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ジェスターの勧誘

<オープニング>

 ジェスター・ザ・カーニバルに捕縛された紫刻の幻影・クトラ(c16568)は、背の高い木々の生える森で目を覚ました。
 どうやら自分達は、緑の塔の領地にある『アサルトバグの森』にいるらしい。
 そう目星をつけたものの、自分を太い樹に捕縛している太い鞭は解ける気配もない。
「ホホホゥ! どうやラ気が付いたようデスネ?」
 耳障りな陽気さを装った声が、間近から聞こえる。
 かつて倒されたジェスターが、鋼語りのジュウゾウによって再現されたジェスター・ザ・カーニバル。
「ジェスターか。僕をどうするつもりかな?」
 クトラの声を受け、樹の裏から現れたジェスターは、道化た足取りで近付くと、クトラの顔を覗き込んだ。
「クトラさん。先程は大変無礼な真似をしたコトヲお詫びしマス」
 クトラに向けて、敬うような様子で頭を下げるジェスター。
 その様子に怪訝なものを感じつつ、クトラは問う。
「……どういうつもり? 事情を説明してもらおうか」
 すぐにでも殺すことの出来た自分を殺していないのには、何か理由があるのではないか?
 クトラの問い掛けに、ジェスターは語り始める……。

●世界革命家バルムント
「まずは世界革命家バルムントと呼ばれる男について説明致しまショウ」
 ジェスターは、そう鍵の由来について話し始めた。
「バルムントは、かつて異界とこの世界を繋ぎ、私を含む37の大悪魔(マスターデモン)を初めて召喚した『最初のデモニスタ』。
 召喚されたマスターデモン達の存在は、この世界と私達の世界……あなた達が言う『異界』とをつなぐ楔となりマシタ。
 彼の広めた知識によって、デモニスタという術士はこの世界に広がったのデス」

 デモニスタとは、「悪魔(デモン)」と呼ばれる強大な異界の存在を体内に吸収し、その力と存在を己の物とした術士である。
 どのような儀式や手段でデモンと結びつくかの形式は人それぞれだが、アビリティによって発現する『デモンの翼』はほぼ同一の形状をしている。
 このことから、デモンという種族はジェスター達がいた世界の存在ということになるだろう。

「ところがどっこい、バルムントはエンドブレイカーではありませんデシタ。
 無理やり召喚された悪魔(デモン)達は、当然バルムントを深く恨みマス。
 その恨みだの怨念だのを浴びてる人を、棘(ソーン)が放っておくわけもありません!」

 それはエンドブレイカーならば誰もが知る棘(ソーン)の特性だった。
 たとえ本人の性質が邪悪でなくとも、嫉妬心や恨みを受けた人は、マスカレイドへと変化する。

「かくして世界革命家バルムントは見事にマスカレイドになり果てまシタ。
 ……そして笑えないことに、召喚されてたマスターデモンもマスカレイドにされて、元の世界に帰れなくなっちゃったんデスネー!! ワタクシも、その一人デス! オーイオイオイ!」
 さめざめと泣き声をあげるジェスター。
 もっとも、それが演技であることは明白だった。
「泣真似はいいから続きを話してくれないか」
 クトラは自分に事情を説明することに、何の意味があるのかと疑問を抱きながら、ジェスターに続きを促す。
「多くのマスターデモンを体内に取り込んだバルムントを討伐する『世界革命阻止行』とかは四百人の勇者が行った十二の探索の一つにも数えられる大冒険だったりするんデスが……ま、詳しい話は後にしまショウか」
 言葉をいったん切ると、ジェスターは言った。

「率直に申しまショウ! クトラさん、ワタクシの仲間になりまセンカ!!」

●ジェスターの誘い
「仲間……?」
 疑わしげなクトラの視線に、ジェスターは手品のように2つの鍵を取り出して見せる。
 クトラの愛用して来た『黄昏の鍵』、そして『盟約の地』で手に入れた『バルムントの鍵』だ。
「異界への扉を開くこと。それこそが、ワタクシの望み!
 ですが、それに必要となる『バルムントの鍵』の力を完全に引き出すには、『黄昏の鍵』の主たるクトラさんの意志が必要となる様子。
 偉大なる異界の知識の深淵への道を開く資格は、クトラさんにこそあるのデス!」

 クトラは『盟約の地』でのエリクシルの妖精の言葉を思い出す。

『これ』は『バルムント』の『鍵』。
  『黄昏』の『鍵』に『呼応』し、
    『人』を『デモン』の『根源』に『導く』でしょう……

「ワタシがクトラさんに力を与えれば、鍵の真の力を引き出せるハズ。
 そうすれば、デモンのさらなる知識は、クトラさんの思いのまま。
 望んだのではありまセンカ? デモンの根源へ至ることを……!
 もし仲間になって下さるなら、すぐにでも儀式を行う準備は整っていマスヨ!」

 ジェスターの勧誘に、クトラの答えは……。

 このフォームの締切は8月8日(金)朝8時30分です。
 プレイングを送信しなかった場合は、返答をしなかったものとして扱います。

■行動内容(全角400文字まで)

クトラのジェスターへの返答と、それと共に取る行動の内容を記入して下さい。

<プレイング>

紫刻の幻影・クトラ(c16568)
君の面白い話、もっと聞かせてくれるなら
考えてもいいよ?

どうせ全て真実では無いだろうし
煽ったり感心したりしつつ情報収集

バルムントさんは今どこにいるのか
36人の大悪魔も一緒か

彼は扉の向こうに逃亡か
こちらに封印されてるのか

この儀式も扉と偽り別の物である可能性も考慮

大悪魔とは何か
異界にも棘はあるのか

ジェスターさんは一番下っ端なのか
ちょっと気になる

扉解放の真意は何か
仲間を呼ぶのか
帰還したいのか

まさか、ホームシックって柄じゃないよね

儀式を中断するとどうなるのか
力の供給源があればできるのか

デモンの根源
何故求めるのかは自分でも分からない
でも、とても魅かれる
気がする…

まぁ、好奇心には勝てないよね

仲間になるのは一時的な利害の一致って奴
易々と思い通りになる気は無い

扉の解放と制御を試みる
一定以上の力は僕の許可なしに扉を通れないよう
リミッターを付加できないかな

黄昏と革命の力か
面白いね
折角だし楽しませて貰うよ

<リプレイ>

 しばしの沈黙が、場を支配する。
 森は不自然なまでに静まり返り、風の音さえしない。
 その静けさの中でクトラが意識したのは、己の中に宿る欲求だった。

 好奇心。
 その三文字が、彼の心を支配する。
(「デモンの根源。何故求めるのかは自分でも分からない。でも、とても魅かれる気がする……」)
 『盟約の地』で自分の願いを聞き届けた妖精ですら、クトラの心の内を予測してなどいないだろう。おそらくは、自分にこうして勧誘をかけているジェスターですらも。
 仮に自分が同意したとして、ジェスターがクトラをマスカレイド化させて強制的に言うことを聞かせる可能性は否定できない。いや、むしろ高いというべきだろう。
 かつてアクエリオで獣王にマスカレイド化されたエンドブレイカー達がいたように、上級マスカレイド相手に心の隙を見せれば、マスカレイド化される危険性は否定できない。
(「……けど、そのリスクは仲間になることを断ったところで同じことだしね」)
 ジェスターはジュウゾウの元にいたのだ。
 かつてランスブルグでは『喋る武器』によってマスカレイド化された者が出ている。
 そして、仲間になることを断るという考えは、沈黙の中でクトラの中から消えていた。

 やがて、意を決するとクトラは口を開いた。
「そうだね。君の面白い話、もっと聞かせてくれるなら考えてもいいよ?」
「ホホゥ?」
「仲間になってもいいってことさ。僕はデモンの根源を知りたい。そっちは異界への扉を開きたいんでしょ?」
「なんとビックリ、いや、こりゃ驚きマシタ!!」
 目を赤く点滅させるジェスターに、クトラは平然と言った。
「なんだい、自分から勧誘しておいて」
「いやいや、なかなかできる判断じゃありまセン! いやぁコレは想像以上の逸材カモしれませんネ。そうと決まれば善は……いや悪魔(デモン)は急げと参りまショウ!」
「とりあえず、これ解いて欲しいなぁ」
「はいはい、少々お待ち下さいネッ」
 クトラが自分を木の幹に縛り付けていた鞭を示すと、ジェスターは杖の石突きに魔力を籠める。
『ジェスター・ザ・カーニバル……何を考えて……』
「いや、もうそういうのいいデス。『喋る武器』の出番はオシマイ! 退場デスヨ!」
 やはり『喋る武器』だったのか、とクトラが納得する間に、ジェスターは喋る武器を完膚なきまでに破壊してのけた。
 縛られている間に痺れた手を軽く振るクトラに、ジェスターは仰々しく一礼した。
「それでは早速、儀式場に参りましょう、ご質問は道すがらおいおいと。『仲間』として、お答えさせていただきマスヨ!」

●悪魔(デモン)問答
 ジェスターと共に巨木の洞に作られた儀式場に向かうクトラの手には、バルムントの鍵と黄昏の鍵、二つの鍵が戻されていた。
(「まあ、ここで抵抗したところでジェスターなら簡単に僕を倒すだろうしね」)
 おまけに周囲からは複数の気配を感じる。
 複数のマスカレイドを潜ませているのだろうと、クトラは判断した。
 とはいえ、ここまで来たら自分の好奇心を満たすためにも腹を括るしかない。
「それじゃ、幾つか聞かせてもらうよ」
 クトラはジェスターに向けて問いかける。
「バルムントさんは今、どうしてるのかな?」
「誰かが復活とかさせてもいないみたいデスシ、死ンデルと思いマスヨ。世界革命のために地下都市国家から世界を闇に包むことを狙ったんデスケドネー。残念ながら同化したマスターデモン達と一緒に、まとめて勇者達に倒されてしまいマシタ」
 これは封印等ではなく、純粋に撃破されたらしい。
 勇者達が封印しなかったのにも理由がある。
「バルムントは大魔女スリーピング・ビューティの城の6つの『鍵』を宿したマスカレイドの一体デシタ。ですンデ、倒したマギラントサンに『鍵』は渡ったトカ」
「……ああ、あれ」
 クトラは、山斬烈槍ランスブルグ上空に浮かぶギガンティアを思い出す。
 確かに悪魔(デモン)の親玉の持っていたものと言われても違和感のない外観ではあった。
 もちろん、直接バルムントがあれに住んでいたわけではないだろうが。

「『世界革命阻止行』の後でマギラントサンが根こそぎ研究資料奪っていきましタシ、大半のデモニスタに関する知識は、世界に広く流布されているハズデスネ」
「バルムントさんがやったような危険な事態に至るような知識は検閲した上で、っていうことかな……」
 世間にはデモニスタの存在自体を危険視する人もいるが、バルムントの例を考えるとあながち間違ってもいないのかも知れない。
 とはいえ知識を流布した勇者達も、少しでも人類側の戦力を増やそうとしたのだろうが。
「そういえば大悪魔(マスターデモン)って何なの?」
「異界に住まう悪魔(デモン)の中でも、優れた知性と力を持つ存在っちゅートコデス。
 大半のデモンは、この都市国家……三塔戒律マギラントの黒の塔が使ってた、デモンを模して造った従者兵器レッサーデモン。まー大体あんな感じでゴザイますネ」
 ジェスターの語るところによると、デモンの大半は強い自意識もない、本能的に動く存在であるという。
「本能って?」
「デモンは本質的には闇ソノモノデスカラネ。クトラさんの中にいるノみたいに人間と同化してるのは別として、『闇』を望むモノデス」
 光度の明暗はもちろんだが、精神的な『負』の方向性も『闇』に含まれるのだという。
 エンドブレイカー達過去に解決した事件の中には、抑圧された人の感情に過剰反応し、殺戮を引き起こそうとしたレッサーデモンを止めるようなものもあった。
「デモニスタの中には、自分のデモンにちゃんとした人格があるように言う人もいるけど……」
「ワタクシ、デモニスタじゃないデスシ、人間と同化した後でデモンがどんな突然変異しテテもワっかりまセーン」
 ましてやエンドブレイカー限定のデモニスタの亜種、ソーンイーターともなると、同化したデモン達がどうなっているのかはジェスターにしてもさっぱりだそうだ。
「異界って棘(ソーン)無いの?」
「無いデスネ。この世界と一緒にできた場所ではアリマスガ、まあ異界の存在自体、言うなれば『天使の贈り物』みたいなモンデスシ」
(「妙にロマンチックな言い方だね……」)
 クトラは内心で僅かに首を傾げた。
「ちなみにジェスターさんの強さってマスターデモン中だとどれぐらいなの?」
「あの時に召喚されてた中だと、まあ真ん中ぐらいデショウネ」
 ジェスターはそう答えた。
 バルムント配下の将軍として勇者達との正面対決に使われるほどでも、バルムント自身の強化のために吸収同化されるほどでもなかったということらしい。
 ただ当時召喚されていたマスターデモンの中では、ジェスターがこの世界に残った最後の1体だろうということだった。

●開門の儀
 質問をかわすうち、2人は儀式場へと辿り着いた。
 床に描かれた魔法陣の近くには、金と黒の宝珠。
 クトラが近付くと、それぞれが黄昏の鍵とバルムントの鍵に呼応するように光を放った。
「あれは?」
「一回使い切りの儀式の補助具デス。本来は『鍵』の代替品にするツモリだったんデスガネ。クトラさんが仲間になって下さいマシタので、接続時間短縮用途に転用デス」
「なるほどね……」
 クトラは魔鍵と宝珠の反応を確かめつつ、儀式の内容を確認する。
「魔鍵で色んな門を開くときと大体一緒かな。意識してデモンの異界に繋げればいいんだ」
「流石は熟練のデモニスタ。話が早くて助かりマス」
 儀式の準備は手早く進んでいく。
 時間を掛ける必要はない。
 2人の認識は、その点では一致しているようだった。
「正直クトラサンの協力が無ければ、私一人じゃ頑張っても『扉』止まりでマスターデモンもう1人呼び出すのが関の山だったデショウケドネ。『仲間』になって下さったコトですシ、『門』ぐらいにまで出来そうデス」
「ところで、この扉……じゃない『門』を開いて何をしたいの?」
「仲間を呼んで、あとは里帰りデスカネー」
「ホームシックって柄じゃないだろうに」
「まあクトラサンはデモンの根源を知りたいと仰っていましタシ、ちゃんと開いたら御案内もデキマスヨ」
「人間が行って大丈夫なものなの?」
「まぁ死にやしませんヨ多分」
「多分て、また曖昧だなぁ」
 会話する間にも儀式の準備は終わる。
「儀式には時間が掛かりマスカラ、慎重にいきまショー」
「これ、中断とかしたらどうなるの?」
「休憩トカの時はワタクシがキープしときマスヨ。クトラサンかワタクシが門開き切る前にヤラレるようなことがアレば、御破算でショウから頑張りマショウ!」
 いずれにしてもクトラの望みとジェスターの望みは、門を開くまでは一致しているというわけだ。
 ぞっとしないことだと嘆息し、クトラは『門』の解放に向けて儀式を開始した。
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