天竜・頭蓋

<銀誓館襲撃〜天竜頭蓋>

 能力者達が日々を送る銀誓館学園。
 その平穏は、突如として襲った不良達の軍勢によって破られていた。

 学び舎の校門周辺にひしめく不良達。
 彼らを支配するのは、ナイトメア王(キング)ジャック・マキシマム配下のナイトメアビーストの一人、「バッドヘッド」天竜・頭蓋(てんりゅう・ずがい)だ。
 彼の力によって支配された不良達は、能力者並の力を得て生徒達を襲わんとしていた。
 自らの通う学び舎を、そして頭蓋の狙うメガリス『ティンカーベル』を守るべく、能力者達は強化不良とぶつかり合う。
 その勢いは次第に不良の側を上回り、能力者達は次々に不良達の守りを突破しつつあった。
 自分達の担当する不良達を撃破した後に、一般生徒達の避難活動に回った榛菜・織姫(紅女王に魅せられて・b57270)や文月・風華(暁天の巫女・b50869)といった能力者達の支援もあり、一般生徒の被害は抑えられていた。

 一方で、天竜・頭蓋達に関する情報収集や、頭蓋の動きの誘導を行おうとした者達もいた。
 だが、彼らの動きは、実を結ぶことなく終わる。
 理由は単純。いち早く敵勢へと突き進んだ能力者達が、天竜頭蓋と、彼の直衛である不良軍本陣との戦闘に突入していたのである。

●決戦開幕
「うおおおおおっ!!」
 デコチャリを駆る不良達を突破した鏡・流刃(飼猫・b00137)は、勝利の余勢を駆って、次なる不良達へと突っ込んだ。
 敵の守りが薄い所を目指して突っ込んでいく流刃。だが敵から奪い、盾にしていたデコチャリは、瞬く間にスクラップと化していく。敵の守りは健在だ。本陣を守る不良達が奇声をあげて、攻め寄せる流刃達へと襲い掛かる。
「ぷち、頼む!!」
 流刃の声に応え、ケットシー・ガンナーが素早く拳銃を抜き放った。弾丸が即座に敵を撃ち抜き、流刃の魔弾が別の一人を空中で撃墜する。
 だが、その攻撃はで足が止まった。不良達が流刃に群がろうとした瞬間、秋枝・昇一郎(テクノジャンクス・b00796)の両手のスパナが唸りを上げた。
「無茶すんな! 突っ込むのはこっちに任せとけ!!」
 強化不良の腹部に一撃を加え、痛みに下がった顎をかち上げるように追加の一撃を加える。
 たちまち昏倒した強化不良を見下ろした昇一郎の横を、王・明花(翠風白華・b61997)らが走り抜けていく。
「銀誓館に乗り込んできた事、後悔させてあげましょう。行きますよ!」
 明花はギンギンパワーZを頭からかぶると、両手のナイフを振るった。能力者達の猛反撃を受けた不良達の勢いは、攻めて来た当初に比べてはるかに鈍っている。
「俺達も行くぞ!」
 仲間達と共に強化不良を蹴散らす明花に負けじと、昇一郎も後を追わんとする。
 強化不良達の壁が割れたのは、その時だった。
「……ここまで来たか。なら……俺が相手をしてやろう」
 抑えた声音の中に、燃え盛るような熱情を秘めて、声が響いた。
「馬鹿の親玉の居場所なんて、わざわざ情報収集するまでも無いとは思っていましたが……やはり、分かり易い場所にいたものですね」
 彩霞・響姫(夜奏花・b02204)は、緊張した面持ちで声のした方を見た。
 その後ろにいたのは、赤いバンダナの青年だ。
 彼は薄い笑みを浮かべると、ゆっくりと名乗りを上げた。
「改めて名乗ろう。俺は天竜・頭蓋。テッペンを獲る男だ」

 頭蓋の声と共に、戦場の空気が一変するのをミシェル・ローデリック(気分は魔法使い・b03554)は感じた。
(「これは……まずいかも知れませんね」)
 これまでに戦って来た、幾多の勢力の強敵達に匹敵する力を、今の頭蓋は有している。おまけに頭蓋直衛の強化不良達の存在もあり、頭蓋と直接戦える人数は限られて来そうだ。今集まって来ている数だけでは、危ないかも知れない。
 そう思いながら携帯を叩くミシェルの横、風嶺・桜花(使役ゴーストの名前はとりさん・b04465)が頭蓋に声を投げる。 
「……うちの学校に、カチコミかけるとは、いい度胸、なの」
「必要なもんがあるから取りに来た、それだけだ」
「ですが、訪問する側にも作法は必要ですよ」
 飄々と答えた頭蓋に、響姫は、にっこりと笑って辛辣な台詞をぶつける。
「あなたも、あなたの配下達も耳障りな上に馬鹿丸出しで目障り、迷惑な事この上ありません」
「テメエらみてえなド三流、俺たちが踏みつぶしてやるよ!」
 合流した本間・忠弘(高校生真月のエアライダー・b38617)も言葉を重ねた。その場にいた能力者達が、忠弘の指示の元、頭蓋を取り囲む。
 彼らが知る、コピーの頭蓋であれば、容易に倒し得る布陣だ。
「……手下が戦ってるのに、逃げない、よね?」
 だが、桜花の言葉にも、余裕を崩さず頭蓋は笑った。
「クク……ハハハハ!」
「何がおかしい!」
「ハッ、笑えるな、テメェら。『11倍の力』を得た俺に勝てる気でいるんなら……どっちが上だか、教えてやるぜ」
 頭蓋が上着を脱ぎ捨てた。タンクトップの上半身が風にさらされるのと同時、頭蓋の両腕が黒い炎のようなものに包まれる。
 そこから溢れる膨大な力に、能力者達の背筋に怖気が走る。ミシェルが叫んだ。
「まずい……後退を! 急いで!!」
「悪夢を見せてやるよ。さあ、爆走しろナイトメアども……『イレブンランページ』!」
 頭蓋の怒号が響いた次の瞬間、道路のアスファルトを踏み砕きながら、ナイトメアの群れが爆走した。11頭からなる馬群が走り抜けた後に残されるのは、一撃の元に踏み砕かれた能力者達の姿だ。
「な、んだ……今のは!?」
 範囲外におり、ギリギリで被害を免れた平良・虎信(荒野走駆・b15409)は、その威力に息を呑む。すぐさまヒーリングヴォイスで仲間達の傷を癒そうとするが、立ち上がれたのは一握りだ。
「コピーとは威力が違い過ぎる……。これが本体の力ってことなのか!?」  これまでに戦って来た頭蓋のコピー達と、眼前にいる本体とは、明らかな別物だった。
「こいつが、俺がテッペンに立つための力だ。さあ……やろうじゃねぇか!」
 冷たい風に身を晒しながら、頭蓋は地を蹴った。

●『11倍』の猛威
 頭蓋が腕を振るうたび、集まった能力者達が倒れていく。周囲の強化不良も、猛威を振るう頭蓋の姿に、勢いを取り戻しているようだった。数で上回るとはいえ、攻撃を集中できないうちに、能力者達は否応なく苦戦を強いられていく。
「強くなったみたいね。どういう仕掛けなのかしら?」
 霜月・神無(氷雪のカメリア・b04161)が両手でかざした護符の守りが、頭蓋の拳に軋む。
 彼女の言葉に、頭蓋は強者の余裕を崩さず応じた。
「お前が知る意味があるのか?」
「そうね。どうせ、あの『イレブンハート』の仕業なんでしょうし……!!」
 吹き掛けられた凍て付く吹雪の吐息を、頭蓋のかざした手が受け止めた。通常の11倍の強度を誇る頭蓋のサイコフィールドは、異様なまでの堅固さで、彼の守りを鉄壁としていた。
 そのまま神無へと伸びようとした腕に、遊馬・葛(紅蜥蜴・b34841)の爪先が三日月の弧を描いて突き刺さった。
 軽く顔をしかめた頭蓋は、即座に反対側の腕で、引き戻されんとした彼女の足を掴み取る。
「なっ……!?」
「女にしては、中々の攻撃だな」
 掴んだ足首を持ち上げて葛の体を持ち上げると、頭蓋はそのまま彼女を地面に叩き付けられた。嫌な音が響き渡り、アスファルトが砕ける。そのまま彼女を振り回して他の能力者達をけん制する頭蓋に、特攻服の影が急速接近する。
「その手を放しなよっ!!」
 声と共に突っ込んで来たのは、ルナリス・フェルメール(ラピスラズリ・b25270)だ。倒した不良グループ『悪華繚乱』から奪った特攻服を引っ掛けたルナリスの足が、美しい弧を描いて頭蓋の肩を蹴り飛ばす。
 ルナリスの攻撃に拘束が緩んだ瞬間、掴まれていた葛も反対の足で頭蓋を蹴りつけて脱出すると距離を取った。
「滅茶苦茶しやがるな、天竜頭蓋……」
 忍獣気身法を使った一咲・さな(ギガントハート・b58822)の体から、獣のオーラが溢れ出す。
「でも、この学園はかけがえの無い場所なんだ……あんたの好きには、させないぜ!」
「頭蓋くん、この先は通さないよ!」
 さなと彩樹・ふたば(ありすまにあ・b68688)、2人の牙道忍者が地面を蹴った。
 さなが被った角兜の先端が頭蓋をかすめ、ふたばの獣爪が白いシャツに血をにじませる。
「浅いか……!」
「反撃の隙を与えるな! 押し切れ!」
 間合いへ飛び込んだ、アルスセリア・カーライル(青銀の爪牙・b45933)の青銀と白の双剣が、続けざまに頭蓋へと繰り出された。
 その剣撃を素早いフットワークでかわした頭蓋は、反撃の拳撃を繰り出して来る。
「お返しと行くぞ」
「くっ!!」
 一撃一撃の重さにたちまち膝をつくアルスセリアをカバーするように、凍夜・霧歌(綺羅雪の欠片・b49654)が割り込んだ。祖霊降臨でアルスセリアを癒すと、頭蓋へと箒を構える。
「今度はわっちが相手じゃ!」
「次から次へと、よく増える……! いいぜ、てめぇら全員、俺がテッペンに立つための踏み台にしてやるよ!」
 新たな敵の出現に、喜色を顔に浮かべる頭蓋。
 だが、新たな敵の出現とは、すなわち自分の配下達の敗北を意味していると、彼は意識していただろうか。
 雪だるまアーマーをたちまち打ち砕かれながらも、霧歌が決死の覚悟で頭蓋の攻撃を凌ぐうち、能力者達は反撃の態勢を整えつつあった。

●竜は天に
「どうだ、動けないだろう?」
「ち、畜生……!!」
 西・竜彦(ひとでなし・b17290)が酷薄な笑みを浮かべて強化不良を見やる。彼が茨の領域で絡め取った強化不良達は体を縛る茨を振り払おうとするが、それよりも早く、一七夜月・氷辻(高校生真従属種ヴァンパイア・b44022)のナイトメアランページが発動した。
 疾走するナイトメアが、不良達をまとめて轢いていくのに一瞥もくれず、竜彦は口を開いた。
「これで、準備は完了だな」
「ええ。早く頭蓋の方に!」
 竜彦に頷き、氷辻は踵を返すと頭蓋の方へと向かう。
「立てる者は一旦下がれ!」
 そう指示を出したのは、エヴァ・アナスタシア(闇の福音・b59839)だ。
 彼女の声を受けて頭蓋からの距離を取った能力者達を、氷辻のサイコフィールドが覆う。
「力尽くで全てを解決しようとは浅はかだな。そんなオツムではまだまだ真の悪の道は遠いぞ!」
「……何か企んでいやがるのか?」
 頭蓋の言葉に、エヴァはフフンと笑って見せた。
「まあいい、好きにしな。多少の小細工で負けるようなら、俺はテッペンには立てやしねぇ」
「ならば、好きにやらせてもらおう」
 傲然と言ったエヴァを含め、まだ戦える能力者達を視界に納め、小野坂・京(流水浮花・b03996)、橡・咲葉(メルヒェン・b69256)の幻影兵団が展開された。
「お帰りなさいって、言う為の場所。壊される訳には……いかないの」
「とはいえ……これだけ支援したって、楽な相手ってわけにもいかなそうだね」
 2人の言葉と共に、頭蓋に相対する能力者達が一斉に攻撃を開始した。

「ハッ、面白い技を使うじゃねぇか!」
 己に迫る幻影兵達を、頭蓋は両の拳で次々と殴り飛ばし、攻撃をいなし続ける。
「手を緩めてはいけません!」
 何十という数の幻影兵の間を縫うようにして放たれた新城・香澄(翠の翼・b54681)の森王の槍が、頭蓋の足をかすめた。
「やってくれるじゃねぇか……!!」
 頭蓋の叫びと共に、駆け出したナイトメアの群れが能力者達を薙ぎ倒していく。
「くぅ……きついわねっ!」
 頭蓋の攻撃は、一撃受けるだけでも、気を失いそうになるほどの強烈な威力を持っている。
 頬を一つ叩いて意識を確かにすると、エヴィーティール・ロブスター(海老愛でる姫君・b61124)は一息でギンギンカイザーXを飲み干した。詠唱眼鏡からのビームを頭蓋へと目掛けて発射する。
 矢継ぎ早に繰り出される攻撃の前に、頭蓋の体にも傷が刻まれていく。だが、おそらくは生命力も11倍になっているのだろう。並の能力者ならばとうに倒れていておかしくないダメージを負いながらも、構わぬとばかりに頭蓋は攻撃を繰り出し続ける。
 そんな頭蓋に、怒りも露わに打ちかかっていくのは無髪・萌芽(路傍の草・b53356)だ。
「この学園には6歳の子供だっているんだぞ!」
「知ったことかよ。戦う場所に戦えない奴を囲い込んでるのは手前らの勝手だろうが」
「それがテッペンに立つ奴のセリフか! 筋を通さない不良は、この俺がぶっ倒す!」
 萌芽の放った大手裏剣を、頭蓋は片手で受け止めた。回転する手裏剣が握りつぶされた瞬間、小机・水城(月喰む夜鳥・b61103)が呪詛呪言を放つ。
「抗争ゴッコは御終いにしましょう!」
 体を蝕む呪詛の力に、頭蓋の足がわずかに止まった。
「今だ!」
 遅れて到着した美咲・紅羽(アクセラレータ・b65300)の足が、頭蓋の胸板に突き刺さる。
「学園を荒らされるのを黙って見ているのは、性に合わないんでな。相応の報いを受けて貰うぜ」
 連続して蹴りを放ち続け、堅実にダメージを与えようとする紅羽の動きに頭蓋が顔をしかめた瞬間だ。
「遅れて到着するのはヒーローのお約束っと!」
「こっちも行くぜ!」
 声と共に現れたのは、吾妻・奈緒(デスペラード・b02168)と小此木・平治(探求の風・b65333)だった。威勢の良い言葉と共に、爆水掌が、龍顎拳が立て続けに撃ち込まれる。
 全身の力を足に集中させ、頭蓋は吹き飛ばされるのを耐える。
 だが、それに続けて放たれた倉科・こころ(焔の如き希望と共に歩む者・b34138)の一撃は、完全に彼の虚をつく形となった。
「ひとの母校で随分好き勝手やってくれてるみたいだけど……これ以上はめっ、なんだからね!」
 『詠唱停止プログラム』を纏った拳が、頭蓋の頬を殴り飛ばす。螺旋の文字が頭蓋の全身に力を及ぼし、頭蓋を守っていた11倍サイコフィールドの力が、目に見えて弱まっていく。
「なんだとッ……!?」
 サイコフィールドが回復するまでの時間は僅か10秒にも満たない。
 だが、能力者達にとってはそれだけで十分だった。
 巡礼士達の幻影兵団が発動し、火力の集中を可能とする。
「今だ……行け!!」
 瞬間、怒涛の如き連続攻撃が、頭蓋へと集中した。
 霧を思わせる『幻影兵』の波が消えた時、能力者達の目に映ったのは砕けたアスファルトの上に仁王立ちする頭蓋の姿。
 だが、その光景に息を呑んだのも束の間、頭蓋の体は地面に崩れ落ちた。
「ク、ソが……俺は、誰よりも、強く……」
 それが最期だった。
 おそらくは彼にのみ理解できる『テッペン』を目指した男は、どこにも辿り着けないままに地に倒れ伏す。
 倒れた頭蓋の体が黒い砂のようになって消えていくのを、能力者達は静かに見送った。

 頭蓋が倒れるとともに、その支配から解き放たれると共に能力を失った不良達は、青竜拳士や白虎拳士達に睨みをきかされてそそくさと銀誓館学園から逃亡していった。世界結界の効果がある以上は、この一大決戦も、ただの不良達による学園襲撃ということでかたがつくのだろう。
 学園に通う一般生徒達に不良達と戦う姿を目撃された者達は、多少は敬遠されることになるかも知れないが、それは仕方のないところだ。
 何より、そうした心配よりも考えるべきことがあると、能力者達は思考を巡らせる。
「メガリスを狙う別働隊がいるかも知れない。警戒は必要だろうな」
「そうですね。天竜頭蓋が囮という可能性も……」
 乾・玄蕃(魔法使い・b11329)の落ち着いた言葉に、シルフィール・ネルスラーダ(怪盗ナイトウィンド・b49532)も懸念を口にする。とはいえ、小川・一太郎(もうひとつの冴えたやり方・b18087)らをはじめ、多数の協力を得ての調査でも、不審な形跡は見つからなかった。
「ひとまずは安心していいみたいだな」
 確認を終え、一太郎はそう判断する。

 だが、油断をすることは出来ないと、能力者達の誰もが感じていた。
 ナイトメア王(キング)・ジャック・マキシマムの配下は6人。
 銀誓館学園の能力者達はまだ、そのうちの一人を倒したに過ぎないのだ。
 次なる戦いの予感を、銀誓館学園の能力者達は感じていた……。














 ⇒⇒⇒一方、その頃……。