〜コルシカ島 旧遺跡街道〜

 常人が立ち入る事の無い、忘れられた旧遺跡街道。
 しかし今、もし偶然の旅人がここを訪れたとしても、彼はすぐに踵を返したことだろう。
 そこには、数百人に及ぶ、少年少女と思われる背格好の者達が集結していた。
 しかもそれぞれが奇妙な装束を身に纏い、体に不釣合いな、巨大な鎌を携えている。
 そして何より、彼らひとりひとりの纏う、濃密な「死」の気配……。
 彼らが明らかに「常識」では図れぬ存在であることを、示す気配であった。

 「みんな、本当に吸血鬼でもない人達と戦う気なの?」
 静寂の中、集団の一員である、ひとりの少年が口を開く。
 「シリウス、お前のような優れた処刑人が、職務を前に揺らいでどうする?」
 「でもネイラスビート、僕らの断罪は、あくまでも吸血鬼に向けられるべきもので……」
 集団のリーダー格と思しき青年に、シリウスと呼ばれた少年が食って掛かる。

 巻き起こる議論に周囲も加わろうとしたその時、2人の間に割って入る少女の姿があった。
 「ふたりとも、やめなさい。迷いの鼓動は死に繋がるわ」
 「でも、メルベ……君だって疑問に思わないのか?」
 「聞きなさいシリウス。私達は、吸血鬼という共通の敵を倒すために、人狼騎士と手を組んだ」
 「う……うん」
 「そして、考えてみて。人狼騎士の人達は、悪い人?」
 「……いや。時々何を考えてるか分からない時はあるけど、彼等は信に篤い、いい人達だよ」
 「なら、彼らを手伝ってあげましょう。彼らもまた、仲間なのだから」

 「納得したようだな。なら、準備を進めろ! 『敵』がいつ来るか、分からないんだからな!」
 ネイラスビートがそう号令を掛けると、彼ら……処刑人たちは散開し、森の中に姿を消した。己の役目を果たすために。