ステータス画面

失った幸せの時

アイスレイピアの魔法剣士・ダリア

<失った幸せの時>

■担当マスター:如月せりあ

 青年は必死に逃げていた。
 だけれど安息場所であるはずの、自宅へは向かわない。
 全く反対の方向へ走っていた。傷だらけの体で。
「誰か、誰かーっ!」
 路地を通り抜けて、助けを呼ぶ声を上げながら、大通りへ出ようとしたその瞬間。
「おっと、そっちに行かれたら厄介だ」
 炎をまとった剣が、青年に振り下ろされる。
「あぐ……だれ、か……」
 青年の背が切り裂かれるも、炎により焼かれた傷口からは血は流れない。
「なかなかの切れ味だろ? 切ると同時に止血してやってんだぜ。感謝しろよなー! ぎゃははは」
 派手な布鎧を纏った男が残虐な笑い声を上げた。
 そして、大通りに手を伸ばして逃げようとする青年の背に、何度も何度も剣を振り下ろしていく。
 すぐには息絶えないよう、急所を狙うことなく、青年の叫び声と苦痛にゆがむ顔を楽しみながら、何度も。
「ご、めん……帰、れな……」
 最後に小さな声を発して、青年は動かなくなった。

 女性がエンドブレイカー達の前に姿を現した。
「では、事件について説明しよう」
 集まったエンドブレイカー達に、その女性、アイスレイピアの魔法剣士・ダリアが説明を始める。
「めった切りにされて殺された死体が発見されたのだが、その死体には不審な所があった」
 声のトーンを落とし、ダリアは語る。
「全ての傷が何かで焼かれたようになっており、出血はほとんど無かったのだそうだ」
 ただし顔の損傷は激しくはなく、所持品も残されていたため被害者の身元は判明していた。
「被害者は新婚の若い男性であり、遺体は妻が引き取っているが……これはマスカレイド事件だと思われる」
 軽く目を伏せた後、ダリアは説明を続けていく。
「被害者の遺体は新居に安置されているようだ。遺体からマスカレイドの情報を得て、犯行に及んだマスカレイド見つけ出し、倒して欲しい」
 状況からして、このマスカレイドは人間型のマスカレイドと思われる。
「マスカレイドは普段、人間の振りをして生活をしているから、狙いにくいだろうが尾行してチャンスを窺ってくれ」
 被害者の妻は、事実を受け入れることができず自宅でただ呆然としているらしい。
「新たな事件を起こそうと行動を起こした時がチャンスだ。事件を起こす時には、マスカレイド自身も人目を忍んで行動するからな、この時ならば人の目に触れずに戦うことができるだろう」
 チャンスを逃さないためには、ひとときも目を離さず監視を続ける必要があるだろう。
「残念なことだが、このマスカレイドとなった人物を救うことは不可能だ」
 次なる悲劇を生まないために、確実に仕留めなければならないのだ。
「戦闘後はマスカレイドとなっていた人物の遺体が残ってしまうから、急いでその場を離れるようにな。皆が殺人事件の犯人だと人々に誤解されたりしないよう気をつけてくれ」
 厳しくも優しい眼で、ダリルは皆を見回した。
「マスカレイドとの戦闘が初めてな者もいるかもしれないが、どうか皆で協力して倒して欲しい。全員の力が必要だ。頼んだぞ!」

●マスターより

初めまして、如月せりあと申します。
ゲーム序盤は皆様にお気軽に楽しんでいただけるシナリオ作りに努めたいと思います。

敵のマスカレイドは、人間の男性の姿をした、炎をまとった長剣の使い手です。
炎は常時まとっているのではなく、マスカレイドの意思で発生させることができます。
炎だけを飛ばすことはできません。
軽業師のような俊敏な動きで飛び掛り、立て続けに攻撃を加えた後、一旦後に下がって被害者が苦しむ姿を楽しむ傾向があります。

事件解決のために、皆様のお力を貸して下さい。
プレイング楽しみにお待ちしております。どうぞよろしくお願いいたします。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 暗殺シューズのスカイランナー・カイン(c00693)
【情報収集】
僕は待機なので、その間に事件現場の路地の道筋などを調べておきます

【囮】
軽めの鎧を着て事件付近の路地で、
「良い鎧手に入ったからつけてるんだ!
硬くて丈夫だから、これを貫ける剣なんてないよ!」と子供っぽく近くの人に言いふらします
鎧を怪しまれたら「僕の父さん良いもの扱ってる武器商人なんだ!」と言います
もしその時犯人を見かけたら横目に見て「きっとあの剣でも無理だね!」と言って挑発します
その後わざと人気のない路地を歩きます
上手く後をつけてきたら気づかない、攻撃されたら怯えたふりして路地の奥の仲間のいる所へ連れていきます

【戦闘】
路地を上手く利用して逃げられないように囲んで戦います
僕は前衛でスカイキャリバー中心で戦います
もし攻撃を受けたら必要以上に苦しむふりをします
これで相手が油断してくれればいいのですが…
身軽なようなので頭の上を跳んで逃げようとすることがないか特に気をつけておきます

● アイスレイピアの魔法剣士・ユリアス(c01604)
◆情報収集
担当の者に任せる。
何もせず待機というのもなんだ、事件現場の調査や、誘い込む路地を探す等しておこうと思う。

◆接触
囮を使って裏路地へ誘い込む。
私は犯人に気付かれぬように注意しつつ、カインについていようと思う。
不足の事態が起こらないとも限らんしな。
必要とあらば、カインの自慢話に合いの手を。
挑発が成功したようであれば、すぐさま仲間のいる路地へ先回りし、待機を。

◆戦闘
囲むように布陣し、逃亡阻止を。
私は前衛にて、氷結剣を主に使って攻撃する。
攻撃を受ける際は出来るだけ剣を盾にする等防御を試みるぞ。
また、相手は苦しむ様を見るのを楽しむらしいからな、
防御の成否に問わず、苦しいふりをしよう。
逆に、味方に攻撃した後相手に隙が生じれば見逃さずに攻撃を。
あまりにダメージを負いすぎた場合は味方の援護を得るために一旦下がろう。

● 太刀の狩猟者・ミユキ(c01656)
心情
「マスカレイドのせいやとしても、これだけしてしまったら放置して置けんなぁ…

○探索
現場付近で捜索
ファングさんに同行
遺体から情報がある場合は参考にして探索
無い場合は長剣・衣鎧・性格などの特徴で探索を試みる

○作戦
・まずは遺体から情報を得る為に分かれて行動を開始
・葬儀屋という形で訪問、EBの能力で情報を得る
・捜索範囲は現場付近
・遺体から何らかの情報があれば、それらを元にマスカレイドを捜索
・曖昧な情報の時は、遺体に情報が無いか見て、その後手元にあるだけの情報を元に捜索
・マスカレイドを発見したら、囮を使い挑発などを試みて裏路地に誘い込む
・性格が性格なので逃亡させないように、退路を断ちつつ戦いに持ち込む

○戦法
ポジ・前衛
火炎の剣撃は受け流す様にする
居合いを中心に立ち回る
速さは有る方なので、避けれる時は避ける
突っ込んできたら、それに合わせる形で居合いを撃つ
敵の後退時にはファルコンで遠〜中距離も狙って見る

● 扇の星霊術士・セナ(c02046)
葬儀屋という名目でフロマージュさんとキリエさんに同行するよ。葬儀屋は女性だけじゃ不自然だからね。
男性が居た方がしっくりくると思う。言い難いけど、
遺体を扱う葬儀屋さんだから、男手がいるよね?

情報収集は後のふたりに任せて、僕は奥さんの傍に付き添っているね。僕も両親をマスカレイドに殺されているから、奥さんのつらい気持ちは良くわかるんだ。
だから、あえて話かけずに、ただ傍に付き添っているよ。

情報収集が終わったら・・・「奥さん、旦那さんの無念、僕たちが晴らして見せます」とだけ言って、そっとその場を辞します。・・・・事件が終わったら、またこの家を訪れたいと思う。本当の理由を言って、騙した事を謝ると共に、奥さんと一緒に葬りに参加したいな。

マスカレイドとの戦いでは、炎を使う敵を見て「あの日も炎に包まれていた・・・・」目をつぶって炎への恐怖を振り払い、扇での攻撃、スピカでの回復をします。

● シールドスピアの星霊術士・キリエ(c02373)
・情報収集
情報収集班、葬儀屋、偽装。
メンバー…私、フォルト、リディア、セナ。
「教会から、来た。旦那様、そのまま…衛生的、宜しくない。せめて、綺麗に。」
奥様、少し、お話。カウンセリング、必要性、あり…多分。
その後、仕事。死体洗浄、同時にエンディング観察。死体から情報収集…体も、調査。
マスカレイド確認完了時、囮班、伝達。始末開始…。
マスカレイド未確認時、接点、情報、仔細に。その後、伝達。

・戦闘開始
「…不幸、蜜の味…貴方、蜂蜜級…?」
星霊不使用。前衛展開。アビリティ、疾風突き使用。
機敏、敵を翻弄。きっと敵、隙、多発。隙、一撃、打ち込む。…必中、祈願。
慌てず、騒がず、冷静。うろたえ、苦痛、敵、狂喜。させない。
敵、怒り状態、持ち込む。とにかく、隙、作成。
…炎攻撃、注意。あまり、ダメージ、受けない様、行動。

・戦闘後
「…そして、天に還る…」
数秒の黙祷、その後離脱、帰還。
…エンディング、終わらせる。

● 竪琴のデモニスタ・フォルト(c02540)
心情:ささやかな、けれどとても幸せな生活・・・それをこのように奪い取る輩など到底許容できるものではありません。全力で叩き潰して差し上げましょう。

情報収集:遺族の奥様へ葬儀屋として接触し遺体等から出来得る限りの情報を入手、その後聞き込み組へ情報を伝達。
怪しまれないように口調、動作にも気を付けたいと思います。

戦闘:立ち位置は後衛へ、敵マスカレイドを牽制しつつ隙があればデモンフレイムで攻撃。

戦闘後は即時撤退を心がける。

● 鞭の星霊術士・サクヤ(c02573)
【口調】
一人称:俺
二人称:名前を呼び捨て

二人称が設定と異なるので此方を優先。


【心境】
大切な人を失くすのは辛いよね?
せめて、被害者が心安らかに眠れるようにしてあげなくちゃね。

【事前行動】
街に到着後は事件の起きた現場周辺の聞き込みと調査をする。
現場を調べ、何か落ちてないかや不審な点はないかどうかを探します。
見つけたら持ち帰り、仲間に報告。
聞き込み時は旅人を装い、聞き込みを行います。

【戦闘時】
敵がカインの挑発に乗り、誘導されたら攻撃を開始。
逃げ道を塞ぐように素早く逃走路になりそうな個所に回り込んで逃がさないよう攻撃。
敵の不審な動きを封じる為に鞭で打撃を仕掛けるだけでなく、剣を遣わさないよう敵の腕ごと鞭で巻きつけます。
敵の討伐完了までは容赦なく攻撃します。

【戦闘後】
被害者の家の傍で鎮魂歌を歌い、被害者の冥福を祈ります。
「ありがとう、私は幸せです。貴方の紡いだ物語を聞けたから…♪」

● 杖の星霊術士・フロマージュ(c03138)
被害者さんの遺体から何か情報が得られれば…
「自分は犯罪がなくなるよう願う者で、被害者に花を供えさせて頂く様、お願いする」
という形で、ご遺体を拝見させて頂き、『エンディング』を見る能力を試したいと思います。
失礼の無い様心がけ、花も本当に供えて…。
それに、狭い範囲で悪さを働くマスカレイドの可能性等も考え、奥様の瞳も見ておこうと思います。

情報が掴めたら、敵の容姿、特徴等だけでなく、もし次の悪いエンディング等が見えてしまったら、襲われる人、場所等も覚え、仲間に知らせたいと思います。
情報が掴めなければ、その旨を仲間に伝え、周囲の聞き込みの手伝いをしたいと思います。

戦闘時は、マジックミサイルを主に攻撃を行います。
余り攻めに意識を取られすぎ無い様立ち回ろうと思います。
ただ、敵が弱り逃げる危険を感じたら、若干危険はあっても、逃亡させないよう積極的に攻撃を行います。
回復も、仲間が危険な時は使用です。

● 杖の星霊術士・リディア(c03397)
●心情
とても悲しい、事件ですね……。
こんな事は許せないので、力になりたいです…。

●行動
・情報収集
葬儀屋として被害者の元へ伺います。
自分たちが何者かは誠意を尽くして明確に説明します。
遺体を拭くなどして、不自然のない様遺体に触れます。
遺体に触れ犯人の情報を掴む為エンディングを見ます。
もし事件に関する事が見えマスカレイドの情報を得られれば、
その情報を参考に事件が起こった現場付近を捜索です。
的確な情報を得られなかった場合は遺体から情報を読み取り、
現場付近で聞き込みや犯人自身を捜索します。 


・戦闘
囮にかかったマスカレイドを人気のない裏路地に誘導します。
退路を断ちながら、陣を構えて戦います。

私は中衛から後衛にかけて臨機応変に動ける位置に。
基本はマジックミサイルで敵を攻撃します。
連撃が行える様、皆さんとタイミングを合わせます。
仲間がダメージを受けた場合は星霊スピカで回復を行います。

● 杖のデモニスタ・ファング(c03602)
まずは仲間が遺体から情報を得てくるのを待ちます。

仲間が情報を得てきたらマスカレイドの探索に赴きます。
主に酒場を回り情報を集めます。
予想としては敵は被害者の知人の線が濃いと睨んでいます。

マスカレイドを無事発見したならば仲間と合流、マスカレイドが次の事件を起こそうとするのを待ちます。
得てきた情報によっては仲間が囮になりマスカレイドを誘う予定です。

戦闘に関しては一貫して後方からの援護射撃に徹します。

戦闘が終わり、マスカレイドを倒したら即座に現場から遠ざかります。

<リプレイ>

●悲しみの新居
 半開きの大きな窓の向こうに、女性の姿がある。
 部屋の壁に寄りかかって、ただ一点を見つめて呆然としている。
「こんにちは」
 杖の星霊術士・リディア(c03397)が控えめに声をかけると、女性はエンドブレイカー達の方に目を向ける。
「葬儀屋の者です。この度は本当にご愁傷様でございます」
 リディアがそう言った途端、女性は目を見開いて首を左右に振る。
「誰も死んでない、やめて、連れて、行かないで……」
 女性は声を震わせ、目に涙を浮かべていく。
 夫を亡くしたことを信じたくはないらしい。
「旦那様、そのまま……衛生的、宜しくない。連れて、行かない。せめて、綺麗に」
 シールドスピアの星霊術士・キリエ(c02373)が優しく声をかける。
「私はこのような犯罪が無くなるよう願う者です。花を飾らせてはいただけないでしょうか?」
 花束をもって訪れた杖の星霊術士・フロマージュ(c03138)が、そう問いかけた。
 フロマージュは真っ直ぐに女性の瞳を見つめる。
 幸い、悪いエンディングは見られなかった。夫婦に恨みを抱いていた近親者の犯罪などではなさそうだ。
 しばらくして、女性は震えながら頷く。
「旦那様、どこに?」
 キリエが尋ねると、女性は部屋の隅を指差した。
 エンドブレーカー達は窓から部屋に入り、部屋の隅にあるベッドの方へ近づく。
 ただ1人、扇の星霊術士・セナ(c02046)だけはベッドの方へは行かず、壁に寄りかかる女性の元に近づいた。
 セナ自身も両親をマスカレイドに殺害されている為、女性の辛い気持ちがよく分かった。だから何も言わずに、ただ傍で付き添っていてあげたいと思った。

 真っ白なベッドの上に、被害者の男性は横たえられていた。
「酷い火傷の痕がありますね……」
 小さな声でそう言って、竪琴のデモニスタ・フォルト(c02540)は遺体に接近して体を確認した。
 傷や火傷の痕が酷いが、顔はあまり傷ついておらず、瞳を見ることは出来そうだった。
「体、拭きましょう」
「水、用意した」
 リディアが布を、キリエが水を入れた桶を持って現れた。
 2人で遺体をなでるように大切に拭いていく。
 焼かれている傷口や、無数の傷を確認した後、フォルトが青年の瞼を開かせる。
 エンドブレイカー達は、彼の瞳を覗き込んで彼の最後を知っていく。
 彼を殺した人物は、人間の男性の姿をしたマスカレイドだった。
 その、炎を纏った剣の使い手に、青年はなぶり殺しにされたのだった。

 エンドブレイカー達が作業を終えて、女性に付き添っているセナに頷いてみせる。
「心からお悔やみ申し上げます」
 そして、リディアは女性に深く頭を下げた後、荷物を手に外へと向う。
「奥さん、旦那さんの無念、僕たちが晴らして見せます」
 セナは決意を込めた目で女性にそう言って、仲間と共に外へと出る。
「葬儀屋、さん……?」
 女性は呆然とした顔のまま、部屋の隅に目を向ける。
 大切な人の体の汚れが拭き取られ、綺麗な服を着せられ、周りには沢山の花が飾ってあった。
 堰を切ったように涙を流して、女性は座り込む――。

●派手な男
「遺留品なんかは残ってないな。痕跡はあるが……」
 歩きなら鞭の星霊術士・サクヤ(c02573)が仲間達にそう言った。
 事件現場となった路地を調べて回っているのだが、犯人を特定できる物などは残されていなかった。
 そこまで狭くはない路地だが、犯人が武器を振り回した時に出来たと思われる傷や焦げた跡が至るところに残っている。
「派手な戦い方が好きなマスカレイドのようですね」
 暗殺シューズのスカイランナー・カイン(c00693)は辺りを確認しながら呟く。
「動きを封じるためにも、上手く路地に誘い込まねばな」
 アイスレイピアの魔法剣士・ユリアス(c01604)は、道幅や人通りに気を配っていた。
 大通りからは少し離れており、近くに店などは無いため、夜は殆ど人が通らない場所のようだ。
「マスカレイドの正体、判明しました」
 リディア達、被害者の家に向っていた者達が路地へと駆け込んで来る。
「犯人、金持ち、男」
 キリエが得た情報を語りだす。
 エンドブレイカー達は集まって、情報交換をすることにした。

 その男は、この辺りでは結構有名な資産家の息子だった。
 高級な服がよく似合う軟派な美男だ。
「今日はどこに行くの? 私は絵を見たりするよりは〜、身体を動かす方が好きだなぁ」
「私は美味しいもの食べたいわ〜」
「それじゃ、スポーツして遊んだ後、食べ放題のお店にでも行かない?」
 ねだるような顔で、女性が男を見上げた。
 その男の周りには、いつも多くの女性達の姿がある。
「了解〜。今晩は美味いスイーツが食べられる酒場に連れてってやるぜッ! 食べ放題の店じゃないが、好きなだけおごってやる」
「きゃー、嬉しい」
「やった〜!」
 女性達が男にぎゅっと抱きついていく。
「……あの男に間違いないか?」
 物陰にて、サクヤがそう尋ねる。
「ええ、間違いありません」
 被害者から情報を得ていたフォルトは、女性達と抱き合う男の横顔を見ながら頷く。 
 ……エンドブレーカー達は遠くからその男の様子を眺め、様子を窺っている。
「それにしても、今回は残念やったなぁ〜。先の事やったら防げたかも知れんのになぁ?」
 太刀の狩猟者・ミユキ(c01656)は、女性達といちゃつきながら街中を歩く男の姿に深いため息をついた。
「なんにせよ、面倒なことじゃ。とりあえず、先回りして酒場にでも行くかのう。この近くのスイーツが美味い店といったら、多分あそこじゃからの」
 杖のデモニスタ・ファング(c03602)は、のっそりと歩き出した。

●導いて
 夕方過ぎに酒場に現れて、男と女性達は酒場の一角を陣取って、まるでパーティのように騒ぎ出した。
 男はいつでも女性の肩や腰に手を回しており、1人になることはなかった。
 エンドブレイカー達は同じ酒場で飲食を楽しむ振りをしながら、チャンスを窺っていた。
「でさ、それがまた凄い性能の鎧らしいんよ!」
「菓子屋の近くにいた少年の話じゃの? 得意げに話しておったのう」
 ミユキとファングは大きな声で噂話をする。
 軽く視線を感じたが反応は示さずに、その鎧の性能の凄さについて語り合っていく。

 数時間後。
 男は動き出す――。
 女性達と共に酒場を出て、自宅へと向う途中。
 ふと、路地の方に目を向ける。
 だけれど、そのまま通過をして男は自宅へと戻り、家の中でも女性達と騒ぎ続ける。
 今晩は動かないのかとエンドブレイカー達が思ったその時。
 女性達を寝床に残して、一つの影が窓から外へ飛び出した。

「良い鎧手に入ったからつけてるんだ! 硬くて丈夫だから、これを貫ける剣なんてないよ!」
 大通りでカインがユリアスに胸を張って鎧を自慢する。
「こんなに薄いのに? 本当か?」
「本当だよ! だって、僕の父さん良いもの扱ってる武器商人なんだもん!」
 子供っぽい口調で、嬉しそうに得意げにカインは言う。
「そう、きっとあの剣でも無理だね!」
 カインが指差したのは、派手な布鎧を纏った男が背負っている剣だった。
 男がカインに目を向ける。
「あ、もうこんな時間! 父さん達待ってるから帰るね! 近道して帰ろっと!」
 カインは路地の方へ早足で向う。
「気をつけて帰れよー!」
 カインに手を振って、ユリアスは別の方向へと歩き出す。
 大通りにはまだ多くの人の姿がある。
 だけれど、カインが向った路地はひっそりと静まり返っている。
 その路地に、男は足を踏み入れた。
 ……整った顔に残忍な笑みを浮かべながら。

●狂気
 路地へと入った途端、男は歩く少年に向かい走り出す。
 男が剣を抜いたその瞬間、脇道からフォルトが飛び出す。
「初めまして、私の名はフォルト・ディラン。宜しくお見知りおきを」
 男は立ち止まり、フォルトに目を向けた。……男の肩には、仮面が浮かび上がっている。
「行くよ!」
 反対側の脇道からミユキが飛び出し、居合い斬りを放つ。
 フォルトもデモンフレイムを放つと、後方へと跳んだ。
 攻撃を受けた男――派手な装いのマスカレイドがよろめいた。
 仲間達が脇道、大通り側から姿を現していき、男を取り囲む。
「軟弱そうな男だな」
 別の道から回り込んだユリアスが、挑発気味な台詞と共に氷結剣を繰り出した。
「逃げ場はありませんよ」
 前を歩いていたカインも振り向くと、ソニックウェーブを放った。
 ユリアスの氷刃斬りが男の肩を、カインのライトシュートが男の脇腹を切り裂いた。
「こりゃ、殺し甲斐がありそうだぜッ!」
 男が笑い声を上げ、炎を発生させた剣を横に一閃する。
 ユリアスは剣で男の攻撃をかわそうとし、カインは後方に跳んで避けようとするも、共に炎によるダメージを食らってしまう。
「ううっ、おのれ……ッ。しかし、お前ごときに私は倒せんよ」
「うわっ、熱い、痛い、痛いよ……ッ」
 ユリアスとカインは服についた炎を叩いて消しながら、苦痛に顔を歪めた。
「ぎゃははははっ、いい顔だ、いい顔してくれんじゃねぇかー! 倒してやるよ、ゆっくりとな!」
 男は楽しげに、ユリアスとカインの方へ斬り込んでいく。
「ぐああっ」
「熱い、苦しいよ……ッ」
 ユリアスとカインは攻撃を受けて、苦しみもだえる。
 斬られた傷が炎に焼かれ、血は殆ど流れ出なかった。
 こうして被害者の青年を――彼以外にも沢山の人をいたぶり殺してきたのだろう。
「なんて面倒な男なんじゃ……」
 ファングがマジックミサイルを発動する。放たれた3連ミサイルが男の身体をかすめ、傷つけていく。
「邪魔するなぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
 男が素早く動き、剣を縦に横にと振っていく。炎が周囲の可燃物や服に燃え移り、周囲が赤く染まる。
「っ……」
 セナは小さく声を上げた。
「あの日も炎に包まれていた……」
 炎を見ると思い出してしまう。家族を失った日のことを。
 脳裏に浮かんだ光景を消し去る為に首を振り、セナは集中をすると、舞うように流水演舞を男に放った。
「ぐぅ……ッ」
 男の剣の炎が消える。
「これ以上、好きにはさせない!」
 サクヤが鞭を放ち、男の腕と剣に巻きつけてて動きを封じる。
「大丈夫ですか?」
「無茶はしないで下さい」
 フロマージュとリディアが、傷ついたユリアスとカインをそれぞれ星霊スピカで癒していく。
 2人が男の気を引くためにわざと苦しんで見せていたことは分かってはいたが、やはり仲間の苦しむ様子はいたたまれない。
「おおっと、回復してくれるとはありがたい。長く楽しませてもらうぜー!」
 男は塀へと飛び上がり、剣を構えて塀を蹴りカインの方へと跳ぶ。
 剣に、再び炎を発生させる。
「そちらばかりに集中していていいんですか?」
 背後に回りこんだフォルトがデモンフレイムを放つ。
 男の腕が黒い炎に包まれる。
「ぐうっ。邪魔な奴らめ!」
 腕を振って炎を払った直後、男は大地を蹴ってターゲットをフォルトへと変える。
「隙だらけや!」
 ミユキが居合い斬りを放ち、男の胸を大きく斬り裂く。
「……不幸、蜜の味……貴方、蜂蜜級……?」
 冷静に男の動きを見定めていたキリエが、疾風突きを放った。
 キリエのシールドスピアは男の腹を貫いた。
「うぐああああっ」
 男が剣をむしゃらに振り回す。
 ミユキとキリエの身体に、傷が刻まれていく。
「離れるのじゃ、2人共!」
 後方からファングがマジックミサイルを放つ。
 魔法の矢が男の背に突き刺さっていく。
 ミユキとキリエは武器を引いて、後ろへと跳んだ。
「もう誰も傷つけさせません!」
「これで終わりです……!」
 フロマージュが前方左から、リディアは前方右からマジックミサイルを放った。
 魔法の矢が次々に男へと突き刺さり、急所を射抜く。
 最後は声を上げることもなく男は倒れた。
 仮面が消え、美形だった男の、もう動くことのない身体だけが残った。
「……そして、天に還る……」
 キリエが、目を閉じて黙祷をする。
 リディアもまた、目を閉じて祈りを捧げる。
 ユリアスは息をついた後、傷を受けた仲間たちを見回し、笑みを浮かべた。
「この勝利、貴殿らのおかげだ。共に戦えた事嬉しく思う」
 エンドブレイカー達はそれぞれ安堵の笑みを浮かべた。
「さて、人こんうちに引き上げよっか?」
 ミユキの言葉に、皆が頷く。
「……」
 フォルトは無言で十字を切る。
「失う悲しさは、あんたも知ってた筈やのになぁ」
 最後にミユキがそう言葉を残して、エンドブレイカー達は素早くその場を後にした。

 寄り道をして被害宅の側で、妻には見つからないようにそっと、サクヤは鎮魂歌を歌った。
「ありがとう、私は幸せです。貴方の紡いだ物語を聞けたから……♪」
 サクヤは心の中で、青年に事件解決の報告をしていくのだった。

 そして、夜が明ける――。
戻るTommy WalkerASH