<【決戦部隊】聖域の決戦>


14:00  15:00  18:00

【14:00】


●勇猛の聖域キシュディム・グリモアの間
 横幅が広く、首と頭の区別があまりつかない……率直に言って『亀』のような印象のリザードマンが、淡く輝くグリモアを背に置かれている、玉座を磨いている。
「いやまったく、あなたも寂しいですねぇ。陛下の意図も分かりますが、ここが空だとどうにも落ち着かない」
 先代国王の時代から百隣護衛士団団長を務めている彼は、ほへぇ〜、と緊張感のないため息をついた。
「だんちょ〜、陛下の意図が分かるって、あの不細工女のようなこと言わんでください。志気に関わります」
 最近、中核メンバーとして認められた中年の武人が、とほほ顔で進言する。
「不細工……ああ、ルタのことだね。兄弟子の私と違って、あの子は内治最優先派だからねぇ。文人だから、列強グリモアの護りと、王を切り離して考えるのに抵抗をもたないんだろうね。一度戦場に出れば、考えも変わるかとおもうんだけど」
 団長は、振り返らずに部下に答える。
 武人は団長が例の学者の身内であることを知り、慌てて謝罪しようとしたが……階段を駆け下りてきた伝令によって遮られた。
「もっ、門が……門が破られましたっ!」
「報告は正確にせい! どこの門のことだ!?」
 団長の傍らに、それまで微動だにせず直立不動の状態で立っていた重騎士が一喝する。
「そ、それが……」
 伝令が報告しようとすると、玉座を拭き終えた団長が振り向き、伝令の言葉を遮った。
「副長、現在の配置は?」
「サク、ヘム、その他新入り10名が休暇中、後は準戦闘待機です」
 重騎士が間髪入れず答える。
「5番隊を門の前に出し、門前に弓隊を配置、全員戦闘準備」
 団長は、単純明快に命令した。
「ははっ!」
 重騎士は、即座に百隣護衛士団を動かしはじめる。
「あぁ、待たせて悪かったね。で、どこの門が破れらたんだい?」
 亀のようなリザードマンが、笑顔で伝令にたずねる。
 だがその瞳には笑いの成分などひとかけらも存在せず、ただ、冷たい闘志だけがあった。

●開戦
 戦いは、塔から降り注ぐ矢によって始まった。
 丘を駆け上がってくる同盟の冒険者112名に対し、わずかに矢はわずかに5本。
 だがその矢は、常の矢とは次元が違った。
 丘の上の広場と、その前の斜面を区切る外壁にとりついた王を夢見る・レオン(a00385)に、同時に2本命中する。
 その瞬間、彼の体は、巻き起こった爆発に溶けるように……消えた。
「これがナパームアーローかや?」
王を夢見る・レオン(a00385)
白桃の魔法騎士・ラピス(a00025)  霊査士のエスタの護衛につくつもりだったものの、エスタの極めて強引な説得により、本隊最前列(防御担当)に参加したラピス(a00025)が、焦げた盾を手に呆然と呟く。
「怯むな! ここで止まれば第三衛が崩壊する!」
 聖域攻略戦の総指揮官として選ばれた黒博士・ユーヴィ(a02297)が、戦場全体に響き渡る声で全体を叱咤する。
 塔の上部にある射撃口から狙撃してくる、おそらくは高レベルの牙狩人達。
 そして、今攻撃を開始した、開かれた門の前に展開する、リザードマン牙狩人隊。
 本隊第三衛に属する、仄蒼き閃光弓・カグラ(a00384)達牙狩人が反撃するが、リザードマン牙狩人は己が傷つくことなど全く無視し、あくまで冷静に、攻略隊の最も弱い部分を集中攻撃してくる。
 最も弱い部分。
 それは、種族特性として心能力に劣るリザードマンが最も恐れる、術使いが大部分を含める部隊。
 本隊第三衛だ。
 普通の部隊なら遠くから相手の職種など判別できないだろうが、百鱗護衛士団の猛者達は、その装備と身ごなしから、同盟側の戦力を正確に把握していた。
「これが、百鱗護衛士団……」
仄蒼き閃光弓・カグラ(a00384)
チェリー・サク(a04300)  チェリー・サク(a04300)が必死に壁をよじ登り、乗り越えつつ、かすかに震える声で呟く。
 丘の上に降り立った彼が見たのは、閉じられはじめた門を後にし、『死兵』という表現すら生ぬるい勢いで攻めてくる、十数名の戦士達であった。
「来ました! 受け止てください!」
 本隊第二衛の、武人・シュウ(a00252)が叫ぶ。
 当初の計画通り、第一衛がリザードマンの突撃を受け止め、第二衛がその後背に回り込む。
 熟練冒険者でも意気阻喪するような状況におかれたリザードマン達だが、獰猛な笑みさえ浮かべ、自身と戦友の血にまみれながら、数で数倍する攻め手をじりじりと押し返していく。
「時間稼ぎか!」
 黒の闘士・デュラン(a04878)の放った流水撃奥義が最後のリザードマンを倒したとき、リザードマン牙狩人隊を収容し終えた百鱗護衛士団は、門の封鎖を完了していた。
 横合いから攻め上った2つの遊撃隊、そして本隊第二衛(白兵戦担当)から分離した門破壊班の動きすら上回る、早業であった。
「急げ! 立ち直る暇を与えるな!」
 遊撃隊の1隊を率いる暁の皇狼・ヒューガ(a02195)が、壁破壊班の守護の拳士・ガイアス(a00761)達を一箇所に集中させつつ全体を促す。
 兵舎やノソリン小屋の確認に向かう者達を残し、同盟の冒険者達は門へと殺到する。
紅魔医師・ルビナ(a00869)
 本隊第三衛に対し猛烈な射撃が行われるが、紅魔医師・ルビナ(a00869)達がヒーリングウェーブを連打して、重傷者を出しつつも、ぎりぎりで持ちこたえさせる。
フィロゾーフ・ルーチェ(a00593)  だが、敵はリザードマン最精鋭。
 少しでも不用意だった者、既に消耗していた者達が、次々と倒れ、動かなくなる。
「…………ここで、おわり?」
 血と泥の中に倒れ伏すフィロゾーフ・ルーチェ(a00593)目から光が失われる。
「このぉっ!」
 縁を広げ紡ぎし矢・イツキ(a00311)の放ったナパームアローが射撃口の中へ吸い込まれ、目に見えて上部から降り注ぐ矢の数が減る。
「行くぞ!」
 巨大で分厚い門にたどり着いた本隊は、素早く効果的な連打を門に浴びせかけ、ほとんど勢いを殺さずそれを破壊。第三衛による、強烈な広範囲攻撃術を主体とする一斉射撃を3度繰り返し、そのまま塔の中へとなだれ込むのだった。


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【15:00】


●死戦
 塔内に突入した本隊の面々を待っていたのは、同胞の屍を踏み越え、1体の生命と勘違いしてしまうほど同期した動作で包囲を詰め、流水撃を放とうとする、十数人の軽装の武人達であった。
「まずっ……」
 第一衛が守りを固める間も、第二衛が切り込む間もない。
 攻め手が先行させようとした土塊の下僕やリングスラッシャーごと、同盟の冒険者達は血煙の中に倒れた。
「くっ」
「このぉっ!」
 無の位・サラカエル(a01137)や氷雪の淑女・シュエ(a03114) をはじめとする、生き残った第三衛の術使いや牙狩人が、猛然と反撃を開始する。
 守りが薄いリザードマンの武人達は次々に打ち倒されるが、リザードマンの後衛からも、牙狩人隊が同盟の本隊第三衛に集中して射撃を行う。
 名乗りを上げる間も、悲鳴を上げる間も、ありはしない。
 10秒にも満たぬ攻防で、敵味方の半数以上が無骨な石畳の上に倒れ伏す。が、リザードマン達の多くは、床と激突する直前にかけられたヒーリングフィールドによりぎりぎりで踏みとどまり、よろけながらもその場で守りを固める。
「壁崩しか……」
無の位・サラカエル(a01137)
 完璧なタイミングで絶大な効果のヒーリングフィールドを発動させたグリモアガード団長は、絶叫と剣戟の狂宴を通してなお大きく破壊音に気付いた。
 同盟の遊撃隊が総力を挙げ、塔の外壁の一箇所を崩そうとしているのだ。
 門を護るだけならともかく、もう1箇所から入り込まれると対処不能だ。
 彼は、決断した。
「エレ、1階の指揮は任せた」
 数少ない女性グリモアガード、であると同時に長年連れ添った妻に、彼は一切の躊躇無く『死ね』と命じた。彼自身は、生き残った百鱗護衛士団の最精鋭を連れ、地下のグリモアの間を目指す。
虚ろなる夜の幻影・フォルテ(a00631) 「御武運を」
 翔剣士である彼女は一瞬だけ穏やかな目で夫を見送り、迷いを振り切るようにして生き残った部下達を叱咤する。
「何をしている! 皆が守りを固めるまで、我等が命で時を稼ぐぞ!」
「応っ!」
 恨みも絶望もなく、あるのはただ闘志と希望だけ。
 彼等の抵抗は、遊撃隊が壁の破壊に成功し、前と後から挟撃されるまで続いた。
「あな……た…………」
 虚ろなる夜の幻影・フォルテ(a00631) によって背後から致命傷を受けた最後の1人が倒れたとき、百鱗護衛士団の中核をなす精鋭達は、グリモアの間に撤退を完了していた。



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【18:00】


●百鱗護衛士団
「おっさん、久しぶりだな」
 不破の剣士・アマネ(a01528)と黒キ混沌ノ翼ノ凶ッ風・ライル(a04324)を伴った黒水王・アイザックが、血塗れた蛮刀を、肩に担ぐようにして構える。
 黒衣のナース・サレナ(a01030)の手によって癒されてはいるが、アイザックの全身に無数の真新しい傷跡がついていた。
 アイザックの登場に衝撃を受ける百鱗護衛士団の中で、ただ1人、団長だけが平然として礼をした。
「えっ……ここって」
 アイザックに続いて入ってきた漆黒の閃光・シュテルン(a00753)が、ここが戦場であることも忘れ、あたりをみまわした。
不破の剣士・アマネ(a01528)
銀鷹の翼・キルシュ(a01318)  地下とは思えないほど広い空間に、天井からさんさんと陽の光がふっている。
 おそらく、屋上や壁面に開けられた小さな小さな窓から、陽光を鏡に反射させてここまで導いているのだろうが……。
「ここが、聖域」
 グリモアの間へと続く階段に配置されていた、重騎士と牙狩人を排除してきた銀鷹の翼・キルシュ(a01318)が呟く。
 狭い空間を塞ぐリザードマン重騎士に、ホーミングアローにより遮蔽物に隠れつつ射撃を行う牙狩人隊。
 その全てを討ち果たしてここまで降りてきたものの、同盟の冒険者達は回復アビリティをほとんど使い尽くし、無傷な者など1人もいない有様であった。
「リザードマンに似つかわしくない…………。いや、これがリザードマンなの、か?」
 キルシェは目を細めた。
 実用一点張りの要塞の中枢にある、大人しい色の草木がたたずむ、清い水が流れる湿地。その中央では、透明で大きな水晶に見えるモノが淡い光を放っている。そこから少し離れて置かれているのは、ただ頑丈さだけが取り柄の、玉座。
「お久しぶりです、殿下」
「驚かないのだな」
 百鱗護衛士団の団長の挨拶に、アイザックはそっけなく答えた。
 同族の血にまみれた彼の目には、深い悲しみと、それを上回る覚悟があった。
「ええまぁ、最近は、数百年来起こらなかったことが多発していましたし、少々の事では驚きませんよ。……ところで殿下、このまま王の座につくおつもりで?」
「それが必要であればな。全てはリザードマンのため。俺の都合など、後回しで構わん」
「…………」
 百隣護衛士団の団員達はアイザックを凝視し……。
 その半数以上が、小さく頷いた。
「なるほどなるほど。そこまで言われるなら否応はありません」
 団長は、満面の笑みを浮かべた。
 そのままアイザックに降伏するのではないか、と漆黒竜の血を引く破壊の使徒・オイスター(a01453) が思ってしまうほどの愛想の良さ。
 しかしもちろん、そんなことはあり得なかった。
「ならば、我等は我等の役目を果たすのみです」
 リザードマンの狂戦士が、足下が沼であるにもかかわらずほとんど足音を立てず、同盟の冒険者から見えているのに、気配を感じさせない動きで、静かにアイザック達に襲いかかる。
「いくぞ! ここを陥とせばこの戦は終わりだ!」
 2階と3階にいた手負いの牙狩人が殺され、営倉にもノソリン小屋にも兵舎にも誰もいなかったことを知っているアイザックは、宣言するように言って、己の武器で同胞の一撃を受け止める。
漆黒竜の血を引く破壊の使徒・オイスター(a01453)
 十分に強化した業物の蛮刀が、きしむ。
 アイザックは全力の力を込めて必殺の一撃を受け流しつつ、蹴りを繰り出す。
 が、狂戦士はわずかに後退するだけでその衝撃を鎧で急襲し、アイザックを守うと動いたライルの首筋に向けて、重く、鋭い一撃を繰り出す。
「させんっ!」
灰銀の戦人・アレスディア(a01677)  灰銀の戦人・アレスディア(a01677)が前に飛び出し、己の身を盾にしてその一撃を受ける。
「ぐっ……」
 鎧の分厚い部分で、衝撃を逃がす角度で受けたにもかかわらず、彼女の鎖骨から不吉な音が響いた。
「!」
 それでも、これまでの人生の中で最大級の見事な一撃を繰り出すアレスディア。にもかかわらず、狂戦士は己の鱗を2、3枚削られるだけで、防ぎきった。
「こんなところで、死ねないんですぅっ!」
 闇と混沌を支配する悪の女神・シルエスタ(a00414)が放ったニードルスピアが、同盟冒険者達を包囲しかかっていたリザードマン達に突き刺さる。
 近接・格闘戦そのものでは同盟側を押している百鱗護衛士団だが、それでも術攻撃に対しては比較的脆い。
 もちろんそれは彼等自身分かっている。
 鍛え抜いた彼等にすら大打撃を与える高レベル術者めがけて、リザードマン最高の忍びが数人がかりで襲いかかる。
「はっ、させるかよ!」
闇と混沌を支配する悪の女神・シルエスタ(a00414)
梁山泊専属料理人・シュハク(a01461)  攻撃アビリティをほぼ使い果たした復讐誓う凶科学者・クドリャフカ(a02995)は、己の体を忍びに対する盾にする。
 一撃で肩から肺まで貫いた忍びが、復讐者の血痕によりダメージを受ける。
 だがもう1人の攻撃により、クドリャフカの胸は、肋骨ごと縦に断ち割られていた。 「………………」
 血の泡と共に誰かの名を呟き、彼は自らがつくった血の海に沈んだ。
「そんなっ。誰もしなせたくないのに!」
 梁山泊専属料理人・シュハク(a01461) が、涙を流しつつヒーリングウェーブ奥義を発動させる。
 しかし、屋内、それも1つの部屋での戦闘であるにもかかわらず、味方全員を効果範囲に捉えることができない。
 百鱗護衛士団は巧みに進退を行い、同盟の冒険者達を分断し、各個に攻撃を集中しているのだ。
 同盟側の冒険者の注意が足りないのでも、弱いのでもない。
 百鱗護衛士団の組織としての能力が、桁外れなだけだ。
「道連れに……ぐぁっ!!」
 死にぞこない・ラビッシュ(a01045)が、リザードマンの武闘家と重なるようにして、血に染まった沼に倒れる。
 いつ果てるともなく続く戦い。
 百鱗護衛士団が1人倒れるたびに、同盟側は2人か3人の戦闘力を奪われている。
神音騎士・サファイ(a00625)  重い傷からの回復には、アビリティを使っても少なくとも10分かかると知っている彼等は、同盟冒険者の止めは行わない。
 だが、押されているのは、圧倒的に同盟側だ。
 しかし。
「そろそろ増援が来る、それまでなんとしてもこの状態を死守するんだ!」
 流水撃奥義を繰り出しつつ、神音騎士・サファイ(a00625)が叫ぶ。
「後少し、耐えろ!」
 ファイアーブレードをまともにくらいつつ、兜割り奥義で反撃する黒獅子・キース(a00755)。
 そう。
 戦闘自体では百鱗護衛士団が有利でも、数で勝るのは同盟側。
「っ…………」
「団長!」
 集中砲火を浴びて、百鱗護衛士団の団長がよろけた、ヒーリングフィールドを発動できなかったとき、戦況は一挙に傾いた。
 ようやくグリモアの間に到着した灰色の鴉・アゼル(a00436)が戦闘に参加したとき、百鱗護衛士団の生き残りは6名。
 その全員が前のめりに倒れ伏すまで、後、10分が必要であった……。
灰色の鴉・アゼル(a00436)


作戦結果:成功!
死亡者:フィロゾーフ・ルーチェ(a00593)  王を夢見る・レオン(a00385)
復讐誓う凶科学者・クドリャフカ(a02995)  死にぞこない・ラビッシュ(a01045)