<リプレイ>

●探偵、調査へ旅立つ
「なるほど。コイツらが、今年のイベント企画で人気だったわけか」
 秘密裏に手渡されたメモを眺め、加賀屋・真樹(高校生真フリッカーダイヤ・bn0316)は呟いた。
 たった今、集計が終わったばかりの結社企画人気投票。その結果を知る者は、限られた集計者と協力者、そして、調査を依頼された真樹しかいない。
「じゃ、早速、この企画の人気の秘訣を探りに行くか」
 一度引き受けた依頼は、必ず完遂する。
 探偵としての矜持を胸に、真樹は一番最初の結社へ向かった。

●第3位〜パイ投げバトルロイヤル
「あそこか」
 廊下を歩く真樹の耳に届く喧騒。目的の教室は、かなりの盛り上がりを見せているようだ……と、真樹が記録用のボイスレコーダーにメモしていると。
「あっ、そんなの持ってると危険ですよ。ここでは、いつどこで誰に、パイをぶつけられても不思議じゃありませんから」
「え、そんなに凄いのか」
「それはもう。私、ここで皆さんが真っ白になっていくのを見守っていましたから、よく分かります」
 栢沼・さとる(コールテンペスト・b53827)の言葉に、「なるほど、さすが『パイ投げバトルロイヤル』の名前は伊達じゃないな」と妙に感心した口調で呟く真樹。
 そう、こここそ、仁義なきパイ投げバトルロイヤルが繰り広げられている会場なのだ!
「いらっしゃいませ。あなたも駆けつけ1パイ如何です?」
 とりあえず、電子機器類と帽子だけしまって教室へ入っていく真樹に、鬼灯・遙(彩雲のサーブルダンサー・b46409)からパイが手渡される。
「さあ、深く考えずに、ただパイを投げあいましょう♪」
「ぶべ!?」
 これがわたくし達の青春ですわ! と、綾川・紗耶(青き薔薇の輝きを具現せし者・b64932)が投げたパイは、見事に式銀・冬華(紅き片翼の絆・b43308)へとクリーンヒット!
「くっ、かくなる上は反撃あるのみ。殺るか殺られるか、ここではそれが全てさ……ぶべ!?」
「なるほど、こうやりゃいいのか」
 そんな冬華へ、物は試しと真樹が投げたパイが炸裂! そう、戦いはノンストップなのだ!
「さすがに勢いがすごいですね!」
 すかさずウルリケ・シュヴァルツ(蝙蝠円舞曲・b69278)の投げたパイが、真樹の頭を直撃したのも無理からぬこと。絡みついたクリームを手で落とし、指先についたクリームは舐めて飲みこむ。
「お、美味い」
 パイ生地にクリームを乗せただけのシンプルなパイは、味もきっちり作りこまれているらしい。
「クリームまみれだなんて、普通は勘弁って感じだろうが……」
「とっても楽しいのです!」
 そう生き生きとパイを投げ、ぶつけられ、逃げ回る小林・ゆき(真妖狐・b26053)達の姿を見ていると、パイ投げの奥深さを思い知らされる。
「なるほどな。こうやってハメを外して全力で楽しめるからこその、人気企画か」
 真樹は、そう調査結果を結論付けると、「皆、ちょっと聞いてくれ!」と呼びかける。
「おめでとう。この『パイ投げバトルロイヤル』が、イベント企画の人気投票で第3位を受賞したぜ!」
「本当に!?」
「嬉しいです……!」
「おめでとうございます……では!」
「今の気持ちをパイに込めて!」
 口々に言い合い、団員も、お客も、入り乱れて一斉にパイを投げ始める。あっという間に団長の遙がお祝儀のパイで真っ白に埋もれ、結果発表で目立った真樹も、すっかり全身パイまみれだ!
「いや……嘗てないカオスっぷりでした」
 存分に満喫したレアーナ・ローズベルグ(優しさをくれた貴女に・b44015)はしばらく笑うと、ふと冷静さを取り戻し「……でもこれ、落とすの大変そうですね」と遠い目をする。
「こればかりは仕方ないな。……さて、あたしはそろそろ、次の企画へ向かうとするか」
 真樹は、まだまだ盛り上がる会場を抜け出して、次の企画……へ向かう前に、まずパイを落としに向かった。

●第2位〜着ぐるミステリー2◆真犯人はこの中に!
「ん? 風鈴か……?」
 ちりりん、ちりりん。
 クリームを落とし、学校に置いてあったスペアに着替えた真樹は、次の企画を訪れていた。
「まさか犯人と勘違いされ、殺されてしまうとは……」
「あたしはマグロに襲われて……」
「お二人もですか。僕も押し潰されるようにして、志半ばで倒れ……」
 何やら物騒な会話を繰り広げているのは、ムゲン・ワールド(愛に生きる傲慢の断罪者・b80564)にセフィラ・マーゴット(割れない胡桃・b60878)、楸原・暁雲(高校生妖狐・b85350)といった面々だ。
 そしてテーブルに置かれているのは、何故かマグロ丼。
「わたくしは最後に、マグロ将軍との一騎打ちに勝利致しました」
 ローゼ・デュンケルリヒト(闇という名の黒き光・b62432)が語ると、たちまち「すごい」の合唱になる。
「あれは……?」
「ああ、うちの自信作を楽しんだ、お客さん方や」
 一体何の話題だろうかと首をかしげる真樹に、八幡・鋼鉄(心地よい住環境を貴方に・b80128)が解説する。
 そう、ここは推理型お化け屋敷企画、その名も『着ぐるミステリー2◆真犯人はこの中に!』。
 このテーブルでは、謎に挑んで夢破れた者、真相へ辿り着いた者達が感想を語り合っているのだ。
「着ぐるみ探偵で遊んだあとは、海の仲間カフェでおなかいっぱいおいしいものを食べる! ひとつで二度おいしい、素敵な企画なんだよ。どう、遊んでいかない?」
「へえ、なるほどな。じゃあ、ひとつ挑戦してみるか」
 鈴木・ミー(中学生ファイアキャット・b29516)に勧められ、入口をくぐる真樹……。

「お、どうやった?」
「ああ、なかなかの謎だった。一通り楽しませて貰ったぜ」
 出てきた真樹はニヤリと笑うと席に着いた。注文を聞かれた真樹はメニューを眺めると、夏らしく冷たくておいしそうな、塩レモンジュースを頼む。
「くーっ、すごかったです! 3ルートとも全部凝ってましたし」
「確かに。3つも着ぐるみを着替えて、あちこち移動する羽目になったもんなぁ」
 目をキラキラさせている藤曲・由希(中学生書道使い・b83380)の感想に真樹は頷く。だが、だからこそ、そこがこの企画が人気を集めた要因なのだろう。
 それぞれの事件に対して、まさに本物の探偵のように調査し、推理する。そこがこの企画の肝に違いない。
「気に入って貰えてよかったぜ♪」
 にんまり笑って見せたのは、団長の文月・裕也(太陽と月の着ぐるみ探偵・b33412)だ。もちろん、この企画の立役者でもある。
「おっと、肝心な事を言い忘れてたな。おめでとう! ここの着ぐるミステリーが、イベント企画人気投票、第2位を獲得したぜ?」
「俺達の企画が? 本当に?」
「よかったなぁ、団長!」
 目を丸くする裕也に、鋼鉄をはじめとする団員達が声をかけ、そして居合わせた参加者が惜しみない祝福を贈る。
 受賞を喜ぶ彼らの元を、そっと離れながら真樹は手帳を取り出す。
「多岐に渡る情報収集、謎解きの充実感が人気の秘訣……っと」
 そう書き記した手帳をぱたんと閉じ、真樹は再び歩き出した。

●審査員特別賞〜お化けサミット 2012
「ん? なんだ? 随分と人だかりがあるな」
 いよいよ第1位の企画を調査しようと向かっていた真樹だったが、ふと何やら大勢の人が集まっているのに気付くと、何気なく興味を持って足を止めた。
「さあ来いお化けども、私が相手だ!」
「よし、がんばってくるのじゃ! 応援しておくぞ!」
 意気揚々と飛び込んでいく琴之音・琴子(とこしえの旋律・b05004)に、シルビア・ブギ(カオスの素・b45276)が声を掛ける。他にも次々と誰かがやってきては、何やら意気込みを残して、暗い室内に消えていく。
「なあ、ここは一体なんなんだ?」
「お化けサミット……要は、お化け屋敷のようなものですね。今年も凝った作りなんですよ」
 怪訝そうに情報収集を試みる真樹に、教えてくれたのは茅薙・優衣(宵闇の蜘蛛姫・b52016)だ。
「なるほど、毎年企画を立てていて人気なのか」
「うん。今年も一杯驚かせてくれたよ……!」
 ああ凄かった、と青ざめているのは、出て来たばかりらしい西野・御子(中学生真処刑人・b16555)。そんなに凄いのか、と驚かされる真樹だったが……。
「色々凝ってて面白かったし、楽しい時間は過ごせたぞ? ……怖くなかっただけで。特にブギの担当場所が」
「にゃにー!?」
 五十鈴・尚人(神誓継承者・b17668)のコメントはシルビアにも届いたらしく、入口の方から抗議の声が飛んでくる。かと思えば、
「……夏休みの補習が、マジ現実すぎて直視できなかった」
「いやあ、洒落にならない恐ろしさでした。ええ、ほんと洒落になりません」
 地片・李奈(血がたりない・b80215)とサヤコ・ジェリニスカ(暁光のマズルカ・b52521)の頷き合っている内容が独特すぎる。
「補習? それがお化けと何の関係が……?」
 中ではどんな『お化けサミット』が繰り広げられているというのか。真樹にはさっぱりわからない。
「むふーん! 百聞は一見にしかず。ならば入ってくるといいのじゃー!」
 ずずいっと勧めるシルビアに、だったら、まあ……と、軽い気持ちで入っていく真樹だったが……。

「くっ、どうなっていやがる、ここは……!」
 出口へ辿り着いた時、真樹はその凄さを思い知っていた。
 今なら、皆が言い合っていた感想の意味がわかる。
 なるほど、ここは確かに、可愛かったり楽しかったり驚かされたり補習が怖かったりシャレにならなかったりギャップが酷かったりコワかったり、凄い場所だ……!
「と……とても堪能させて頂きましたありがとうございます……」
 ちょっと前に入っていった琴子など、ガタガタ震えている始末だ。そんな客人達を見て、シルビアは得意げに胸を張っている。
「そういや、審査員特別賞を決めてくれって言われてたな……よし、『お化けサミット 2012』、ここが今年のイベント企画、審査員特別賞だ!」
「にゃ、にゃんとっ!? 妾達のお化け屋敷が!?」
 言い放つ真樹に、シルビアが目を見開き、次の瞬間大喜びで辺りを駆け回る。
「ああ、凄い企画だったからな。それに、これだけ大勢の客に愛されてる企画だ、受賞の資格も充分だろ」
 それを聞き、たくさんの祝福の声と拍手を贈るのは、この企画に来ていた大勢のお客だ。それを受けて、喜びの声をあげるシルビアを見届けると、真樹は踵を返した。

●第1位〜ゴーストタウン 相澤(そうたく)さん神社
「ここは……廃墟か? いや……」
 真樹がやって来た教室は寂れ、荒れ果てていた。入口に落ちていた絵馬を拾い上げ、歩いていくと、奉納所が用意されている。
「ここで絵馬を書けってことか……?」
 設けられていた台とペンを使い、書き込んだ絵馬を奉納する真樹。すると……。
「いらっしゃいませ、ようこそ相澤さん神社へ」
 どこからともなく相澤・悟(なんてん・b03663)の声が聞こえ、真樹は本堂へと招かれる。いつの間にか足元に落ちていた紙を拾い上げれば、この場所――『ゴーストタウン相澤神社』について書かれていた。
「なるほど。一般生徒には凝ったお化け屋敷喫茶に見え、能力者はニヤリとさせられる仕掛けってことか」
 凝った設定に真樹が感心していると、瀬尾・律香(六ツ花旋舞・b40484)がやってくる。その出で立ちは、額にお札、そして足には地縛霊を示す鎖がついている。
「いらっしゃいませ、神様」
「神様?」
 呼び方に驚いていると、ここはもともと、お客様を『神様』と呼んでもてなしていた神社が、ゴーストタウン化し、ゴースト達が新たな神様を探し求めて跋扈しているのだ……と設定を解説してくれる。
「なるほどなぁ。で、あたしらはこのゴーストタウンを攻略する、と」
「そうですそうです。今年は、西の壁でおみくじを引く人が多いかなー?」
 腰に巻いた鎖を鳴らしながら、桃野・香(夜焔鬼・b28980)がここまでの状況を元に簡単なガイドをしてくれる。ふと周囲を見てみれば……。
「あらやだ、大当たりじゃない♪」
 おみくじを引いたイェルヴァ・アーテルフト(血染めの黒風・b46877)の元へ、結果にちなんだ、リンゴベリージャムの特盛りカキ氷が運ばれてくる。ちなみに、おみくじの結果は【特盛り】。どうやら吉や凶だけでは無いらしい。
「このカキ氷、美味しいです!」
 レモンづくしのカキ氷に舌鼓を打っているのは白藤・暁里(銀紫の東雲・b81365)。少し体が冷えたところへ、ぱたぱたじゃらじゃら音を立てつつ、瀬尾・アヤメ(だんまりの花・b76589)が程良い温度のお茶を運んでくる。
「頭がキーンとしたら、こんな風にここを押すと、いいんですよ」
 おみくじを引き、カキ氷を食べている客が多いからか、アヤメは辛そうにしている人を見かけるたび、そうアドバイスして回る。お客はかなりの入りで、店員たちも忙しそうだ。
「なかなかハードワークみたいだな。大変じゃないか?」
「いえ、沢山の人が訪れてくれて、こんなに笑顔が見れるんですから、そんなの吹き飛んじゃいますよ」
 そう言って、嬉しそうに笑うのは総六・逸(葉片風・b02316)。その気持ちが、更に皆を楽しませてくれるのかもしれない。
「なるほどな。……じゃ、ここでひとつ、皆に大スクープだ!」
 真樹は立ち上がると、中にいた皆を見回す。
「この『ゴーストタウン相澤神社』が、今年のイベント企画、第1位の栄冠に輝いた。あんた達が、今年のイベント企画コースの頂点だ!」
「わあ、おめでとうございます!」
 吉報に団員達が喜べば、鈴鹿・小春(万彩の剣・b62229)ら、居合わせたお客が笑顔で祝福する。
「同じ事やっても面白ないさかい、捻ってみたんや。その甲斐あったな」
 去年約束したからと、また今年も企画を練ってみた悟は、思いがけない吉報に驚きを隠せない。
 そんな彼の言葉も、みるみる団員達の喜びの声に、かき消されていった。
「おめでとう。……さて、あたしはそろそろ……ん?」
 外へ出ようとして、ふと出口が見当たらない事に気付く。これはどうしたものか、と真樹が戸惑っていると。
「あ、それはですねー。『詠唱兵器』をしっかり確認してみるといいですよ」
 そっと教えてくれた小春の手には、何やら鍵が握られている。どうやら、このゴーストタウンは、出るのも一筋縄ではいかないらしい。
「なるほどな。最後まで凝ってやがる」
 緻密な設定と独特の雰囲気、そして出てくるメニューの美味しさ。それらが絡み合っての勝利なのだろう。
 そうして、出口への道を見つけ出した真樹は、ボイスレコーダーに雑感を吹き込んで、それをくるりと胸ポケットに戻しながら教室を出る。
「――調査完了」
 さあ、依頼人のところへ戻るとするか……まだまだ活気に溢れ、大勢の人で賑わう学園祭へと、真樹の背は消えていった。