エルドール防衛【結果】 エルドールの霊査士・アリス(a90066)

場所:砦内広場   2005年01月30日 18時
●城壁より
 エルドール護衛士の約半数ほどが砦を離れ、残る半数が防衛に残った。
 早朝から警戒の見張りに立っていた遍く光を享受せし者・シャーナ(a14654)が覗いた遠眼鏡には、仲間達が合流する同盟軍の先、遠く砂塵が舞う。その向こうには……敵がいるのだろう。
 その場へ行かない自分の選択がふと不安になる。チラと周りを窺うと、同じように砦の外を見やりながら、不安を感じさせない影より時を見護る者・セフィロート(a10321)や破戒天使・アイシャ(a05965)達の横顔があった。
「お空の鳥もちゃんと見ていてね」
 可愛らしくシャーナに言う緑のちび魔女・グリューネ(a04166)だったが、心配は経験からくる深刻なものだと、シャーナ自身も知っている。何も無いならそれでいい。けれど、決して『まさか』が無いように、彼女達は遠方へと眼を凝らした。

 同じ見張りには、荒野の牙・アマカゼ(a17146)や黒の陽炎・イファルス(a11560)、彷徨う根無し草・イオ(a13924)達も交代で立つことになっている。上空の警戒は、石橋を叩きすぎて割る・フィリス(a18195)と空舞う弓乙女・ティーナ(a11145)達。
 だが、結局、交代までの間も、彼らは砦内を見回っていた。
 1日がかりの決戦。砦の防衛も、同じ1日が山だろう。それを思うと、警戒を解く気にはなれなかったのだ。
 そして、閉め切られた城門では、緋の剣士・アルフリード(a00819)と戒剣刹夢・レイク(a00873)、怠惰なる守人・ニオス(a04450)達が見張りをしている。
 一般人は、ほとんどエルドール以西からの避難を終えている。同盟軍が敗走することになったら、押し寄せる負傷者の受け入れに忙しくなるだろうという以外は、城門では、一般人を使った不死族の策略を警戒するのみだ。
「異常はない?」
 城壁を見上げてアルフリードが聞くと、上にいたニオスは頷き返した。
「近付く者はいない。……俺は、これから東門のレイクの方を回ってくる」
「分かった」
 やり取りをしながら、アルフリードは静かだと思った。この砦の西で、戦が起ころうとしているというのに。
 いや、だからこそ、一般人たちは静かなのだ。戦の行方を、固唾を飲んで見守っている……。
(「このまま終わるのかな?」)
「このままで済むかな……」
 同じような言葉を、レイクは閉ざされた門を見つめながら呟いた。 

 騒ぎは、心内の不安を追うようにやって来る。


●水音の向こうに
 石の床面に金属棒を立て、腹ばいになったドリアッドの武道家・ドクトル(a04171)は微かな振動を拾おうとしていた。グリューネあたりなら、彼が眠っていると疑ったかもしれないが……今日は真面目。
「何か聞こえます?」
 愁いは花園の中に・ヒィオ(a18338)は問うと、先に地下階の様子を確認に出ている赫色の風・バーミリオン(a00184)とフェイクスター・レスター(a00080)の帰りを気にした。戦いの間、地下への出入口は塞いでしまうつもりだったから。
 一緒に地下階を覗き込み、エンジェルの重騎士・イマージナ(a18339)は耳を澄ます。微かな水音に、バーミリオン達の話し声が重なる。声は遠く、何を話しているのかも、緊張の度合いも測れない。
 だが、事態が動いたのは突然だった。
 何か予感がしたようにドクトルが顔を上げる。
「「……っ!」」
 異変に気付いたイマージナ達は息を呑み、咄嗟に手を差し伸べた。蠢く何かに追われ、階段を戻って来る2人――いや、半ば引きずるようにしてバーミリオンを負ったレスターへ。バーミリオンが深手を負ったのはレスターを庇ってだろう。そして、レスターはそんなバーミリオンを死なせない為に力を振り絞っていた。
「……アンデッドだっ!」
 彼の声は、石壁にこだました。
「数はどれくらいにゃっ?!」
 輝甲竜姫・フラゼッタ(a07550)は問いながら、森緑の風追人・ディオ(a09121)達とそれぞれの得物を鞘走らせる。
「判らない。沢山としか! ウーズのようなものに見える」
 イマージナの声は叫びに近い。レスター達の持つカンテラの灯りの中に、ただ一面に蠢くものがあるのだけは確かだ。この期に現れるからには、やはり不死族の差し金だろう。
 雪に隠れる白銀の舞手・クレア(a09544)が敵襲の報せに笛を吹き、黙していた六風の・ソルトムーン(a00180)は、それを合図にハルバードを構えた。
「ここでは満足に戦えんぞ」
「けれど、そうそう奥まで侵入させる訳には……」
 ヒィオの返しに、ソルトムーンは眉根を寄せた。
 転がるようにしてレスター達が逃れ出た扉も壁も、元よりそう頑丈なものではない。すぐに破られるだろう。
「何があった?!」
 駆けつけた黒より昏い碧・ラト(a14693)には負傷した2人が託され、報せに走ったドクトルが抜け、残る6人が迫るモンスターの群れと対峙することになる。

 ドクトルの報せは、業の刻印・ヴァイス(a06493)に継がれ、見張りに立つ護衛士達へ伝えられた。
「敵の数が多いのか……。増援は術師がいいだろうか?」
 暁の皇狼・ヒューガ(a02195)に是と返し、アイシャは連れを募る。術手袋が、強く握り締められて絹鳴りした。
「私が行きます。付いて来る人は?」
「ボクが行くよぅ」
「私も行けますわ」
 紫銀の求興者・アリキ(a13860)と天真爛漫な人形遣い・シャラ(a01317)、それに、星蒼に舞う月華・シアン(a11415)が手を上げる。
「私も」
「見張りの交代は僕たちが」
 荒野の牙・アマカゼと黒の陽炎・イファルス、イオ、ティーナが穴を埋め、フィリスは城門のアルフリードへ変事を伝えた。
 笛の音は、2度目。
 背後の砦内を気にしながらも、イファルスやイオ達はその目を外へと向けた。
(「外からは何も……来ませんように」)
 揃って見張りにつきながら、ティーナは心の中で祈る。今の自分の居場所は、ここだから……。

「笛が……」
 眉を顰めた沈黙の予言者・ミスティア(a04143)を押しのけ、部屋の外を窺おうとしたエルドールの霊査士・アリス(a90066)は、彼の腕にやんわりと制された。
「アリスさんはここに居ないと」
「でも……せめてここにいる皆さんも外を手伝ってあげて」
 星をみる瞳・カリナ(a18025)も、言い募るアリスの腕を引いた。
「大丈夫です。ちゃんと対応できる人達がいますから。……そう言ったのはアリスでしょう?」
 言って、医療庁派遣執行官・セラ(a00120)は清純なる蒼纏う牙狩人・ミカエル(a16768)と共に扉付近に陣取る。
 いつでも弓を引ける体勢で、ミカエルはそっと開けた扉から外を見た。
「外の様子は私達が見て来よう。護衛士以外が来たら、ナパームでも何でも放って立て篭もってくれ」
 そう言った獅天咆哮・プルー(a19651)に、ストライダーの忍び・シェン(a18534)が同道する。2人が出て行った直後、異変を知らせるヴァイスの声がした。

「地下からアンデッドが出たっ! 数は判らないっ!!」


●這いずるもの
 6人だけが残されていた地下階への入口付近に、最初に駆けつけたのは、待機班だった血に餓えし者・ジェイコブ(a02128)と雪月纏いし暁の天使・ヒース(a18007)、狂竜士・グンバス(a15314)、秋霜・イツハ(a18101)の4人。それに少し遅れて、見回りをしていた赫髪の・ゼイム(a11790)とアイギスの赤壁・バルモルト(a00290)、アイギスの黒騎士・リネン(a01958)、そして、慈雨・ピート(a02226)の4人。
 合わせて8人だが、多数の敵に対して、戦力の順次投入となったことと、負傷して離脱するイマージナやヒィオ達が重なり、じりじりと押し寄せる不定形のモンスターの波の中に、気付いた時には取り残されている……という者もいた。
 回復アビリティの尽きたラトに代わり、ギリギリまで踏みとどまらなければならなくなったピート。
「誰か、医術士を呼んで下さいっ」
 戦闘は通路全体に間延びして、彼1人ではどうにもならない。
 叫ぶ間にも、ヒーリングウェーブの光の届かぬ場所で、モンスターの進みを抑えていたディオとソルトムーンの身体が沈んだ。
「く……っ」
「焦るな。たかがモンスター、統率の取れた軍ではないだろう!」
 ジェイコブの檄に、バルモルトとリネン、グンバスが踏みとどまる。それでも止められないモンスターが、後衛の援護につくゼイムやイツハ、ヒース達の元へ逃れ出てしまうに至って、戦闘域を後退せざるを得なくなった。護衛士達は砦の1階中央を抜け、広間にまで退く。
 枝分かれまでする通路では、もう抑え切れない。

「回復が足りない。誰か出てくれ!」
 医務室に割り振られた1室に、ヴァイスが飛び込んだのはその頃。
「……! 分かりました」
 十字架を抱く者・ルナフレア(a17852)は言い、風紀委員長・ネイル(a07082)達と顔を見合わせると、互いに言いたいことを察したように頷いた。
「ここはボクに任せてね」
 ぐっと手を握り締めた煌く祈り・サティア(a14451)は、傷ついた仲間に手当てを施す。ルナフレアとネイルは、「お願いします」とだけ返して部屋を出た。
 戦闘は、すぐそこで始まっている。

「うわっ? 何あれ?」
 グリモアのある部屋の前にいた気ままに・エーテル(a18106)は、通路を埋めるものに声を上げ、トライデントを構える。
「敵というのだけは確かじゃのぅ」
 声を上げたせいか、はぐれたように1〜2体が彼らの方へも流れてくる。氷輪に仇成す・サンタナ(a03094)は、念のため扉にシャドウロックをかけたが、
「『敵』だけを倒すもののようじゃ」
 モンスターの動きを見てそう言った。グリモアが目当てなら、その波は彼らの方にこそ多く押し寄せるはずだ。今、出て行けば、敵の波にのまれるしかない2人は、向かってきたものだけを倒し、ここで仲間達の反撃を待つしかなかった。

 黒ずんだような緑色。1体1体は、小さなもので1メートルもない。大きなものはその倍程度の大きさ。
 強力な攻撃はないが、1撃やそこらでは倒せない。 打ち振るわれる触手、身体を痺れさせる毒、放たれる衝撃波は後衛に控えた者達にも届き、護衛士達の被害を大きくした。
 その上、数は2桁ではおさまりそうになく、木端微塵にするほどの勢いでなければ、斬られた触手が身体に纏わり付いて毒を吐いたりする。不定形のアンデッドならではの難儀があった。
 急を聞き、外から戻った朽澄楔・ティキ(a02763)が目にしたのは、そんな形の定まらぬアンデッドウーズに埋められた光景だった。
「こいつら、2階には行ってないな?!」
 既に応戦していた眼鏡監察庁派遣執行官・コロクル(a08067)や散る為に咲く華・コノハ(a17298)、涙の魔嵐・ヴィナ(a09787)達に問うと、その横合いから、
「大丈夫ですっ」
「階上には行かせてない」
 様子見だけで戻る訳には行かなくなったシェンとプルーの口から、アリスの無事が告げられた。
 駆けつけた烏羽玉の静矢・クロウ(a14951)や紫水晶の見習い騎士・セティニア(a02355)、青は藍より出でて藍より青し・アルフェスト(a12582)達に加え、外の見張りからも援護が出された御陰で護衛士の数が揃い、広間まで後退したことで、逆に戦闘域も確保された。
 見張りからは、アイシャやシアンら術師4人が増援の役を果たしていた。降り注ぐエンブレムシャワーとニードルスピアの雨は、アンデッドウーズを容赦なく突き刺していく。
 そうして、砦の建物外まで出されるかと思われたところを、今は護衛士達が押し返し始めていた。モンスターも無尽蔵に湧いて出ている訳ではないということだ。
「ナパーム使うで!」
 コロクルはティキに叫ぶ。同調して、クロウも魔矢をつがえた。
「皆、煽りを避けろ」
 赤く透き通り、先端に焔の灯った矢は、前衛のコノハやヴィナ達を越え、敵後列めがけて飛ぶ。爆発の魔炎は天井まで立ち上った。
「行くなぁ〜んっ!!」
「ここで出なくては、押し止められようはずもないな」
 敵の勢いが一気に弱まったのを見て取り、コノハは月鬼を薙ぎ、アルフェストは温存したソードラッシュで畳み掛ける。
 反撃の開始は、取り残されていたエーテルとサンタナも救う。
 モンスターの斬られる音は、鈍く、重く。死にぞこないの半身がのたうち、引き摺られる不快な音は、やがて、刃の閃きと術師達の攻撃の中に消えていった。


●来たるもの
 砦内の混乱は分かっている。しかし、だからこそ、今、外からの敵襲を見逃してはならない。常に備えなければ。
 セフィロートはそう信じ、城壁の上を動かなかった。そして……遠眼鏡で見つめていた先に、先触れの影を見つける。
「まさか、不死族……?!」
「な……っ 嘘だべ?!」
 隣りで、赤い風・セナ(a07132)の慌てた声がする。
 今来られたなら、相当な打撃になるだろう。それこそ、砦が落ちるのも覚悟しなければ。セナは自分でも遠眼鏡で確認すると、しばらくして、
「……???」
 と首を傾げた。
「なんか、鳥っぽいぎゃ……」
「何が来たんだ?」
 2人の様子に、ヒューガやイファルス達も集まってくる。
 彼らの視線の先に現れたのは、この戦の敵ではなかった。セナが見たまま……チキンレッグの援軍だったのだ。
 チキンレッグ達は、まだ残敵の心配を抱えたエルドールに小隊を残し、本隊は大きな荷物を抱えながら死者の祭壇方面へ向かったようだった。

 東門で小隊を迎え入れることになったレイクとニオスは、警戒するのも失礼だし、しかし、今は場合が場合だし……と、しばらく悩む羽目になったらしい。
 その後、彼らの協力を得て、あちこちに取り残されていた重傷者達を回収し、医務室へと運び込む傍ら、地下の残敵掃討が行われた。
 砦内の壁には消えない傷が増え、数少ない椅子や机が破壊された。それでも死者はなく、一時の混乱を除けば……防衛は成功したのだ。
 そして、地下階への入口は、残敵掃討が済んだ後に一旦封鎖され、後の正式な探索を待つことになったのだった。