<1回戦・リプレイ>
――ディオスボールはここから本戦に入ります。――ここからは、ブロック予選を勝ち抜いてきた32チーム、64名の選手たちが繰り広げる戦いを実況していきます!
「よーし。ポーラ、いっくよー!」
「いつでもおっけーでしゅよユッフィーちゃん。ゴーゴーゴー! でしゅ」
第1試合は、2人の可愛くて元気な天使たち。ユフィナ、ポーラのプリティエンジェルズと、
(「この2人なら、私でもアタックできるかもなの。だけど、作戦通りリアに任せないと」)
「今度も頑張ろう。モルティ」
夜に一筋の光が差すように、藍色の髪の一房だけが白い女の子。モルティと、長身の頼りになるお姉さん。リアのコンビとの対戦。
「必殺、エンジェルサーブ!」
試合は序盤からユフィナが渾身の力を込めて空高く舞い上がらせたエンジェルサーブが、
「あ……また、風で流されて……あっ」
上空で風向きを変えながら吹き続ける気ままな風に煽られ、レシーブしようとするモルティの伸ばす手の先、砂浜に零れ落ち、天使たちが優位に進める展開に。
「大丈夫、絶対に負けないさ」
しかし、リアの背の高さとパワーを生かしたスパイクで少しずつ点差を縮めると、
「エンジェルアタックを受けて下さいでしゅよ!」
リアの言葉に落ち着きを取り戻したモルティは、ポーラの放つ剛速球のスパイクを素早くレシーブし、リアが確実に得点を上げ、差を縮めていく。
「まだまだ、こっちがリードしてるでしゅ」
ポーラは時折エンジェルフェイントをおりまぜてその差を再び開こうとするものの、
「あっ、コートの外にボールが!」
ユフィナのエンジェルサーブが気ままな風に流されてコートの外に出てしまい、同点に追いつかれ、
「モルティ!」
最後はリアがスパイクを打つと見せかけてモルティにボールを託し、
「あっ……」
ブロックに飛ぼうとしていたユフィナの逆をついたモルティがとどめのアタックを天使たちの砂浜に沈めて勝負あり。
「負けちゃったでしゅ……」
「悔しいけど仕方ないね。負けても私たちはエンジェルスマイルっ!」
天使たちは負けた悔しさを心に抱えながらも可愛らしい笑顔を見せ、会場からは彼女たちへの拍手が巻き起こった。
「それじゃティイ、次もよろしくね?」
「まっかしといて! オレめっちゃ頑張る!!」
続く第2試合は、金髪長身のイケメン2人、ヒューゴとティイの歳の差コンビと、
「メ〜ルヘン♪」
「さあ、いくわよ」
熊の皮をかぶった可愛らしい女の子、ティータと黒髪ストレートの少女リルベルトのペアの対決。
「その動き、シャケを狩り取るが如く! ですよ♪」
開始早々ティータが見せた熊がシャケをとる動きを真似たサーブが力強く決まり、ヒューゴを驚かせる。
「確かに凄いが、慣れてしまえば……」
しかし、すぐにティータの動きを予測したヒューゴは脚力を生かして左右上下に飛び回り、
「ティイ、今だ! 行くよ、君に任せた!」
ティイに絶好のチャンスボールを配給すると、ティイは相手コートにボールを叩き落とした。
「やらせないよ!」
そのボールはリルベルトが体を投げ出すようなレシーブで止め、得点を許さない。
「瞬きすんなよ! 喰らえ!!」
しかし、ボールは再びティイの元へと戻り、リルベルトの体勢が整う前に鋭いスパイクを沈めてリードを奪った。
「容赦しないわよ!」
女の子2人も、リルベルトの粘りとティータの力強い攻撃が得点をもたらし、
「まだまだ……どこまでも粘ってチャンスを作ってみせる!」
先行するヒューゴとティイに追いすがる。
「君と一緒なら、楽しんで試合が出来そうだよ」
しかし、彼女たちの攻撃の殆どをヒューゴは華麗な動きで捌ききり、
「おっと、見惚れてちゃいけないっすね」
ティイはヒューゴの動きに見惚れつつも、油断はせずにチャンスボールに身構え、
「そっちががら空きだぜ!」
堅守で粘るリルベルトの動きの裏をつき、ボールを叩きこんで勝負を決めた。
「お疲れ様だよ。2人ともごめんね」
試合の後、ヒューゴはティータとリルベルトと握手しながらにっこり微笑むのだった。
「やるからには勝つぞ」
「当然。勝たなきゃ終われねえだろ?」
第3試合に登場するのは、お互い勝利に向けて声を掛け合うキサとユーリィ。そして、
「旦那様ーっ☆」
最愛の夫の姿を見つけて投げキッスを送るナナセと、
「今度の試合もよろしく。相棒」
そんな彼女の頭をポンッと叩いたアイン。
「ふふん、相棒との最強タッグを見せ付けてやりますよ!」
試合は前衛に出たナナセが序盤から激しく動きまわり、
「ほい、見せつけてやれ」
彼女が拾ったボールをアインが高く上げ、
「越えさせるか!」
ユーリィが長身を生かしてナナセのアタックを上から止めようとしますが……
「唸れ必殺! ハイパーデンジャラスデリシャスアタック!」
ナナセはそんなユーリィの壁を大ジャンプで乗り越え、必殺のアタックをキサの足元に叩きこむ。
その後試合は消耗戦となり、体力自慢のナナセがキサとユーリィを前後左右に振り回して疲れさせて試合を優位に運び、
「バテんなよ相棒」
そんな中、疲労が見えるキサをユーリィが心配そうに見つめると、
「……まだだ」
キサは絶対に音を上げないという信念を貫き、アインが遠くへ返したボールに懸命に喰らいつくと、
「前見てろ、馬鹿」
ユーリィの頭上にチャンスボールを上げる。
「ああ、お前はギリギリでも意地でボール上げると知ってる」
ユーリィはホラ来た。と言わんばかりに体勢を整え、
「――決めろよ」
「任せと、――けッ!!」
ナナセとアイン、2人が作るブロックの壁の間を縫うように鋭いスパイクを決め、奪われたリードを取り戻そうとするものの、ここで試合終了。
「くそっ、次は……負けない!」
「ああ。勝つまで終われねえさ」
疲れからコートにへたり込み、悔しさをあらわにする2人に、
「リベンジ歓迎ですよ! 私と旦那様ののらぶぱわーで返り討ちにしてやります! あっ、旦那様、私の活躍みてくれたぁ?」
ナナセは彼らを抱き起こしながらそう答えると、最愛の人に微笑みを向け、
「トバトぅ〜、お前の愛のおかげだっ!」
アインもまた、大切な人の声援に答えてにこりと微笑むのだった。
「頑張ろうね!」
「うんっ」
続いて第4試合。イルミナとミレディーの2人は元気あふれるプレーで予選を勝ち上がり、
「去年はここで負けたからね。まずは汚名返上ですね」
「今年も力合わせて頑張ろう!」
一方のアルトゥールとシェダルの恋人同士のペアは、去年の雪辱を晴らすべく、2年連続での予選勝ち上がり。
試合はラリーが続き、なかなか得点が入らず膠着状態に陥ります。
「ふぁいと〜!」
そんな中、ミレディーの掛け声とともに、イルミナがジャンプしてアタック!
「アル、お願い」
ブロックが間に合わないと感じたシェダルはアルトゥールにレシーブを任せ、
「はい、お任せします」
アルトゥールはシェダルが一番スパイクを打ちやすい高さにボールを上げます。
「次こそ決めるよ」
どんなボールでもレシーブできるように構えるイルミナとミレディーの姿をシェダルはじっと観察して、
「そこだっ。えいっ!」
2人のちょうど真ん中に落ちるスパイクで守備の穴をつき、貴重な勝ち越し点を決める。
「やったね、アル」
結局そのまま試合は終了し、勝者となったアルトゥールとシェダルはお互いに手を握り合って喜びを分かち合うのだった。
「ヘミソフィア、楽しもう」
(「ご一緒できるだけでも幸せですが……やっぱり、長く楽しみたいです」)
第5試合はグロウ、ヘミソフィアの仲のいい男女のペアと、
「頑張りましょう!」
「はい。マナお姉さま」
マナとカティヤの仲良しコンビの対戦。
「グロウさん、お願いします」
「任せろ!」
試合はコートの前衛に位置するグロウが積極的にアタックを狙い、
「カティヤさん!」
「ディオスさんを、こっちの砂につけない、ぜったい」
マナとカティヤがコートを右往左往しながらも、ボールを拾い、返していく展開に。
(「相手がおっきくても、気持ちで負けません!」)
4人の中で頭ひとつ身長の高いグロウがネット際の攻防では優位に立つものの、その分カティヤはボールを拾うことに集中して得点を許さない。
「……たーーっ!」
そんな中、カティヤに訪れたチャンスボールに彼女はおもいっきり手を伸ばし、グロウのブロックをかいくぐるスパイクが炸裂。
「ディオス様、向こうに刺さってくださいっ!」
マナが祈るように見つめるそのボールの軌道は、
「まだ、ですっ。グロウさん!」
飛び込むようにレシーブするヘミソフィアの守備範囲内で高く弾む。
彼女の渾身のレシーブにグロウは言葉を出さずに頷いて答え、ボールを相手コートに叩きこもうと……
「必殺! ……ええと、とりあえずヘミソフィア! 任せた!」
すると見せかけ、グロウはヘミソフィアが起き上がる位置にトスを上げる。
「それでは、行きますね!」
グロウのフェイントに守備陣形が崩れた隙をつき、ヘミソフィアは後方からのアタックで、マナが懸命に追いかけ手を伸ばす先にディオス様を落とした。
「負けちゃったけど、終わったらお祭のごはんだね」
結局この得点が決勝点となり、負けてしまったマナたちは、
「負けちゃったけど、頑張ったご褒美に、甘いものも付けてしまいましょう」
「がんばった後だから、きっとおいしいよね」
この後のごはんとデザートの相談をしながら楽しそうな笑顔を浮かべる。
「だったら、あっちの通りのお店とか、お勧めですよ」
ヘミソフィアもその話題に加わり、楽しいお祭を堪能する計画を立てながら4人はお互いの健闘を讃えあった。
「すぐに慣れるって。頼りにしてるぜ」
まだまだ1回戦は続く。第6試合は赤い長髪がトレードマークのジークに、
「う、うん。ジークさんと一緒だから……だ、大丈夫!」
少し弱気なところを見せる長身の男性イチイのペアと、
「よりによってジジイと組むハメになるとはな!」
「まだまだ若いものには負けられんのぅ」
強気のジェイクと、ヴォルコフの歳の差チーム。
「オレ一人で十分なのになんでペアなんぞ組まなければならんのだ!」
試合はイチイにも劣らない身長を持つジェイクが気合を全面に出して攻撃守備のほとんどすべてを担当し、
「うわっ」
気迫に押されたイチイのブロックを弾き飛ばして得点をつみあげていく。
「大丈夫。漏れたボールは俺が拾うから」
ジークは弱気になるイチイを盛り立てながら、1人で動きまわるジェイクがカバーしきれない場所にボールを返し、序盤に付けられた差を追いつき、逆転することに成功する。
その後も突き放そうとジークの全力アタックや、自信を取り戻したイチイの打点の高い攻撃で攻め立てるが、
「砲撃開始じゃ。主砲、撃てー!」
まるで船同士の戦いをやっているかのようなヴォルコフが、掛け声とともに強烈なボールを放つ。
「くっ……負けない!」
しかし、これは大砲の弾のようにイチイの正面に飛んでいってしまい、イチイはコースに両手を伸ばしてこのボールをがっちりブロックして勝負あり。
「わしとしたことが、癖で正面に打ってしまったのぅ。とにかく、見事じゃ。若いの」
「わ、わぁー! 嬉しいです! ありがとうございます……!」
「よっしゃ、良い試合サンキューなっ!」
戦いには敗れたものの、試合を楽しんだヴォルコフの激励に、2人は明るい笑顔で答え、次の試合の活躍を誓った。
続いての第7試合は男女ペア同士の対戦。
方や、牧羊犬の耳と尻尾をつけたマードックと、耳と角にカウベルをつけて羊スタイルに身を包んだプティパ。
「さー、今度も頑張るぜー!」
「普段通り落ち着いていこう」
対するは、グラナスとニクスの夫婦のペアだ。
「グラナス、行け!」
「任せな! 一撃で決めるぜ!」
「おっと、私は仕掛けない……と思ったか。甘いな!」
試合は攻撃と守備を夫婦で分担するグラナス、ニクス組が攻めに転じ、
「任せたよ!」
「おっけー!」
コートを半分に分けて拾うことを優先するマードック、プティパ組が守る展開か続く。
「残念。フェイントだ」
しかし、守りながらリズムを掴み、余裕の出てきたマードックは攻撃に転じると見せかけフェイントを掛け、
「こっちじゃないよっ」
プティパも息を合わせて攻撃するふりをして、ニクスを翻弄する。
そして、舞い上がったチャンスボールにマードックとプティパが同時にジャンプし、
「俺もカバーするぜ!」
それに対応するためにグラナスも守備に回る。
「どっちが本命だ……?」
どちらかがフェイントでどちらかが撃ってくる。ニクスはボールの動きだけを見つめて体を反応させようとする。
「いっ……」
マードックの手がボールに触れ、強烈な力が加えられる。
(「右か!」)
ニクスは予想されるボールの落下点に向けて走り出します。
「けぇ!」
しかし、マードックが打ち込んだボールを、続けてプティパが力強く打ち込み、ボールの軌道を変え、
「くっ……」
ニクスは逆をつかれ、グラナスのダイブも届かず、ボールはコートの隅に叩きつけられ、結局この得点が決め手となってこの試合はマードック、プティパ組の勝利に終わった。
「ふふん。我等がコンビネーションの前に死角なし、だ!」
マードックはプティパとハイタッチし、
「負けたか。だが、負けてもハグを大事にしよう。ハグは大事」
「……もうっ」
グラナスはそう言いながらニクスを優しく抱きしめ、2人の愛と幸せを確かめ合うのだった。
「さ、行こうかユユナ」
「はいっ。ストレイさん」
そして、第8試合はストレイとユユナの恋人ペアと、
『俺達の抜群の仲の悪さを見せてやるぜ!』
と、いつも口喧嘩しているコンラッド、クレスの悪友コンビの対決。
「とっとと走れよこの野郎!」
「言われなくてもわかってんだよ!」
試合は恋人同士の支えあう連携と、相手に悪口を言いつつも、心のなかでは認め合い、相手の行動を先読みして息を合わせる連携がお互いに噛み合い、両チーム一歩も譲らない点の取り合いとなっていく。
「今だよ、ユユナ!」
しかし、ストレイが攻撃を防ぐことに重点を置き始めてから彼らの失点が減り、
「いきます、ラブラブアタック! です!」
ユユナの素早い速攻で少しずつ差が広がっていった。
「まだまだ!オレの速さとコニーのパワーでぶっちぎるぜ」
しかしクレスもコート狭しと駆けまわり、
「喰らえ、オレの必殺スパイク!」
コンラッドの強烈なスパイクがユユナに襲いかかる。
「きゃっ」
とっさにボールを避けたユユナだが、
「あーっ、水着がーっ」
右の腰をかすめたボールが水着の紐をほどいてしまったのか、
「あーん、ストレイさーん……?」
ユユナは慌てて水着を押さえながら後ろで自分を見ているはずのストレイの方をチラッと見た。
しかし、ストレイはその様子を全くきにせずにプレーを続け、
「お?」
「え?」
逆にネットの向こう側の2人の少年たちはそんな彼女の姿に一瞬目を奪われ、ストレイが返したボールをそのまま見送ってしまう。
「やったね、ユユナ!」
結局そのまま試合は終了し、喜ぶストレイにユユナは一瞬苦笑いを見せますが、すぐに笑顔に戻って彼の胸の中に飛び込み、
「お前のせいで負けたじゃねえか!」
「んだと?」
一方のコンラッドとクレスは相変わらず悪口を言い合っていたが、
「ま、楽しかったからいっかー」
他の人から見たら、彼らは楽しそうに遊び続ける親友のように、笑顔が絶えることはなかった。
1回戦もようやく折り返しの第9試合。
「フェネちゃん、頑張ろうね」
「はい、マナミ様」
2人はマスターとガーディアンの関係。年頃の女の子2人としても固い絆で結ばれているフェンネルとマナミのコンビと、
「共に行こう。――君の前は、僕が拓くから」
「……よろしくお願いします」
夜空の様に蒼い髪のキニーネと、朝日が輝くような金髪のクロービスのペアの戦い。
「……右後方が空いてます」
役割を攻防で分けたキニーネ、クロービス組は、サインプレイで攻撃方法を素早く決めながら、キニーネが相手の弱点を見極めて的確な攻撃を見せ、
「本気で行きますよ〜!」
それに対し、フェンネルとマナミはいろいろな状況に対応できるよう臨機応変に動き、
「マナミ様、お願いします!」
常に声を出しあいながらクロービスの守備範囲を掻い潜って得点を重ねていく。
「フェネちゃん、そっち宜しくお願いします!」
試合は終盤まで互角の戦いが続き、マナミは縦横無尽に走り回りながら、フェンネルにトスを上げる。
「さぁ、一緒にキメますよ!」
「……ここが決め所……!」
攻撃を決めるためにジャンプするフェンネルと、ブロックを試みるキニーネ。
しかし、フェンネルの気合の一撃はキニーネのブロックの脇をすり抜けて砂浜に一直線に吸い込まれていく。
「……今です!」
しかし、キニーネはそう言うと、まるでそこに来るのがわかっていたかのようにクロービスが飛び込んで一閃のカウンター!
これが見事に決まって決勝点となった。
「ありがとうね。キニーネの、お陰♪」
クロービスはフェンネルのアタックを誘い込んでくれたキニーネに感謝し、
「マナミ様、僕……ごめんなさい!」
「仕方ないですよフェネちゃん♪」
男の娘のような声で泣きじゃくるフェンネルの頭をマナミは優しく撫で続けるのだった。
続いて第10試合は、
「わーいっ。海海ー! いい天気だね、シェスティア!」
海の音にはしゃぎ回るジェアと
「くすくす、今日もパワー全開ですね!」
そんな彼女を微笑ましく見つめて笑みをこぼすシェスティアのチーム。
「参加するからには優勝目指すよ」
もう一方は緋色の葱を片手で掲げ、堂々と優勝宣言するエイミと、
「がんばる」
プラカードを掲げてにこりと微笑むノーガのコンビとの戦いとなった。
前後に守備位置を分け、飛んでくるボールを勢いを丁寧に殺しつつ、相手が打ちやすいボールを正確に返すエイミ、ノーガ組に対して、
「とう!」
コート全面をところ狭しと駆けまわってボールを拾い、
「はい、お願いします」
サポートに回るシェスティアからのボールを次々とスパイクしていくジェアという形を取る両チームは、
「……緋葱スパイクっ!」
エイミのスパイクがコートに突き刺さり、
「ひっさーつ! ぜんりょくあたーっく!」
ジェアのアタックがエイミのブロックを吹き飛ばす。お互いの激しい攻撃で次々と得点が積み上げられる試合となった。
「もう、このパターンは覚えたよ!」
『エイミちゃん……今よっ! ブロックお願い』
しかし、後半になるとお互いに相手の戦い方に慣れてきて、膠着状態に陥る。
「あっ……そこです!」
そんな戦いに終止符を打ったのは、終始サポートに徹していたシェスティアのツーアタック!
突然変わったリズムにエイミとノーガはボールを見送ってしまい……勝負あり。
『良く頑張ったわ』
試合が終わり、悔しさが込みあげてしょんぼりするエイミにノーガは優しく抱きつき、
「をを! やったー! 勝ったよ、シェスティア!」
「やりましたね! ジェアさん!」
勝者の2人は喜びに包まれながらお互い抱きあうのだった。
「さて、次は誰が相手でしょうか」
「参りましょう」
第11試合は鷹の心を背負う2人。ロックとアスのチームと、
「今度も負けないのさ!」
「……お腹がすきました」
気合を全面に見せる元気っ娘のインニャヤールと空腹から食べ物が頭に思い浮かぶナナコのコンビの対決。
ナナコとアスがそれぞれのコートのエンドライン際に陣取り、お互いコートの深いところにボールを返しあい、
「ロックさん、お願いします!」
「スピリット達よ、私に力を」
アスとロックは女性2人よりも高い身長を利用して、打点の高いスパイクで攻撃する。
「やらせないのさ!」
しかし、インニャヤールがロックにぶつかるほどの勢いで突進して高くジャンプし、彼がスパイクを打つことのできるコースを狭め、ナナコの居る所へボールを誘導した。
「インニャさん、返します」
ナナコは堅実にボールを上げると、インニャヤールもスパイクを打つがこれもまたロックのブロックに阻まれる。
決め手のないまま試合時間は少なくなっていき、
「ちゃーしゅーめん!! 食べたい……」
ナナコは何度目かのロックのスパイクをレシーブしてナナコにボールを回すと、
「力じゃ勝てないみたいさね。……だけど、足の力は腕の3倍」
インニャヤールは体を横にしてひねりを加えながら高くジャンプして、
「だから蹴り混むのさ!」
ネットの上まで足を上げ、全身の力を使ったローリングアタックでロックのブロックを突き破り、
「くっ」
レシーブに反応したアスの手ごと、ボールを砂浜に叩きつける。
結局これが決勝点となり、試合は終了。
「まさか足とはな。まだまだ荒ぶりが足りないようだ」
「年に一度の祭り、この高揚感はまた来年も味わいたいですね」
敗者となってしまったロックとアスは勝者を称え、
「うおーさ、スカイランナーの真骨頂さーーーー!」
「ありがとうございました……お腹すいたぁ」
インニャヤールとナナコと固く握手をして、次回の再戦を誓うのだった。
第12試合は女の子4人の戦い。
「なんとなくですけど……あの2人には負けたくないですよね」
「……そうだね」
と、相手の自分たちよりも小さな……もしくは大きな2人を見つめながら、リュツとヒヅキは戦いを前に気合十分といった様子。
「がんばろうね!」
「うん、がんばるよぅ」
それに対するは、ちょっと過激な水着に挑戦するハルカとミュミュのコンビ。
その体の一部がふわん、ふわんと柔らかく揺れる姿に観客の注目が集まり、リュツとヒヅキは更に気合を高める。
「あっ」
作戦なのか、リュツとヒヅキはサーブをネット際に集め、そのたびに滑りこむようにレシーブしようとするミュミュは足を取られて転んでしまい、序盤から得点の差が開いていく。
「こう見えても運動は得意なのよ!」
しかし、ハルカがサーブを拾うようになってからは失点も減り、
「はるかあたーっく!」
全身を躍動させて放たれるハルカのアタックでじわじわと追い上げはじめ、
「いくんだよーぅ!」
続けてミュミュも勢い良くジャンプしてスパイクを放つ。
「……えい」
しかし、これはヒヅキの冷静なブロックで弾き返され、ここで時間切れ。
「わーい、やったね」
勝利のポーズを決めるリュツとヒヅキ。
どうしても負けたくなかった相手に勝て、喜びの笑顔を溢れさせ、
「ああああああああ!!」
「負けちゃったよぅ」
悔しそうに激しく叫び、がっくりと肩を落とすハルカとミュミュにも、勝者と同じだけの歓声が浴びせられるのだった。
「お姉ちゃン、頑張ろうネ」
「そうだね。次も勝とう」
続く第13試合は、マシロ、トコトゥカの可愛らしい姉妹コンビと、
「さあ、「おしゃれ」に決めるとしましょうか!」
「舞い踊るように優雅に、決めて差し上げます」
紋章文化デザイナーのフェルネスと歌姫ミュゼッタの恋人同士のペアとの一戦。
「くふふ、トリックスター二人を前に通常の戦術など無意味ッ!」
試合開始早々、ミュゼッタのバックアタックをマシロは足でレシーブすると、
「姉妹の信頼が生んだ超攻撃的作戦でス!」
そのボールが上がり切る前に追いついたトコトゥカがトスを省略しての超速攻ツーアタック!
いきなりの奇襲にフェルネスは驚き、対応できないでいる間に、姉妹ペアはリードを広げていく。
「よし、抑えたぞ」
しかし、恋人たちも奇襲攻撃に対応してボールを拾うと、黒眼鏡をかけて陽射しを避けながら、相手が対応しづらい場所にボールを返し、
「行きます!」
ミュゼットも鋭いスパイクで足でボールを扱おうとするトコトゥカのミスを誘って追い上げるものの、
「お姉ちゃン、ガツンと一発決めちゃって下さいナ!」
「ふっ、殊勝な心掛けにおねーちゃん涙が出そうだぜッ!」
姉妹の連携は最後まで崩れることはなく試合終了。
喜びを全身で表現する姉妹に、
「有難う、楽しい試合でした」
フェルネスは笑顔を崩さず手を差し出して握手を求め、
「次に戦う時はは負けませんよ? ねえ、フェルネス」
ミュゼッタも2人と握手をして友情を確かめ、最愛の恋人とも後の勝利を誓い合った。
1回戦もそろそろ大詰め。第13試合は麗しい美女4人の共演となり、歓声がひときわ大きくなる。
「私と貴女が一緒に居て、勝てない筈がないでしょう?」
まずは蜜色の瞳を輝かせて微笑むエミリアと、
「蜜色の瞳の女神さまが一緒なら、負けません!」
幸運の緑の瞳を輝かせるリラの親友同士のコンビ。
「さてと、イヴリン、今年もぼちぼち頑張りますか」
対するは長身でクールなイメージのアレクシアと、
「よーし、ここはテンション上げていくわよ!」
いたずらっぽい瞳と、しなやかな身体が男性の観客の目を惹くイヴリンのこちらも親友同士のペア。
試合は、イヴリンの多彩な攻撃を、リラとエミリアが協力して拾って粘る展開に。
「残念、こっちだよー!」
イヴリンの時折フェイントを織り交ぜた攻撃でエミリアのブロックをかわすものの、
「必ず貴女の所へ届けて見せま、す! さぁ、友情アタックをどうぞ!」
リラがしっかりとフォローに動いて得点を決めさせない。
「とくと目に焼き付けるといいわ、我等が友情パワー!」
そしてエミリアの放つ強烈なスパイクが襲い掛かり、先制点をあげる。
「わたしたちのコンビネーション、見せてあげる!」
しかし、アレクシアはすぐさま反撃に転じ、
「いっけー、消える魔球!!」
アレクシアから届けられたトスをイヴリンが激しくスパイク!
「消え……? ない!」
「しまった!」
イヴリンの言葉通り消える魔球だと思ってボールの軌道を見ていたエミリアとリラは、その言葉自体がフェイントだったことに気づくのが遅れ、得点を許して五分に追いつかれてしまう。
その後も華麗な連携や、堅実な守備を繰り返して試合は一進一退となっていった。
「イヴリン……」
試合時間も残り僅か。アレクシアはイヴリンにボールを回そうと軽くジャンプして
「行くよっ」
トスを上げると見せかけて、リラとエミリアの守備位置を見ながら開いているスペースにフックショットを放つ。
「あっ……」
放たれたあとで気づいた時には、リラの手の届かないところに、ボールがこぼれ落ちてしまい、万事休す。
「ふふっ、隙あり! だな!」
そのまま試合はアレクシア達の勝利で終わり、
「残念だけど、こうなったら貴女たちに勝って貰いたいね」
「そうですね……頑張ってくださいです」
エミリアとリラは勝者を激励し、
「やったね、アレクシア!」
「この子たちのためにも、次も頑張らないとな」
勝者は負けた者達の想いを継いで先へと進むのだった。
1回戦も残すところは後2試合。第15試合は、
「兄さん、がんばりましょう♪」
「負けないであります」
フェイラとキヨカズの義兄妹ペアと、
「わーい、大好きなおばーちゃんと一緒!」
「モニカちゃんに負けないように頑張らなくちゃね」
モニカとシヴァの祖母と孫のチームとの対戦。
試合は前後に守備位置を分けたモニカ、シヴァ組と、攻守を分担したフェイラ、キヨカズ組のそれぞれ攻守のバランスがとれた一戦になり、
「兄さん!」
「決めるであります!」
フェイラが浮かせたボールをキヨカズが砂浜に沈めて先制すると、
「見た目だけで判断すると痛い目見るよ!」
すかさずモニカが上げたボールをシヴァが高い打点で捉え、リードを許さない展開に。
「ここはコンビネーションですね、兄さん任せます!」
一進一退の試合を決めようと、フェイラがボールを上げ
「必殺!ハンマースパイク!」
ハンマーのように重く、力強いスパイクでモニカのブロックを弾き、シヴァに向けて襲い掛かる。
「くっ……重い」
シヴァはなんとかそのボールをレシーブするものの、その場に尻餅をついてしまい動けなくなってしまう。
「行くよ、渾身のアターーーーック!!!!!!!!!」
それでもふんわりと浮かんだボールに起き上がったモニカは喰らいつき、剛速球のアタックを放ち、
「くっ」
ボールがフェイラに向かって行ったら危ないと察知したキヨカズはとっさにボールをブロックするが……
「あっ」
ブロックしたボールはフェイラがフォローできない方角へと飛んでいき、逆転を許してしまう。
ここで試合終了の笛が鳴り響き、勝負が決した。
「フェイラ、すまないであります」
「ううん、良い思い出になりましたね」
申し訳なさそうに頭を下げるキヨカズにフェイラは全力の笑顔で答え、
「おばーちゃん、大丈夫?」
「ええ。……手合わせありがとねぇ」
モニカに心配そうな声をかけられたシヴァはにっこり微笑み、キヨカズたちに深々と一礼した。
そして1回戦ラストの第16試合。
「年に一回ですし頑張りましょうか、クラウス様?」
「そうだな、楽しませてもらうぜ!」
まず一方のチームはマウザーとクラウスのコンビ。
「今日はいくら無茶をしても怒りませんから、さぁどうぞ?」
「ふふ。じゃあ遠慮なくやらせてもらうよ?」
もう一方はマルグリートとユリアスのチーム。どちらも恋人同士。というよりも、とても仲の良い相棒関係の男女の組み合わせとなった。
「さあ、行くわよー」
「こちらも参ります。クラウス様、ボールをお願いします」
試合は、両チームの女性陣が相方を振り回し……もとい、引っ張って攻撃の主導権争いをする展開に。
マウザーが力強いスパイクを見せれば、ユリアスがそのボールをレシーブし、マルグリートがスパイクを打つと見せかけてフェイントをかければ、クラウスはそれに対応して冷静にレシーブする。
緊迫した展開が続き、中盤も終わりに差し掛かるころ、マウザーとクラウスが動き出す。
「ぐあっ」
クラウスが屈みこんだ背中にマウザーの足跡が深く刻み込まれ、マウザーはその反動を利用して今まで以上に高く跳躍し、
「クラウス様の犠牲、無駄にはしませんよ……!」
誰も追いつけない高さからスパイクを放ち、ボールを砂浜に沈めた。
観客は踏み台にされたクラウスの様子を心配そうに見ていたが、
「これはマウザーのご褒美。ご褒美だ……何度でも踏まれてやるぜ!」
と、クラウスは根性で立ち上がり、
「戻ってくる限り何度でも踏み台にしますよ?」
マウザーもまた、くすり。と微笑み彼の期待に答えようとする。
それから、クラウスはマウザーに踏まれるため、マウザーはクラウスを踏むたびに次々と得点を重ねていく。しかし、
「さぁやっちゃってください。弟さんの箱を壊すように!」
「ぐっ……」
すでに起き上がることが精一杯となっていたクラウスに向けて、
「そう……イメージは弟の箱を壊す感じで!!」
マルグリートの放つ強烈なスパイクが、彼の手の届く範囲ギリギリのところに襲いかかる。
「俺に止められぬボール等なぁぁぁぁぁぁい!」
根性でボールを返そうとするクラウスだったが、すでに彼の体はマウザーに踏まれる喜びだけを求め、動くことはかなわなかった。
「マウザー……もっと、踏んで……」
「あらあら、まだそんなこと言うのですか? クラウス様?」
結局試合は最期まで衰えなかったマルグリートが攻め勝ち、クラウスの言葉にマウザーは多少手加減しつつ彼の背中に足を載せ、彼の歓喜の声を聞く。
「……ねえ、ユリアスも踏まれたいとかって思うの?」
ふと、マルグリートが問いかけるその言葉に、ユリアスは苦笑いしながら答えを返さなかった。