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──荒野縦走ワイルドラリー。 それは、広大なワイルドファイアの荒野を1ヶ月に渡って走破するという、ヒトノソリンの集落対抗ラリーだという。 元々は何か緊急を要する事態が発生した時、それを荒野に散らばる各集落に伝えるための伝令や、物資の輸送といった事の演習、という目的があったらしいが……今ではすっかり年に一度のお祭り、楽しい恒例行事として伝わっているそうな。
そして今年。 参加するチームは100を超え、その中には護衛士団本部近くの集落の助っ人として参加する運びとなったGパンポルナの面々もいたりする。 スタート地点となっているヒトノソリンの聖域前には、既に各集落のチームが集まり、それを応援するさらに多くの者達も詰めかけて、もうすっかりお祭り騒ぎであった。 あちこちには大型のテントが張られ、数々の露店が色々な品物や食べ物を並べている。 ワイルドラリーの他にも、集まった一般の者達が参加する各種お祭りや競技の予定も色々と立てられており、それらがこの一ヶ月間、聖域前、あるいはこの周囲で次々に開催されていく運びにもなっているのだ。
そんな中、開催の挨拶をするべく、聖域の奥よりヒトノソリンの最長老が姿を現した。杖をつき、白い頭髪と眉毛と口髭、顎鬚で顔の殆どが覆われた、とにかく年月を感じさせる老人である。両脇には、その世話役を勤めるヒトノソリン冒険者の女性がついている。 「あ、最長老様なぁ〜ん」 「お元気そうでなりよりなぁ〜ん」 と、あちこちから声がかかると、手を上げてそれにこたえる最長老様。意外にしっかりした足取りで一段高い壇上に上がると、こほんと咳払いをして、おもむろに話を始めた。 「あ〜、本日も良いお日柄で何よりなぁ〜ん。まさに絶好の日和の中、こうして今年もワイルドラリーが開催できた事を嬉しく思うなぁ〜んよ。特に今年は、別大陸である……あ〜…………」 と、ここで少々間が開いた。首を捻っている所をみると、何かを思い出そうとしているようだ。 隣にいた世話役の女性が、最長老様の垂れた耳をそっと持ち上げ、何事かを囁く。 「おお、そう、そうなぁ〜ん。ランドアースの皆様方も、この催しに来訪されるであろうなぁ〜ん」 ……どうやら、ランドアースという大陸名を失念していたようだ。 「しかも、レースの参加者として、密林の遺跡に居を構える……あ〜…………」 また、すぐに首を捻り始める最長老様。今度は先ほどの女性の反対側に控えていた世話役が最長老様に近寄り、耳を持ち上げてこしょこしょと囁いた。 「おお、そう、そうなぁ〜ん。護衛士団のGパンポルナの方々も参加されるとの事なぁ〜ん。頑張って欲しいなぁ〜ん」 ……Gパンポルナ、という護衛士団名が思い出せなかったらしい。 「レースに参加する皆はもちろん、ここに集まった皆も、期間中は大いに楽しむなぁ〜ん。きっと、我等がヒトノソリンのグリモアである……あ〜…………」 またまた、何かが思い出せないらしい最長老様に、両側から世話役の女性が近づき、同時に両耳を持ち上げてそれを告げた。 「おお、そう、そうなぁ〜ん。我等がヒトノソリンのグリモア、巨蟹(きょかい)のグリモアも、見守ってくれるなぁ〜んよ」 頷きつつ、最長老様は言う。 「ああ、そういえばあの美味しそうなの、そういう名前だったなぁ〜ん」 「美味しそうなグリモアなぁ〜んね」 「うん、あれ、とっても美味しそうなぁ〜ん」 周りのヒトノソリンの冒険者達も、口々にそんな事を言っていた。なんだか知らないが、美味しそうなグリモアらしい。でもって、名前はあんまり覚えられていないようだ。実におおらかである。おおらかにも程があるかもしれないが。 「それでは、今年のワイルドラリーの開催を宣言するなぁ〜ん。大いなる大地の恵みと祝福が、皆の前にありますように……なぁ〜ん」 最長老様の言葉に、その場のヒトノソリン達も「なぁ〜ん」の大合唱でこたえる。 こうして、今年の荒野縦走ワイルドラリーは始まったのだった。 ランドアースからの来訪者、参加者もある今回のレースは、間違いなく一味違うだろう。 果たして、その結末やいかに! |