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港には思いがけなく沢山の人が集まっていた。バーレル護衛士団の者達、バーレルのごく普通の人々、それから色とりどりの服装が華やかな冒険者達。その人々に見送られながら、穏やかで波もほとんど無い鏡面の様な海を1隻の船が静かに離れていく。
コルドフリード探索隊の面々は甲板ギリギリから港を見下ろす。見知った顔がいくつもそこにある。冒険者ならばドラゴンズゲートを使い、ほぼ距離を感じないとはいえ、忙しい日々の中時間をやりくりしてここまで来てくれたのだろう。中にはドゥーリルの灯台を磨いてくれた者もいるらしい。誰もがこの航海の無事を祈っていた。逆に祈らずにはいられないほど危険が待ち受けている……と、いうことでもあった。
「さぁ、笑顔で手を振りましょう。さようならではなく、またね……と、でしたわよね」 マデリンは笑って右手を挙げ手を振り始めた。何人かが手を振り始め、数人は顔を強張らせ、別の数人が泣きそうになって顔を背ける。理性ではわかっていても、いつも別離には悲しみがつきまとう。例えそれが希望を抱いた旅立ちであったとしても、だ。
港からはゆっくりと船は遠ざかっていく。声も姿もどんどん小さくなっていく。やがて船は小さな黒い点となり消えてしまった。
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