<裁きは密やかに>
■担当マスター:輿水悠
まず、逃げられないように足を折った。縛り上げた後、声をあげられないように喉を潰した。
震える身体にひとつ鞭を打てば、恐怖と痛みに耐えかねた娘の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
初めは身を包む衣服だけを甘く切り裂いていた鞭が、次第に鋭さを増してその白く柔らかな肌に赤い傷を刻む。逃れようという素振りを見せれば見せるほど鞭は大きく振り上げられ、強かに娘を打った。助けを求めようにも身体の自由は効かず、そして音にならない言葉は誰の耳にも届かない。
蝋燭の小さな炎が揺れ、壁に映し出された二人の影が揺らめいた。幾度も打ち据えられた末、深く裂けた肉からとめどなく血が流れる。命乞いの涙が枯れたと気付けば、娘は知らぬ間に息絶えていた。動かなくなったものへの関心はすぐに薄れ、思考は他へと移る。
さて、次は誰にしようか。
トレードマークの奇妙なリーゼントの奥、瞳に真摯な光を宿してトンファーの群竜士・リーがエンドブレイカー達へと向き合う。死体となった娘から得たという真実を語り始める表情は、些か暗い。
「どこにでもあるような平凡な村の、どこにでも居るような普通の村長。それがマスカレイドだ」
腹の出た、働き盛りの中年男性。本当にどこにでも居るような風貌だという。
「村長は目を付けた村の女性に声を掛けて、家事手伝いとして働いて欲しいだの美味しい食事をご馳走するだの、まあ適当な理由を作っては自分の屋敷に呼ぶ。それで連れ込んだ女性に『いかがわしいこと』をしてるってわけだ」
対価として贅沢を与え、女性の口を封じる。相手が村長ということもあって泣き寝入りしている女性がほとんどだが、中には見返りを求めて身を差し出す者も居なかったわけではないようだ。
「それだけでも十分問題なんだが……断って逃げようとした女性は蔵に閉じ込めて、散々痛め付けた挙句に殺しちまう」
娘の亡骸は、村のはずれに無残な姿で打ち捨てられていた。村長は「屋敷から帰る途中で通り魔にでも襲われたのだろう」と知らぬ顔をして、今も村を治めているのだという。
「エンドブレイカー以外には、これがマスカレイドによる事件だとはわからないんだ。だから真正面から正々堂々と村長を倒すってわけにはいかない。ただの人殺し扱いをされて自分達が捕まっちまうからな」
相手は社会的地位を持つ存在。誰にも気付かれないように、密かに倒す必要がある。
「ひとつ、方法がある」
リーはやや緊張した面持ちを見せ、言い難いらしく口ごもった。一息置いた後、ひとつひとつを確認しながら慎重に説明を始める。
「屋敷には使用人なんかも居るんだが、村長は『そういうこと』をしようとする時にはそいつらを追い払うんだ。だからそれを利用して……一人が囮として屋敷に潜入する」
何らかの理由を付けて一晩の宿を乞うなどすれば、屋敷への潜入はそう難しいことではないだろう。相手が女性一人となれば警戒もされ難い。
「村長がその気になれば人払いがされる。使用人達が遠ざけられたら他のエンドブレイカーも乗り込んで、全員でマスカレイドとなった村長を倒す」
但し囮が色々と危険なことには違いない。心配しているのはその点らしい。
「戦闘になったら村長は両手を長い鞭に変えて攻撃してくるんで気を付けてくれ。倒せたら、すぐに屋敷から逃げてくれよ。大変な仕事だが……これはエンドブレイカーにしか出来ないことなんだ」
恐怖と絶望の中で死んでいった娘。その亡骸を思い出し、リーは「よろしく頼む」と強く拳を握った。
●マスターよりオープニングをご覧頂き、ありがとうございます。輿水悠(こしみず・はるか)と申します。皆様の活躍する世界がより楽しいものになるよう、ご助力させて頂ければと考えております。どうぞよろしくお願い致します。●敵の戦闘能力 マスカレイドとなった村長の攻撃方法は鞭。単体攻撃ですが強力であり、離れた位置まで届きますのでご注意下さい。 他にも、戦闘が始まると大きな斧を扱う配下マスカレイドが二体出現します。こちらは近接攻撃のみですが、それなりの威力があります。 ●成功条件 マスカレイド三体の撃破です。 ●その他 戦闘中の物音は、さほど気にされずとも大丈夫です。 以上です。プレイングをお待ちしております。 |
<参加キャラクターリスト>
● アイスレイピアの魔法剣士・モモト(c00564)
● 剣の魔法剣士・イグニス(c00889)
● 鞭の狩猟者・ニコレット(c00936)
● 杖のデモニスタ・エリス(c01506)
● 大剣の魔法剣士・ウェイン(c02603)
● 杖の星霊術士・セレス(c02606)
● 大鎌の星霊術士・ローザ(c04118)
● 弓の狩猟者・ジン(c04594)
● 暗殺シューズのデモニスタ・マリア(c05266)
<プレイング>
● 暗殺シューズのスカイランナー・フィエノ(c00447)
【一人称】私【二人称】(名前)+さん
【口調】「〜ね」「〜かな」「〜なのかな?」(通常,戦闘中共通)
【心情】
まさか、ずっとやってきた事がこんなトコでも役に立つなんて…。うぅ、嫌でも昔の事思い出しちゃうなぁ…。
でも、相手がマスカレイドなら話は別っ。ううん、そうじゃなくても絶対に許せない!
犠牲になった人のためにも、絶対にこの仕事は成功させなきゃ!
【偵察】
ウェインさん(c02603)と「身を隠せて、かつ屋敷の様子を観察出来る場所」を探す
スカイランナーである事も活かし、時々木の上からも探す
【突入・戦闘開始】
偵察時に見つけた場所で待機し、「使用人が屋敷から出て来た」のを確認後、全員で屋敷へ突入
ニコレットさん(c00936)の合図(悲鳴)で駆けつけ、戦闘開始
【戦闘】
配置は前衛。村長優先に攻撃
ウェインさんの邪魔にならない様に立ち回りつつ、スカイキャリバーで鞭になる両手を攻撃する
戦闘終了後は見つからないよう、すぐ屋敷から脱出する
● アイスレイピアの魔法剣士・モモト(c00564)
男装剣士。
誰に対しても呼び捨てタメ口。
囮が役割を全うするまで、屋敷の近くで待機。
他のメンバーと一緒に突撃。
戦闘では前衛に。
主に氷結剣を使って敵の動きを止める。
ターゲットとしては手下→ボス。
HPが後2撃くらいで倒れそうになったら下がる。
自分は問題なく、味方の誰かがそのような状態で狙われてたら庇うなりのフォローを入れる。
戦闘終了後は即屋敷から離れる。
もしかしたら音などで人が集まる可能性もあるので。
● 剣の魔法剣士・イグニス(c00889)
・全体の流れ
午前中に偵察。日が暮れてから、ニコレットが囮として屋敷へ向かう。残りは隠れて出入り口を見張る。
使用人が出払い(合図があり次第)次第屋敷に潜入して、戦闘。終了後は速やかに撤退
・行動
午前中は村長の家屋敷の周りを偵察
探すのは、蔵らしき建物
家の扉からの距離や、方角などをメモしておく
人に見つかって、何か聞かれた場合は
「すみません、ボールを探しているんですが、見ませんでした?」
等と言ってごまかしておく。ごまかした後はとりあえず引き下がる
日暮れ前から出入り口の見張り。合図があったら突入。
出入り口が複数有った場合は、必要に応じて分かれて見張る。合図があれば、状況に寄らず屋敷に突入
合流後、戦闘開始
戦闘時には十字剣と残像剣を交互に使用
配下の斧マスカレイドを先に狙う。一人づつ集中して攻撃して、早めに倒す
村長にも戦闘方法は同じ
攻撃の動作に気を付けて、出来る限りダメージを受けないようにして戦う
● 鞭の狩猟者・ニコレット(c00936)
【行動】
囮役として振舞う
午前の偵察には参加せず
後で特に戦闘に向く部屋の情報を聞く
日暮れ頃に1人で屋敷へ赴き
宿にあぶれた旅の者を装い
一晩泊めて欲しいと乞う
潜入できたら屋敷を褒めて案内を求め
さり気無く戦闘に向く広い場所を探す
断られても部屋までの案内で出来る限り目を配る
分り易くナイフを携帯し
問われたら丸腰だと安心させるため
護身用だけど預かって貰って良いとあっさり渡す
村長が求めてきた時には
前情報と併せ仲間が潜入し易く広い部屋を指定し
扇情的に誘いに乗る振りをする
場所に躊躇う様なら無理せず村長に従う
事に及ぶ前に外の仲間へ合図として悲鳴を上げる
村長には“虫が居て驚いた”と謝った後
仲間が来るまで恥らう素振りで焦らし時間を稼ぐ
到着後
誘導成功・戦闘可能な部屋に居る
→即時戦闘へ
誘導失敗・戦闘には狭い部屋
→広い部屋へ仲間ごと誘導後戦闘
最初はファルコンで応戦し
セレスさんから鞭を受け取ったら前衛で攻撃
● 杖のデモニスタ・エリス(c01506)
【偵察】
日のあるうちに屋敷を偵察。
不審に思われないように深入りせず遠目に窺うよ。
敷地内で身を隠せそうな場所の目星をつけて、その場所が敷地外からどう見えるかとかも。
「いい屋敷に住んでるね…。村長としての手腕は知らないけど」
【監視】
日が落ちてからが作戦本番。
ニコレットさんが屋敷に侵入したら使用人が普段使う出入り口を監視するよ。
気をつけてねニコレットさん。
使用人が出て行ったら敷地内に侵入。
悲鳴が聞こえたらその場所に駆けつけて戦闘開始。
【戦闘】
後衛で配下を優先攻撃。
デモンフレイムで『炎』を与えたらマジックミサイルに切り替え。
「お前らも燃えて消えればいいんだよ…」
配下が全滅したら村長を攻撃。
配下のときと同じくデモンフレイムからマジックミサイル。
【戦闘後】
こっちが悪い事してるみたいで少し嫌だけど、人から見つからないように撤収。
● 大剣の魔法剣士・ウェイン(c02603)
【心境】
迅速に…且つ、正確に…事をこなすのみだ
【行動】
(午前中)
フィエノさんと共に身を隠せる場所があるか偵察。
条件:身を隠せて、かつ屋敷の様子が見える場所
小まめに連絡を取り合い行動に無駄が無いよう努め、
念の為複数の場所を探しておく。
(日が暮れてから)
午前中に見つけた場所で身を伏せて待機。
屋敷から使用人が退出するのを目視してから、
気付かれないように突入。
二コレットさんの合図(悲鳴)を確認後、
その場へ急行、戦闘を開始。
ただし状況次第で臨機応変に対応する。
【戦闘】
立ち位置:前衛・村長優先
開始と同時に村長の下へ駆けて攻撃し、
村長の注意を自分へと向ける。
その初手のみ相手の首狙いでワイルドスイング。
その後は自分から仕掛けることは控え、
相手の攻撃を防御・受け流すことに徹底。
可能ならカウンターで残像剣(牽制目的)
村長狙いの味方がいるはずなので、仕掛けやすいよう
村長の攻撃は一手に引き受けるつもりで戦う。
● 杖の星霊術士・セレス(c02606)
基本行動は皆さんと協力し合い情報は共有して
人に見られないよう隠密行動
隠れた場所から
囮のニコレットさん(c00936)の鞭を手に、村長が使用人を追い払う時を待ちます。
囮が屋敷へ入る前の午前中ではジンさん(c04594)と屋敷内外の出入り口を偵察し、
使用人の出口・屋敷内・蔵へ通じる経路、また最短で隠密に屋敷外へ出られる逃走経路と、
知れる範囲で使用人の数を調べ済みです。
使用人が全て去ったら迅速に屋敷へ侵入します。
仲間と屋敷の最も広い部屋か囮の悲鳴がする方へ向かいます。
村長…いえ、マスカレイドとニコレットさんを探し出し戦闘開始です。
先ず、ニコレットさんへ鞭を手渡して後退
負傷時は星霊スピカを召喚し回復
戦闘時は後衛
基本、重複させず声を掛け合い
マスカレイドと距離をとったまま射程内からマジックミサイル
前衛の仲間のGUTSが半数でない限り村長を遠距離より集中攻撃
マスカレイド三体を倒し
皆で迅速に逃走経路より脱出します。
● 大鎌の星霊術士・ローザ(c04118)
事前の偵察、準備場所への移動は発見されないことと被発見時に怪しまれないよう、建物からの死角をこそこそせずに歩くように行う。
仲間に続く形で突入。基本は村長に挑むチームの回復支援と配下マスカレイドの掃討。
鎌を回して守りを固めながら、攻撃後の隙や仲間の攻撃に重ねる形で攻撃。自分のガッツ減少はアビリティ使用回数に関わるので消極的なくらい慎重に。
スピカの使用は対村長組、重傷者優先。バッティングしないよう使用前にセレスとの掛け声連絡はしっかりと行う。
● 弓の狩猟者・ジン(c04594)
憎むべきはソーンなんだろうが…
怨むべきは、この村長に巣食ってた醜悪な心かもな。
◆作戦
決行は夜。
ニコレットが囮になり、村長を引き付ける。
残りは「使用人が外に出た時」を合図とし屋敷に潜入。
戦闘の合図は、悲鳴。
俺はセリスと共に、午前の内に「使用人が利用する入り口」を偵察。
使用人の頭数や、戦闘後、撤退しやすいよう
入り口周囲や方角共に確認しておく。
蔵の方角等は、セリスに任す。
◆戦闘
戦闘開始時、ニコレットの安全を確保する為にも
先手必勝、村長に「弓射撃」。
ただし、武器が渡り終えているのなら、配下からだ。
まずは前衛の負担を軽くしねぇとな。
配下を全て倒してから、村長へ攻撃する。
また戦闘場所が狭いようなら、広い場所に移動。
他、こちらの戦況が苦戦でなければ
ファルコンを2回、召喚する。
狙いは前衛職とのチャージだ。
失敗しても、なんらかの恩恵はくるからな。
◆戦闘後
偵察情報を元に
人気のない出入り口からすばやく退散する。
● 暗殺シューズのデモニスタ・マリア(c05266)
流れ*
基本はイグニス(c00889)のプレイング参照
「さて…仕事じゃ…持ち場に着くかのう」
偵察*
蔵らしきものを偵察に行きます。調べる事は
蔵の存在と大きさ・屋敷からの位置と距離・周りの地形
出入り口(窓等の有無、安全に進入出来そうな目星)です
「…拷問後の…処理には…うってつけの場所じゃな」
「あきれた欲望じゃがのう…地位は人を狂わせるものか」
ため息混じりに報告します
村長屋敷に【囮役】ニコレット(c00936)が進入する際
軽く声かけなど
「…若い娘の毒じゃからな…きをつけるんじゃよ」
突入と合図*
これに関してはイグニス(c00889)「使用人が出払って進入」囮でもあるニコレット(c00936)の悲鳴が合図。
この二つに委ねて従う事にします
戦闘*
「さて…おぬしは今までどんな仕置きをしてきたんじゃろうか」
小さく嘲り戦闘態勢
配置は後衛、殲滅の優先は村長の配下。
「振り回すだけでは…芸がない」
アビリティで積極的に攻めます
終了*
「早く帰るとするかのう」
<リプレイ>
●日の中での偵察空が見えたなら、太陽が一番高い位置に到達するよりも少し前。
少年術士にも見紛う風采の杖の星霊術士・セレス(c02606)は、正面以外の出入り口を探して屋敷の裏側へと辿り着いていた。屋敷には幾つも大きな窓が張られているものの、離れた場所から内部の仔細までを知るのは難しいようだ。もう少し近付いてみれば情報も得られそうだが、それでは屋敷の者に気付かれてしまう。
「裏口のようなものは無いようですね」
「だな。表に回ってみっか」
行動を共にしていた弓の狩猟者・ジン(c04594)がセレスの言葉に頷く。使用人の数を調べるのに屋敷内部の様子が窺えないのは残念だったが、大きな窓はいざとなれば退路としても使えそうだ。
セレスは用心して人目に付き難い場所を進んでおり、二人の姿は屋敷の者に感付かれない。
明るい中で屋敷の周囲を探るのは、実は少し危険な行為だったのだ。
「旅の人達かな? 何か、探してるのかい?」
蔵を探していた暗殺シューズのデモニスタ・マリア(c05266)に、その様子を不思議そうに眺めていた村人が声を掛けた。剣の魔法剣士・イグニス(c00889)はボールを探しているのだという口実を用意していたものの、村人は咎めるつもりで声を掛けたわけではないらしい。
「其処から進むと村長の家の裏手に出ちまうよ。玄関はあっちだ」
道に迷ったものと早合点をした村人は、親切心からそう告げて去っていった。安堵に胸を撫で下ろしながら奥へと進むと、木々の影にひっそりと佇む蔵が見付かる。
「……うってつけの場所じゃな」
深い溜息混じりにマリアが呟く。壁のあちこちに亀裂が走り、屋根の一部は崩れていた。放置されているはずの蔵を閉ざす頑丈な鍵は、この場所に立ち入られたくないという村長の思惑だろうか。
「きっと、終わらせるから。……安心してくれ」
この場所で奪われた命へと、イグニスは静かに祈りを捧げる。
そして二人は足早にその場を後にした。仲間達に伝えるべきは、広さの足りない蔵は戦場には適さないという点だろう。
造作無く木に駆け登った暗殺シューズのスカイランナー・フィエノ(c00447)が、高くなった視界からぐるりと周囲を見渡す。大剣の魔法剣士・ウェイン(c02603) と共に探しているのは、全員が身を隠せながらも村長の屋敷を見張れる場所だ。二人は既に幾つかの場所に目星を付けていた。
ふと、過去の記憶を掘り起こすような依頼だと思い出しフィエノの表情が陰る。けれど相手がマスカレイドならば話は別。犠牲となった人の為にも、必ず成功させなければならない。
「あの辺りはどうですか?」
眼下から掛けられたウェインの言葉に気を持ち直し、彼が指差す方向に視線を向けると、小高くなった道の先に背の高い茂みがあった。少し屋敷から離れてはいるが、使用人の出入りを見るくらいは可能に思える。フィエノは軽く頷いて応えた。
けれど、どうやって皆に知らせたらいいのだろう。
各々が偵察に出たものの、集合に関しては決めていない。全員が揃うまで、少しの時間を要した。
●囮という名の先手
宿が一杯で泊まれなかったのだと一宿を乞う鞭の狩猟者・ニコレット(c00936)の言葉に、人の良さそうな使用人は「今日は随分と旅人が多いのねえ、珍しいわ」と素直に驚きながらも村長に話を通してくれた。そして、村長はニコレットの姿を一瞥しただけで快諾した。
立派な屋敷だと褒めれば、村長は満更でもないらしく相好を崩す。
「女性お一人での旅は、なかなか大変でしょう」
その言葉に、深い意味を持たせず常の微笑みを見せた。その挙措には気品を漂わせながらも、丈の短いスカートからはすらりと白い脚が伸びる。村長の視線が度々落ちているのは多分気のせいではない。
使用人の一人に客間へと案内されながらも、ニコレットは村長が使用人達へと声を掛け始めているのを聞き逃さなかった。
星霊建築の施された天井から降り注ぐ光が次第に弱いものへとなっていく。暗闇が増せば不安も募るが、身を隠す一行には都合がいい。やがて、村長の屋敷にも灯が点されたのが見えた。
「いい屋敷に住んでるよね……」
村長としての手腕は知らないけど、と杖のデモニスタ・エリス(c01506)が揶揄するように赤の瞳を瞬かせながら呟いた。彼女が行った偵察もまた屋敷の者に不審を抱かせないものであったが、屋敷の周囲には塀などは無く敷地内に身を隠せそうな場所は見付けられなかった。
光源となるものが無く、彼らの四囲に落ちる闇は深い。
先に潜入しているニコレットの身を案じて表情を曇らせたままセレスが呟く。
「村長とは人を纏める者なのに……堕落した心に棲み着いた、マスカレイドの悪戯なのでしょうか」
「……怨むべきは、村長に巣食ってた醜悪な心かもな」
だが憎むべきは彼の人そのものではなく、このアクスヘイムに蔓延る『棘』だろう、とジンは言葉を付け加えた。
仲間達の会話を聞きながらも真剣な眼差しで屋敷を見張り続けるウェインとイグニスの姿を横目に、冷めた表情の下に緊張を隠しながらアイスレイピアの魔法剣士・モモト(c00564)は深く呼吸を吐き出す。彼女が厭うのは、失敗と敗北。武器を握る手に力が篭る。
「使用人じゃ」
大鎌の星霊術士・ローザ(c04118)の言葉に、全員の意識が屋敷へと向いた。何やら慌てた様子で、使用人の一人が何処かへと去って行く。動く姿勢を見せた仲間達をセレスが制した。偵察で確認出来た使用人は三人だが、もしかしたらそれ以外にも居るのかもしれない。
二人目の使用人が出て行くのを見遣りながら、フィエノはそろりと指先を運び服の下に隠した刃物の有無を確認する。使う為のものではなく、彼女を安心させる為のものは、きちんと其処にあった。
これを持っていないと、自分は何も出来ない――。
その感触に心を落ち着かせながら見遣ると、三度扉は開かれる。
出てきた使用人は、二人だった。
誘いに乗る素振りで煽るような目線を遣れば、場所を選ばないつもりの村長は遠慮の欠片も見せず手を伸ばしてくる。しかし、その手がニコレットの肌に触れるより先に正面玄関の扉が開いた。
エンドブレイカー達が、強い意志と共に流れ込んでくる。
囮のニコレットが戦場に選んだのは、広さを有し最も仲間が潜入し易い場所――玄関ホールだった。
●裁くものと裁かれるもの
「てめぇの『時』は終わりだ」
戦いの始まりを告げたのはジンの放った矢だった。外すつもりなど毛頭無かったその一矢は軌道を過たず、空を切り裂く鋭い音を立てて真っ直ぐに村長の腹へと突き立つ。
「な……」
一呼吸分の間。
乗り込んできたエンドブレイカー達の姿に表情を凍り付かせたままで居た村長は、自身に突き立った矢とニコレットを交互に見た。
セレスから本来の武器である自身の鞭を受け取り「正しい使い方を教え込んであげるわ」と微笑む彼女を見て、遂に状況を把握する。後ろに傾いたかと思われたその身体は、頭部に現れた白い仮面から力を得たように持ち直した。音も無く現れた配下マスカレイドが斧を構え村長を守るように左右に立つと、村長の両手は禍々しい鞭へと変形する。
罪の無い娘の命を徒に奪ったそれを目にし、手にした大鎌を地に擦ってローザは良い趣味だと挑発的に哂った。
「然らば、妾達がそなたをしばく事にも異論はあるまいな?」
害するならば、害される覚悟をせよ。
辛い過去を齎したマスカレイドへの怒りを表すかのように、エリスは最大の力を篭めた黒炎を生み出す。炎は周囲の闇より一層濃い黒を纏い、配下マスカレイドへと容赦無く襲い掛かった。
「お前らも燃えて消えればいいんだよ……」
爆ぜるような音と、生じる衝動にその身体が大きく揺らぐ。マリアの右脚から放たれた衝撃波が敵を裂き、手にしたアイスレイピアに氷結の力を纏うモモトと、攻撃を集中させる事に意識を置いていたイグニスが同時に走った。横に一閃、縦に一閃を描いた剣が十字を刻む。一撃に手応えはあったがモモトはひとつ舌打ちした。腕を凍結させたものの、敵はまだ倒れるに至らない。
「貴様は重罪人だ。正義の下に……斬る!」
自身に攻撃を向けさせんと肉薄したウェインが大剣を薙げば、重い一振りが村長の身体を吹き飛ばして壁に叩き付ける。跳躍したフィエノは頭上から落とすように一撃を繰り出し、二人の後背に位置したセレスが棒術のように杖を振り回して、魔法の矢を無数に放ちダメージを重ねた。
距離を問わずエンドブレイカー達を襲う村長の鞭は唸るように空を切り、ウェインだけに留まらず無造作に相手を選んでは強かに打ち据える。配下マスカレイドの斧は断ち割るように振り下ろされ、双方の攻撃を受ける事となった前衛には負荷が大きい。
だが、決して劣勢ではない。
「スピカよ、時機じゃ。ほんのりと癒してやれぃ」
青い光を纏う星霊スピカがローザによって召喚され、傷付いた仲間にすり寄る。ジンの召喚した鷹のスピリットがモモトを貫くと、彼女は敵を見据えてアイスレイピアを振り翳した。
「そんじゃ、消えて貰おうか?」
力を宿した刃は敵の足すら凍り付かせ、斬り付け身を翻し敵を貫いた。エリスの放った黒炎が敵を包むと同時に、残像を伴いながら繰り出されるイグニスの斬撃がその姿を切り裂く。配下マスカレイドが霧消すれば、追随するようにマリアは自嘲にも似た感情を抱きながらその靴の踵を蹴る。
三度鳴らせば家に帰れる。それが彼女の知っている唄なのだという。
「マスカレイドの帰る家は……何処じゃと思う?」
挑発を交えナイフと共に放たれた衝撃波が違わず村長へと襲い掛かる。
ニコレットの振るう鞭がその腕へと絡み付き、フィエノが素早く斬撃を降らせ、セレスの召喚した星霊スピカに癒しを施されたウェインが、大剣を真横に大きく薙いで――それが、止めとなった。
仮面が砕け散ると、両手の鞭が消えた村長の身体は、どうと音を立てて玄関ホールに伏した。
「最低の人間が、最低のマスカレイドになっただけ」
同情の余地など無いとエリスは言い放ち、自業自得だとウェインも賛同した。
物音で人が集まる事態を危惧し誰かが撤退を促して、一人また一人と屋敷から脱出する。
「……あんたは、何処で道を間違えてしまったんだろうな」
イグニスは返答の寄越されない問い掛けを落とした。止めてくれる者の居なかった相手に、少しだけ同情してやってもいい気がする、とジンが零す。
「ズラかるか」
エンドブレイカー達は闇に紛れて立ち去り、その場には村長の亡骸だけが残された。
あの蔵で人知れず涙を流すものは、もう居ない。