではないかと小さな希望を抱いてひたすら攻撃し続けます。
タイニーは普通の人だけじゃなく、マスカレイドになってしまった人も助けたいと思っているからです。

● 竪琴の魔曲使い・ルミナ(c03085)
団長さんがこんなだと、市場の人は本当には安心できないし、いつかばれたときに、大変なことになるもんね。
ばれないうちに、こっそり解決しなくちゃ。

わたしは、《囮》役の人に何かあったときに対応する《尾行》役になるね。
基本的には、《囮》の人は必ず目に入って、他の《尾行》の人がなるべく目に入る場所で、いろんな店にきょろきょろを目移りするような感じで行動するよ。
時々お店に近づいてたら、予備の《囮》になれるかもしれないもんね。

《囮》の人がつかまったら、見つからないようにこっそりついていくよ。(わたしがつかまったらされるがままだけど)
廃墟について、《囮》の人が襲われそうになってから、後はひたすら【誘惑魔曲】を使うね。

でも、時々外の様子をこっそり見て、もし誰か来そうになったら、慌てて何かから逃げ出した振りをして、その人をなるべく近づかせないようにするね。
(他にそのための行動をする人がいたらこれはキャンセル)

● エアシューズのスカイランナー・マオ(c03751)
◆心情
罪を捏造した挙句そんなひどい仕打ち…
マスカレイドにつかれてるとはいえ絶対に許せないのです!

◆方針
囮班・尾行班・待機班に別れる
廃墟に囮班が連衡されたら待機班と合流、戦闘
さらに尾行班が背後から挟撃

◆囮
私はタイニーさん・ルミナさんと囮班として行動
ただし、3人一緒だと向こうも仕掛けてこないかもしれないので
あくまで仲間が目視で確認できる範囲でバラバラに行動
私は女性用の衣服・厚手の上着という感じの服装で行動
若干の挙動不審を装い、味方を確認しつつ行動
自分が連行された場合、うろたえながらも付いていく
仲間が連行された場合、不自然にならないよう気をつけながら廃墟まで尾行

◆戦闘
敵との距離が近ければスカイキャリバーを使用
遠ければソニックウェーブを使用
回復がないため短期決戦を狙う
敵の仲間が現れたら周りの雑魚から攻撃していく
ただし団長には逃げられないよう常に気をつける

◆戦闘後
犠牲になった人達はせめて安らかに…

● 太刀の魔法剣士・ルナ(c04428)
本当の被害者は…団長に食い物にされたお姉ちゃん達ですよね?
ボク達は…彼女達の名誉を挽回することは出来ないんでしょうか?
あんな駄目な男殺したところで…失われた姉ちゃん達の命が返って来るわけでもないのに…



味方にも内緒で、誰よりも早く来て、事件の痕跡や、証拠、団長にまつわる物がないかを探索する。
発見したら自分にだけ分かるように位置を記憶する

味方が来たら探索を中断、何食わぬ顔で待ち伏せ組みと合流する
合流後は団長に悟られないように気配を消して待ち伏せする
取合えず団長は他の人任せ、自分は団長が配下のマスカレイドを呼び出さないかと注意しながら動向を見守る

配下のマスカレイドが出現した際は、ダッシュ+『近 居合い斬り 』で攻撃近づいた後は『近 残像剣』で全体を攻撃する

戦闘終了後は撤収をする前に団長の持ち物をチェックし、団長が過去の犯罪の証拠となるものを持ってないか探す

市場で得られた証拠を元に少女達の無念を説く

<リプレイ>


 市場にさしかかるにつれ、行き交う人々の数が増えていく。期待に頬を紅潮させている彼らの表情を見た、槍の城塞騎士・ティール(c02667)が呟いた。
「市民を守るべき自警団長でありながら……反吐が出るとはこのことですか」
「女性の罪を捏造して、あんなひどい仕打ちをするなんて――絶対に許せません!」
 エアシューズのスカイランナー・マオ(c03751)が少女めいた顔をしかめ、杖のデモニスタ・セレン(c02756)も、つめたい口調で言う。
「下劣にも度が過ぎる行為――徹底的にお仕置きしてやるわ」
 その言葉を聞いた太刀の魔法剣士・ルナ(c04428)は、何やら遠くを見るような目つきをしていた。
 そんなエンドブレイカーたちの眼前を、市場へと向かう青年と老人が通りすぎていく。彼らはグレゴリオの強面は恐ろしい、と言いつつも、ゴロツキに悪さをされやしまいか、と怯える心配は減った、と話を結んだ。
「あの人たち、自警団長さんをおっかないって言うけど……それでも、頼りにしてる感じだね」
 竪琴の魔曲使い・ルミナ(c03085)がすこし、泣きそうな顔をした。
「あれでは万が一ことが露見した際、私たちの言い分を信じていただくのは難しいですわね……」
 太刀の魔法剣士・フィレシア(c01350)が溜息をつく。その後ろで、「お縄になるのはごめんだ」と言わんばかりに、太刀のスカイランナー・ウル(c01622)が無愛想な不機嫌顔をした。
 しかしフィレシアは気を取り直し、一同に向かって話しかける。
「皆様、ここは三組に別れて行動いたしませんか? 囮となって自警団長を誘い出す組、囮と自警団長を尾行し、不測の事態に備える組、そしてあの廃墟で自警団長を待ち伏せして、いざというときに先手で攻撃を仕掛ける組――異存は御座いませんか?」
 その提案に一同はうなずくと、それぞれ分担を決める。
「じゃあ俺たちは、先にあっちで待っているぜ」
 ハルバードの城塞騎士・アクス(c02064)は、ティール、セレン、ルナとともに、廃墟めざして歩いていった。
「ウルはともかく、この顔ぶれでは、誰が目をつけられてもおかしくない――気を引き締めていこう」
 そう言い、頬を叩いて気合いをいれた大剣の群竜士・リリエッタ(c01975)の隣では、ハンマーのデモニスタ・タイニー(c02946)が、ハンマーの先にかぶせたぬいぐるみをちらりと見てから、その柄を握りなおしている。
「では、私たちも参りましょう」
 フィレシアの静かな闘志を秘めた言葉を合図に、六人は市場へと足を踏み入れていた。


「あー、これ可愛いなぁ!」
 市場の中央にある小店で、ルミナは布製のポーチを手にし、はしゃいだ声をあげた。その隣でタイニーも、ビーズ細工をじっと見つめている。それでも二人は時折、仲間たちの様子をうかがうことは忘れなかった。
(「でも、ドレスを見ているマオって、まるっきり……」)
 ルミナがタイニーに耳打ちした、そのときだった。
「おい、そこの嬢ちゃんたち」
 頭上から聞こえた野太い声に、ルミナとタイニーの体がびくんと震える。おそるおそる振り返ると、そこには標的の自警団長・グレゴリオが立っていた。
「大人とはぐれないように、気をつけろ」
 だがグレゴリオは強面のままそう言うと、市場のなかをずんずんと歩いていってしまった。
「うわぁっ、怖かった!」
 大声をあげるルミナとは対照的に、タイニーは、グレゴリオの広い背中を見つめ、何かを考えこんでいた。
 ――が、それもつかの間のこと。
「誤解です! 私は何も盗んでなんていません!」
 ざわつく市場の向こうから聞こえてきた悲鳴。押し寄せる野次馬たちにまぎれ、エンドブレイカーたちも場を移す。
「誤解だと? よくもそんな、しらじらしい言いわけを――」
 威圧する声とともに、グレゴリオが睨みつけた相手、それは――つい先程まで、ドレスをうっとりとした表情で見つめていたマオだった。
「私は……私はただ、このドレスを見ていただけです……っ!」
「なら、どうしてお前のポケットはやたらと膨れているんだ?」
 グレゴリオはマオの手首を掴むと、空いた手でマオの服にあるポケットを探った――ふりをして、袖に隠していたらしい小物やアクセサリーを、頭上に高く掲げる。
「この小物、どうやって手に入れたか、じっくり聞かせてもらうぞ――来い!」
 うなだれたマオを一喝し、グレゴリオは乱暴にマオの手を引いて市場を歩きだす。小声で話をしていた野次馬たちも、グレゴリオのきつい視線に恐れをなしたように、それぞれ店や買い物へと戻っていく。
(「……大丈夫かな……」)
 リリエッタは二人の後を追おうとするが、市場を行き交う人々に阻まれ、なかなか追いつけない。不安に抗い、顔を上げたリリエッタの視線の先に、グレゴリオたちとの間合いをつめているウルの細い背が見えた。
「グレゴリオたちは詰所には向かわず、廃墟のほうに行きました――タイニー様、ルミナ様とも合流しつつ、私たちも慎重に追いかけましょう」
 そして、物陰からリリエッタを手招くフィレシアの言葉を聞いた瞬間、リリエッタのなかできざした不安は跡形もなく消え失せていた。


 人の気配も絶えて久しく、荒みきった廃墟。今にも崩壊しそうな壁の陰に、足場を確認しに行ったティール、アクス、ルナが隠れる。そこに一足先に隠れていたセレンが、コンパクトを覗き込んで溜息をついた。
「埃だらけで、お肌が荒れちゃうわ……あら、自警団長さんがお出ましよ」
 セレンは三人を呼び寄せ、コンパクトを見せた。鏡にはグレゴリオの姿と、しおらしく手を引かれているマオの姿が映っている。
 ――ほどなくしてグレゴリオたちは、廃墟のいちばん奥にある薄暗い部屋へと入っていった。
「カワイイ面ァしてるくせに盗みをはたらき、しかもシラを切るとはふてぇアマだな。ちったぁ何か言ったらどうだ、え?」
 マオの震える肩と黒髪を見ていたグレゴリオが、ねっとりとした笑みを浮かべた。
「つまんねぇな――泣いて、喋る気にさせてやろうかッ!」
 そう叫ぶなり、グレゴリオはマオの胸ぐらを掴んで引き寄せると、そのまま一気に衣服の前を猛々しい手つきで引き裂いた――次の瞬間。
 グレゴリオの顔は期待をおおきく外された失望と、それに倍する怒りに歪んでいた。
「ふふふ……残念でした、私は女の子じゃないのです!」
「たばかりやがったな!」
 そのままマオに殴りかかろうとしたグレゴリオの背後を、ティールとアクスが疾風突きで襲いかかる。その一撃にグレゴリオはふらつきながらも、体を闖入者たちへと向けた。
「なんだ? てめぇらは」
「わたくしたちは、エンドブレイカー……あなたの下劣な悪行を知るもの」
「そして、貴女が手にかけた女性たちの苦しみ――その身をもって償ってもらいます!」
 セレンとティールの低い声とともに、彼らはめいめいに武器を握りなおすと、グレゴリオに詰め寄った。
「――てめぇらが何をどう知っているか、聞く気もさらさらねぇが……簡単に殺られてたまるかよ」
 グレゴリオの声に呼応したかのように、仮面が、その威圧的な強面を覆っていく。そのさまは、この場の雰囲気にそぐわぬほど静かで――それゆえに不気味だった。
「ちっ、マスカレイドになりやがったか!」
 アクスがハルバードを勢いよく振り下ろしたが、グレゴリオはそれを両腕で受けとめた。その足許を、セレンが放ったマジックミサイルに襲われる。舌打ちしたグレゴリオが指を鳴らすと、どこからともなく棒を手にした、一様に同じ仮面をつけた四人の男たちが現れた。
「配下マスカレイドを呼び出しましたか……面倒ですね」
 エンドブレイカーたちへ、のっそり近づく配下マスカレイドを見たグレゴリオがきびすを返す。
「卑怯者! 絶対に逃がしません!」
 しかしその行く手は、両腕を真一文字に伸ばしたマオに阻まれた。そして、マオを追い越して、グレゴリオへと向かう人影がある。タイニーがその身の丈よりもさらに大きなハンマーを振り回した。
「まだ仲間がいやがったのか!」
 タイニーのハンマーが、グレゴリオの仮面をかすめた。その目と鼻の先で、黒い影がすっと走る。いまにも崩れそうな壁をかるく蹴り、ウルは配下マスカレイドの肘や膝を狙って、宙を回転しながら突撃した。それにひるんだ配下マスカレイドめがけ、駆けてきたリリエッタがまっすぐに拳を突き出す。その脇では、ルナが太刀の一突きを配下マスカレイドにふるっていたが、そこに別の配下マスカレイドが襲いかかる。
「!」
 そこにフィレシアが、背後から居合い斬りをお見舞いした。最後の一体は、ルミナの歌声に足を止めたところを、マオのダブルシュートで倒される。
「ふん……こちらも本気になるしかねぇってことか」
 足許に転がる配下マスカレイドを一瞥し、グレゴリオは低い声で呟くと、詰め寄ってくるエンドブレイカーたちを睨みすえた。
 

 ――グレゴリオが突き出す拳を、ティールが防御を固めて受けとめる。そこにリリエッタがグレゴリオの脇腹を狙って打ちかかるが、決定打とはならなかった。
(「もうそろそろ、決着をつけたいのですが……」)
 フィレシアの顔に、焦りの色がにじんだ。後方で物音がするたびに様子をうかがうセレンとルミナの動きにも、せわしなさが漂う。
 そのなかでタイニーはハンマーを両手に、グレゴリオへと何度も果敢に攻撃を仕掛ける。それを見ていたアクスが、タイニーに尋ねた。
「どうして、ヤツの仮面ばかり狙っているんだ?」
 何度目かの攻撃をはずされ、肩で息をするタイニーが答える。
「団長さんの仮面が壊れたら……もしかしたら、もとに戻るかな、って……」
 だが、そう言ったタイニー目がけて、グレゴリオが重そうな拳を振り下ろしてきた。それを間一髪、アクスが受けとめて防御する。
「――ひとつ聞く。テメェはその力を得る前から、女たちにそうやって乱暴な真似をしてきたのか?」
 アクスのその問いに、グレゴリオは哄笑してから答えた。
「俺はこの腕ひとつで、ここまでのし上がってきた。腕っぷしには自信もあるし、市場でゴロツキどもが売る喧嘩にはいつだって、かならず勝ってきた。 
 なのに――どいつもこいつも、俺に見せるのはビクついた顔ばかり! とくに、若い女の怯え顔は――つまんねぇのを通り越して、イラついちまってどうにもしようがねぇんだよ!」
 グレゴリオのゆがんだ笑い声を断つように、アクスがその頬を殴った。
「……ブッ倒す」
 そしてフィレシアがすっ、と太刀を構えなおし、グレゴリオを見つめる。
「おいたが過ぎたようで御座いますわね。そんな貴方も、貴方のもたらす『エンディング』も許し難いゆえ、食い破らせていただきます!」
 フィレシアはそう言うなり、太刀を水平にしてグレゴリオを斬りつけた。その切っ先をかわしたグレゴリオ目がけ、セレンの放った紫の炎が襲いかかる。
「ぐっ……!」
 まといつく炎に、グレゴリオの足が止まる。その隙を逃さずにリリエッタがグレゴリオの体に渾身の一撃を放って離脱すると、たたみかけるようにタイニーがハンマーを振り下ろした。
「これで終わりにしてやるぜ!」
 体を大きくふらつかせたグレゴリオの体を、アクスはすばやく、ハルバードで突き刺す。
 一瞬の、静寂のあと――グレゴリオはくずれるように倒れ込み、そのまま動かなくなった。その強面を覆っていた仮面が外れて、砕ける。
「……なんでこの俺が負けるんだ、って顔、してやがるな」
 アクスはグレゴリオを見下ろして呟く。それを見ていたルナはふくれ面をしていた。
「でも、あんなヤツ倒したところで、お姉ちゃんたちは……」
 だが、そんなルナをセレンが引きずるように廃墟から連れだした。
「何するんだ!」
「あんなヤツでも、市場では頼りになる自警団長だったのよ――彼らの怖れる顔が裏返しの信頼とも気づかず、マスカレイドにつけこまれた愚か者でもね。それを倒したと知られたら、分が悪いのはよそ者のアタシたちなのよ」
 セレンがそう言うと、先に街路で立っていたマオもしずかに口を開いた。
「今はただ彼女たちの冥福を祈るしかできないくやしさは、私も一緒です――でも今回の事件で、つよく感じました。こころの弱味につけこみ、ひとを食いものにするマスカレイドこそ、許し難い存在なのだと」
 その言葉に、ティールもまたつらそうな表情でうなづく。
「ですから、これからもマスカレイドを倒し続けていくうちに、いつか今日の無念を晴らせる日がくる――そう信じて、今はこの場から去りましょう」
 フィレシアの言葉をついで、最後に廃墟から出てきたアクスが言った。
「俺たちの旅はまだ、はじまったばかりだからな」
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