<リプレイ>
●
新しいかは分からないが、希望の朝である。多分。
薄らと空が滲んで来た頃、平原を往く二人があった。
「この辺が見晴らしが良いですなぁ〜ん」
しいて言やワタシ流・ティエン(a33937)はそういいながら、セリカ特戦隊員・リーフラ(a21809)へと手を振った。
「確かに、見晴らしが良いなぁ〜ん」
「なぁ〜ん」
リーフラは満身の力を込めると、グレスターの槍をワイルドファイアの大地に突き立てた。この槍は彼女らがあらかじめゲート転送を利用してここまで運んで来た物である。
「任務完了なぁ〜ん」
「皆集まって来ましたなぁ〜ん。……私はこのまま踊りにも参加してくる、なぁ〜ん」
なぁ〜んせ、私は踊り子だからと呟いて、ティエンは今度は集まって来た皆に手を振った。
●
グレートツイスターは動くドラゴンズゲートとして、ワイルドファイア探索に重要な役割を果たしている。
グレートツイスター……通称グレスターを動かす手順はこうである。
まず、グレスターの真下、中心に刺さっていた槍を地面から引き抜く。
この槍を移動目的地へと突き刺す。
槍の周りで大勢が踊る。
グレスター内部に存在する77本のレバーを操作する。
これだけである。
あとは自動的に、グレスターは槍を目標に移動し続けることになる。ちなみに停止する方法はまだ見つかっていない。
●
「踊る事で動くなんて、凄い装置だったのですね」
ミセリコルデ・レジス(a09204)はディルムンの説明を聞き、両拳をぐっと握ってみた。ちゃんと動くといいなぁ、と手の振りを確認してみたりする。その隣では、ネコミミフードを被ったうっかり医師・フィー(a05298)がにくきゅうグローブの装着具合を確かめていたりした。
「うーん、まさか動かせる日が来るとは」
テーリング・シェード(a10012)は徐々に集まりつつ有る人波を見渡して、ひとつ頷いた。
「人数が判んないのでその分も含めて精一杯力の限り踊りましょう」
一方、近隣の住民を誘って参加する者達も居た。キャットレッドブルー・エリス(a00091)もその一人である。
「長老様が乗る、不思議な道具なのです〜。みんなで力を合わせて動かすのですよ〜♪」
踊り方は……と考えて、傍に居た宵闇月虹・シス(a10844)を捕まえた。
「踊りですか? 実は──めこんたーれ音頭というのがありまして……」
そうなんだよぅ、と銀槍のお気楽娘・シルファ(a00251)も顔を出す。
「少しくらい間違っても大丈夫ですよねぇ?」
そんな踊りは初めてだ、というチャーヌの少女にエリスがそう笑った。
「人が多い方がいいというのなら冒険者に限らなくてもいいわけだ」
やはりご近所さんを誘って来た流れ行くままに・アロイ(a00793)が頷く。
「しかし、グレートツイスターがこっちに来るとなると、マリンキングボスはどっか行ったりしないかね……」
多分、大丈夫だと思います。多分。
「誰かが言っていたわ踊りは独りでやるものではないって」
紅い魔女・ババロア(a09938)は集まった人々が槍を中心に大きな大きな輪を作って行くのを見守っている。
「呼吸を合わせて周りの風景にリズムを合わせて踊りましょう」
「ええっとね、こう、こう……こう…」
我侭娘・リゼン(a01291)は小さい子達を集めて、踊りの手ほどきである。
「ホントは神楽が得意なんだけどねぇ」
両手に触れる小さな手に、まんざらでもない様子であった。
「ぼくはあんまりじょうずじゃないけどね……」
ヒトノソリンのご近所さん達にそう言った、ちいさなひらがなてんし・エリー(a02292)。
「やろうとする、気持ち…大切。きっと」
風舞淡雪・シファ(a22895)が言うと、空色クラッカー・レジィ(a18041)も頷いた。
「ヘタでも何でもいいから、楽しく踊ったモン勝ちだよな?」
柳緑花紅・セイガ(a01345)がそういうと、立ち上がる。
(……独りでは知り得ない楽しみが、踊りにはあるのですよ)
皆の準備を見守りながら、シスはにっこりと目を細めた。
「まるでお祭りですな。一般の方も一緒なんですよね」
薄暗がりに集まった人の波を見渡して、眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)が思わず口を開く。「マティエちゃん達も一緒に踊れたら、もっと楽しいなぁ〜んね」と、明星の夢・サガ(a16027)が言っていたのを思い出した。
パンポルナ、ヴアサーリは勿論護衛士でない一般の住民もかなり集まっているようだ。むしろ、冒険者でない者のほうが多いくらいだろう。
「カポエラっていう、踊りとも格闘技ともいえる伝統芸能を披露するよ! まだまだ未熟な腕だけれど、きっと楽しいと思うから、見ててよね!」
そういって準備を始める青空に浮かぶ月・ルイ(a07927)。砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)も「砂漠の部族に伝わる剣舞を舞おうか」と衣装をまとい剣を構えた。
チアリーディングの準備をする零距離反動蹴ビースティンガー・ルシア(a35455)や、「ここは優雅な踊りっぷりを見せねばなるまいて」といいつつ手ぬぐいを被った悪代官・スケベエ(a04439)はドジョウすくいの準備ばっちりである。
「………………」
とにかくぶつかったりしないように、無言で適度に距離を指示するディルムン。踊りの輪はどんどん大きくなっていった。
●
ゆっくりと空を曙色に照らしながら、朝日が昇り来る。合図だ。ディルムンは周囲にそう告げながら、皆の間を回って行った。
やがて踊りの輪は徐々に動きだし、リズムをとる手拍子の音に、舞曲を奏でる楽器の音色が混ざり出す。
「奏でましょう。貴方達が舞う旋律を。導きましょう。貴方達が望む大いなるものを」
放浪者・クレスタ(a36169)が伴奏の弦を弾いた。
「いっくなぁ〜ん♪ 楽しく踊れば、気分もハッピーなぁ〜んっ」
炎に輝く優しき野性・リュリュ(a13969)が尻尾を揺らして踊る向こう、わにゃにゃわにゃんこ〜・ワニャ(a15368)や猫少女紋章術士・キラ(a01332)は尻尾を動かしながら踊りだす。蒼き仙人掌の華・サラティール(a23142)はペンギンスーツで器用に脚を運んでいる。踊り子の衣装で参加した不破の蒼騎士・レイン(a45840)は、静かに深く礼をすると、楽しそうに踊り始めた。
「この大会議はワイルドファイアの行く末を決める大切なものじゃ。上手く行くように祈りつつ華麗に舞うとするかのぅ」
扇を手に、番紅花の姫巫女・ファムト(a16709)は息を吸い込んだ。
「それにしてもワイルドファイアは暑いなー! いーや、服脱いじゃえー!」
踊りながら、青の記憶・セルリアン(a35913)は着ていた服を投げ捨てる。パンツははいてるから大丈夫〜等と言いながら、踊る。踊る。鋼の錬金医術士・エイリーク(a46004)も緩やかに踊る。
「楽しい踊りは自分が楽しまないと周りが楽しめないだろなぁん」
鉄の射手・シロ(a46766)や可憐な心を映す蒼と碧の双紋・ウィス(a39971)も集まった住民達に混ざって、足を動かした。
「話に聞いただけではありますが楓華のお祭りはこんな感じらしいですよ」
迷子の守護者・フィール(a09183)は半被を着て、顔に染料の出で立ちで気合いの声を上げる。
「楽しく踊って動かそうではないか!」
声をかけながら、白破徒・フィー(a17552)が楽しそうに踊る。
「おい、ちょっと手を貸せ。あっちで踊るだけで良いから!」
人だかりに集まった人たちを錆び付いた刃・エリアン(a28689)が誘い込む。1人、また1人と輪は広がって行った。
●
「日が昇り始めたな──」
グレスターの上で東の空を睨んでいた黎明の燕・シェルト(a11554)の声に、剣の刃塵降雨・アネット(a03137)が目を細めた。ここより東の地では、既に踊りが始まっているだろう。
「此処までの長距離の移動は初めて、さてどんな結果が出ますかね」
三日月の導師・キョウマ(a06996)はレバーに手をかけると、顔を上げた。
「総員配置!」
蒼炎超速猛虎・グレンデル(a13132)の声が響くと、暁に舞う翼・ルブルム(a37233)達が丸い部屋へと広がった。天井を見上げて、囁かれし者・テスタロッサ(a08188)がひとつ頷いた。
「オールグリーン……行きましょう!」
丸い部屋の周囲にならぶ77本のレバーが次々に倒される。
「天井が、ピカピカですね」
風使い・サン(a48059)は光りだした天井が鮮やかに明滅するのに目を薄くつむった。
「え?」
温・ファオ(a05259)が顔を上げる。これまで、色が変わったことはあったが、こんな状況は無かった筈だ。黒耀天剣・ライガ(a01557)達の手によって、レバーが倒される度に、明滅は明るく大きくなっていったが、特に警告や注意のような表示はテスタロッサの目には移らなかった。全て、順調な筈である。
「とにかく言ってみまショ」
76本の小レバーを倒し終えると、最後の大きなレバーに取り付き、塩屋虻・ヨイヤミ(a12048)が頷く。
「発射だね?」
無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)の言葉に、グレンデルが笑う。
「発進だ、『発進』……いくぞ」
全員の力が、大きなレバーに込められた。
──グレスター、発進。
●
「なぁパーク、いつまで待てばいいんだろうな?」
こちらは、前日からインフィニティゲート前で待機している青き新星・ラージス(a17381)と蒼氷の忍匠・パーク(a04979)。
彼らは、踊りの輪の中央に立てられた槍を、同じく輸送隊である獅吼瞬破・リュウセイ(a14874)達がマリンキングボス経由で転送するのを受け取り、グレスターへと転送させるのが役目である。
ランドアースでも薄らと日の出が始まっていた。踊りが軌道に乗る迄少し、それから槍を移動して……そろそろこちらに現れても良い頃合いだった。
「でも、動くとこ見たかったなぁ」
「来た」
鰐娘・ジョディ(a07575)の声に、パークが頷く。
「愛のお届け便でーす」
リュウセイの声を聞き流し、パークは槍を受け取るとインフィニティゲートから、今度は動きだしている筈のグレスターへと跳んだ。
一方、こちらはグレスターの後を追い、槍を回収する為に走る昏冥に漂いし魂離る夢魔・シルフィー(a38136)達。暴れノソリン・タニア(a19371)もなぁーん、と駆ける。駆ける。
「なぁ、インフィニティゲートから槍を持って来た人がそのまま持って飛び降りりゃ良いんじゃないか?」
魔戒の疾風・ワスプ(a08884)走りながらワスプがぼやいて、ふと、気づいた。
「なあ、なんで俺達は走ってるんだろう?」
「え? 何が?」
灰眠虎・ロアン(a03190)がやはり、走りながら振り返った。
「走らないと、行っちゃうぞ?」
「いや、そうではありませんよ」
白翼の騎士・レミル(a19960)も気づいて頷いた。グレスターはこんな速さで移動するものではない筈なのだ。しかも、加速度がついているのか、段々とスピードを上げている気すらする。
「怪獣に持ち去られたりすると洒落になりませんから……早く投下してくれると良いんですけど」
「下ぁ、気をつけr……言っても聞こえないか。当たらないことを祈るのみ……って あ!」
グレスターの上から振り上げたラージスの腕から、パークが槍を奪い取る。
「えいや……っと! よ〜し、こっちも脱出。槍の上に落ちないように祈ってよう」
グレスター出発は成功した。後日、二人の尻尾持ち(とレバー操作要員)は無事に保護されたそうだ。
|
|