〜本業能力『聖杯探索』による三点観測法で特定されうる場所〜
春であるにも関わらず、その湖には、一本の「氷の道」が生じていた。
そしてその道の上では、激しい戦禍が巻き起こっていた。
氷の道を行く全身甲冑の騎士を取り囲むように襲い来る、緑色の液体怪物達。
だが怪物達は、騎士がその詠唱兵器を振るう度に、次々と蒸発してゆく。
「無駄だ、『御神渡り(おみわたり)』も知らぬ貴様等異形に、俺は止められぬ!」
裂帛の叫びと共に次々と異形を消滅させる騎士が、その時、ふと、足を止めた。
背後を振り返ると、ひとりの少年が、騎士の後ろから、氷の道を歩いてきていたのだ。
『御神渡り。一般にはこの湖に氷が覆われる事によって生じる、ただの自然現象として知られる』
『だが真実は違う。御神渡りとは、かつて聖者がこの湖上に創造した、聖なる巡礼路の事を指す』
『聖者とは君の祖先の事だ、巡礼士総帥ランドルフ』
「知識を並べて悦に入るのが望みか? それとも、我と戦い灰燼と帰すのが望みか?」 詠唱兵器を構え直すランドルフに、少年はかぶりを振る。
『知識も戦いも、所詮は真理の表層に過ぎない。真理を伴わぬ行為に意味などない。ランドルフよ、僕は君を諫めに来たんだ』
「貴様の戯言が、聖杯の導きに勝る理由など無い! そして知れ! ≪世界を救う≫以上の大義など、この世には存在しない!」
『この宇宙にとって最も自然な存在はゴーストだ。来訪者と能力者がそれに次ぐ。これらの種を滅ぼし、宇宙で最も不自然な、加護無しには生存すらできぬ脆弱な種を存続させる行為を≪世界を救う≫とは呼ばない。君のやっているのはただの≪侵略≫だ。大義でも何でもない』
「貴様は最早人では無いな? ならば貴様も滅ぼす! 覚悟せよ!」
『それは断る。何の益も無い』
ランドルフが一撃を放とうとした刹那、少年の姿は突如掻き消えた。
ランドルフは尚も少年を探そうとするが、聖杯の共鳴に引かれて考えを改め、御神渡りを再開する。
氷の道はやがて湖底を貫き、緑色の液体で覆われた地底を貫いていた。
ランドルフは、御神渡りによって穿たれたトンネルを通り、地下深くへと潜ってゆく……。
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