＜１回戦・リプレイ＞
――今年も、今年も暑い夏がやってきました。
――ディオスボール本戦、ブロック予選を勝ち抜いてきた３２チーム、６４名の選手たちが繰り広げる激闘を余すことなく実況してまいります！
一回戦第一試合は天蹄の・ロイと紅閃揚羽・レイアのランスブルグ夫婦チームと、ヴェルマーテ・パンペリシュカ、新樹の歌姫・フェイランの対決。
どちらも役割を分担して挑む一試合目からの好勝負だ。
「さぁて、夫婦のコンビネーションの見せ所ってやつだね。しかしパワーはレイアの方が上……ならば」
ロイの打ち上げたトスをレイアがパワースマッシュ！
しかしフェイランたちも負けてはいない。
「私とシュカの連携をなめるんじゃなくってよ……！」
全体の動きを注視していたパンペリシュカが転がりながらもすかさずカバー、フェイランへとボールをあげる。
「今です！ 空駆ける乙女の激流！コンビネーションアタックッー！」
「うぉっと！？」
パンペリシュカの声に反したスローボールに先手を打たれたロイが驚く。彼もまたスマッシュから虚をつくフェイントを狙っていたのだ。
フェイントに次ぐフェイント、力力のぶつかり合い。最後に僅差を制したのは……。
「やりました！」
「これが夫婦の絆ってやつだね」
わずかに一手の差。ロイとレイアが健闘を喜びあう。まさに絆が勝利した一戦だった。
「なんかいきなりハードル高いねぇ。ま、行こっか。仲の良さをアピールしちゃおうよ」
「よーし、付き合ってやるよ」
第二試合の舞台にあがったのは言葉と裏腹に楽しそうなオラトリオの愚者・ディルティーノと夕昏の薫風・アルルのチーム。向かいに立つのは、ぴよたん刑事・キサラと鈴蘭の見る夢・エリシアの対照的な女性コンビだ。
「毎年出ているので今年こそは勝ちたい！」
縦横無尽にコートを駆けて次々とスマッシュを打ち込むキサラに対し、夕昏の薫風・アルルはコート中央に布陣しての防御を敷く。
「どんな戦いも、楽しまなきゃ意味ねェしな……っと！」
「そうそう、僕も積極的に攻めさせてもらうよ。どんな戦いでも全力なんだから！」
空いたコートの隙めがけてディルティーノは決勝打を叩きこむ……しかしここで予想外の展開。
「嘘、外れたっ！？」
「風が……読めた！ 追い気味の横風、低めにうちこんでください！」
まさかの突風、ボールは流れるように鈴蘭の見る夢・エリシアの手へ。間髪入れずのトスをキサラがアイコンタクトで鋭くアタック。
「仲良しタッグで大勝利！」
少年のように笑うキサラ。鮮やかな逆転勝利である。
一回戦第三試合。
橙黄音色・リチェリーの翠髪が水着に輝く。スタイルの良い身体がコートにはねる健康的な姿を赤髪の運び屋・シヴィルは実に満喫していた。
「水着のリチェ、ホント眼福だぜ……」
「シヴィル君、余所見厳禁ー！」
……失礼しました。試合始まってますよ、シヴィル君。
「え？ っと、いけね！ はい、集中します……」
戦神竜皇・ウォリアの長身が生み出す強烈なサーブをシヴィルは慌てて切り返す。
「決戦前の景気付け、きっちり決めねぇとな！ 今だリチェ！」
「うん、力いっぱい打ち込むよっ……！」
のろけながらも息の合った二人の反撃。それに構えるのは対照的に小柄な閃華焔刃・ナナセだ。
ウォリアの間合いを外して打ち込まれたスマッシュも小回りを生かしてすかさずフォロー。そして自身もウォリアの後ろを右に左に、ここぞと攪乱攻撃を展開する。
「体力とラブパワーは、自分もたっぷりありますからね」
ここにきてのカップル対決。これを制するのは果たしてどちらのチームとなるか？
「言ってくれるぜ！ お互い、体は鈍っちゃいないよな？ 夫婦の絆、見せてやろうぜ！」
「勿論鈍りなんて無縁だよ！」
見事なコンビネーションで点差を猛追するシヴィルとリチェリー。やらせはしないと守りを固めるウォリアとナナセ。
その決着の一手はウォリアたちからだった。
「征くぞナナセ！」
「はい！ 全力全開で……ぁ、踏み台にする時は上見ないで下さいよ？」
ちょっと恥ずかしげな、しかしウォリアの長身をジャンプ台にしたナナセの見事な一打がコート向こうに突き刺さる。
「ナナセと二人ならば、どこまでも征けるッ！」
愛とスタミナの戦いを制したのは技巧の一打だった。
一回戦第四試合は男と女の戦いとなった。
「足元は任せろ。メノ、頼んだぞ！」
「任せて、隙ありっ」
蒼穹の戦女神・キリィがあげたレシーブにこたえ、風向きまで計算した防御の隙間を縫う一撃を天壌の白鴉・メノが見舞う。
このカバー不可能に見えるボールにたたきつけるような勢いでココウノケダモノ・ガルシアが飛び込んだ。
「くたばれリア充！」
「り、リア充？」
キリィが首をかしげるが掛け声の一種、気にしてはいけない。難打を防いだガルシアは一転攻勢、天槍・ラティクスへとボールを上げる。
「やれぃ、ラティクス！」
「おう！ 必殺、海老反りレシィィィーブ！」
観客が騒めく、コートが震える、高空へ飛んだラティクスの腰が破滅の音を立てる！
「嘘でしょっ！？」
不可能な姿勢から放たれた不可思議なアタックが、メノとキリィの守りをすり抜けて突き刺さった。なんという恐るべき技。このような秘打に一体どう立ち向かえばいい……？
「うおおおおおおお！ 腰がいてえええぇぇぇぇぇぇ……」
ラティクスは真っ白に燃え尽きた。海老反りレシーブ、それは腰を犠牲にして放たれる、ただ一度だけの最高のレシーブ。
「……一度だけなら別に問題ないな」
「……何も問題ないわね」
一点をとれても二人相手にガルシアだけではいかんともしがたく。試合は順当にキリィとメノの勝利に終わるのだった。
一回戦第五試合。右に左にと縦横無尽に仕掛けてくる奏燿花・ルィンのスマッシュを恵みの壌・ブリジットは必死に追いかける。
「なかなか頑張るじゃあねぇか。ならこれでどうだ？」
「フェイント！？ くっ……」
ルィンに集中すれば陽凰姫・ゼルディアがアタック。返しきれない。対応に専念しても抜かれてしまう巧みな攻撃で、点差がじわじわと広がっていく。
「肥料と同じ、小さな工夫が勝利の鍵……って、相手にやられちゃ世話ないわよね」
「なに、ここから反撃開始だ」
自嘲気味にぼやくブリジットだが、トスを返す蒼の貴姫・レノールの顔を見て、彼女は心を改めた。 よく知っている。戦術が巧いものがこういう顔をする時は勝利を確信した時だ。
「攪乱は見事だが決め球は正面からだ。よく見ていけ」
「向こうの動きが、かわった？」
動きの小さくなった二人にゼルディアが訝しむ。鋭く、無駄なく、まだリードしているものの決勝点がはいらない。
「風が強い、高く上げてくるぞ！」
「よし、そこっ！」
ゼルディアの癖を読んだレノールの合図にブリジットが跳躍。ネット際の攻防を制すると遠投の要領で鋭くコートに叩きこむ。
「やれやれ、まいったぜ。こりゃ……がんばれよ。次も上を目指してな」
「ふっ、こういう勝利も悪くない」
ルィンの激励に、戦術を制したレノールは好敵手の敢闘をたたえた。
一回戦第六試合、夜風・サスケと凶星氷蝶・リンが静かに闘志を燃やす。
「ひひっ、これは燃えてきたぞ！ サスケ…準備は宜しいか？我らのチームワークの良さを見せてやろうぞ！」
「おうよ、燃えてきた！ こちらの準備は万全だ。俺達のチームワーク、見せつけてくれん」
不敵に笑うサスケのトスが存分にとリンに告げる。強烈なアタックがはしゃぐ踊る光影・ロゼリアと華帯月・ガルデニアのコートに襲い掛かった。
「任せて任せて、せーの！」
「あ、そっちじゃないの。ガル、こっちー！」
ロゼリアの声は何とも軽い。実に対照的な空気である。しかし浜辺で遊ぶ娘のようにたわむれつつも、しっかりと機動力を生かしてラインぎりぎりを攻めるあたりは似た者同士か。
「問題ない。あげるぞ、いぃやっほうぉぉぉーッ！」
ハイテンションなサスケのカバー。気圧されそうな勢いだが、攻め筋自体は実に正道だ。堅実にトスを上げ、リンがスマッシュ。雰囲気もあってそれは必要以上に勢いよく見える、が。
「よーし、とったわ！ ガル、いくわよー？」
「オッケー、お手柔らかにー！」
マイペースを突き進むロゼリアたちとは正直、相性が悪かったかもしれない。攻撃は的確に流され、ひねりを加えて帰ってくる。
「ガル！！ やったわね、私達。嬉しいー♪」
「あは、やれるもんだねぇ。ありがとう、ロゼリア」
勝利のハグを見せつけるガルデニアたちに、サスケが呟いて一言。
「少し、はしゃぎすたな」
熱くなるのも、ほどほどに。
一回戦第七試合。入念なストレッチを終え、ミミック・ラスと竜剱・ノイズがコートに立つ。
「……今度こそ、結果を出す！」
「ディオスボールを割るなよー？」
全力全開、全てを注ぎ込んだノイズのジャンピングレシーブは思わずラスが心配するほどの一撃だ。
このうなりを上げる剛球に立ち向かうのは影冴ゆる・ヴィレムと勿忘草・ヴリーズィのコンビネーション。
「ぬぅっ！」
ヴィレムの腕がきしみ、ブロックが崩れる。だが滑り込んだヴリーズィがこぼれたボールをすかさずクリア！
「拾うのは任せて、絶対にアタック決めさせない！」
「助かった！ よし、行こう」
あげられたボールをヴィレムがスパイク。こちらは速度こそないが、防御をかいくぐる技の一球。ノイズを潜り抜けたボールだが、そこをカバーするのはラスの役目。
「真っ向勝負じゃ駄目そうだね。なら……」
サインを送り、トスを上げる。目配せを返し、返ってきたボールをノイズがスマッシュ！
「ま、負けないんだからっ！」
再びヴリーズィのカバー、だがそれをもボールは弾いた。いや、回転して跳ねたのだ。決勝点に笛が鳴る。
「今年こそ優勝を目指して！」
「うん、一歩一歩……あ、ごめん。割れちゃった？」
手ごたえを感じあう二人。それを見つめるディオスボールは強烈な打ち合いに歪み、何とも言えぬ妙な表情を見せるのだった。
一回戦第八試合は再び身長差ペアの対決だ。
「ルッツ、細かいとこは頼むな」
「身軽さは信頼してる。バテるなよ？」
九つ頭の毒蛇・クライトはルッツに、幻虹陽炎・アゼルは風花ノ帷・ボリスにそれぞれ声をかけ、長身を武器に前に出る。激しいネット際の戦い、こぼれた球をトスしてのスパイク、テクニックと粘りの勝負。
「悪いね。そっちは、逆さ」
「アゼルがあげてくれるって信じてるから……！」
ルッツとボリスの対決は似た者同士、しかし助かるけど身長差が憎いと漏らすルッツはやはり男の子というところか。
激しい攻防の末、勝敗を分けたのはアゼルたちの一手。
「ボリス、かわるぞ」
「ちぃっ、そうくるか！」
大胆な攻守交代に素早く反応するクライトだが、この緩急はきつい。
「覚悟するといいの。えぇーい、ひっさーつ！」
精一杯飛び上がっての鋭いスパイクがクライトたちのコートに突き刺さり、決勝点を決めた。
「うーん、その手があったか。けど良い勝負だったね。手合せ感謝！」
「アクエリオ様に勝利をささげるために。負けないよ」
ルッツの激励にアゼルが一礼。来るべき戦いに向け、敢闘をたたえる両者に観客からも暖かい拍手が送られた。
一回戦第九試合のコートにどよめきが起きる。その中心にあるのはダルデレニスタ・ヴィンスレットと夜が訪れる刻・シキミのフォーメーションだ。
「こいつは左のコースだな。シキミ、頼むぜ」
「それ、わたくしの一撃を受けてみて下さいませ！」
担当を分け、声を掛け合っての連携プレー。それ自体は珍しくないが、代わっているのは分け方。多くのチームが前後、攻防で分担しているのに対し、ヴィンスレットたちはコートを左右二つに分けた。
この大胆な戦術の実力は果たしていかほどか？
「アクエリオ様の……ディオスのボールを打つなんて、なんて残酷な競技なんだ……」
無表情にも畏れ多そうに呟く、懐冬・ソナタの横をボールが飛んでいった。参加してみたものの、水神アクエリオのファンである彼にはディオスボールは恐るべき競技だったらしい。
「……ほ、ほら、アクエリオ様も良い試合を期待してらっしゃると思いますからっ。頑張りましょう、ソナタさんっ」
「はっ、そうだ。アクエリオ様が見てる！ ソナタ、頑張る」
相方、パタパタ・チマの激励……説得というべきかもしれないが、ともあれやる気を取り戻したソナタ。しかしいかんせん、技巧においてはヴィンスレットたちが一つ上手だった。
「勝ったぞ！」
「わぁ、やりましたわ」
順当に決着。勝利を喜ぶ二人、フォーメーションの潜在力はまだ次の試合にお預けとなったようだ。
「見切られた、だと……」
「わ、うわっ、わわわわっ！」
一回戦第十試合は波乱の展開ではじまった。視線を読んで死角を狙った竜の掌握・フリオだったが、それすらもお見通しとばかりに月に駆ける妖精騎士・ジョーガはブロックに動いたのだ。
どうも眼鏡を外して周りが見えてないのか、いやそれすらもフェイクで見えない何かを読んでいるのか？
「くっ、考えすぎたら負ける！ 攻めろ！」
ふらつき気味のアタックを難なくいなし、レーシング・リーナは迷いを打ち返すようにボールを叩く。反応しきれないジョーガ、やはりそんなだいそれたものではないか……と、思うもつかの間。
「保険はかけてますから。全て、守り通してみせます！」
あらぬ方向にかけていったジョーガに代わってカットしたのは、相方の愛と正義は言葉・エルスマンだ。からぶったところを回収して、こちらは正攻法のスパイク。
気弱そうな顔立ちから放たれる意外なほどの速球がフリオたちのコートを貫いた。
「か、勝てたんですね。僕たちで……！」
ゲームセットの笛に、まだ信じられないという顔のエルスマン。やりました！ と笑顔のジョーガを見て、彼はようやっと勝利を実感したのだった。
一回戦第十一試合、コートに立つ宵咲の薔・ユエルは緊迫感の中にも心地よさを感じていた。
「それじゃ、張り切っていくさね！」
「あぁ、よろしくな」
絶えぬ波音・アニスの肩を叩き、笑い返す。アニスとコンビを組むのは久しぶりで、でもどこかしっくり来る。
「目指せアクエリオの星っていうのなら、無様は晒せないさね」
夏はアニスの好きな季節、そしてここは馴染のアクエリオ。最高の相棒とシチュエーションに囲まれ、彼女は上がったボールを目いっぱいに打ち込む
「トウカ、左！」
「ん。大丈夫」
これに立ち向かう三節棍の赤い群竜士・アヤカと高みを目指して・トウカのチームは、また対照的に理詰めな動き。アヤカが主導に立ってトウカに指示、それをトウカは苦も無くこなす。
「ん、ここで決める、よ」
「面白い、やってみな！」
激しい打ち合いの末にぽつりとつぶやくトウカ、応えようとあがるユエル。だがこれはフェイント。注意が向いたところ飛び出したアヤカが必殺の一打を打ちこむ！
「全てを、撃ち砕く！」
「しまっ……」
これで決まってしまうのか。だが空いた間隙には、無言の言葉を交わしたようにアニスが滑り込んでいく。
「っ！ そこだよっ！」
「いまだ！ いくぜ、相棒！」
誰もが決まったと思った一瞬からの大反撃。上がったボールをトウカがアタック……すると見せかけた再びのトス。意趣返しとユエルが飛び出した時間差の返しがネット向こうに突き刺さった。
「やったな」
「やったね！」
手を合わせ、二人は喜び合う。やはりこのコンビは、最高のコンビだ。
一回戦第十二試合は攻めと受けの試合となった。けして攻防の間違いではない。
「私は攻めだなッ！」
「ほんじゃおっちゃんが後ろ側ねェ。あんまり得意なモンじゃァないけども、やるだけやっちゃおうかしら」
ハイテンションで前に出る眠れぬ夜に捧ぐ・エシラに、相方のドロッイイ・マーサーは暢気そうに、しかし隙のない守りからトスを上げていく。
「グッジョブおっちゃん！ 後は打たせなきゃ良いだけの事！」
高く飛び上がって鋭くスパイクが突き刺さる。それに対する浸食する光・ランギッシュの指令は！
「体を張ってでも受け止めろ！」
「仰せのままに！」
容赦なき指令にも口答えせず、沈黙嫌いの駄犬・ルシアンが飛ぶ。飛んだ。顔面にボールが突き刺さった！
「よくぞやった。受け止めてみよ！」
「ありがとうございます！」
しかしそれすらもまだ序の口だった。顔面ブロックでぶっ倒れるルシアンを踏み出いにランギッシュが飛んだのだ。
「おぉう、そこまでやっちゃう！？」
「我々の業界ではご褒美ですから！」
マーサーのあきれたような声に、足元から返事が返ってきた。頑張れ、ルシアン。
「くっ、もっと攻めるべきだったか……！」
「いやぁ、それは勘弁してほしいというか」
なりふり構わぬ攻撃が勝敗を分けた試合にエシラは本気ともつかぬ調子で呟く。マーサーの突込みは果たして届いてくれたのやら。
「……って、え！？ 勝てたの！？」
「当然の結果だ。わかりきっていたことだ！」
起き上がって驚くルシアンに、ランギッシュはどこまでも自信満々であった。
一回戦第十三試合、元気溌剌な氷月の双舞・セリカと翠嵐の星霊術士・アヤメの少女チームの連続攻撃に、水天の妖剣・クリムは押されながらも的確なブロックで抵抗していく。
「必殺ダイビングディオスアタックだよ！」
「そう何度も簡単には通さない！ いくぞ、シル！」
彼の上げたトスに飛びあがるのは、相方にして恋人の彩風に踊る妖精・シル。多くのチームで小柄なものがサポートにまわるのに対し、彼女は敢えて小ささと速度を生かして主攻を担当する。
「そこっ！がら空きだよっ！」
「大丈夫！ 後ろは任せて、セリカちゃん！」
コートに一直線な速球にアヤメが身体を滑り込ませた。間一髪のフォローに、彼女を見守る星霊たちが場外からエールを送った。
「最後まで諦めない、スピカ風回転レシー…ッブ！」
この一球が最後の勝負。アヤメ必殺の一打に、再びクリムが前に出た。
「これが私たちのコンビネーション……」
「甘く見ないでね！」
クリムが勢いを削ぎ、あがったボールをシルがトス。リレーで攪乱して見事なカウンターレシーブで勝負を決めた。正々堂々、正面からの勝利だ
「まあ、少しはいいところを見せないとね……いい勝負だった。ありがとう」
勝っても負けても悔いなきように。クリムはセリカたちの健闘をたたえ、一礼をもって返した。
「今年こそ優勝かっさらってやんねーとな！ スターダストサイクロンッシューッッ！！」
一回戦第十四試合のコートに上がった星屑のプリズム・ナヅキは気合十分、開始早々から必殺のスパイクで攻め込んでいく。
「た、態勢を……戻さないとっ」
鬼気迫る勢いに防戦一方の金鎖の烏・キサと徒花の藤・トウジュ。崩れる態勢を立て直して踏みとどまるも、流れを変えることができない。
「生かせない、よっ……！」
前から後ろから、ナヅキの死角を狙えば前衛の詩花の風・サーシャに阻まれる。長身を生かしたアタックをどうするか。今から前をトウジュと変わるべきか？
「なぁに背が低い俺らやで、足と絆でカバーするしかあらへん！」
この課題にトウジュはそう答え、行動した。後ろに立つからできる、キサを乗せての足場役。高さが足りないとみるや、片膝をついてキサを乗せ、ジャンプ台の役割を果たす連携プレイ。
「名づけて愛と信頼の夫婦ブロックやっ」
絆を乗せて、キサは踏み込む。
「支えてくださるトウジュさんの分も……！」
静かに熱い絆がそこにあった。この作戦が功を制したか、試合は見事な反撃での逆転勝利。
「キサ、やったで！ 今年は念願の勝利やーっ！」
「はい、嬉しいです……トウジュさんとの勝利ですから、こんなにも嬉しい……！」
念願の初勝利を二人は抱き合い、喜び合った。
一回戦第十五試合、こちらは若さと経験の対決だ。
「行きます、リョウ！ この一閃は……」
「行け、ソフィア。思いっ切り決めてやれ！」
最初に仕掛けたのは雪下山水・ソフィア。相方、灼撃の・リョウのトスを受け、思い切った攻撃重視の連撃で果敢に攻め立てる。
「なぁに、熱い砂浜に滑り込もうが落さなきゃいいんだよ」
だが相対する風を抱く・カラは飄々と猛攻を受け流す。風を読み、蜻蛉・セイイチロウの動きを読んで、はじいたボールを回していく。
「熱砂まみれで拾ってくれた球を無駄にはしません」
スカイランナーの跳躍力でセイイチロウはそれに応えた。あがったトスより一気に地表へと叩き込まれる高速スマッシュ。それを受けるのは……またしてもソフィア？
「ここは……お願いします！」
「任された！」
一瞬のアイコンタクト、それだけで二人は役割分担を変えていた。攻守、前後を敢えて決めない臨機応変な担当の構えが二人の持ち味だ。
高身長を生かしたリョウの重みあるスパイクがセイイチロウたちのコートを再び襲う。
「なかなか挑戦してくるじゃないの。セイイチロウ？」
「ならばオーバーヘッド……と、見せかけて普通にアタック！」
縦横無尽なソフィアたちと対照的な役割分担。カラはトス担当、セイイチロウは攻撃。シンプルだが堅実な攻めだ。
「だが、そろそろ決めさせてもらう。ソフィア！」
「この一打は止められませんっ！」
高身長を生かし、ジャンプ台となってリョウがソフィアを高空へ飛ばす。そして必殺のスマッシュ！ しかしここで異変が起こる。
「かかっちゃいましたねぇ。そこっ！」
切り札は最後まで取っておくもの。そういわんばかりにセイイチロウがブロックに出た。トスする先は、今まで守りに徹したカラ。
「魔球……えーと、あー、なんかとりにくいヤツ」
ずっこけそうな一呼吸。『なんかとりにくいヤツ』は不意を打たれたソフィアたちのコートへと吸い込まれ、流れを一気に作り出した。そして決着。
「よーし、勝った勝った。勝利の美酒なら、ここはやっぱり麦酒だよね」
「いいですねえ、アテは焼きそばで是非」
今回の勝負は経験に軍配が上がったようだ。それはさておき、美酒に酔う前に戦いはまだ続くのである。
本戦一回戦もいよいよ最後。第一六試合を戦うのは天槍騎士団の精兵、獅子の槍・ウーイルと斬奸執事・ラッセルのチーム。そして迎え撃つエルフヘイムの星霊樹医、煌星・アルマと緋蒼色の不羈奔放・レンのコンビだ。
「バランスよく、力強く行くでありますよ……ぬ、ぬぉお、飛べない！」
日除けの鎧は当然携帯……それは当然邪魔である。何の、これくらいは根性だと構えるウーイルに襲い掛かる容赦なきレンのアタック。
「必殺！ 閃光殺人弾丸スパイク！！」
小柄な体格を助走で補い放たれる鋭い一撃、速度の勝負ではウーイル不利か？
「ほっほっほ。こんな老骨でもよければ頑張ると致しましょう。ひねりを加えて……」
だがそこにラッセルがカバーへと入った。歴戦の腕を感じさせる巧みで弾き、回転を加えてウーイルにトス。
「なんの、鎧は最高であります。スピードがダメならパワーであります！」
「そうです。怪我をしない程度に、パワーを活かしていくのが賢明です」
生かすべきは自分たちの長所。少しばかり機敏が足りなくとも、二人のスマッシュはアルマたちの全力ほどの威力がある。
「対応されてきちゃったわね……！」
後ろ飛びに受けながらも苦しそうなアルマ。しかしその中で彼女は相棒へと合図を送る。返される目配せに、コートを踏ん張りアルマはトスを大きく上げた
「ここで決めるよ……！」
助走をとるレンの動きに注目が集まる。右か、左か？ 答えは後ろ！
「レンにばかり任せていると思ったら、大間違いなのよ！」
「じ、時間差でありますか！？」
機動力の差を生かした攻撃に、さしものウーイルも追いつけない。脇から飛び出したアルマの一打がパワータッグより勝利をもぎ取った。
「ふふん、私達のコンビネーションは無敵なのよ」
勝ち誇るアルマに、ウーイルはがっくりと膝をついた。
「しかし、まだお役には立てるようですな。それだけでも十分……さ、水分補給を。熱射病にならないように、こまめにしないといけませんな」
まずまずの結果といった調子で水を配り歩くラッセル。
こうして悲喜こもごもの本戦一回戦は終わった。勝ち抜いた１６チーム、３２名には次のステージが待っている。
＜トーナメント結果＞
●本戦 １回戦
＜２回戦・リプレイ＞
――よくぞ勝ち抜いた精鋭の精鋭たち！
――しかし彼らに安らぎの時はまだ早い。間をおかずして本戦第二回戦、開幕です！
第二回戦第一試合にあがるのは絆を見せつけてくれた天蹄の・ロイと紅閃揚羽・レイアのペア、そして対するは念願の勝利をつかんだばかり、ぴよたん刑事・キサラと鈴蘭の見る夢・エリシアの仲良しコンビ。
「風が……来ます！」
「よおっし、シアちゃん、行くよ〜」
戦いは追い風に乗ったキサラのジャンピングサーブから始まった。シアの読んだ風をまとい、豪速球がロイたちのコートを襲う。
「ここは私の仕事ですね……く、ロイっ」
レイアのブロックがボールを弾く。宙を飛んだボールにかけるのは攻守一転、ロイの役目。
「ほいほいっと、やっちゃうよ！」
飛び上がるロイは力いっぱい振りかぶり……ぽんっとボールを上からたたく。
「ま、間に合いません……っ！」
エリシアが飛び込むも間に合わず一手。相手のほうが作戦は一枚上手だったか。
「くぅ〜っ、負けるもんか！ もう女の子らしくなんて無視！ 勝利のためにはっ」
果敢に打ち返すキサラだが、今度はロイがすかさずカット。変幻自在の夫婦に翻弄され、勝負あり。
「これも２人力あわせてこそ、ですね」
「運次第、だったけど……仕方ないか！」
残念そうなキサラたちだが、喜びを素直にする夫婦たちを二人は拍手で見送った。
二回戦二戦目は再び身長差同士の対決……だったが、三人の女性陣と並び立つウォリアのずば抜けた長身は、それだけで周囲全てを食ってしまいそうな勢いだ。
「はぁっ！」
リーチを生かしたウォリアのサーブは強烈無比。だがキリィたちも負けてはいない。
「体格が実力の決定的差ではない！ メノ、足元から攻めるぞ」
「これで決めるっ」
風に乗せ、浅い角度で死角を狙うメノの一打がコートより着実に点を奪っていく。強打で奪い返されながらも決してひかない、ノーガードの乱打戦。
「体力とラブパワー……負けませんから！」
カバーに回るナナセの息もさすがに荒い。激しい攻防の末にたどり着いたのはネットぎりぎりの最終決戦だ。
「長身が仇になったわね、この間合いなら！」
ぎりぎりの高さ、ネットの高さはウォリアには苦手な間合いだ。一手を送れる反応に、最後の一撃を繰り出すメノだが、それをまたずしてナナセが飛び出した
「熱い愛をお腹一杯喰らわせてやりましょーっ！」
どこから？ それはウォリアの下からだ。身長差を最大限に生かし、相方をかいくぐるように前に出た彼女は精一杯のジャンプでブロック。そのままボールはネット向こうへと落ちた。
「……まぁ、こんなものかな」
息を整え、蒼穹の戦女神・キリィは喜び合う相手チームを祝う。どちらが勝ってもおかしくない、いい試合だった。
「ふざけているようだが、実に堅実な動きだ。あの手のタイプは厄介だぞ、ブリジット」
「えぇ、わかってる。油断なくいかなきゃね」
二回戦第三試合、相変わらずコートで戯れる踊る光影・ロゼリアと華帯月・ガルデニアのチームだが、蒼の貴姫・レノールと恵みの壌・ブリジットはこれ以上になく鋭い警戒を向けた。
「おーや、怖い怖い。もっと気楽にいかなきゃ、人生損だよ！」
言葉と裏腹、ガルデニアの打ち込むスマッシュは正確で鋭い。ラインぎりぎりを狙っての攻撃にブリジットが飛び込むも、後一歩が間に合わない。
「やったわね、一点先取！」
「あはは、これもロゼリアのおかげ！」
戯れる二人、ブリジットは汗をぬぐって首を振る。相手のペースに飲み込まれてはダメだ。なんとか隙をつかまなくては。
「なるほど、アレが合図か……」
分析を続けるレノールだが、見つけたサインも二人の絆に裏付けされたものとあっては一朝一夕では読み解けない。
「タイミングだけでもいいわ、わかったのね？」
ここでブリジットからのアシスト。彼女は分析を割り切り、攻めへと切り替えて前に出た。
「お、動きが変わったね。それじゃ反撃、せーのっ」
「でもそっちじゃないの、こっちー！」
タイミングを合わせた時間差攻撃。だがブリジットの動きは先ほどよりも格段に速い。すべてを読むのが無理でも、予兆がわかれば十分対応できることもあるのだ。
「飛翔せよ、妖精の如く！」
はじいたボールをレノールが拾い、鬨の声と共にトスを上げてくれる。逆転となる一打をブリジットはロゼリアたちのコートに力いっぱい叩きこんだ。
「全力で……ボールが割れない程度に、全力で！」
一回戦七試合で鮮烈なデビューを飾った竜剱・ノイズは二回戦第四試合も全力投球。ひしゃげてさえ見える弾丸スパイクは身軽さを武器にする風花ノ帷・ボリスにはきつい。
すかさず攻守交代して幻虹陽炎・アゼルが受けるが、ボールの勢いは殺しきれず、ネットを前に天高く打ちあがってしまう。
「さぁ、行こうか！」
チャンスと見て飛び上がるラスに、アゼルたちは再び攻守交代。一手で遅れたが、スカイランナーの速度はぎりぎりに先手へ追いついた。
「信じてるよ、アゼル！」
両方向からの激しいアタックがボールを叩く。あわや二球目の犠牲かという勢いに、たまらずと飛び出したディオスボール。転がる先は……アゼルたちのコート！
「ちょっ、力みすぎだよ……狙わせてもらうけど、ね！」
今度はアゼルがスパイクを打つ番だ。ノイズほどのパワーはない、だが素早く鋭いスパイクは防御をかいくぐるのに必要十分。正面からの激突戦を制したのは彼らだった。
「今年こそ優勝を目指したかったのだけど……残念」
「今日は戦いと名の付くものには絶対負けられないのよ」
握手を交わし、ボリスはラスに後は任せろとばかりに宣言した。
二回戦第五試合は攻防と左右の対決。
「いきますよ！」
「おっ、ととと！」
と、いいつついきなりの空振る月に駆ける妖精騎士・ジョーガ。そこをすかさず愛と正義は言葉・エルスマンがフォローしてアタックする天然時間差。そして堅実な守り。
「ここは俺の距離だ、回すぞ」
「お任せくださいませ！」
それに対するダルデレニスタ・ヴィンスレットと夜が訪れる刻・シキミは、この大会唯一の左右分割での布陣。トリッキーな攻撃にも負けず、ヴィンスレットがトスを上げてシキミが打ち返す。
「これは……ちょっと、まずいかもしれませんね」
二人の動きを見ながら、エルスマンは弱気を見せる。彼らの攻めに、左右分割での布陣の強みが生きていた。
トリッキーなどこに落ちるかわからない攻撃には、視野を大きくとる必要がある。
コートの全体を見て追うというのはなかなかに厳しいところだが、左右でコートを分けたことで、横方向に要求される視野は半分になるのだ。
フェイント重視のジョーガたちにとって、これは相性が悪い。事実、ここまでの攻撃はほとんどが堅実に防がれ、返されてしまっている。
「それでも、負けません！」
ジョーガは強烈な一打をボールに叩きこむ。正面を駆け抜けたボールが境界を貫き、点を返す。常にこれを繰り出されば、勝負はわからなかったのかもしれないが……。
「このアタックで決めるぜ。よっ……と！」
ヴィンスレットの一打が決着を決めた。左右布陣、第五試合はその利点がわかりやすく示された一試合となった。
二回戦第六試合、二人ならば負ける気はしないと思う宵咲の薔・ユエルの心を寒風が吹いた。
「くそ、読めない……なんだよ、このコンビは！」
それが対戦相手、沈黙嫌いの駄犬・ルシアンと浸食する光・ランギッシュへの第一印象だった。彼女の上げたトスを絶えぬ波音・アニスが打ち込めば、ルシアンが身体を張って防御に出る。
「止めろ！」
「あおぉーん！」
ランギッシュの人でなしな指令にルシアンが身体を張ってブロックする。あざだらけになりながらも満足げな彼はそういう趣味の人なのか？
「ってて、これでどうでしょ！？」
「大変結構！」
いいながら、既にランギッシュの身体は宙にある。この男がやってみせるとまるで分っていたかのように。
「なかなかコンビさね、あのカップル」
空中スパイクを懸命に弾いたアニスは、そんな二人に得心したと呟く。
相性だって、信頼あっての物種だ。信じられるから攻められる、信じられるから受けられる。主従の絆……とはまた違うかもしれないが、従う側も選ぶ権利はあるのだ。
「そうか。それじゃまぁ、仕方ないな」
再びルシアンを踏み台に飛んだランギッシュのアタック。防御をいなして飛び込むボールに、ユエルはどこかさっぱりした気分だった。
あの二人も最高のコンビだったのだ。個人の性癖はまぁ、さておくとして。
二回戦第七試合、第一試合を魅せた水天の妖剣・クリムと彩風に踊る妖精・シルのコンビネーションが、金鎖の烏・キサと徒花の藤・トウジュの想いと激突する。
「今度は背丈は大丈夫そうですけど……」
「でも、ちっちゃいからって油断しちゃ痛い目見るよっ！」
元気いっぱいにシルが打ち込むアタックが、キサを右に左にと走らせる。
「なに、足と絆の勝負なら俺らも負けてへんで。キサ、フォローするから思い切りいったれ！」
こぼれそうなボールもトウジュがフォロー。二人の守りは鉄壁だ。
「通しちゃくれないのは向こうも同じか。ならどうするか……」
切り返されるボールを防ぎながら、クリムは片手を後ろに回す。それの描く意味に、シルが頷いた。
「よし、いい位置だ！」
シルを狙ってのアタックにクリムが大きく飛んだ。ブロックし、跳躍するシルへとボールを託す。
「なんの、夫婦ブロックや！」
「く、でも負けないんだから！」
キサを担いだトウジュに負けじと飛ぶシルだが、高さの勝負は相手が有利。ならばあとは空中での機動戦だ。
「見えたっ。そこだぁっ！」
「この想い、少しでも遠くへ、届かせます……っ！」
打つ手と防ぐ手、キサたちととシルの対決の結果は……防ぐ手をボールがすり抜けた。
「くっそ、追いつけない……！」
「……まあ、少しはいいところを見せないとね」
勝敗を分けたのは封鎖に動いたクリムの身体。前に出ることでシルの身体を巧みに隠し、トウジュの動きをけん制した彼の働きが勝敗をわけたのだ。
「お相手、ありがとっ！ トウジュさんたちもすごかったよ！」
「こちらこそ……シルさんたちの絆、応援してますよ」
シルの差し出す手をキサは笑顔で握る。次はもっと遠くへと、誓いを込めて。
「むっ」
「あっちもっ！？」
緋蒼色の不羈奔放・レンと蜻蛉・セイイチロウの声が被る。二回戦の最後、第八試合は奇妙な調和を感じさせる展開を見せていた。
セイイチロウと風を抱く・カラ、レンと煌星・アルマ。二つのチームが選んだ作戦は偶然にも同じ。基本の攻守を分担しておきつつ、相手が集中してきたところで入れ替わって虚をつく。
「手のうちはまぁばれてんだろうけど……」
「タイミングまで一緒、とはね」
この二人とは案外仲良くやれるかも？ カラと喋りながら、アルマはラチもつかぬ事を考える。
「こうなると探り合いか、真っ向勝負か……どっちにしろさけが美味しくなりますね」
またもブロック。決定的な点差を入れられぬままにリレーが続く。カラがラインぎりぎりを狙えば、防御に専念したアルマが防ぐ。
レンがフェイントをかければ、カラが視線をおって見切ってくる。頭と体を使う激しい戦いに、残り時間もあとわずか。
「もう決めないと！ 必殺、閃光殺人弾丸スパイク！」
大きく助走して振りかぶったレンが必殺のスマッシュを打ち込む。恐らくこれが最後の勝負。何度かの攻守交代を経たセイイチロウが渾身の力ではじいたボールはネットの上へ。
「やった！」
「あぁ……ダメか」
一瞬粘り、落ちた先はカラの飛び込んだコートの前。完全に拮抗してきた第二回戦最終戦、名勝負を最後に決めたのはアルマたちの少しの運だった。
＜トーナメント結果＞
●本戦 ２回戦
＜準々決勝・リプレイ＞
――二回戦が終わり、残った勇者たちは……十六！
――八チームからの激戦、更に熱さを増して準々決勝がスタートします！
「真っ向勝負ッ！」
戦神竜皇・ウォリアが吠える。ボールが駆ける。準々決勝第一試合はウォリアと紅閃揚羽・レイア、パワーとパワーの対決で始まった。
ネット際で双方のアタックがぶつかり合い、ボールが上に……否、レイアの側へと押し込まれる。パワー勝負では体格差の分で僅かにウォリアが勝利した。
しかしボールは黙っては落ちない。駆けこむ天蹄の・ロイがすれすれでクリア。
再びレイアの元へとボールが上げるが、対する閃華焔刃・ナナセも黙って見てなどいやしない。
「隙ありですよっ」
「っ、ままよ！」
素早くはたき、機動を逸らすナナセに、レイアは力で強引に押し込んだ。今度こそはレイアの勝ちだ。ウォリアが追いつく暇も与えず、ボールは敵陣にぶつかり転がっていく。
もちろんナナセたちもやられるままにはしてくれない。力とサポート、激しいぶつかり合い。
「そらっ、ノシつけて返しちゃいますよ！」
逆転打はウォリアの身体から跳んだナナセの一発。拮抗する力と力のなか、戦いはいつしかナナセとロイの技の対決ともなっていく。
「これも夫婦の絆ってやつかな？」
「愛ですよ。熱い、熱い、愛ってヤツですっ」
なるほど、そういう言い方もあったか。迷わず応えるナナセに、違いないとロイは笑う。もちろん勝負は別だ、時間差をかけて二段目でコートへとふらりとボールを狙って落とす。
「間に合わないとは……思うなよ！」
ウォリアの反応は早い。彼は体格差を生かし、ナナセを投げた。上ではなく、正面へ。
「愛の……ブローック！」
間一髪、あがったトスをすかさずウォリアがモズ落とし。決着の笛が鳴った。
「おつかれさま……あ、そのっ。もしかして見えちゃいました？」
ねぎらいを掛けようとして気づいてしまった事に、ナナセはかぁっと顔を赤くした。
「覚悟するといいの！」
「くっ……気が散るな」
準々決勝第二試合。蒼の貴姫・レノールは開始早々、風花ノ帷・ボリスの激しいアタックの渦中へとさらされていた。
「考える時間は与えない、ってわけ……！」
カバーする恵みの壌・ブリジットが息を吐く。二戦続けてラインぎりぎり狙いの猛攻、それもレノールへの集中砲火だ。
カバーも徐々に辛くなってくる。勝ち上がるにつれ手の内が知られてきたか。
「人気者が辛いのは、人も畑も同じだけどねっ」
「そういうこと。アクエリオ様に勝利をささげるために。負けないよ」
パターンを読まれないよう、巧みにボリスと交代を繰り返して幻虹陽炎・アゼルは必殺の隙を伺ってはスマッシュを仕掛けてくる。
このカードが初戦であればどうなったことか。だがけして読めなさそうな戦いにも、レノールの頭脳がフル回転する。
「狙うなら……の側だっ」
「えぇ。わたしも見えてきた！」
作戦を見てきたのはアゼルたちだけではない。ここまでの戦いぶりを思い返し、レノールは既に作戦を導き出していた。
攻めるならアゼルの方からだ。攻守入れ替わるタイミングはアゼルが中心となってのもの。ならばこちらも考えるタイミングを与えなければいい。
「意趣返しとは、やってくれるね」
ボリスがカバーに入るとしても、駆け付けるぶんで時間と体力は使わせることができる。
「ブリジットさんもっ、体力すごいねっ……」
思わず呟くボリスにブリジットは答えて曰く。
「わたしの強さは夏野菜のおかげよ」
さわやかな一発が、防御を抜けてコートに刺さった。
準々決勝第三試合、ダルデレニスタ・ヴィンスレットと夜が訪れる刻・シキミのチームが三回目にしてぶつかった相手は、沈黙嫌いの駄犬・ルシアンと浸食する光・ランギッシュの強犬……もとい、強肩コンビ。
「ご主人様、どうぞ」
「っ、食らえ！」
体を張ったルシアンのブロックからランギッシュが飛び上がっての強烈なアタック。くんっ、と弓なりに背を反らせてのスパイクは高貴な艶やかささえ感じさせる。
ルシアンの体力が心配ではあるが、ここまでこれ一つで抜けてきた実力は準々決勝となってもゆるぎない。
「あぁっ、すいません！」
「大丈夫だ、カバーする！」
ボールが狙った先はシキミの守る左コート。強烈な一打がシキミのブロックを破ったのに、反対を守るヴィンスレットがカバーに走る。
コートを左右に分けて守りあうヴィンスレットたちの戦法は長所をここまで見せてきたが、ここにきて弱点を初めて晒すこととなった。
「くぅっ、抜かれたか！」
「ヴィンスレット様、ここはわたしくしがっ」
今度はヴィンスレットのカバーにシキミが飛ぶが、その呼吸は既に乱れ始めている。
強烈な一打……一人でブロックしきれないほどのパワーや技術のある相手の場合、左右に分かれた布陣ではカバーに横の移動が増える。守備範囲を重ねるのが難しいのだ。
「このままいいとこなし……とは、させないぜ」
このままでは終わらせないとヴィンスレットの猛反撃が襲うも、ルシアンはよく応えて見せた。赤くやけた身体はもうぼろぼろである。
「そ、そろそろ……我々業界でも拷問、かも」
「まだへばるのは早いぞ！ これで終わりにしてやる」
必殺のスマッシュが突き刺さってゲームセット。チームの勝利を見届けた後、ルシアンはずしゃあと地面に沈み込んだ。
準々決勝は早くも最終戦。第四試合において、激戦を勝ち抜いてきた二組のコンビネーションが激突する。
「無敵のコンビネーション、受けてみなさい！」
素早く前後を入れ替えながらの時間差攻撃。煌星・アルマの乾坤一擲のスマッシュが飛ぶ。
「ならば、これが私たちのコンビネーション！」
水天の妖剣・クリムが動きを追いかけ、コースを塞いで彩風に踊る妖精・シルへとつなぐ。アルマたちが無敵なら、こちらは最強のコンビネーションといったところか。
「さすがっ、鮮やかなもんだね！」
「いわれるまでも！」
反撃のレシーブを放つシルに、緋蒼色の不羈奔放・レンはまんざらでもなさげな調子で受け止める。
もはやここまでくれば奇策はどこも打ち止め。明かしきった手札をどこでどう使うか、力と技をどう生かすかの真っ向勝負が主となる。
「さすがに早々読ませてはくれんな。だが！」
時間差に翻弄されながらもクリムは必死に食らいつく。シルと二人でぎりぎり、なんとか。取りこぼしはこちらも点を返していくしかない。
「必殺、閃光スパイク！」
そしてそれはレンたちも同じこと。自分の抜かれた分は自分の手でと、しなやかな女体が美しく宙を駆ける。
「あと少しなのにっ」
「それはお互いさま……っ」
激しい打ち合い。シルとアルマの声が重なる。長い戦いに疲労は積み重なっているが、心地よい満足感もあった。
接戦に次ぐ接戦を制したのは……今回はレンの一打。
「やったー……勝ったよアルマー……！」
どちらに転んでもおかしくない試合展開。あいさつを終え、汗と疲れに崩れた顔でレンは相方へと笑顔をほころばせた。
＜トーナメント結果＞
●本戦 準々決勝
＜準決勝・リプレイ＞
――ディオスボールの激戦も残すところ三試合。
――勝ち残ったベスト４、果たして優勝は誰の手に！？ いよいよ準決勝が開幕いたします！
「厳しいわね」
閃華焔刃・ナナセの強襲打を弾いた恵みの壌・ブリジットがこぼす。
「厳しい戦いだな」
的確に隙をつく蒼の貴姫・レノールに戦神竜皇・ウォリアが呟く。
準決勝第一試合は開始早々に膠着の様相を見せていた。
レノールたちの戦術が上回るか、己を生かしたナナセとウォリアの技が上回るか。目まぐるしく飛び交うディオスボールに観客も思わず息をのむ。
「かく乱が……読まれてます」
「我を使え。どこまでも守り抜いてみせよう」
鋭いレノールの分析眼を突破するのは、小回りの利くナナセをもってしても難しい。わずかな仕草、癖や動作からレノールは先を読んで動いてくる。
ウォリアはそれに対し、彼女の姿を隠すように前へ前へと立ち回ることで対抗した。
「考えるわね。けど、わたしもいるのよ」
そこにブリジットのスマッシュが襲う。なんとかいなすが、攻撃に出る余裕がない。いまだ点差はなし、試合時間も残りわずか。
「ならば。征くぞナナセ！」
「うぃ！」
ナナセとウォリアはここで切り札を切った。もう隙を待つ時間はない、ぎりぎりのブロックからトスを上げて、更にウォリアは腕を組む。
「全てを超える愛を、今此処にッ！」
「なにっ！？」
飛び乗るナナセ、そのまま二メートルに迫る長身が跳んだ。二段跳躍を駆使した、レノールの予想をも上回る超高高度スマッシュ、名づけるならば流星羅武撃！
「まだそんな隠し玉を持っていたなんて……っ」
「これが正真正銘……我等のすべてだ」
急角度の一打がブリジットの防御をかいくぐり、コートを突き刺す。ナナセの身体を受け止め、ウォリアは強敵へと敬意の一礼。
「負けたよ。完全に上をいかれたな」
「おつかれさまです。格好良かったですよ、ウォリアも……レノールさんたちも」
ウォリアの手を降りたナナセはレノールと固く握手をかわす。決勝戦、一組目がまずは決まった。
ふらつく足元を気合で引き締め、沈黙嫌いの駄犬・ルシアンはボールへと向かう。準決勝第二試合、浸食する光・ランギッシュは厳しい一戦の覚悟を決めた。
「無理をさせ過ぎたか……」
「いやぁ、まだまだ……ほらオレ、けっこう慣れておりますしぃ？」
明らかに無理をしている。
言ってる間にも緋蒼色の不羈奔放・レンの鋭いスマッシュ、受け止めるルシアンだが勢いが殺しきれていない。厳しい高さだが、飛び込んでランギッシュはぎりぎりクリアした。
「ここまで来ると、けっこうきついわね」
「条件は同じ、負けるもんか！」
煌星・アルマとレンの疲労も決して浅くはない。試合数が減れば次の試合までの期間も短くなり、負担も大きくなっていく。
その条件は同じだが、身体を張ったプレイのルシアンにはそれが特に顕著だったのだ。
「ぐはぁっ！」
繰り返されるリレーからの時間差攻撃。走りこんでブロックしたルシアンが倒れこむ横を、ランギッシュは飛んだ。
「……わりぃ」
「ふん。この程度、私一人で十分だ！」
その背を生涯守ると誓ったパートナーへ、あくまで強気にランギッシュは笑う。
渾身の一打が得点を奪うが、そこまで。決勝点とならなければ、後は一人で戦うしかない。
「悪いけど、勝たせてもらうわよ」
「手を抜かれる謂れはないな、こい！」
アルマからレンへ、かく乱をかけてからのスパイクが勝負を決めた。
最初で当たっていたら、危なかったとレンは思う。
膝をつかず、背を向けず。最後まで主従は決して揺るがなかった。
＜トーナメント結果＞
●本戦 準決勝
＜決勝・リプレイ＞
――いよいよこの時がやってまいりました。
――今年のアクエリオ水神祭。ディオスボールの頂点に立つのは、果たて誰か！
――ディオスボール決勝戦、二チーム四選手の入場です！
ナナセと二人ならば、どこまでも征ける。想いを新たに、戦神竜皇・ウォリアは決勝戦のコートを踏みしめた。
「最後まで全力全開、ですよ！」
そんな彼に閃華焔刃・ナナセが傍らから笑いかける。思い切り首を反らさないといけない体格差、それを最大限に生かした戦術は見事に強敵たちを突破してきた。
体調も万全。疲労はあるが心地よい。
首を戻し相手のコートを見やれば、頂点を競う相手も準備万端のようだ。
「ここまで来たんだ……来れたんだ」
「ふふっ。私達のコンビネーションは無敵だもの」
軽く伸びをした緋蒼色の不羈奔放・レンは感慨深く呟く。それを見守る煌星・アルマは、改めて決め台詞を唱えてみせた。
勝つのは無敵のコンビか、愛の力か。決戦の幕が切って落とされた。
「ここで決めるよ！ アルマっ」
「任せるわ、いって！」
レンの猛攻がウォリアたちの陣地を襲う。
ナナセの機動力に対し、彼女らは真っ向から受けて答えた。素早く散らされるアタックを尽くいなし、こちらもクイックスパイクで切り返す。
技の勝負では全く負けていない……チーム二人ともがナナセに匹敵するぶん、ここはアルマたちのチームに軍配があがった。得意の時間差攻撃でまずは先制。
「ならば、これはどうだ！」
しかし油断は決してできない。相手の得意分野で勝負は不利と、ウォリアが主攻に進み出る。長くたくましい手足から繰り出される強烈なサーブ、スパイクは容易く防御を打ち砕く。
「レンにばかり、任せっぱなしじゃないんだから！」
レシーブした腕がしびれ、それでも止め切れない。レンの腕からこぼれたボールを、危ういところでアルマが受ける。
「ごめん、助かった」
二人がかりでやっとなんとか。今回はしのげたか、次々と剛球は飛んでくる。先制した点差は見る見るうちに縮まっていく。
「熱い愛、受けてください！」
「最後まで諦めないんだから！」
ウォリアを踏み台にナナセが跳躍、必殺の高高度スパイクが放たれる。負けじと攻守を素早く入れ替え、翻弄するトリッキーな一打が返される。
力と技、全てを出し尽した激しいリレーに観客席がざわめき、歓声が起き、やがて静かになっていく。誰もが試合に没入し、その結末を見定めようとしていた。
かちり、かちり。
ラッドシティから輸入された時計の音が妙に大きく聞こえた。残り時間わずか、点差はなし。
今、攻撃のボールを手にしたのは……ウォリア！
「征くぞ、頂点を超える！」
激しいリレーを制してトスを上げ、更に跳躍の姿勢。準決勝で見せた必殺の構えに、レンは上空へと身構える。
「受けて立つ！ 来いっ」
「抜かれれば負け、受け切れば勝ち……ってわけね」
アルマは呟く。これが正真正銘、最後の勝負だ。
「お腹一杯、喰らわせてやりましょーっ！ ……ウォリアさん！」
「応！」
空中よりナナセの一打が放たれた……下に！ 変則的なトスを、横に払うようにウォリアがアタック。
ここにきてのまさかのかく乱、アルマが駆けよるが、わずかに間に合わない。
『試合、終了！』
ボールが地につくのに瞬間おくれ、決着の笛がなる。
ナナセの身体を姫君のように抱きかかえ、ウォリアはコートを中央に立った。
「ここにきて新技、かぁ」
完全にしてやられたと、レンは頭をかく。残念だけど、綺麗な決着だった。
喜びと祝いの声が舞うコートで、ウォリアはゆっくりとナナセを地に下ろした。
「勝ったな……」
「えぇ。お疲れ様……格好良かった、ですよ」
少し背伸びをしたナナセのキスにウォリアは少しほおを緩める。それは彼にとって、なにより嬉しい祝福だった。
＜トーナメント結果＞
●本戦 決勝
