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セイリンの国タカムラ公より親書がミナモの国に届いた。 公の親書はミナモの国を治める者に宛てられた体裁であったが、文はどう読んでも楓華の風に宛てられた内容だった。 それは、タカムラ公にとってミナモの国は楓華の風に渡した物であるという意識があるからに他ならなかった。 その誤解を解くのは後に事になるとしても、今は、その親書の内容にある、『ガザン王討伐』について考えなければならないだろう。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 【情報】セイリン王タカムラ公よりの親書
『ミナモの国を治める楓華の風カザクラに親愛を 我等リョクバの民は貴君等と共に天子様より賜った楓華列島を護り、よく治める事に力を注ぐ事、これを一番に考えるもの也。 先頃より、ガザン王コレチカ公の配下の者がセイリン内にまで攻め入ったのは、カザクラも知っての通り。 時に、楓華の風の助力あって撃退の旨はアキゴオリとの境に設けた関所の武士よりも報告があり、楓華の風カザクラと言う誠良き隣人と知り合えた事には、天子様のお覚え宜しいリョクバ州に与えられた恩恵という以外の何物でもなく。 しかるに、ガザンのその後はアキゴオリとも結託し、ミナモに攻め入るという狼藉振り。これは許されざるべきものであり、リョクバを共に収め、束ねるセイリン国主として真実許されざるべきものと成りつつある昨今。 かつて、天子様は我々に、それぞれの地にある列強グリモアを1つ、そして土地をよく治めよと言うお言葉を下さり、我等は努力研鑽の日々を健やかに、また確実に生きてきたのにもかかわらず、鬼と結託するなどと言う、破廉恥極まりない愚行を行ったガザン王には、これを天子様の御心を乱す悪逆と見なし、貴殿らにも理解ある揺るぎなき栄光のトツカサ王ライオウ公にもこの旨を承諾され、リョクバ一丸となってこの悪王を誅する時が来た事を宣言する物なり。 ただ、麿が愚考するにはガザン王配下には鬼と結ぶ事を悩む、誠の武士が残っていると思われる。出来うれば、彼の者達を開放する事も天子様の教えに通じるものであり、ガザンを治めるは、彼等の中で最も武士団を束ねるに相応しい者、即ち新生のガザン王を置くが、民と共に歩む我等リョクバの武士にとって最良となるものと思われる。 既に、アキゴオリとは轡を並べるべく和議と共にガザン討伐の兵を配する段になっている。 かような段になり、誠に不躾とは思うのだが、ガザンの悪辣に辛酸を嘗めてきたミナモの国だからこそ、今回の戦の総大将として立つ事を希望したい。若くして名を轟かせる姫将軍セリカ姫健在の今、天子様の法に則り、リョクバに永劫の平和をもたらす為に、共に手を取りガザンを誅しようぞ。 麿は貴殿等の鬼を退治る部隊という理念、真に期待しておる』
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●親書を受けた時の感想 (イズミとの対話の中で話された感想)
ツバキ「まぁ、それでは、ガザン王に引いて頂くだけで、万事滞りない訳ですね。良い事です」
チオウ「この呼びかけに沿って、戦をするものとしての答えを。……駆け引きですな。事実上、これでガザンは国としては一旦力が弱まる。武士団の再編というのは、厄介事。この戦にアキゴオリも介入するとなれば、セイリン王の呼びかけによる戦での先駆け、殿を勤めた国が事実上のガザンの今後を握ると言っているのと同じです。ミナモは周囲を他国に挟まれた国、どのようにも動かされてしまうという状況下で、アキゴオリにも充分機会がある。最悪の場合、東と南の二方をアキゴオリに押さえられ、西は元からのセイリンが構えているとなれば、ここで多少とも武勲を立てておくことは必要でしょう。一番美味しいのはセイリンの国。初めの呼びかけを、こうも堂々と行われては、後々どんな国勢になっても発言力は保持したままである。戦を起こしても矢面に立つ訳でない。セリカ様の言ではなくとも、確かに天子様かぶれというのは本当のところに思えますな。闘わずして利を取る。しかし、ジリュウよりは幾分真っ当かと。真っ正面からで、裏工作は余り得意ではないと見受けますが……戦の常識としてはこれ位でしょう。いいたいこと、つまりは矢面に立って働けと、これだけ明確に嫌みを入れてくる人物も面白いですな……(流石に文面までにおじゃるはないか……)」
セリカ「タカムラ公らしいのぉ。戦嫌いの公がここまで言うのは、矢張り鬼の強さをよく知っているからじゃ。貴殿等からも報告は次々に寄せられているが、ここ1年余りの、主にガザンでの鬼の発生と来襲は今までの数とは比べものにならぬのじゃ。鬼は殺さねばならぬ。例え、それが昨日までの隣人、家族であったとしてもな。そうでなくては、この楓華列島が滅んでしまうのじゃ。……何かが変わっていく、そんな気がしておる。後のガザンの事じゃが、ミナモと同じじゃな。有力な武士を名代に立てて、国を治めさせる。これで、リョクバの中での争いごとは消えると踏まれておるのであろうな、タカムラ公は。じゃがな、アキゴオリにも十分に注意せねばならんのじゃがな……何処まで見て居るのか、さっぱり底の知れぬお方じゃ。カスミ姉上を無事に取り戻した、水望大社を奪還したまでは知られていない様子じゃが、余り痛くない腹を探られぬようにする為にも、ガザン王には自ら退いて頂いた方が良いのじゃが、何分公の今までの戦の仕掛け方と、今回の鬼を用いたという明白な悪行は、どのように取り繕っても消せぬからな……最低でも、城内での戦いだけは避けられぬと言う訳じゃ……そのうえ、ガザンを治めることはまかり成らん。傀儡を置く事に慎重にならざるをえんのじゃ……誠、厄介なことこの上ないが、それがリョクバの為なら、動かざるを得まいとおもうのじゃ。恐らく、既にアキゴオリの国とセイリンの国では出兵の準備が行われているであろうからな、こちらも準備に入らねばならぬな……背後から討たれるのは好まぬよ」
カズヤ「……大旨は皆さまが述べられました事にあります。一点だけ。出来ればこの戦、ミナモにとっては今後ガザンからの介入を防ぐ為に、是非にも参加してその名を轟かせる必要があると思われます。この場合には、名よりも実を取る……この場合、国勢という意味では実を取っていない様に思われますが、今後の永劫のミナモの為には、今は名を上げる事こそが実。今後に於いての国体に大きく関わる一大事になるかと。出来れば、戦はしたくありません。疲弊するだけの戦を行い、新たな領土も得られないことが明白なのですから、今回の戦は如何に損害を減らしつつ、ガザン王とその周囲のそれは私も同じ気持ちです。ですので、投降する者は生かし、次代を担う者に託したいと思います。出来れば、我等ミナモとも手を取り合って生きて下さる方が就いてくれる事が望ましいのですが……それと、今回の戦は我々ミナモの武士団が赴きます。皆さんの中でご助力頂ける方がおいででしたら、姫様に随伴という形で参加頂ければと思います」
ケイイチロウ「戦になるのであれば、城の防衛は任せて欲しいですね。出来れば、若い武士には大きな戦も末席でも構わないので経験して貰うのが良いでしょう。けれど、その辺りの判断は姫様やカズヤ様に一任したいと思います。出来れば、ガザンからの今後の侵略を止める為にも、ガザン王コレチカ公だけを廃することが出来ればいいのですが……難しいでしょうね。カズヤ師も、セリカもその点では頭が痛いと思いますよ。我等は護りの戦に長けていますが、攻めの戦は得意とは言えませんから」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++ これらの意見を踏まえて、楓華の風カザクラ内ではミナモの武士団が参戦する戦への彼等カザクラの参加の是非を問わなければならなくなった。 期限は4月27日。(23:59) 戦は28日。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ●戦馬鹿 「……義姉上。結果は兎も角、俺はこの戦、楓華列島に生きる者としてガザン王コレチカ公に一太刀なりと浴びせてやりたい。鬼を煽動するのは勿論だが……一応、あれでもカスミってのは女だ。女を服を着替えさせもせずに軟禁し続ける様な外道にかける温情はねぇ」 評決を取る為に向かうイズミを呼び止めて、チオウは拳を固めた。 「……」 「無論、俺の命は義姉上に預けている。義姉上が、駄目と言われるなら戦には征かぬ」 握り締めた拳を震わせるストライダーを見上げて、紫の髪の霊査士は苦笑する。 「チオウ様を縛れる法は、カザクラにはありません。同盟の冒険者ではなく、ただ協力して頂いている貴方の自由意志を束縛出来る者は、この部隊には誰も居ないのです。ですが……」 「……」 「周囲の目はそれを許さないでしょう。それは貴方に対してであり、同時に私達に対してでもある。ですから、私から征けとは言えません。皆さんの評決を待ってから、動かれても損はしないと思いますよ? 何故なら、此度の戦では鬼は動きません。霊査の結果、今回の戦は人間同士の只の争いに過ぎません……」 ですがと、チオウに背を向けて歩き出したイズミは続ける。 「鬼が出なくとも、そこに鬼を使役し、再び愚行を行わんと欲する凶王ある限りは、私達が幾ら預かると言ってもカスミ様の無事を確約出来ないでしょう。私達にも切っても切れない戦、それは隊の皆さんもよくご存じと思いますよ」 「……有り難い」 イズミの言に含まれた意味を自分なりに理解して、薄く笑って狂戦士は斬馬刀を肩に担ぐ様に背を伸ばした。 恐らくは、楓華の風の評決がどうなろうとも、かの狂戦士を止められる者は居ないだろう。 それだけの殺気があった。 |