<東方大陸の伝承を求めて・参>


●前回までのお話
 東方大陸の伝承を求めて

 東方大陸の伝承を求めて・弐


●魔の海域に潜む島
 東方大陸の漂流者がいるという、沿岸の島。
 冒険者達は、その情報を元に島に渡り、東方大陸に関する情報を集めたのだった。
 島での調査を進める過程で、冒険者達はある有力な情報が舞い込んで来る。

 『魔の海域』と呼ばれる場所にある、小さな無人島に赤い建造物があるというのだ。

 魔の海域には数多くの海モンスターが出現する危険な場所である事と、島の者達が近寄らなかった為、その無人島には誰も足を踏み入れていないらしい。

 人跡未踏の小島にある赤い建造物!
 冒険者達にとって、それは、非常に有力な手掛かりに思えたのだった。
 一度態勢を整える為、調査に向かった冒険者達は帰還するしかなかったが……。
 だが、ここで諦めるようでは冒険者失格である。

 帰還した冒険者達は、すぐに再度の冒険に向けての準備を開始したのだ。
 幸い、船に関しては『魔の海域の手前まで』ならば、冒険者を運ぶ事を了承してくれた。

 あとは、いかにして魔の海域の水棲モンスターを避け(或いは倒し)、建造物のある人跡未踏の小島へと辿り着くか?
 それは、冒険者の機知と作戦と覚悟とに委ねられる事となる。

「人跡未踏の島にある未知の建造物。これこそ、冒険者の求める冒険ではないか!」
 言われるまでも無く、それは当然の事であった。

 そして冒険者達は、仕切りなおしの冒険へと出発する。
 出港は6月28日の朝8時30分
 参加を希望する冒険者は、それまでに船に乗り込むのだ(泳ぐのも許可)!

 

<リプレイ>


●出発進行!
 出発の朝。東方大陸の伝承を探す冒険者達を乗せた船が、ランドアース東岸から出航した。
「たどり着けなければ意味がない! 逃げるのではなく目的に向かって進むのだ! さぁ、力自慢と勇気の持ち主よ、集まれ!」
 リザードマンの吟遊詩人・ナギ(a08863)は船の上でそう呼びかける。
 腕力とパワーのある者を集め、手漕ぎの高速艇を作ろうとの考えだ。
 そのナギの声に炎の英雄・リュウセイ(a05171)を始めとする数人の冒険者が立候補していく。
「よし出来たのじゃ♪」
 チェリー・サク(a04300)が意気揚々と出来立ての浮き具を持って、陽だまりの風に舞う・シルキス(a00939)の元へやってくる。
「おぬしらの武運を祈るのぢゃっ」
「ああ、ありがとう……」
 そのまま受け取るシルキス。シルキスはこの後、泳いで戦う先発隊に入っているのだ。
「さてと、これで大丈夫だろう」
 その隣では、神音騎士・サファイ(a00625)も浮き袋を作って、仲間が海に落ちても大丈夫なように準備を行なっていた。

 とまとの・ヒカリ(a00382)の作った旗がゆらめく船は順調に進み、まずは拠点になる小島に到着する。前回、調査を行なった小島だ。
 冒険者はここでも、探検の準備に余念が無い。
「じゃん! 海図だよ。これで迷子にならずに行けるよね?」
 時間がかかってしまったが、うみねこサルベージのオーナー・ユフキ(a00342)は海図を広げながら、魔の海域での航路の調整を行なう。勿論、旅団謹製の小型船も忘れていない。
「皆、後もう少しだ。この樽が出来れば、もっと戦いやすくなるはずだよ」
 迷宮の翔剣士・ハツキ(a05208)や向日葵の魔導師・リョウ(a06085)らがいくつもの頑丈な樽を用意していく。
 この樽を利用して水中での戦いに備えようというのだ。
 と、歌が聞こえる。幼き吟遊詩人・ラク(a09565)が獣達の歌を歌っている。
 その隣には、君影草・リナ(a05391)の姿も見える。2人の周りには、海鳥やイルカなどが集まってきていた。
「うーん、沢山の動物に聞いたけど、あんまり良い情報は無かったね」
「こっちも無理みたいね。イルカ達に連れて行ってもらおうと思ったのだけれど、モンスターを怖がって魔の海域には入らないみたい」
 2人はため息を零し、仲良く配られた昼食を食べ始める。
 その傍らには気持ち良さそうに眠る、木漏れ日に眠る詩人・モデスト(a01364) の姿が。
「ねえ、起こさなくてもいいの?」
「まあ良いではないか。待てば海路のなんとやら、のんびり景色でも楽しんでいるうちに案外道は開けるかもしれんぞぃ」
 リザードマンの武道家・トゥペ(a10055)がのんびりとした口調でそう告げる。
 昼食を取り準備の整った冒険者達は、いよいよ水棲のモンスターが潜む『魔の海域』へと向かったのである。

●魔の海域の水中大決戦
 輸送船は魔の海域には入らない。
 そこは、とても危険な海域だから、冒険者でなければ中に入ろうとはしないのだ。
 輸送船の船乗り達に見送られ、命知らずの冒険者達は、幾つかの小船などを擁して『魔の海域』へと足を踏み入れた。
 時間はまだ昼を少し過ぎたくらいだ。
 怪傑・ジョニー(a00066)らは、夜に海域を越える事を提案していたが、夜の海での戦いは周囲が確認できず危険であるという事で、日中の行軍となっている。
 黒氷の歌姫・フブキ(a07273) の舟歌が海に響き渡る。
 この歌で気持ちを1つにしようという考えからだ。
「皆っ!! 敵が来たよっ!!」
 ドリアッドの紋章術士・ニア(a08210)が用意した呼子と共に、皆に知らせる。
 ニアの先に指し示す方向に鮫の背びれのようなものが見えたのだ。
 相手が動く前に見つけられたのは、ニアやエルフの医術士・ホゥリィ(a08218)、リザードマンの武人・ビビラ(a08219)らがモンスターの早期発見の為に努力した賜物であろう。
「それじゃあ、湯の瀬小隊の皆、行くよっ! ナパームアローッ!!」
 縁胸あばれ矢・イツキ(a00311)を小隊長とした『湯の瀬小隊』が動き出す。
 悪をぶっ飛ばす疾風怒濤・コータロー(a05774)もイツキと息を合わせて矢を放つ。
 蒼紅の舞闘士・フィオ(a06729)と希望ト混沌ノ凶ッ風ノ守護者・ライル(a04324)の放ったリングスラッシャーが、鮫モンスターを蹂躙する。その騒ぎに他のモンスター達も動き始めた。
「飛燕刃!!」
 ストライダーの忍び・レンナ(a00017)は、主力になる湯の瀬小隊に向かう敵の目をそらす為に、囮となって巧みに飛燕刃を放った。
「この二本のたんけ…ぶふぉっ」
 天空海闊・ホカリ(a00802)は、小船に取り付いた蛸モンスターを切りつけようと海水を飲み、溺れそうになりながらも戦っていた。
「皆様、お怪我はありませんか?」
 後方で治療を行うのは、椿姫・アリス(a00424)。揺れる船の上で治療とニードルスピアの援護を交互に行なっている。
 そして、一度、戦った者達が上がり、また新たな冒険者達が海へと入る。
 冒険者達が選んだ戦いは、こうして交代しながら、モンスターらを殲滅させる方法であった。
 次に戦うのは、星射抜く赫き十字架・プミニヤ(a00584)ら、『ハールファウス十字騎士団』の面々だった。
 プミニヤが用意した樽がゆっくりと流される。そして、樽がモンスターの攻撃により、勢い良く割れ、その中から、赤い液体が流れ出た。樽の中身は魚や動物から取った血である。
 これに寄って来た鮫モンスターを……
「ナパームアローにゃっ!!」
 プミニヤお得意の矢が鮫モンスターを吹き飛ばし、集まったモンスター達に総攻撃を仕掛ける。これがプミニヤの作戦であった。
「エンブレムシャワーっ!!」
 後方にいた白銀の星芒術士・アスティル(a00990)と緑風の探求者・アリア(a05963)がエンブレムシャワーで、影法士・シェリウス(a05299)は飛燕連撃、月光纏う森の魔導師・キョウマ(a06996)はニードルスピアで仲間の援護を行なった。

 こうして、多くの冒険者が繰り返し戦いながら、少しづつ船を進めていった……。
 血の匂いに集まる水の怪物達。
 戦いにつぐ戦い。
 だが、冒険者達はその戦いをこなしつつも、海図を利用してのコース取りの良さもあり、大きな被害を出さずに着実に前へと進んでいったのだった。

●探索! 人跡未踏だった島
 ……そして数時間後。
 冒険者達は、無事、海のモンスターを倒し、無人島への上陸に成功していた。

 噂どおり、上陸した海岸から確かに赤い建物の影が見えた。
 少し森の奥に入らないと建物のところへはいけないようだ。
「良くぞ生き残った同盟の精鋭達よ!」
 蒼の閃剣・シュウ(a00014)は、激しい水中決戦を繰り広げ、上陸した皆に激を飛ばす。
 冒険者達はいくつかの班に分かれて行動することにした。
 もちろん、噂の赤い建物を調べる者達も多く、早めに出発した。
 何故か無人島にある謎の食材を探しに来たという『食卓歓談衆ご一行』の面々もいたようだが。

 その中でも、いち早く何かを発見したのは、チーム『4番街』の面々であった。
 凪し闇影・ナギ(a08272)は赤い建物との距離を測りながら、手にしていた用紙に記入していたときであった。
「おい、ビリーっ! こっちに来てくれないか?」
 追想回顧・グスクラッド(a02826)の呼びかけに愛煙家・ビリー(a03028)が駆け寄る。
 その周りには、 灰夢・フルール(a03146)、夜闇偽月・カラ(a03200)、悪戯童子・チェコ(a03979)、氷の卵・イーチェン(a07798)の姿もあった。
 グスクラッドが見つけたもの。それは数百年は立っているであろう、土饅頭。
「……お墓……でしょうか?」
 カラの言葉に皆は顔を見合わせた。
 土の盛り方、そして、その上に丁寧に石が置かれている。
「どうやら……そのようだな」
 石を調べていたビリーが静かに告げる。
「これは、ここに漂流してきた者の墓に間違いない」

 海岸沿いを捜索していた暁の幻影・ネフェル(a09342)はひときわ大きい声を張り上げた。
「これを見てください」
 その周囲には石を並べた住居跡があったのだ。どうやら、ここには漂流者達がいたらしい。
「これは……」
 森狼の眸闇の双珠・ジン(a08625)は、その住居跡から短い二本の朽ちた棒や、小島の調査時に見せてもらった手鏡や日用品などが発見された。
「どうやら、この辺りには誰もいないようだね」
 誰かいないかと周りを探索していたまどろみの囚人・カクラ(a09664)が辺りを探したが、人一人見つけられなかった。
 どうやら、ここにいた住人はもう、この場所を立ったようだ。

 一方、そこから少し離れた場所。
「ふう、危なかった。もう少しで変な蛇に噛まれる所だったよ」
 蒼氷の忍匠・パーク(a04979)は蛇にトドメを刺し、一息ついた。
 パークだけではない。黄昏の漣・フリア(a03388)、月交蝶・レイ(a07605)の三人で構成された『緑青庵』の面々は、海岸に程近い森を歩いていた。
「これは……?」
 そのとき、レイが見つけたもの。それは朽ちた木が幾本か結わえられた残骸であった。恐らく、筏で海を渡ろうとして失敗したものなのだろう。
「大きなものを持っていく事はできないな……」
 レイはその筏の残骸をスケッチして、皆の下へと戻っていったのである。

●赤き建物の正体
 島の中心には竹やぶがあり、それを越えた先に、その建物があった。
「赤の建物って何だか目が痛い……色が赤って何か意味があるのかな?」
 仄蒼き閃光弓・カグラ(a00384)は目をしぱしぱさせながら、その建物を見ていた。
 赤い屋根。そして、屋根を支えるかのように赤い柱が、前に四本付けられている。
 中央に扉らしきものがあるが、その扉の上には綱がついており、白い飾り紙のようなものが付けられていた。
「これって、石で出来ているんだね。ランプみたいに使うのかな? 残念ながら転移装置とかじゃないみたいだよ」
 風来の冒険者・ルーク(a06668)が建物の側にあった石で出来た灯篭らしきものを見ながら、そう告げた。
「よっしゃあっ! 後はわたしにお任せっ! この建物を青色にしてあげるわっ!!」
 ゴッドハンドシスター・アルヴィース(a07051)が勢い良く顔料の缶を片手に振り回した。
「おい、まだ調査が終わっておらんぞっ……」
 明日に届く笑い声・サイデル(a07885)の静止する声もむなしく。
「あっ……」
 アルヴィースの持っていた缶は上手く扉に当たった。
 がこんっと激しい音と共に扉が1枚、倒れた。
「これで中に入れるな……」
 愛用のアドベンチャラーズマシェトを構えつつ、探検隊隊長・ワイドリィ(a00708)は慎重に中に入る。
 建物の中は薄暗く、湿った臭いに満ちていた。
「皆さん、これをっ!」
 真珠星・ベル(a00069)が指し示す部屋の中心に、蓋のような扉があったのだ。
「何か文字が書かれていますね」
 欲望の竜皇・シヴァ(a04547)が今回の調査で発見したものを、紋章筆記で自分の手帳に記しながら、扉に書いていた文字を読み上げる。

 この道を再びくぐり到達する者に警告する。
 この島の周囲は強力な水の怪物で満ちている。
 不用意に海に入る事無きよう。
 島にある木の実で食べられるのは……

「どうやら、この島に住む時の注意事項……のようですね」
 混沌と虚無の仮面・テスタロッサ(a08188)が、そう感想を述べる。
「最後には、船が完成してここを出発したようだ」
 嵐・ヴィナ(a09787)がそう締めくくる。
「どうする? この中に入るか?」
 ワイドリィが皆に尋ねる。
 だが、その質問は愚問であった。
 その場にいる冒険者達が求めるものは、ただ1つ。
 この扉の先を探索し、謎を突き止める事。
「開けるぞ……」
 ワイドリィはゆっくりとその扉を開いた。

「わあ、綺麗……」
 獄炎の魔科学士・ミシェル(a06912)はうっとりと見つめる。
 扉の先には、ふわふわと夜光虫が飛び交う洞窟であった。
「どうやら、この先は迷宮になっているみたいよ。ドラゴンズゲートのようね」
 蒼炎の戦姫・フィア(a05367)が少し先の道をランプで照らした。
 冒険者達一行は、ゆっくりと奥へと歩き始めた。
「? 気のせいか?」
 洞窟の中に入った黒衣の閃迅・レオニード(a00585)は、誰かに見られているような視線を感じたのであった。

 バニーな翔剣士・ミィミー(a00562)が素っ頓狂な声を上げた。
「変な家を見つけたわーっ!!」
 そこにあったのは屋根がない家屋であった。
 床が地面よりも高めに作られている。先ほどの建物の入り口の扉に似た、紙の扉もあった。
「ちょ、ちょっと、これ……開かないわ」
 がちゃがちゃと前後ろと引っ張るミィミー。しかし、なかなか開かない。
「よし、そこをどいていろ」
 刃・エクサス(a01968)がミィミーの代わりに扉を開けようとするが……。
「む、むむむ………」
 ミィミーと同じく、なかなか開かない。
 最後には。
「これ、蹴り倒そうか?」
 なんていう始末。
「待ってください、もしかしてこれは……」
 銀笛の風の術士・ユーリア(a00185)が扉に手をかけ、すっと横にスライドさせる。
 がら。
「何っ!?」
 思わず驚く。どうやら、この紙の扉は前後ろに開くのではなく、横にスライドさせて開く扉らしい。
「珍しい扉ですね。見てください、床も珍しい素材で出来ていますよ」
 ユーリアは扉を開けた先を指し示す。
 そこには緑色をした床が現れた。床なのかどうかも怪しい。そこは木の板ではなく、堅い草を一本一本丁寧に編上げたような床なのだ。
「でも何もありませんね。……ここで生活していたという感じもしませんし」
 寝具も食事の為の炊事道具もここにはない。
「他をあたりましょう」
 シヴァがそう提案し、皆はその家屋から離れたのであった。
「……視線、か?」
 レオニードだけでなく、今度はエクサスまでも、奇妙な視線と怪しい気配を感じた。

 いろいろと洞窟内を調べたが、東方大陸にまつわる物はなかなか見つからなかった。
 その代わりに狐の姿をしたグドンなどの敵が数多く潜んでいた。
 冒険者達は、順調に敵を倒しながら、奥へ奥へと進んで行く。
 そして、かれこれ7時間ほど経ったときのことだった。
「あ、あそこに宝箱があるぜ!」
 新たに見つけた小屋で、今度は宝箱を見つけた。
 黒剣王・グランデイル(a02527)が嬉しそうに駆け寄るそのときであった。
 ゆらりと何かが動いた。
「きゃあっ!!」
 ユーリアが弾き飛ばされる。
 いや、弾き飛ばされたのではない、電撃だ!
「誰だっ!?」
 冒険者達が振り向いた先にいた者。
 それは多数の腕を持ち、白い布を身に纏った人型のモンスターであった。
 その手には剣が握られていた。
「モンスターっ!?」
 突然の攻撃にエクサスがとっさにリングスラッシャーを放つ!
 人型モンスターは軽く、そのリングスラッシャーを剣でかき消した。
「土塊の下僕っ!!」
 ヒトの紋章術士・スカアハ(a02458)が土塊の下僕を呼び出し、モンスターの動きを止めようとする。
 だが、それもあっさりと倒されてしまった。
 色彩を操る医術師・ナオ(a09228)は、仲間が戦っている間に傷ついたユーリアを癒しの水滴で癒していく。
 ばちばちばちっ!!
 また稲妻が走る!
 それと同時にモンスターは切り込んできた!
「くそっ! あの視線はお前だったんだなっ!!」
 レオニードの黒白輪が人型モンスターの武器を止める。
 レオニードとエクサスが感じたあの視線。あの不気味な気配はこのモンスターのものであったのだ!
「皆、一気に行くぞっ!!」
 ワイドリィが声をかけ、冒険者達が自分の得意な武器で、一斉に攻撃を与える!
「オオオオオオオオンンンン」
 人型モンスターは、皆の攻撃をいっぺんに受け、ゆっくりと地面に倒れた。
「はあ、この宝箱、空だったぜ……」
 モンスターが倒され、静かになった後、グランデイルは寂しげに空っぽの宝箱を振り回した。

「皆さん、ここにも扉が……」
 ベルが見つけたのは、新たな扉であった。
 今までの扉とは違い、6つの手形が付いていた。
「一体これは何なんだ?」
 じっと扉の手形を見つめながら、ワイドリィは眉を顰める。
「おい、この扉……押しても引いても、ましてや横に引いてもびくともしない……」
「今度は力を合わせて、押してみよう」
 力のある者達が扉の前に集まり、押したり引いたり横に動かしたりしたが、全く開く気配がなかった。
 どうやら、これは何か鍵のようなものが必要なのかもしれない。
 それとも、この途中で見逃した何かがあるのかもしれない……。

「ちょ、ちょっとっ!! 奥からまた、モンスターが現れたわよっ!?」
 遠くでアルヴィースの声が聞こえる。
 長時間の探索と戦闘は、流石の冒険者でも疲れが見え始めていた。これ以上戦えば、地上に戻る事も難しくなるだろう。
「仕方ない、途中だが一端引き上げよう」
 ワイドリィの言葉で、皆は地上へと戻る。
「ここはまだ、探索する余地がありそうですね……」
 ベルはそう呟くと、静かに佇む赤い建物を見上げたのであった。