<オープニング>
「エンドブレイカーの皆様、拠点防衛戦へのご協力、ありがとうございました」
霊峰天舞アマツカグラの『代理者』の一人である神楽巫女のナミネは、集まったエンドブレイカー達を前に、まずはそう挨拶した。
拠点防衛戦で有力なマスカレイドの部隊に大きな打撃を与え、指揮官を複数討ち取ったことで、アマツカグラを取り巻く状況は大きく好転している。
「改めて、状況を整理しておきます。
現在、『火那大僧正ガイボン』をはじめとして、霊峰天舞アマツカグラに居た主要なマスカレイド達は、アマツカグラからの撤退を開始しました。
そして彼らの撤退を支援するため、『滅びの大地』からは『銀の塔主サイリス』が指揮する船団がアマツカグラに向かって来ています」
船団はアマツカグラの近くに停泊し、脱出するマスカレイド達を乗せて撤退するだろう。
もちろん、アマツカグラの問題はマスカレイドが撤退したから完全解決するわけではないし、ランスブルグはマスカレイドの脅威に晒されている。
その力を都市内での問題に注ぐという考え方もあるだろう。
とはいえ、これをそのまま見逃し、アマツカグラのマスカレイド達がそのまま『滅びの大地』へと戻ってしまえば、その分だけ敵の数(おそらく勇者マギラントの配下)が増えることになる。
「ですが、敵の数はアマツカグラから撤退するマスカレイドだけでも相当数に上っています。
これに船団のマスカレイドが加わるわけですから、正面から挑むだけでは厳しい戦いを強いられることになるでしょう。
そこで、皆様のお知恵をお借りしたいのです」
ナミネはそう言って、エンドブレイカー達に作戦の提案を求める。
「船団が到着するまで、長いとは言えないまでも猶予があります。
そこで、まずは皆様から作戦のご提案を頂き、その中から有効そうなものについて投票を行い、実行する作戦を決定したいと思います」
予定としては、次のようになるそうだ。
7月30日(火)〜8月2日(金)朝8時30分 | 意見募集 |
---|---|
8月2日(金)〜8月5日(月)朝8時30分 | 募集した意見を元に、投票を行い作戦を決定 |
「では短期間ではありますが、皆様からのご意見、お待ちしております」
ナミネはそう言って、エンドブレイカー達に頭を下げるのだった。
<リプレイ>
作戦案が募集されて数日、霊峰天舞アマツカグラの拠点では、船団の接近に伴いエンドブレイカー達による作戦の検討が行われていた。
船団を相手にするにあたって、必要となるのはまずは外洋を航行できる船だ。
これに関しては、『三塔戒律マギラント』に連絡を取ることで簡単に解決した。
「終焉に抗う勇士号はいつでも動かせるそうだよ」
「黒の塔と緑の塔から、船団を出すことについても問題はないそうだ」
塔主達に協力を打診した木を育て歩む者・フォムルス(c16410)、月夜の刃・ライズ(c02228)が報告する。
今回の事件のことを聞いた塔主たちからは、即座に協力が表明された。
終焉に抗う勇士号は『滅びの大地』で受けた船底の損傷を修理中だが、航行や各種機能に支障はないとのことだ。
相手が銀の塔主である以上、三塔戒律マギラントの人々にとっても重大事であった。
「とにかく、サイリスちゃんについては今回で白黒つけたいわね」
その涙の理由を変えたい・ナタリー(c14421)が言う。
エンドブレイカー達にとっても、三塔戒律マギラントという都市国家にとっても、銀の塔主サイリスの件は何らかの形で決着をつけねばならない事柄に違いなかった。
●敵戦力を把握しよう
「では船が確保できたところで、敵の戦力について整理してみましょうか」
ナミネがそう促した。
「まず、アマツカグラから脱出するマスカレイドは火那大僧正ガイボンをはじめ、こちらの拠点を突き止めて来た忍軍と公家衆。三塔戒律マギラントでの決戦時に姿を見せた、神刀天津守サカマガツもいるでしょうか」
脱出しようとするマスカレイド達は、正面から戦えば最低500名が必要と判断される一大戦力。正面から戦うならば、エンドブレイカー達とて侮れる相手ではない。
「船団側の戦力としては、勇士号対策としてシーバルバは確実にいるであろうな」
そう言ったのは破城鎚・アイネアス(c00387)である。
今回相手にするのは『滅びの大地』からの船団だ。
滅びの大地に行く途中、そして到着してからも『終焉に抗う勇士号』を付け狙ったシーバルバの自爆攻撃は、エンドブレイカー達の記憶にも残っている。
勇士号に対して有効な自爆攻撃を使え、海での活動を得意とするシーバルバが敵船団に動向している可能性は極めて高いと言えた。
「それに、敵は銀の塔主サイリスだ。特殊な兵器がないかも警戒するべきじゃないか」
臥した獣・カーリグ(c13476)の言葉に、エンドブレイカー達は銀の塔のマスターメイガスに搭載された一つの兵器の存在を思い出す。
都市殲滅級儀式魔装『シティアニヒレイター』。
銀の塔のマスターメイガスに仕込まれていた、三塔戒律マギラントをも一撃で壊滅させうる強力な兵器だ。
サイリスは滅びの大地での戦いで、マスカレイド化して自律行動を取れるようになった銀の塔のマスターメイガスとは別行動を取ったが、あれから数か月。
マスターメイガスを回収して同行している可能性は無視できない。
「ちょっと黒の塔主と緑の塔主に確認してきましょう」
お前はイイ男になるんだ・カノー(c01650)が席を立った。三塔戒律マギラントのマスターメイガス3機には、互いにその所在を確認できる機能があるのだ。
そして数分後、銀の塔のマスターメイガスがアマツカグラに接近していることが確認された。
「やっぱりか……」
もしシティアニヒレイターを撃たれれば、敵の殲滅どころか勇士号が一撃で沈みかねない。
逆に、サイリスの側も勇士号の存在を警戒すれば温存し続けなければいけないので、霊峰天舞アマツカグラに向けて撃たれることはないだろうことは救いだった。
「シティアニヒレイターを修理していない可能性は?」
「……修理してないといいなぁ、勇者マギラント」
「手を出してないといいですねぇ、勇者マギラント」
サイリスの裏にいる勇者マギラントが『エンドブレイカー達にとって嫌なこと』を仕掛けて来るであろうという一点については、もはや疑う余地もなかった。
「勇士号を使用する作戦では、シーバルバやマスターメイガスの対策は必須ということですね」
幸い、マスターメイガスの居場所は分かるので、妨害を行うことは可能だろう。
敵戦力に関する話が済んだところで、話はそれぞれの作戦に移っていく。
●(1)勇士号で船団を壊滅させる
まず、勢い込んで言ったのはバーガンディランス・ティアナ(c01457)だった。
「勇士号の大渦攻撃で、敵船団を潰しましょう!」
「あの攻撃なら、船団ごとマスカレイド達を葬れるからな」
九龍公・シーヴァー(c03034)をはじめとしたエンドブレイカー達も同意を示す。
終焉に抗う勇士号は、「海流を操る機能」を持っている。
かつて海賊船団を一撃で壊滅に追い込んだ実績もある強力な機能だ。
「狙いは船団の撤退時だな」
蒼穹を翔る風・ランディ(c04722)はそう考える。
勇士号の機能を利用すれば、アマツカグラのマスカレイドを回収して滅びの大地に引き返そうとする敵船団を、丸ごと葬り去ることができる。
敵が出航した後、分散して帰還しようとする可能性もあるため、分散行動をとれないアマツカグラの東側、円を描く湾の出口辺りが狙い目だろうか。
「デメリットとしては、勇士号を危険にさらしてしまうという点。そして万が一破壊されたら滅びの大地への通行手段を失ってしまうという点ですね」
勇士号の使用には賛意を示しつつも、銀牙狼・アルジェン(c02363)は冷静に分析する。
先に挙げられたシーバルバやシティアニヒレイターの存在は無視できない。
ギガンティアを含めた『島そのもの』である勇士号は、遠くから簡単にその存在を察知されてしまう。勇士号本体での奇襲を仕掛けることは、事実上不可能だ。
敵船団を海流攻撃の射程に捉えるまでに迎撃を受けるため、その対策が必須となる。
「黒の塔と緑の塔の船で先んじてマスターメイガスの元に乗り込み、シティアニヒレイターを撃てないようにする突入部隊と、シーバルバから勇士号を守る防衛部隊に分かれての作戦になりそうね」
閃光の・エクレール(c02687)が簡単にまとめた。
突入部隊は敵船団に乗り込み、攻撃を加えてシティアニヒレイターを発射できない状態にした後、海流操作の発動前に脱出するという決死の役割を担うことになる。
だが、突入部隊が発射を阻止できなかった場合は勇士号は後退せざるをえず、作戦は失敗に終わるだろう。
●(2)敵船団を奪取する
何も、目の前の敵全てをここで倒す必要はない。
そう言ったのは火毒・エウリード(c03240)である。
「滅びの大地の見渡す限り広がる都市群、覚えてるだろ? あの都市群にマスカレイドがどんだけいるかなんてわからねェんだし、ここで脱出する奴らとか迎えの船団のマスカレイド連中を片付けても焼け石に水だろ」
大局的な見地からの意見をまず言い、エウリードは自分の考える方向性を示す。
「ここはターゲットを絞っちゃどうよ?」
その言葉を受けて大胆な提案をしたのは、光輝の聖騎士・カタリーナ(c24055)だった。
「いっそ、向かって来る途中の船団を奪ってしまうというのはどうだ」
「敵船団だけなら、敵戦力はあまり多くないだろうしな」
双槍・ヨアニス(c12505)が同意を示す。
「ガイボン達を乗せて撤退しようというんだ。こっちに向かって来る船団は空っぽとは言わないまでも、乗り込んでいる数は多くないだろう」
船団を動かしているのは、操船技術を持つマスカレイドだろう。
外洋航海が可能な船を操船できる技術を持つ者が、そう多いとも思えない。
滅びの大地のマスカレイドだけに質は高いかも知れないが、少数ならばエンドブレイカー達でも十分に撃破できることは戦績が証明している。
操船するマスカレイドたちさえ撃破してしまえば、あとはシーバルバを自爆させずに倒すことで、船を丸々奪取できるだろう。
「できれば、そのまま奪取した船団でガイボン達に攻撃を仕掛けたいところだがな」
ヨアニスはそう考えるが、連戦となればガイボン達の軍勢に対しての勝利は困難だろう。
「取り残されたガイボン達の大半は、島から出る事もできずに右往左往するしかないはずだ。『神隠しヶ原』などに逃亡する者もいるだろうが、いずれにしても再度都市国家に侵入してくるのさえ防げば、アマツカグラはマスカレイドから解放される」
カタリーナはそう告げる。
「勇士号とは別に、移動手段が確保できるのは大きいですね」
自身の考えとは異なるものの、カタリーナの提案には大きなメリットがあると夜来香・ヘミソフィア(c03151)も認めた。
エンドブレイカー達が自由に活用できる船……それも滅びの大地と霊峰天舞アマツカグラを軍勢を乗せて行き来できる船団を奪えるというメリットは、勇士号を使って沈没させる場合には得られないものだ。
この作戦をとる場合、簡単に接近を悟られてしまう勇士号は使わず、三塔戒律マギラントから借り受けた船を主に活用することになる。
船団に乗り込む過程で、サイリスやマスターメイガスに近付く機会もあるだろう。
●(3)敵の乗船時を狙う
一刃の星・レイジ(c02370)らが考えたのは、ガイボン達が乗船しようとするタイミングで、地上と海上両面から狙うという作戦である。
「勇士号を使って、地上と海上から挟み打ちをかけるのはどうだ? 地上組がアマツカグラからガイボン達を追撃しつつ船団の注意を引きつけて、そこに全速力で勇士号で後ろから攻め込むんだ」
「乗り込み作業の最中の奇襲なら相手も浮き足立つだろうしな」
小旋風・ウェン(c00614)が同意を示す。
この作戦には賛同する者や近い意見を持つ者は数多くいたのだが、その一人であるエルキホーテ・エイヴァンス(c00621)はこの作戦が抱えるデメリットも指摘する。
「只でさえ数の有利を持つ敵側に大して戦力を分散しての攻撃となる。此方の被害状況にもかなりの数が見込まれるし、勇士号への損害も無視できないだろうな」
エイヴァンスが言うように、この作戦では戦う敵の数が多く、必然的に『勝利に必要な人員が多い』。
先に挙げられた2つの作戦が、「事実上船団のマスカレイドしか相手にしない」のに対して、この作戦では「ガイボン達とも戦うことになる」からだ。
陸上での戦いを挑んだ場合、ガイボン達アマツカグラのマスカレイドに打撃を与えるのに必要な人員は、『最低500名』と予測されていた。
勇士号の機能で船を沈めたとしても、乗船していないマスカレイドは陸地に残ってしまうことになるだろう。
乗船中の攻撃で混乱を誘えたとしても、全滅を狙うには同規模の攻撃要員が必要となるかも知れない。
また、シーバルバからの防衛やシティアニヒレイターへの対策も必須となり、これらを怠れば勇士号が撃沈される危険性がある。
勇士号を使わない場合は船団とガイボン達を統合した戦力に正面決戦を挑むに等しい状態となるため、使わないわけにもいかないのだが……。
「……利点に欠けるような気も致しますね」
「……おや?」
ナミネの呟きに、エイヴァンスも首を傾げた。
●(4)ガイボン達を辺境で追撃する
「船団を迎え撃つんじゃなくてさ。船団を待ってる連中を、後ろから攻撃してやりゃいいんじゃね? 連中油断してるだろうし、上手くやりゃあいいこと蹴散らせるし、船団の連中もさっさとアマツの連中、切り捨てて帰って行くんじゃないのかね」
「そうだよ、追撃作戦だとアマツカグラの民が何人も犠牲になってしまうから見逃したけど、犠牲にならないで済むのなら戦って倒そうぜ!」
銀の腕・ヴァレイシュ(c13222)の考えに、『辺境での追撃戦』を想定していた求道少年・アリシア(c04821)が同意する。
アリシアと同様の理由で追撃を見送ったエンドブレイカー達にとっては、理解しうるものであっただろう。
作戦自体は単純な平地での会戦。非常に分かりやすい内容と言える。
多数の敵を相手にする危険はあるが、戦力さえ集めることが出来れば全滅も狙えるだろう。
もっとも、その戦力が問題ではあるのだが。
「特に、ガイボン達アマツカグラの大物は倒したいところだね」
蒼飾の美少年・ブレス(c15251)は一点突破で有力な指揮官を狙うという作戦を考えていたが、それを防ごうとするマスカレイドの数こそが最大の問題となるだろう。
なお、船団はアマツカグラで戦闘が起きていることを確認すれば撤退してしまう。
アマツカグラのマスカレイドを確実に撃滅するという点に重点をおいた作戦と言えた。
●そして投票へ
その後も幾つかの意見が出たものの、実現可能性や戦果の大きさから、この4つの作戦が候補と絞り込まれる。
あとは「船団対策をとらない」という消極策を加え、5つの作戦からの投票で作戦を決定する流れとなった。
滅びの大地からの船団に対し、エンドブレイカー達はどの策を選ぶのだろうか。
<行動選択肢解説>
(1)勇士号で船団を壊滅させる
『終焉に抗う勇士号』の海流を操る機能を使い、滅びの大地に引き返そうとする敵船団ごとマスカレイドを全滅させます。勇士号をシーバルバから守る部隊と、敵船団に突入しマスターメイガスのシティアニヒレイター発射を阻止する部隊による作戦となります。
突入部隊がシティアニヒレイターを発射不能にできなかった場合は勇士号は撤退せざるをえず、作戦は失敗します。
(2)敵船団を奪取する
アマツカグラに向けて移動中の敵船団に突入し、船を丸ごと奪取します。勇士号以外の移動手段を確保できるのは大きなメリットですが、奪取できなかった船は逃亡してしまうでしょう。
この作戦が選ばれた場合、ガイボン達は放置することになります(アマツカグラに戻ろうとする可能性は低いです)。
(3)敵の乗船時を狙う
ガイボン達が船団に乗り込んでいる最中に、地上と海上の勇士号で同時攻撃を仕掛けます。地上からガイボン達を攻撃する部隊、シーバルバから勇士号を防衛する部隊、マスターメイガスのシティアニヒレイター発射を妨害する部隊の3手に分かれます。
多数のエンドブレイカーの参加が必要な作戦です。
また、 突入部隊がシティアニヒレイターを発射不能にできなかった場合は勇士号は撤退せざるをえず、作戦は失敗します。
(4)ガイボン達を辺境で追撃する
辺境を移動中の火那大僧正ガイボンをはじめとするマスカレイド集団に追撃戦を仕掛けます。多数のエンドブレイカーの参加が必要な作戦です。
(5)敵船団を無視する
船団への攻撃を行わず、敵船団とアマツカグラから逃げるマスカレイドを放置します。ランスブルグでも事件が起きている今、逃げる敵に構っている余裕はないのかも知れません。