<スレッドリプレイ・対カディス会戦1 パナイザの戦い>

 パナイザの森で行われたカディス会戦。
 私達だけの長い戦いが行われたの。かなり苦戦したけれども、良い戦いだったと思うわ。
 これも、皆が頑張ったお陰よね?

対カディス会戦1 パナイザの戦い ノルグランドの霊査士・エリーゼ(a90069)

場所:広場   2004年05月30日 21時   発言数:1

●ノルグランドの使者は還り……
「おやっさんは、なんであんな条件を飲んだんだ!」
 カディス護衛士団の作戦会議室でそう吐き捨てたのは、紫紺の古強者・ジルイゾ。
「奴らはシャルザの仇だ。汚い手で聖域を盗んだ盗人の一味なんだぞ!」
 このジルイゾの言に、イニチェリ、ガルドス、サングバウの3名の隊長達も同意するように頷く。
 同盟の使者の前では、ラドックの顔を立てて反対意見を出しはしなかったが、到底納得できるものでは無い。
 黒の重騎士・サングバウは、その巨体を揺するように壁際に立っていたバーヤグに近づくと胸倉を掴みあげる。
「シャルザの言葉を……あの死に際の言葉を忘れるものか。違うのか! バーヤグ」
 他の4名の視線もバーヤグに向く。
 一陣の朱風・バーヤグ。
 攻勢において最大の力を発揮し『攻め鬼バーヤグ』と称された男がノルグランドへの宣戦布告を終えてから、どうにも歯切れが悪い。
 宣戦布告の結果報告の時から、ノルグランド護衛士団の肩を持つような発言があり……それが、ラドックの決断に影響を与えた事は否定できなかった。
「言いたい事があれば、言え!」
 サングバウの言葉にバーヤグが答えるよりも早く、イニチェリが言葉を被せる。
「ガウローの叔父貴を殺したのも奴らだ。命の借りは命でしか返せない、こんな茶番で俺達の意志が示せるのか!」
 カディスの石壁・イニチェリ。……カディスの石壁の名を継いだイニチェリにとって、ガウローは剣の師でもあり、同盟の冒険者と馴れ合うような事は思いもよらない事だったのだろう。

「3人とも血気にはやるな。まずはバーヤグの話を聞かねばならんだろうて」
 長老格の武人、ガルドスに窘められて掴んでいた腕を放すサングバウ。
 だが、その目には血の色が濃く映っている。

「……俺は自分の目で見たものしか信じない」
 バーヤグは、襟元を正しながらそう言葉を発する。
「シャルザの言葉は俺も聞いた。奴が命を駆けて伝えた言葉が真実で無い筈は無い。だが、俺が見たノルグランドの護衛士には……シャルザの言葉とは違う物を感じた」
 ならば、と言い掛けるサングバウを、バーヤグは手で制した。
「俺は自分の目で見たものを信じる。奴らは……違う筈だ」
 だが、そのバーヤグの言葉には完全な自信は見えない。
 贔屓目にみて半信半疑という所。

「話にならん!」
 それは、戦場で味方を叱咤し敵を威嚇するサングバウの大褐。
 戦場以外で、それを聞いたのは多くの者にとって初めての事だったろう。
 悪辣な同盟の冒険者に一矢を報い、もって列強の誇りとする。
 それが、カディスの戦う理由では無かったのか?
 最精鋭の護衛士団とはいえ、カディスの戦力はたかだか200。その戦力で、キシュディムを制した敵と戦う事は出来ない。
 だが、自らの誇りを輝かせ、その輝きで悪辣な敵に降った同胞達の目を覚まさせる事はできるはずだ。
 シャルザの遺体の前で、そう誓った筈では無かったのか?
 サングバウの緑色の鱗に涙が落ちる。

「……シャルザとお前は親友だったな……」
 バーヤグは、そう言うと目を伏せる。
 そう、サングバウの言葉は自分自身の言葉でもあった筈だ。
 ラドックから使者の役割を命じられた時は、命の捨て所を得たと奮い立ったものだ。
 息の続く限り斬って斬って斬りまくり、カディスの覚悟と力を示す……。
 それが役目だと思っていた。
 シャルザの言葉だけで無く、ノルグランドから来たと言う奉仕種族の男もノルグランド護衛士の悪辣さを訴えていた。
 奉仕種族の言葉など信じるには値しないが……それでも……。
(「奴らの目に卑しい影など……」)

 と、そこにラドックが、副将のジャルイマと共に作戦会議室へと入ってきた。
「何を騒いでいる?」
 その問いかけに、ガルドスがかいつまんで状況を説明する。
 それを聞いて、ジャルイマの眉間の鱗がひくついた。
 それは……カディス名物ジャルイマのお説教が始まる前兆であった。

●出陣ノルグランド
「それでは、エリーゼ。号令を」
 5月30日の日の出前、ノルグランドの城壁の前に六十余名の護衛士達が集っていた。
 ノルグランドの霊査師・エリーゼは、鬼札・デューイの言葉に頷くと、全護衛士に向かって語りかけた。
「ここに集まった皆様が最善の努力をした事を私は知っています。戦いの場で霊査士の私が出来る事は皆様の無事を祈り……勝利を信じる事だけです」
 エリーゼは、そこまで言うと大きく息を吸い込んだ。
 そして、
「ノルグランド護衛士団に勝利を!」
 登る朝日の中で、高らかにそう宣じたのであった。

 エリーゼを良く知る護衛士達から見ると(「無理してるかな?」)と感じられる演説ではあったが、会戦に望む総大将としては、必要な訓辞であった筈だ。

 事実、この言葉に、護衛士達からも雄たけびのような歓声が上がり、ノルグランド護衛士団の出陣の合図ともなった。
「よっお疲れさん」
 大任を果たしてほっと息を吐くエリーゼにデューイはそう声を掛けて迎えたのだった。

 まずは、破城槌・バートランドが率いる第1小隊15名が出発する。
 第1小隊の役割は中央の林道を突破しての強襲。
 加わる護衛士は、漆黒の魔剣士・シュウ、金木犀の薫りと共に・ガイ、相愛なる花の紡ぎ手・セフィル、幸せを運ぶ癒し系少女・ソフィ、青い海燕・ティア、向日葵の法術士・ウェルディ、月と邪龍を詠み纏う・ムーンリーズ、鬼軍曹兼クマ軍曹・ライナー、蒼穹を見上げ歩む者・イレーヌ、鋼鉄の護り手・バルト、白刃・スイ、灰色の貴人・ハルト、スミレの聖母騎士・シェリーチェ、青の天秤・ティンとなる。
 この15名が一個の生物のように連携して敵に襲い掛かった時、その攻撃を防ぐ事は難しいだろう。

 次に出発したのは、清雅なる堕天の剣・ヒルド率いる第2小隊15名。
 第2小隊は森の北側に布陣し、やや防御よりな戦術を取る。
 攻撃する部隊の後方を護り、本陣と他の部隊とを繋ぐ楔ともなるだけでなく、特出する敵軍への逆撃もその任務となる。
 柔軟な指揮が求められる第2小隊は、高度な状況判断が試される戦いの要となるだろう。
 加わる護衛士は、銀髪の施療士・レイステル、沈黙之緑風の紋章術士・サント、月下終焉・シュウ、ソードフルスインガー・ゲイブ、連星の翼・アルビレオ、朧月下に踊るは闇と月光・コクト、放浪傭兵稼業・ダウザー、守護者・ファード、赤き月夜に荒れ狂う魔狼・グレン、灼熱のバイラオール・ホセ、魂喰の少女神・ミストティーア、紅き剣閃・ルティス、幻影魔導士・クルス、重騎士・ディック、森の闇・シュセルとなる。

 天衣無縫の流浪貴族・ユキマルが指揮するのは第3小隊の12名。
 第3小隊は、右翼に展開する第2小隊に対応する左の翼である。
 だが、この左の翼は右の翼よりも苛烈な動きをする。
 円形陣を敷く第3小隊は、より攻撃的な移動を行って敵本陣へと迫るのだ。
 右翼で戦線を維持し中央と左翼で敵軍へインパクトを与える陣形といえるかもしれない。
 この第3小隊に参加するのは、戦士・ラスニード、月華の白焔・エリーシャ、葬雪の・ナガレ、七宝の守護を誓う者・アキトキ、黒衣の猫導士・ンニャンテ、赤き傭兵・レイド、彡・ファミル、月交蝶・レイ、闇咲き月華・シファレーン、聖砂の銀獅子・オーエン、刀華幻曲師・ターカートである。

 そして最後に続く第4小隊と第5小隊。
 第4小隊が10名、第5小隊が7名と編成としては1パーティー程度となるが、その目的は明確である。
 敵将ラドックの撃破。
 その為の遊撃部隊なのだ。

 第4小隊を率いるのは放浪者・サイオン。
 サイオンは、紋章剣士・ロゼ、風読み・エトワールと共に戦場の下見を行っており迅速な部隊行動を目論む。
 ノルグランドの薬物護衛士・フーリィ、銀の狂刃・グリム、朝焼けの刺客・ルネ、夜駆刀・シュバルツ、鋼鉄の孤狼・ラミア、マジックガンナー・アザリー、不破の剣士・アマネらの強力な攻撃陣をラドックの前に押し出す事が出来れば、勝利をもぎ取る事は難しく無いだろう。

 第5小隊を率いるのは、夜風の森から来た少女・グラ。
 第4小隊が北側から本陣を衝く攻撃ならば、第5小隊は第3小隊の本陣への攻撃を目晦ましにして、回り込んで奇襲攻撃を仕掛けるのが第5小隊の目的である。
 グラをサポートする欲望の竜皇・シヴァ、長靴を履いた白猫・ミミを始め、青薔薇の旋風・リスティア、愚ルメマスター・リヒト、混沌の女神・エクリア、紅蓮の魔人・ミハイルと、個人戦闘力では同盟屈指の面々が揃っての強力な布陣となっている。
 奇襲が成功するのならば、その鋭き刃がリザードマン本陣を切り裂く事は想像に難くない。

 そして、最後に出発したのが第6小隊。
 第6小隊は、護衛士団長エリーゼの本陣となる。
 エリーゼの全幅の信頼の上で、指揮を任されたのは鬼札・デューイ。
 デューイの下には、駆け出し冒険者・クライ、闇瞳獣・カグラ、朱の重鬼士・ライノゥシルバ、臥竜の験者・フェルディナン、ファントムブレイズ・ミリティナ、黄金の騎士・クリスといった面々が並び、最後の盾となる。

 編成を見ても判るように、この布陣は超攻撃型の布陣となっている。
 回復アビリティの不使用が定められた事で、短期決戦が不可避となった事もあるが、人数を制限してなお1.5倍の戦力差がある事を考え、短期決戦にしか勝機を見出せなかったという理由も存在する。

 一気呵成の攻撃が成功するか、或いは……。
(「自力はカディス側が上、味方の即効が間に合わなければ……」)
 デューイは、エリーゼの手を取って歩を進めながら、万一の為の覚悟を改めて心に刻んでいた。

●カディスの陣容
「この戦いは、最後の戦いにはならん」
 護衛士団長ラドックの出陣の言葉に、100名からなる精鋭の護衛士達の鱗に緊張が走る。
「命を掛けた戦いは聖域戦で行う。今日の戦いは……敵を知る為に行われるだろう」
 敵を知る……。それは、ノルグランド護衛士団引いては同盟諸国の心底を計る事でもある。
 勇猛の聖域からカディスに伝令を伝えたシャルザは、満身創痍の身でありながら『同盟の卑劣な行為』をカディスに伝えて息絶えた。
 もし、シャルザの報せが無ければ、カディスは喜んで黒水王に従ったかもしれない。武断の王が立つ事は、最前線の護衛士団の望みでもあったから。
 だが……卑劣な戦いに加わった者を王と仰ぐ事は出来ない。

「さぁ、列強種族の誇りと戦いを、辺境国の冒険者どもに見せてやろうでは無いか!」
 ラドックの激に右腕を高々と掲げる護衛士達から、戦いを求める咆哮が唸りをあげた。

 カディス側の戦力は100名。
 本陣を率いるのは護衛士団長のラドックで、その直営に15名の冒険者を置く。
 半数が重騎士で、残る半数が牙狩人、邪竜導士、紋章術士などで構成された陣容は、カディス護衛士団のオーソドックスな本陣の陣容である。
 重騎士の君を護ると誓うで最初の一撃に耐えた後、反撃で相手を倒す。冒険者同士の戦いでは、奇襲攻撃を完全に防ぐ事は不可能であるが故の備えである。
 本来は、虎の子の医術士によるヒーリングウェーブによる回復と合わせて使うのだが、今回の会戦においては配置されていない。

 この本陣の前に展開するのが中央防御部隊で、この指揮はカディスの石壁・イニチェリが任されている。
 隊員数は15名となっているが、特に布陣などを組む事は無い。
 木の陰、岩の陰に潜み、やってくる敵軍に単独攻撃を掛けるというのが、彼らの役目である。
 敵の警戒を誘い移動速度を落す遅滞戦術、味方に敵の位置を知らせ準備を整えさせる哨戒活動、敵軍のアビリティを無駄撃ちさせる消耗戦。
 敵将の首を取るような華々しい戦果をあげる事は無いが、カディスをカディスたらしめる防御戦の真髄を持つのが彼らなのだ。

 そして両翼に25名ずつ、攻撃の為の部隊が配される。
 左翼(北側)を率いるのは老将ガルドス、右翼(南側)を率いるのが紫紺の古強者と称されるジルイゾ。
 この攻撃部隊が共に老練な指揮官の下に統率されるのは必然でもある。
『牙狩人が耕し狂剣士が刈り取る』と言われるように、攻撃部隊は連携と指揮が重要となるのだ。
 それは血気盛んな若者では担いきれるものでは無い。

 近接攻撃を行う冒険者同士の戦いならば、戦場に参加する冒険者の数が勝利に直結する。
 力量が同等ならば2倍の戦力があれば負ける事は無い。4倍の戦力を集中させれば無傷での勝利もありえるだろう。
 近接攻撃を行う時の鉄則は戦力を集中し攻撃を集中する事なのだ。
 だが、同じ戦場に多数の冒険者が集まる事は、範囲攻撃の絶好の的となるのだ。
 2倍の戦力が集まれば2倍のダメージ、4倍の戦力が集中していれば4倍のダメージを受ける。
 範囲攻撃をされた時の鉄則は戦力を分散して攻撃を集中させない事となる。

『牙狩人が耕し狂剣士が刈り取る』とは、『牙狩人』のナパームアローによって敵の陣形を分散させた後、分散した敵を『狂剣士ら』の集中近接攻撃で倒していく戦術である。

 彼らの部隊の冒険者の間隔は広く無秩序に動いているように見えるが、敵を捕捉すれば、近くにいる味方と共同して敵を倒してすぐに分散する。
 この連携は誰とでも行えるように訓練されており、どのような乱戦になっても機能する。
 この基本戦術に、声の矢文によって『その声の聞こえる範囲の護衛士』に対して行われる指示が加わる事で、戦況の変化に対応する……。
 これは、ソルレオン国境の守護を任されたカディス護衛士団が誇る陣容である。

 残りの20名は、バーヤグとサングバウとがそれぞれ10名ずつを率いる。
 この2つの部隊は、部隊というよりも『依頼を受けた冒険者のパーティー』のように動く。
 戦場の確保も味方の援護も行わない。
 彼らの『依頼』はノルグランド護衛士団長を捕縛あるいは捕殺する事にある。

「俺が先についたら、首を取るぜ。文句は無いな」
 サングバウは、バーヤグにそう言って移動を開始する。

(「……戦いの中でしか判らぬ事もある。それを得る事ができるかどうか……」)
 バーヤグの脳裏には月下の舞と笛の音が浮かんだ。
「俺には……奴らがシャルザの言うような者には思えないのだ……」
 だが、そのバーヤグの声は小さく風に消え、誰にも聞かれる事は無かった。

●戦いを告げる鏑矢
「ここが、戦場のパナイザの森だ」
 下見を終わらせていた放浪者・サイオンが指し示したのは、なんの変哲も無い普通の森に見えた。
「森の広さも地形も、向こうさんの言うとおりや」
 重騎士・ディックの報告に、紋章剣士・ロゼが得意そうに続けた。
「周りには人は住んでいないみたいだったよ。時々狩人の人が来るらしいけど、今日は近づかないように頼んでおいたんだ」
 そのロゼの言葉にエリーゼは安心したような微笑みで答える。

 森の入り口付近では、
 各隊長の号令が行われている。
 バートランドの第1小隊は既に陣形を整えて待機しているようだ。
 続けて「第2小隊集合!」というヒルドの声に、ディックも慌ててエリーゼの側を離れてヒルドの元に戻る。
 その後「第3小隊集まるでおじゃる」というユキマルの独特な号令が掛かり……。
「そろそろ俺達だな、いくぞロゼ」
 そう言って、サイオンがエリーゼの側を離れた。
「第4小隊集合!」
「第5小隊も集まるんだもん!」
 負けずに叫ぶグラ10歳。ユキマルが9歳なので対抗してみたようだ。

 人員・力量・錬度、どれを取っても同盟諸国の擁する護衛士団の中でも随一の、それは陣容であった。
 エリーゼも、その勇壮さに少し気を遠くしかけながらも、改めて感動する想いだったようだ。

「それでは、皆さん……宜しくお願いします」
 そう言って深々と一礼するエリーゼを、デューイが迎える。
 デューイ率いる第6小隊の任務は護衛士団長エリーゼの護衛となる。
 護衛といっても、戦闘が始まればエリーゼに全体指揮を行うことなど出来ない。
 デューイには後方からの全体統括と本陣の運用の全てが任される事になる。
 その権限には、敗北条件である団長の降伏も含まれている。
「エリーゼは俺達の団長だからな、絶対に死なせんさ」

 こうして『パナイザの戦い』が始まる。
 それは、同盟諸国が始めて経験する、護衛士団同士の正面からの会戦であった。

●林道の伏兵
「ど真ん中から吶喊……。これこそが戦いってもんだ」
 ティンの先導で林道を進撃するのは、熱き戦いの血を滾らせて突き進むバートランドの第1小隊。
 重騎士を壁とした陣形を取ってはいるが、その行動が無謀に近い吶喊であるのは誰の目にも明らかだ。
 両翼に展開する部隊は森を移動する為に、第1小隊とはかなり距離が開いているのだから。
 だが……それも策の内。
 霊査士のエリーゼの安全の為には、戦場は可能な限り西に寄っている事が望ましい。
 リスクを支払って戦線を進める。それは、戦場の駆け引きの一つではあるが……。

「みんな、気をつけて! 攻撃よ!」
 矢の攻撃を察知したセフィルが叫ぶ! それとほぼ時を同じくして爆音が広がる。
「ナパームアローか、リザードマンのお家芸だな。だが! 行くぜ!」
 その爆音の中から、駆け抜けるのはバートランド。
 バルト、シェリーチェを両翼にする突撃は、鎧進化した防具の視覚効果もあって際立った威武を示す。
 ナパームアローの攻撃は一箇所からのみ。それは、敵部隊が大部隊で無い事の証拠だろう。
 ならば、こんな所で手間取っている訳にはいかない。

「陣形を崩すな! 一丸となって敵を打ち破るんだ!」
 バートランドが先陣を切っているので、第1小隊の指揮はティンが引き継いで指示を出す。
 先頭の重騎士3人から最後尾を護るティアまでが、連携を取って動かなくては、敵陣に孤立して各個撃破の対象となるだろう。
「牽制、エンブレムシャワー!」
「ニードルスピアですぅ!」
 セフィル、ソフィらの術士の攻撃アビリティはあくまで牽制が目的である。
 範囲攻撃の与えるダメージでは致命傷を与えるにはいたらないし、そもそも、敵が一箇所にあつまっていなければ大きな効果は無い。
 だが、それは敵も同様。
 散発されるナパームアローのダメージは少なく無いが、それでも陣形に従った敵を囲んで一体ずつ叩く事で、それ以上の効果をあげているのだ。


「奴らは……どういうことだ?」
 その頃、カディスの石壁イニチェリは崩壊する戦線を取りまとめる事もできずにいた。
「奴らは命がいらんというのか?」
 冒険者が伏せている森に安易に踏み込む事など、考えられる事では無い。更にナパームアローの攻撃を受けて陣形を保つという事も定石に反する。
 そして一番の問題は
「……奴らの体力は俺達の倍だとでも言うのか?」
 冒険者の耐久力は見掛けでは判断できない。しかし……予想の2倍という数値はありえない。
 ノルグランドの護衛士はナパームアローの攻撃を物ともせず、散会して伏せていた中央防御部隊の陣に楔を打ち込みそして撃破していく。
 同等の力量の冒険者と複数で戦えば勝敗は火を見るよりも明らかだ。コンビネーションによる攻撃が決まれば、全く反撃する事もできない可能性さえある。

 困惑するイニチェリの前に黒衣の影が現れる。
「あなたが指揮官ですね。俺の名はシュウ、一手所望する!」
 怪しく光る片刃の剣を手にして構えるのは、シュウ。
「我が名はカディスの石壁イニチェリ。この名を恐れぬなら掛かってくるがいい!」
 戦斧を振り上げるイニチェリに、黒い影が重なる。
「カディスの石壁……相手にとって不足無し」
 戦斧と妖刀のきらめきが重なる。
 一合・二合……。
 敵の掃討をほぼ終えたノルグランドの護衛士達も、この戦いに割って入る事は無かった。
 そして、剣戟が七合を数えた時……勝敗が決する。
「戦いの前からお前は気を乱していた。今度は、互いに万全の時に雌雄を決したいものだな」
 ガクリと倒れたイニチェリにそう言うと、シュウはバートランドらに向き直った。
「待たせたな、戦況は?」

 第1小隊による林道突破成功。
 敵将イニチェリ戦闘不能。
 戦闘不能に陥ったノルグランド護衛士9名。
 残った護衛士達も負傷状態であり、唯一後方からのリングスラッシャーによる援護を行っていたティアのみが万全の状態となっている。
 この場に立っている護衛士はバートランド、シュウ、ティア、バルト、スイ、ハルトの6名のみ。
 だが……。
「我々は、両翼からの攻撃に呼吸を合わせて攻撃に参加する」
 バートランドが言葉通り、彼らの戦いはまだ終わってはいないようだった。

●南の森の激突
 その頃、南側の森では、今まさに戦いが始まろうとしていた。
「みんな急ぐのでおじゃる。第1小隊はもう戦ってるでおじゃる」
 森を抜けて急いで進んだが、既に爆発音が多数聞かれている。
 それは、林道を通った第1小隊が戦闘を始めた事を意味しているのだ。
 だが、その彼らの前にはリザードマン右翼部隊が現れる。
 第3小隊12名に対して、リザードマン右翼部隊は25名。その戦力比は二倍以上となる。

「作戦通り円形陣を組め術士を護るんだ」
 敵軍の展開をいち早く察した、戦士・ラスニードが武人達に号を掛ける。
 エリーシャ、ナガレ、アキトキ、レイド、ファミル、オーエン、ターカートらが、円陣を組み防御の姿勢を見せる。
 そして円陣の中からユキマル、ンニャンテ、シファレーンが術のタイミングを計る。
 だが射程はナパームアローが上であり、陣を組むと同時に襲い掛かる爆音が護衛士達の体力を削る。
 ダメージを半減する加護があるとしても、このまま続けられれば数分と持たないで全滅する。
 誰もが、そう思った時。

 ガサリ。
 木立の上より、一人のリザードマンが落下した。
 それは、牙狩人の撃破を狙った月交蝶・レイの仕事である。

「いまなのじゃ! 攻撃開始!」
 ユキマルの号令に、円陣を組んだまま前進する護衛士達。
 だが……。

「敵は小勢なり。正面から迎え撃ち踏み潰せ!」
 威厳のある声が森のあちこちから聞こえると、それまで距離を取って展開していたリザードマンが一斉に第3小隊の円陣えと襲い掛かってきたのだ。
「ちっ、良い判断だぜ」
 ラスニードは、襲い来るリザードマンの両手槍をタワーシールドで受けとめ、斧を振るって斬り返す。
 しかし、新たな敵の剣戟には反応が間に合わず、腹部に傷を負ってしまう。
 力量が同等の冒険者同士が格闘戦を行うのならば、最後に物をいうのは、やはり人数になるのだろう。
 舞い飛ぶ胡蝶の撹乱やシファレーンのニードルスピアやスキュラフレイムの援護はあったが、それでも劣勢を覆すには至らない。
 そして、互いに傷を負い戦闘不能者が増えていけばそれだけ、戦力比は広がっていくのだ。
 25対12から20対7、そして19対5になる頃には、既に互角の戦いではなく一方的な制圧となってしまっていた。
「ばたんきゅぅでおじゃる」
「無念」
「ごめんなさいなのね〜」
「残念です……」
 次々と倒れるノルグランドの冒険者達。
 リザードマン側が約束を守って止めを刺そうとしない事が救いであるが。
「これが、戦士の誇りだ!」
 最後の一人となったエリーシャは、愛刀クリュサオルを振り上げて敵中に襲い掛かるが、コンビネーションによる先制攻撃を受け、そのまま地に伏す事となった。


 第3小隊による南方戦域。
 小隊長ユキマル以下12名全滅。
 カディス側の戦闘不能者は6名、負傷者は8名となった。
「脱落者は6名か。半数の敵で良くやったと言っておこう」
 ジルイゾは、そういうと部隊を率いてそのまま西進を開始した。

●北面の守護者
「戦いが始まったようだね」
 遠く聞こえる爆音はナパームアローの物だろう。
 ノルグランドの護衛士にもナパームアローの使い手は多いが、おそらくはカディス側の攻撃だろうと、ヒルドは考える。
 リザードマンは技体が高く心が低い種族であり、紋章術士や邪竜導士の数は少ない。
 その分、支援攻撃としての牙狩人の比重が高まっているらしい。

「こちらも準備を急がなければね」
 ヒルドの率いる第2小隊の目的は、敵部隊を長期間拘束して戦線を維持する事。
 この戦いの勝利の鍵を握るのは、南北から奇襲を掛ける遊撃の第4・第5小隊の働きである。
 であるのならば……。
 第2小隊の目的は、できるだけ多くの敵戦力を拘束して戦線を維持する事。

「この地点で敵を迎え撃ちます。各自、準備を開始してください」
 ディックが偵察の結果選んだ場所は緩やかに東に下る勾配を望む茂みであり、ヒルドの指示で布陣する準備が整えられる。
 部隊の先鋒として外縁に位置するのはミストティーア、ルティス、ホセの3人。
 ミストティーアとルティスは敵リザードマンの攻撃を受け止める役割で、ホセはストリームフィールドの結界も担当している
 その後ろにゲイブとシュウの2人と、アルビレオ、コクト、ファードの3人が第2陣として控えている。
 術士のレイステル、サント、クルスは後方に位置し、この3人をダウザー、ディック、ヒルドが護衛する形で第3陣=本陣を形成する。
 自然地形を防御に利用するのは森での戦いでは基本的な事で、攻撃側よりも有利な戦いを展開できる筈だ。

 だが、この布陣には地名的な弱点も内包する。
「俺達が抜かれれば、後は無い」
 第2小隊の後ろに控えるのは本陣を護る第6小隊は7名のみ。
 護衛士団長のエリーゼの耐久力は低く、戦闘が始まれば戦闘不能に陥る弱点を持っている。
 強行突破した2〜3名の攻撃ならば防げる力はあるが、敵部隊の通過を許してしまえば、護りきれるものでは無い。
 もし、敵の部隊が大きく迂回して突破を目指すような動きを見せれば……。
 その時には、構築した戦術上の優位を捨てねばならないだろう。

 そして布陣が終わった数分後、偵察に出ていたシュセルから敵の姿を発見したという報がもたらされたのだ。


「まずは先手を取られたという事だな」
 前方の斜面上に敵影ありとの報告を受けたガルドスは、うむと唸って腕を組む。
 戦場の地形を見た時から、この丘(というにはなだらか過ぎる)が、戦術的に価値がある事は判っていた。
 高低差があるという事は互いの視界に差が出来るという事。
 これは、長射程のアビリティの撃ちあいをする場合には大きなハンデとなる。
 正面から攻め落とすのならば、犠牲は覚悟の上で強行突破して近接攻撃に持ち込む事になる。
「敵の人数は?」
「不明ですが10名〜20名と思われます」
 ガルドスは、その答えを聞いて更に思考を巡らせる。
(「この森の中で本陣を置くとしたら何処か? 定石ならば自勢力の一番奥だが……防御に適した場所を選ぶ可能性はある」)
 実際、カディス護衛士団でもこの場所を本陣とする作戦案は提案されている。
 その時は『敵に先に占拠され乱戦になる危険性』と、何より『本陣を動かすのは姑息』であるという事で採用されなかったが……。
(「無視して進む事も出来るが……。もしここが本陣であるのならば、それは愚策中の愚策となる」)
 結局ガルドスは、全軍に突撃準備の命を下した。
「目の前の敵陣は、敵の本陣の可能性が高い。死力を尽くし突撃せよ!」
 それは、確信とは程遠い命令であった。


「敵数20〜30、我々に向けて正面から攻撃を掛けて来るようです!」
 その言葉を待つまでも無く、斜面の下から迫る怒号が何よりも明確に攻撃の開始を告げている。

「この戦い、必ず勝つ!!」
 アルビレオが士気を高めるように天に叫ぶ。
「矢戦無しの肉弾戦か、腕がなるぜ」
 前衛でストリームフィールドを準備していたホセは、そういうと細身剣を構える。
 防御は考えない。自分が倒れるまでに何人の敵を倒す事ができるか? これは、そういう戦いである。
「ミスティちゃん、絶対帰って来るんだぞ!!」
 前衛のミストティーアにそう声を掛けるシュウだったが、当の本人には、そのつもりは薄いかもしれない。
「ノルグランドグリモアガード護衛士、魂喰の少女神・ミストティーア……推して参るっ!!」
 と宣じて、突撃してくる敵の鋭鋒の前に全軍の盾として立ちはだかった。
「ミスティーーーーダイナミック!!」
 雄たけびと共に振り下ろされるミスティの最初の一撃が『パナイザの戦い』で最大の殲滅戦の始まりを告げたのだった。


 北方戦域での戦いに参加したノルグランド側の護衛士はが第2小隊を主軸とする15名。
 対してカディス側は老将ガルドスを主将とする25名が参加している。
 数の上ではカディス側が圧倒していたが、地の利はノルグランド側にありガルドスの戦術ミスもあって、その戦力は拮抗していた。

「振りが大きい! パラード……リポスト!」
 ホセの細剣が戦斧を扱うリザードマンの手元を逸らしそのまま、胸部に突きを決める。
 だが、その細剣を引き抜こうとするホセをリザードマンは抱き込むようにどうと倒れこむ。
 敵わぬと見たのだろう、勝ちでは無く相討ちを狙った戦法だ。
「くそったれが!」
 倒れこむリザードマンの後ろ槍の穂先の煌きが見え……そしてホセは意識を失った。

「目の前に傷ついた仲間がいるのに癒すこともできないなんて……」
 自分達を護るように敵の前に立ちふさがり倒れたディックとダウザーの姿に、レイステルは悔しい思いをしつつも、最後のニードルスピアを撃つ。
 2人を倒したリザードマンが自分達に向かってくるが、逃げる場所は既に無い。
 倒れる前に出来るだけ多くのダメージを……。
「無駄に倒れる訳にはいきません!」
 それが、この場の護衛士の仕事であった。
「気高き銀狼!」
 サントのアビリティは目の前に迫る敵には向けられなかった。
 今まさに戦っている味方を援護する為に……。
 銀狼のマヒ効果は連携して攻撃を加えられる味方がいてこそ意味があるのではないか?
 レスティアは腹部にサントは肩から胸にかけて切り裂かれ、地面に倒れ伏す。
「その覚悟、見事」
 倒れ伏す瞬間にサントは敵リザードマンの声を聞いたような気がした。

 そして……戦いが始まって十数分で、その戦場に立つものはただ2人となっていた。
 前線で戦ったミストティーアとルティスをはじめ多くの護衛士が倒れた。隊長のヒルドも指揮官と思われたのだろう、敵牙狩人の集中攻撃を受けて沈んでいる。
 しかし、それはリザードマン側も同じ事。
「後は……あなただけですね?」
「そのようだな、では……、勝負!」
 最後に残ったの月下終焉シュウの巨大な片刃刀を、ガルドスはミドルシールドで受け流す。続けて、手斧による攻撃。
 しかし、シュウはすんでの所でその攻撃を回避する。
 今までの戦いで、互いに深い傷を負っていたが、その攻防にはいささかの迷いも無い。
「この若造が!」
「刀の錆になれ!」
 シュウは、続けて繰り出される手斧の攻撃を今度は回避する事無く受け、振り上げた剣を重力の力を借りて振り下ろした。

 そして……この戦場に動く影はついえた。
 ただ赤く染まる大地のみが、そこにあった。

 第2小隊による北方戦域。
 小隊長ヒルド以下15名全滅。
 カディス側の戦闘不能者は25名、主将ガルドス以下全滅。

●ラドックの戦場
「奴らは道を進んできたという訳だ」
 ラドックは本陣で苦笑する。
 森が戦場である時に、林道を直進するのは愚行でしかない。
 周囲の森陰から放たれるナパームアローは、その愚かさに報いを与えるから。
 だが……だからこそ。
「虚を衝かれる事もあるか」
 裏の裏は表なのだ。誰もが行わない愚行は、その事実によって有効な奇襲作戦にもなりうる。
「となると、イニチェリでは手に負えまい」
 カディスの石壁の名を継いだとはいえ、まだ若い。
 その忍耐力と不屈の魂とが稀有な宝石である事を疑う者はいないが……。
「イニチェリを救援に向かう。続けっ」
 イニチェリの護衛部隊が崩れれば、ラドック本陣は15名のみの小勢となってしまう。
 中央に進出した同盟部隊の規模は不明だが、救援して返り討ちにあうだけの部隊であるのならば、護りに徹しても結果は同じ。
 少なくとも敵が態勢を整える前に攻撃できれば、勝率はあがるだろう。
(「中央からの攻撃があるのならば、両翼を薄くして中央にもう一部隊……。いや、今は目の前の敵を叩くのみ」)
「進め、カディスの勇士達よ!」


「我々は、両翼からの攻撃に呼吸を合わせて攻撃に参加する」
 林道を突破した第1小隊はバートランドの言葉に従って、一時の休息と態勢の立て直しを行おうとした。
 回復アビリティは使用できないにしても、戦闘後の休息が禁じられた訳では無い。
 呼吸を整え応急手当をする数分の時間で、体力はかなり回復するものだ。
 だが……。
「敵の新手、来ますっ!」
 負傷していなかった為、警戒任務についていたティアの悲痛な叫びは、その休息の間を彼らに与える事は無かった。

「撃てっ!」
 ラドックの号令に撃ちこまれる複数のアビリティ。
 ダメージが半減しているといっても、既に満身創痍の第1小隊の護衛士が耐えるのは難しかった。
 そこから続く近接戦闘に参加できたのはシュウ、ティア、バルトの3人のみ。
 ティアのリングスラッシャーは、ある程度の効果をあげたが衆寡敵せず、ラドック本陣の攻撃の前に第1小隊は壊滅する。

 だが……。
 第1小隊を殲滅する為のこの本陣の戦場機動こそが、この『パナイザの戦い』の鍵を握っていたのだ。

 ラドック本陣を強襲すべく森の南北を迂回して移動していたノルグランド護衛士団の第4第5小隊に『ラドック本陣の場所』を表し、かつ、その移動時間を短縮してしまったのだから。
 ラドックのイニチェリ救援という決断は間違いでは無かった。
 だが、それが勝負の絢というものだろう。

●駆ける群狼達
「こっちだ! 戦いが始まっているぞ!」
 目指すは敵本陣と、森の南側を迂回して急行する第5小隊。
 先頭を走る、リスティアは目的地付近で聞こえる爆音を聞きつけて足を速める。
「両翼でも戦いは始まっているが……こっちが本命だな」
 リスティアの言葉にリヒトも無言で頷く。
 戦いの音は2回。
 1回目と2回目の爆音の間に、僅かだが戦闘の行われなかった時間がある。
 これは、中央を進む第1小隊が前衛部隊を突破して本陣に突入した事を意味するだろう。
 第2小隊、第3小隊が戦っているのは『左右の翼』に相当する部隊であるのは確実な所。
 ならば……。
 小隊長のグラが、元気良く言う。
「兵は神速を尊ぶ。今は、危険回避よりも時間を取るべき時です」
 シヴァの言葉に、グラも大きく頷いた。
「みんな聞こえた? ボク達の出番だよ!」
 そのグラの元気な声に励まされるように、小隊は移動の速度を速める。
 戦力で劣るノルグランドの勝利への道は、速攻での短期決戦に見出すしか無い。それに、もし敵の本隊と戦っているのが第1小隊であるのならば、急がねば彼らを見殺しにする事になるだろう。
(「最悪なのは各個撃破される事……間に合ってくれよ」)
 シヴァの内心の祈りは、だが、かなえられる事は無かった。

「とにかく頑張るんだよ!」
 森を駆け抜けるように戦場へと向かうグラ。
 敵となるのはラドックを含む15名の護衛士達。
 彼我の戦力差は2倍だが、戦いを終えたばかりの敵に比べれば勢いはこちらにある。
(「間に合いませんでしたね。後は……第4小隊頼みですか」)
 味方の士気を落さないように声には出さないシヴァの思考。
 彼の眼は冷静に戦場を分析している。
(「敵の数は10〜20、第4小隊と合流しても互角にしかならない。勝利する為には絶妙な挟撃が必要だ」)
 第1小隊との戦闘中に後背を撃てれば勝機はあった。
 だが、迂回行動を取った分到着が遅れるのは致し方ない。
(「戦闘終了直後で奇襲が可能だっただけでも望外と考えるべきなのか……」)
 例え奇襲でも半数の戦力では敗北は目に見えている。
 だが、この戦いの最中に第4小隊が後背を撃つことが出来れば、それは充分な勝機となるだろう。
「全力で速攻を掛けます!」
「うん、判った! いっけーー!!」
 シヴァの言葉にうなずいて、号令を掛けるグラ。その声に弾かれるように走り出す第5小隊の護衛士達。
 まずはリヒトとリスティアが駆け出し、グラ、ミミ、ミハイルが続く。エクリアとシヴァは後列となるも、そのままアビリティの準備に入る。
 エクリアのニードルスピアとシヴァのエンブレムシャワーが敵を薙ぎ、そこに前衛の護衛士達が殺到して、戦いが始まった。


「少し遅かったようだな」
 ラドックは、重騎士を前に押し出して奇襲してきたノルグランドの護衛士を迎え撃つ。
 おそらく、先ほど全滅させた部隊と連携していた部隊なのだろう。
(「仲間の敗北に我を忘れて攻撃をかけて来る……。共感できる感情だが……」)
「それでは勝てぬな……。
 敵は7名、恐れるに足りず。一気に殲滅せよ!」
 ラドックの命令に、翼を広げるように横に広がった護衛士達は、そのまま7名の勇敢な犠牲者を包み込むように収束する。
 戦場で包囲攻撃される程に恐ろしい事は無い。戦力差2倍の包囲が完成すれば、その劣勢を突き崩すことは不可能なのだ。
 だが、そのラドックの勝利の確信は、その数秒後に崩される事となる。


「どうやら間に合ったな」
 それは、第5小隊の先陣を駆けてきたグリムの言葉。
 この戦いが最終局面に達した、まさに『その時の時』北回りで本陣を目指していた第4小隊が戦場に姿を現したのだ。
「あれが、ラドックよ。間違い無いわ」
 マジックガンナー・アザリーの指し示す方向には一人のリザードマンの姿があった。
「目指すはラドックの首! 突撃開始!」
 サイオンはにやりと笑うと片手を振り上げてそう号令した。
 グリム ルネを先陣として、フーリィ、シュバルツ、ラミアが続いて駆け抜ける。
 サイオン、ロゼ、エトワールは後陣となるが、ほとんど全力疾走で走る。
 包囲されている第5小隊の状況は判らないが、とにかく、ここは時間の勝負である。勝利の女神を引き寄せる為には……『時間』とやらをねじ伏せなければならないのだ。

 慌てて包囲を解こうとするラドック達。
 だが……。
「あなた達の相手は、僕たちですよ」
「そうなんだよ!」
 それを阻止するべく攻勢を掛ける第5小隊の攻撃が、それを阻止する。
「ならば死ね!」
「死んでもいかせないです!」

 包囲によって敵を中に抱えたまま薄く広がったラドックの部隊に対して、ラドックの首を狙って円錐のように捻りこまれる第4小隊という矢……。
 その矢が対象を貫いた時点での彼我の戦力は12対12の同数。
 決して優位な状況には無かった。
 残った戦力でもう一度正面から戦えば、勝利はカディス側が得たかもしれない。
 だが、勝利の女神はノルグランドの護衛士達に微笑を投げかけたのだ。

「無駄な血を流すのはこれで終わりです。行きます!」
 シュバルツの飛燕連撃奥義が、ルネの攻撃を受けて態勢を崩したラドックの体に刻み込まれたのだ。
 ガックリと膝を突くラドックに意識は無い。

「ノルグランドの勝利だ! 勝ち鬨を挙げろ!」
 サイオンの叫びが森にこだまし……そして、戦闘は終結した。

●四面楚歌 〜終戦
 さて、ここまでの戦況を振り返ってみよう。
 まず、最初の戦いは、バートランドの第1小隊15名とイニチェリ隊15名の間で起こる。
 この戦いは第1小隊の勝利となるも、救援に現れたラドック本隊15名によって第1小隊は壊滅する。

 左翼にあたる南側の森では、ユキマルの第3小隊12名がジルイゾ隊25名とぶつかる。
 この戦いは第3小隊の敗北に終わり、ジルイゾ隊の残存兵力19名が南側からノルグランド本陣を目指す。
 右翼北側の森では、ヒルドの第2小隊15名がガルドス隊25名相手に奮戦し、互いに全滅するという結果に終わる。

 そして、第5小隊7名と第5小隊10名によるラドック隊への強襲と勝利の凱歌へと続くのだが……。

 確かに、ここまでの戦いはノルグランド側はカディス相手に互角の戦いを見せ、勝利を手にしたかに見える。
 だが……戦力が敵方の7割に満たないノルグランドが互角に戦えた事には充分な理由が必要では無いだろうか?

 そう……この戦いの間に、バーヤグ隊10名とサングバウ隊10名は全く戦闘する事無くノルグランド本陣に向かっていたのだ。
 これに突破したジルイゾ隊19名を加えれば39名。
 本陣護衛のデューイの第6小隊の戦力は7名。
 この3〜4倍の戦力差はそのままノルグランドとカディスの投入戦力の差でもあった。


「戦闘は無用。我々は降伏する」
 森の東端に布陣し奇襲に備えていたデューイ達であったが、バーヤグとサングバウの両部隊の接近を察知した段階で、抵抗する事を諦めて降伏を申し出ていた。
 自分達だけであるのならば、命を賭して戦う事に躊躇いは無い。
 だが……護るべき存在が傍らにあるのならば……。
 敵のナパームアローがエリーゼのみを避けて放たれる事は無い。
 ライノゥシルバの君を護ると誓うの効果があったとしても、エリーゼの耐久力はデューイの3分の1以下である。
 エリーゼの見かけはか弱い女性だが、冒険者としての実力が外見に依存しない事は、同じ冒険者であるカディス側も熟知している。

 カディス側の護衛士に殺すつもりが無かったとしても、護衛士団長として集中攻撃を受ければその命を永らえるのは難しい。
 それがデューイの下した決断であった。

「その降伏受けよう」
 そう答えて進み出、エリーゼの肩を掴み連れだるバーヤグは、降伏を申し出たデューイを蔑むように一瞥する。
「お前とは良い戦いが出きると思ったんだがな。残念だ」
「けっ腰抜けどもが」
 サングバウも、やり場の無い怒りを感じたのかデューイの横でエリーゼを心配そうにみやっていたライノゥシルバに蹴りを入れて、唾を吐いた。

 森の西側で戦いが集結した時、森の東側でも戦いが終わっていた。
 それは……あらゆる意味で正反対の結果であったのだ。


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 ノルグランド護衛士団とカディス護衛士団との間で行われた『パナイザの戦い』は、双方の護衛士団長が倒れる或いは捕虜になるという結果に終わった。
 つまり、痛み分けである。
 双方の護衛士達は互いの団長の身柄を再び交換した後、互いの負傷者を集めて護衛士団本部へと撤退を行った。

「すみません。私の為に……」
 エリーゼはそういうが、彼女の責任で無い事は護衛士の誰もが知っている事であった。
 何よりも『リザードマン国最精鋭とされるカディス護衛士団』を相手に劣勢な戦力で戦って引き分けた事は、誇るべき事だろう。

「カディスとの関係は改めて考えればいい事よ。少なくとも、戦う前よりも互いに良く知り合えたでしょうしね」
 ノルグランドの薬物護衛士・フーリィはそう言って不適に笑う。

「そうだな、全てはこれからだ。しっかりするんだぜ団長!」
 ノルグランドは負けた訳では無い。
「そう…ですね」
 デューイに背中を押され、エリーゼはぎこちなく微笑んで言った。
「皆さんと一緒なら……頑張っていけると思います」と。

「それじゃ、元気を出してノルグランドに戻ろうよ! マリアが晩御飯の支度をして首を長くして待ってるよ♪」
 グラの元気な声に励まされ、ノルグランドの勇士達は、ひとまずの家路についたのだった。
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