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「そ、その話は真か!?」 驚愕した表情で聞き返すクラノスケ。(ツバキ姫の言動以外)大抵の事では動じないクラノスケが、思わず声を荒げたのも無理はあるまい。投降して虜囚の身となった野武士たちに尋問に立ち会っていたクラノスケがその男から聞いた言葉、それは―― 「ああ、間違い無い。トキタダ公は彼の国と結ぶ為、我等を捨石としたのだ。西の大国、ジリュウと結ぶ為にな……」 ゆっくりと、悔いるように告げる野武士。そして、野武士の証言を元にサコンが行った霊査によって、それが事実である事が確認される事となり、直ちに護衛士たちに招集が掛かる。 「投降された野武士の方々から得られた証言で、トキタダ公の目的が明らかになりました。彼がマウサツ方面の野武士に命じて襲撃を仕掛けさせていたのは、私たちの意識をマウサツ本領に向けさせる為の陽動。真の狙いは、ジリュウの国――つまり、サダツナ公との共闘体勢の確立にあったのです」 護衛士たちを前に口惜しげに報告するサコン。憶測ながらも、そうした事態も予測している者もいた。だが、証言や霊査での確認などの確証を得る事が出来ていない以上は、それを霊査士たるサコンが口にする訳には行かなかったのだ。 「先程、トツカサのジンオウ様から、ジリュウ領内にて何か変事が起きているとの知らせが届きました。どのような事が起っていたのかまでは判りませんが、その影にトキタダ公の動きがあったようです。ですがその結果、トキタダ公とサダツナ公との盟約は成立したものと思われます」 そう言い切ったサコンの言葉に護衛士たちは戦慄する。現在、このセイカグドの地に於いて最大の勢力を誇る西の大国ジリュウ。その大国がトキタダ公と盟を結ぶと言う事が何を意味するのか―― 「サダツナ公が望むのならば、トキタダ公の手によってジリュウのグリモアは解放され、私たちと同じ希望のグリモアの力をジリュウの武士たちも得る事が出来ます。そして、彼らが手を結ぶと言う事は、再びこのセイカグドを暗雲が覆う事を意味するでしょう。いえ、もしかするともっと多くの地がその暗雲に覆われる事も……」 そこまで告げて口を閉ざすサコン。霊査の力すら及びかねる程、遠い異国の地で取り交わされた盟約。 「……我等が情報を得た経緯はともかくとして、トツカサにも知らせるべきでござろうな」 クラノスケの告げた言葉にサコンも頷く。 「今後、ジリュウとトキタダ公がどのような動きをするのか、現状では残念ながら掴めておりません。取り急ぎ、霊査を行ってその動向を探るつもりですが、今少し時間が必要だと思われます。それまでの間、皆さんの判断で各自行動をお願いしたと思います。現状で出来る事は少ないかも知れませんが、よろしくお願い致します」 深々と護衛士たちに頭を下げるサコン。平穏を取り戻したかに見えたマウサツに再び動乱の時が近付こうとしていた。 |