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弱さとともに捨てたもの

剣の城塞騎士・フローラ

<弱さとともに捨てたもの>

■担当マスター:Oh−No


「てめえら、聞きやがれ! いいか、今から俺がここのボスだ。そして俺たちのグループがここいら一帯を締めさせてもらう!」
 薄暗い広場に大音声が響き渡った。やや下層にある廃墟の街に集った数十人の視線が、叫びを上げた小柄な男へと向かう。手を止め振り返るのは、賭け事に興じていた男たち。口汚く罵り合っていた男女も、そろって怪訝な視線を投げかけた。
 男はどう見ても強そうには見えず、その取り巻きも貧相で少人数だ。それを認めた周囲に、冷やかすような笑いが広がる。名を問う声があがり、叫んだ男を知る者はとまどいながら答えた。あいつは弱虫ジンだぜ、いつもなら卑屈なチビなのにな。
「まぁ、まぁ。せっかくジンが度胸のあるとこを見せたじゃないか。その勇気をオレが確かめてやるぜ」
 そんな空気の中、短い髪を逆立てた大男が立ち上がり、軽い足取りでジンへと歩み寄っていく。この周辺では最大の勢力を誇る不良グループのボス、マークだ。あまりの体格差に誰もが残虐なショーを期待した。
 決着は一瞬だった。二人が向き合った瞬間、乾いた音が響く。いつの間にかボスの足元で、ジンが自らの拳をさすっていた。マークは何も理解していない顔で、膝をつき崩れ落ちる。そして場に静寂が満ちた。
「これで俺がボスだな。文句があるなら俺を殺してみろ」
 押し黙る周囲の人間たちを、さも馬鹿にしたような薄笑いで見回したあと、ジンがそう言い放った。マークをあっけなく倒され唖然としていた子分たちが、その声で我に返る。なに、あいつらは少人数だ。みんなで袋だたきにしちまえばいい。視線を交わしたマークの子分たちは手に武器をとり、ジンとその取り巻きに狙いをさだめ、一斉に殴りかかっていく……。

「もうすぐ、とある不良たちの間で抗争が起きるわ」
 剣の城塞騎士・フローラはそういうと、この場に集まった皆の顔を見渡した。
「ジンという男がマスカレイドになったの。ジンは地域の不良グループを支配するべく集会で行動を起こすわ。あっさりと最大グループのボスを倒し、仇を取ろうとする子分たちを殺し尽くしてしまう。そして支配権はジンのものになるわ」
 フローラは目を伏せ、悲しげに頭を振った。
「そんなエンディングを看過することは出来ない。破壊するべく皆さんの力を貸してくれないかしら」
 力強く頷く皆の姿に、フローラはにっこりと微笑んだ。
「辺り一面は廃墟、そのなかにぽつんと広がった広場に不良たちが集まっているわ」
 崩れた壁などはあるが、見通しを遮るほどではない。集まっている不良は三、四十人程度だという。格好にさえ気をつければ、その中に紛れ込むことは造作もないだろう。
「殴り倒されるボスは痛い目は見るけど、この時点では殺されないから安心して。皆さんはジンが『文句があるなら俺を殺してみろ』と言ったタイミングで、真っ先に名乗り出るといいと思うわ」
 タイミングが遅れると乱戦になりかねない。注意する必要がある。
「ジンは小柄な男よ。もちろんマスカレイドだから、見た目であなどっちゃ駄目。戦闘になると肩当てのように仮面が右肩へと浮かび上がるわ。とても素早くて、こちらの死角に回り込んで殴りかかってくる攻撃はかわすことが難しそうよ。もう一つ、追い詰められると手の爪を伸ばし、敵を切り裂こうとするわ。その爪には毒があるから気をつけて」
 フローラの手はいつの間にか、鞘に納められた剣の中程を力強く握りしめている。
「そうそう、戦闘のときジンの子分も3人敵にまわるの。人間じゃなくて配下マスカレイドだから、ジン程じゃなくても手強いわ。仮面を被り抜き身のナイフをさげ、服を着崩した姿は3人共通ね」
 特殊な攻撃はしてこないが、子分も十分に素早い。
「うーん、こんなところかしら。周りには不良達がいっぱいよ。戦闘に巻き込まないように配慮してね」
 難しいかもしれないけどね、手に握った剣を胸に抱え、申し訳なさそうに頭を下げる。
「いろいろ考えなきゃいけないことは多いけど、皆さんならやれるはずよ。嫌な未来を打ち砕いて!」

●マスターより

 はじめまして、Oh−Noと申します。皆さまに「エンドブレイカー!」の世界をご案内できることになりました。魅力的な世界を一緒に作り上げていきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたしますね。

 以下は補足です。
・倒されたボスのマークについて
 戦闘中には目を覚ましません。放置しておいても大丈夫。

・不良たちについて
 彼らはボスに強い義理などは感じていない烏合の衆です。ですから、自らの命に危険が迫っていることを理解すれば、その場から逃げようと考えるでしょう。ただし、彼らは自分のメンツに傷がつく事を極端に恐れているようです。その為、互いの行動を様子見するあまり、動けなくなる事も考えられます。この場から去る、もっともな理由を用意する必要があるかもしれません。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● エアシューズのスカイランナー・カタルーニャ(c00066)
俺は不良どもに紛れ込んで待機、
仲間が騒ぎを起こしたところで仲間と一緒に名乗りを上げる。
その後ほかの不良どもを脅しつける、せっかくだから思いっきりな。
シンがサクラとして不良どもを逃がすから、居なくなったら戦闘開始だ。

俺は主に配下どもを担当する。仲間と分担だな。
なるべくジンと戦ってる皆とは引き離す形になるかね。
前衛でアビリティ「スカイキャリバー」を使ってガンガン叩き込んでいくぜっ
もしも距離を置かれたり、逃げられそうになったりしたら、 「ソニックウェーブ」ですかさず追撃してやるよ。
配下共を片付けちまった後は、ジンと戦ってる仲間と合流、
陣形はジンを逃がさないように囲む形にする。
同じく「スカイキャリバー」で攻撃、 近づけなかったりした場合は「ソニックウェーブ」で遠距離支援する。

戦闘後は騒がしくなる前にさっさと撤退したほうがいいな。

● 扇の星霊術士・イチヤ(c00837)
事が起こるまで待機。(不良に紛れるのは難しいので、近場で隠れ)
味方が名乗り出たらすぐ姿を現し、脅し役に回る。
なるべく静かに、かつ恐ろしく。

不良共が逃げた後は、自警団役の味方とサクラ役の味方と合流し、戦闘準備を。
儂は後衛で、主にサポート的な役を。
後衛ではあるが、一瞬たりとも気を抜かずに集中を。
そして後衛で全体も良く見渡せるという利点を活かし、回復を担当する。
傷付き余裕が無くなってきたと思われる仲間を見つけたら、スピカを召喚し回復。
攻撃に関しては、ジンもしくは部下を担当するとは決めずに、全体を見て援護が必要と思われる方を攻撃する。
敵と十分な距離を取りつつ流水演舞を使っていく。
敵が接近してきても、できるだけ素早く後退し距離を取る。無論、背を向ける事はせぬが。
戦闘の最中に味方に助けて頂いた時は、
素直に礼を申そう…。

戦闘が無事終了した後は、
面倒な事になる前に速やかに撤退を。

● 槍の群竜士・シン(c00897)
不良達を逃亡させる為のサクラ役担当

ジンが来る前にこっそり不良の中に混じり、ボスが倒された時には恐怖で震えている振りをする
城塞騎士中心に鎧を着た仲間達が踏み込んできた時にはわざとらしくない程度に周りを逃げるように煽る台詞を言いつつ真っ先に逃げ出す

逃げる途中で何処かの陰に隠れ、逃げ出す不良達をやり過ごしてから仲間達と合流する

合流時、戦闘開始前ならすんなり合流で戦闘が既に始まっていれば手近な子分を相手している仲間に加勢します

戦闘は主に子分の相手、他の子分担当の仲間と分担して子分と戦う
自分が対応している子分が倒れたら他の子分を相手している人に加勢していく

攻撃方法は相手との距離を考え、竜撃拳と疾風突きを使い分ける
ただ、対応している敵がバットステータス中なら疾風突きを多用する

敵がエイルやイチヤを狙いそうなら自分が比較的自由に動ける場合のみ妨害に回る

● ハルバードの魔曲使い・エイル(c01491)
まず、シンがジンに対して名乗りを挙げて不良が逃げ出すまでは隠れて待機。

不良が逃げたら戦闘開始。
陣形はジンたちを逃さないように囲む。オレは後方からジンを攻撃。
戦闘時はジンのスピードが速いから速攻で魔曲使いのアビリティ「闘志を奪う」でジンをマヒさせる。
その後は「魅惑のフレーズ」や「せつないメロディ」で後方からダメージを与え続けていく。
もし陣形が突破されジンの接近を許したら、ハルバートのアビリティ「高速の踏み込み」で迎撃。
もしも配下のマスカレイドより先にジンを倒せたらオレも前線に出るつもりだぜ。
その時はハルバートのアビリティ「高速の踏み込み」で攻撃。

【口調補足】一人称は『オレ』、二人称は基本的に『あんた』もしくは呼び捨て。

● ハンマーの城塞騎士・リンダ(c01952)
殺しつくされる不健康エンドはブレイクする!
まずは城塞騎士なんで隠れて待機しとくか。
ジンの声を注意して聞いとく。
例のジンのセリフと脅し班が脅してざわ…ざわ…となった頃あいに飛び込んでいくっ
「自警団ですっ。あやしげな集会ですね、おとなしく縛につきなさい!」
なんか疑いを起こさせる前にたたみかけるように指差し。「本部に通報しましたっ。捕まればパージですよー」 
あとはサクラの迫真の演技に期待ですねっ。
不良が逃げたら戦闘です。わたしはジンと仲間3人に連携させないよう割って入り、部下1人を抑える役回りですね。体当たりやディフェンスアタック、パワースマッシュなどでジンから引き離していきますよ〜
怪我したら回復してもらいますか。
ハンマーをぶんぶん振りまわして廃墟のまちで隠れるところを無くしていくかな。ジンが逃げ回れないように。
おわったら勝利の踊りでエンドブレイクダンスを踊る。

● 大鎌の魔獣戦士・デランジェ(c02656)
◆戦闘前
ジンに名乗り思い切り挑発する。
小柄さなどをからかい、ボスごとき倒しただけで喜ぶなんてと嘲笑

不良どもには、獲物を派手にぶん回して「当たるから退いた方がいい」と忠告
反発されそうな命令口調でなくお願いする感じで

◆戦闘
配下担当。乱戦だろうし固執はしない
逃がす訳にはいかないので、仲間全体で囲む陣形を意識して動く
グロウ・エイルに攻撃が集中した時は守り、マヒの邪魔をさせない

序盤は【盾】狙いで黒旋風
俺の体力が減ってきたらドレインと爪撃狙いでビーストクラッシュ
俺は足が遅いから避けるより受け止めて防御する
その後の攻撃も当てやすくなるかもしれないし

◆ジンへ
誰かに笑われない強さが欲しけりゃ、こんな仮の力に頼るんじゃねえ
小柄でも努力と頭使って強くなった奴、俺ぁゴマンと見てきたぜ?
いくら体が強くなっても借り物に頼ってるてめぇの心は弱虫のまんまだ

● 剣のスカイランナー・グロウ(c02820)

不良集団に紛れながら、時が来るまで待機。
さて…まずは前哨と行こうか。

ジンが『殺して見ろ』と言い放った後、真っ先に名乗りを上げる者の一人を担う。
「こんな場でいい度胸だな。それなら次は俺達の相手でもして貰おうか?いいな!余計な奴等は…邪魔するなよ!」
等と挑発交じりに。
その際は初手だけ勢い良く攻め、その後味方が『事』を起こすまで防御重視で応戦。
一見すると押されている様な状況を組み立て、脅しやサクラの煽りの効果を上げておこう。
そして…味方が邪魔な連中を追い払ったその時からが、本当の戦闘開始だ!


同じくジン対応のエイル、ガルヴズと連携した戦闘を行う。
攻める際は出来る限りジンの動きを封じる事を意識しながら戦い、可能な限り時間差での波状攻撃を仕掛ける。
「そう簡単に、動き回らさせるかよ…ッ!」
攻撃時は十字剣を主体に、時間差攻撃時にはスカイキャリバーで上空から急襲。
仮に外れても、注意を引き付けられれば上々。

● 大剣の城塞騎士・エミーリア(c02851)
アタシはジンが騒ぎを起こすまでは外部待機。
名乗りを上げた人達の脅し文句は聞き逃さない様に気を付けるコトにするわ。
自警団を装って突入するのはその後になるからね。
「ボーッと突っ立ってる邪魔者は失せな!
背負っていた大剣を鞘から抜きとって牽制するつもり。

不良達が逃げるのを見届けたら先ずは部下を攻撃。
親玉は他の人に任せて外堀から埋めていきたいわ。
ディフェンスブレイドで身を守りつつ接敵。
まだ不良が残っているようならそっちに害が及んでもいけないし、もしもの時は庇うつもりで考えてる。

親玉が苦労していたら駆けつけるのは部下ってモンよね。
でもアタシらとしては引き離していた方が都合がいい。
ワイルドスイングで牽制出来たらいーわね。
吹き飛ばす事が叶うのならば、出口から遠く、ジンから遠い場所を狙いたいトコ。
攻撃する部下は臨機応変に。
手隙の相手を出さぬ様声掛けて気遣う様にするわ。

戦闘終了後の撤退は速やかに行いましょ。

● 大剣の城塞騎士・ガルヴズ(c02903)
先ずは脅し役の連中が動くまでは不良共に見つからぬよう離れた場所に待機しておこう。
事が動き出したら、儂ら待機組も現場へ踏み込む。自警団を名乗り、周りの邪魔な小僧共は脅して逃げ出すよう仕向けよう。
「此処の首魁を捕らえに来た。邪魔をせねば良し。さっさと失せよ。否と言うならば…巻き込まれて死んでも責は負わぬぞ!」
大剣を一閃し、見せ付けておくか。
後はサクラ役の仕事だ。

不良共が逃げたならばジンを討ち取るとしよう。
ジンを担当する者達で奴を取り囲むようにして立つ。
攻撃は「ディフェンスブレイド」を使用する。「ワイルドスイング」で誤って吹き飛ばし、その先から逃亡されるのを阻止したいが故に。
奴は素早いと聞く。なれば、ジンが儂に攻撃したその時が一番の好機となるだろう。尤も、それ以外にも狙ってはいくが鎧を纏ったこの身ではそう簡単に捕らえることは難しいだろうな。

事が済めば速やかに撤収する。余計な面倒は避けたいのでな。

● ナイフのスカイランナー・ヒスイ(c04400)
現場に馴染めそうな服装を適当に見繕い、
不良達に紛れ込み待機。
仲間達が行動を起こすまでは、
壁際で静かにしているつもりだ。

サクラに関しては、
上手く行かなかった時だけ手伝おう。
ある程度逃げて戻ってくれば良いのだろう?
それでも不良達が撤退しない様なら、
ジンとどうしてもサシで戦いたいから、申し訳ないが部屋を譲ってくれと
不良達に頭を下げて下手に出てやる。

不良を全然撤去させたら戦闘開始。
俺は出来る限り前の方に出て、
手下の頭数を減らす事に専念する。
悪いが手加減は趣味じゃない。
初めから、スカイキャリバーや切り裂きを多様した、
積極攻勢で戦わせてもらう。
敵の頭数は、一人ずつ確実に減らしていく。

ジンの部下を全員倒すまでは、
多少の怪我は無視するつもりだ。

ジンの様な男にこそ、
正攻法で死ぬものぐるいの努力をして、
心身共に強くなって欲しいものだがな。

<リプレイ>

●混迷深まる
 不良の集団に紛れ込んだエンドブレイカーたちは、今まさに倒れ込む大柄な男を目にした。
「これで俺がボスだな。文句があるなら俺を殺してみろ」
 ジンがそう言い放つ、ここまでは既知。この先にある結末を壊すことがここに来た目的だ。
「こんな場でいい度胸だな。それなら次は俺達の相手でもして貰おうか? いいな! 余計な奴等は……邪魔するなよ!」
 真っ先に応えたのは剣のスカイランナー・グロウ(c02820)。呼応するように不良たちに紛れていたエアシューズのスカイランナー・カタルーニャ(c00066)と大鎌の魔獣戦士・デランジェ(c02656)が飛び出していく。カタルーニャは足を大きく振って1回転して見せ、
「さあ、ぶっ飛ばされてえ奴からかかってきな! 一緒にぶっ飛ばされたくなきゃ、痛い目見る前に失せやがれ!」
 と見得を切る。思いもしない展開に戸惑う不良たちだが、そうもあからさまに脅されてはふざけるなよと気勢を上げる短気なものもいた。デランジェが獲物の大鎌を大きく振りかぶりながら、
「当たるから退いた方がいい、頼むぜ」
 と周囲に話しかけ、取りなすように忠告する。この場に集まったものたちは、判断に迷い身動きがとれない様子だ。近隣同士、抑えた声で会話を交わす姿がそこかしこにある。
 槍の群竜士・シン(c00897)は怯えたふりをしながら周囲の動向をうかがった。傍らにはナイフのスカイランナー・ヒスイ(c04400)が崩れかかった壁に身をもたせかけ、静かにタイミングを計っている。そろそろ、残りの仲間が姿を現すはず。サクラとして真っ先に逃げ出してみせることがシンに与えられた役割であり、ヒスイはそれをフォローするつもりでいた。
 ふいに外縁のほうが騒がしくなった。広場の外側に隠れていた仲間たちが自警団のふりをして突入してきたのだ。
「此処の首魁を捕らえに来た。邪魔をせねば良し。さっさと失せよ。否と言うならば……巻き込まれて死んでも責は負わぬぞ!」
 大剣の城塞騎士・ガルヴズ(c02903)が見せつけるように大剣を一閃しながら堂々たる金属鎧姿を見せる。
「ボーッと突っ立ってる邪魔者は失せな!」
 大剣の城塞騎士・エミーリア(c02851)が怒鳴りつければ、
「他の仲間にも連絡を出しましたっ。捕まればお仕置きですよー」
 ハンマーの城塞騎士・リンダ(c01952)がハンマーを振りかぶり飛び込む。そして金属鎧をまとった面々の後ろから、扇の星霊術士・イチヤ(c00837)が悠然とその姿を現し、静かに脅しつけた。
「さてさて、其処な小童共よ。逃げるならば今しか無いが……、如何致す?」
 そして扇で口元を隠し、冷然と微笑みながら言葉を足した。
「……まあ正直逃げようが逃げまいが儂は構わぬが、うっかり、ついうっかり殺っちゃっても、その時はまあ許せよ?」

●戦いの火蓋
 明らかに自分たちとは異質なものたちの登場に、不良たちは浮き足だった。サクラを演じるならここしかない、そう判断したシンは、
「に、逃げろー! 自警団のやつらなんかと真っ当に相手していられるか!」
 叫びながら全力でその場から逃げ出してみせる。もう一押しいるな、ヒスイは決断すると、ゆるりと壁から身を離し、シンの後を追って逃げるふりをする。それが引き金となった。もとよりジンに恐怖を抱いていた不良たちは、さらに自警団を相手にする気概などない。我先にと、広場から四方八方へ逃げ出していく。あとに残るはジンとその配下、そしてエンドブレイカーたちだけだ。それを確認したハルバードの魔曲使い・エイル(c01491)も姿を現した。
「変えてやるよ……、こんな不幸な結末なんて……!」
 自らの家族は助けられなかった、ならば自らの手が届く範囲だけでも不幸な結末をたたき壊したい。エイルは強く思いを込め、ハルバードを構えた。他の仲間たちもジンと配下に狙いを定め、武器を構える。
「俺達は、お前達の結末を砕きに来た!」
 とグロウも身にまとった外套を脱ぎ捨て、改めて名乗りを上げた。
「なんだおまえら、グルかよ」
 ここまで静観していたジンは、連携して動くエンドブレイカーたちを目にしてつぶやくと、
「何にせよ、皆殺しにするだけだ!」
 叫びを上げ、その右肩に仮面を浮かび上がらせて飛び出した。あらぬ方向に進んだように見えたが、ステップを踏み鋭角的に進路を曲げる。狙いはガルヴズだ。正拳突きを鎧の上からたたき込む。
 重い一撃を受けたガルヴズだが倒れることなく踏みとどまった。逆にチャンスとばかり脇を締め防御を固めつつ、大剣を振り下ろす。
 力に優れた城塞騎士は重い金属鎧を着てでさえ、その動きが鈍重とならない。振り下ろした大剣はジンを切り裂いた。
 さらに上空からグロウがジンへと迫る。
「そう簡単に、動き回らさせるかよ……ッ!」
 錐揉みするように肉薄するグロウが振り回した剣は、おしくもジンに打ち払われた。
 攻撃を受けるジンを補佐すべく、配下の一人が前に出ようとするが、
「そうはさせませんよー」
豊満な肉体を見せつけるように振り下ろされたリンダのハンマーが進路を塞ぐ。辛くも受け止めるものの、それ以上ジンに近づけない。
 他方ではエミーリアが配下を牽制するべく、大剣を振り回す。なぎ払われた刃は配下にきれいに食い込み、その身体を吹き飛ばした。
「それ、そっちに飛んでいったからよろしくね」
「へっ、任せとけよ」
 目の前に飛んできた配下にカタルーニャのエアシューズが突き刺さった。
 デランジェは大鎌を振り回し、攻防一体の攻撃を仕掛けた。一人たりとも逃がす気はない。配下の一人を目標とし、逃がさないよう囲むことを意識して押さえ込んでいく。

●反撃に至る
 エンドブレイカーたちはジンとその配下をうまく分断し、協力させずに戦うことに成功していた。
 エイルは先ほどからジンの動きを止めるべく、魔曲により闘志を奪う機会をうかがっていた。ジンの注意がそれた瞬間、魂を誘惑するような歌声を浴びせかける。その魅惑的な声はジンの動きを束縛し、自由には行動させない。
 イチヤは戦場全体を見渡し、傷ついた仲間を精霊スピカで癒している。仲間がうまく敵を押さえつけていてくれるため、流水演舞や精霊スピカに集中できているのだ。
「……む、かたじけない。助かったよ」
 感謝の言葉を仲間にかけつつ、イチヤはその力を存分にふるう。
 全体として戦況は狙い通りになっているものの、しかし今のところ決め手に欠けていた。
「均衡が崩れねぇな。おっちゃんたちの方に回りたいんだが」
デランジェがぼやきながら、魔獣の力をまとった腕で配下の一人に食らいつき力を奪い取る。
 そのとき上空から現れた影がジンの配下にナイフを突き込み、さらにギロチンのごとく刃を振り下ろす! 配下はたまらずもんどりうって倒れこんだ。膝をついて着地した姿勢から素早く立ち上がった影はヒスイだ。
 時を同じくして、別の配下へと正拳突きから肘打ちの連携で追い打ちをかける姿があった。
「我流なものですので、正攻法は期待しないでくださいね」
 とうそぶきとどめを刺すのはシン。サクラ役を果たし終えた二人が広場へと戻ってきたのだ。この加勢により、戦況は大きく動き始めた。一度戦力に偏りが出れば、均衡はすぐに崩れる。ジンの配下たちは倒され、残るはジンのみだ。

●最後に残ったものは
 周囲をエンドブレイカーたちに取り囲まれ、もはや満足に動き回ることのできないジンは、己の爪を異形化させ抵抗に出ていた。
「貴様が得た『モノ』は『強さ』に非ず。それは『堕落』と呼ぶべきものだ」
 ガルヴズが説き伏せながら大剣を振るう。その渾身の力が込められた一撃は、切り裂くというよりはむしろジンを打ち据えた。
「俺はまだまだこれからだぜ。生きて帰れると思うな!」
 それはジンの精一杯の虚勢だろうか。マスカレイドの力を得たジンといえども、さすがに多勢に無勢。追い込まれていく。
 ジンが苦し紛れに振るった爪がエミーリアをとらえた。
「そんなモンで強くなったって言えるワケ?」
 しかしエミーリアにクラッシュされてしまい、傷を負わせることはかなわない。
(「情けねえ野郎だな、あんなので強くなったと思ってやがる」)
 カタルーニャはジンの振るう異形の力を心中でけなすと、エアシューズを振りかぶり衝撃波を飛ばした。2つの弧を描く衝撃波がジンを吹き飛ばす。
(「テメェは強くなったつもりみてぇだが、マスカレイドに憑かれたところでテメェは弱ぇんだよ……心が、な」)
 エイルは、もはやよろめきながら爪を振るうジンを哀れみながら、なおも魔力を秘めた歌声でジンの動きを縛っていく。
 そしてリンダが振り下ろしたハンマーがジンを捕らえた。
「これで最後っ!」
 直後下からすくように振り上げた一撃がジンへと吸い込まれ、その身体が浮き上がり、そして地面に落ちる。ジンが立ち上がってくる気配はない。右肩の仮面が徐々に輪郭を崩し、まるで空気に溶けるかのように消え失せた。
 リンダは無事目的を果たしたことを祝い勝利の踊りを踊る。
「お前が得たのは強さなんかじゃない。ただの……最悪な結末だよ」
 ジンの終わりを見届けたグロウはそう独りごちた。
「面倒に巻き込まれるのはゴメンだし、すみやかに撤退しましょ」
 エミーリアが仲間に声をかけると、皆がうなずき、武器を納め広場から去る準備を始める。
「これで終わったし呑むぞ! 誰か付き合わねえか?」
 騒がしく引き上げていくデランジェに、
「おぬしのう、ちと浮かれすぎてやせんか。まぁ儂は飲めぬが」
 イチヤがあきれたように首を振る。
 最後になったヒスイは元の姿に戻ったジンの遺体を見つめ
(「ジンの様な男にこそ、正攻法で死ぬものぐるいの努力をして、心身共に強くなって欲しかったものだがな」)
 と心の中で声をかけた。そして、もう残る思いはないとばかりに振り返らず立ち去る。
 後に残るはちっぽけな遺体がひとつだけだった。
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