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紅月の舞人・サザ

●三日月湖の遺跡へ
 ランスブルグの第3階層に広がる三日月湖は、大人でも周囲を歩いて一日がかりになるという広大な淡水湖だ。
 この湖は、それ自体が古王国時代に築かれた星霊建築であると言い伝えられている。
 幾重にもドローアクアがかけられた三日月湖は清浄さな水を保ち、ランスブルグの住民達にとっての重要な水源地であり、有数の観光地でもある。
 もっとも第1階層、第2階層が敵の占領下にある上に、先日行われた戦いの舞台となったこともあって、湖の周辺の観光客の出足は例年よりも鈍い。周囲の商店主達は、今回の水着コンテストやエンドブレイカー達の冒険で、そういった事態が解決することを期待しているようであった。

 そして今、エンドブレイカー達の踊りによって、三日月湖の水に動きが生じていた。
「手順通りにやってみるとしますか」
 隠神刑部・クリュウ(c02651)がランスブルグに伝わる踊りを正確に再現したステップを見せる。
 続けて宵の蒼星・スコル(c26736)は3匹の星霊たちを召喚し、アレンジも加えて見事な踊りを披露していった。
 そして紅月の舞人・サザ(c06931)が神楽舞のアレンジも加えつつ、胡蝶の如く舞い踊る。
 すると湖の一角で水が割けたかと思うと、次第に湖底が、そこに隠された遺跡の入り口が見えるようになっていった。
 遥か昔、おそらくは三日月湖そのものが建造された古王国の人々が仕掛けた、星霊建築を利用した仕掛けに違いなかった。
「開かれましたね……行ってみましょう!」
 湖底に隠されていた入口を潜り抜け、エンドブレイカー達は三日月湖の遺跡の中へと足を踏み入れていく。
 狂王アニールの紋章で封印されていた入口は石壁の街解放戦の際に土砂で埋まってしまったが、それとはまた別の入り口ということになるのだろう。
 水没した入口を使う必要はもうないだろうが、あの紋章自体が描かれていたことには考えるべき点がある。現在、アンデッドとして蘇った狂王アニールが生きていた時代はおよそ500年前。
 当時、この遺跡を発見した狂王アニールが、後から他の者が手出し出来ないよう、手を加えたということとなるだろうか。

 空気の淀みがあまり感じられないのは、ドローシルフが施されているためだろう。
 外に比べてひんやりとした空気の漂う通路を、エンドブレイカー達は通路の先へと進んでいく。

●湖底に眠るもの
 やがて、通路を進むエンドブレイカー達の前に大きな空間が広がった。
 その壁に描かれていたのは、壁一面に描かれた壁画だ。
 時代を経たことによるものか、壁面には大きく割れ目が生じており、それによって壁画が破壊されている部分も多いが、どういった意図で書かれたものかは理解できた。
「当時の人々が、歴史を綴ったものかしらね」
「何か、文字も書かれているな」
 時代の経過によるものだろう、星霊建築による保護が切れた壁画はところどころが消えてしまっているが、遥夜の導煌・アリストメリア(c01246)をはじめ、『リード』を活性化した星霊術士や魔想紋章士たちが壁画に近付き、文字を読みにかかる。

 壁画は、大きく4つの部分に分かれているようだった。
 最初の壁画に描かれるのは、砕かれる城を襲う竜の群れの絵だ。
『我らが故地、人類王都は破壊された』
『破壊をもたらしたるは、大竜の群れ』
 エンドブレイカー達は顔を見合わせた。
「人類王都……七勇者の物語には、確か『人類の王』という存在が出て来たはずだが」
「関係があるんでしょうかね」

 第2の壁画は、大きな岩山とそれに突き刺さる槍だった。
 槍は紛れもなく山斬烈槍ランスブルグの象徴たる「天槍」だ。  だが、それに付随している文字は、
「『人類王都の徴たる巨槍の導きにて我ら、新たなる地に来たる』……?」
 あの天槍自体は最初は別の都市国家にあり、それを現在のランスブルグのある場所に持ってきたということだろうか。
 現在よりも優れた魔法があったらしきことを考えれば、転移などによる現象かも知れない。

 続く第3の壁画には、人々が魔獣の群れと戦い、山の周囲に都市を築く様子が描かれていた。
 先程と同じく、ランスブルグを描いたものなのだろう。
 人々の中心として描かれているのは、ナイトランスを携えた女性の姿だ。
「若草の乙女アリッサムか」
「今、伝えられているランスブルグ建国の伝説と、その点では違いないようね」
 描かれた時代のことを考えると、七勇者が人類側であった時期の冒険の一環だと考えられた。

 そして最後の第4の壁画は、それまでとは様相を異にしていた。
 それは一見して、見慣れた「七勇者の物語」のステンドグラスのように見えた。
 だが、向かい合う七勇者の姿も、大魔女や周囲の細々とした品々も、仮面すらもそこには描かれていない。
 それらの代わりとして、七勇者のいる位置に描かれているのは赤い服を着た一人の少女、そして『三日月』の印だ。
 赤い服を着た少女は何かから逃げ惑い、その足で三日月の模様の方へと逃げようとしているかのように描かれている。
「『大空を覆うもの』」
 それが、第4の壁画のタイトルだ。
 この言葉が何を意味しているのか、現状ではっきりとしたことは言えそうになかった。

●問いかける遺跡の番人
 これ以上の情報を収集するのは困難と判断したエンドブレイカー達は広間の先へと進んでいく。
 だが、通路の先に足を踏み入れたエンドブレイカー達を遮るようにして、硬い音が遺跡内部に響き渡った。
 遺跡の各所から、無数のゴーレムが姿を現したのだ。
 侵入者であるエンドブレイカー達に対し、ゴーレム達は問う。

『我ら、主より遺跡の守護を任ぜられたる者なり。
 汝らは何者か?
 そして、いかなる目的にて、この遺跡に足を踏み入れたのか?』

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