<墜落!>

 ドラグナーを撃破したものの、遺跡は次第に高度を下げていきます。
 そして、遺跡が墜落した先は……希望のグリモア近くの港町、ウキでした。
 こうしてわたくしたちは、同盟諸国へと帰還を果たしたのです。


墜落!

エルフの霊査士・マデリン(a90181)
場所:掲示板(連絡事項掲載)   2008年04月28日 13時   発言数:1

 どんなに努力をし、どんなに東奔西走してもいつか終わるが来る。遺跡の高度はドンドン下がり、もはや何時失速し墜落してもおかしくはない。

 水平を確認するために別の部屋に行っていたヘルムウィーゲ、カルア、チグユーノが次々に駆け戻って来た。それぞれに部屋の窓から見えた風景から遺跡の現状を報告するが、どれも陸地への失速、墜落を示唆するものばかりだ。
「良さそうな部屋を見つけた。一刻を争う! すぐに移動してくれ」
 どうやらカルアは戻ってくる途中、衝撃に耐えられそうな部屋を見つけてきたらしい。タロスの重傷者を優先しつつ皆がその部屋へと移り始める。
「絶対に生き残るのよ! こういう時は気合いが大事なんだからぁあああ弱気な奴はあたしの声で渇を入れるからねぇえええ!」
 怪我を負っていてもガマレイの魂まで傷つけることは出来ない。愛用のギターを背負い、声を限りに仲間達……特にタロス達を励まそうとする。
「一緒に行きましょう。大丈夫です」
 シオンは同じく怪我を負っていたが、タロス達を気遣い同じ歩調で移動する。
「部屋のなるべく後方に! 前は危ないですから」
 キズスが部屋の入り口でタロス達を奥へと誘導する。
 セレナードは移動せず、正面扉へと面した部屋に移動していた。あのだだっ広いが操作盤ばかりでちっとも広く見えない部屋だ。
「状況は把握しているのか! 飛び続けられないなら、少しでも衝撃を和らげるよう全力であたれ! いいな!」
 次々と操作盤に怒鳴りつける。効果は不明だがやらないよりはマシだろう。それから開け放したままの扉の向こうに歩を進める。そこには当然ながらドラグナー達の死体が生々しく残っている。
「仕方がないか」
 血にまみれた死体の1つをセレナードは掴む……と、背後から数名の足音が響いた。ヘルムウィーゲ、ペルレ、そしてティターニアだ。
「手伝います」
「緩衝剤になる物が他にありませんからぁ」
「あんまり気乗りせぇへんけどなぁ」
「……急ぐぞ」
 4人は比較的身体の柔らかそうなドラグナーを選び、力を合わせて運び出す。

「なんでもいい! どこでもいいから掴まれ。それから得物は別室に置いてくれ! 衝撃で人を傷つけないとも限らない! 隣に小部屋があるからそこへ!」
 キースが叫ぶが、そのキース自身も震動と上や下へと定まらない高度に立っているのがやっとの状態だ。武器はもう置いてある。
「なんて揺れだ!」
 危険な機材を搬出し終わり、角のある場所にあり合わせの布を被せていたエルヴィンは低く毒づく。皆の命は当然だが、この遺跡もエルヴィンにとっては大事なのに、あと数刻で失われようとしている。なんとも残念で悔しい。
「でも……どうしてもこれを持ち帰らなくては……」
 サクラから手渡された革袋は今もマデリンの手の中にある。妖しく淡く、そして青く輝く革袋の中身は『魂の石』。これを持ち帰るために出来ない苦労を重ね、失ってはいけない命が沢山零れてしまった。
「どうしたらいいのでしょうか?」
 シオンは手がかりを求めるかのように部屋を見回す。文字に見えそうな装飾もあるが、読み解けるものはない。
「シオンは……ティターニアとガマレイも今は体力が落ちている。他の事は考えずに生き残ることだけを考えろ」
 シオンと同じように遺跡の内部に何か手段が隠されてはいないだろうかとせわしなく視線を走らせるエルヴィンが、振り返りもせずに言う。部屋の四隅にある柱にはドラグナー達の死体が倒壊防止用に集められている。
「そうです。3人とも大変なのですから。どこかしっかりとした所に掴まっているか、身体をちっちちゃく丸めていて下さい」
「……わかった。おおきに」
「ざっつらあああぁい! わかったわ。後のことはみんなに任せる!」
 ドラグナー達との戦いで手酷い傷を負った者達は、部屋の隅にある柱に掴まる。タロス達も別の柱に掴まり3人に倣っている。
「全員部屋に入りましたから、扉を閉めますわね。どなたかがお姿が見えない方、いらっしゃいますか?」
 部屋の出入り口付近にいたチグユーノが皆に確認をする。マデリンもドゥーンも大丈夫だと告げる。帰らない顔が浮かぶがチグユーノは軽く頭を振り、重い扉をしっかりと閉める。
「これの中に入れませんか? なんか頑丈そうですし……」
 ロディウムが見つけてきたのは四角い箱の様な入れ物だった。部屋にある不要で動くと危険な物をどかしていたのだが、その際に見つけたのだ。
「どれ……なるほど、軽いが頑丈そうだな」
 ロディウムから手渡された箱を検分し、重々しい声でドライザムが判じる。難点は密封出来るが簡単に開いてしまう事だ。
「開いちゃったらだめです。墜落した時、転がってしまったら元も子もない」
「紐で括っておきましょうか?」
 やはり間延びしない苛烈な口調のままペルレが言い、キズスがいつも肩から掛けている
カバンに手を掛ける。
「あああ! また高度が!」
「ドゥーン様!」
 フィリアはタロス達を抱きとめ、チグユーノは転がっていくタロスの長、ドゥーンの手を掴む。
「効果はわかりませんけれど、これを抱いていてください」
 フィリアは抱き留めたタロスの重傷者に喚びだしたフワリンを示した。いきなり現れた不思議なモノにタロスは驚いた様だが、戸惑っている暇はない。
「……僕がシャドウロックをしてみる。その上からサクラがしっかり抱きかかえていてくれないかな? 上手くいくかわからないけど」
「それしか今は思いつきませんね」
「承知。拙者の身は他の方々よりは多少頑丈に出来ているでござるしな」
 リオネルの提案通り、マデリンが抱えた革袋はドライザムの持つ箱へと入れられ、それに『力』を使って施錠される。2重3重のロックを掛けると箱はサクラへと手渡された。部屋中の動き出しそうな物をせっせと外に運び出していたサクラは駆け戻ってその大事な箱を受け取る。その間にも高度はドンドン下がり、速度もあからさまに減退し……そして遺跡内部の向きは進行方向に大きく傾ぐ。
「衝撃に備えるろ! 姿勢を低く!」
 皆にロープを渡していたドライザムだったが、ガクンと下がる震動にいよいよ危険だと察知した。
「マデリンさん、わたしに掴まって下さい」
 石を手放し両手が自由になったマデリンにケラソスが手を差し伸べると、ギュッと抱きついてくる。そのマデリンの背にもう1枚、マントがふわりと掛けられた。
「スタインさん?」
「無いよりはましということで……私は大丈夫ですから」
 危険な機材の運び出しをしてきたスタインだが、こんなに緊迫した状況なのに日だまりの様な穏やかな笑みを見せる。釣られたかのようにマデリンもぎこちなく笑みを返す。
「重傷の人とマデリンさんはもっと真ん中に来て下さい」
 マントを脱ぎ折り畳みながらキヤカが言った。大切な思いがこもったマント……雪の結晶を見ていると少しだけ心が落ち着いてくれる気がする。
 残された時間は少ない。リオネルは動かせない大きな機材を固定し、どうにも危険そうな箇所に自分のマントを脱いで被せる。キースは重傷者やマデリンが身を縮めている近くに待機する。この拳と蹴りで空間を死守するつもりだった。それが駄目でも……命を賭ければ誰が1人くらいは助けられるかもしれない。
「なんでもいい。防御の力が残っているなら使ってくれ!」
「ライクアフェザーでも、鎧聖降臨でも、鎧進化でも、護りの天使達でもなんでも構いません! 出来るだけの事を!」
 カルアとヘルムウィーゲの言葉は主にタロス達へと向けられた言葉だった。ドラグナー達との戦いで力を使い切り、休息も出来なかった冒険者達に余力はほとんどない。
「とにかくデカイ人に!」
 ガマレイはサクラとドライザム双方に手を伸ばししがみつく。
『絶望しちゃだめです! 絶対に!』
 激しい落下の震動と加速による圧で耳が、体中が悲鳴を上げ始める中、ペルレの声が皆の心に響く。互いをかばい合い、折り重なる様に身を低くして来るべき衝撃に備える。


 激しい衝撃が遺跡を……そしてその内部を蹂躙した。死力を尽くし、生き残る為の戦いを全うした者達全てを無慈悲で圧倒的な力が襲う!
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