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沢山の真っ白な帆が風を受けて緩やかにカーブを描いている。碇が引き上げられ港へと繋留していな綱が解かれる。夜明け前、ごく僅かな人々が見送る中、巨大な帆船は海へと出ていった。ほんの半月ほど前にバーレルを出た時とは違い、なんとも静かで地味な……まるで人目を避けて逃げていくかの様な寂しい船出だ。 けれどそう見えるのは見送る者達だけの感傷なのかもしれない。まだ見ぬ世界への期待と仲間達の期待を背負って旅立つ者達には朝日に光る海を往くのは輝かしい門出でもあるのだ。
「行ってしまったのですね。ジェシカ、ちょっと寂しい……」 悲しげな表情で美少女がつぶやく。もうちょっと遊びたかったのか、それとも本心から寂しく思っているのか、どうにもとらえどころがない。 「危険だって教えてあげたのにに……同盟の冒険者って大馬鹿なのかしら? もう帰って来ないわよ、きっと」 「そうと決まったものでもないじゃろうのぉ」 杖にすがりつくケルムはレムリアの言葉にのんびりと口をはさむ。 「……そうだな。本当にそうだといい」 クーナは遠ざかる船を見る。あれ程大きかった帆船はもう随分と小さく見えていた。
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