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〜遠野の隠れ里〜

「待ちなさい、この助平猫!!」
「にゃにゃにゃ〜ん、スズカはヘビだからしつこいにゃ」
「ヘビになったのは最近ですっ!」
 妻である鈴鹿御前と、突如押しかけてきた神魔バステトとの騒動を漫然と眺めていた悪路王は、不意に強大な、だが懐かしい気を感じ、里の入口へと向かった。

 里の入口には、フードで身を隠したひとりの女性が佇んでいた。
 彼女は、里の入口を守る巨鳥を静かに見上げ、微笑んでいる。
「『不滅の災い』とは懐かしい。しかし、何故あなたの元に?」
「バステトというエジプトの神魔が、生涯にただ一度使える奥義『チャーム・ゴッド』で配下としたのだ。……それにしても久しいな、金毛九尾よ」
「はい。再び『不滅の災い』の元で出会えるとは、私も嬉しゅうございます」
 そう言って、大陸を支配する妖狐の女王、金毛九尾は笑う。

「今日は、悪路王殿に頼みがあって来たのです」
 そう言って、金毛九尾は懐から萎びた腕のような物を取り出す。
「これは『鬼の手』と呼ばれるメガリスです。この腕は詠唱銀投入儀式によって伸び続け、やがては使用者の望む物、望む場所に到達するという能力を持っています」
「成程……。龍脈を得た我等がそのメガリスを使えば、確かに『奴』を補足出来るやもしれぬ」
「はい。聖杯の主ランドルフの目的は『神秘の根絶』。私達は銀誓館と条約を締結してはおりますが、やはり彼らの多くは人間。根絶が発動した後も、生存できる算段があるのやもしれません」
「それ故に、我と手を組むか」
「はい。私とあなたの最終的な目的は違いますが、絶対の危機に晒されている点では共通点があります。なればこそ、私達の利害は一致しており……」

「相変わらず、我のような格下に向かってもへりくだった話し方をするのだな、金毛九尾よ」
「……すみません、利益の無い事はしない主義なもので。もちろん、この提案をするのは、あなたが昔と違って随分強くなられたからです。私達は主力である封神台と神将達を失い、銀誓館との条約によって、「伯爵」や「私の尾」を使うことができません。戦力が必要なのです」
「良かろう。かつて共に『人魔共存』を掲げた義によって、汝等に協力しよう」