ステータス画面

闇に囁きし死の仮面

ハンマーの城塞騎士・グントラム

<闇に囁きし死の仮面>

■担当マスター:氷魚中将


 人通りのにぎやかな街から、通り数本隔てた街の外れにその廃屋はあった。
 建てられた当時は、多くの住民が住んでいたという集合住宅はいつしか喧騒から取り残され、無人のまま荒れ果てていた。
「おい、気をつけろ! 壁が崩れるぞ!」
 今にも崩れ落ちそうな建物の周りで、解体工の人夫たちが働いていた。
「そこ、気をつけろ!」
 人夫頭が怒鳴るのと、人夫の一人が床を踏み抜くのとほぼ同時だった。
「大丈夫かおい?」
 慌てて駆け寄る人夫たち。幸い床下に落ちた人夫に怪我はなかった。人夫が落ちたのは、地下に続く一本の廊下。それは、奥へと続いていた。人夫たちが、とりあえず通路に落ちた人夫を助けようと地下へ降りたその時だった。
「うわぁ!」
 人夫の足を何かがつかんだ。闇の向こうから、腐臭と共に数本の手が伸びてきたかと思うと、転落した人夫を引きずり込んだ。人夫たちの前に、人間の形をとどめていない、腐った人間のようなものがいくつも現れると、腰を抜かした人夫たちを次々と通路の奥へと引きずり込んだ。
 闇の向こうで悲鳴が交錯し、人夫頭が最期に見たのは、口まで裂けた笑みを浮かべた、ドレス姿の女の……死体だった。

「街の通りの外れにその建物はある」
 ハンマーの城塞騎士・グントラムは、一同を見回した。
「元々は集合住宅として使われていた立派な建物で、人が住まなくなってからかなりの年月が経っておる。その建物が、今度解体工事に入ることになったのだが、建物を解体する人夫頭と人夫が襲われることが分かった。なぜなら」
 グントラムは言葉を切った。
「その建物の地下室は、共同墓地と廊下でつながっているのだ。人夫たちを襲うであろう連中は、共同墓地の中を徘徊しているアンデッドマスカレイドだ。連中は、共同墓地からその廊下に入り、屋敷へとやってきたようだ」
 グントラムは、エンドブレイカーたちの目が光るのを見ると、頷いた。
「その数は五体。その内の四体は単なるアンデッドマスカレイドにすぎんが、残り一体だけ少し違う」
「違うとは?」
 エンドブレイカーの一人の問いに、グントラムは答えた。
「一体だけ、立派な服装をした女がいる。白いドレス姿のそいつだけは、腕から雷のようなものを放つことが出来る。それを浴びると、ダメージを食らうだけでなく、麻痺して動けなくなってしまうだろう。くれぐれもそいつだけは注意しろ。おそらく見れば分かるはずだ」
 頷くエンドブレイカーたち。
「問題が一つある。アンデッドマスカレイドたちは、廊下の中をうろついていて、全てバラバラに動いている。廊下は環状式となっており、その環状の中央部に大きな広間がある。大広間から東西南北に通路が伸び、東西の廊下は環状の廊下と合流し、南北は環状を貫くように伸びておる。北へ進むと共同墓地、南へ進むと建物に出られる。ここまではよいな?」
 グントラムは一同が理解したのを確認すると続けた。
「廊下は人が一人分通れるくらいしかの幅しかなく、戦闘時に苦戦を強いられるやもしれん。明りも必要となるだろう。だが案ずるな。大広間に敵を引き込めれば互角の戦いが出来るはずだ」
 ここまで言うと、グントラムは頬を撫でた。
「おぬしらなら、決して相手にひけはとらぬだろう。だが、この戦いでは互いの協力が必要だ。そのことだけは忘れぬように。最後に、マスカレイドどもを倒した後は、共同墓地まで行き、他にアンデッドマスカレイドがいないことを確認してきてほしい。わしからは以上だ。気を抜くなよ?」
 エンドブレイカーたちの返事に、グントラムは満足そうに笑みを浮かべた。
「頼んだぞ」

●マスターより

 はじめまして(敬礼)。
 氷魚中将(ひさな・なかまさ)と申します。コンゴトモヨロシク。
 今回の依頼は、廃屋の解体工事の人夫たちが襲われる前に、アンデッドマスカレイドを倒すのがその内容です。相手はアンデッドマスカレイドが五体、うち一体は女形のアンデッドマスカレイドで、腕からダメージを与える麻痺性の雷撃のようなものを放つ程度の能力を持っており、残りのアンデッドマスカレイドは噛み付く、力任せに殴る程度の能力を持っています。
 地下廊下の説明ですが、漢字の「申」の字を想像してもらえればよろしいかと思います。周囲をぐるりと環状の廊下が走り、南北に伸びる廊下と、漢字の中央部の交点に大広間があるという感じで大丈夫です。廊下は狭く、戦闘には向きません。どうやってアンデッドマスカレイドをおびき寄せるかが鍵ですが、敵はエンドブレイカーを見たら即座に追いかけてくると思われます。依頼の成功条件は、「全てのアンデッドマスカレイドの殲滅」となります。お互いの協力が成功の鍵となるでしょう。
 では、皆様のご健闘をお祈り申しあげます。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 大剣の魔獣戦士・ジネット(c00432)
・戦闘前
屋敷の中を大広間に移動する際は2番目
周囲からの襲撃を警戒しながら移動

大広間に敵がいた場合は後ろの人間が下がりやすいよう時間を稼ぎつつ、入り口近くの交差部まで戻る。
その後、左側の通路に位置を取って交差部でマスカレイドを迎え撃つ

大広間に敵がいなければ、そのまま大広間に陣取りマスカレイドの誘き出しを行う
南通路、2番目に担当とのこと
マスカレイドの誘き出しに成功した場合は当てられず逃げられずを心がけつつ大広間に誘い込む

・戦闘
通路で戦闘になる場合はビーストクラッシュメインで戦う
大剣振り回して壁に突き刺さりましたは流石にやりたくない
「こういうときには便利な物ね(笑
大広間で戦う時には遠慮せずワイルドスイングを使用した攻撃
ダメージが嵩むようであればビーストクラッシュに切り替えてドレイン狙いで戦う

策が崩れた際は南通路に皆を戻しつつマスカレイドを引きつける
「お生憎様、ここで差し出すほど私の命は安くないの

● 太刀の魔法剣士・アーヴァイン(c01227)
【口調】
全員名前呼び捨て

【位置】
前衛

【準備】
光源の確保。
明かりが頼りなさそうなので、ランプと懐中電灯を持っていく。
ランプだけで足りそうであれば、ランプだけ。
念のため、懐中電灯は腰の付近につける。

【行動】
位置は前衛というか近衛だからな。
スピードもそこそこだがあるし、話し合った作戦を守りつつも油断せずに行くつもりだ。
両サイドや背後等、死角になりそうな場所から攻撃する。
「ま、悪く思うなよ。…飛ばしていきますか!」

倒す順番(できれば)はアンデットマスカレイド→女のマスカレイドの順番。
戦いを楽しむわけじゃねぇが、思いっきり暴れるとするぜ。
やっぱ、俺って戦いに身をおいたほうが性に合ってるみてぇだな。

アンデットマスカレイドは色々と目の毒って言うか腐っているというか。
別に怖いわけじゃないが、早く倒したいな。
「何か、ずっと見てるとちょっと怖くなるな…」
「さっさと終わらせて帰りたいんだ。ごめんな」

● 槍のスカイランナー・ポーシャ(c01607)
さてそれじゃマスカレイド退治ですね。

明かりは松明かランプあたりを持っていくことにしましょう。

中央までは最後から二番目の位置で背後からの敵に注意と。
大広間に敵がいたら前衛に出て攻撃です。

大広間の安全を確保したら明かりを壁にでも差しておきます。

そのあとは直線通路を東に向かって環状通路とぶつかるところで待機。
もし直線通路に敵がいたら誘き寄せながら引き返します。
敵が見当たらないなら敵が来るまでひたすら待ってることに。
来たら引き付けながら大広間へ誘導ですね。

戦闘になったら一体をみんなで囲むような感じで、私は前衛です。
スカイキャリバーと疾風突きを適当に使い分けるような感じでしょうか。

5体全部倒すまではこんな感じの繰り返しで。

終わったら共同墓地に行って確認で終了ですね。

死体どうするんですかこれ。
とりあえず祈ってでもおきましょうか。

● 扇の魔曲使い・リナリィ(c01817)
まずは、退路の確保かなあ。
廊下狭いみたいだから、囲まれちゃったら身動きとれないし。
危ないときは、アビリティの流水演舞でざざーっと相手を押し流せちゃったりしないかな?
廊下で敵を見つけた場合は、遠距離攻撃で相手を牽制
しつつ、合流優先!
いやぁ〜一人で相手するのは賢くなさそーだもんねー笑
皆にふるぼっこにしてもらおー。

戦闘中は、周囲の皆の様子をよくみて、魔曲で援護するよ!
特におばさn...じゃなかった。女性のマスカレイドの攻撃は危ないみたいだから気をつけないとだねー

● 太刀の魔法剣士・アマミ(c02063)
・口調補正
他人への敬称:〜殿

【ブラック団】
敵は生ける屍か。
相手にとって不足はなし。

放置すれば多数の犠牲者が出る事は簡単に予測できよう。それを回避する事が出来るのはエンドブレイカーのみ…つまり、私の使命也。

「うむ、この地に来ての初仕事としてはちょうど良い。」

【シャドウゲイト】
まずは一丸で中央広場を目指そう。私は殿を勤める。
そこから各個別れ、私はリナリィ殿と共に北側通路へ。
そして通路の交差点の、中央広場方面通路寄りの辺りで敵を待ち伏せ致そう。

敵に遭遇した場合、中央広場へおびき寄せるように身を退くとしよう。
その時の敵の攻撃を受けるのは仕方ないが、女性型の場合は慎重に、極力攻撃を受けぬよう。

そして中央広場で敵に攻撃!
敵が1体のみならば居合い斬り、
2対以上であれば残像剣を使って攻撃である。
「還るがいい、己の在るべき場所へ!」

【ラグレイダーク】
無事任務完了後
「今後末永く世話になる地…失ってなるものか。」

● 大剣の魔獣戦士・ヴァーニシュト(c02243)
基本方針・共通事項遵守
連携連絡重視
GUTS消耗注意
必要以上に突出せず無理しない
単独行為は厳禁で
挟撃されない様に注意しつつ
一対多の優位差を保って殲滅する
俺様自身は前衛攻撃役として突貫しつつも
敵群の攻撃が後衛陣に届かない様に
壁役も時に担って遮る事も果たすぜ
隊列順は前から三番目
敵がいた場合に引き返して入る通路は右
待ち伏せする場所・順番は西・2だな
カンテラを手持ちに準備しておくぜ

隊列時は周囲警戒方向を分担として
左手方向に注意を払い
照らした光を遮る影・仲間以外の足音・生臭い死臭等に出くわしたら
敵群強襲の兆候と看做して
迎撃の心構えしておくぜ

列から離れて探索する際には
カンテラで周囲を照らしつつ
翳した死角付近では立ち止まって
奇襲の気配を確認
襲撃してきたら即座に中央まで引き
仲間の援護を得る

戦闘
大剣を翳して敵の攻撃を受け流し
ワイルドスイングでダメージ加算して
ビーストクラッシュでトドメ
声掛け合い随時標的定め集中攻撃

● 盾の狩猟者・ペンペロン(c03137)
心境
閉塞空間か、厄介だがやらなければな
しかし皆若いな
彼らを侮る気は無いが年長者として確りせねば

行動
最初に北へまっすぐ中央の部屋へ行く時は隊列の4番目を担当
道中敵がいた場合は引き返し前方の通路へ入り、可能ならば同じ通路に入り敵と相対すオリエをファルコンスピリットで援護する
無事中央の部屋へ入れたらまずは待機
待伏せ組が敵を連れて帰ってきた時に対応できる様にある程度の緊張感は維持するも、他の面子が気疲れしないように冗談とか言いつつ気を使う
30分たっても敵が来なければ東の交差点へ行きポーシャと交代
発見時は遠距離攻撃をして気を引き通路を戻る
戦闘時は遠距離攻撃での援護をメインに必要とあらば率先して近距離を
常に増援を考え1対1にならない様に気を配る
戦闘後の墓地探索では敵がいる事を考え慎重に
可能なら火葬した方が良いのだろうが、無理ならば冥福を祈る事しかできないだろう
陰惨な話だ、皆を馴染みの酒場にでも誘おうか

● 大鎌の星霊術士・ミィーチェ(c03771)
まずは大広間に行かなければならん。
廊下は狭く、人一人通れる程度の幅しかない。
自然と一列にならざるを得ないわけだ。
隊列的には先頭から数えて6番目の位置だ。

地下室は暗く明かりが必要なようなのでランタンを用意する。

大広間と環状廊下の交点より北に敵がいた場合、打ち合わせどおりに東の環状廊下に入り、必要があれば回復を行う。

大広間に着いたら部屋の中央付近でオリエとともに待機。
仲間が敵を誘き寄せてきたなら戦闘開始だ。

戦闘時には敵との距離を常に保ち味方の後方にいることを心がける。
近接攻撃であろうと間に遮蔽物がなければ容易く接近されてしまうからな。皆には申し訳ないが…

自分からは攻撃せず回復に専念する。
皆の負傷の度合いを見ながら、より危ない者から順に癒していく。

敵を殲滅できたなら共同墓地へ赴き、他にアンデッドがいないことを確認する為に一通り見て回る。
万が一ということもありえるので仲間と離れないように行動する。

● アイスレイピアの魔法剣士・ワモン(c03944)
【準備】
暗さ対策にランプと懐中電灯を持っていく
手がふさがらぬよう腰につけれるものを持っていく

【行動】
環状廊下を使わずに廊下の交点へ出て待機し、徘徊しているゾンビを待ち発見したら注意を引きつけて通路を戻る。

最初に中央へ行く隊列は前から8番目で
敵がいなければそのまま部屋に入り、敵がいた場合はそのまま引き返して順番に三方向へ分かれて迎え撃つ

その時私は左の通路に入り待ち伏せする場所は西の1番目の予定だ

【戦闘】
戦う際は前衛で
残像を作り敵を翻弄する
『さて、私の動き見切れるか?』

次に脚凍結を使い敵の動きを封じていく、可能ならば女のアンデッドマスカレイドの動きを封じていきたい。また他のアイスレイピア使いの者と狙いが被らぬよう注意しよう
『大人しくして頂くとしよう…なに死んでいるのだからもう寒さは感じぬだろう?』

● 剣の城塞騎士・オリエ(c04835)
[プレイング]
死の眠りが、歪んで目覚めさせられるなんて…あってはならないことです。
「わたしは、死人が歩くということが…許せないんです」

[事前確認]
仲間と突入時の編成を確認します。

[屋敷への突入]
灯りを片手にパーティの先頭を切って進行します。
周囲を警戒しながら大広間へと向かいます。

[大広間]
大広間で待機、敵の動きを警戒し、先走らないようにします。
基本回復役のミィーチェさんの護衛を優先して行動します。

戦闘では主にディフェンスブレイドを使用。
近付く敵の注意を自分に向けることで、ミィーチェさんの安全や仲間が攻撃を行いやすい状況を作ることを心がけます。

[戦闘終了後]
共同墓地でアンデットの有無を丁寧に確認、去り際に思うことは
「これ以上…彼らの眠りが妨げられぬよう…願います」

<リプレイ>

●闇の中で
「思ったより……広いな」
 盾の狩猟者・ペンペロン(c03137)は呟いていた。狭いと聞いてはいたが、人が歩くのに十分な広さはあった。
「この先に、おばさんがいるんだっけ?」
 扇の魔曲使い・リナリィ(c01817)が言った。
「おばさん?」
 一瞬だけ、顔を引きつらせたのは大剣の魔獣戦士・ジネット(c00432)。リナリィは、悪びれた様子もなく続けた。
「アンデッドの一人はおばさんなんでしょ?」
「それは、会ってみないと分からんな、リナリィ君」
 アイスレイピアの魔法剣士・ワモン(c03944)が苦笑いした。
「案外、若かったするかもしれんしな」
「死体に若いもへったくれもあるかよ」
 大剣の魔獣戦士・ヴァーニシュト(c02243)がぞんざいに答える。
「どうでもいいんだが、俺たちはどのくらい歩かされるんだ?」
 ヴァーニシュトの言葉通り、一同は解体予定の廃屋ある地下廊下を歩いていた。それほど長い距離を歩いたはずはないのだが、ランプの明りを頼りにしつつ歩く地下廊下の暗さと狭さ、そしていつ出会うかもしれないであろうアンデッドを警戒していたこともあり、その歩みは遅かった。
「無駄に立派な作りですね。なんで共同墓地なんかと廊下でつないだんでしょうか?」
 槍のスカイランナー・ポーシャ(c01607)は、この地下廊下について、疑問だらけだった。建物の廊下と間違えそうなほど、しっかりとした作りだったからである。
「死体を招いて、ダンスでもしたかったんじゃないのか?」
 太刀の魔法剣士・アーヴァイン(c01227)の言葉に、剣の城塞騎士・オリエ(c04835)が言った。
「もしそうなら許せません」
 オリエの顔には怒りが浮かんでいた。
「わたしは、死人が動くということが許せないんです」
 少しだけ憮然とした表情で、ランプを廊下の奥へとかざした。
「死の眠りが……歪んで目覚めさせられるなんて、あってはならないことです」
 黙りこむ一同。
「そんなに入れ込むなよ、オリエ」
 ペンペロンがニヤリとした。
「そうならそうで、俺たちがまた眠らせてやればいいだけの話だ」
「……そうですね」
 オリエが頷いたときだった。
「待て、オリエ」
 太刀の魔法剣士・アマミ(c02063)の言葉に、全員が立ち止まる。
「その先で廊下が分かれておるな」

●遭遇
 廊下は四辻に分かれていた。左右と、そして正面に。。
 ワモンが慎重にランプを廊下の向こうに照らすが、闇の向こうを伺うことは出来なかった。
「そっちはどうだ?」
「駄目だ、まるっきり見えない。かなり奥まで続いてるみたいだぜ」
 アーヴァインは目を凝らすが、ランプの明りは廊下の闇に溶け込んで、先をうかがい知る事は出来なかった。
「今、何か動きませんでした?」
 正面の廊下に目を凝らすオリエ。その言葉に体を震わせたのは、大鎌の星霊術士・ミィーチェ(c03771)。全員が息を殺すが、それらしい気配は感じられない。
「どうするの?」
 リナリィの問いに、一同は顔を見合わせた。
「先に進んだほうがよさそうね。この先が大広間だっけ?」
「そうだ。間違いがなければな」
 ペンペロンが答えると、オリエとジネットが先へと歩みを進めた。それに続く一同。ミィーチェには、廊下がえらく長いものに感じた。
「どうかしたか、ミィーチェ?」
 アーヴァインの声に、ミィーチェは我に返った。気が付くと、前を歩くアーヴァインの裾を握り締めていたのである。
「あっ、す、すまん! わざとじゃないんだ! 本当にすまない」
 眼鏡の向こうで慌てふためくミィーチェの頭を、アーヴァインはポンと撫でた。
「ったくしょうがねぇなぁ」
「オリエ、ストップ!」
 不意にジネットが叫んだ。闇の向こうで、何かが動いた。オリエが掲げたランプの向こうに、醜悪な人影が浮かび上がった。
「な、あれ何?」
「あれがアンデッドだ」
 リナリィの震える声に、ワモンが冷静に言った。
「オリエ、明りお願いね!」
「ジネットさん?!」
 オリエの前に、ジネットが飛び出した。
「ジネット、無茶するな!」
 ペンペロンが叫ぶが、ジネットは廊下を突進する。
「無茶しやがって!」
 ヴァーニシュトがフォローに入ろうと、その後ろから駆け出した。
 ジネットがアンデッド目掛けて突進すると、彼女の姿を認めたアンデッドが死体とは思えない速さで、みるみるその距離を詰めていく。その顔には、白い仮面が張り付いており、無造作に手をジネット目掛けて伸ばした。が、ジネットはその顔に笑みを浮かべると、床を蹴った。その動きに一瞬動きを止めたアンデッドの頭上を、ジネットは飛び越えていた。着地に失敗しつつも無理やり受身を取った彼女の右手は、獣のツメのようなものに変化し、アンデッドとすれ違いざまに一撃を叩き込んでいた。ぐらりとよろめいたアンデッドの胸を、ヴァーニシュトの剣が貫く。アンデッドはそのまま床に崩れ落ち、動かなくなった。
「一人で美味しいところもって行きやがって」
「あらそう? 一体片付いたからいいじゃない」
 アーヴァインの言葉に、ジネットは笑顔で答えた。

●広間にて
「ここが……広間ですか?」
 アンデッドの死体を乗り越えてからしばらく進むと、不意に視界が開けた。ポーシャが、壁に粗末な燭台を見つけて明りをともすと、何もなくがらんとした広間が明るく照らし出された。その明りに、ほっとするミィーチェ。
「おそらく、この部屋の四方の出口の先に廊下が伸びているのだろう。共同墓地は、向こうの方角だな」
 ペンペロンが、室内を見回したその時、北側の通路から大広間に入ってきたアンデッドを認めた。
「二体目か?」
 一同が身構えると、ポーシャが前に出た。アンデッドは彼女を見ると一瞬立ち
止まった。
「こんにちは」
 ポーシャはにっこりすると、槍の穂先をアンデッドへと向けた。
「邪魔なので、さっくり消えてくださいな」
 返事の代わりに返って来たのはアンデッドの突進だった。攻撃をとっさにかわしざまに、槍を突き立てる。手応えがあったと思ったその時、アンデッドの腕が棍棒のようにポーシャを殴りつけた。吹っ飛ばされるポーシャ。さらにのしかかろうとするアンデッドに、リナリィの扇が舞うと、水流が襲い掛かった。素早く態勢を立て直したポーシャが、再び槍の穂先をアンデッドに向けた。
「いきます!」
 飛び出すポーシャ。アンデッドの間合いに風の如く滑り込むと、その鼻先でジャンプした。見上げたアンデッドが最期に見たのは、ポーシャが突き立てる槍先だった。彼女が着地するのと、アンデッドが崩れ落ちるのは、ほぼ同時だった。

「思ったより短い廊下だな」
「この先で突き当たっているようだが?」
 ポーシャたちがアンデッドを倒した後、ヴァーニシュトとワモンは広間から伸びた廊下を西に進んでいた。ほどなく廊下の突き当たりに出ると、二人はなるべく音を立てないようにして、廊下の角に近寄ると、耳を澄ませた。顔を見合わせた二人が同時に左右に分かれた廊下に飛び出すと、ランプを掲げた。
「いない……な」
「どうする? 待ち伏せるか?」
 ワモンが何かを言おうとした時、廊下のはるか奥で悲鳴が聞こえた。
「ちッ! 向こうかよ!」
「急ぐぞ、ヴァーニシュト君!」

●急転
 つんざくような悲鳴は、大広間にも聞こえていた。
「東の廊下からです!」
「今のは?!」
「ポーシャだわ!」
 飛び出そうとしたジネットとオリエの目の前で、北側の廊下を駆けてくる人影があった。
「で、出たよ! おばさんが!」
 リナリィの言葉に、はっとした一同が見ると、広間に飛び出してきたアマミが廊下の出口を見据えると、太刀の鍔を切った。その隣で扇を構えるリナリィ。
「くそ、こんな時に!」
 舌打ちするペンペロン。と、北側の廊下の出口から、ゆらりと姿を見せたものに、一同は慄然となった。
「お、おばさん……」
 リナリィが体を震わせた。全身から漂う強烈な腐乱臭に、アマミは眩暈を覚えた。薄汚れたドレス姿の女アンデッド……生前は美しかったに違いない……は、アマミとリナリィを見、そしてペンペロンたちを一瞥した。
「ち、こんなときに! 仕方ない、ジネットとオリエはポーシャたちのところに行け!」
「アレ、どうするのよ!」
「女はこっちでなんとかする!」
「分かりました。すぐに戻ります」
 オリエたちが広間を飛び出して行き、入れ違いでヴァーニシュトとワモンが戻ってきた。
「ほほぅ、これはこれは」
 ワモンは興味深げに女アンデッドを見ると、腰のアイスレイピアを抜いた。
「ヴァーニシュト君は、向こうを頼む」
「仕方ねえな。今回はアンタに譲ってやるよ」
 ヴァーニシュトは東の廊下へと走っていった。

「ミィーチェさん……先に……!」
「ポーシャさん!」
 ポーシャはアンデッドに首をつかまれていた。苦悶の表情を浮かべるポーシャを救おうとミィーチェがアンデッドに大鎌を振り下ろした。驚いたアンデッドがポーシャを取り落とすと、二体目のアンデッドが姿を見せた。
「大丈夫ですか、二人とも?!」
 オリエが、二人とアンデッドの間に割って入った。ジネットがポーシャを連れ、ミィーチェたちと後退する。オリエがアンデッド二体をひきつけつつ、しんがりを引き受けた。広間に、オリエたちと二体のアンデッドが飛び出してきた。
「こいつはまずいな」
 そう呟いたペンペロンの口の端に、笑みが浮かんだ。

 オリエは二体のアンデッドと対峙していた。
「一体は俺が引き受けるぜ」
 ヴァーニシュトは、一歩前に踏み出した。
「大剣の魔獣戦士・ヴァーニシュト・ヴァラキアートだ! 死体どもが、かかってきやがれ!」
 ヴァーニシュトの言葉に怒ったのか、アンデッドが襲い掛かった。ヴァーニシュトが力任せに大剣を振るうと、なぎ払った一撃はアンデッドを屠った。別の一体が、オリエ目掛けて襲い掛かった。振り下ろされた両腕の攻撃を受け止める。
「死を偽りとする存在を、まかり通すわけにはまいりません」
 剣で攻撃を弾き返し、剣が閃いた。
「再び……安らかな眠りの結末を貴方に!」
 上段から振り下ろした刃の渾身の一撃は、アンデッドを斬り捨てた。。

●決戦
「敵は生ける屍。相手にとって不足なし」
 アマミは、目の前に対峙する女アンデッドを見据えた。女の顔は白いマスクに覆われていて、その表情を伺うことは出来なかった。
「我が名は太刀の魔法剣士・アマミ・ヤタ。そなたと共にある、不吉なる運命を変える者である。いざ、尋常に勝負!」
 アマミはそう名乗ると、太刀を構えた。
「気をつけろアマミ君、そいつは強いぞ」
 ワモンの言葉に頷くアマミ。女アンデッドは、その小首を傾げると、手を開いたまま両腕をすっと上げた。次の瞬間、振り下ろされた腕から唐突に放たれる閃光。アマミの回避が一瞬遅れ、がくりと膝をついた。女アンデッドは、ワモンにも閃光を放った。ワモンはぎりぎりでかわすも、アマミのカバーに入ることができない。死体とは思えない俊敏な動きを見せると、麻痺して動けないアマミの体に腕を振り下ろす。床にたたきつけられるアマミに、女アンデッドの二撃目が振り下ろされようとしたそのとき、割って入る影があった。
「女が女をいじめるのは、どうかと思うぜ?」
 アーヴァインの太刀が、腕を防ぎ止めていた。
「そういう俺も女だけどな」
 人間の腕とは思えない威力に、アーヴァインは内心驚きつつも、こみ上げてくる笑いを止めることができなかった。
「とっとと、失せな!」
 残像となった斬撃が、敵を吹っ飛ばした。後ずさる女アンデッドは、態勢を取り直すや、再び閃光を放とうとした。
「私の動き、見切れるか?」
 ワモンは、閃光が放たれるより早くその間合いに踏み込んだ。アイスレイピアが一閃すると、氷の刃が女アンデッドを切り裂いた。のた打ち回りながら、踏みとどまる女アンデッド。白いマスクの奥から、悲鳴のような咆哮をあげると、不意打ちのごとく閃光を放った。とっさの一撃に、かわしきれなかったワモンが、がくりと膝をつく。
「腕から撃つんじゃないのか?」
 驚く暇もなく、アーヴァインも閃光を浴びて体が動けなくなった。みたび閃光を放とうとした敵に、リナリィの扇が舞いながら、その身にまとった水流を叩きつけた。
「いっけー!」
 生き物のように襲い掛かった奔流が、女アンデッドの動きを止めた。その前に立ちはだかるペンペロン。
「さぁ来い! 今度こそお前の結末を破壊してやる!」
 ペンペロンは間合いに踏み込んだ。盾の強烈な突進は、女アンデッドにダメージを与えるには十分だった。
「みんなしっかりするのよ! ミィーチェ?」
「分かってる」
 ジネットの言葉に、眼鏡の奥でミィーチェの瞳がうなずくと、その頭上に星霊スピカの青白い姿が浮かび上がった。ミィーチェの指し示す方向に、その姿を飛ばしたスピカは、アマミを優しく抱きしめた。再び対峙するアマミと女アンデッド。
「さっさと終わらせて帰ろうぜ?」
「全くだな」
 アーヴァインが飛び出した。女アンデッドが、そちらに気を取られて注意がそれた隙をアマミは見逃さなかった。
「還るがいい!」
 刃が走った。
「己の在るべき場所へ」 
 アマミの背後で、女アンデッドはついにその動きを止めた。アマミの方を振り返り、床に崩れ落ちると、動かなくなった。
「やったぁ!」
 小躍りして喜ぶリナリィに、眼鏡を指で押し上げてほっと肩を撫で下ろすミィーチェ。オリエだけは、複雑な面持ちで死体を見据えると、女アンデッドに無言で祈りを捧げた。

●静寂
「まぶしいです!」
 地下通路を抜けたポーシャが、外の明るさに目を細めた。薄暗く長い廊下を抜けた先は、共同墓地の中だった。一同の心配をよそに、墓地の中にアンデッドの姿はほかに見当たらず、静寂に包まれていた。
「これで終わりか。ちょっと暴れ足りなかったかな?」
 アーヴァインの口調とは裏腹に、その表情は満足げだった。
「暴れたりないのか?」
 ワモンの問いに、肩をすくめるアーヴァイン。
「この先、こういう仕事が増えるのかも知れぬな」
 呟くアマミ。
「さあ、帰って打ち上げにするか」
 ペンペロンの言葉に、一同が歓声をあげた。オリエは黒髪を撫でつつ、墓地を見やった。
「これ以上彼らの眠りが妨げられぬよう……願います」
戻るTommy WalkerASH