〜とある街角にて〜

 街角を行く、一人の青年。
 黒いアタッシュケースを懐に抱えた彼は、空を見上げて呟く。

「まさか、この高度に文明化された日本が、我等が安住の地になるとはな」
 詠唱銀の豊かな力を感じて、彼はうっすらと笑みを浮かべた。
「この地に、我らが『城』を。さすれば確かに、我等は昔日の栄華を取り戻す事だろう……」

 だが、彼の笑みは一瞬でかき消される事となる。

「あの……女は……!」
 それは、彼の視線の先にいる、一人の女に気付いたからである。
 長身で精悍な女の姿。銀色にたなびく長髪は……まるで狼の如く……。

 次の瞬間、男は弾かれたように走り出す。
「(今は戦うべき時ではない。これを、奴等の手に渡すわけには……!)」