「もう――忘れなよ」
降りしきる雨の中で、ひたすら泣き狂う女の
地縛霊に、小林祐介は銃型の詠唱兵器を向けた。
浮気な恋人に待たされ、待ち人が来ずに死んだ女は、
待っていたその場所で通り掛かる男を殺し続けたのだと、
この依頼に赴く前に祐介は聞いていた。
「マ……サキ……。マ……」
滂沱の涙を流す地縛霊が、空ろな表情で繰り返す言葉が、
待っていた男の名前なのか違うのか、それはもう分からない。
地縛霊が、恋人を殺すためにこの場所に留まっているのか、
それともただ会いたくて待っているのか、ただ縛り付けられているのかも。
地縛霊の呟きが止まる。
祐介を見た女の白い顔に浮かぶ表情は、憎悪そのものだった。
絹を切り裂くような金切り声を上げ、歯をむき出しにし、
長く伸びた爪を振りかざして飛来する地縛霊。
「――……っ!」
止まる事の無い涙が筋を引く顔に、祐介は狙いを定めた。
そして引き金を引く。
地縛霊を――彼女を束縛する鎖を断ち切り、解放するために。
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