|
哨戒や探索ルートについての突合せ等、拠点内部はいつでも忙しい。探索任務の期間は短く、やるべき事は山ほどあった。 グドン地域へ潜入してこの方、日常となった業務をこなしながらも、強襲探索部隊の部隊員達の意識は、壁際に屈み込んだミカヤの背中に注がれていた。 ランタンを翳して、強襲戦闘班の者達が見つけた小さな従属グリモアに指を滑らせるミカヤ。これ一つ征服しても同盟の力が増したりはしないだろう、がそれ以上にこのグリモアには征服できない理由があった。満足が行くまでとくとグリモアが輝きを見詰め、ミカヤは立ち上がると手を止めて此方を注視している部隊員達を見渡した。
「これを支配する訳には行かんの。これは、北方セイレーンの従属グリモアだ」
北方セイレーン。同盟入りを果たした一番新しい種族であるチキンレッグの諸氏が伝えた情報によれば、グドン地域は北方セイレーン領だったのだと言う。 グドン地域は広い。これに限らず無数の従属グリモアが点在している事だろう。 しかし――ミカヤはもう一度従属グリモアへ眼を落とす。
「これと、これから見つかるグリモアをどうするかは、同盟の裁可を待つ事になろう。つまりは後回しと言う事だ。我々の任務は探索と調査なのだからな」
些か落胆したような部隊員達。 それでも。このグリモアは未だ見ぬ国へ繋がっているのだ。 未知の国へ。 冒険者としての心が騒ぐのを感じて、ミカヤは少し笑った。 |