<【第五回通常業務】>

 また監視を行ったぞ。
 ……我も疲れてきたな。まあいい。
 とにかく、あの女から綺麗過ぎる童話を聞く事ができたのだからな。

□【第五回通常業務】 毀れる紅涙・ティアレス(a90167)

場所:寵姫の私室   2006年09月01日 05時   発言数:16

●忍び寄る「何か」
 回廊を歩き、美少年らが此方に侵入しようとしていないかとエルサイドは確かめる。美少年らとの和解も無事成功した御蔭だろうか。本宮は何かと慌しい気配に満ちている様子だが、離宮に近付こうとする美少年らの姿は見えない。
 離宮内の探査を続けていたニューラは疲れたように肩を落とす。壁と壁との間に何かがあるのだとしても、其処に入り込む為の扉が何処に在るのか判らない。穴を開けることが出来るほど柔い壁でも無く、霊査と言う明確な手掛かり無くしては、此れ以上隠し部屋の発見は出来ぬだろうと思われた。

 一方の寵姫は機嫌が良いのか悪いのか判らぬ状態だ。
 寵姫は冒険譚を面白がり、良く笑みを零した。視線の交わったイドゥナが会釈を返すと、「後はあなたの名前だけかしら」と笑みを深める。護衛士は少ないだけに、恐らくは生活上の必要性として問われたのだろう。彼が名乗ると、寵姫は過ぎた舞踏会を懐かしむように瞳を細めた。
「うちらの我侭叶えてくれて、おおきにな」
 落ちた沈黙を破るように紡いだリーガルに、寵姫は青い眼差しを返し緩く首を横に振る。愛しい方々と共に過ごす時間が嬉しい、と綺麗な笑顔で囁いた。現在が楽しいと言うのも真実だろう。けれど、ならば時折浮かぶ影は何故か。
「辛い、なぁ〜ん……?」
 見上げるようにしてルージは尋ねた。
 癖のある少年の髪を撫でながら、寵姫は哀しげな微笑を見せる。
「……『未来』を思うと少しだけ、辛くなりますわ。わたくしの『現在』は、永久に続くものではなくなってしまいましたもの」
 限りある命を持つ者にとって気の遠くなるような年月、続いて来ただろう寵姫の日常は既に失われてしまっている。壊れた宝石箱の中には二度と琥珀が輝かぬように、囚われた寵姫からは、火にくべられた寵姫の命が燃え尽きるまで、全てが零れ落ちて行くのだろう。
「ならば、その『未来』を変えることが出来れば良いな」
 フレッサーの言葉に、寵姫は小さな笑みで応えた。殺意の衝動が発現した際に、命を殺めずに治まることはあるのだろうか。例えば治まるまでの間、抱き留めて居れば克服出来ぬか。重ねて問う彼に、「あなたの胸に抱いて貰えるなら自分は幸せだろう」と寵姫は答えた。
「我に返る切っ掛けさえあれば、自分を押さえ込むことは思うより簡単。けれどわたくしが『幸せ』を『幸せ』だと思えなくなる日が来たら、わたくしは……きっと、あなたの胸を裂くでしょう」
 訪れた夜にルーネが添い寝を申し出ると、寵姫は甚く喜んだ。独りで寝るのは寂しいから、と少女の手を取る。そして寵姫は少しだけ、何を思い出してか伏せた瞳を潤ませた。柔らかな寝床でルーネは故郷の子守唄を歌う。寵姫は彼女の手を握り、惜しむように眠りに落ちた。

 翌日の夜も、寵姫が眠れるよう冒険者たちは尽力する。
「怖い夢を見ないおまじないです」
 秘密を囁くような小声で告げて、アニエスは寵姫の額に口付けた。ルクレチアは青い瞳を見開いて少年を見る。朝には美味しい珈琲を淹れますね、と彼が続ければ寵姫は頬を淡く薔薇色に染めて「早く朝が来れば良いのに」と子供染みた願いを掛けた。
 アニエスが寝室を出て来ると、武装したヒトノソリンが二人。
 賢明なアニエスは見ないことにしてあげつつ、身体を休ませに戻る。
「(成功を祈るなぁん)」
 戦場に赴くラスキューから武器を受け取り、トロンボーンは武運を祈った。
 万一のことがあっては笑えないため、彼女は寝室前の通路で待機する。
 勇者は勢い良く扉を開くと、
「拙者の心はあの日と同じです!」
 高く跳躍し、
「ル〜クレチア様〜!」
 寝台に座る寵姫に飛びつき押し倒す。驚きに短い悲鳴を上げた寵姫の胸に、楽しかったある夜の思い出が去来して、自然彼女は笑みを浮かべた。けれどフォーマルな覆面の上から彼の唇に指先で触れて、押し留めるように契約めいた言葉を吐く。
「ねぇ……あなたは、わたくしに囚われない自信があるかしら?」
 頷くだけで良い。
「……ちゃんと忘れて、くださるかしら」
 軽く顎を引けば今宵限りの、けれど心からの寵姫の愛が手に入る筈。
 青い髪は蜜の如く甘く香った。問いへの応えは彼と彼女のみ知るだろう。

 翌日、珈琲を飲む寵姫にフェイルローゼは聞いてみた。
 寵姫はいつも誰かに望まれて生きているように思う。民の為で無く、施政者としてでも無く、自分だけの心で生きたいと思ったことは無いのか。寵姫の微笑みは、セイレーンの大領主としても、王家の血を引く者としても、十二分に高貴だった。
「王者として生まれた者は、公と私の境に苦悩することなどありませんの」
 何処かで聞いたような言葉で緩く肯定される。寵姫は望まれて生まれた王女であり、民に望まれる大領主だったのだ。そして考え様によれば、今このときですらも冒険者に望まれて生きている。
「あの、ルクレチア様」
 レーンは机の上を指し、立派な装丁が施された童話を読ませて貰えないかと頼んでみた。勝手に触れば、大事なものであればあるほど寵姫は激昂するだろう。童話に目を付けたことに深い理由は無い。強いて言うなら女の勘だ。寝室に置かれた本ならば、何か大切な意味を持つのだろう、と。
「……とても綺麗で、とてもくだらない御話よ」 
 寵姫は笑んだまま、一晩貸してあげましょう、と続ける。
 夜、寵姫の心が落ち着くようにとセドリックは静かな音を奏でていた。二曲目を弾き終えた彼に、寵姫は「ねぇ」と声を掛ける。柔らかな布団の合間から白い腕を伸ばして、
「眠れるまで、手を握っていてくれる?」
 随分と寂しがりな女は甘えるように温もりを強請った。

●綺麗な童話
 むかしむかしのおはなしです。
 ゆたかなセイレーン王国は、わるい列強種族からねらわれていました。
 覇権をめぐってあらそうわるい列強種族たちは言いあいました。
「ゆたかなセイレーン王国のグリモアさえ手に入れば、おまえの国をほろぼせるのに」
 それを知ったセイレーン王国の女王さまは、ふたりの王女を呼びました。
 だれより美しく、だれもが次の女王さまにと望んでいた姉姫。
 だれより優しく、だれよりも姉姫にあいされていた妹姫。
「かしこい王女たち、どうかこの国の危機をすくっておくれ」
 王女たちは答えます。
「わかりました、おかあさま」
「かならず王国をすくってみせます」

 ふたりの王女は手をとりあい、王国のへいわをまもります。
 姉姫はグリモアに誓いを立て、ぼうけんしゃになりました。姉姫はたいせつな妹姫をまもるために、たくさんのわるものを退治します。
 妹姫はたいせつな姉姫をたすけるために、まつりごとをおこないます。妹姫はわるい列強種族たちに、セイレーン王国にせめこまないでください、とおねがいします。
 わるいリザードマンはかんがえます。セイレーン王国にせめこめば、疲れたリザードマンをわるいソルレオンたちがせめてくるでしょう。
 わるいソルレオンはかんがえます。セイレーン王国にせめこめば、疲れたソルレオンをわるいリザードマンたちがせめてくるでしょう。
 わるい列強種族たちはざんねんそうにセイレーン王国をあきらめました。

 女王さまは王国をすくったふたりの王女をたたえます。
「かしこい王女たち、おまえたちのどちらかが、次の女王さまになりなさい」
 姉姫は妹姫にいいました。
「世界にはわるものがたくさんいます。わたくしは、わるものを退治しなければなりません」
 妹姫はいいました。
「わかりました、おねえさま。わたくしが女王さまになって王国をおさめます」
 姉姫は王宮を出て行きました。
 女王さまになった妹姫は、姉姫をわすれたことがありません。昨日も今日も明日も、とおくてちかい場所にいる姉姫が、こころすこやかにすごしていることを願うのです。

●滲む不安
「……綺麗過ぎるな」
 童話の内容を報告されたティアレスは短く吐いた。
 気を取り直すように手元の書類を纏め直し、マカロンを口に放り込む。咀嚼し、紅茶を一口。
「リピューマは次回から【監視班A】で動いてくれ。判らんことがあれば護衛士に聞け」
 琥珀宮ガランルフレの新たな護衛士、神速パンチ・リピューマ(a45101) は背筋を正して頷いた。
「でも不思議系トークはあんまり要らん」
「そう、ですか……?」
「多分な」
 そして明日からもまた、護衛士たちの日常が始まる。


!今回の業務内容確認!

■締め切り:9月3日(日)7時59分
■第一回通常業務で決定した基準を遵守すること。
■二日程の間、最も重点を置いて行動する選択肢を選び、行動詳細を記述するように。
 行動内容は200文字以内に纏めよ。
 団長室に赴く際は書類に纏めたとして、更に100文字分の文書を持ち込むことを許可。
※締め切り時刻、及び文字数制限が変化しているので注意。
※御願い:発言頭に【A】【B】【C】と所属班を記載してくれ。規定文字数には含まん。

 1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>
   (12)
 2. 離宮内の捜査
   ()
 3. 美少年と接触
   (2)
 4. 団長室で相談
   ()
 5. その他<団長の為に胃薬を煎じる、等を含む>
   ()

憂いの聖職・エルサイド(a41993) 2006年09月02日 21時
【B】室内監視時:冒険者が活躍する物語の書物を数冊持参し、興味があるようなら献上。全体になるべく控え目に、動きすぎぬよう行動、踏み込んだ話題は避ける。地下室の件には絶対に触れない。寵姫の様子や場の雰囲気を見てはハーブティーや珈琲の給仕をしたり、花を生ける、お菓子を運ぶ等、寵姫が心から笑顔で居られる環境を作るよう努める/夜間:添い寝する仲間と寵姫の為に、ハーブティーの用意をしてから部屋を出る。安眠促進。(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
禍音・アニエス(a35948) 2006年09月03日 00時
【C】夜間の監視時は傍に控えさせて頂き、自分で描いた鯨の絵をこっそり見せたり、実際鯨を見た感想や聞いた話(卵生でなく胎生など)をする。「海って不思議ですね……まだ僕の知らない事が沢山ありそうです」ルクレチア様が切欠を下さったお陰で鯨を見る事が出来て嬉しかった、と感謝の意を伝える。穏やかな曲を演奏して安眠を誘うけれど、許されれるなら、手を握る(添い寝)等ルクレチア様が心安く眠れるよう心掛けた行動を取る。(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
蒼鱗水龍・レーン(a46012) 2006年09月03日 00時
【A】監視の傍ら、童話の礼と感想、疑問を寵姫に尋ねる。/列強の脅威に晒された祖国を統治するのは奇麗事だけでは不可能。「お人よしで優しすぎた」妹姫を支えるため、姉姫は冒険者の力で、陰謀や要人暗殺等の裏仕事を担当していた?「一を殺すことで九十九を救す…。【姉姫】とは寵姫ご自身のことでは? そしてその過去が寵姫に、グリモアの加護と引き換えに血と殺意の衝動を与えたのではないですか?」寵姫の手を握り、目を見つめる (1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
レディ・リーガル(a01921) 2006年09月03日 00時
【B】寵姫のお世話をしつつ、監視。様子に注意し、早い段階なら話かけて意識を戻す。危険があれば抱きしめて拘束、落ち着くまで離さない。家庭料理ならできるので、鯨の竜田揚げを護衛士+寵姫分作る。鯨汁も同量作る。寵姫分鯨ステーキは本宮に焼いて貰うが、護衛士用のステーキも鯨肉が足りる限り焼く。食事時間に全員揃ってもらい『皆で楽しく食事』を演出。「焼き加減の好みがわかったら、うちがお姫さんの分も焼きたかったわぁ」(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
虹霓・ルーネ(a33126) 2006年09月03日 01時
【B】昼の監視時にてルクレチア様の御髪を梳かして差し上げながら先日美少年達にお逢いした事、とても元気そうにしていてお手紙を喜んでいた事。ルクレチア様をとても心配しつつ再び御目にかかりまたお仕えする事を切望されていた事等をお話する。其の時の様子を絵に描いて持参してお見せし、自分のスケッチブックと道具を示す「ルクレチア様も絵を描いてみませんかなぁん?心に残る風景とか想い出等どうでしょうなぁん?」(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
貴方に捧げる狂死曲・セドリック(a35874) 2006年09月03日 01時
【A】監視の際、捕鯨の様子や、俺がこれまで経験した依頼の話等を弾き語り風に奏でてみる。初めてお会いした時もこうやって竪琴を奏でさせていただきましたね、等と話しつつ。夜は俺の手がお役に立てるなら何なりと。「他に、俺がお役に立てる事はありますか」「ルクレチア様が今一番望んでいる事は、何なのですか」と聞いてみたい。叶えて差し上げられるかどうかは、解らないけれどね。フレッサーさんと被らない様、担当時間は調節。(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
武勲詩抄・フレッサー(a37890) 2006年09月03日 01時
【A】武器は連絡用に仲間へ預け、衝動発現時は落ち着くまで強く抱きとめる「儂は側近くで過ごす様になって感じるのだ。あの日以降、貴女の心の在り様が変わったのではないかと。今でも未来は臨まぬのか、また殺意の衝動を払拭したいと望まぬのだろうか?儂は聞いてばかりだな、今の儂に思いつく事と言えば胸を貸す位だ。貴女を受け止めてなお、己を見失わずにはおれるから(貴婦人が一夜を所望したら受けます)」セドリック殿と日時をずらす(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
黒き咆哮・ルージ(a46739) 2006年09月03日 01時
【B】監視体制は前回同様。有事の際は咆哮で足止めして仲間を呼ぶ。室内監視時には鯨を獲りに行った話をする。うっかり鯨共々沈みそうになった事とか。夜眠る前には「枕の下に見たい夢を紙に書いておいて置くと、その夢が見られるのなぁ〜ん」といい夢が見られるおまじないを教える。別作業で監視が手薄にならないよう人数調整を。今回は捕鯨で体力を消耗したため、話し以外はなるべく室外監視の任に就く。居眠りに注意。(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
朝凪の珊瑚樹・フェイルローゼ(a05217) 2006年09月03日 02時
【A】寵姫の監視。本宮が慌ただしいとの報告もあるので念のためテラスの外も注意し監視にあたる/寝室でアロマキャンドルを焚きリラックスして貰う/「もしお許しいただけましたら貴女様の竪琴をこの部屋にお持ちしてもよろしいでしょうか」とお伺いを立てる/食事の際にはどれだけ鯨が大きかったのか、筏がどう揺れたのか、護衛士がどうやって鯨を捕らえたのかを、セドリック殿と被らぬよう注意しながらおもしろおかしく話をする(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
無影の暁月夜・イドゥナ(a14926) 2006年09月03日 02時
【B】寵姫の監視・警戒を最優先とし、身の回りの世話をしながら彼女の言動に余裕の有無を把握出来るよう留意。万が一の有事の際には角笛で連絡。また、鯨狩りの際に体力を消耗した者に無理をさせないよう、身体に負担のかかる仕事を此方で受け持つ。/寵姫に対しては今迄通り必要以上の接触は控えるが、警戒心等を剥き出しにしたりはせず、不快にならない使用人程度の距離を置いて意識をさせないよう心掛ける。無粋な事はしない。(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
楽風の・ニューラ(a00126) 2006年09月03日 02時
【C】本宮に鯨の料理法を指示。寵姫用のステーキは尾の身の最上の霜降り部分を寵姫のお好みの焼き加減で、また可能なら刺身を作って貰い生姜醤油で頂く。鯨汁はコロ肉と茄子、ベーコンは炙る。サエズリは貝割れを巻き酢醤油、尾羽は薄切りを茹でて酢味噌和え。序でに本宮内の慌しさが何かそれとなく尋ねたり様子を探る。先日気を逆撫でした件は詫び、馬鹿と鋏は使いようと申します、此方の事はどうぞ御利用下さいと頭を下げます。(3. 美少年と接触)
オシャレ四天王・ラスキュー(a14869) 2006年09月03日 03時
【C】アンリ殿がテル殿及びフラン殿と離れている時を見計らい面会。人払いをお願いし最近のルクレチア様の様子(体調除く)を報告。その後「寵姫と美少年達を再び引合わせる為には寵姫の殺人衝動を止める必要があるが、どうにも情報が不足している」旨を伝え、協力を仰ぐ。了承を得たら、答えられる点だけでいいのでと前置きし「先々代女王はまだ御存命か、退位の理由は何か」「先々代女王とルクレチア様の間に何があったのか」を問う。(3. 美少年と接触)
神速パンチ・リピューマ(a45101) 2006年09月03日 03時
【A】武器は待機中の方へ預け。新しく配属されたとルクレチア様へご挨拶を。寂しくは無かったと思いますが、遅れた御詫びを。有事の際はWOLにて御知らせ。WOL活性化できない方や疲れている方の負担は請け負う。//夜は夜の方の武器を預かり、部屋外の監視、警戒。こちらは角笛にて。(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)
桃ノソリンの行かず後家・トロンボーン(a34491) 2006年09月03日 03時
監視行動は第二回と同じく。捕鯨時に体力を消耗した者へは無理をさせないよう気遣う/ヴァルゴンというソルレオンのキマイラの話をし、「殆どのソルレオンがモンスターとなっても、彼は自我を持ち、モンスターとはなっていなかったようだ。不躾な質問になるが、セイレーン王国のグリモアが奪われた時のために、そういう状態になることを選んだのではないか?」と尋ねてみる。途中で嫌な顔をされたら、それ以上聞くのはやめておく。(1. 寵姫の監視<選択者が10人未満時、通常業務大失敗>)

桃ノソリンの行かず後家・トロンボーン(a34491) 2006年09月03日 03時
【C】//すいません。抜けておりましたなぁ〜ん(汗

■【第五回通常業務結果】 毀れる紅涙・ティアレス(a90167)

場所:寵姫の私室   2006年09月03日 08時   発言数:1

 鯨狩りは護衛士の体力を大幅に削いでいた。微妙に暗い面持ちながらイドゥナは茶会の準備やら食事の用意など、運搬が必要な作業を率先して行う。私室の中ではルーネが寵姫の青くたおやかな髪を梳かしていた。寵姫は少女が差し出したスケッチブックを丁寧に捲っている。美少年たちと逢ったのだと語る少女からは、寵姫の表情が見えない。沈んでいるのか和んでいるのかは判別が付かなかったけれど、そう、とだけ返される相槌は優しかった。
「ルクレチア様も絵を描いてみませんかなぁん?」
 心に残る想い出を、と紡いだ言葉に返されたのは微笑むような気配。
「本当に大切なものは、心の内にだけ秘めておきたいの」
 彼女らの遣り取りを聞きながら、控えていたエルサイドは日が暮れて来たことを確認する。穏やかな夜に為るよう祈りながらハーブティを用意すべく私室を出た。
 監視班交代の時刻が訪れ、現れたリピューマを見て寵姫は「まあ」と瞳を細めた。柔らかな椅子から立ち上がり、参じることの遅れた詫びを紡ぐ彼女の手を取る。寵姫は、また逢えて嬉しいわ、と花開くように微笑んだ。
 フェイルローゼは薔薇を模る蝋に火を燈し、寝室に仄かな花の香りを広げて行く。窓辺に立ち本宮を伺うも、侵入を試みる美少年らの姿は無い。為らば本宮にある空気は何なのか。判らないまま、フェイルローゼは寵姫にひとつ尋ねてみた。
「貴女様の竪琴を、この部屋に御持ちしても宜しいでしょうか」
 寵姫は青い瞳を瞬いてから、奏でてくれるならとても楽しみ、と零れるような笑みを見せる。
 静かな夜にセドリックが弦を弾く。寵姫は柔らかな枕を抱き、彼の語る冒険譚を寝物語にしようと目を瞑った。
「初めて御逢いした時も音を奏でさせて頂きましたね」
 寵姫は彼に緩い眼差しを向け、探るように瞳を伏せる。星凛祭がとても楽しかったの、と彼女は少女のように幼い口振りで紡ぐ。白い手を握り、乞う温もりを与えてセドリックは問う。
「他に、俺が御役に立てることはありますか」
 今一番望んでいることは何なのか。慈しみに溢れた瞳を見上げ、寵姫は枕に頬を押し当てる。
「……傍に居て欲しいわ。夜は怖いから」
 ねえ、と呼び掛けられた声は哀しく聞こえた。寵姫が薄く浮かべる微笑が、何故か自虐的なものに見えたからかも知れない。寵姫は言った。己が此処に少年しか置かない理由が判るか、と。
「男の人が、少しだけ、怖いの」
 はにかむような微笑は可愛らしくも見えたけれど、やはり何処か哀しく見えた。

「……ラスキューさん、でしたでしょうか」
 唐突に現れた黒い忍びを見て、セイレーンの美少年は平静を装いながら深く礼をする。美少年は人払いを頼まれると、立ち話程度の時間で良ければと客間のひとつに憔悴した様子のラスキューを招き入れた。彼はアンリに寵姫の殺人衝動を止めるには情報が不足し過ぎている旨を伝え、協力を仰ぐ。美少年は長く沈黙した。何かを案じるような思慮の末に、美少年は緩く息を吐き、告げる。
 日時だ。
「此処で御待ちしています」
 アンリは言った。自分は全てを知っているのでは無い。けれど「寵姫にはもう殆ど時間が無い」から、自分も最善を尽くしたい。何が寵姫の為になるのか考える時間が欲しいから、今直ぐには話せない。
「貴方で無くとも構いませんが、余り大勢でいらっしゃると……誰かは勘付くでしょう」
 努々気を付けるよう注意を促しながら、とセイレーンの美少年はもう一度頭を下げ部屋を出る。
 其の頃、寵姫の私室では――「ソルレオン」と言う単語を聞いた瞬間に、寵姫が表情を曇らせていた。寵姫がキマイラだと言うのは疑いようの無い事実だろう。問えば答えてくれるのかも知れないし、はぐらかされるのかも知れない。けれど、沈んだ表情を目にしたトロンボーンは追及を止める。
 先日の鯨狩りにて、アニエスは初めて目にした鯨を描いて来ていた。鯨を見た感想を彼が語るのを聞きながら、寵姫は彼の絵を見、微笑んで相槌を打つ。寵姫は彼を褥に招き、二人は柔らかな羽毛布団に包まって他愛も無い話をした。
「海って不思議ですね……まだ僕の知らない事が沢山ありそうです」
 寵姫が鯨を見る切っ掛けをくれたことが嬉しかった、とアニエスが感謝を述べる。寵姫は彼の額に口付けてから彼の髪を優しく撫でて、「悪戯するのも良いけれど」と艶やかな唇に笑みを刻み、あなたが居てくれれば今夜は良く眠れるでしょうから、と彼の手を握り静かに目蓋を落とすのだった。

「……あんまり気にしないで良いよ」
 先日の詫びを口にしたニューラを前に、エルフの美少年は顔を顰める。
「俺らが冒険者を嫌いでもルクレチア様がそっちに居る以上、出来るだけのことはしたいし」
 改めて畏まられると困るらしく、彼は粗野な口調で会話を切った。本宮の慌しさに関して探りを入れると強い否定が返されたが、、本宮の調理場ではニューラが指定した通りに作業が行われ、瞬く間に鯨肉は美味しそうな料理が出来上がった。
 寵姫の私室に運び込まれたのは生姜醤油が添えられた刺身に、炙った鯨ベーコン。鯨の舌は貝割れ菜で巻き酢醤油で、尾羽は薄切りにしたものを茹でて酢味噌和えにして頂く。鯨の尾である最上の霜降り部分はステーキに焼き上げた。寵姫が好むようにと焼き加減は十分に気遣われている。
 更にリーガル御手製の竜田揚げが護衛士分も食卓に並んだ。寵姫は皆と食事を共に出来ることを酷く喜び、始終笑みを絶やさなかった。団欒を思わせる暖かな空気が一室に満ちる。
「焼き加減の好みが判ってたら、うちがお姫さんの分も焼きたかったわぁ」
 紡いだリーガルに、寵姫は嬉しそうな笑みを返した。
 鯨料理は何処に出しても恥ずかしくないほど絶品だった。鯨を獲りに行った日の話を、ルージが熱心に語る。うっかり鯨と一緒に沈みそうになった話をすると、寵姫は驚いたように目を瞬いたけれど、くすくす可笑しそうに微笑んでくれた。

 窓の外の月を隠すように天鵞布を窓に引く。
 夕食後の時は緩やかに流れ、人が減ると共に自然、部屋が静まり返る。レーンは心を決めて、寵姫に問い掛けた。借りた童話を読んで思ったことを出来るだけ率直に口にする。童話の中の姉姫とは寵姫を差しているのでは無いか。ルクレチアは簡単に頷いて肯定する。レーンは寵姫の手を握り、寵姫の瞳を見詰めて言った。
「姉姫は……冒険者の力を使い、陰謀の阻止や要人暗殺のような裏の仕事を」
 していたのでは無いか、と紡ぐ前に寵姫は彼女の名を呼んだ。
「あなたはとても賢い子よ」
 彼女の手の甲に己の掌を撫でるように重ね、幼子に言い聞かせるような優しい声で寵姫は言う。
「わたくしは聞かなかったことにしてあげる」
 御願いだから二度と、王国の暗部に触れるような真似はしてくれるな。労わるような声音で諌めるように言葉を紡ぎ睫毛を伏せる。寵姫は確かに、案じていたのだ。
 そして真夜中、青い瞳が濡れていた。寵姫が哀しむのは、彼女の心の在り様が変じたからだろうか。柔らかな褥の中で、背に回された白い腕に応えるよう、白い身体を抱き留める。
「儂は貴女を受け止めて尚、己を見失わずには居れるから」
 甘えるように身を寄せて来る彼女に触れて、フレッサーは問う。未来は臨まぬのか、殺意の衝動を払拭したいとは望まぬのか。腕の中の寵姫が、微かに笑んだ気配がする。愛しい者ほど手に掛けてしまえば胸が痛む。殺してしまえば二度と逢えなくなると言うのに、愛しい者ほど突然、全て奪ってしまいたくなる。気付けば既に終わっているのよ、と寵姫は「今まで」を少しだけ吐露した。
「あなたはとても強いもの。殺せはしないと……わたくし、信じていますから」
 フレッサーは悟る。
 今の寵姫が浮かべる微笑は、抗えぬ終わりを知っているからこそ何処か哀しく見えるのだ。抗えぬ死が迫ることを知った病人の如くに、柔らかな身は簡単に腕の中で砕けてしまいそうに思えた。



!重要連絡!

 本日9月3日に護衛士依頼が提示される。内容は通常業務の延長だ。
 次回通常業務は最短でも、此方の報告書が公開されるまで延期とする。
●次の項目へ
⇒⇒⇒「寵姫の終焉」に関する連絡