<インフィニティゲート探索 〜封じの女神>


●前回までのお話
インフィニティゲート探索 〜廻る盾の回廊 インフィニティゲート探索 〜廻る盾の回廊 インフィニティゲート探索 〜死せるドラゴンの道

●序章
 冒険者達は、巨石を砕き巨大なクリスタルインセクトを排し、無限に生み出されるギアのパズルを解き明かし、鏡の回廊を駆け抜けた。
 そして、遂にドラゴンの死骸をも乗り越え、冒険者達は更なる困難へと進む扉の前に立つに到ったのだ。

 この扉より先は、ドラゴンでさえも立ち入る事ができなかった場所。
 個としての極限の強さを誇るドラゴンをも打ち砕いた銀の刃は、神々しくも危険な光を放つ。

 はるか昔、死せるドラゴンが、この遺跡に挑んだのは如何な理由であったのか。

 それは財宝かもしれない。
 或いは力かもしれない。
 それとも、その理由は長い年月の末に失われてしまっているのかもしれない。

 だが……。
 遺跡に隠された物があったとして、死せるドラゴンが望んだ物を得る事は同盟諸国にとって、どのような意味があるのだろうか。

 目の前に扉がある。
 扉には銀の刃と、貫かれた竜頭。

 そして、冒険者達はその扉を……。


●封じの女神
「みんな、お疲れ様! 探索も3度目だけど成功してよかったよかった。頑張った人に、ごほーび♪」
 そう言うと、ストライダーの霊査士・ルラル(a90014)は、沢山用意されたホットチョコレートのカップ(←別にルラルが用意したわけでは無い)を差し出した。

「でもやっぱりドラゴンって凄いよね。前の階までの壊れたギアとかは、このドラゴンが倒してたんだよね。冗談みたいだけど冒険者1000人力だったりして」
 帰還した冒険者からもたらされた報告を確認して、ルラルはそう感想を言う。
 少し的外れだが、大筋は問題はなさそうだ。

「でも、次の扉は開けるかどうか、良く考えなきゃだめみたいだね」
 この下には、ドラゴンをも破壊する敵がいるのかもしれない。
 いや、実際にドラゴンが死んでいるのだから、いるに決まっている。
「前に進むのも探索を中止するのも同じ勇気だから、良く考えるのですよって、ユリシアおねーちゃんも言ってたよ」

 集った冒険者達にむつかしい顔でそう言ったルラルは、改めて次の階層の情報を伝えたのだった。

「おそらく次が最後の階層だと思うんだ。だから次の扉は無いんだけど……。代わりに女神像があるみたい。それじゃ、説明するから良く聞いてね」
 そう言ってルラルが説明した『扉の奥の様子』は以下のような物だった。

(1)次の階層への扉は破壊されているので問題なく開ける事ができる。
(2)扉を開けた先は、歩ける雲で作られた真っ直ぐに下に降りる階段です。階段の横幅は30m
   で、階段の長さは500m程度です。
(3)階下には、淡く光る紋章文字で作られた法円(半径300m)があり、その中心には全長300m
   程の女神像が立っています。女神像には様々な武器のような物が付属しているようです。
(4)天井は巨大な吹き抜けとなっており、鍾乳石で出来た高さの違う列柱が立ち並び、柱を伝っ
   て女神像に近づく事で、足元以外の場所も調査する事が可能。
(5)女神のいる方円の周辺部には300体以上の女戦士型のギアが配置されています。
   女戦士型のギアには翼があり、また、その背後には『浮遊するマントのような存在』が1体に
   1つずつ付き従っています。
(6)女戦士型ギアは地上10mまで飛翔する事ができ、空中から侵入者を迎え撃とうとします。
   ただし、動き出してから飛び上がるまでには侵入者を確認してから60秒ほどの準備時間が
   必要です。
   準備時間前に、戦闘に巻き込まれた女戦士型ギアは、飛行せずに地上戦を行います。
(7)女戦士型ギアの背後にある『浮遊するマントのような存在』は冒険者達の攻撃を受け流し回
   避する力があり、女戦士型ギアの防御力を飛躍的に上昇させています。
   このマントのような存在と飛行能力が無ければ、女戦士型ギアの能力は『同盟諸国の最高
   レベルの冒険者と互角程度』のようです。
(8)女戦士型ギアは、他のギアと違い『一体一体が微妙に違う造詣』となっており、体格や表情、
   装備の形状などに変化があります。武器は片手剣と盾を持つのが一般的ですが、両手槍や
   弓・杖を装備している者もいます。
(9)女戦士型ギアは数体ずつが連繋して攻撃してくる為、互角以上に戦う為にはある程度の連
   繋が必要となります。
   しかし、チームを組んで戦う場合でも、あまり大人数になりすぎても上手く連繋できません。
   5〜8人程度で連繋のとれた戦闘ができれば有効でしょう。
(10)鍾乳石でできた列柱は高さや太さはまちまちですが、かなりの多数存在します。この列柱を
   上手く利用する事で、飛行する敵に対抗する事が可能かもしれません。

「なんだか怖そうな女神像だけど、悪意みたいな物は感じられなかったよ。だから、何もしなければ女神像は動いたりしないと思うけど……。
 でも、今回の探索に行かない人も、何かあった時はすぐに駆けつけられるように準備しておいてね」

 そういうと、ルラルはぺこりんこと頭を下げ……そのまま、少し冷めたホットチョコレートを一息に飲み干したのでした。


 

<リプレイ>

●雲の先にありし物
 扉を開いた先に広がっていたのは、なんとも幻想的な光景であった。
 遙かに高い天井、そして連なって吊り下がる鍾乳石。
 そして……その先に連なるのは雲の道。
 一つ一つにはかなり横幅があり、脚を踏み入れると……思ったよりもしっかりとした足場である事に気付く。
 これなら、雲の上を走る事も、戦う事も可能であろう。
 しかし……眼下には、300体以上もの女戦士型ギアの集団が立ち塞がっている。
 そして法円の中心部には……高さ300メートル程の、異質なる女神を象った像が鎮座している。
 白い法衣のような服に身を包んだその女神像は、背中に矛や剣等、無数の巨大な武器が生えており、その剣先が……炎のように揺らめく。
 又、胸のすぐ下にはぽっかりと大きな穴が開いており、そこからは……何か危険な気配を、数百メートル離れた此処からでも、はっきりと感じ取る事が出来ていた。

「あれは……伝説の、竜殺しの女神様……かな?」
「どうであろう……しかし、何か……触れてはいけないような、そんな気がするのう」
 流剣・ロック(a20544)の呟きに、輝石の皇子・クウォーツ(a00767)が答える。
「此処が……ドラゴン達も到達し得なかった最下層……そして……あの女神像は、何を知っているのでしょう」
 氷刃の雌猫・セト(a22554)がぽつり呟き、上を見上げる。
 吹き抜けとなっている天井は、遙か高い所まで続き、今居る場所がどれ程深い場所であるかを明らかにしている。
 それ程、インフィニティゲートの奥地まで降りてきたのだ……勿論、多数の重傷者と、数名の死者を出して。
「……まずは決着を。そして……この先に何があるのかを調べませんと」
 剣難女難・シリュウ(a01390)が唇を噛みしめ、愛剣を抜く。

 あの女神像は何故あるのか……そして何の為に、此処にあるのか……。
 しかし……それよりも女神像を護るように、周囲を囲う300体のギア達をどう対処するかが問題である。
 幸い、あちらから襲い掛かってくる気配はない。
 しかし女神像を調べるには、間違いなくこのギア達を相手にする必要がある。
 ルラルの霊査が正しければ、重傷、死亡……多くの者が傷つくだろう。

「必ず……帰りましょうね。また皆さんで笑えるように」
「勿論だ……分は悪くとも、俺達は負ける訳にはいかないんだ」
 微笑む地下水路の消し炭娘・リラ(a27466)の微笑みに、深緋の蛇焔・フォーティス(a16800)は静かに頷く。
「それでは……行くぞ。ギア達が飛び上がるまでが勝負だ。多くの者達が飛翔すれば、天と地からの両面攻撃を受ける事になるからな」
 複数の部隊を率いる六風の・ソルトムーン(a00180)の言葉に、六風旅団の者達、そして……この戦いに脚を踏み入れし者達は頷く。
「よし……いって……やるなぁ〜ん!!」
 斗飢滅姫・リューナ(a16680)を先頭にして、危険を承知で特攻を選んだ冒険者100人は、雲の階段を駆け下りる。

 長さ500メートル程の距離は、時にして数秒。
 目前に立ち塞がりし、300体以上もの高性能な女戦士型ギア……60秒という短い刻の中で、どれ程多くの敵を相手に出来るのだろう。

●六刻の時の悪夢
「アルカナ魔法騎士団前進じゃ! 敵を駆逐し血路を開くのじゃ!」
 どろり濃厚ピーチ姫・ラピス(a00025)の叫びに、一気に女戦士型ギア達は飛翔への準備を一斉に始める。

 女戦士型ギア達が、その背中に背負ったマフラーのような物体は、ギアの身体を護るかのように……そして、まるで別の意志を持った生物かのように動き始める。

「何だろう、これ……でも、そんな事に構っちゃ居られないよね。行くよ!」
 振り払うかのように、愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)が斬鉄蹴奥義を前方のギアの集団へと仕掛ける。
 同じように、煌めく吟砂・グラリア(a09339)、侍魂・トト(a09356)等も、流水撃を前方ギアの集団に攻撃を仕掛けた。
「……60秒か、ふん、遅いぜ!!」
 と朱の爆風・レドビイ(a00542)は叫ぶ。
 しかし……女戦士型ギア達には、その攻撃は大して通っていないようだ。

 金輝の暁・ディリアス(a16748)も電刃衝にて仕掛け、他にもウェポンオーバーロードによって強化されたレイジングサイクロンや、電刃居合い斬り等……様々な攻撃を仕掛けていくも……その攻撃を受け止めるかのようにそのマフラーは動く。

 ……綻びを作らなければ、後方の敵には一切攻撃が当る事は無い。
 しかし敵の実力は冒険者達数人掛りでやっと互角。
 武器を見て判別するのも、時間と状況の観点からみると中々厳しい物であった。

――誰しもが理解している。

 300体全員を60秒の間で相手する事は至難であり、多くの敵を巻き込むアビリティを使うと言う事は……その先に、自分自身の死が待っているという事を。
 でも……やらなければ、天井から攻撃をしかける者達が更に危険に陥る。
 後方支援部隊、そして回復が可能な特攻部隊の者達も、全力で仲間達の回復へと当るが……その回復は間に合わなかった。

「くそっ……でも、でもあたし達は倒れる訳には行かないわよ!」
 赫焉・フウカ(a24764)が、ギア達に叫ぶが、勿論……ギア達はただ武器を振るうのみ。
 重傷を負い、腹部から血を滴らせながら……でも、倒れる訳にはならなかった。
 そう、たった60秒という時間の中、誰しもが効率的に、多くの敵を巻き込めるアビリティを暗中模索の中、ただひたすらに使い続けるしか道は残されていない。

 そして攻撃を受けたモンスター達は飛翔を止めると、立ち向かってくる冒険者達へとその矛先を向ける。
 まるで……プログラムされたかのように、その動きは統一されていた。そしてその身体を護るように動くその物体は……的確に冒険者達の攻撃を受け止める。

「不気味だね……本当に。そのマフラーも、貴方達の動きも」
 星色のサフラン・シイナ(a14839)の言葉に、ふしぎの海の・ウナ(a14348)も頷きながら、流水撃を仕掛けていく。

「飛翔するマフラー、良く解らないけどそいつさえ断ち切れば!」
 と、ランドアースの人形術士・ベーム(a29856)が叫び、二つの接合部を切り裂こうとするが……決して離れる事はなかった。
 身体と接合しているのだ。
 マフラーへの攻撃は、本体へのダメージとなってギアの顔を僅かに歪ませる。
「もしかして……このマフラーは、ギア達と一体化しているの?」
 と、エルフの紋章術士・イルミナ(a00649)が想像を口にする。

 しかし……既にその時、攻撃を受けていないギアのマフラーは、全ての準備を終えたのか……僅かな光の明滅を始めている。
 まだ……法円の入り口から僅かに先頭が入った程度しか、攻撃の手は及んでいない。
 このままでは……上空に200体以上のギア達が飛び上がってしまう。

「こざかしい……一人残らず破壊し尽くしてやるなぁん!!」
 と……リューナは叫びながら、一人……ギアを蹴散らしながら、多く密集する奥へと武器を振るい、走っていく。
 その近くに仲間等いない。
 たった一人……リューナは死を覚悟の上で突撃する選択肢を選んだ。
「くっ……リューナさん!!」
 リューナと同様、チームに所属せずに特攻を選んだワニぐるみの・カイ(a03487)が叫ぶ。

 リューナの選んだ行動は、誰の目から見ても自殺行為である。
 ただでさえ熟練の冒険者が複数で対等の実力を持つギア達に、一人で勝負を挑もうだなんて。
 当然ギア達も、突撃してきたリューナに四方八方からの連続攻撃を仕掛ける。
 ギア複数に対し、リューナ一人では……。

「くっ……シリウスさん、グラリアさん、誰でもいいです、助けないと!」
「悔しいが、そんな事をやっている暇は無いよ! もう……飛ぶ!!」
 カイが叫ぶも、無限紅翼・シリウス(a29329)の言う通り、もう……時は満ちてしまった。
 プログラムされた60秒という時を越えて、飛翔を防ぐには攻撃を仕掛ける以外の手段は他に無い。
 粘り蜘蛛糸や、翠の突風でその飛翔を妨げようとする、桜下の夜叉姫・シャン(a08080)や、緑の記憶・リョク(a21145)達。
 しかしその効果が及んだギア達は、ほんの一握り。

 ……リューナの鬼神のような断末魔の叫び声と共に、天から下がる列柱の冒険者達へと攻撃の手を向ける女戦士型ギア達。
 ……地上に残りしギアの数は、半数にも満たなかった。

●空と地の狭間において
「来たわよ、私達の実力をみせてやりましょう!」
 列柱に登り準備を整える冒険者達……バニーな翔剣士・ミィミー(a00562)が、地上より飛び上がってきた女性型ギア達を指さす。
 マントの効果により……列柱の間を飛び回るギア達。しかし列柱の数は多く、ストレートに冒険者達に攻撃を仕掛ける事は出来ない。

「……はっ!」
 そんな飛び上がってきたギアに対し、連携して打ち落としていくのはマスカレイドの荒野の黒鷹・グリット(a00160)。
 落下していくギアを見下ろしながら、ふっ、と笑うと共に。
「残念だが、空中戦は俺も得意でね……さてと、どんどん打ち落としていくぜ」
 と、軽快に列柱を三角飛びでジャンプしながら、次々と斬鉄蹴を仕掛けていく。

 同様にチーム【一般人】の、伝説の巨大剣の使い手を目指す・チヨ(a14014)や、チーム【禁忌】の獣の如く闘う・エマ(a14244)、そしてチーム【朱月】の雷鳴の射手・ロイズェ(a00758)等、列柱を上手く利用しながら、敵を次々と撃墜していく。
 他にも様々なチームが、的確な連携を行いながらギア達を一匹一匹撃墜していく。

 更に愚ルメマスター・リヒト(a05434)や、命の抱擁やっちゃいます・アリア(a10359)のチーム【魔女っ娘】達が、重傷を負った者達に対し、的確な治療行動を行った為、戦闘不能の状態までに陥る者は極少数だった。

「仲間に怪我なんか負わせませんよ……私は狂戦士、ですから!」
 風に揺れるひまわり・マライア(a18569)の言う通り、むしろ地の利は冒険者達にあった。

 飛ぶ事により、ギア達の動きは多少なりとも阻害される。
 又、冒険者達もそれぞれ列柱を使った的確な動きをする事により密集した形ではなく、一体一体を相手にする事が可能になっていた。

 しかし……それには弊害もある。
 敵一体一体を撃墜する為に、時間が掛ってしまう事。
 動きの取りづらい列柱の間を動き、撃墜すると共にまた次なる敵を誘き寄せて撃墜する。
 攻撃の効果が及ばなかった200体程のギア達が飛翔し、その一部は地上に残る仲間を助けるように動いている。
 列柱の方へと向かってきたのは100体程のギア達……列柱の間を縫うように現われては隠れ……一匹ずつ倒すという方法は、時間の掛る様相を呈していた。

 一方、防衛陣を組んだ者達は、先行したギアの集団との衝突が始まっていた。
 僅かに数は減っているとはいえ、まだ百数十体の敵が一斉に冒険者達に襲い掛かる。
 防衛陣を組んだ者達はその数、289名。
 特攻隊の者達を含め……約3人で一体のギアを相手にする必要があった。

「来るぞ! 全員前に出すぎるな!! 絶対に孤立は避けるんだ、絶対に生きて帰るぞ!!」
 誇り高き白鱗・ゴードィ(a07849)が叫ぶ。

 ……負けられなれない理由、それは人それぞれであるが、間違いなく前方の敵の群れは、自分達よりも強大な力を持っている。
 気を抜けば、その先待っているのは死……気を抜かなくとも、ギア達の攻撃を一手に受ければ重傷は必至である。

「複数を相手にするのは分が悪いわ、一匹ずつ、確実に倒して行くわよ!」
 と、雷狐・エル(a12614)が指示を飛ばす。

 5名以上のチームならば、一チームで一体ずつを殲滅する事は可能だが、それよりも少ない人数のチームは、別のチームと協力して一匹、一匹を確実に殲滅していく。
 勿論怪我を負った者達には、ヒーリングウェーブや癒しの聖女の雨が飛ぶ。

 特攻隊の者達は、ほぼ3割に当る者達が既に重傷を負っているが、彼等を癒す事まで手が回らないのが実情。
 更に、沢山のギア達が怒濤の如く仕掛けてきており、重傷者の数は増える一方。
 天とは違い、地は苦戦せざるを得ない状況。
 しかし天の者達も、地の者達へ加勢するような余力はない。
 ギリギリの線上の中、天も地も闘わざるを得ない。

「良し、俺達はマントの破壊を狙うぞ!」
 青き雷鷹・ヴェック(a19321)を初めとした【スピリッツアーク】、翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)達【救助団特別攻撃部隊】はマントを狙い、その隙を突いて暁の幻影・ネフェル(a09342)達【ナマハゲ特攻隊】や、黒衣の閃迅・レオニード(a00585)達、【マクガドル探偵社】の者達、そして月吼・ディーン(a03486)を初めとした【雲櫂の風】の者達がギア達に大ダメージを与える。

 73ものチームが入り乱れ、協力し合い、眼前のギア達に戦いを挑んでいく。
 重なる力は一つの大きな力となりて、女神像への裂け目……一つの道が開く。

「調査隊の皆、私についてきてっ!!」
 嵐を呼ぶ魔砲少女・ルリィ(a33615)を初めとした【黒き闇の華】、そして久遠に遠き予兆・ウィヴ(a12804)の【紅胡蝶】の二つのチームが先頭に立って、調査隊の者達を連れて道をこじ開ける。
「良し……行くぞ」
 愛煙家・ビリー(a03028)はそう叫ぶと共に、左右戦闘の続く中、調査隊の者達は女神像に向けて、一心不乱に走り抜けた。

 天と地でギア達と冒険者の厳しい戦いが続く中、目の前に現われた、巨大で金色に輝く女神像。
 改めて解る……この女神像からは触れてはならない、何か……凶悪な気配が流れ出ていると。
 ……全身には無数の装甲板と、繋ぎ止めるようなビスが張り巡らされ、石像ではない機械……と認識する事が出来る。
 そして背中に生えた武器は一つ一つがとても大きく、その威力を考えると……即、死へと繋がるべく実力を持っているであろう。

「それにしても大きいわね……脚もないのに立っているって事は、浮かんでいるのかしら」
 天魔の魔女・リュフティ(a00421)が見上げながらそう呟く通り、その脚下は、腰の部分より何本もの尖った角が生えており、それが僅かに女神像を空中に浮かしている。
 しかし……女神像からは、凶悪な気配がする以外、特に動き出す気配もない。
 近くでは、激しい戦いが繰り広げられているというのに……である。

「まぁ……調べてみない事には何も解らないし、調査しないと。そうね……何か文字とか書かれていれば、それが手掛かりになるかもしれない。急いで探し出すわよ」
 緑・イツキ(a00311)の言葉に、調査に志願した者達が、女神像……そして法円に関わる文字を調べ始める。
 当然、求道者・ギー(a00041)や虚影葬送・フォルテ(a00631)達、そして地上に残る者達が女神像を囲う形で、調査隊の者達に決して攻撃の手を向けさせない。

 女神像に書かれた文字……それは、やはり古代ヒト族の文字と容易に判明する。
 前にユリシア達が霊査した、インフィニティゲートの古代ヒト族の研究施設から見つかった書物と同様の物。
 しかし……闇を照らす希望の光・ミュヘン(a19495)が一部の解読から全文の予測を試みるものの。
「……エン……プレス、マインド……? かな……良く、解らないけど」
 書かれている文字の繰り返しと、使い方から解ったのは、上の9文字のみ。
 それ以外については、何について書かれているのか……いまいちはっきりとしない。
 女神像の造形についても、博愛の道化師・ナイアス(a12569)の考えていた、ホワイトガーデンやピュアリィフォールの女神像とは、全く違う造形であった。

 そんな調査の中……一人考え込んでいたのは、空寂の・イゥロス(a05145)。
「かつて竜と対峙したと言うのなら……もしや……」
 そう呟くと共に、彼は……女神像の目の前で、黒炎覚醒……邪竜の力を解放する行動に出る。

 黒い炎が身を包んだ 
――――その時。
 頭上より、激しい爆発音のような音が、最下層に激しく響き渡った。

「何だ!?」
 慌てて周囲を見渡す、戒剣刹夢・レイク(a00873)。
 すると、金色の身体を持った女神像が、ギ、ギギ……と音を立てながら動き始めていたのである。

「「……動いた……」」
 誰かの声が合さる。
 そして……次の瞬間。
――――ウォォン
 激しい衝撃波が、周囲の地を凪いだ。
 戦闘中であったギアも、そして冒険者達も……激しい衝撃波の前には、敵味方関係なく、数十メートル吹き飛ばされていく。

「くっ……これは何だ!?」
 俺様最強勇者伝説・マイン(a20600)が又呟いた瞬間、二発目、三発目の衝撃波が立て続けに天と地を凪いだ。
 その衝撃波により割れる列柱……しかし法円内の柱は、その場の位置を保ったまま崩れ落ちる事はない。

 石自体に特別な力は無い……つまりこれは女神像、そして法円の力の成せる技なのだろうか?

 だが、冒険者達にその事を考えている暇は無かった。
 邪竜の力により動き出した女神像は、明らかに冒険者の排除の為に、攻撃を仕掛け始めている。
 背に生えた巨大な剣を構え……力を持って、地に振り落とす。

「……逃げてっ!!」
 蒼い雷帝・カイン(a06953)が叫び、身体を転がす。
 地面が裂けて、避けられなかった女戦士型ギアは……粉々に崩れ去っていた。
 もしそのまま交戦していれば、自分達もこの姿になりはてた事だろう。

 しかし女神像は、そのような事に構わず、更にその武器を振るう。
 巨大な体躯に見合い動きは遅いが……その破壊力は、冒険者達が数十人合さっても適わない程の攻撃力だろう。

 更にそればかりか、胸の下にぽっかりと開いた穴に、強大なる力が凝縮し始め……冒険者達の心に警鐘を鳴らしていた。
 力の凝縮、そして激しい攻撃の手と衝撃波の前に、冒険者達は成す術が無い。
 それを如実に示すかのように、衝撃波の前に、既に数十人の冒険者達が膝を突く。

「……くっ……仕方ない、脱出するぞ!」
「逃げるのか……ランドアースの者達を、危険にさらす事になるぞ!」
 悪を断つ竜巻・ルシール(a00044)の言葉に、鉄鎧鱗・ティトゥス(a19537)が叫んだその瞬間。
 胸の下の、凶悪な力は解放される。

 一筋の黒い閃光は地面と共に、その場にいたギア達を跡形もなく焼き尽くす。

「あ……ぁ……」
「……アルっ!」
 射線上にいたエンジェルの医術士・アル(a18856)を突き飛ばすティトゥス。
 黒い閃光に包まれ……獄炎の中に息絶える。
「ティトゥス……さんっ!」
 叫ぶアル……しかし女神像は、既に二発目の力を凝縮し始める。

「総員撤退! このまま此処に居ても勝ち目は無い!」
 ソルトムーンの通る叫び声が戦場に響き渡る。
 重傷を負った仲間達を背負い、次々と雲の道を後にする冒険者達。
 女神像の動きは遅く……次の閃光は、雲の道を分断するかのように放たれる。

「急げ! 急いで戻り、ユリシア殿にこの事を知らせるんじゃ!!」
 語り手・チアキ(a07495)がそう叫びながら、仲間達へ撤退を告げる。
 ……再び凝縮された力を放出しようとする女神像に、チアキは。
「こんな化け物が地上に出てきたら……間違いなく同盟諸国の危機じゃ!!」
 唇を噛みしめ、扉を出ていくチアキ。
 閃光が凪ぐと、最下層の光は……再び閉ざされた。