ステータス画面

その名は『ギルバニア』

<NEXTエンドブレイカー!>


●前線の異変
『ジャグランツ討伐隊』は、今や着々とその任務を果たしつつあった。
「そろそろ、僕の出番かな」
「そうだな、そろそろ、君に指揮を代わってもらうとしようかな」
 討伐隊をまとめる隊長と、傍らに立つ「若葉模様の腕章」をした男性がそう雑談をする間にも、隊長の元には次々と勝利の報告がもたらされて来ており、前線に出ていた部隊も続々と帰還している。
「ジャグランツといっても所詮はバルバ。俺達の敵じゃないさ」
「いや、お見事でござった。さすがは音に聞こえた……」
「あいつらが来てるって事は、この後は当然あれをやるんだよな。あいつらを手伝ったら、少しは俺にも分け前があったりして!」
 その多くが騎士からなる討伐隊の隊員達は、互いに安堵の表情を浮かべ、健闘をたたえあい、喜びを分かち合っている。

「討伐隊の方達、凶暴なジャグランツ相手になかなかやりますね」
「統率を取るマスカレイドを、予め倒していましたから……」
 剣の城塞騎士・ユーリル(c01023)に、玲瓏の月・エルス(c00100)がそう応じる。
 討伐隊が快勝をあげることが出来たのは、指揮官であるジャグランツマスカレイドが倒されていたからこそだ。残されたジャグランツは混乱の中にあり、討伐隊はそこに攻め入ったのである。
 つまり、この大勝利は、影の功労者であるエンドブレイカー達の功績でもあった。

 そのエンドブレイカー達の多くは、マスカレイドを討った後、いち早く撤退を行っていた。
 だが、ユーリルやエルスをはじめ、一部のエンドブレイカー達は、いまだ現場に残っている。
 彼らをそこに留めさせたのは、一抹の不安だった。
「……確かに、今回は大勝利だった。だからこそ、『王』と呼ばれる存在の出方が気にかかる」
「やられっぱなしで引っ込んでいるとも思えないしね」
 戦狼・グレイウォーカー(c06504)に、杖のデモニスタ・クラウス(c03723)が同意する。
『ジャグランツ側は、反撃に出るのではないか?』
 その予感の正しさは、しばらくして血まみれの騎士を乗せた馬が駆けて来たことで証明された。

「前線でジャグランツ達が突如反攻を……!! その勢いは凄まじく、苦戦を強いられています!!」
 馬から転がるように地面に倒れ込んだ騎士は、荒い息のもと、そう報告した。
「なんだって……!?」
 ざわつく討伐隊を、隊の代表を務める騎士団長が叱咤する。
「静粛に! ただちに前線に救援に向かう! 皆、我に続け!!」
 統率の取れた動きで、討伐隊は前線へと向かっていく。
 エンドブレイカー達も互いに頷きをかわすと、その後に続いた。

●ジャグランツの『王』
 エンドブレイカー達が前線に辿り着いた時、状況は既に決していた。
 荒れ狂うジャグランツの群れの前に、討伐隊は一方的な劣勢を強いられている。
「なんだ、こいつら……さっきまでと、強さも動きも違うぞ!?」
 討伐隊の騎士達はそう声をあげるが、エンドブレイカー達の目は、今討伐隊が相対しているジャグランツの体に、マスカレイドの仮面が張り付いているのをはっきりと見て取っていた。
 おそらく敵は、精鋭部隊を繰り出して来たのだ。

「怯むな! 前線を下げる! 陣形を整え、一旦態勢を立て直すぞ!」
 騎士団長が叫んだ時、ジャグランツの陣が割れた。
 その向こう側に、ジャグランツマスカレイド達を従えて立っていたのは、この血生臭い現場にはそぐわない存在だった。
「ドレスの、女……? いや、違う! 何だ、あいつは?」
 騎士の一人が、その姿を目にし、戸惑ったように言う。
 そこにいたのは、純白のドレスをまとった貴婦人だった。
 ただし、上半身だけは。
 下半身は液体が詰まった球状の肉塊となっており、その内側には『奇妙な何か』が蠢いている。
 貴婦人がつけた仮面は、エンドブレイカー達が見慣れた形状とは異なっていたが……その肉体が示す異形は、彼女がマスカレイドであることを、如実に物語っていた。

「統率が取れ過ぎているとは思ったが……やはり、人間がいたのか!!」
 太刀のデモニスタ・ヒラリー(c11447)をはじめ、多くのエンドブレイカー達が、己の予感の正しさを感じ取る。

 ジャグランツマスカレイド達が、次々に歓呼の雄叫びを上げる。
「ギルバニア! ギルバニア!」
「我ラガ『王』、じゃぐらんつヲ統ベル者!」
 歓声を受けて、貴婦人は、球状の下半身を浮かせて進み出た。
 ただそれだけで、エンドブレイカー達は鳥肌が立つのを感じる。

「あれが、マスカレイドの『王』……? いや、『女王』って呼ぶべきじゃないの?」
 困惑したように言った仕方ない・リュウヤ(c03523)の額に汗が浮かぶ。
 リュウヤだけでなく、他のエンドブレイカー達も直感していた。
 あのマスカレイドは、まずい。
 他のマスカレイドとは、格が違いすぎる!
「ギルバニア、ね……」
 ジャグランツ達が呼ぶ王の名を心に刻み込んだ赫赫と赫ける夜が月・スノーサ(c01027)は、ギルバニアが討伐隊長を視線の先に捉えたのに気付いて、警告の叫びを上げた。
「いけない!」
 部下達を叱咤していた討伐隊長が、一撃で吹き飛ばされたのはその直後だった。
 スノーサが目撃したのは、彼女の傘から放たれた螺旋状の光線。
 そして彼女は確かに聞いた。囁くような声で歌う、彼女の美しい歌声を……。

 ぼうやよ ぼうや かわいいぼうや
 優しく 強く 賢いぼうや
 やりたいことを やりなさい
 生きたいように 生きなさい
 ぼうやよ ぼうや わたしのぼうや


●討伐隊壊滅
 戦線の崩壊は決定的なものとなった。
 ギルバニアと呼ばれたマスカレイドが、傘から光線を放つたび、討伐隊の損害は増していく。
 既に隊長を討たれた討伐隊は統率を失い、混乱の只中に追い込まれ、反撃もままならぬうちに、その命を散らしていた。

 貴婦人は無造作に進み、その細い手で慈しむように腹部を撫でる間にも、次々と傘を振るって光線を放ち、部隊を薙ぎ払う。同時にジャグランツマスカレイドも一気呵成に進軍し、前線を殲滅していった。

「大丈夫ですか!?」
 氷鈴・シクル(c01654)は、薙ぎ払われた部隊の元へと駆け寄った。
 どうやらその部隊は、傭兵か何かのようだった。金属鎧を身に着けた他の騎士達とは異なり、軽装の皮鎧で武装していた。
 ギルバニアの一撃で戦闘不能に陥ったところにジャグランツが襲い掛かり、倒れた隊員達は次々と命を奪われていく。
「酷い……」
 思わず呟いたその時、小さな声がシクルの耳に届いた。
「うう……く、そ……」
「まだ、生きてる人が……! 誰か、手伝って下さい!」
 シクルはまだ息のあった青年を、他のエンドブレイカー達の手も借りて物陰に引っ張り込んだ。
 若葉模様の腕章をつけたその青年は、シクル達の姿に目を丸くする。
「現地協力者の人たちか!? まだ残ってたのか……痛っ」
「酷い傷です。喋らない方が……」
「くそ……なんだってんだ。みんな、これからの生活に期待を持ってたってのに……」
 激痛に意識が吹き飛ばされそうになるのをこらえながら顔を上げた青年は、ギルバニアを、そして自分の仲間を貪るジャグランツ達を目にして、不意に表情を変えた。
「なんだ、あの仮面は……? さっきまでは、あんなもの……」
「えっ?」
 シクルは呟かれた言葉に目を瞬かせるが、その時には青年は意識を失っていた。
 だが、今の言葉が示す意味は明白だ。
「もしかして、この人にも『エンドブレイカーの資質』が……?」
 だが、深く考えている時間は無さそうだった。
 エンドブレイカー達は青年を連れ、戦いが続く廃墟を離脱するのであった。

●乾坤一擲の決意
 ジャグランツの王、ギルバニアの出現により、討伐隊は壊滅した。
 それを為したギルバニアとジャグランツ達は、上層に向かうことなく、廃墟の奥へと退いている。
「『王』の出現、討伐隊は壊滅的なダメージ……いよいよかな」
 眠りの・イリック(c03275)は、静かに呟く。
 確かに、討伐隊は敗れた。だが、王が現れたということは、ジャグランツ側も王が自ら姿を見せなければならない程に追い詰められていることをも意味しているのだ。
 ジャグランツ達が上層への攻撃を行わなかったことが、それを物語っている。
「『王』を討ち取るには、今しかない……うん、戦いの時だね!」
 ケンズイシ・オノノ(c08703)が、拳を握り締める。

 ジャグランツ王とエンドブレイカーとの戦いの時は、間近に迫っていた。
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