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眠りの護り手

ハンマーの城塞騎士・グントラム

<眠りの護り手>

■担当マスター:藍鳶カナン

●眠りの護り手
 柔らかに輝く天井から降る光を受け、整然と立ち並ぶ墓碑が等間隔の影を描き出していた。
 多くの市民が埋葬されているこの共同墓地に並ぶのは、死者の名のみが刻まれた簡素な墓碑ばかり。だがいずれの墓碑も、几帳面な管理人の手によって隅々までしっかり手入れされていた。
 丁寧に磨かれた墓碑の間を歩いてきた少女が、墓地の出入り口にある門の周りを掃き清めている女性を見て声をあげる。艶やかな黒髪が印象的なその女性が、この共同墓地の管理人だった。
「ユフィアさん、お花ありがとう! おばあちゃんのお墓に供えてきたから、誰かに持ってかれたりしないよう見ておいてね」
「ええ、私は毎日この墓地にいますから、ちゃんと見ておきます。貴女のおばあさまがここで安らかに眠れるよう、しっかりお護りさせていただきますね」
「毎日? 休みとかないの?」
「大事なお仕事ですもの」
 凄い、と目を丸くした少女は、またお墓参りにくるねと笑って墓地の門を出る。良かったら次もまた花を摘んでいってくださいねと微笑んで、墓地の管理人ユフィアは少女を見送った。
 少女が祖母の墓に手向けたのは、墓地の片隅に咲いた野花で作った花束だ。
 街で売られている高価な花よりも、少女が心をこめて摘んだ素朴な野花の方が、死者にはより優しい眠りをもたらすだろう。
 毎日墓参に来られるわけではないあの少女や、他の人々――この墓地に眠るすべての死者達の縁者に代わり、彼らの安らかな眠りを護り続けること。それが自分の役目だとユフィアは考えていた。
 門の清掃を終えたユフィアは共同墓地を見渡して、少女の祖母が眠る一角へと足を向ける。他に墓参客がいないうちに野花が手向けられた墓碑を見ておきたくなったのだ。
 花束を取っていくような者はいないだろうが、何かの拍子に転がっていったりしないよう気を配ってやる必要はあるかもしれない。
 足早に共同墓地の奥へと向かったユフィアは、少女が祖母の墓碑に手向けた素朴な花束を見つけて顔を綻ばせ――次の瞬間、ぎくりと身を強張らせた。
 花束が手向けられた墓の隣に建つ真新しい墓碑が、微かに動いたように見えたのだ。
 息を呑んだ彼女の眼前で、今度は突然その墓の地面が爆ぜる。
「――――!!」
 声にならない悲鳴をあげたユフィアが見たものは、爆ぜた地面のしたからゆっくりと起き上がる、腐敗が始まったばかりの死者の姿だった。

●死者のめざめ
「その真新しい墓に葬られていた死体が、マスカレイドとなったのだ」
 これから起こる事件の様子をひとしきりエンドブレイカー達に語って、重々しい声音でそう告げたのは、ハンマーの城塞騎士・グントラムと名乗る男だった。
「更に奥の墓からも次々とマスカレイドとなった死体が現れて、墓地の管理人に襲いかかる――それが儂の知りえた未来、何としても打ち砕かねばならぬエンディングだ」
 このままであれば、墓地の管理人ユフィアはマスカレイドと化した死者達にむごたらしく殺されるとグントラムは続けて語る。そのエンディングを破るには、ユフィアよりも先に墓地の奥へ向かい、墓から出てくるマスカレイドとなった死体、アンデッドマスカレイド達を倒さねばならない。
「今からその共同墓地へ向かえば、儂が知りえた未来の途中、管理人が門の掃除を終える頃には墓地へ到着できるはずだ。そこで彼女に墓地へ入るなと言い含められれば良いのだが……どうやら非常に仕事熱心な女のようだ、務めを怠ることはできんと言って素直には従わんだろう」
 だが当然、はいそうですかとユフィアを行かせるわけにはいかない。
 どうにかして彼女を上手く説得するか、何か別の方法で彼女の足止めをする必要があるだろう。
 墓地の奥に現れるアンデッドマスカレイドは全部で五体だ、とグントラムは説明を続けた。
「儂が見た未来から察するに、最初に墓から出てくるマスカレイドは、地面を爆発させるような特殊な能力を持っておるらしい。後の四体がどうかはわからぬが……」
 特殊な能力はなくとも、無視できない程度の力は持っていると考えておいた方が良いだろう。
 戦いが長引けば長引くほど周囲の墓へも被害が広がるはずだ。
 出来るだけ速やかに敵を倒して欲しいと言葉を続け、彼はエンドブレイカー達を見回した。
「此度はゆえあって共には行けぬのだが、武運を祈る。皆の手でマスカレイドどもを倒し、他の死者達の静かな眠りを護ってやってくれ」

●マスターより

初めまして、マスターの藍鳶カナンと申します。
このたびはオープニングをご覧いただき、誠にありがとうございます。
皆様が『エンドブレイカー!』を楽しむための一助となれれば幸いです。誠心誠意尽力させていただきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

・シナリオの流れ
 皆様が共同墓地の門に到着するのは、オープニング前半の途中部分、墓地の管理人ユフィアが門の周りの清掃を終える頃です。そのままだとユフィアは墓地の奥へと向かい、アンデッドマスカレイドに襲われてしまいます。
 墓地へ入らないよう彼女を説得するか、何か別の方法で足止めをするかしてから、墓地の奥に現れる敵を倒しに行っていただくようお願いします。

・敵について
 ボス格のアンデッドマスカレイド一体、その他のアンデッドマスカレイド四体が現れます。
 敵はいずれも素手で殴りかかったり噛みついたりといった攻撃を行いますが、ボス格のアンデッドマスカレイドのみ『睨みつけた箇所の地面を爆発させ、その場にいる相手ひとりにダメージを与える』という攻撃能力を持っています。ある程度の距離まであれば、自分から離れた場所にいる相手の足元を爆発させることも可能です。

・成功条件
『ユフィアが無事である』『敵を全て倒す』の二点をクリアしていただければシナリオ成功となります。墓地への被害はシナリオ成否に影響しませんが、出来るだけ気にかけていただければ幸いです。
それでは、皆様の御参加をお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 大鎌のデモニスタ・ヒト(c00046)
■説得
敵は離れた場所も攻撃できる特殊な化け物だと説明。
「死者はきっと護る。見ず知らずの人間だけど、どうか俺達を信じてほしい」等と門から離れないよう真剣に頼む

■戦闘
迅速に、墓地への被害を減らすように動く。
ボス格への対応は3人に任せ、俺は先ず前衛で他の相手をする。
突出し過ぎない程度に出来るだけ速く前に出て、黒旋風を使用。連携して前線ラインの維持に努める。
攻撃は集中させて1体ずつ倒す予定。しかし、前線を維持しながらの集中攻撃が不可能な場合は別の敵も狙う

4体の敵を倒したら、全員でボスを叩く。前衛に上がりつつ黒旋風、その後は凌駕対策も兼ねてデモンフレイムで攻撃

万が一、ユフィアが来てしまった時に誰もフォロー出来なかったら、ダッシュで彼女を庇って離脱させる

■事後
完全に被害を防げなかったら、直せる範囲でざっと周辺の片付けをする。やっぱ、謝んなきゃな。
すぐに直せないような箇所も、一緒に直させて欲しいと思うよ

● ハルバードの城塞騎士・カルーア(c00160)
●戦闘
墓地に到着した時点で、パッと辺りを見渡して開けた場所がないか探しておく。
これは墓地への被害の縮小と、良い足場の場所での戦闘を行うため。
なお、門の外はユフィアがいるので除外する。

マスカレイドが現れたら、自分の方へと注意を惹き、先程調べた開けば所へと誘導を試みる。
開けた場所がない、もしくは誘導が不可能であれば、仕方がないのでその場で戦闘を行う。

私はボス格のマスカレイドの足止めを担当する。
味方と合流するまではけん制に徹する。
ただ防御するだけでなく、他のマスカレイドの殲滅に当たっている味方の方へ注意がいかない様、ディフェンスブレイドでちまちまとけん制攻撃を仕掛ける。
厳しいと判断したら助けを呼ぶ。
味方合流後は、皆で集中攻撃。
その際は疾風突きで攻撃する。

●戦闘後
墓地に被害が出てしまった場合は、墓地の修復を手伝おうと思う。
今回マスカレイドとなってしまった死者も含め、弔いの為に花を供えよう。

● 杖の星霊術士・ハルカ(c01499)
●心情
死者の眠りを妨げるなんて事は、起きてはいけないのじゃ。
優しいユフィアを守るためにも、負けられないですのぅ。

●戦闘
墓地に到着したら、戦闘に適した場所を確認。
戦闘で墓地への被害が及ばないようにするのじゃ。

ユフィアには説得を試みるの。
必ず墓地に入らせないように、少しでも気になっているようだったら
強気に「迷惑になる」と言うのじゃ。


マスカレイドが出現したら、わらわは後衛のポジション。

ボス格のマスカレイドを主に攻撃をするのじゃ。
マジックミサイルで遠距離攻撃をして、他のマスカレイドを攻撃している味方が危なかったら、そちらをサポート。
味方が他のマスカレイドを倒し終わるまで、ボスへの攻撃は牽制程度に。

回復は味方の援護を求める声が聞こえたら星霊スピカを呼ぶ。
また、わらわ自身が危険だと判断したら召還するのじゃ。

●戦闘後
もし、墓地を破壊してしまったら修復をするのじゃ!
どうかこれからも平和が続きますように…。

● 杖のデモニスタ・アゼリア(c01813)
出来る限り急いで現場へ向かいます
門の外に居るユフィア様へ、
自分達は自警団のような組織であると説明し
カーン様の仰るのに補足するようにして
門の外に留まって頂けるようお話をしますね

もしそれでもついて行くと仰るなら、更に説得を重ねます
礼儀正しく、確りと意思をお伝えしますね
「皆様へ迫る危険を排除するのが私達の仕事。
ユフィア様も、墓地に眠る人々も、この場所を訪れる方も、等しくお守り致します。
…そして、この場所に訪れる方々をお守りする為には、貴方のお力が必要なのです。
ですからどうか、私達の言を聞き入れ、信じて待っていて頂けませんか…?」

戦闘ではマジックミサイルを中心に攻撃
出来る限り後衛位置で動きます
皆様と集中攻撃し、墓地に被害が出ないよう迅速に撃破しますね
基本は敵数減らしを優先しますが
要請があれば苦戦している所へマジックミサイルで援護

戦闘後、荒らされた墓地を整え、ユフィア様に全て終わりましたとご報告を

● 杖の星霊術士・アオイ(c02430)
●戦闘時
可能ならば、敵と戦い易い場所まで誘導をしたいですね。
予め決められた班分けに従って行動します。
僕はボス格以外の担当なので、仲間に前衛を勤めて貰い、後衛よりマジックミサイルで攻撃を。
敵との距離に気を付けて行動しますが、もし距離を詰められそうになった場合は、声を出してフォローをお願いします。
また、他の担当の方が危険な場合はマジックミサイルを放ち、フォローを。
仲間との連携を重視し、1対ずつ確実に敵を倒していきましょう。
雑魚が全て片付いたらボス担当の方と合流し、力を合わせて一気に攻勢に出たいですね。
ボスは睨み付けた箇所の地面を爆発させるとの事なので、ボスの視線や向きには細心の注意を。
可能ならば、仲間にも呼びかけて注意を促します。
仲間のGUTSが半分を切ったら星霊スピカを召喚して回復を行います。
召喚時は声を掛けて、無駄撃ちを防ぎます。
但し、自分のGUTSが使用後に4割を切る場合は使用しません。

● 鞭のデモニスタ・クランリーシェ(c02433)

【戦闘】

>墓地での戦闘場所の誘導はカルーア様に従います

わたくしはカルーア様、ハルカ様と共にボスの足止めへ

前衛でボスに「捕縛撃」を用いて牽制
ハルカ様にボスの近接攻撃等が
及ばない様立ち位置を工夫
動く必要が無いと判断したらそのままボスを「デモンフレイム」で攻撃

もしカルーア様・ハルカ様の2人だけでも
ボスの足止めが十分と判断したら、
わたくしは雑魚撃破の援護に回りますわね

自分の立ち位置は変えずに、
集中攻撃を受けている雑魚へ
遠距離の「デモンフレイム」で攻撃


けれど、ボスを相手するお2人が辛そうだと
判断した場合はすぐに2人に加勢いたします

攻撃する時はお墓などに被害が出ないよう極力注意

自分のGUTSが半分を切ったら
回復をお願いするよう呼びかけます

【戦闘後】
お墓が荒れてしまったりしたら、
出来る限り修復のお手伝いを

お供え物や花束も綺麗にして直したいですの。

● 杖の星霊術士・タムタム(c02477)
ユフィアを守るにゃ!

説得
酒場で出来たら、瓶詰めつまみや飲料や油・蜜の瓶等を準備し持参。
皆の後からついて行き少し離れた位置から見て、
ユフィアが中に入ろうとしている等説得が上手く行ってない場合は、
門の前で持ち物をこけてばらまくなりして派手に汚す。
にゃー折角供えようとした大事なもにょが(泣)
汚してすまないにゃ等と謝りつつユフィアにお掃除手伝ってもらう。
途中トイレとでも言って皆の所へ。
説得が順調なら、瓶等場に置き
急ぎ合流して中へ。
出来れば少女の花を門近くへ移動。

戦闘
真新しい墓を拠点に敵の出現&いる位置、ボスの目線警戒。
立ち位置後衛。
負傷者がいれば回復、それ以外は敵との距離を取りつつ
近場の敵⇒逃げそうな敵の順で、マジックミサイルで攻撃。
墓被害最小目指す。
門の方向は常に気にかけ、
ユフィアが来るなら保護に回るにゃ。

事後
説得の際、関わっていれば更にユフィアに謝り、
何もなければ修復を手伝い持ち物や花添える。

● 大鎌の星霊術士・リシュエル(c04526)
●戦闘
墓地への被害は最小限にしたい
なるべく広い所で戦う
攻撃が墓石に当たんねぇように
避ける・受け流す方向も余裕があれば気をつける
被害が広がる前に迅速に終わらせよう

ボスは任せ他の奴らの相手を担当
【前衛】※杖持ちが後衛

前で武器取ってる以上、黒旋風で攻める
1体ずつ倒していくが
他の敵が抜けそうならそちらを抑えることも
敵も前衛も4人だから、前衛声かけあえば
知らない間に抜けられてたってことは防げるか
ともかく後ろは攻撃させないし
門までなんてもっての外だ

回復間に合わねぇことがあれば回復もするが
(ただし俺のGUTS100↓の時は使わない
抜けさせないことを最優先し
敵が1体も倒れてないうちは攻撃1本で

4体倒したらボス班と合流
一気に畳みかける
ボスの視線には注意して攻撃

●戦闘後
起こせる墓石起こして
すぐ直せるところ直してからユフィアを呼びたいな
もちろんその後も修復や手伝うことあればなんなりと
ユフィアがずっと護ってきたところだからな

● ハンマーの城塞騎士・カーン(c04763)
◆ユフィア説得
自警団のような者、と名乗り、ユフィアに墓地に入らぬよう説得。
「アンデッドが墓地に現れたという情報が入ったんだ。我々が対処するから、ユフィアさんは誰かがうっかり墓地に入ってこないよう、門の所で誘導してくれないか?貴女にしかできない仕事なんだ」
アンデッドという概念が一般人に通じるなら正直に、そうでないなら「獰猛な野犬が」などと言い替える。

◆戦闘
ボス格以外のアンデッドの相手を前衛で引き受ける。
戦線が構築されるまではディフェンスブレイドで相手を足止めし、後衛へ抜かせぬことを重視。
ボス格が雑魚より後ろに居るなら、雑魚の相手をしつつ、押し出しやハンマーの一撃で敵の戦列に穴を開け、ボス担当がボスに向かえる様にする。
戦線構築後はハンマースマッシュで攻撃。一体ずつ集中攻撃で片付ける方針だが、一体の敵を全員で攻撃できないような場合は、効率を重視して目標を分ける。
雑魚掃討後は対ボス戦線に参加。

● 大鎌のデモニスタ・ウィード(c05111)
戦闘開始前に、辺りを見回して開けた場所がないかどうかを調べておく。
戦闘開始位置より入り口の門へ近づかなければならない場合は除外。

【戦闘】
雑魚班:前衛

ボス格はカルーア、ハルカ、クランリーシェに任せて雑魚に専念。

基本的には一体の敵を全員で攻撃、できないような場合は、効率を重視して目標を分ける
目標を分ける場合は自分に一番近い敵を攻撃
基本的には黒旋風を使って攻撃

※声を積極的に出して仲間との連携を図る

雑魚が終わったらボス格の足止めをしている三人に合流。

自分のGUTSが100を切っているようなら後衛に下がってデモンフレイムで攻撃

100以上であるようならば雑魚と同じく黒旋風で攻撃

【戦闘後】
ボスが遠距離攻撃をしたときに飛び散った土とかを元に戻す。
立つ鳥跡を濁さず。自分がかかわった事には責任を持って片付けていく。

<リプレイ>

●墓地の護り人
 冬の匂いを抱いた風が流れ、街路にさらりと土埃が広がっていく。
 墓地の門前を掃き清めている女性の姿を認め、急ぎこの場に駆けつけたエンドブレイカー達は安堵の息をついた。あれが墓地の管理人ユフィアだろう。まずは彼女を危険から遠ざけねばならない。
 だが、自警団のような者だと名乗ったところ、ユフィアは不思議そうに瞬きをした。
「この街の方ではありませんよね?」
「――うん、そうなんだ」
 拙いと思ったが顔には出さず、ハンマーの城塞騎士・カーン(c04763)は彼女の言葉に頷いた。
 見回りをしていることも多い自警団は住民達とも顔見知りであるのが普通だ。墓地にアンデッドが現れたと聞いて来た、という説得案はこの時点で放棄する。地元の自警団を名乗れない以上、念のため用意した代案の方が話の通りも良さそうだ。
「僕達は近隣の者でね、うちに出た凶暴な野犬を退治するために追ってきたんだ」
「離れた場所も攻撃できる化け物じみた力をもった犬でな」
 肝が据わっているのは勝負師であるがゆえか。大鎌のデモニスタ・ヒト(c00046)はカーンの変更に戸惑う様子もなく話を合わせ、向こうの柵を飛び越えて墓地に逃げ込んじまったんだ、と離れた場所の柵を示してみせる。
 危険な化け物の退治が終わるまで誰かが中に入ってきたりしないよう、ここで墓参客の誘導をしてくれないかとカーンが請えば、その真摯な様子にユフィアも一旦は頷きかけた。が、やはり気になるのか彼女は急くような表情で墓地を振り返る。
「ですが、その化け物が墓地を荒らすようなら私も――」
「だめじゃ。戦えぬ者は邪魔になる」
 今にも駆け出そうとした彼女の前に立ちはだかったのは、杖の星霊術士・ハルカ(c01499)だ。真面目で優しい気質を持つらしいユフィアを護りたくて、あえてハルカは厳しい言葉を向けた。
「危険から人々をお守りするのが私達の仕事。貴女も墓地に眠る方々もお守りします。そして、この場所を訪れる方をお守りする為には、貴女のお力が必要なのです」
 穏やかな声音で杖のデモニスタ・アゼリア(c01813)が続ければ、ユフィアの表情に迷いが過ぎる。そこに真剣な面持ちでヒトが言葉を重ねた。
「墓参りに来る人達を危険に晒すわけにはいかないだろ? 彼らを安全な場所に誘導するには、余所者の俺達よりも……」
「貴女が適任、いや、貴女にしかできない仕事なんだ」
「――わかりました」
 大きく頷いたカーンがユフィアに向き合えば、彼女はようやく門前に留まることを承諾する。自分が管理人として果たすべき役割はこの場にあると理解したのだ。
 瞬間、墓地の奥でくぐもった爆発音が起きた。
 門の辺りまで伝わってきた震動に「奴が暴れ出したにゃ!」と声をあげ、離れた場所で様子を窺っていた杖の星霊術士・タムタム(c02477)が駆け寄ってくる。
「これ、後でお供えするから預かってて欲しいにゃ!」
 すれ違いざまユフィアに手渡したのは瓶詰めのミックスナッツ。説得が失敗するようなら派手に転んで中身をぶちまけ「一緒に拾って」と彼女を足止めするつもりだったが、もうその必要はない。
 躊躇いなく墓地へ駆け込んだ仲間達に続き、ヒトも街路を蹴った。
「死者達の眠りを、彼女が護るこの場所を、俺達が護ろう!」

●死者のめざめ
 爆発で舞いあがった土がばらばらと降りそそぐ様が墓地の奥に見えた。
 死者と思しき影が起きあがる様を目にして、ハルバードの城塞騎士・カルーア(c00160)は左奥に視線を走らせる。仲間がユフィアを説得している間に墓地を見渡して、まだ墓が建っていない更地があるのを確認しておいたのだ。其方へ敵を誘導できれば、墓地への被害を最小限に食いとめることができるだろう。
 敵の注意を惹きつけんと眩い金髪を靡かせて駆け、カルーアは声を張りあげた。
「生者を襲いたいなら此方へ来い! 私が貴様の相手を務めてやろう!」
 起きあがった死者がぐるりと首をめぐらせる。その顔には確かにマスカレイドの仮面があった。
 仮面の奥でぎらりと目が光ったと思うと同時、カルーアの足元が大きく爆ぜる。だが反射的に身構えた彼女がこれを堪えて再び駆け出せば、知性が無いに等しいアンデッドマスカレイドは釣られるようにカルーアの後を追い、墓碑の合間を抜け開けた更地で立ち止まった彼女にそのまま殴りかかった。
 だが――それよりも一拍速く風切り音が響き、鋭く宙を裂いた鞭が敵の腕を絡め取る。
「そう簡単には……させませんの」
「誰も傷つけさせはしないのじゃ!」
 冷めた眼差しで敵を見据え、鞭のデモニスタ・クランリーシェ(c02433)は得物を持つ手を翻す。鮮やかにしなった鞭が腐臭を放ち始めた死肉を打ち据えた次の瞬間、彼女の後方に位置取ったハルカが魔力を凝縮させた矢を続けざまに撃ち込んだ。
 更地に誘導されたアンデッドマスカレイドの注意は完全に三人へと向いた。だが敵がそれ一体でないことは全員が承知している。始めに敵が現れた墓の周囲で、四つの墓碑がごとごとと動き始めた。
「先に花束移動させてもらうぜ!」
「ああ、お願いします」
 墓前に供えられた花束を手に取ったタムタムが、戦いの影響を受けない場所へと駆けていく。墓地へ入る前とはがらりと変わった少女の口調に軽く目を瞠りつつ、大鎌のデモニスタ・ウィード(c05111)は微かに口元を綻ばせた。叶うなら花束も護りたいと思っていたのは彼も同じ。そして――出来る限り墓地への被害を軽減したいというのは、皆に共通の思いだ。
「っと、残りのやつらがお出ましだ」
「では……彼らもあちらへ御招待といきましょうか」
 墓の下から次々と死体が這い出してくる様に大鎌の星霊術士・リシュエル(c04526)はぐっと得物を握りしめ、小さく頷いた杖の星霊術士・アオイ(c02430)が杖を揮った。放たれた魔法の矢が死者の胸を貫けば、アンデッド達は揃ってくるりと此方を向く。彼らを誘き寄せるべく、リシュエル達もまた更地を目指し地を蹴った。
 肩や脇腹など身体の一部を仮面に覆われたアンデッド達が追ってくる。
 倒れた墓碑が踏みつけられる様に手を合わせ、死者達を更地まで誘導したところでウィードは振り翳した大鎌で勢いよく宙を薙ぐ。狙いはアオイの初撃で胸に風穴を開けられた一体だ。
「右端、行きます!」
「ええ!」
 応じるのは杖を構えたアゼリア、旋風の勢いを得たウィードの刃が敵を斬り刻むのに併せ、高まりゆく力を解き放つ。安らかな永の眠りを妨げ悲劇を生み出さんとする者を――野放しには、できない。
「……此処で、消えて頂きます」
 溢れ出した光が結界陣を成し、矢となって翔けた魔力すべてが死者の身体を貫いた。

●死者のねむり
 地面を爆発させる能力を持つアンデッドマスカレイドをカルーア達三人が牽制し、その間に皆で残り四体の敵を倒すというのがエンドブレイカー達の策だ。
 集中攻撃を受けた一体がくずおれ肩にあった仮面が消失する。だが、生者を攻撃するという本能に衝き動かされた死者達は、仲間が倒されても戦意を失う様子がない。
「間違っても門の方に行かせてたまるか!」
「ああ、そのとおりだ!」
 眠りの地を護り続けるユフィアが、墓に眠っていた死者に殺される――なんて結末を認めることなど出来はしない。リシュエルの決意に同調し、戦いながらカーンは彼と共に門を背にする位置を取る。
 大きな体躯で壁のごとく立ち塞がったカーンに死者が飛びかかり、鎧ごと彼の腹を喰い破った。
「くっそ、人生終わったなら静かに眠ってろよ!」
「星霊スピカよ、癒しの力を……!」
 悪態をつきながら大鎌を揮い、リシュエルは跳ね上げるような勢いで死者に斬撃を見舞う。その隙を逃さずアオイが杖を掲げれば、現れた星霊スピカは樽のようなカーンの腹にぎゅむっと抱きついて、懸命に傷をなめ始めた。
 傷が塞がっていくのを感じつつ、彼は叩きつけるようにしてハンマーを打ちおろす。
「やったか……!」
 死者の腕を覆っていた仮面が砕け散る様にゴーグルの下で瞳を細め、ヒトは残る敵へと標的を変えた。理不尽な終焉も理から外れた死者も、許しておくわけにはいかない。
「――正しくない。正しくないよ」
 正義を成すのだという意志のもと揮われた大鎌からは衝撃波が生み出され、弧を描く刃と共に敵二体へと襲いかかる。間髪入れず放たれたアゼリアの魔力がアンデッドの四肢を貫き、今度は畳みかけるようにしてウィードの大鎌が唸りをあげた。
 旋風成す刃が死者の胴を斬り払い、脇腹にあった仮面がふたつに割れて霧散する。
「グッジョブにゃ!」
 花束を安全な場所に置いて駆け戻ったタムタムは、仲間の戦いぶりに歓声をあげた。前に立ってくれる仲間の背を頼もしく思いつつ、構えた杖から一気に魔力を解き放つ。
 撃ち出された幾多の矢は、胸に仮面持つ死者を目掛けまっすぐに宙を翔けた。
「向こうは順調なようだな」
「ええ、皆様が来てくださるまで、此方も持ちこたえてみせましょう」
 四体のアンデッドマスカレイドを引き受けてくれている仲間が敵の数を確実に減らしていく様を視界の端に捉え、カルーアとクランリーシェは一瞬の笑みを交わして自分達の敵に対峙した。
 一際強力らしいこの死者は眼前に立つ二人を執拗に狙ってくる。仮面に覆われた顔がカルーアに向けて傾いだ瞬間、彼女の足元が盛大に爆ぜた。
「回復は任せたぞ!」
「うむ、任された! スピカ、お願いなのじゃ!!」
 仲の良い友を呼ぶように差し伸べられたハルカの手の先に星霊が現れる。星霊スピカはカルーアの頭にちょこんと飛び乗って、血を滴らせる彼女の額を頑張ってなでなでした。
 同時に仲間達の方から快哉があがる。向こうの四体すべてが片付いたのだ。
「大丈夫ですか!? 加勢します!!」
 即座に標的を切り替えたらしいアオイが援護射撃を放ってくれる。彼の撃ち出した魔力の矢が眼前の敵を貫いていく様に勢いを得て、クランリーシェは強大な炎を生み出した。
「……物騒な手向けでごめんなさいまし」
 放たれた黒炎が敵の胸を焼き潰す。
 駆けつけた仲間達の攻撃が次々と叩き込まれていく。
 死者の肉体がぐらりと揺れ、仮面の顔がクランリーシェの方へと傾いだ。だがその視線を遮るように踏み込んで、カルーアが疾風の勢いのままに一撃を放つ。
「貴様の相手は、私だ!」
 繰り出されたハルバードは真正面から仮面を打ち砕き、永い眠りの中へと死者を還した。

●眠りの護り手
 振り仰いだ天井は柔らかな輝きを湛え、優しい光で辺りを照らし出している。
 静けさを取り戻した墓地を見渡してみれば、アンデッドが出てきた墓や、最初の爆発攻撃の余波で倒れた墓碑、無残に抉られた更地の地面などが目についたが、それでも――墓地への被害は最小限と言える程度にとどめることができたのだと感じることができた。
 更地の地面は元通りに均しておけばいい。
 再び眠りについた死者達は其々の墓へ還してやればいい。
 倒れた墓碑は起こして、ついてしまった土汚れなどは――。
「ユフィアに教えてもらって、綺麗に磨かせてもらえばいいかな」
「自分が関わった事には責任持ちたいですしね」
 すぐに修復できるところは直してからユフィアを呼びたいというリシュエルに頷いて、ウィードは彼と一緒に墓碑を起こす。死者達は既に皆の手で元の場所に埋葬されていた。
 避難させた花束を取りにいったタムタムが元気よく駆けてくる。
「改めてお供えしておくにゃ」
 少し土を被ったものの傷んだ様子はない花束の汚れを払い、元の墓前にそっと手向けた。
 これで殆どは元通りになったが、それでも戦いの痕跡すべてを消すことは叶わない。
「やっぱ、謝んなきゃな」
「ああ。謝罪して、修復を手伝わせてもらおう」
 呟かれたヒトの言葉に頷いたのはカルーアだ。
 だが掻いつまんだ説明と真摯な謝罪を受けたユフィアは、とんでもない、と慌てて首を振った。
「皆さんは墓地やここに眠る人々を気遣ってくださって、そして、護ってくださったのでしょう? それが皆さんのお役目だと仰るなら、また墓地を綺麗にするのは私の役目です」
 謝って頂くことはありません、ありがとうございました、と彼女は穏やかに微笑んだ。
 それでも皆で色々と手伝わせてもらい、汚れた墓碑もすべて綺麗に磨き上げた頃――。
 カーンの腹の虫が盛大に鳴いた。
 はは、と笑いつつ大きな腹をさすり、もしこの後時間があるならと彼は皆へ笑顔を向ける。
「よかったら僕の店で食事にしないか? 美味しいグヤーシュができたんだ」
 牛肉や玉葱などを煮込んで作るそれは、鮮やかなパプリカの色やスパイシーな香りが食欲をそそる一品だ。
 心も身体も温めてくれそうな煮込み料理を思って笑みを零し、ふと彼方を見やったアゼリアはそのまま静かに瞳を伏せる。自分は少しでも強くなることができただろうか。
 ――何も護れなかった、あの日よりも。

 優しい静謐に満たされた墓地の片隅に楚々と咲く野花を見つけ、クランリーシェは顔を綻ばせた。
 摘みとってみれば小さな花弁は柔らかで、けれど細い茎はしっかりと強い。
 再び眠りについた死者達にひっそり野花を手向け、彼女は墓地の門に向かう仲間達のもとへと戻っていった。

 どうか彼らにも、安らかな眠りが訪れますように。
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