【情報1】楓華の風、リョクバへ ヒトの霊査士・イズミ(a90160)

場所:隊員詰め所   2005年02月10日 23時   発言数:1

●トツカサの城で
「リョクバからの使者殿は、そのような文を……」
 ジリュウ王サダツナ公による『楓華列島共通の仇敵』を討ち果たす為に集った者達。
 ジリュウはそれが相互の理解の不足による誤りであったと言葉巧みにリョクバへの返答と成し、それを受けたリョクバ州の国々が返した答えは
『ジリュウ王には此度の勇み足によるリョクバの民への負担を考え、以後充分に猛省を促すものなり。セイカグドにおいては以後も国々が天子様の御心のままに良く国を治める事を望む』
 と言う、非常に対外的には半端なもので終わっていた。
 更には、トツカサ王ライオウにセイカグドでの平穏なる明日を託し、戦による乱れなど無きようにと言う通り一辺倒な、形式だけの文で全てが終わっていた。
「我はこれを受け、ジリュウ、マウサツ、トツカサはこれより10年の間互いに侵さず、自国を富むように成すべしとの誓約を定める為に使者を出すものと考えておる。武士による無用の争いは、悪戯に民を疲れさせるだけであるからな」
 初老の筈だが、まだまだ青年に負けぬ輝きを持つライオウ公の瞳。
 その瞳に映されるのを感じながら、イズミは新たな部隊の設立と、その名をライオウに認めて貰う為にと会見の席で公が名を与えるよりも早くに告げていた。
「楓華の風……カザクラ……」
「はい、我等が想いを名に込めております」
 トツカサ王ライオウ公の居城、トツカサ城に招かれた冒険者達の中でイズミが頭を下げて先手を取っていた。
「想いとな? 面を上げ、申してみよ」
「有り難うございます」
 正面を向く許可を得てイズミが身を起こす。
「我等の思いは常に一つ、この地に訪れた時より変わっておりません。鬼という脅威に晒される人の涙を止める為の努力を惜しまず、和をもって楓華列島の皆さまと知己となりたいと、そして我等は皆さまにあるがままに、風のように吹くままに感じて頂ければと。そして風は徒にその身を残すことは致しません」
「……大儀である。その名、天子様の元にも吹く風となることをこのライオウ、願う物ぞ」
 どのような思いがあって、ライオウが彼らをリョクバへと進めさせるのか、それは語られることは無かった。
「殿、彼の者達の旅立ちに重ねて、某よりもお願いしたき事が……」
「……何用じゃ将軍。先の会戦での不手際、あれ程の兵を配してトキタダを逃し、傷を負うなどとは開闢以来のトツカサの名を汚す敗戦に等しき失態ぞ」
 静かにチオウの言葉を止めるライオウの瞳には、明らかな怒りがある。
「お言葉深くこの胸に。某の愚行により我等が民に深き傷を与えてしまったのは、某の目が曇っていたことと、今更に己の不徳、未熟を恥じるばかりでございます」
 深く、額を地に擦るようにしてチオウはライオウの前に膝を屈している。
「殿の御代に犯した某の不徳は何物にも換えがたく、しかし戦馬鹿と言われた某に出来ることは少のうござります。此度、マウサツが姫領主ツバキ様が天子様の御許に向かうという危険極まりなき旅に出るに当たり、某、彼の姫の道添えとなりてお仕えしとうございます」
「……そうか……では、貴様、名を捨てよ。最早貴様にトツカサの姓を名乗ることは能わず」
「……ははっ」
 深く、地べたに額を打ち付けたチオウが復唱の意を唱え、やがて静かに顔を上げ、地面を見つめたままで続ける。
「某、これよりは天子様の元に向かわれるツバキ姫を御守りするカザハヤ殿を部隊の母、父としてお仕えし、必ずやツバキ様を御守りして参りますれば」
「……」
 父母という言葉で、イズミの肩が揺れた。
「今より我、チオウ・カザハヤとして天子様の都まで参じるべく、一介の武士として旅立つ所存であります」
 チオウ・トツカサの名は消え、そして一人の男が楓華の風に加わることになった。
 部隊に名を連ねる彼の名はチオウ・カザハヤ。
 訳ありの為に団を束ねるイズミの『義弟』として、トツカサの都を去る船に乗り込むことになった。

●港
「宜しいのですか? 名を捨てると言うことは、楓華列島ではもしや血を断つという意味になるのではありませんか?」
 船上の人と成る前に、イズミが最後ですよと大剣を背にした武士に尋ねる。
「義姉上殿にも申し上げた通り、拙者はもう只のチオウ。未練は無いと言えるには刻を頂きたいが……」
 港に集った兵士達に無言で頷いてみせると、彼らもそれだけで通じるものがあるのだろう、船に乗る若き将軍であった男と、彼らと共に同じ釜の飯を食い、村を護り、野を駆け、そして悪王を除する為に闘った者達との別れを惜しむように誰もその場を去ろうとしない。
「行こう。セリカ姫が待っているぜ。リョクバのセイリンを越えるには時間が要りそうだからな」
 背で未練を断ち切るように歩き出す。
 船に乗る者が50を越え、60を過ぎ、70を数えた頃にはライオウ公の前であるにも関わらず泣く者も居た。
「ではイズミ、健勝でな。……万が一という時は、貴殿と貴殿の友に我は声をかけよう。それで、良いのであるな?」
 真っ向からイズミを見、周囲にいる者にも聞こえるように、波の音にも負けぬ声でライオウは告げる。
「……はい。ライオウ様もどうぞセイカクドにその御威光を。天子様にこのご恩、確かにお伝えいたします」
 ストライダーの瞳に宿る炎の如き思いを受けて、イズミは頭を下げる。
 船に向かう者達を見送るライオウ・トツカサの目は油断無く彼ら【楓華の風】の面々を見つめていた。
 遠く、遠く船が港を離れ、リョクバに向かうのを見送ったトツカサの兵達が港を去り、やがて親と子、ただ二人きりになった城の一室で、ジンオウはライオウに暇を告げ、歩み出す。
「殿、それではジリュウとマウサツに使者を出し、リョクバからの文と今後のことについてを通達いたします」
「む。滞りなく、励めよジンオウ」
 将軍から時期国王への抜擢。
 それは図らずも、外来の冒険者達に肩入れしすぎた兄、チオウの身から出た錆ではあるのだが、ジンオウはまだそれでは納得がいかないものがあった。
【勝ちを譲られた】という、その一点で勝敗全てが決してしまったような、そんな歯がゆさがあったのだ。
 だが、兄は名を捨て、トツカサを捨てて行く。
 それが彼には判らなかった。

【幕間・1】

【情報2】セイリンより経つ ヒトの霊査士・イズミ(a90160)

場所:隊員詰め所   2005年02月11日 22時   発言数:1

●セイリンの国
 セイカグドはトツカサより船で揺られて到着したのはリョクバ州にあるセイリンの国。
 リョクバの地はエルフの住まう国として古の刻に天子様によって当時名のある氏族を封じられた土地である。
 中でも、セイリンの国は周辺のグリモアを抑え、力を増してきた国の一つだ。
「トツカサ王ライオウ公からの親書でございます」
 【楓華の風カザクラ】としての目標は幾つかあるが、それとは別に依頼を受ける形での始めとなるのか、セイリンの国と国境を持つミナモの国への火急の用という物があった。
「……確かに、これはライオウ公の書でおじゃる。セイカグドに誉れ高きその名は、リョクバに於いても響き渡っておじゃる」
 セイリン王タカムラ公の許しを得て、セイリンの国の通行許可を受けた【楓華の風】は厳重に領内での抜刀、及び武器やアビリティの使用を禁じられて先を急ぐことになった。
「タカムラ様、それでは只今よりツバキ姫様とご一同を我が国にご案内したいと存じ上げます」
「うむ。そなた等の働きには期待しておるのじゃぞ?」
 彼ら【楓華の風】の迎えにはセリカ自らが赴いていた。
「ときに、そこのストライダーには見覚えがあるような気がするのでおじゃるが……」
「他人のそら似でございましょう。拙者、楓華の風の武士にすぎませぬ故……」
 巨漢のストライダーに目がいったのか、タカムラの言葉に深く頭を垂れることでチオウは追求を逃れて歩き出す。

●セリカの願い
「時の流れは水の流れ、既に戻らぬ刻を今、この時も流れ続けておるのじゃと、よくも我が身で知ろうとは……」
 姫将軍。
 それが彼女、セリカ・ミナモの二つ名だった。
 セイリン王の前から辞して【楓華の風カザクラ】の77名とだけになった時にセリカの表情は幾分柔和な物になっていた。
「チオウ様がツバキ様と共に来られておるとは知らなんだが、何故トツカサを離れてここまで来られたのじゃ?」
 見上げると首が痛いと言うセリカの言で、チオウは座している。
「色々あってな。ツバキ一人を遠出させる訳にはいけねぇと思った。と、そう考えておいてくれると助かるな、セリカ様」
「……チオウ様がそう言われるのなら……」
 溜息を一つ、そして話し出そうとしたセリカをチオウが止めた。
「その、様はやめてくれ。俺はもうトツカサの人間じゃない。只のチオウ、それだけだ」
「戯れ言を」
 間髪入れずにセリカは返す。
「トツカサの名は楓華列島に轟く良家の証。マウサツと並んでセイカグドの国を治め、永きにわたって貴くも賢き天子様の教えを守る家。それを捨てるなどと言う戯れ言は、妾の前だからこそとこの胸に秘しておく故……」
「だから、俺を【様】とは呼ばないでくれと言っているんだ……」
 自嘲気味に笑ったチオウの視線を真正面から受けて、セリカの口が閉ざされないまま、空気を吐き出していた。
「……信じられぬ。いや、信じたくはないぞ……それは、妾への当てつけかや……」
 膝の上で握った拳を震わせて、小さな肩が揺れる。
「生まれ出ずるは、選ぶことなど出来ぬ一世に一度きりの理。汝はその理をも踏みにじると申されるか……己の背負う、果たすべき使命も捨てて、何をすると言う……妾には出来ぬ事でも、汝ならばこそ出来る物もあるであろうに……」
 溢れそうになる涙を堪えているのだろう、セリカの長い耳が揺れ、目尻にも雫が落ちまいとしがみつくように居る。
「家がそうだからってな、出来ないこともある……護りたいものを、護れない時もある……」
「チオウ様……」
 淋しげなチオウを見つめるツバキに、肩をすくめて見せた若武者は深く頭を下げてセリカに再度願う。
「ツバキ様、セリカ様のお心には添えないやも知れませぬが、義姉上様達と共に、出来る限りのご支援は致したく存じまする。それを持って、返答として頂けませぬか」
 許すと、短いセリカの言葉が聞こえるまでチオウは腰を折ったままだった。
 座が沈んだなかに、セリカは今のミナモの国についてと断りを入れて話し始める。
「先のリョクバへの出兵の不備、それらの責任の追及という物があったのじゃ。ガザン、アキゴオリからの追及は厳しかった。勿論、セイリン王には何の罪もないが立場上の平等を唱えられて、黙されておられた……そして、先に不穏な空気を感じた妾がツバキ様に書をしたためて送ったのが先月の中頃」
 遠い目をして、一旦話を切るセリカ。
「ガザンが、我が国に攻め入ってきた。……鬼の討伐に武士を配し、それを指揮していた妾は都を守る戦に間に合わず、父上様には何卒とお願い申し上げたのにもかかわらず……病の床を抜け出して敵兵を支え、見事に都を守り抜かれたのじゃ。そのお命と引き替えにな……」
「それでは、セリカ様は……」
「恥ずかしながら、今は亡き父に代わってミナモの国の国主じゃ……病の父上様も守れぬ、この様な妾が国主と、ガザンやアキゴオリには笑いの種であろうがな」
 そこで、異国の戦士達、それもマウサツの姫領主と懇意な者達に助力を願っても良いかとセイリン王に願い出たところ、思いがけずにもガザンの侵攻を止める為ならば致し方無しという判断を下されたのが1月の末だという。
「その時には、チオウ様、あなた様の御名もよくセイリン王には通じたのじゃぞ?」
「……言わねぇでくれ」
 これから先、何度も言われるのだろうなと呟くチオウの横でツバキが微笑む。
「……つまり……セイリン王には、私達が異国の者だと知った上で、ミナモ一国に関してはその支配権さえも与えるというお覚悟があると、理解して宜しいのでしょうか?」
「そうじゃな。この戦国の世で、他国に援助を求める時の最初の提言はそうじゃ。セイリン王は万が一、グリモアが鬼に支配された時のことを恐れられておるのじゃ。同時に、一国のグリモアを得たところで、何も出来ぬと言うことをよく知っておるからこそ、そう言うてのける事が出来るのじゃと妾は理解しておる」
 イズミに頷いて見せて、セリカは続ける。
「そなた達は嫌うであろうが、ツバキ様、チオウ、ジンオウ様達が助力しておったと言うことはガザン、アキゴオリの者達も認めざるを得ぬ事実じゃからな、セイリン王にもその事だけは真実と良く伝わったと思うぞ」
 じゃがと、セリカは続ける。
「父上様が身罷られた時、それで戦が終わっておれば良かったのじゃ……今、妾が鬼というたのは覚えておろう?」
 セリカの言葉に頷く者達。
「妾が文を送って数日、どのような経緯があったのかは知れぬが、鬼が出た」
 淡々と、事実だけを続ける。
「その鬼共は都に徐々に近付いておる。ミナモのグリモアに続く聖域への道を一度閉ざせば、セイリン王はご存じの筈じゃが、迂回路を知るのは父上様と妾のみ。そう易々と落ちはせぬ。じゃから兵站の補給という隠れ蓑を用いてこの地までツバキ様をお迎えに来ることも出来たのじゃが、事態はもう一刻の猶予も無いやも知れぬ。兵士達の疲労も既に限界を超える一歩手前、このままでは、我が陣内より鬼を出してもおかしくないと思える恐怖もある……」
「……それで?」
 止まったセリカの言葉を促して、イズミは決意の程を試す。
「(……怖い義姉上様だ……ここまで聞いておきながら、セリカに最後まで言わせるのか……)」
 聞いていたチオウが、崩していた脚を組み直して深く呼気を吐き出した。自身に気合いを入れる時の、そんな呼吸だった。
「先にも申したが、万一、我がミナモの武士団だけで鬼と拮抗出来なくなった時には、そなた達の力を借りたい。そして、その御助力への対価として我が国の、ミナモのグリモアを献上したい……じゃが、妾とて姫将軍の名を受けた身、そう易々とは鬼などに負けぬつもりじゃがな」
 小さく笑うセリカの瞳は、決して負けを認めてはいない。
 挑み続け、歩み続ける者。
 生者にしかない、燃える炎の色だった。

 刻は2月9日。
 リョクバの大国セイリンの国を抜け、ミナモの国に向かう旅が始まった。

【幕間・2】