<リプレイ>

●おてつだい
「……って感じでやればいいんだけど」
「ん。わかった。行ってくる、ね」
 集計結果が書き出された紙とマイク、携帯用の録音装置を持ったローラは、インタビューの仕方を教わると、てくてく歩き出した。
 これから、『グルメストリート』の上位になった結社へ、インタビューに行くのだ。
「計算、するのに意外、と、時間、かかった……から、早くいかないと……」
 森で暮らしていただけあって、ローラの動きはしなやかで素早い。混雑する校内でも、人と人の間をするする抜けて移動していく。
 ただ……。
「え、っと……どっち……?」
 まだ銀誓館学園の校内をいまいち理解していないため、こうしてときどき道に迷ってしまう事だけが欠点だった。

●第3位〜たまごかけご飯やさんクラシック
「……着いた」
 校舎のてっぺんを撫でるように、吹いていく風が気持ちいい。
 ローラは今、屋上にいた。前にも一度訪れているから、途中で見覚えのある廊下に出た後は、まっすぐ来る事が出来た。
 訪れる先は、屋上倶楽部による結社企画『たまごかけご飯やさんクラシック』だ。ここでは、生卵にお醤油をかけて混ぜ、ほかほかのご飯に乗せて食べる、日本人なら大抵は一度くらい食べた事があるだろうという、あのメニューを扱っている。
「ローラじゃないか。また食べていくか?」
「うん。今度は【孤高】にする」
 ここの特徴は、メニュー表から中身が秘密になっているトッピングを選んで注文することだ。団長の吾妻・奈緒(デスペラード・b02168)が用意してくれている間に、ローラは周囲の人へ近付く。
「それ、は?」
「ボクは【硝子】で七味です。ピリっと効いてて美味しいですよ」
 ティアリス・ベルンシュタイン(月虹トロイメライ・b06127)は、たまごかけご飯を食べるのは初めてなので新鮮です、と笑う。
「奇遇だな、俺も初めてだ」
 だが、奥深い料理だと頷くのは氷采・亮弥(青藍ヴィエチニー・b16836)。彼のトッピングは【達人】こと明太子である。
「あら、皆さんそうなんですね。ここはたまごかけご飯もそうですが、何が出てくるのか分からない、このトッピングのわくわく感がいいんですよ〜」
 【宵闇】、刻み海苔が散らされたたまごかけご飯を食べていた、栢沼・さとる(星を継ぐもの・b53827)が目を輝かせて箸を進める。
 彼女に言わせれば、卵とごはん、それぞれの美味しさに加えて絶妙な醤油加減がたまらなく、ひたすらに美味な逸品なのだという。その解説に、たまごかけご飯ビギナー3人組はなるほど、と頷く。
「お待たせ。【孤高】は……粉砂糖だ」
 奈緒が複雑な表情をしているのは、ローラがまたもやハズレを引き当てたからなのだが、そうと知らずにローラは茶碗を持つ。
「甘く、て、面白い、味」
 森暮らしの長かったローラにとっては、ちょっとした珍味っぽい扱いらしい。
「ローラ、ほんとはお祝いに来た。ここの企画、グルメストリートの人気投票、で、3位、になった……よ。おめで、とう」
「え?」
 最初は目を丸くするだけだった奈緒だが、ローラが拍手をし、皆の間からもお祝いと拍手が上がるうち、ようやく実感が沸いてきたらしい。
「今日のために集まってくれただけでなく、こんな結果まで……こうなったら来年も皆勤賞目指すぜ! また20種類のトラップを用意して、冒険野郎を待ってるな!」
「ん、楽しみ」
 おおー、と高らかな声が屋上に響く中、ローラはまたね、と、次の企画へ向かった。

●第2位〜海の家喫茶・王港
「海、の……家……?」
 首を傾げつつローラが入っていったのは、Kingsportが主催する『海の家喫茶・王港』だ。
「いらっしゃいませー」
「え」
 店員達が出迎える声に、ローラが目を丸くしたのには、ちゃんと理由がある。
 何故なら店員達は皆、水着姿だったからだ。
「その格好……?」
「あ、ここは海の家風喫茶だから、海の家みたいに水着姿なんです」
 七奈・七海(雲煙模糊・b74904)は水着コンテスト会場でも披露している姿で接客を行っていた。パラソルを閉じつつご案内しますね、と丁寧に接してくれる七海だったが、
「あ、その前に。ここの、企画……海の家喫茶・王港、が、グルメストリートの人気投票で、2位、になった、から、お祝いとインタビュー、しにきた。おめでとう」
「えっ、本当か!?」
「これは……驚きましたね……」
 驚いた先旗・禊(鬼炎万丈・b59818)やアシュレイ・シーケンス(エバーホワイト・b63857)が寄ってくると、騒ぎに気付いた団長の藤堂・名虎(虎狼穿牙・b49678)も駆け出してきて、「よっしゃあーっ!」とガッツポーズしている。
「やったな。扇風機しか無い中、色々頑張った甲斐があったぜ!」
「……たかられたりもしたけど……嬉しいものだな」
 素直に喜ぶ名虎の隣で、禊はちょっと遠い目をして過ぎた出来事を脳裏に浮かべたりもしたが、ともあれ喜ばしい事だと笑みを浮かべる。
「おめでとうございますー」
 そんな禊に奢ってもらった焼きモロコシを食べつつ、結城・結衣菜(月影の従属種少女・b54577)は喜びに沸く店の皆を祝福する。いいお店だ、と思いながらのんびりしていた場所が、受賞するのはお客の身からも嬉しいものだ。
「ここのお勧めは、どのメニュー? できれば、海の家、っぽいの、で」
「あ、はい。焼きそばやイカ焼き、焼きモロコシあたりがそれっぽいと思いますよ。冷たいものならかき氷もお勧めです」
 アシュレイのアドバイスをメモしつつ、じゃあそれ、と頼んでみたローラは、今まで見た事も無かったイカ焼きに目を丸くして、こういうのもあるんだ、と興味深そうに食べていく。
「……おいしい」
「そりゃあ良かった」
 名虎はニカッと笑うと、ゆっくりしていってくれなと言い残して別のお客の接客へ向かう。店内は盛況で、あちらこちたで歓声や、あるいは悲鳴があがって盛り上がっている。
「……いいお店」
 うん、と頷いて、ローラはインタビュー道具を片付けると、次のお店へ向かった。

●審査員特別賞〜相澤さん神社
「神、社?」
 栄えある1位に輝いた企画へ向かう途中、ローラはふと、見慣れない単語に足を止めた。
 どんな場所だろう……と、覗き込もうとした時。
「いらっしゃいませー。ようこそ相澤さん神社へ!」
 ローラに気付いて出迎えてくれたのは桃野・香(夜焔香・b28980)だ。巫女さんの格好をした香は、戸惑っているローラに説明を続ける。
「えっと、うちに来る際何人か鹿の角や尻尾つけてたでしょ? あれはうちのお客様! お客様は神様のお使いである鹿の格好を、従業員は巫女や神主の格好しているの」
「そういえば……」
 確かに、教室には鹿のパーツをつけた人がチラホラ。そういえば廊下でもあれをつけている人を見た、ような気がする。
「ではお客様もこちらをどうぞ」
 パーツをつけながら席に着き、相澤・悟(生涯一ゾンビハンター・b03663)からメニューを受け取る。だが、日本に疎いローラには、いまいち何が何やら分からない。
「んー、クイズ付スペシャルメニューや、じゃんけん三笠サンドが人気やな」
 店員の中に紛れている神様を推理するのがクイズ付スペシャルメニュー。
 じゃんけん三笠サンドは三笠焼き、いわゆるどら焼きの中に挟む具を勝者と敗者の2種類分選び、店員とじゃんけんした結果に応じてそれを食べるというメニューだ。
「店員から見てもオススメですよー♪ あ、じゃんけんの塩辛アイスとキムチアイスは本気でやばいので、ご注文の際は注意して下さいませ」
 後半はこそっと耳打ちする鈴鹿・小春(獣の術士・b62229)に頷いて。
「三笠サンド……勝者カスタード、敗者塩辛アイス、で……」
「って言ったのに!?」
 挑戦しちゃうんだね……と小春はちょっとハラハラした顔で見ている。
「ほな行きまっせ。鹿ジャン〜ぽん!」
 ぐー。
 ぱー。
「……はい、ローラさん、塩辛アイス」
 しっかり握り締めた拳を見つめるローラの前に、何やら磯っぽい香りの一品が運ばれてくる。それを、ぱくりと口に運んで。
「う。………………すごい」
 さすがのローラも、これはたまらなかったようだ。眉を寄せて、なんとか飲み込む。
「あの、お飲み物に麦茶をどうぞ……」
 瀬尾・律香(六ツ花旋舞・b40484)から受け取った器を瞬く間に空にし、さらに口直しにバニラ・いちご・チョコアイスを挟んだメニュー『鹿の三重奏』を食べきって、ようやくローラは一息つく。
「おいしかった、これ、ありがとう」
「いえ」
 塩辛アイスの影響かもしれないが、出してもらったメニューはほっとするものばかりで、お礼を伝えるローラに律香も嬉しそうに応じる。
「食べるだけ、じゃなくて……見た目も、こういうの付けたり、して、面白い……ん」
 ローラは一つ頷いて、あのね、と店員達に話しかける。
「決めた。グルメストリートの特別賞、ここにする」
「えっ? ええの?」
「うん。来年……も、楽しみに、してる」
 頷いたローラは、そういえばインタビューの途中だった事を思い出し、そろそろ行くねと立ち上がる。
「ご来臨ありがとうございました!」
 最後にお約束のお見送りを律香から受けつつ、ローラは今度こそ1位の結社へ向かった。

●優勝〜デカ盛り喫茶sole〜2011〜
 廊下を歩くうち、ひときわ賑わっている区画に出る。そここそがローラの目指していた場所でもあった。ガラッとドアを開けて教室に入ると……。
「『カルボナーラ10倍』『鶏肉とベーコンのクリームソース5倍』『森のきのこのクリームソース5倍』『巨大肉まん10倍』『しめじとベーコンのぺペロンチーノ5倍』『シューマウンテン3倍』『ケーキタワー6段重ね』『オレンジジュース2倍』……ひとまずそれでお願いしま〜す!」
 ぱち、くり。
 早速ものすごい勢いで注文を繰り出しているのは桃瀬・陽斗(愛奏桃花・b00335)だ。それに平然と「かしこまりました」と茅薙・優衣(宵闇の蜘蛛姫・b52016)が答える。
「ここ、は……?」
「この宇宙最大のデカ盛りを狙う猛者達の集う、豪快な喫茶だ」
「ボケとツッコミの絶えない賑やか店内で、量だけでない本格的な料理を楽しむ、他にはないあやし……いえいえ、ちっともあやしくないですよ?」
 実に真面目に語って聞かせる真和・茂理(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)の隣では、北条・糸吉(グスコーネリの伝記・b47495)がさりげなく咳払いしてあやしくないアピール。その間も店内では様々な注文が行き交い、次々と料理が運ばれていく。もちろん、みんなデカ盛り。
「どれもあやしくないから大丈夫よ。何にする?」
 この上なく『あやしくない』ことをアピールする磯神・紗夜夏(何か超凄い・b03565)だが、それが逆にあやしく見えるのは、きっと気のせいだろう。少なくともローラは気にしていない様子だ。
 森のきのこのクリームソースパスタを頼むと、周囲へのインタビューを敢行する。
「お薦めメニューは闇シューね。中身が何なのか分からないメニューなんだけど、美味だったのよ」
 神楽・美玖(未来の歌姫・b70540)は闇シューを堪能したようで、満足げな顔でそう語る。先に知っていればそれもよかったかも、と思うローラだが、彼女にとっては知らなかった事が、もしかしたらある意味幸運だったのかもしれない。
「二三はよくたべるからひょーしょーされたぞ。エヘン」
 胸を張る徒坂・二三(雛蜘蛛・b81149)は合計28倍の量を食べきって、先程メモリアルボードに名前が掲示された。おなかいっぱい食べられて、追加もいつでも出来るこの店が、二三は気に入ったようだ。
「ぎょぎょぎょぎょぎょぉーーーーーーーーーーーーーーんっっっ!!!」
「……狐焼きお待たせしましたー」
 突如響いた悲鳴にびくっとしていると、何事も無かったかのように文月・裕也(朔夜の着ぐるみ探偵・b33412)の注文した狐焼き10倍が運ばれてくる。これは一体どういうことなのだろうか。ただ、狐焼きはどれも可愛く、味の方もしっかり美味しかった。
「くっ……!」
 一方、完食したのに悔しがっている様子なのはタクロー・ジェリニスキ(真夜中のカウボーイ・b77151)。彼は姉、サヤコ・ジェリニスカ(暁光のマズルカ・b52521)とのフードファイトに惜しくも敗退した所だった。
「あんなに、食べたんだ……」
 とローラが見つめるのは運ばれてきた自分の皿だが、その量は優に、普通のパスタの2倍ある。その皿をあれだけ積み重ねれば……すごい。
 普通に美味しいのだがデカ盛りで、さすがのローラの胃袋も限界だ。
 一休みさせてもらって、改めてスタッフの方へ向かうと、ローラはマイクを出した。
「……ここの企画、が、今年のグルメストリート、の、チャンピオン……おめでとう」
 サヤコ達は顔を見合わせあうと、わっと歓声をあげた。デカ盛りメニューと向き合っていた来店客の面々も、その手をしばし休めて、彼らの快挙を祝福する。
 これまでも毎年、いつもグルメストリートの常連として好評を得ていた彼らは、今年グルメストリート優勝2連覇を果たしたのである!
「ありがとうございます。これも皆さんのお陰です。……しかし」
 団長サヤコは難しい顔をする。
「今年は百倍を越える料理を完食される方が複数人でるなど、新たな記録が打ち立てられました。闇シューなどのメニューを普通に完食する人が増えてきましたし、デカ盛り喫茶も新たな形に進化する必要があるかもしれません」
 来年、デカ盛り喫茶は新たな歴史の1ページを綴る事になるのかもしれない。

「……美味しかった、けど……お腹、いっぱい」
 インタビューを終えたローラは、マイクなどを届けた後、休憩所でのんびりと足と胃袋を休めていた。
 この2日間の学園祭で、ローラはたくさんの結社企画を巡り、いろいろな人から、いろいろな事を教わりながら、とても楽しい時間を過ごした。
「森にいた頃……こんな風に過ごす日、来るなんて、思わなかったけど……」
 みんなみんな、優しくて。楽しくて。いっぱいローラのために言葉をかけてくれて。
 これから、もっと楽しい事を一緒にしましょう、と言ってくれて。
「……ローラ、しあわせ、もの」