<逃げ出す先にあるものは>
■担当マスター:魚通河
●外へ「誰が休んでいいと言った!」
鞭が身体を打つ激しい音。一撃を受けた少年が作業台に倒れ込み、真っ赤なものが飛び散る。
薔薇の花弁だ。本物ではなく、造花にする為の布製の花弁である。
花弁を作り作業台に積み上げていた少女が、冷たい石床に膝をつき散らばった分を拾い始める。
「いいか、お前達は村の掟を破った罪人なんだ。懸命に働いて罪を償わなければならない」
鞭を手にした村長は作業場を眺め回す。まだ中年と呼ぶには若い、鋭い眼つきの男だ。
「ひっ」
村長と眼が合ったラグが、怯えてスイフトの腕を掴んだ。
「ラグ、全然作業が進んでいないじゃないか。悪い子だ」
「弟は熱があるんです。俺が弟の分も働くから、この子を家に帰して下さい」
スイフトがラグを弁護する。村長はラグの汗ばんだ額に乱暴に手を伸ばした。
「この程度の熱、何の問題もない。早く作業を続けろ」
「もう3日も働かされ続けて、俺達はこんな目にあわされる程の悪い事なんか……」
そこで口ごもるスイフト。村長が無言で鞭を構えたのだ。鞭の痛みは既に身体に覚えさせられている。恐怖を忘れようと、村長を睨みつけて続ける。
「そんな悪い事なんかしていない。こんなのおかしい……うっ!」
鞭が肩に食い込む激痛で、スイフトの顔が歪む。
「口答えするな! この村の長は私。罰を決めるのも私だ!」
「兄さん、もうやめて。僕頑張るから……」
目に涙を滲ませるラグ。
「もう嫌だ!」
悲鳴をあげたのは作業台に倒れ込み、傷の痛みに呻いていた少年だった。脱兎の勢いで作業場の外へ駆け出すと、村長も彼を追って通路の奥へ消える。スイフトは村長の横顔が怒りにひきつっているのを見た。
やがて冷たい石の廊下を伝わって、絶叫が作業場に届く。
「彼は逃げ出してしまったよ」
戻るなり、村長は何食わぬ顔で言った。
「遠い遠い所へ旅立った。もう村には戻れないだろうな。罪を償わずに脱走したとあっては。……お前達はあんな真似をするなよ?」
逃げれば命はない。少年の絶叫を聞いたスイフト達は無言で理解する。
「誰か助けて……」
ラグが震えながら囁いた。そっと額に手を当てると、熱は前より酷くなっている。
医者に連れて行くには逃げ出すしかない。スイフトは胸の内で逃げる算段を始めていた。
●中へ
「この村の特産品らしいんだが……俺には似合わないかな」
トンファーの群竜士・リーの手の中には造花の薔薇がある。
「それはそうと、マスカレイドを見つけたぜ」
リーは語る。
マスカレイドになってしまったのは、ここの村長だ。村人を無理やり働かせ、作らせた大量の造花を売って一儲けしようと企んでいる。
「登ってはいけない木に登ったとか、夜中に外へ探検に出たとか、ちょっとした悪さをした事は誰だってあるだろ? 村長はそういうささやかな掟を破った者達を、奉仕活動として軽作業させるという名目で自分の館に集めているんだ。だが、実際には労働は過酷で、逃げようとする者は殺してしまう。何だかんだと理由をつけて会わせてくれない上に、もう何日も戻らないんだ。連れて行かれた村人の家族や友人も心配し始めている」
早くマスカレイドを倒さなければ、新たな脱走者や不審に思って様子を見に行った村人が殺されてしまうかも知れない。
「倒すためにはまずマスカレイドに近づかなきゃならないよな。その方法だが、まともに館を訪ねても多分追い返されるだろうな。ただ、忍び込むのは難しくなさそうだぜ」
館は村外れにあり、裏口からなら村人に見咎められずに侵入できるという。
「それから、館では村長に追われる脱走者と鉢合わせるかも知れないぜ。その時は慎重にな」
村人はエンドブレイカーの事も、マスカレイドの存在も知らない。たとえ正直に話した所で、信じてはくれないだろう。
館に侵入した怪しいよそ者だと思われれば、素直に守られてくれる保証はない。不信感を抱かれないように上手く話をする必要がある。
「最後にもうひとつ……苦しめられる人を助ける為に、マスカレイドは倒さなきゃならない。だが、俺達は何か公に認められた権利を持っている訳じゃない。マスカレイドを倒したらすぐにその場を離れなきゃ、村長殺しの罪でこっちが捕まる可能性もあるんだ。皆さん、気をつけてくれよ!」
リーゼントは変だが性格は細やかなのだ。リーは造花を握ったまま、少し心配そうにそう結んだ。
●マスターよりはじめまして。若しくはお久しぶりです。魚通河です。オープニングを読んで頂きありがとうございます。 『エンドブレイカー!』の世界で実際に生きているキャラクター達の姿を、何とかして書いていきたいと思っています。 よろしくお願いします。 マスカレイドとなった村長を倒せば成功です。 ・ラグとスイフト 10歳と14歳の兄弟。キャラクター達が館に侵入すると、広間で村長から逃げてくる2人と出会う事になります。 ラグは熱があり、自分では走れません。スイフトに背負われています。 ・村長 ラグとスイフトを追って広間にやって来ます。 マスカレイドの力を発揮すると、右手が茨の鞭に変わります。鞭の棘には毒があり、毒に侵されると継続的にダメージを受け続けます。 更に何処からともなく3体の配下マスカレイドを呼び出します。配下マスカレイドは普通の鞭を手にした戦士型の敵です。 ・広間 戦闘に充分な広さがあります。 ・リー リーはキャラクターに同行しません。 |
<参加キャラクターリスト>
● ナイフのスカイランナー・リタルダンド(c02127)
● トンファーのスカイランナー・アスティ(c02556)
● 大鎌の魔曲使い・シロ(c02654)
● 杖の星霊術士・オールドローズ(c03303)
● 盾の城塞騎士・ロニカ(c03850)
● アイスレイピアの星霊術士・ソナタ(c03903)
● 太刀の狩猟者・アレート(c04031)
● 剣の城塞騎士・フェミルダ(c04105)
<プレイング>
● 竪琴の魔曲使い・カイユー(c00575)
【心情】
…村長…ううん、マスカレイド…。こんなの…酷すぎるよ…。
みんなを、無事、家族のもとへ帰したい、な…。
【作戦】
攻撃優先度→配下>村長。
前衛、後衛に分かれる。ボクは後衛。
【戦闘】
積極的に攻撃するより、敵を足止めするよう行動。
誘惑魔曲とディスコードで敵を魅了、精神の破壊を試みる。
もし前衛の攻撃から村長が逃れたら、すぐに誘惑魔曲で闘志を奪う→マヒの効果を与える。
「……行かせはしない、よ…」
配下にも、同じように技をかける。
「…君たちは……ジャマ」
劣勢になった場合は、積極的に攻撃を開始。
配置は後衛のまま。
【戦闘後】
「……終わった、ね…。…みんな、お疲れ様…」
倒れる村長に視線を向ける。
「……おやすみ」
現場から即撤退する。
● ナイフのスカイランナー・リタルダンド(c02127)
裏口から静かに侵入します。
戦闘前に、兄弟が村長と接触しそうな場合は
村の者から雇われて様子を伺いに参りました、
などと言いながら村長に言い寄っていきます。
ラグとスイフトの2人が逃げ出すまで、できる限り村長に粘ります。
その際は造花の品質の高さや美しさを褒めちぎって
村長の機嫌をとるように話を続けたいと思います。
戦闘に入る、攻撃されるなどした場合はナイフで応戦をします。
「そのような下品な戦い方…上に立つものとしての品性を疑いますね」
味方が一人の敵を集中攻撃している際には、
それに加わらずに他の敵の足止めを行います。
足止めは常に敵の進行方向側に回り込むようにして行い、
できるだけ後衛に近付かせないようにします。
足止めの際にはスカイキャリバーを使い、
それ以外では切り裂きで対応します。
GUTSが三分の一以下になった場合は、後衛の方に回復をお願いしてみます。
● トンファーのスカイランナー・アスティ(c02556)
他のメンバーの呼称:基本的に名前を呼び捨て。
戦闘時のポジション:前衛
行動方針
裏口から内部に侵入して村長のところに向かう。
ラグとスイフトに関してはオールドローズを中心に、同じ村の村人からでは言いにくい、確認しにくいから様子を見てきて欲しいと村人から頼まれて屋敷にやってきた旅人の一団という立場で接触する。
ラグとスイフトには病気の弟のことを指摘して可能ならその場からすぐに立ち去ってもらう方向に話を持っていく。
戦闘時
前衛としてスカイキャリバーを中心に接近戦で戦う。
まず呼び出された配下から攻撃していき、その後村長に攻撃する。
村長と配下がその場を突破して逃げ出す、またはラグとスイフトを追おうとした場合、攻撃を行い足止めしたり、前に立ちふさがるなどして優先的に阻止する。
後衛に接近されないようにも注意する。
戦闘終了後
村人に見つかると面倒なので、裏口から速やかに立ち去って村を後にする。
● 大鎌の魔曲使い・シロ(c02654)
裏口から侵入したら、ラグ&スイフトくんを外に出すことをまず優先
2人を驚かすといけないから、戦いまでの間、武器はすぐ近くの物陰に隠しとく!
あとは僕も説得のサポートにまわろうかな
「このお兄ちゃんたち、実はいくつもの事件を解決してきてるすごい人なんだよーっ」
そして早く外へ行くように誘導するね
「背中の子、とってもつらそう。ここは僕たちに任せて、早くお医者さんに!」
◆戦闘
武器を手にとって、後衛で誘惑魔曲を詠うよ
できるだけ雑魚から集中狙いで、一人ずつ倒したいなー
でも敵が突破しようとしたり、僕を狙ったら黒旋風で迎撃
みんなにも敵の動向を知らせるよ
それからオールドローズちゃんかソナタくんが狙われたら全力でかばう!
二人が倒れたら回復できないもんねー
村長を倒したら、人目につきにくいルートを選んで、
すたこらさっさと撤退!
「エンドブレイカーも楽じゃないよねー。でも……これで多くの人が救われるなら、それでいいかな?」
● 杖の星霊術士・オールドローズ(c03303)
■説得
兄弟に遭遇したら、前衛が敵を引きつけてくれている間に説得を試みる
追いついた村長・配下の足止めは前衛を信頼して任せ、とにかく兄弟を館から出すよう集中
「わたしたち、旅をしてるの。この村を通りかかったときに事情を聞いて、村のとある人に、ようすを見てきてくれって頼まれたの」
「村長さんに追いかけられてるの?じゃあ、ここはわたしたちが食い止めるから、あなたは早く弟さんをお医者さんに診せてあげて?」
「(仲間を指しつつ)大丈夫。みんなとっても強いから、ね。まかせて」
■戦闘
主に「星霊スピカ」での回復と仲間のフォロー
後衛で戦況を見る
前衛が敵と戦っている時に、配下に襲われる等すれば
「マジックミサイル」で前衛が対処しきれない敵を攻撃
自分も身体を張って戦いたいが、自分が倒れれば仲間を回復できるのがソナタ一人になってしまう為、仲間を信じ余計な動きは一切入れない
■戦闘後
とっとと逃げる
● 盾の城塞騎士・ロニカ(c03850)
{洋館に侵入する}
1.裏口から侵入する
2.広間に向かう
{ラグとスイフトに出会った}
1.事情の説明をオールドローズと他の人に頼む
2.それが出来ない場合は僕が事情を説明する
/*村の人から依頼され様子を見に来た*/
{戦闘}
{敵}
1.1人で戦うことを避ける
2.罵る言葉で挑発する
{村長}
1.村長が力を発揮した場合は、仲間に対して注意を呼びかける
/*村長の右手の鞭には毒が仕込まれている。みんな注意するんだ!*/
2.前衛の誰かが毒になった場合は攻撃を控え、その人を守る
3.配下を呼び出す素振りがあったなら周囲を見渡す
{配下}
優先的に攻撃する
{村長を倒した}
その場を立ち去る
{戦闘陣形}
1.前衛は5人、後衛は5人
2.僕は前衛だ
{戦闘方法}
/*
省略記号
AB1:近ディフィンスブレイド
AB2:近シールドバッシュ
*/
1.敵を発見したらダッシュで近づき攻撃する
2.初めはAB1のみを使用する
3.AB1で(防御を固める)が1回でも成功した場合はAB2を使用する
4.以後の戦闘中ではAB2のみを使用する
● アイスレイピアの星霊術士・ソナタ(c03903)
村人に見られないように気をつけながら屋敷の裏口から侵入
兄弟を含めた脱走者に出会った時は、村長との間に入って匿いながら手早く説得
俺たちのことは「連れて行かれた人を心配したある村人(匿名)から様子を見てくるように頼まれた旅人の一団」ということにする
内容に齟齬があれば先に発言した人に合わせる
説得はオールドローズ中心に
後は様子を見ながら補足
「村の人も逆らうのが怖いみたいだから…外の人の方が色々安心ってことみたい」
「暢気に話してる時間はないな…ここは任せて早く行って」
「こういうことには慣れてるから任せろ」
戦闘では後衛で星霊スピカの召喚&仲間の回復をメインに行動
回復はよりGUTSが削られた人を優先して、オールドローズと協力しながら過不足なく行き渡らせる
回復が必要ない時、攻撃手が足りなければ前に出てアイスレイピアで攻撃
攻撃優先順は配下>村長
標的は仲間に合わせる
戦闘後は速やかに屋敷から出て村から離れる
● 太刀の狩猟者・アレート(c04031)
上に立つものがこんなんじゃ…村人はつらいだろうな…。少しでも良いエンディングが成るように精一杯頑張りましょう。
【戦闘前】
ラグとスイフトの説得は基本他の人に任せて。
ただしこちらを疑うような目で見る場合は何も言わず、又は大丈夫ですよ、と短く言ってに微笑む。あまり口が達者じゃないですからね…。
【戦闘】
後衛でファルコンスピリットを使っての攻撃をメインに。相手の視界や目標が定まらないよう邪魔になるように飛ばせ、その合間に攻撃させる。基本足止めのため。
もしも前衛をすり抜けて敵がくる、又は前衛のみでは足止めができなかったり体力の消耗や傷つきが激しかった場合は前衛よりに動き、太刀での居合い斬りで応戦する。
ラグとスイフトの安全のためにも誰も通さない、そんな覚悟で。
【戦闘後】
直ぐ様撤退。村人や捕まっている方々と出会わないようにさっさと。
● 剣の城塞騎士・フェミルダ(c04105)
急いで現場に向かい、人目につかないように忍びこみます。
正体を隠せるようなフード付きのマントやマフラーを用意します。ただし、準備に時間がかかり手遅れになりそうなら諦めます。
逃げてきた兄弟と会ったら、何も語らず彼らを追って来る存在から守れるような位置に回り込みます。
説得などは仲間に任せ、私は壁役として警戒に専念します。
敵が現れたら、前衛として敵の突破を防ぎつつ戦闘を行います。
他の前衛と連携し、敵達の攻撃が一人に集中しないように立ち回ります。
配下が顕在な内はディフェンスブレイド主体で防御重視の戦闘を行います。
まず配下達から一人ずつ攻撃を集中させていき、早期に数を減らしていきます。
自身が防御強化状態になったら、十字剣での攻撃を織り交ぜ攻撃力強化を狙います。
事後は面倒事にならない内に急いで村から逃げ出します。
<リプレイ>
●出歩く姿も少なく、人の声も途絶えがち。村は暗く沈んで見えた。異変を感じながら言い出せずにいる人達の、不安の表れかも知れない。
村長は幾度も理由をつけて、家族友人に会いたがる村人を追い払ったという。今では館に近づく者も殆どいない。これから館に忍び込もうとするエンドブレイカー達にとっては都合のいい事だった。
「錠がかけられておりますね。少々お待ち下さい」
裏口の扉を検分したナイフのスカイランナー・リタルダンド(c02127)が仲間を振り返り、一礼する。こんな時でも丁寧な物腰を崩さない彼は、取り出したナイフでなるべく静かに錠を壊しにかかった。
「……ターコイズ……、ボク達に、武運を……」
竪琴の魔曲使い・カイユー(c00575)はよく通る声を潜めて、祈りの言葉を囁く。両腕に抱かれた竪琴には青みがかった宝石があしらわれ、見つめるカイユーの穏やかな視線の先で光を放っていた。
「だーいじょうぶ! 僕達ならきっとできるよ」
小さく絞った声量でもハイテンションなのは大鎌の魔曲使い・シロ(c02654)。これが初めての仕事だというが、緊張した様子は全く見られない。
「必ずやり遂げよー! おー」
「そ、そうだよね。頑張ろう」
「みんなを、無事、家族のもとへ帰そう、ね……」
屈託ないシロの笑顔に、盾の城塞騎士・ロニカ(c03850)とカイユーもつられて微笑む。
(「そう。これ以上犠牲者を増やさず、不滅のエンディングを壊す為にはこうするしか。でも……」)
剣の城塞騎士・フェミルダ(c04105)はフードを深く被り、胸の内で呟く。
村長であるマスカレイドを暗殺する。それは法を犯し、罪と呼ばれる行為に手を染める事だった。
心を苛む罪悪感を割り切るにはどうすればいいか、フェミルダはまだ知らない。フードとマフラーで顔を隠し、声を殺す事で何とか折り合いをつけていた。
(「いけない。こんな事では……」)
迷いを捨てて集中しようと、視線を扉に向ける。
「お待たせいたしました」
ナイフで錠を破壊したリタルダンドが、裏口の扉をそっと押し開いた。
「さあ」
トンファーのスカイランナー・アスティ(c02556)が皆を促す。金色の瞳は迷いなく通路の奥を見ていた。
「気に入らないエンディングは叩き潰してしまおう。マスカレイドと一緒にね」
それができるのは自分達だけなのだ。やらない理由は無い。
アスティ達は静かに館へ侵入した。
●
「待って、話を聞いてほしいの」
杖の星霊術士・オールドローズ(c03303)がラグを背負ったスイフトに声をかける。
2人に出会った場所は、館の広間だった。燭台の灯火が不安定にゆらめき、重厚な柱の影を石床に映している。
見知らぬ集団に出会ったスイフトは反射的に背を向け、来た通路を引き返そうとした。だがオールドローズの声を受けてこちらに向き直る。
「君達は誰?」
焦りを含んで早口に、スイフトは問うた。眼には怯えと疑いが浮かんでいる。
「危害を加えるつもりはないよ。落ち着いて聞いて」
アイスレイピアの星霊術士・ソナタ(c03903)は無表情に言う。自分より幼いソナタの落ち着いた様子に、スイフトの焦りは薄らいだようだった。オールドローズが続ける。
「わたしたち、旅をしてるの。この村を通りかかったときに事情を聞いて、村の人に、ようすを見てきてくれって頼まれたの」
「本当? 実は……」
スイフトは手短に事情を話す。
「大変だったのね。村長さんにはわたしたちがお話しするから、あなたは早く弟さんをお医者さんに診せてあげて?」
オールドローズには親も兄弟もいない。仲のよい兄弟の姿が彼女には羨ましかった。だから2人に助かって欲しい。助けたい。
(「お願い。無事ににげて……」)
知らず力が入り、杖をぎゅっと握り締める。オールドローズの小さな指先が白むのを見て、スイフトの疑いは消えたらしい。ただ心配そうに言った。
「でも村長は何か、普通じゃないんだ。力もすごく強いし、君達も逃げた方が」
「心配しないで。このお兄ちゃん達、実はいくつもの事件を解決してきてるすごい人なんだよーっ」
スイフトは自分達だけ逃げる事に抵抗があるらしい。安心させようと、シロが明るく言い切った。
「そういう事にも慣れてるんだ」
ソナタもシロに続いた。2人の言葉を確かめるように、一同を見回すスイフト。
「大丈夫ですよ」
彼と視線が合った太刀の狩猟者・アレート(c04031) は短くそう言って微笑む。
(「あまり口が達者じゃないですからね……」)
その時、誰かが駆けて来る足音が広間に届いた。ソナタがスイフトを促す。
「村長だ。暢気に話してる時間はない」
「解ったよ。ありがとう」
兄弟はソナタ達が通ってきた扉をくぐり、裏口へと向かう。
「しっかりな、お兄ちゃん」
自分の兄弟の事を思い出しながら、ソナタはスイフトの後姿を見送った。
●
「貴方が村長でしょうか?」
広間に姿を現した男に、リタルダンドが恭しく問いかけた。
「そうだ。貴様等は何者だ」
村長は鞭を構え、尊大に言い放つ。
質問には答えず、標的を確認したリタルダンド達も武器を抜いた。シロが大鎌の切っ先を村長に向け、宣言する。
「キミみたいな人、大嫌い。結末は僕達が決める」
「スイフトが余計な事を喋ったな」
村長が自分の顔をひと撫ですると、顔の右半分を覆う仮面が現れる。マスカレイドの証だ。
「気をつけて、手下が」
気圧されしながらも注意を促すロニカの声。いつの間に出現したのか、鞭を手にした戦士の姿のマスカレイドが3体、それぞれ柱の陰から歩み出てきた。
「こいつ等の相手でもしていろ。逃げた2人の後でゆっくり始末してやる!」
村長の言葉と同時に、配下達が襲いかかってくる。その隙に回り込もうとする村長の進路に、素早く立ちはだかったのはアレートだった。
「止まって貰おうか」
「邪魔だ!」
茨の鞭と化した右手を振るう村長だが、攻撃は空を切る。アレートは舞うような動きで鞭の間合いの内側に入っていた。漆黒の長髪が宙を流れ、鞘を離れた太刀が閃く。
すれ違いざまに斬られた村長の呻き声は、だが不協和音にかき消された。カイユーがかき鳴らす竪琴の響きは村長の闘志を削るだけでなく、身体に残り、蝕み続ける。
「……行かせはしない、よ……」
「2人を追わせるわけにはいかない」
もし村長にここを突破されれば、ラグを背負って走るスイフトはすぐに追いつかれてしまうだろう。
「なんだ、大した相手じゃないな」
足を震えさせながらのロニカの挑発が、村長の顔を怒りに歪ませた。
「そうか。そんなに死にたいなら貴様等から殺してやる。その後、賊を手引きして妄言をまき散らす兄弟は広場で公開処刑だっ!」
仮面に隠されていない左眼が狂気に輝く。
兄弟を追う事を止めた村長と配下達の攻撃を、アスティ、リタルダンド、フェミルダ、ロニカが引き受ける形で戦いは続いた。
配下マスカレイドの鞭がロニカの腕を締め上げる。だが腕の痺れにも負けず、彼は盾を構えた護りの姿勢を崩さない。
畳みかけようと、アレートが鋭く口笛を吹いた。ヤンと呼ばれる彼のファルコンスピリットが肩を離れ、ロニカを襲うマスカレイドを切り裂く。
「惚れちゃうよ、僕の歌と、超音波!」
シロが大鎌をくるくる回して詠い、カイユーが竪琴を爪弾いて奏でる誘惑の魔曲。魅惑のフレーズが更に相手を弱らせ、警戒心までも失わせる。
「うわあっ」
最後に、勇気を振り絞って突進するロニカのシールドバッシュが、防御を忘れたマスカレイドを吹き飛ばした。壁に叩きつけられたマスカレイドは力無く倒れ、霧となって散る。彼等は村長が生み出したイマージュだったらしい。
自由になったロニカと遠距離攻撃を使う後衛役達は、別の配下マスカレイドに攻撃を集中させ、天秤はエンドブレイカーの側に傾いていく。
手負いとなったマスカレイドの繰り出す鞭を、フェミルダは構えた剣で打ち払った。城塞騎士が使う護りの剣だ。
打ち払った形から横に斬りつけ、怯んだ相手を手を休めずに縦に斬り裂く。
フェミルダの勢いに彼女のマントがはためき、そして止まった。縦斬りの手応えを感じた騎士は更なる追撃の必要がない事を悟ったのだ。また1体、マスカレイドが霧散した。
ロニカ、フェミルダ、アレート、カイユー、シロ、そしてリタルダンドと、囲まれて攻められる配下マスカレイドはがむしゃらに鞭を振り回す。だが粗雑な攻撃はリタルダンドの迎撃を誘うだけだった。
「そのような下品な攻撃……品性を疑いますね」
柔和な表情の下に、マスカレイドへの怒りを滲ませてナイフを振るう。鞭をかいくぐって斬りつけ、そのまま連続突きでとどめを刺す。最後の配下も塵となって消えた。
村長の猛攻は、幾度もアスティの闘志を激しく削っていた。
茨の鞭は肌を引き裂いて赤く染まり、棘から送り込まれる毒が身体を腐らせる。だがその度に、
「スピカ、お願い」
「出番だ、スピカ」
オールドローズとソナタが召喚する星霊スピカが、アスティの傷を癒してくれた。
ソナタのスピカがぴょこぴょこ踊りながら青い星を振りまくと、キュアスターの輝きを受けたアスティの身体から毒が消えていく。
オールドローズのスピカは傷口を舐め、撫でて闘志を湧き立たせてくれる。
「助かったよ、2人とも!」
2人の星霊術士は頷き、駆け出すアスティを見守る。スピカダンスの応援を得たトンファーコンボが村長を打ち据えた。
「しぶとい奴等め!」
カイユーが与えた毒のダメージとアスティの反撃を受け続け、強靭な肉体を持つマスカレイドにも疲労の色が見え始める。
「お待たせしました」
アレートの声。全ての配下を片付けた仲間がアスティ達に合流する。勝負の行方は定まった。
剣が、盾が、ナイフが、トンファーが、ファルコンスピリットが、魔曲が、村長を弱らせていく。毒の鞭は打ち払われ、またスピカの力で打ち消される。
「馬鹿な、こんな奴等に!」
勝ち目はないと判断した村長は鞭を振り回しながら逃れようとあがく。
「そ、そうだ。時間を稼げば村人が来て、村長である私を助けてくれる!」
「もう止めなよ」
頭上からの声。2本の柱の間を蹴り登って空中に駆け上がったアスティの眼が、村長を捉えていた。アレートの指示を受けたヤンがアスティの身体を貫き、活力を与える。
「十分好き勝手しただろう? 大人しく相応しい末路を受け入れたらどう?」
「ただの人間が私を見下すなっ!」
鞭が唸りアスティを打つが、加速したアスティは止まらない。高所から振り下ろされたトンファーが、ついに村長の仮面を砕いた。
砕け散った仮面は塵となって消え、異形化した右手も元に戻る。残ったのは、ただの男の死体だった。
村長が言っていた通り、スイフトから話を聞いた村人達が今にもやって来るかも知れない。一行は素早く広間を後にする。
「手向けの花は要らないよね。ばいばい」
敵だったものに背を向けたまま、シロが呟いた。
「それでは、ご無礼致します」
最後に部屋を出るリタルダンドが別れの言葉を残す。ゆっくりと軋む音を立てて、扉が閉じられた。
●
天井から注いでいた光が途絶えると、都市国家にも夜が来る。
村ではいくつもの灯火が揺れ、喧騒が続いているようだった。その内容までは解らない。灯りが届かない闇の中に、エンドブレイカー達はいた。
「……終わった、ね……。……みんな、お疲れ様……」
ここまで来ればもういいだろう。気を抜いたカイユーは疲労と睡魔に襲われてふらつきながら、皆の後をついていく。
「……ありがとう、ね……」
仲間の背中に感謝の言葉をかけながら、竪琴の宝石を撫でる。
「こちらこそ!」
後ろ向きに歩きながら、シロが言う。疲れた様子のカイユーの姿に、ぽつりと漏らした。
「エンドブレイカーも楽じゃないよねー」
でも、これで多くの人が救われるなら、それでいいかな、と思う。
オールドローズは昼の間に手に入れていた造花を取り出し、考えに耽っていた。
スイフト達村人が、オールドローズ達の行為をどう捉えているかは解らない。だがやはり、今後あの村に近づくべきではないだろう。
「ラグとスイフト、幸せになるといいな」
ソナタの言葉にオールドローズは頷く。2人はしばらく、村を遠くに眺めていた。
フェミルダは仲間の様子を静かに見つめる。フードとマフラーに隠されたその表情は、外からは窺い知れない。
彼女とマスカレイドの戦いは、まだ始まったばかりだ。