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母を思う子の気持ち

竪琴の魔曲使い・ミラ

<母を思う子の気持ち>

■担当マスター:陽雪


 どうしよう。
 ずっと抱えたままのその呟きを、声には出さずに唇を引き絞る。そのまま握り締めた手を見つめていると、そこに細い手が重ねられた。
「……大丈夫よ……」
 か細い声が聞こえて、少女はいっそう強く手の平を握り締める。母が病気で倒れてから何日も経っているのに、自分は何もできないまま。
 もう何人も医者を呼んでは看てもらっているが、原因が分かっても薬が無い、と言われるばかりだった。自分で取りにいこうにも、都市国家の外にしかない薬草をどうやって採ってくれば良いのだろうか。危険だとも聞いている、そもそも生まれてこのかた外の事など考えもしなかったのに。
 それでも、その薬草が無ければ、この病気は治らない。
 じわ、と視界が滲んで、少女は慌てて乱暴に目元を拭う。力の感じられない手を握り返して、そして立ち上がった。
 薬さえ、あれば。
「お母さん、ちょっと待っててね」
 疑問のはらんだ視線がこちらを見るのを感じながら、少女は母を安心させるように微笑んだ。
「街の人たちに、頼んでみるわ。薬草を取って来てくれないか、って」
 言って、少女は家を飛び出した。


「皆さんにお願いしたいのは、薬草探しです」
 竪琴の魔曲使い・ミラは、エンドブレイカーたちに向かってそう言った。薬草? と誰かが上げた声に頷いて、彼女は続ける。
「ある家のお母さんが、病気で倒れてしまったのですが、その病気に効く薬草が都市国家の外にしか生えていないんだそうです」
 都市国家の外と言えば、辺境もいい所だ。都市国家の中で生活が完結してしまう住民にとってすれば、行こうとも思わない場所。そこにしか、その薬草は生えていない。
 それをエンドブレイカーたちに伝えるミラの顔が、急に陰った。
「それだけなら、まだ薬草を採って帰ってくるだけで良いんですが……」
 薬草のあるその周辺に、アイスモグラがいるのだそうだ。
 アイスモグラは普段、土の中で生活し、人の気配を察知して地上に飛び出し氷で攻撃をしかけてくる習性を持つ。知らずに近付けば、相手にとっては体のいい獲物だ。ただ薬草を採りにいくだけにしては危険度が高い。
「アイスモグラがいては安全に薬草を採る事もできませんから、まずはアイスモグラを倒してもらう事になります」
 薬草の生えている場所は森の少し入った所で、無闇に奥へと立ち入らなければ迷う事は無いだろうとミラは言う。その付近に棲息しているアイスモグラをどう倒すか、その方法も様々だろう。しっかりと作戦を立てて不意打ちを食らわなければ、苦戦するほどの相手でもない。
「マスカレイドが関わっているような事件ではないのですが、お母さんを心配なさっている娘さんのためにも、お願いします!」
 言ってミラは深く頭を下げる。それを聞いて、エンドブレイカーたちは互いに頷き合い、そしてミラの肩を軽く叩いた。
「マスカレイドが相手じゃないからって、一度聞いた頼みを放っておくわけにはいかないしな」
 一人がそう言って、顔を上げたミラが満面の笑みを浮かべる。彼女は、薬草は葉の先が三つに分かれている事が特徴であり、必要以上に薬草を採りすぎないようにする事、自分も同行したいが今回はできないといった事を伝え、そして最後に思い出したように言った。
「あっ、足元には気をつけて下さいね!」
 薬草を踏んだりしないように、という彼女の言葉と笑顔に送り出され、エンドブレイカーたちは森へと向かう。

●マスターより

 初めまして、そしてこんにちは。マスターの陽雪です。オープニングをお読み頂き有り難うございます。新参者ですが、精一杯努力していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
 さて、今回の依頼は病気の母のための薬草摘みとなっております。都市国家の外、森の中。ミラ(NPC)の同行はありません。
 アイスモグラの数は三体で、薬草のある草地に到着した頃合で出現します、準備はお忘れなく。人の気配に反応して地中から出てくる習性を上手く使って作戦を立てられれば、スムーズに事は運ぶかと思われます。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● トンファーのスカイランナー・アルシアーナ(c00234)
ふむう、都市国家の外ですか…事前に地図などで地形などの調査は必須ですかねえ。
薬草の形状は話で聞いたから、そっちは調査しなくてもいいか。

モグラはスカイランナー二人が先行して遭遇。
機動性を生かして、うまく誘き出した所をみんなで袋叩きにしてやりますか。
薬草の群生地から引き離せれば、踏み荒らす心配もねぇですからね。
戦闘はトンファーコンボを主体に、チャンスがあればスカイキャリバーをブチ込もうかな。
無論、他のみんなとの連携もしっかり取って戦うですよ。
一人じゃどうにもなりゃしねえですからね。
…おっと、大事な事を忘れてた。
戦闘時には足元に十分気を付けますよ。
万一、大事な薬草踏み荒らしたら、元も子もねえですから。

戦いが終わったら、薬草摘みにかかりますか。
事前に言われてた通り、必要以上に採りすぎないように、と。
必要な分を採ったら撤収ー。
この程度なら楽勝ってとこですかね?
さっさとギャラをもらって帰りますかっと。

● 竪琴の魔曲使い・ヒカリ(c00251)
囮の人が敵をおびき寄せるまでアイスモグラ(以下モグラ)に気付かれないよう潜んでいます。
モグラが出てきたら防御重視で前衛さんを支援するようにアビリティ「ディスコード」で攻撃します。
もしモグラが後衛に近づいてきた時は、前衛さんが来るまでアビリティ「誘惑魔曲」で防御を封じ、武器で攻撃します。
戦闘中は薬草を踏まないように足元に注意します。
モグラが薬草に向かっていたら、薬草から離れるようにそっちを優先的に攻撃します。
戦闘が終わって薬草を摘むつもりですが、薬草を採り過ぎないようにとのことなので、その前に誰かが摘んでいたら他に見つけても摘みません。
薬草を摘んだらすぐに、母の病気が治ると信じて少女のもとに渡しに行きます。

● 鞭のデモニスタ・チロ(c00310)
お母様を治すためにも、この作戦を失敗する訳にはいきませんね…!
母子の素敵な笑顔を見るためにも、頑張りましょうっ。

■戦闘前
スカイランナーのハギオスさんとアルシアーナさんのお二人がモグラを誘き出してくれるまで、
なるべくモグラが反応しなさそうな場所で、いつでも攻撃出来るよう待機しておきます。
ハギオスさんの合図が聞こえ次第、攻撃態勢へ。

■戦闘
誘き寄せられたモグラが上手くこちらへ来たら、私は後衛よりデモンフレイムにて攻撃を仕掛けますね。
なるべく薬草を踏まないよう注意しますが、戦闘に影響が出るようなら戦闘の方を優先。
大丈夫とは思いますが土の中へ逃げ込まれては困るため、
もしそんな素振りを見せたら近づき、鞭での捕縛撃でマヒを狙えられるか試してみます。

■戦闘後
薬草をなるべく多く採っていきます。
籠はさすがに嵩張るので、もし大丈夫なら風呂敷に出来そうな布を持って行きますね。
ダメなら両手にいっぱい採りましょう…!

● 剣の城塞騎士・フィリア(c00595)
●作戦
スカイライダーが囮として敵を誘導
他メンバーは薬草の生えていない所を見つけて待機
薬草が生えている所からできるだけ離れて戦闘
戦闘終了後薬草を摘み、帰還

●行動
事前に図鑑を見て薬草について調査
目的は以下2点
・薬草の特徴を視覚的に確認
・好む環境の傾向(日当たり、風通し等)をもとに生える場所をある程度予測

現地についたら足元をよく見、薬草が生えていないか確認
できれば群生地も把握しておきたいので、ぐるりと辺りを見回しておきます

ハギオスさんの声でタイミングを計り、誘導されてきたモグラと戦闘開始
戦闘スタイルは防御重視
盾を持っていないので鎧の装甲部分か剣で受け止め、後衛や薬草への被害を防ぎます
「させない!」
後衛に直接攻撃をしかけられそうな場合は
・下がって後衛の援助に加わる
・誰かに後衛援助を任せ自分は前線維持に徹す
等の形で対応します
「守ってばかりでは勝てません!」
攻めの流れならばディフェンスブレイドにて攻撃

● 大鎌の星霊術士・シトラス(c01423)
【心情】
母を思う娘の気持ち…
気持ちに答えられるように頑張りましょう!

【戦闘】
まずは、スカイランナーの2人によってアイスモグラを地表に誘き出します。
その後、モグラを前衛の方が後衛に近づかないように相手をします。
私は、後衛として味方に支援をします。
移動や戦闘中は、足元にある薬草に気をつけておきます。
体力が限界に近そうな方にはアビリティによって回復を行ないます。
「女の子のために、薬草を取って無事に帰りましょう!」

また、モグラが近づいてきた場合は大鎌にて前衛の人が助けに来てくれるまで応戦します。
また、薬草が固まって生えていた場合はその場所に近づけないように一生懸命に頑張ります。

【戦闘後】
他の方とともに薬草を摘んで帰ります。
「これで、お母さんの具合が良くなればいいですね。」

【その他】
一人称:私
三人称:名前 + さん

● 槍のスカイランナー・ハギオス(c01797)
・作戦
人の気配に反応するモグラ達を俺とフェリンスの2人が囮になって誘き寄せ、待機している仲間が待ち伏せをし、一気に畳み掛ける作戦だ。
薬草の草地が見え次第、周囲を警戒し、モグラの奇襲に備える。
囮役ではスカイランナー特有の高機動で距離を一定に保ちつつ、樹木の枝と地上を交互に走って回避と移動を行う。
時折声を張ってモグラの注意を引き付けながら、仲間へ合図を送る。
「こっちだ、モグラ!!」
「今行くぞ、準備してくれ!!」
仲間と合流出来たら、戦闘開始だ。

・戦闘
相手は地面を自由に潜る敵だ。
俺は前衛、隙の大きいスカイキャリバーは出来るだけ使わず、疾風突きで攻めていく。
もし後衛の方へモグラが移動したら、即座にフォローに入ろう。
万が一薬草が傷付いたら拙いから、奴の攻撃は回避よりも防御を意識したいな。
勿論、周囲に薬草が無ければ回避に専念するが……。

・戦闘後
モグラを倒したら、もう一度草地に向かって薬草を手に入れよう。

● 太刀の群竜士・ソル(c02131)
薬草採取ってことだが…採り過ぎないようにするにゃどれ位要るのかしらねぇと。
後、似たような毒草が無いか調べたいんだが…無理か?
まぁ薬草生えてる所まで時間はあるだろうから本で調べるか。
あぁ、勿論だが警戒は怠らねぇぞ?ま、その前にスカイランナーの二人がどうにかするだろうが。

・戦闘開始
スカイランナー二名が誘き寄せて、薬草地帯から遠くで戦闘だな。近かったら薬草を守りつつか…めんどくせぇな。
俺は前衛で竜撃拳と居合い斬りをバランスよく。氷のBS喰らったら…自己治療できる場合、竜撃拳のキュア狙いだな。
大層な名前もってろうがモグラはモグラ、潜る瞬間を叩けばずっと出っ放し。フルボッコのチャンスだ…来るかわかんねぇが。
あと潜るってことは地中から後衛に攻撃が行くかも知れねぇ、気配で察知できたら直ぐ救援に向かうぜ。

・戦闘後
薬草無事だよな?無事じゃなかったら本末転倒だぞ…。
採取して、全員で必要量まで達したら帰還だな。

● 剣の星霊術士・ノアーチェ(c04180)
アイスモグラ…一歩間違えると手強そうな相手ですね。
とりあえず基本的には後衛ですがもしもこっちにやってきたら
うまい具合に横と縦の斬りを組み合わせ、いいタイミングで十字斬りです!
とりあえず、アイスモグラの投げてくる氷は剣で斬り崩します。
余裕が無ければ薬草を踏まずにうまい具合かわします。
星霊「スピカ」を召喚するのも大切ですよね!
早く薬草を取らないと、あの母さんが大変ですから、早くやっつけてしまいましょう!

● 大鎌の魔法剣士・フェイト(c04374)
心情
母さんの為に頑張る…その気持ちは私にもよく解る。
私も…同じだから…。
…力になってあげたい。
離ればなれになんて…させたくない…。
家族は…一緒に居ないと……いけないんだ…。

作戦
スカイランナーの2人に囮としてモグラを引き付けてもらう事になってる
それまでは待機
予定では接近してきたらハギオスが声を上げながら近づいてくるはず…
私はそれに合わせて、ベストのタイミングを見計らって飛び出す…!

飛び出したら私達前衛は前に立って手前のモグラから攻撃する
薬草には気をつけて戦わないと…。

後衛が狙われたら急いで戻り回転防御をしようと
間に合わなそうならそのままモグラをアビリティで攻撃

戦闘では味方と連携を取りながら動く。


戦闘後
(薬草を摘み)
「あの子も待ってるだろうし…早く届けてあげないとね」

<リプレイ>

●森林
 森の入り口。都市国家の外に立って、そして鞭のデモニスタ・チロ(c00310)は、ぐ、と拳を握った。
「お母様を治すためにも、失敗するわけには行きませんね……!」
「皆さん、頑張りましょう!」
 母子の素敵な笑顔を見るためにも、と意気込むチロ。その隣に立つ剣の聖霊術士・ノアーチェ(c04180)が笑顔とともに言って、母子のため集まったエンドブレイカーたちは森の中へと足を踏み入れた。
「似た毒草なんかねぇよな……あったら気をつけねぇと」
 言いながら薬学書をめくるのは、太刀の軍竜士・ソル(c02131)。どのくらいの量が必要なのかと考える彼についていきながら、トンファーのスカイランナー・アルシアーナ(c00234)はにひにひと笑った。たとえ依頼人が子供であろうと、しっかりとギャラをふんだくる算段だ。
「むしろ危険な仕事だったと言えば、ギャラ釣り上げても文句はねぇし……」
 彼女が小さく目論見を語るのが耳に入ったのか、槍のスカイランナー・ハギオスは少し困ったようにはは、と笑った。
 そうしながらも足下には気を使い、森を歩いてそんなにも経たない頃、竪琴の魔曲使い・ヒカリ(c00215)が唐突に足を止め、そして声を上げた。
「もしかして、あれでしょうか?」
 言う彼女が指差した先、少し開けた場所で太陽の光を受け、そよ風にそよぐ三つ又の草……話で聞いていた通りの、薬草。どことなくのどかなその風景に和みかけたエンドブレイカーたちは、しかし依頼を達成するまでは気は抜けないと己を奮い立たせる。その中、ハギオスがアルシアーナに視線を向けた。
「無事に終わらせるよう、頑張ろうな」
「もちろんですよ。失敗なんてしたらギャラどころじゃねぇですからね」
 言って、スカイランナーである二人は注意深くその薬草へ向かって歩いていく。他の七人はその草地から十分に距離を置いて身を潜めた。
 微かな風に揺れるそれに、あと数歩と思った、瞬間。
 空を切り飛来する氷の刃が、容赦なく二人に降りかかった。
「!!」
 標的を捉え損ねたそれが地面に突き刺さるのを見て、二人は即座に体を翻し走り出す。スカイランナー二人が囮になり薬草からアイスモグラを引き離す作戦だ。背後からは複数の気配が追ってきている。
 高い機動力を生かした移動、その囮にモグラは食い付き、そしてハギオスはそれを受け声を張り上げた。
「今行くぞ、準備してくれ!!」
 その声を合図に、エンドブレイカーたちは武器を握りしめる。スカイランナーの二人、それを追う者の気配が十分に近付いたと判断し、そして彼等は一斉に木陰から飛び出した。

●土中
 茶色い地面が奇妙に盛り上がる。次の瞬間にそこから姿を現したのはアイスモグラ、凄まじい勢いで放たれたのは氷の刃。
「……行くよ、Bardiche・Sizer……」
 大鎌の魔法剣士・フェイト(c04374)が愛用の金の大鎌を手に皆の前に立ち、そして彼女は地上へと飛び出してきたアイスモグラを斬り上げる。家族を離ればなれにさせたくないと言う思いでこの場に立つ彼女の斬撃、それに続いたのは剣の城塞騎士・フィリア(c00595)のディフェンスブレイドだった。
「はっ!」
 振り上げられた剣がアイスモグラに襲いかかり、アイスモグラは妙に潰れた甲高い声を上げて地中に逃げ込む。逃げ込んだと思った時には、別の方向から氷の刃が飛んできた。
「フィリアさん、危ない!」
 ノアーチェの声。降り注ぐ氷の刃にフィリアがよろめき、しかしすぐさまその痛みが薄れる。大鎌の聖霊術士・シトラス(c01423)の召還した聖霊スピカがフィリアのダメージを癒し、風が吹くように消えていった。
「三匹います、気をつけて下さい!」
「分かりましたっ!」
 いち早く戦場の状況を把握したシトラスの声にチロが応え、地上へと現れ氷を放つアイスモグラに黒炎が放たれる。飛来するそれはチロの体に衝撃を伝え、だが彼女の放ったデモンフレイムはそれ以上のダメージをアイスモグラに与えていた。氷による負傷はノアーチェの召還した聖霊スピカがぎゅっと抱きつき、癒していく。
「地味に痛い攻撃しかけてきやがりますね、このモグラ!」
 両手に構えたトンファーをアイスモグラの身体に打ち込み、アルシアーナが叫ぶ。すぐさまスピカが召還され治癒を施し、後方のヒカリが奏でる竪琴が音と言う形でアイスモグラに追い打ちをかけ、地中への逃走を阻んだ。
 そして太刀を抜く音とともに放たれたのは鋭い一閃。
「一刀一撃! Checkmateといこうぜ!」
 ソルが放った居合い斬りがアイスモグラを切り裂く。倒れたそれが動くことはなく、しかし安堵する間もなく他のアイスモグラが氷を放つ。それが向かった先は、シトラス。
「っ、!」
 今まさに自分へと襲いかかろうとしているそれを見て、シトラスはとっさに目をつむり腕で身体をかばう。しかし予期した衝撃は訪れず、かわりに響いたのは硬質な音。
「……大丈夫?」
 アイスモグラとシトラスの間に割って入り、鎌を回転させることで氷の刃を打ち砕き防いだフェイトに、シトラスは強く肯定を示す。そして自身も大鎌を手に果敢に敵へと立ち向かう。フィリアがその援助へと加わり、そして眼前のアイスモグラに鋭い視線を向けた。
「させない!」
 再び氷を放とうとする、その一瞬前に放たれた剣は十字の傷をアイスモグラに刻み付け、そしてそれも力なく倒れた。
 残るは一匹。チロが手にデモンフレイムを喚び出し、黒い炎が地中から飛び出したアイスモグラに殺到する。畳み掛けるようにフィリアの十字剣、フェイトの残像剣が炸裂し、そしてハギオスが槍を構え力強く握りしめた。
「これで、どうだ!」
 吹き抜ける風よりも速い突き。アイスモグラを貫いたそれが、戦いの幕引きを告げた。

●薬草
 一度スカイライナーの二人が足を踏み入れた草地に戻り、薬草に被害がないことを確認して、エンドブレイカーたちは一様に安堵の表情を浮かべた。三つ又のその草が変わらない様子でそよいでいる、しかしその数は周囲を見渡してもさほど多くはない。もしこの薬草がアイスモグラの被害を受けていたら大変なことになっていただろう。
 その薬草に一番に駆け寄っていったチロが、あ、と声を上げて、そして取り出したのは風呂敷包みにできそうな大きな布だった。出来るだけたくさん採っていこうと考えて持ってきていたそれを広げて、しかしそれを見たヒカリがそのチロに声をかけた。
「チロさん、あまり採り過ぎないように注意して下さいね」
 柔らかい声音のそれに、チロはこじんまりと群生する薬草たちを見て、そして少し悩んだ後、その場の何枚かを摘み取っていく。それでもどれが葉が大きいのかを見比べ、「効きますように!」と入念に念を込め丁寧に摘み取っていく姿は微笑ましかった。シトラスも丁寧に薬草を摘み取っていく。
「これで、お母さんの具合が良くなればいいですね」
 言って、ふとこの薬草を持ち帰り、都市国家の中で栽培できないのだろうかと思った。そうすれば、病の薬が足りずに嘆く親子も減るのではないだろうか。
 少し離れたところでは、ソルが無傷の薬草が風に揺れている前にしゃがみ込んでいた。薬草が傷付いてでもしていたら、と思っていたが、無事だと分かって小さく呟く。
「あー……大丈夫だったか? ……よし、良かったぜ。お前らが無事で」
 そうして摘み取った薬草はチロが持ってきた布に包み込み、潰れたりしないように抱え込む。おそらくこれだけあれば充分だろうと言う量だけを採取し、ハギオスは立ち上がった。
「うん、これだけあれば充分だな」
「あの子も待ってるだろうし……早く届けてあげないとね」
 フェイトが言って、都市国家の方向へと視線を向ける。あの母子を救う薬草を手に、エンドブレイカーたちはアクスヘイムへの道を急いだ。

●母娘
「はい、どうぞ」
 フィリアが差し出したそれを受け取り、依頼主である少女は目を丸くした。風呂敷に包まれた、まだくすみもせずきれいな緑の色をした薬草に、震える手で触れる。
「あー、必要な量がどんなもんだかよく分からなくてな、これで足りるか?」
「……っ、はい! 充分過ぎるくらいです、これでお母さんの病気も……!」
 ソルの問いに少女は答え、薬草を強く胸に抱える。アルシアーナはその様子を見て、そして息をついた。ふいと視線をそらす。
「これであの母親も無事だし、あとはギャラをふんだく……」
 小さく呟きをこぼして再び少女に目を向け、そして今度はアルシアーナが目を丸くした。少女は薬草を抱きしめ、嬉しさのあまり溢れる涙を拭っていた。
「ありがとうございます……! これで、やっと……お母さんが助かる……!」
 フェイトが深く安堵の息をつく。彼女は少女を見て、そして言った。
「早く医者のところに行って……薬を作ってもらうと良い」
「そうですね。お母さんもきっと心待ちにしているでしょうから」
 ノアーチェの満面の笑顔と、そしてエンドブレイカーたちが優しく頷くのを見て、少女は深く頭を下げる。顔を上げ、そのまま走り去っていくのを見送り、ハギオスは満足げに言った。
「親を大切に思う子の願い、これで叶えられるな」
 ヒカリやチロが笑顔で頷く。ふとシトラスがアルシアーナを見ると、彼女は少女の走り去ったその道を見つめ、小さく呟いた。
「……そっか、良かった……って、な、泣いてねーですよ!」
 周囲の視線を感じてか、我に返ったアルシアーナは慌てて目をこすった。目にゴミが入っただけだ、今日は乾燥してやがるからと理由を並べ立て、彼女はくるりと背を向けた。そのまますたすたと歩き出す。
 それを追うようにして、彼等は報告のため酒場へと歩きはじめた。
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