〜兵庫県・山岳地帯〜

「エルザ、奴等は吸血鬼の協力者と目されている。情けなど不要と思うが」
 出立の準備をする銀髪の女に、ひとりの騎士が声を掛ける。

 エルザと呼ばれた銀髪の女は、静かに首を横に振り、決然と言い放つ。
「そうではない、パトリック。ひとたび戦場で出逢えば、私の銃口に躊躇は無い。だが、彼らはこの日本を本拠とする能力者組織であり、その本心はまだ分からぬ。ならば、警告を与え、彼らに選択させねば、騎士道に反する行いとなるだろう」

 パトリックは、実際にその組織とも遭遇している彼女の言葉に賛意を覚えながらも、同時に、心の奥底に違和感を覚える。
 彼女の提唱する正しき騎士道を、何故か疎ましく思う心。それは、鉄鎖ドローミによって邪魔者共を一掃せんと高揚する、己の闘争本能が為なのだろうか……。

 思索を打ち切り、パトリックはエルザに言葉を掛ける。
「だが、彼らがもし本当に吸血鬼の協力者だったならば、お前の命は無いのだぞ」
 エルザは薄い微笑を返し答える。
「むざむざ殺されるつもりは無い。それに私が死ねば、お前か、誰かが、仇を討ってくれるだろう?」

 そしてエルザは一人、移動を開始した。
 目的地は鎌倉……銀誓館学園。