<インフィニティゲート探索 〜死せるドラゴンの道>


●前回までのお話
 インフィニティゲート探索 〜廻る盾の回廊 インフィニティゲート探索 〜廻る盾の回廊

●序章
 インフィニティゲートの探索が始まって既に幾日が経過しただろうか。
 1000人以上の冒険者が参加した2度の探索でも、この遺跡の謎を半分も解き明かす事はできていない。

 また、2度目の探索で蒼き氷の回廊を突破した冒険者たちは、その奥で扉の守護者であっただろう『体長20mを超える巨大な多足型ギア』を確認している。
 しかしその巨大ギアは巨大な爪によって引き裂かれたように完膚無きまでに破壊されていたのだ。

 この遺跡は誰が作ったのか?
 何の為に作ったのか?
 そして、誰が何の為に守護者を破壊したのか?

 これらの謎の答えを得るためには、更に深い階層へと探索の手を伸ばさねばならないだろう。
 更なる危険が待ち構えているだろう、深い地下遺跡へと……。

●死せるドラゴンの道
「みんな、お疲れ様っ! 報告は聞いたけど、すごく大変だったんだってね。怪我した人は無理しちゃダメだよ」
 蒼き氷の回廊を制覇し、帰還した冒険者達を、ストライダーの霊査士・ルラル(a90014)は、元気に出迎えた。
 その出迎えにほっと一安心する冒険者達。
 それは無事に帰還できた安堵だったのだろう。
 蒼き氷の回廊の仕掛けは、人数を頼りに力押しするのは難しく、探索者にも多くの犠牲者が出ていたのだから。

「ルラルも、すっごい滑り台で遊びたいけど……探索が終わったら一緒に遊びにいってくれるかな?」
 探索の苦労を知らずにそう言うルラルは、戻ってきた冒険者ににらまれてくびを竦めて、こう話を続けた。

「今わかるのは、みんなが確保してくれた扉から次の扉までの様子だよ。なんだかすっごいから、びっくりしながら確認してね」
 そう言ってルラルが説明した『次の扉までの様子』は以下のような物だった。

(1)次の階層への扉を開くのに障害は無い
(2)扉を開けた先は幅20mほどの下に降りる階段で、ゆるやかにカーブしながら1km程続いて
   いる
(3)階段や壁、天井などは『巨大な木の根』によって形作られている。木の根の表面には薄く光
   るコケのような物がついており周囲を照らしている(ランプなどが無くても充分に行動できま
   す)。
   巨大な木の根は、頑丈で燃える事もありません。遺跡の一部であり普通の植物では無い。
(4)壁と天井はドームのような曲線でできており、天井の高さは30m以上ある。
(5)階段の両脇には壊れたギアの欠片が散乱しているが、動ける状態のギアは一体も存在しな
   い。
(6)階段の下方には全長300m以上の巨大な大蛇の骨があり、滅茶苦茶に暴れたのだろうか、
   壁や階段が大きく破壊されている。
   骨の直径は20m程で、階段にそって長く体を伸ばしている。
(7)この巨大な骨は『ドラゴン』の死体であるらしく、体のあちこちから鋭い爪をもった腕が生えて
   いるという異形の姿をしている。
(8)この巨大な骨の頭部は、階段の先にある扉に到達しており、その頭部は『扉ごと貫いている
   銀の刃』によって串刺しにされており、それがドラゴンの死因のようだ。
   銀の刃は槍の穂先のようにみえるが、扉の向こう側がどのようになっているかは判らない。
(9)ドラゴンは確実に死亡しており動く事は無いが、骨に近づくと数百体以上の『フォビアもどき』
   が現れて攻撃を仕掛けてくる。
   フォビアもどきは、かつて戦った『フォビア』と似た姿と能力をもっているが、脚であった部分
   が『鋭い爪をもった腕』となっており攻撃能力が格段に上昇している。
(10)フォビアもどきは突然出現し奇襲攻撃を行うので注意が必要。フォビアもどきの奇襲の被害
   を減らす為には、少数精鋭で先行する必要が出てくる。

「うーん。今までの爪痕とかもこのドラゴンだったのかな? でも……ドラゴンを貫いている刃って、どんなものなんだろう」
 ルラルが小首をかしげて、そう聞いた。

 冒険者の知る中で最強の存在といえるドラゴンを一撃で屠る力を持つ刃。
 その刃を振るう者とは、どれだけの力を秘めているのだろうか?

 その答えを知る事が、何を引き起こすのだろうか。
 これ以上の探索を続けるべきか否か、それも含めて冒険者達の決断が迫られていた。

 

<リプレイ>

●深淵
 扉を開けてから、暫く。
 冒険者達は、幅二十メートルに及ぶ広い階段を縦列に進んでいた。
 そこかしこにこびり付いた薄く光るコケが、深い遺跡の中を淡く照らしている。
 壁と天井は、ドーム型の曲線を描いている。
 高さはゆうに三十メートルはあろうか。
 壁と天井と材質を同じくする木の根のようなモノ――遺跡の一部であるそれは、次の扉までのなだらかな階段を構成していた。
 階段の両脇には、圧倒的な力により叩き壊されたようなギアの欠片が散乱している。
 分かっていた事とは言え……いざ目の当たりにすれば話は異なる。
 一歩進む毎に強くなる緊張感は、誰にとっても等しい感覚だった。
 そして、それは、緩やかなカーヴを描くその通路を、どれ位下がった頃だったろうか。
「これ、ね……」
 舞い踊る銀月・スズノ(a01261) が、息を呑んだ音が響く。
 頑丈な木の根で構成された階段は、半ばから引き千切られるように崩れていた。
 代わりにその先には、階段とほぼ同じ幅を持つ骨が通路のように伸びていた。
 およそ常識からは考えられないサイズの巨大な生物の白骨が、その先の扉目掛けて頭を突き込んでいるのだ。
 辺り一面の壁は、階段は出鱈目に破壊されていた。
 破壊は生物――ドラゴンの断末魔によるモノだったのだろうが。
 次なる扉は、貫かれたドラゴンの頭部のすぐ前にあった。
 扉ごとドラゴンの頭の貫通している刃は、かの巨体を仕留めるだけの巨大さをもっていた。
「一体、どれ程の威力だったのだろうな……」
 戒めの紅・レヴァンテイン(a24400)が呟く。
 筆舌尽くし難い膂力を発揮する生物を絶命させたソレは……想像するに楽しくは無かった。
 今、このドラゴンに代わり遺跡を行く――彼等冒険者達にとってみれば。
 深淵の底で銀色を放つその刃は、次なる試練になるやも知れぬのだから。

●骨を往く
「必ず……生きて戻る!」
 駆け出した灼陽と赤月の双剣士・ラスク(a19350) の得物が変化した。
 先陣を切る誘導部隊達が――長大な骨の通路に雪崩れ込む。
「さぁ、来ましたよ……!」
 星見・シュート(a16227)の視界の中に、異形の肉塊が次々と現れだしていた。
 冒険者達の前に、十、二十、三十――幾つも、幾つも、幾つも。
 七つの多関節を持つ触手のような腕を蠢かせた「フォビア」達が現れる。
 かつてと同じく、いやそれ以上に禍々しい気配を放つそれは、際限なくドラゴンの骨から染み出してくるようだった。
「一気に行こう!」
 先行した部隊の中で、爻・クロノ(a16804)達――射手が最初の攻撃を放つ。
 次々と放たれた炸裂する矢は、再生能力を阻む逆棘の矢はフォビアの何体を幾らか怯ませた。
「ここはひとつ……根こそぎ誘き出してあげるとしましょうか!」
「ギリギリまで引き付けて――」
「殲滅は……お任せいたしますわ!」
 その隙に舞い踊る銀月・スズノ(a01261)、探索の旅人・ローカル(a07080)、涼音蒼銀月・エリアノーラ(a10124)を先頭にした誘導部隊が骨の通路へと取り付く。
 断続的な射手の乱射によって、態勢を乱した手前のフォビアには構わず、奥へ。
 立ち止まる事は、許されず、立ち止まっては意味が無い。
 それでも、幾らも進まない内に行く先々に次々と染み出て増える異形達を、
「どっけどけーなぁ〜ん!」
 景気良く吠えた神裂きし神咲きし・ミライ(a25976)の流水撃が切り払い、
「ちっ、数が多いな……」
 海燕・アズーロ(a35937)の大地斬が叩く。
「これでどうですか――!」
「纏めていくぞ!」
 再生者・イルファン(a32873)のデストロイブレードが炸裂し、漆黒の探求者・ガイヤ(a32280)の放った針の雨が肉塊に次々と突き刺さっていく。
 十、二十、三十――一体幾つの「フォビア」が居るのか。
 本隊に近い内は良かったが――骨の通路を奥深く進むにつれて、神出鬼没に現れる異形達に冒険者達は苦戦を強いられ始めていた。
「――気をつけよ!」
 『12星座』でチームを組んだ阿僧祇の闇を歩く者・カグラ(a00384) の鮫牙の矢が、チームの仲間、悠久の閻巫女・ヨシノ(a17983)を狙っていたフォビアの一体を貫く。
 狙いを失った多関節を持つ腕を振りたくり、フォビアは威力に大きく仰け反る。
「助かりました――」
 彼女は言って、間合いを取り周囲の仲間を癒すヒーリングウェーブを放つ。
「面白いじゃないの……っ! ええい、かかって来な!」
 蒼天の瞳・イオ(a21905)の肩を、伸びてきたフォビアの腕が切り裂く。
 至近距離に現れた二体のフォビアに強かに体を打ちつけられて、玄冥の傍観者・ルクレツィア(a18406)が傾ぐ。
 体力自慢の彼は、武器の静夜思を手に健闘を繰り広げていたが……
「……っ! 流石に……!」
 ……更に二体のフォビアが現れ彼を囲む。
 異形に張り付いた無数の目が、憎悪を込めて一直線に、逃げ場を失った彼を射抜く。
「――危ない!」
 声が響いたのは、殺される――彼がそう思った瞬間だった。
「そうは、させない……よ!」
 打ち付けられたしなる腕を手にした刀で受け止め、ルクレツィアを庇うようにしたのは、忘れ難き紅桜・リゼル(a16529)だった。
 振り返ったリゼルは、黒いカードをルクレツィアの逃げ道を塞いだフォビアへと放つ。
 そう、自らが敵に囲まれる事も厭わずに……
「退くんだ。早く――今のうちに……っ!」



 間合いを、三本の腕が切り裂く。
「――っ!」
 一体、何度攻撃を凌いだだろう。
 一体、何分間そうして戦っていただろう。
 傷だらけの存在証明・クラウド(a22222)は、大小幾つもの傷を負っていた。
 現れるフォビア達の注意を鮮烈な光で引き、無風の構えを以ってそれを迎撃する。
 森羅の息吹を使い、息を整え――
(「……一匹でも多く道連れに」)
 ――その拳をもって異形の体を叩きのめす。
「自殺行為? あぁ、それが望みだよ……」
 ざむっ……
 血の味が、口の中一杯に満ちた。
「生きて行く覚悟なんて――……俺には無理だ」



「……後ろは……?」
 骨の通路を駆け抜け、後ろを振り返った輝鋼翔締・キリル(a27232)の視界に、本格的な交戦を開始している冒険者達の姿が映った。
「ここからが、本番だね」
 すぐ近くに湧き出したフォビアへと向けて――赤黒の狂戦士・マサト(a28804)は、爆発的な膂力を纏って骨の床を蹴る。

●竜道血戦
 誘導部隊に続いた本隊は、本格的な戦闘を繰り広げていた。
 直接的に殲滅に当たる部隊だけに、彼等は誘導部隊に比べて多くの戦力を纏めていた。
 『Kuken』部隊の――
「私達には帰るべき場所も、帰りを待つ者もいる」
 双面の道化師・ヒースクリフ(a34207)の声が響く。

 ――――♪

 天狼の黒魔女・サクヤ(a02328)のファナティックソングに惑ったフォビア達に、月紅の白魔女・コユキ(a10367)と元気爆発ねこしっぽ・クララ(a34109)の攻撃が加わる。

「足元に注意を! 回復はこまめにいくなぁ〜ん!」
 黒衣の天使・ナナ(a19038)に率いられた『紅十字』部隊も又、激戦を続けていた。
「こいつでどうだ!?」
「行きますよ……!」
 燃龍ブ・ルース(a30534)の斬鉄蹴が閃き、翠の賢帝・クリスティン(a26061)の、知識を渇望する者・エコーズ(a18675)のエンブレムシャワーが降り注ぐ。
「皆様のお力になれるよう、頑張ります!」
 『狐』、
「一匹一匹確実に倒す! それが勝利への道じゃ!」
 『紅月』、
「下がれよ! 速く!」
 『躯』――厚い戦力によって構成された冒険者達の小隊集団は、再生して粘るフォビアを少しずつ駆逐しながら前に進み始めていた。
「良し、この調子ならば……」
 蜘蛛糸を放ち、足止めをかけながら霞刃繰る皓き指・ユグナシエル(a00162)が呟く。
 冒険者達は、見事に統制の取れた動きでフォビア達を攻撃している。
 とは言え――決して容易い相手では無いのだが。
 誘導部隊の果敢な挑戦により、奇襲の危険性を減じた本隊は押し気味に戦闘を進めていた。
「存分に暴れさせてもらうよっ!」
「前へ……止まるわけにはいきません!」
「うらー! そこをどけい!」
 即席のチームを組んだ緋の残照・リシェール(a00788)、命の紋章・エルフォン(a01352)、西瓜魔人・スイカモズー(a02064)が連携攻撃で一匹をフォビアを屠る。
「昔フォビアには痛い目に合わされてるからな……」
 敵を決して侮らず――しかし、借りを返すとばかりに、桜月玲瓏冴雲水・ウイング(a01562)の無音の一撃が突き刺さった。
 その異形に、何かを踏みにじられた冒険者は少なくは無い。
「……あの時より始まった連鎖……断ち切らせて頂きます……!」
 唇を噛んだ導きの暝き翼・エレハイム(a03697)から、強い決意が漏れ出す。
「行ってこい、味方同士で殺しあえ」
「フォビアもどきのお通りだ〜♪」
 天捷星・シンキ(a03641)、守護星の蒼・ティモシー(a01999)のデモニックフレイムによって作られたクローンがフォビア達との交戦を始める。
 この作戦は、実に当たった。
 更に冒険者達にとっては好都合な事に、予め同じ作戦に思い当たった冒険者達は少なくは無く、数に若干の優位を得た冒険者達は徐々に勢いを増そうとしていた。
「このまま――一気に……!」
 黒炎を纏った閃光の・クスィ(a12800)が目の前のフォビア達に纏めて針の雨を降らせる。
「行きますなぁん!」
 ヒトノソリンの邪竜導士・ブランシェット(a32419)の暗黒縛鎖が、フォビア達を縛り上げ、
「先の戦いで逝ったブレードしゃんの仇を討つのっ !」
 『まるごび』隊の数人を共に、常時自動誤字スキルは集う・ラキア(a12872)が動きを失った彼等を仕留める。
 だが、敵も強大。
 戦況は、全体としては優位に推移していたが――
「一人で先走るなっ! 集団で戦うのは生き残る為の鉄則だっ!」
「……っち! 面倒な敵だな……」
 攻撃を受けた守護紅華・クラウス(a14517)がよろける。
「おめぇら……うぜぇぇぇ!」
 夜風を纏う流星・ヨゥミ(a15145)が、
「下がる訳には……!」
 『月の系譜』部隊と共に前線を維持していた聖約の騎士・アラストール(a26295) が傷を受けて押し戻される。
 ――それは、同時に苛烈な消耗戦でもあった。
 冒険者達の優位は、竜道の上、そこかしこで起きる苛烈な血戦の上で成立しているのだ。
「どんどんやっつけるのだ☆ 」
 七色の尾を引くほうき星・パティ(a09068)の号令を受け、『七色彗星隊』部隊がまた新たな敵へと向かう。
「ウラウラウラウラウラウラウルァ!」
 その動きに瞬輝星華・リュウセイ(a14874)が――『木漏れ日』部隊が連動し、一気呵成に攻めかかっていく。
「せめて……手の届くところにいる人を死なせはしない!」
 激戦に傷付いた冒険者達を、傷を命と希望は未来に捧ぐ・ローリィ(a29503)の癒しの力が回復した。
 彼女の参加している『黎明』部隊が援軍に加わったのだ。
 二隊の攻撃によって出来た空隙に、付近のフォビアを殲滅した冒険者達の主力部隊が雪崩れ込む。
「支え切りましょう!」
 エルフの医術士・アレナ(a31266)の支援を受け、数を減らし始めたフォビアの中を、『煉戦』のメンバーが駆ける。
「邪魔なぁ〜ん!」
 どむっ!
 隠し腕・ジオ(a25821)のデストロイブレードが爆裂し、深淵の炎術士・シズ(a27395)が放った術がフォビアの体を黒炎に巻く。
「こんなところで立ち止まってる場合じゃないんだよ!」
 天華乱墜・シア(a25737)の言葉と共に大部隊を編成した『朧月』の冒険者達が、前に出る。
 総勢、実に十八名を擁する攻撃隊中最大の部隊は――局地戦の優位を決定的にした。
「どどーん! ばばーん!」
「どんな障害も、冒険者の探究心を止めることは出来ないわ、なぁ〜ん!」
「目指す先には希望があるから〜っ♪ 頑張りましょう〜っ♪」
 戦いは続く。
 銀河を蝕む絶望の歌声・ジーナス(a28981)の歌声通り、先にある希望を信じて。

●Dead or Alive
 誘導部隊と本隊の活躍により、フォビア達は少しずつその数を減じていたが。
 その陰では、多くの冒険者達が傷付き、生きるか死ぬかの瀬戸際に居た。
「翔剣士の俺まで回復役に必要とは……酷いものだな」
 砂漠の民〜風砂の戦士・デューン(a34979)が呟く。
 成る程、竜道は、怪我人で溢れかえっていた。
「辿り着く為に――護らせて下さいね」
 水月・ルシール(a00620)のヒーリングウェーブが、下がってきた冒険者達を癒す。
「大丈夫ですか?」
 観察者・ヒリヨ(a02084)の蜘蛛糸が、撤退する冒険者を追うフォビアの一体を足止めする。
 彩雲追月・ユーセシル(a38825)の静謐な祈りが響き、
「こっちだよぅ。ボクが引きつけておくから早く後ろへ!」
「思い出せ! 死ねない理由のひとつやふたつ、あるだろ!?」
 硝子の風花・クローネ(a27721)が作った隙を生かし、荒野を渡る口笛・キース(a37794)が血路を開いて重傷者を救い出す。
 そう、それは一人でも多くの命を救い――犠牲を減じる事。
 敵の殲滅戦と平行して、竜道の上ではもう一つの戦いが繰り広げられていたのだ。
 後方に位置した彼等をも、神出鬼没に現れるフォビア達は強襲する。
「足止め、お願いしますよ」
「皆さんのところには近付かせませんの!」
 これを迎撃したのは、『東風』部隊だった。
 予め強襲を見越し、後方支援部隊の中に編成された彼等は散発的に現れるフォビア達を次々と撃破していく。
「私はこれより静謐の祈りを発動する。手の空いた者は効果範囲内に状態異常者を」
 指揮を取るドリアッドのキリ番ハンター・フィリス(a22078)の言葉に、応え隊員達が動き出す。
『――右翼が少し手薄みたい!』
 花柩・セラト(a37358)の声の矢文が、前線に後衛から見た状況を告げる。
「こんな美女が応援してるんだからね? がんばってよね?」
 ノソリンに咲くランプランサス・ルシア(a35455)達、チアリーダー隊が味方を鼓舞し、
「大変ですけれど……頑張りましょう」
 微笑んだ馨風・カオル(a26278)が、医術士を欠いた前衛パーティに合流する。
「ここから先には、通しません……」
 医術の騎士・レオル(a18184)の鎧聖降臨を受けた、月葬祈音・ハーウェル(a18412)が身を挺してフォビアの動きを阻んだ。
 どむっ!
 その隙に、幻の獣・シス(a14630)のナパームアローが後続のフォビアを吹き飛ばす。
 戦いは続く。
 フォビアの数は徐々に減ってはいたが、その終わりは未だ見えず。
 後方部隊まで下げられた重傷の冒険者の数は、時間の経過と共に次々と増える一方で――その勢いを弱める事を知らなかった。
「負けません……」
 最果てに咲く薔薇・リコリス(a22105)は、その愛らしい顔に凛とした決意を込め、
「――負けませんから!」
 二度、呟いた。
 生か死か。
 そんな二択ならば、当然皆で戻る方がいい。

●竜殺せし一撃は……
「セイレーン忍法――!」
 声が響く。
 どれ位の時間が経っただろうか。
 徐々に収まってきた激戦の一方で、ドラゴンの頭部部分まで到達した冒険者達は、『赤竜』、『虚』、『城壁挺身隊』、『しゃいにんぐ☆ふぉーす』、『竜骨の食卓』隊等の活躍により、散発的なフォビア達の襲撃を防ぎつつ、かの巨獣の死骸と貫き殺したその刃、扉を調べ始めていた。
「爪は、爪痕と一致するか」
 『無限遺跡調査隊』の無垢なる闇黒・ユリウス(a04069)が呟く。
「……この材質は……」
 蒼浄の牙・ソルディン(a00668)は、ギアの破片と刃の材質を見比べる。
「ドラゴンを葬るほど強力な刃か……」
 青い閃光・イルイ(a01612)は呟く。
(「ドラゴンが死したのは、何時でしょうか?」)
 我流影殺法忍者・ショウシンザン(a05765)が、夕暮れにまどろむ白い月・カレリア(a05885)が、死骸を丹念に調べるが……それは、冒険者達には全く分かりかねた。
「槍の穂先……ディアスポラの神槍を彷佛とさせますね」
 唯、言える事は――扉とドラゴンの頭部を貫く刃は、遥かな昔、恐らくはそう――同盟諸国成立以前に放たれたモノであろうに、未だ少しも錆びる事は無く、神々しい輝きを放っている事だけ。
「扉の先、かえ……」
 美惑のカシオペイア・レビーシェ(a20478)は、巨大な扉の紋様に目をやる。
 貫かれた扉の先、隙間の向こうには、白っぽい靄と――薄ぼんやりと光る巨影が見えていた。
「――――」
 息を呑んだのは、一体誰だっただろう。
「これを放ったのは、間違いなく……」
 思策に耽る者・スクウェア(a18410)の言葉を、
「そう、間違いなく巨大な。
 確実なのは、この先にこれだけの武器を振るえる何者かが居るということ――」
 氷花の祈り・ソエル(a15586)が続けた。



 戦いの趨勢は既に決まった。
 死せるドラゴンの道が、間もなく冒険者達によって制覇される事は間違いなかろう。
 しかし、本当に危険なのは、この扉の先――
(「この探索が、どうか成功しますように――」)
 ――扉の先に待ち受けるモノ。
 間違いの無い推論は、万人に支持されるだろう。
 何故ならば、調査に当たった誰にも沸いた予感は、殆ど確信めいていたのだから。