〜東シナ海洋上〜

 「ホホホホ、こちらも何隻か沈められてしまったのね。流石は『雷文明』を人類にもたらした者達、といったところかしら?」
 紅蓮の炎に染まる東シナ海を背景に、赤と黒の淑女オクタンスが哄笑する。
 サンダーバード達は海戦でこそ優位に立ったが、全てを覆すことはできなかった。

 艦艇数の差・戦力差はともかくとして。
 敵には「原初の吸血鬼」が存在する。個々人の戦闘能力に、圧倒的な開きがあったのだ。

 既に戦いは終結し、サンダーバードの空母「ユナイテッド・ステーツ」は中央から二つに裂け、洋上で無残な屍を晒していた。戦っていたサンダーバード達は、戦いの不利を悟ると、傷つく体を引き摺り、次々と海中に身を投じていった……。

 舳先で戦勝に沸く吸血鬼達を眺めるオクタンスの前に、サンダーバードの指揮官が運ばれてきた。
 指揮官であるスティーブ・ロードを見て、オクタンスが笑みを浮かべる。
 「良かったわね、お前。わたくし、『教育』には定評があってよ」
 加虐心を剥き出しにするオクタンスに、スティーブは意外なひとことを言い放った。

 「海を、渡れるのですね」
 「……それが、どうかして?」
 「いえ、どうという事はありませんよ。太陽を浴び、流れる水を渡るあなたは『まだ完全では無い』、つまりはそういう事か、と」

 「貴様……ッ!!!」
 怒りのあまり一瞬我を忘れたオクタンスを、スティーブは見逃さなかった。
 僅かな隙を突き、スティーブは舳先から海中へと身を投じる。海に没したスティーブの残した白い小さな波しぶきは、一瞬で、吸血鬼艦隊のかきたてる大波に消えてゆくのであった。