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食料庫に潜む黒き巨体

弓の狩猟者・ナターリア

<食料庫に潜む黒き巨体>

■担当マスター:織音夏景


 村の片隅に、住むものが亡くなって久しい建物がある。
 住民達はこの廃墟を、作物を保存するための食料庫として利用していた。
 月に数度、村人が訪れるだけのひっそりとした空間だ。
「よ……いしょっと」
 そんな食料庫の扉を開いた、1人の少年。
 母親から、昼食の材料にする野菜を取ってくるよう頼まれてきたのだ。
「えっと、にんじん……にんじん……あった!」
 少年がお目当ての野菜を籠に入れた、そのときだった。
 奥の方で、何かが、動いた。
「だれ?」
 瞬間、自分よりも先に誰かが来ていたのだと思ったのに。
 その通りであればよかったのに、なのに。
「うわっ……来ないで、やめっ!」
 現れたのは、大きな熊だった。
 異変に……荒らされた畝や散らかされた食べかすに、もっと早く気付けていれば。
 逃げるよりも、出口を目指すよりも早く、熊に喰い尽くされてしまった少年。
 頭部から足先まで、髪も靴も……骨すらも残さず。
 わずかな血溜まりが、儚くも地面に吸収されていった。

 集まったエンドブレイカー達に対して、丁寧に一礼する女性。
 弓の狩猟者・ナターリアが、険しい表情で口を開いた。
「皆さん、よくぞお集まりくださいました。早速ですが、とある農地で獣型のマスカレイドによる事件が発生するという情報があります。マスカレイドを倒して、少年の命を守ってください」
 大きな弓を握る手に、ぎゅっと力をこめる。
 強い怒りを、マスカレイドに対して感じているのだ。
「獣型のマスカレイドは、知能が低い代わりに魔獣並の戦闘力を持っています。油断は禁物です」
 マスカレイドとの戦いこそ自身の使命であると、宣言するナターリア。
 ゆえに説明をする声音も、徐々に熱を帯びていく。
「討伐対象は、体長3メートルほどの熊型マスカレイド2体となります」
 マスカレイド化した熊1体の力は、エンドブレイカー5人の力に相当するという。
 そのため、戦闘にはそれなりの対策と覚悟が必要となるだろう。
「私達が行動を起こさなければ、マスカレイドの棲みついている廃墟を訪れた少年が熊の餌食となってしまいます。この廃墟は村の食料庫として利用されているのですが、はっきりとした場所は分かりません。荒らされないよう、村人達が場所を秘密にしているためです。何とかして食糧庫の場所を特定し、少年をマスカレイドから救ってください」
 食料庫の場所を知るための手っ取り早い方法は、こっそりと少年の後をつけること。
 だが少年や村人達に見付かれば、とても面倒なことになりそうだ。
 他には、少年と仲良くなって一緒に食料庫へ向かうという方法なども考えられる。
 しかしこちらも、少年に不審がられてしまえば出直しだ。
 成功率を高められるような作戦や工夫を、考えなければならない。
「最初にもお伝えしましたように、獣型マスカレイドは非常に獰猛で危険な相手です。しかし皆さんが力を合わせれば、必ず勝利できると信じています。無事と吉報を、心からお祈り申し上げます」
 そう激励して再度、ナターリアは深々と頭を下げる。
 必ずや勝利を……皆の心に、ナターリアの言葉が固く刻まれた。

●マスターより

初めまして、お読みいただきましてありがとうございます。
こちらでマスターをさせていただくことになりました、
織音夏景(おりねなつかげ)と申します。
皆様の素敵な冒険の日々を紡げるようがんばりますので、
今後ともよろしくお願いいたします。

マスカレイドの戦闘能力について、補足です。
攻撃は、熊の身体を使って繰り出しうるあらゆる方法を用いてきます。
なかでも巨大な口での噛み付きには、特に注意が必要です。
回避できればよいのですが、喰いつかれると重傷に陥る可能性もございます。
くれぐれも気を付けてください。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 剣の魔獣戦士・ウキョウ(c00183)
●全体
・行き倒れ班:先回り班で3:7にわかれる
行き倒れ班:ハレルヤ/ウキョウ/スレイド
先回り班:ガロ/セレス/シン/ヒメ/アレクシア/トウカ/ユキヒラ

●<行き倒れ班>行動
・少年と接触を試み、村の場所まで案内してもらう
・班名の如く行き倒れる
「腹減っちまってよー…動けねぇんだわ…」
・若しくは怪我を受けたふりをする
「腕やっちまったかな…くそ、さっきの変な獣め…これじゃ狩りできねーっつの!猟師の名が廃るぜ」
(少年に違和感を与えないため猟師の振りをする)

●戦闘
・熊を見つけ次第先制攻撃
・武器は剣 扱いはそこそこ慣れている
・アビリティ「近 十字剣」使用
「3枚におろしてやるぜ!そのあと鍋だ!」
(頭の中は熊鍋でいっぱいである)
・防御には不慣れな為攻撃されるとよろける

●<合流>
・出来るだけ大きな音を立てて行動し、先回り班に伝わるようにする
(大きな声を出す/わざと樹を切り音を出す等)

●最後
・熊鍋にして頂きます
・料理の腕には自信あり

● 暗殺シューズの群竜士・セレス(c01242)
▼行動
先回り班として行動
稀に行き倒れ班の位置を会話や物音で予測、その進行方向にある廃屋にターゲットを絞って敵を探す

行動中は物音を立てない様に注意して少年に存在を気付かれない様に

少年に見つかった場合
近くの村で『この辺で熊を見かけた』と言われたので退治に来たと言う
どっちの方向から来たのか?と聞き別の方向へ探しに行くフリをする

行き倒れ班を見失った場合
慌てず、戦闘などによる周囲の物音や敵の雄叫びを聞き逃さない様に注意し
方向が判った場合、その方向に移動しつつ行き倒れ班に場所を判別する為に声を出して貰う様呼びかける

▼戦闘
噛み付き・掴み掛かり・引き裂きを警戒する為、常に敵の正面を避け攻撃で近接する際は側面から竜撃拳で攻撃
重要なのは熊が片腕でしか迎撃出来ない場所の確保

接近戦が不利だと感じた場合ソニックウェーブに切り替える

2匹目を足止めしてくれてる人の事を考えると時間が足りないので積極的に攻める

● 暗殺シューズのデモニスタ・シン(c01513)
心情
 少年の不幸なエンディングを阻止するためにも、頑張りますか。

行動
 行き倒れ作戦で少年と仲良くなっている方々とは別行動です。
 熊や人の足跡から食料庫を見つける作戦ですね。
 あまり出入りのない場所とはいえ、生活拠点。それなりの場所にはあるはずですよね。
 そして子どもが一人で行ける距離、食料庫として適切な広さや保存環境にあるか……そういったことも勘案して、足跡を探し食料庫を推理します。
 あと、少年と仲間たちの声も場所を推理する重要なヒントになると思います。おおよその行く先が分かるのですから。
 先回り出来れば上々。彼らが先に食料庫に入ったのなら僕らも急いで入っていきます。
 先に見つけれれば、退治優先。後から追いついたなら少年の保護優先で行きます。

 戦闘
 基本的に遠距離攻撃ですね。熊とは距離をとってデモンフレイム で攻撃です。

● 大剣の魔獣戦士・ガロ(c01737)
【準備】
まず10人を班分けだ。以下の通り。
行き倒れ班:ハレルヤ・ウキョウ・スレイド
先回り班:ガロ・セレス・シン・ヒメ・アレクシア・トウカ・ユキヒラ

【行動】
先回り班として行動、行き倒れ班の動きを確認しながら熊の足跡等痕跡を探し食料庫を探す
成功して先に見つけられたらそのまま熊を探す
先に少年に出会った場合は熊がこの辺りに居る事を知らせる

行き倒れ班を見失った場合は行き倒れ班の声や物音等を目安に探し、見つける
また、鍋を鳴らす音がしたらそちらに向かって急いで向かう

【戦闘】
先回り班と行き倒れ班で別れ、先回り班はまず熊の1匹を集中攻撃し倒す
噛み付きとベアハッグ、爪攻撃等に警戒して闘う
出来る限りは正面を避けて闘うがやむをえない場合は正面で対峙
熊をワイルドスイングで攻撃していく
多少の被弾は覚悟し、全力で叩く

【戦闘後】
熊鍋にしていただく。味が良いと上機嫌。

● 弓の狩猟者・トウカ(c01931)
先回り班のみんなと行動。一緒に廃墟へ向かいます。
廃墟ってどのくらいの大きさなんだろう。どきどき…

行き倒れ班がくるまで近場の探索してみようかな。誰か一緒にいく?
食糧庫はみつけられなくてもどんなところだったか知りたいし。
警戒しつつ、あまり遠くに離れすぎないところまで。
もし熊さんでてきたら即仲間のとこまで逃げるよ!
その時はみんなで協力してやっつける。


鍋の音(もしくは仲間の呼びかけ)が聞こえたら周りを警戒しつつ合流します。
大きい音に反応して熊がくるかもしれない?
油断は禁物です〜

合流後、熊が現れたら仲間と戦います。
アビリティも使いつつ、近距離で戦う人たちの援護になるように弓で攻撃します。
特に熊の食いつき攻撃に注意。仲間が危ないときはすかさず援護射撃します。

● 杖の星霊術士・スレイド(c02047)
今回は熊を狩る猟師に扮し鉄鍋を背負って挑みます♪

食糧庫の場所を知る為少年と仲良くするべく『行き倒
れ寸前3人組』として接触。


食糧庫へ向かっているであろう少年を呼び止め
『この辺で大型の熊を目撃した人が居たって話で熊鍋食
べたくやって来たのですが燃料切れなのですよ〜』
と腹減り〜と熊情報を流しつつ、
『熊を仕留めたら村に提供するのでお昼をご馳走して
〜』と少年にお願い♪
+3人分の食糧を取りに食糧庫へ。


食糧庫の場所が判ったら何気に危険感知を行ったフリを
して熊さんが2頭居る事を触れておき、
『分け前へっちゃうけど応援頼みますかねぇ?』
背負ってた鍋を下ろし叩いて集合を呼びかけ。
『お母さんにお昼は熊鍋に変更ですよって連絡ヨロです
よ♪』と鉄鍋を少年に持たせ家へ帰します。

戦闘

時間稼ぎの3人班の後衛。

戦闘開始から星霊スピカが召還し回復支持。

獣の集中力を殺ぐ様な連打を願いMMを放ち二人を支援
します。

戦闘終了後は皆で熊鍋♪

● 鞭のデモニスタ・アレクシア(c02594)
さぁ、今回は強敵ですわね
私の任務は少年班のメンバーを守りきる事ですわ

幸いにして遠近両方が得意ですの、
これは生かさない手はありませせんわね

遠くならギガントフレイムが討てれば良いのですが
近かったら得意の鞭技で仕留めて見せますわ
行動不能も可能な鞭ですから積極的に狙わせて欲しいですの

それにしましても少年の保護チームの同行次第ですが
間違っても熊を逃がさないように注意が必要ですわ
担当している熊は即座に倒して、直に救出に向かうべく迅速に行動を心掛けたいですわね

無事に少年を逃がしているとは思いますが
まだ近くに居た場合は炎のデモニスタの技は制御が危険ですし打たない様にしておきますわ

無事に熊二匹を倒し終えましたら
少年のアフターフォローを行いつつ…その熊さんを食べられるのか気になりますわ

命をどんな形でも奪ったのですから
食べられる物なら食べて差し上げたいですわよね
料理は得意ですから可能なら私が調理して差し上げます

● アイスレイピアの魔法剣士・ヒメ(c03959)
両手を広げて深呼吸して気持ちを落ち着かせ
「さあ、行きましょう。熊鍋目指して・・(ニヤリ」

●『行き倒れ班』と『先回り班』に分かれる
『先回り班』

『行動』
熊の足跡・痕跡を捜索
発見次第その跡をたどる
「まだ新しいな・・急ごう!」
痕跡が見つからなかった場合
行き倒れ班が鳴らす鍋の音を頼りに急いで合流する

足跡・痕跡等で行き倒れ班より先に食料庫に着いたら、
先回り班の皆に周辺と建物内を確認するように促す

「中の様子と建物周辺の確認を。
もし何か戦闘に使える物があるなら、
存分に使いましょう」

●戦闘
先回り班7人で1体の熊に攻撃をしかける
凍結効果を最大限に発揮
1体を倒したらすぐに行き倒れ班と
残りの1体に総攻撃をしかける
熊からの攻撃には確実に避けるようにし無理はしない
「・・次の命へと生まれ変われ・・」

●戦闘後
倒した熊を調理し、村の人達と食す
少し離れたところで熊鍋を食べながら
「・・あの笑顔を守れて良かった・・」

● 大剣の城塞騎士・ハレルヤ(c04460)
★一人称 俺 二人称 名前
★どこかしこに曖昧言葉(みたいな、ような、感じ、っぽい等)

「初仕事ってやっぱ緊張な感じ?」
自分でできることがあるならと内心張り切っているかも

とりあえず床に寝て猛練習してきたから信用させる自信はある
ということで俺は今回の班分けで行き倒れ役
物凄い形相で訴えよう
「うぅぅぁ〜…い、今すぐこの胃の中にパンとか水とか干し肉くさいものを入れないと死んでしまうかもしれないみたいな感じだぁ…!」

同情をあおって案内させてもらったら別の班に目印をおいていこう、どの道を通ったかわかるように用意してきた木の枝を行く方向にむけてぽとりぽとりと。わかるといいな。

食料庫に辿り着いたときもし少年よりも先に危険に気づけた場合は大剣の俺がイザって時に盾役に前にでないとね。まぁもう芝居は必要ないっぽいし。
気づけなかった場合、二頭同時に現れた場合、緊急事態諸々の場合はできる限り素早くパフォーマンス通りに。

● 剣の魔獣戦士・ユキヒラ(c04757)
【意気込み】
「…静かな暮らし、なんで荒らしたがるんだか」
興味がなさそうに見えて、静かに怒っている

【行動】
『足跡等での先回り班』に参加。
熊の足跡を探すために地面に這うようにして探す。
「…だー、見つからねぇ」
真面目に探すものの、要領はそこまで良くない

【戦闘】
熊を見つけた場合、周りに大声で叫んで警戒を促す。
後衛の面子を気にかけながら大剣を振るう。
もし後衛に近づくようならば、いち早く駆けつけられる位置に。
基本はビーストスラッシュを中心に攻撃に回り、
片手で剣を持ち盾の代わりにして戦闘。
仲間が襲われた場合も、剣でかばうようにして戦う。

熊のダメージが加算してきた、と思ったときに十字剣を使用。失敗したらへこむ。

別働隊のことがあるので、出来る限り迅速に、を心がける。

【別働隊】
疲労が蓄積してるようだったらかばうようにして戦う。
「お疲れさん…俺らにまかせとけ」
労い、戦闘へ

【熊鍋】
料理専門。もう調理だけで楽しい。

<リプレイ>

●冒険への決意
 集まったエンドブレイカー達は、村の入り口で立ち止まった。
 何となく円形になると早速、作戦を開始する。
「まず10人を班分けだ」
 大剣の魔獣戦士・ガロ(c01737)の呼びかけに応じて、2つの班に分かれる面々。
 名付けて、『行き倒れ班』と『先回り班』だ。
「初仕事ってやっぱ緊張な感じ?」
 全身をほぐすように、大剣の城塞騎士・ハレルヤ(c04460)はその場で軽く跳ねる。
 内心では、自分でできることがあるなら……と張り切っていた。
「最初の任務ですわね。すごく緊張いたしますけど……逆にワクワクしている私がいるのが判りますわ」
 鞭のデモニスタ・アレクシア(c02594)も、ハレルヤと同じく心を弾ませる。
(「すべてはあの人物に近附くためですわ、そのためには泣き言なんていりません」)
 その胸には強く、譲れない決意を秘めて。
「……静かな暮らし、なんで荒らしたがるんだか」
 皆よりも半歩退いた地点で、剣の魔獣戦士・ユキヒラ(c04757)は低い声を漏らす。
 ハレルヤとアレクシアの2人とは逆に、マスカレイドに対して静かな怒りを覚えていた。
(「んな〜助けられる人は助けてあげたいなんて言っちゃったけど……ボク、エンドブレイカーになりたてだったりするんだよね」)
 ブカブカの武道着をたぐりつつ、暗殺シューズの群竜士・セレス(c01242)が頭をかく。
 さらに最年少であるという事実も、少し臆する原因だったり。
(「でも、きっとこーゆーのは初めが肝心なんだよっ!」)
「がんばって一人前のエンドブレイカーになって、困ってる人を助けてあげるんだよ〜♪」
 けれどもそんな不安を振り払うように、セレスは袖の下で握り締めた拳を振り上げる。
「少年の不幸なエンディングを阻止するためにも、がんばりますか」
 軽く腕を組み、暗殺シューズのデモニスタ・シン(c01513)が微笑んだ。
 だがあくまでも、冷静な表情は崩さない。
「さあ、行きましょう。熊鍋目指して……」
 アイスレイピアの魔法剣士・ヒメ(c03959)が、両手を広げて深呼吸。
 気持ちを落ち着かせると、早くも事後の宴会を思い浮かべてニヤリと笑う。
 歩き始めるヒメとともに、『先回り班』が村へと足を踏み入れた。
「廃墟ってどのくらいの大きさなんだろう。どきどき……」
 最後尾についた、弓の狩猟者・トウカ(c01931)も早足で後を追う。
 それぞれの想いを胸に、エンドブレイカー達はただ1つの勝利を目指して駆け出した。
 
●少年との遭遇
 遅れて入村する3人が、少年との接触を試みる『行き倒れ班』だ。
 少年の信用を獲得し、食糧庫まで案内させたいところ。
「今回は熊を狩る猟師にふんして、鉄鍋を背負って挑みます♪」
 杖の星霊術士・スレイド(c02047)の背にくくりつけられた鉄鍋は、合流の合図と熊鍋のために。
 目標の少年を発見した『行き倒れ班』はその名の通り、少年の前へと先回りして倒れこんだ。
「腹減っちまってよー動けねぇんだわ……」
「おなかすいてるの?」
 まずは、剣の魔獣戦士・ウキョウ(c00183)が悲しき第一声を発する。
 首をかしげ、優しく言葉を返す少年。
「この辺で大型の熊を目撃した人がいるらしく、熊鍋を食べようとやって来たのですが燃料切れなのですよ〜」
 続いて、半身を上げたスレイドの台詞。
 担ぐ鉄鍋に、真実性が増す。
「うぅぅぁ〜い、今すぐこの胃のなかにパンとか水とか干し肉くさいものを入れないと死んでしまうかもしれないみたいな感じだぁ!」
 若干わざとらしく、ハレルヤが叫んだ。
 その形相はさすが、床に寝て猛練習してきただけのことはあるすさまじさ。
「熊を仕留めたら村に提供するのでお昼をご馳走して〜」
 ハレルヤの表情に後ずさる少年に、逃げる隙を与えないよう。
 たたみかけるスレイドの、やんわりとした雰囲気に少年は首を縦に振った。
 ふらつく演技をしながらも、少年の後についていく『行き倒れ班』。
「あ、どうやらいい感じみたいだね」
 『行き倒れ班』を遠巻きに観察していたセレスの声に、『先回り班』一同が頷く。
 眼前をまさに今、知らぬ少年と3人が横切ったのだ。
「おし、急ぐゼ!」
 皆を先導して、ガロが前へと進む。
 4人の進行方向へ……速く、しかし見失わないように。
 順調な足取りで、『行き倒れ班』よりも先に目的地へとたどり着くことができた。
「行き倒れ班が来るまで近場を探索してみようかな。誰か一緒にいく?」
 トウカの呼びかけに、アレクシアが賛同の意思を示す。
「私の任務は先回り班のメンバーを守りきることですわ」
 少年の命はもとより、トウカの身の安全をも守るための同行だ。
「先回りできたことですから、私も参りましょうか」
 シンも、その結果に満足しつつトウカとアレクシアを追う。
「なかの様子と建物周辺の確認を。戦闘に使えるものは存分に使いましょう」
 是非にと手を挙げたヒメも、戦場をあらかじめ確認しておきたかった。
「気を付けてな〜」
 手を振るユキヒラ、ガロ、セレスを残し、4人は食料庫へ。
 音を立てぬよう慎重に、入り口付近を調べる。
 とそのとき。
 派手な金属音が、その場に鳴り響いた。

●巨体の討伐
 食料庫へと潜入したエンドブレイカー達は、早々に2体の熊型マスカレイドと遭遇した。
 音と気配に気付いた敵が、7人に襲いかかってきたのだ。
「熊さんには悪いけど少年を助けるためだからねっ」
 トウカの射撃が、1体の足に命中した。
 刺さった矢を抜こうと、敵は必死にもがく。
「少年は鉄鍋を持たせて母親の元へ返してきましたよ! さて、マスカレイド化してしまったのも不幸。亡くなったあとは美味しくいただかせていただきますですよ♪」
 遅ればせながら登場するのは、『行き倒れ班』の3人。
 元気に宣言すると、スレイドもマジックミサイルを撃ち出した。
 トウカが攻撃したのとは別の敵へ、スレイドは3連ミサイルをお見舞いする。
 屈託の無い笑みで敵を眺め、スレイドは熊達がマスカレイドと化した原因を考えていた。
(「私のなかでは、少年を救いたい気持ちと熊鍋を食べたい気持ちは見事につり合ってたりしますですよ♪ 天秤の軸心となるのは今回の熊さんのマスカレイド化についてですが、山の食糧不足6割に家族を狩られてしまった4割でしょうか?」)
 攻撃対象も先程の班で分けており、まずは『先回り班』の7人が集中攻撃で1体を撃破。
 その間『行き倒れ班』はもう1体を足止めしておき、残る1体を全員で討伐する計画だ。
「熊型マスカレイドなァ。いよォし、悪いがお前らは俺様が倒すゼ! 倒したら熊鍋にしてやンよ!」
 張り切ってガロが、敵の脇から大剣を振りかざす。
 ダブルスイングで敵を斬り、大きなダメージを与えた。
 その後も敵の攻撃をかわしながら、戦闘を進めていく10人。
 概ね、エンドブレイカー達に有利な戦況が広がっていた。
「覚悟なさいね」
 鋭い両の眼で敵を見据え、ギガントフレイムを放つアレクシア。
 遠近両方の攻撃が可能なアレクシアは、敵との距離に応じてアビリティを使い分けている。
「燃えろ」
 指を打ち鳴らすと同時に、掌を黒炎がおおった。
 低く言い捨て、シンがデモンフレイムを放出する。
「……次の命へと生まれ変われ……」
 怒涛の攻撃により、息も絶え絶えな巨体。
 ヒメの氷刃斬りが最後の一撃となり、1体の息の根を止めた。
「そいつに触んじゃねぇ! 下がれ、熊野郎」
 仲間がやられたことに焦ったのか、セレスへと掴みかかろうとする敵。
 とっさに動いたユキヒラが、獣爪の一撃でもって敵の行動を退けた。
「ありがとうなんだよっ!」
 素早く身を引き、体制を整えるセレス。
 接近戦の危険を感じ、離れた位置からホーミングウェーブで蹴りかかる。
「力勝負なら……僕が勝っちゃうんだよ!」
 敵と自分の間に武器を挟み、均衡する1秒間。
 最大限の力を乗せて、ハレルヤは大剣を振り下ろした。
「3枚におろしてやるぜ! そのあと鍋だ!」
 勢いよく跳躍すると、空中からの十字斬りで敵を叩き斬った。
 少年を守ることが第一の目的……のはずが、いつのまにか熊鍋への期待の方が強くなっていたり。
 2体目の敵もその後、無事に討ち取ったのだった。

●鍋を囲む幸福
 マスカレイドを討伐し、見事に少年のエンディングを変えたエンドブレイカー達。
 食料庫から熊の遺体を引きずり出したとき、そこには数人の村人が集まっていた。
「あ、おにいちゃんたち……」
 『行き倒れ班』の3人を認識した少年が、眼を丸くしている。
 本当に熊がいるとは、思っていなかったのかも知れない。
「な……そんなに大きな熊が2体もいたのか……感謝、しなくちゃな」
 少年からの報告で集った大人達も、驚きを隠せない。
 怪しい者達だと考えていたがゆえに、戸惑ってもいるようだ。
「いえ、こちらこそきちんと名乗りもせず失礼いたしました。皆さんを守ることができて幸いです」
 丁寧に頭を下げ、シンが事情を説明する。
 もちろんエンドブレイカーだということは伏せて、猟師としてのプロフィールを。
「(ところで……マスカレイド化しちゃった熊って食べれるのかな? 食中毒は嫌かも)」
 村人達に聞こえないように、セレスが声をひそめる。
 『マスカレイド』と言ってしまえば、素性を隠している意味がなくなるからだ。
「大丈夫なんじゃないかな、それに……お腹が空いて死にそうだよ」
 ついさっき、なかなかに恐ろしい顔で叫んでいたハレルヤ。
 にっこりと苦笑する視線の先には少年と、戦闘前に預けていた重厚な鉄鍋があった。
「戦いも終わりましたし、皆で熊鍋でもいかがでしょう♪」
 食糧庫の扉を閉めながら、スレイドが村人達を見回す。
 外見は普通の熊、毒などの特殊な能力を持っていたわけでもない。
 きっと食べても何ともならないことを、エンドブレイカー達は確信していた。
「俺に任せな、調理には自身があるんだ。ここで調理しても良いかな、それとも台所を貸してもらえるかな?」
 食べる前提で話を進める、ウキョウが自信満々に腕まくり。
 話し合いの結果、包丁や鎌を使いながらこの場所で熊をさばくこととなった。
「ふぅ……今日もがっつり料理した……」
 額の汗をぬぐい、座り込むユキヒラ。
 料理への愛情はマイ包丁を持参するほどで、細分し終わった眼前の熊に満面の笑みをこぼす。
「命を……どんな形でも奪ったのですから、食べられるものなら食べて差し上げたいですわよね」
 鍋の味付けをしつつ、アレクシアがしみじみと告げる。
 混ぜるおたまの先では、ぐつぐつと出汁のいい香りが。
「倒した後は命を無駄にしないよう……って聞こえいいよねー。なにはともあれいただきます〜」
 できあがった熊鍋を器によそい、箸とともに配って。
 手を合わせると、トウカは一切れを口に運んだ。
「おぉ、美味いなこりゃ!」
 皆が感嘆をもらすなか、ガロは本当に熊鍋の味に感動しているよう。
 上機嫌に、村人達と肩を組んで話している。
(「……あの笑顔を守ることができて、良かった……」 )
 少年の、村人達の幸せそうな表情を見ていると、心が和む。
(「新しい出会いと、これから続く未来へ。大きく大きく生きていって……笑顔を絶やさずに」)
 静かに鍋をすすりながら一人、ヒメは想うのだった。
戻るTommy WalkerASH