<狂った虎を討て>
■担当マスター:零風堂
「そら、目当ての山菜まではもう少しだ。足元に気をつけろよ」
老人は振り返って後に続く者達そう告げ、すぐに視線を前に戻して再び歩き始めた。
「じいさん、山菜取りツアーもいいけどよ。たまには山菜の良く採れるポイントを教えてくれよ」
後ろに続く男性が声を上げるものの、老人はフンとその言葉を一蹴する。
「こわっぱめ、すぐに楽をしようとしおって……確かに儂は他にも山菜の採れる場所を知っておるが、気候や種ごとの成長速度、前にどれだけ採ったか……全てを考えに入れて山菜を取っておるんじゃ。むやみやたらに採られてはすぐに尽きてしまうわい。そうなれば儂もお主も、面白いことにはならんじゃろう?」
そう言って老人はコンコンと壁を叩いた。廃屋の壁に走った大きな亀裂から中に入れば、無数の木々が立ち並んでいた。
「さて……ここからは林になる。はぐれんようにせいよ。まだ陽が落ちるまでには間があるが、迷子を捜すのはちと骨じゃからな」
空を見上げれば天井にも幾つか亀裂が走っているようだが、まだ光が弱まる気配は無いし、崩れてきそうな様子も見られない。それだけ確認すると、老人は再び歩み始めた。
「よしよし、ご苦労だったな。ここで採れるのは、この草と……」
「じ、じいさん!」
ようやく笑みを見せた老人に向かって男性が叫ぶ。そこに迫る大きな影に気付いて。
「ん?」
老人が返事をした次の瞬間、首から上が鋭い牙で食い千切られるのだった。
●狂った虎を討て
「おじいさんが虎型のマスカレイドに殺害される事件が起こります。どなたか向かっていただけませんでしょうか?」
弓の狩猟者・ナターリアの言葉に、情報を交換し合っていたエンドブレイカー達の中から何人かが集まってくる。それを見てナターリアは軽く微笑み、事件の内容について説明を始めた。
「都市の下層に廃墟と化した一帯があるのですが、そこにイエツィンという老人が住んでいます。彼は山菜採りの名人で付近の廃墟から山菜を採り、時には『山菜採りの案内人』として人々を案内するなどして暮らしていたそうです」
管理が行き届いている訳では無いが、草木が多く自生し山菜が育つ環境ができているそうだ。
「そしてある日、おじいさんがいつものように山菜を採っている所に虎のマスカレイドが現れ……事件が起きてしまいます。急いで向かい、マスカレイドを倒して事件を防いで下さい」
良しと言って駆け出そうとする何人かを、ナターリアは慌てて引き止める。
「あ、待ってください。この事件を防ぐために、気をつけることがあります。おじいさんは山菜の場所を多く知っているそうなのですが、それを人に教えることはしないため、どこで事件が起きるかは全く分からないのです」
ではどうすればいいと、首を傾げる仲間達を前にナターリアは続ける。
「おじいさんは山菜採りの案内人でもあるため、山菜採りに同行することは出来るようです。そこでおじいさんと一緒に山菜採りをすることで、虎のマスカレイドを誘き寄せればいいでしょう」
ナターリアはそれから敵の能力についても説明を加えていった。
「虎のマスカレイドは知能は低いですが、戦闘能力は高いです。素早い動きで地を駆け、相手に飛びかかって鋭い牙と爪とで襲い掛かります。また、仮面部分と顔とが融合し、顔全体が一つの口になったかのように変形することがあります。この状態での噛み付きは強力ですので、十分に注意するようにして下さい」
そこまで説明すると、ナターリアはエンドブレイカー達に向き直る。
「強力な相手になりますが、皆さんで力を合わせれば必ず勝利できる筈です」
健闘を祈ると言って、ナターリアはその話を終えるのだった。
●マスターよりどーも零風堂でございます。『エンドブレイカー!』のマスターをさせて頂く事になりました。どうぞ宜しくお願いします。 都市の下層部、廃墟の林の中で虎型マスカレイドの退治依頼になります。 被害者となるおじいさん、イエツィンさんの山菜採りに同行させてもらい、現れる虎型マスカレイドを迎え撃ち、倒してください。 相手の戦闘能力は高く、特に仮面からの噛み付き攻撃には注意してください。 それでは、よろしくお願いします。 |
<参加キャラクターリスト>
● 大剣の城塞騎士・リセリア(c00615)
● ハンマーの城塞騎士・カヤ(c00657)
● 太刀の魔法剣士・フレデリカ(c01383)
● 斧の魔獣戦士・ショウタロウ(c01555)
● 大剣の魔獣戦士・レイジ(c01706)
● 竪琴の魔曲使い・ヴィルヴェル(c02751)
● 大剣の魔獣戦士・ヒアル(c03682)
● 杖の魔法剣士・フランソワ(c03857)
● トンファーの狩猟者・ユウ(c04811)
<プレイング>
● 弓の狩猟者・ユウキ(c00389)
【目標】
第一目標・イエツィンさんの護衛、および生存
第二目標・虎型マスカレイドの討伐
【行動】
・移動中の護衛について
護衛については前衛組に任せ、
亀裂や死角になりえる場所を先に偵察して回ることとする。
・敵目標との遭遇について
【見つかっていない場合】
ばれない様に距離をとり、護衛組の方へと全力でダッシュ、目標発見の報告をする。
その報告後は護衛組と合流し、討伐を行う。
【見つかっている場合】
距離をとりつつ、味方のいる方向へ誘導。
護衛組と合流後、そのまま戦闘へと参加。
【戦闘】
戦闘中は前衛の援護のため、後方にて弓による射撃を行う。
敵の足を止め、攻撃の隙を作ることが目的であり、主な攻撃は前衛に任せる。
● 大剣の城塞騎士・リセリア(c00615)
>心情
虎のマスカレイド……
少々緊張するが、普段通りやればいいだろう
しっかりと打ち倒し、おじいさんも守ろう!
>戦闘
私は前衛で、囮+壁役といったところかな
山菜採りを一緒したいと言って、お爺さんと同行しよう
山菜取りで歩いてる間、警戒を怠らないようにしたいものだ
虎が現れたら、まずはお爺さんを安全圏へと後退させることを優先しよう
盾となり、退かず、守りきるぞ
基本的にはディフェンスブレイドで攻撃だ
そして、一気に決めるとき、止めになりそうなときなどワイルドスイングを放とう
仮面の噛み付きには十分に注意したいな
うまく防御、もしくは回避できればよいが
うまく連携して、大きなダメージを受ける前に、一気に片をつけたいものだ
「いざ、参る!!」
「っふ、この程度では崩せないぞ!」(防御時)
「必殺の一撃ー!!」(ワイルドスイング時)
戦いが終わったら、みんなの無事を確認して、帰還だな
山菜はどれほど持って帰れるだろうか……?
● ハンマーの城塞騎士・カヤ(c00657)
「本日はよろしくお願いしますね」
おじいさんと一緒に山菜取りに行く囮兼護衛班。
「生で食べられる山菜や、お茶になりそうな山菜もあるのかしら?」
普通に山菜をとりつつもなるべくおじいさんの近くに居て、虎がでたらおじいさんを抱えて後衛まで連れて行き、もどってきてから前線に加わる。
「こういうときのために訓練してるんです。任せてください」
前衛で虎を囲むように対峙し、虎の正面に居るときはアビリティを使ってもディフェンスブレイドで、主に防御・回避に専念。
それ以外の立ち位置に回ったらパワースマッシュを可能な限り織り交ぜつつ殴りかかる。
回復手が居ないので、他の人に噛み付こうとしたら横から殴りつけて妨害する等、とにかく噛み付きには注意して戦う。
● 太刀の魔法剣士・フレデリカ(c01383)
■移動
山菜取りということで依頼、同行します。
くだんの壁の亀裂、亀裂より先に進む前に壁を叩いて確かめる仕草、或いは前後の会話等からマスカレイドとの遭遇ポイントを絞り込みます。
■ターニングポイント
それっぽいところに来たら他のエンドブレイカーに先行や索敵をしてもらうため、
亀裂より先に進む寸前に
「あ、あれはなんです?」
のような感じでおじいさんの手を引いて、注意を逸らします。
できるだけ時間を稼ぎつつ、先行隊から何か合図があればおじいさんはその場に押しとどめて急行、そうでなければいつでもカバーに入れるようにさりげなく位置取りをしつつおじいさんと一緒に先へ進みます。
■虎マスカレイドとの戦闘
他のエンドブレイカーと連携を取りつつ、おじいさん、ダメージを受けた仲間を庇う形で動き、機会があれば慎重に一撃を狙っていきます。(「居合い斬り」での攻撃です)
人数的にも戦力的にもこちらが上ですので弱点のカバーを重視です。
● 斧の魔獣戦士・ショウタロウ(c01555)
・仲間達と力を合わせて、依頼をこなす。
仲間達と、打ち合わせた作戦に沿って動く。
おじいさんを守って、虎を倒す。
班分け:囮兼護衛組
まずは仲間達とおじいさんに会いに行き、山菜取りに
同行させてくれるように頼む。
「俺、魔獣戦士で斧を使った力仕事とか得意だから
連れて行ってくれよ。
美味い山菜を、持って帰りたい人がいるんだ。」
と所属旅団の仲間を思い浮かべながら
少年らしく、素直に特技と理由をアピールする。
仲間達と何とか丸め込んだら出立、前を歩き
臭いと音と目で見て警戒しつつ難所は筋力と
斧で切り開いて山を進む。
危険や敵襲は、仲間に合図して伝える。
目的地で、おじいさんを守れるよう近くで
山菜取りをしながら敵襲に備える。
敵が出たら仲間達と連携を取って、戦闘開始。
おじいさんを守りながら、仲間の邪魔にならないよう
タイミングを計ってビーストクラッシュや
アクスディバイドを使って戦う。
● 大剣の魔獣戦士・レイジ(c01706)
狂った虎か、魔獣と猛獣の対決になるな、楽しみだ!
●班行動
俺は爺さんと山菜取り同行の【囮兼護衛組】に
移動中、敵の不意の襲撃等に常に注意を払う
爺さんの近くを、死角が無い様に前衛同士でカバー
先の見通しの悪い場所等は、先行して安全確認等も
●戦闘行動
俺は前衛で戦闘
爺さんを守る事を第一に行動
虎を爺さんの方に行かせない様、前衛で虎を囲む様にして対処
自分が狙われている時は、攻撃より回避・防御を優先
特に噛み付きの挙動には要注意
仲間が狙われてる時は、虎の顔面や胴体を思い切り攻撃する等、カットに入る等仲間のフォローを
戦闘不能になりそうな時は、虎に近接する最前線を他の前衛に交代したり
爺さんのガードが手薄なら、そちらに下がりガードに徹する
攻撃は主に【ビーストクラッシュ】で、ドレインも狙い攻撃
『コイツが本物の魔獣の力よ!』
危険な状態の仲間や爺さんが攻撃されそうな時は【ワイルドスイング】で吹き飛ばしを狙う
『あぶねぇ!』
● 竪琴の魔曲使い・ヴィルヴェル(c02751)
※心情※
「初依頼ぢゃち…緊張するっちゃねゃ…」
エンドブレーカーとして初めてのお仕事なので、「はちきん(豪快な女性)」のヴィル(長い名前なので愛称)も緊張気味です。
※行動※
「酒場のテーブル」で打ち合わせた通り、『見張り』班として行動します。
名人に対する対応や行動は話し合いで決まった通りに従います。
取り敢えず、囮&護衛班につられて虎が出てくるまでは名人と後方の警戒に専念しています。
また、例の亀裂の場所ではさりげなく名人に声を掛けるなりして、注意を後方に向ける様にしむけて、囮班の行動を助けるようにします。
虎との戦闘になった場合ですが…
舞台衣装に身を包みながら竪琴を構え、アビ【誘惑魔曲(麻痺狙いですね)】での攻撃です。
「ウチのソウル(魂)を込めた唄声はどうぜよ?」
あと、撤退条件については回復役が居ないので全体の3割が倒れた時点で決断した方が良さそうですね。
● 大剣の魔獣戦士・ヒアル(c03682)
山菜取りツアーに参加。
山菜をとりがてらイエツィンじいさんを護衛。
虎が出たら戦闘に参加して虎に向かっていく。
その前に、周囲を確認して一般人が危険そうだなと思ったら一般人のそばにいて守る。
マスカレイドの配下が出現したときも、一般人が危険じゃないか確認して対処する。
万が一虎が出るまでに、イエツィンじいさんが見張り組に気づきそうになったら、山菜について聞いて気をそらす。
(不審がらせないようにするため)
「この辺の山菜っていうとどんなのがあるんですかねぇ?」
「酒にあう調理法とか知ってます?」
実際興味あるから覚えておこう。
仲間たちが虎退治するところをじいさんに見られたときは、
見張り組が虎討伐の集団ってことで適当にフォローする。
「危険な虎が出るって噂は本当だったんだなぁ」
戦闘
もしイエツィンじいさんがそばにいるときはワイルドスイング 。
基本はビーストクラッシュ。噛み付かれないように側面から攻撃。
● 杖の魔法剣士・フランソワ(c03857)
・道中
現場にたどり着くまでは山菜取りの参加者の一人として同行するの。
おじいさんの近くでどんな山菜が取れるかの話とかおじいさんとしているつもりなの。
・現場近くでは
それっぽいところに来たら
おじいさんが亀裂より先に進む寸前に
「わーい!ここが山菜が取れるとこなの?」
といったような感じで
おじいさんより先に亀裂の向こうへ進むの。
亀裂の向こうへ進んだら
わざと無防備な状態にして虎マスカレイドが襲って来やすいようにするの
他の人が虎マスカレイドを見つけたら
無防備なのは止めて戦闘態勢をとって戦いを始めるの。
・虎マスカレイドとの戦闘
他のエンドブレイカーの人たちと連携を取りつつ、おじいさんやダメージを受けた仲間を庇う形の位置取りをしながら確実に一撃を当てていくことを狙っていくの。
基本的には杖を振るっての残像剣での攻撃なの。
噛み付かれたりして負傷が激しくなったら後ろに下がってマジックミサイルでの攻撃に切り替えるの。
● トンファーの狩猟者・ユウ(c04811)
山菜取りを装ってじいさんに着いて行くぜ。
虎を警戒しつつじいさんを護衛。
仮に護衛の人数が5人以上なら、俺は護衛チームから外れて索敵に回る。
その場合はじいさんに気付かれないようこっそりと。
虎が俺に襲ってきたら陣形が整うまで回避、防御に専念。
他のやつに襲ってきた場合は虎の横っ面をトンファーで思いッ切り殴り付けてやる。
索敵で遭遇した場合は仲間の所まで後退しつつ、声を上げて注意を促す。
戦闘はトンファーコンボによる打撃で前衛。
積極的に関節や急所を狙っていく。
HPが三分の一以下になったら後退し、鷹による攻撃にシフト。
回復がいねぇから要注意だが…じり貧になってきたらしょうがねぇ。ダッシュでトンファーコンボだ。
ギリギリまで突っ込んでやる。
虎が弱ってきたら顔面狙うぜ。
行動優先順位
1、じいさんの安全
2、仲間との連携
狩猟者舐めンなよ!
<リプレイ>
●山菜採り「今日はみんなで山菜採りなの。どんな山菜が採れるのかすっごく楽しみなの」
上機嫌に笑みを浮かべながら歩みを進める杖の魔法剣士・フランソワ(c03857)を始め、何人かの人影が廃墟の中を進んでいた。ここは都市の下層部。人々があまり足を踏み入れなくなってからかなりの時間が経っているのか、建物らしきものは朽ちて壊れ始め、逆に草木は大きく手を広げて光を浴びている。
「山菜採り山菜採りー、食べても良いのかな?」
その草を一つ摘まんで大剣の城塞騎士・リセリア(c00615)が首を傾げた。彼女が言うように一行は山菜を採りに来たのだろう。だがその中の一人、日に焼けた肌の老人は不機嫌な表情を浮かべていた。
「やめておけ、そんなもん口にしたら腹を壊すぞ」
低い声で警告を発したのはイエツィンという老人で、山菜採りの名人だ。一同は彼の案内で山菜採りに向かう最中なのである。
「そんなに怒らずに、よろしく頼むよ。美味い山菜を持って帰りたい人が居るんだ」
不機嫌そうなイエツィンを宥めるように斧の魔獣戦士・ショウタロウ(c01555)が意気込みを語る。やれやれ仕方ないのぅと息を吐くイエツィンに、ハンマーの城塞騎士・カヤ(c00657)も「本日は宜しくお願いしますね」と笑顔を見せた。
「生で食べられる山菜や、お茶になりそうな山菜もあるのかしら?」
そのまま山菜についての質問を始めるカヤに、イエツィンはオッホンと一つ咳払いしてから答え始める。幾らか機嫌も直ったようだ。
「酒のつまみになる調理法とか知ってます?」
大剣の魔獣戦士・ヒアル(c03682)も山菜の話題を持ち出したりて、一行は和やかな雰囲気で歩みを進めていった。
「さて……ここからは林になる。はぐれんようにせいよ」
一つの大きな廃墟の中には鬱蒼と木々が立ち並び、緑の香りが漂っていた。
「わーい! ここが山菜が取れるとこなの?」
言って駆け出すフランソワ。慌てて追おうとするイエツィンだが、その手を太刀の魔法剣士・フレデリカ(c01383)が掴む。
「待って! あなたが居なくなったら私達が困ってしまうわ!」
一瞬の逡巡。だがその僅かな間にフランソワの姿は林の中に消えてしまった。
「まだ陽が落ちるまでには間があるが、迷子を捜すのはちと骨じゃな」
力を抜いて息を吐くイエツィンに、フレデリカは掴んだ手を離す。そしてフランソワを捜すように大剣の魔獣戦士・レイジ(c01706)は辺りを見回し始めた。
一方のフランソワは誰も追ってきていない事を確認し、足を止めていた。するとその傍でガサガサと茂みが揺れ始める。
「さて……と、気取られないようにしたいものだな」
茂みを割って現れたのは弓の狩猟者・ユウキ(c00389)だった。その姿を認めてフランソワも頷く。
「もちろんマスカレイド退治も忘れてないの。みんなでがんばろーなの!」
「じいさんに気付かれずに敵を見つけられたらいいんだがな」
そこにトンファーの狩猟者・ユウ(c04811)も歩み出てきた。彼等はイエツィンを襲うであろう『敵』……マスカレイドを倒すべく、探索を行っていたのである。
「緊張するっちゃね……」
そしてもう一人、竪琴の魔曲使い・ヴィルヴェル(c02751)が山菜採りの一行の後をつけていた。そうして後方の警戒を行っていたのである。
まだ見ぬ敵の脅威に緊張を隠し切れず、ヴィルヴェルは額の汗を拭うのであった。
●襲撃の猛虎
「やれやれ、とんだオテンバ嬢ちゃんじゃわい……」
呟いてイエツィンが視線を右に移した瞬間、左の茂みが大きく揺れた。
地面を蹴って飛び出す黒い影、剥き出しになった牙が老人の喉に迫る!
「危ねぇ!」
飛び出したレイジの大剣が牙を受け止め、甲高い音が響き渡った。黒い影の正体……やや大型の虎はレイジから離れざまに爪を振り上げ、その胸に二条の傷を刻み付けてから着地する。
「と、虎じゃと!?」
突如現れた猛獣の姿にうろたえるイエツィン。
「とにかく逃げよう!」
その意識を覚醒させるようにリセリアが宣言し、即座にカヤがイエツィンを抱え上げた。
「こういう時の為に訓練してるんです。任せてください」
反対意見も聞かずにもと来た道を戻り始める。そこにヒアルも続き「危険な虎が出るって噂は本当だったんだなぁ」とフォローを入れていた。
避難するカヤと、駆け付けるヴィルヴェルがすれ違う。竪琴を構えるヴィルヴェルに視線を送り、カヤは一つだけ頷いた。
「猛獣と魔獣の対決か、いくぜ!」
レイジが腕に魔獣の力を込めて殴り掛かり、ヒットした瞬間に爪を立てる。
「おらぁ!」
そのまま思い切り振り下ろして、虎の胸部を引き裂いた! ブシュッと血が噴き出すものの、虎は怯まずに仮面に覆われた顔をレイジへと向ける。
その仮面こそがマスカレイドの証。エンドブレイカーにしか見えない敵の証だ。威嚇するようにギギンと両腕の爪をぶつけて鳴らし、それをレイジの腹へと突き立てた! 衝撃と痛みで一瞬レイジの視界が暗転しかける。
「敵襲だ! 近くに居るなら来てくれ!」
声を上げながらショウタロウは虎の側面に回り込んでいた。その声を聞いて何とか意識を保ち、レイジは半歩だけ下がって大剣を構え直す。
周囲で虎を探している仲間を呼び、合流しなければならない。木々に遮られて視界はすこぶる悪い、知らせる手段は声を上げるしか無かったのである。
「行かせません!」
鋭く太刀を鞘から引き抜いて一閃させ、フレデリカが虎に斬りかかった。刃が虎の皮と肉を裂くが、虎は小さく横に跳んでショウタロウに飛びかかる。その最中にパキパキと仮面が顔全体を覆うように広がってゆき、仮面の端と虎の牙とが重なった。
ざくりと腹部に牙がめり込み、ぶちぶちと肉が引き千切られる。更に牙でショウタロウの腹を掘り進もうとする虎だが、その動きが僅かに鈍った。気が付けばそこには静かに、しかし確かなメロディが流れ始めていた。
「ウチの魂を込めた歌声はどうぜよ?」
妖しい旋律を紡ぎ出していたのはヴィルヴェルだ。闘争心の鈍った相手に向かい、ショウタロウは魔獣化させた腕で食らい付いた!
「お返しだぜ!」
力を奪いながら肉を引き裂き、振り下ろした腕で拳を握ってアッパーを仕掛ける。衝撃で虎の体が僅かに浮かぶが、敵はすぐに着地して体勢を立て直した。
●虎狩り
「このままでは、いつ安全になるのか分かりません。様子を見てきます」
大きくひび割れた壁の傍まで到着した所でカヤはイエツィンを降ろし、振り返って言い放った。一人では危険かもしれないとリセリアが「いざ、参る!」とそれに続く。
「虎怖いねぇー。怖くて、おじさんお酒に逃げたいわー」
だがそのままイエツィンを一人にしておく訳にもいかないだろう。不安にさせないように話を続けながら、ヒアルがその場に留まることになった。
「いたか……とっとと退治しよう」
一方では駆け付けて合流したユウキが矢を放つも一発は外れ、二発目が腕部を掠めて傷付けた。そして矢を追うようにフランソワがダッシュで飛び込み、残像を生み出しながら斬り付けた!
「あなたにこの残像が見切れるの!」
だが突き出された杖の先端を、虎は仮面からはみ出した牙で受け止めて弾く。
「狩猟者舐めンなよ!」
そこにユウが突っ込み、腕の振りに合わせたトンファーを叩き込む! 振り上げる一撃で顎を跳ね上げ、逆の腕でそこを追撃する。そしてぐるりとトンファーを一回転させ、両方揃えて振り下ろす!
どぉんと大きな音を立て、虎が地面に叩き付けられた。一瞬、それで倒れたかと思われたが……まだだ。虎はパラパラと砂を落としながら立ち上がる。
『グォォォォッ!』
直後、咆哮と共にフレデリカに喰らい付く! 首を狙った一撃だが、僅かにそれて左肩に牙がめり込んだ。体の中で虎の牙が骨にぶつかり、ガチンと嫌な音が耳に響く。
「こ……のっ!」
だがフレデリカは精神を乱さず、太刀を鋭く振り抜いていた。刃は虎の腹部を深々と薙ぎ、堪らず相手はフレデリカから離れる。
「ふふ、私はこうして殴り潰すような武器が好きなのよね」
その瞬間に駆け付けたカヤが踏み込んでいた。その勢いを殺さぬようにハンマーを突き出し、鼻先……と言っても仮面に覆われているが、顔のど真ん中を叩く。
「さぁ、一気に行きましょうか!」
そのままカヤは笑みを殺して鈍器を振り上げ、その重さを虎の脳天にぶち込んだ! そして相手が体勢を立て直すより早く、リセリアが大剣を振りかぶる!
「必ず、守り切るぞ」
限界まで引いて体を捻った体勢から、弾かれるように刃を繰り出す! その斬撃は虎の右前脚の爪を断ち、胸を薙ぎ払った。
そのまま勢いを止めず、逆側に振りかぶるように体を捻るリセリア。腕が、体が限界ギリギリまで引っ張られるが、奥歯を噛み締めてそれに耐えた。
「必殺の一撃ー!」
そして再び斬撃を弾き出す! 凄まじい勢いで繰り出された大剣の刃は虎の体を二つに断ち斬り、どさりと大地に落としたのであった。
●収穫は?
「ふぅ……全員無事か?」
仲間達の生存を確認するユウキに異常を伝える声は無く、何とか全員が命を持ったまま虎との戦いを終えることが出来た。
ようやくかと肩の力を抜いて、ユウは煙草に火を灯す。
「狩った獲物は食べて弔おう」
そこでショウタロウが倒した虎の皮を剥ぎ、肉を捌き始めた。虎の皮をお土産に出来たら良いなと考えながら、ヴィルヴェルもそれを手伝う。
「おぉ、嬢ちゃん達も無事だったか。何よりだな」
そうして山菜採りに参加していた者達はイエツィンの元に戻り、合流を果たしていた。同行していた者達の無事な姿に、流石のイエツィンも僅かに笑顔を見せてくれた。
「危険な虎は退治されたから、もう安心だぜ」
ショウタロウが戦利品の毛皮と肉を見せ、山菜採りの再開だと提案するのにイエツィンも良しと頷く。
「山菜はどれほど持って帰れるだろうか……」
こうして一行は再びイエツィンの案内で歩み始めた。リセリアはまだ見ぬ収穫を思い期待に胸を膨らませる。
「俺も皆の土産に持って帰りてーな」
沢山採れるならお土産にするのも良いだろうとレイジも頷いていた。やはり楽しい旅はこうでなくてはいけない。
「お土産もいいけど、折角だからここでも食べてみるの。お勧めの山菜料理を教えて欲しいの」
フランソワが丁度そんな話を持ち出した頃、一行は目的のポイントに到着し、念願の山菜採りが始まったのであった。
こうして一行はワイワイと賑やかに山菜を集めてゆく、多くは鍋にしてその場でお腹に収まり、残りはお土産として荷物になった。
「じいさん、また今度一杯やりましょうや」
長かった一日もようやく終わる。帰路の途中でヒアルのかけた労いの言葉に、「大したことは無い」と老人は満足そうに頷くのであった。