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歌人卿サネトモ

〜ヘレノス監獄:凶悪犯罪者の牢獄〜

「サネトモ様、なにとぞお知恵をお借りしたく……」
 それは、異様な光景とも言えた。
 ヘレノス監獄の最重要領域、3人の凶悪犯罪者のひとり「歌人卿サネトモ」の部屋。
 細長い短冊に何かを記すサネトモの前で、きらびやかな衣装を身につけた貴族の男がひとり、ひたすらに平伏していたのだ。彼を取り囲む、サネトモと同様に顔を白く塗りたくった臣従達。

 サネトモは、這いつくばる貴族の男を一瞥し、口を開いた。
「お主は元々、貴族領主として、革命評議会より『新規雇用の増加』を要求された」
「はい、その通りでございます!」
「しかし方法が思いつかなかったので、お主はかつて我が知恵を頼った」
「はい、仰る通りで!」
「我は助言した。『危険な遺跡に労働者を送れ』と。そうすれば、今居る労働者が死ぬことによって、新規雇用が生まれるからな」
「まさしくその通り、実に素晴らしい計画にございました!」
「……時にお主、我が策に疑問を感じたことは?」
「滅相もありませぬ! 一部の隙も無い、完璧な作戦でございます! しかし何故かここ最近、労働者共の死亡事故がめっきり減っておりまして……」

 べらべらと喋る貴族をねめつけながら、サネトモは考えていた。
(この男の頭にあるのは、表面を取り繕う事のみ。己の為した事がどれほどの事か、それに思い至ってさえおらぬ。……実に好都合、マスカレイド化する必要すらない)

 そしてサネトモは一句詠み、貴族に告げる。
『猿をこそ 回すが王の 娯楽なり』
 ……この歌を持ち、遺跡に下るが良い。汝の望みは叶えられるであろう」

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