問い合わせ先



第12章
 僕は急いで城へと走った。
 すでにキマイラ化した冒険者が、モンスターになって城の警備兵と戦っていた。
 僕は問答無用でそいつ等を蹴散らし、一気にプリスがいる部屋に向かって階段を駆け上る。
 そして……城の3階へとやって来た時、そこは異様な静けさが支配していた。

ロム:プリスーーーーー!!!
GM:ロムが3階まで駆け上がってくると、誰も居ないような静寂の中、廊下の奥から誰かが歩いてくる足音だけが聞こえる。
ロム:プリス!?
GM:それは裸足で廊下を歩くような音、その音がヒタ…ヒタ…とロムの方へと近寄ってくる。そして――

――窓からの光がその人物を照らす。プリスの服、プリスの体……でも一つだけ異様な部分があった。
――彼女には首から上がついていなかった。そのかわり、その手にプリスの首を……。

ロム:リリィヘッド!? モンスター化しているの!?
GM:リリィヘッド……名称改めプリスヘッドがヒタ…ヒタ…と廊下を近づいてきます。
ロム:あ…ああ……――僕の瞳に光が、色が戻ります。
グリーズ:そこに現れる――何をしているロム、早くこの街を離脱するぞ。
ロム:グリーズ……でも……プリスが……。
グリーズ:そちらを見て一瞥――すでにモンスター化している……しかし、なぜ冒険者でも無い者が……そこまでナゴー博士の研究段階が進んでいたという事か?
ロム:その瞬間、僕は思い出す。影法師から貰ってプリスに飲ませた薬の事を――あれだ……僕がプリスに飲ませた薬……きっとそれのせいだ……。
GM:そうやっていると、廊下奥の階段から兵士が現れてリリィヘッドに気が付き――「こんな所までモンスターが!!」「くそ、プリス様は無事なのか!」――と言いながらプリスヘッドに襲い掛かります。
ロム:やめるんだ!!
GM:その兵士達に気が付いたプリスヘッドが振り向くと同時に、兵士達は(コロコロ)……死亡します。その顔はリリィヘッドの顔がプリスだった事に対する驚愕なのか、恐怖に引きつったまま彼等は絶命しました。
ロム:そんな……僕のせいで……。
グリーズ:行くぞロム、俺達の任務は終った。モンスターの排除までは命令に無い……放って置け。
ロム:僕は足に根が張ったように動きません。じっとプリスを……リリィヘッドを見つめます。
グリーズ:ロム、行くぞ。
ロム:………………。
GM:ロムが動かないなら、そちらに気がついたプリスヘッドが歩いてきます。そして(コロコロ)……ロムに向かって微笑みます。≪怪しい微笑≫が8レベル成功、[マヒ(4)]がついています。
ロム:(コロコロ)……無理、マヒしました。プリスを見つめたまま――……あ……ああ……どうし……て……。
グリーズ:ロム!! イニシアチブも振っていないが……攻撃してもいいのか?
GM:構いません。どうぞ。
グリーズ:壁を蹴って横合いからリリィヘッドに≪破鎧掌≫(コロコロ)……8レベル成功。56点ダメージ。[吹き飛ばし(2)]が発動するなら、廊下の窓から外へ吹き飛ばした事にしたい。
GM:ああ、じゃあ素直に喰らっておきましょう。プリスヘッドはグリーズの気に吹き飛ばされて、窓を割って城の外へ落ちていきます。
ロム:何をするんだ!!! プリス!!――割れた窓に駆け寄ります!
GM:窓の外は湖が見えます。領主専用の浜辺ですね。倒れているプリスヘッドが見えます。
ロム:くそ!――廊下を走って城から出る、城の裏手にある湖の浜辺へ!
グリーズ:ロムの肩を掴んで言うぞ――ロム、本当に行く気か? あのプリスはすでに――
ロム:……違う! プリスは……プリスだ!!――首を横に振りながら!
グリーズ:あれはモンスターだ。すでに人間では無い……現実を見ろ。
ロム:それでも……それでもプリスなんだ……十年前、僕はここにいなかった……でも今は違う! プリスの心の中に僕は居たんだ! ここは……僕が僕で居られる唯一の場所なんだ!!!――肩の手を振り解いて走って行きます!
グリーズ:……あれほど、決断しろと言ったと言うのに。
ロム:走りながら――決断はするさ、今が選択の時だって事もわかってる……だから、せめて……――湖へ向かいます。



 湖の街オーシャ。その美しい湖とは対照的に、街は今、鮮血の赤に染まっていた。
 何処かしこで起こった火事が、街の空を赤く染める。
 そこかしこでモンスターと化した冒険者達の殺戮が起こっている。
 そんな街を背景にロムは立つ、目の前には湖を背負った“プリスだった者”が立っていた。

ロム:岸辺までやって来ます。
グリーズ:俺もロムを追って来ている。そしてモンスター化した馬鹿が襲ってこないよう、2人を見守ろう。このまま逃げると俺のやりたい結末にならんしな(←何か考えているらしい)。
メリア:じゃあ私もそこに出てくる! 空から降りてきて怒ったように言う――グリーズ、どうして止めないのよ!
グリーズ:……だが、俺達に何ができる? ロムは自分が飲ませた薬のせいで、一般人のプリスがキマイラ化したと思っているんだ。どちらが死ぬにせよ……あれはロムの問題だ。
メリア:薬って……そんな……。
グリーズ:………………。
メリア:でも……せっかくロムも仲間になったと思ったのに……――私は泣きそうになります。こんな結社で育ったせいで、ロムのような友達になれそうな存在は稀有だったので。
グリーズ:メリア。
メリア:でも……でも……だって……う゛う゛う〜〜。
グリーズ:ちっ、仕方ない……ロムがプリスに飲ませた薬。アレを実は俺は持っている(←断言)。
GM:そうなの?
グリーズ:俺も影法師から貰っていたんだ。俺は【竜牙旅団】の団長だからな、影法師が結社の為にやろうとしていた事に俺も一枚噛んでいたんだ。もっとも、影法師が個人的に行った事なら俺は知らないが……。
GM:いや、影法師は結社の為に行った行動だったので、グリーズは薬持っていて良い事にしましょう。その薬は結社が重要人物を拉致する時に使う、強力な睡眠薬だね。
グリーズ:――と、いう事だ。――メリアに薬について説明した。
メリア:……でも、ロムはこの薬のせいでプリスがキマイラ化したんだって思っているんでしょう? だったら早く知らせてあげなきゃ!!
グリーズ:それは――
GM:「それは困りますね」――メリアの後ろに影法師が現れて肩を掴みます。
メリア:どうして!?
GM:「グリーズも言ったでしょう。これは彼の問題なのです。その選択次第で彼の道が決まります。決断は彼自身がしなければならない、闇の中では誰もが1人なのですから……そうでよねグリーズ?」
グリーズ:………………ああ、それが現実だ。
メリア:そんな……。



 光を反射する水面には、今は街の赤が反射してチラチラと光っていた。
 僕とプリスは約束通り湖へとやって来ていた。そう……約束通り……。
 全ては自分の事しか考えていなかった僕のせい……結社なんて悪の組織の約束を信じた僕の……。

ロム:プリス……。
GM:では目の前に立つロムに――「そこを……どいて……」
ロム:それは……できない。
GM:「じゃあ……」――(コロコロ)……≪怪しい微笑≫が4レベル成功[マヒ(4)]です。
ロム:(コロコロ)……8レベル成功で回避……と言うより、耐えたって感じだ――「プリス……ごめん、一緒に湖から街を見ようって約束したのに……」
GM:「……やく…そく?」
ロム:ごめん……僕は、いつも約束を破ってばかりだね……強くなってキミを守ると言っておきながら、守る事なんてできなかった……。
GM:「……邪魔」(コロコロ)……≪怪光線≫が4レベル成功、44点ダメージ。そのまま近づいてきます。



 プリスという友達が出来て、街でイジメられる頻度が減ってきた頃の事だった。
 僕がいつものように湖で1人漁をしていると、どこからかプリスの声がした。
 キョロキョロと周囲を見回すと、湖に浮かんだボートに1人で乗っているプリスを見つける。
「ロムー! お魚獲れた〜?」――ボートの上から手を振るプリスに、僕も手を振り替えしてみる。
 胸の奥を暖かい風が満たす。
 ここは一つ、プリスの見えている前で大物を……。そう目を離した時、湖の方でボチャンと言う音がした。
 慌てて視線を戻すと、ボートの上にプリスが居なかった。
「プリス!!!」



ロム:プリスとの思い出が頭を過ぎり、そのまま無条件にくらいます。でも僕はプリスの進路上から一歩も動かないまま――事件を解決して街を守ると約束しておいて、僕がしたのは街の破壊だ……。
GM:「……どいて」(コロコロ)……再び≪怪光線≫4レベルの44点ダメージ。距離はもうすぐ近距離です。
ロム:また無条件にくらいます―― 一緒に湖から街を見ようと約束しておいて……僕はキミを……キミを……。
GM:そこでプリスヘッドが一瞬だけ逡巡します――「どうして……泣いているの?」
ロム:おお!! じゃあ僕は泣いています。僕は涙を流したまま言う――キミの為にしてあげる事が……僕には、もう残されていないから……泣いてあげる事しか……僕には残っていないから……。
GM:「……私の……為?」
ロム:僕は俯いて呟きます――先に、行っててくれるかな? すぐに追いつくから……さ。



「ゲホッ…ゲホッ……」
 湖の浜辺に、僕とプリスはびしょ濡れで倒れていた。
 泳ぎには自信があったおかげで、なんとか溺れたプリスを助ける事ができた。
 だけど、プリスを抱えて岸まで泳ぐのは思った以上に体力を消耗していた。一歩も動けそうにない。
「ロム……大丈夫?……ごめん……ごめんね……」
 仰向けの僕に泣きそうな顔で謝るプリス、僕の顔に垂れる水滴は、プリスの濡れた髪から落ちる湖の水だけではなかっただろう。だらか僕は……少しでも心配かけまいと首を横に振った……大丈夫だと知らせる為に。



ロム:――その言葉と同時に、僕は光輝き出します。
GM:「何――
ロム:プリスが言葉を紡ぐより早く――≪居合い斬り・改≫をグリモアエフェクト。
グリーズ:(コロコロ)……5だ。
メリア:(コロコロ)……12。
ロム:……ああ、僕が自分で1だ。クリティカルの8レベル成功。ダメージは53点の2倍で106点。
GM:それは死亡します。10点ちょいのオーバーキル。
ロム:一刀両断する。
GM:ではその一撃でプリスヘッドは灰になって消滅します。と、その場面を見ていたグリーズ達ですが、ロムがプリスヘッドを斬るのを見て影法師が言います――「グリーズ、彼と共に結社のアジトへ来て下さい」
メリア:え?
グリーズ:やはりな……俺はニヤリと笑って――ああ、わかった。
メリア:どういう事? 私わかんないよ!?
GM:影法師はそのまま消えて行きます。
グリーズ:メリアの方を見て言おう――つまり、ロムの奴は合格って事だ。そして――俺は言いつつ疾駆する!
ロム:僕は消滅したプリスを最後まで見てから独白――すぐに……行くから――最後に、子供の頃の光景を思い出します……――



「溺れている所をロムに助けてもらったのは、これで2回目だね?」
 なんとか回復して、服を絞っていた僕にプリスが話しかけてきた。
「ありがとう、ロム」
 プリスは感謝してくるが、僕にはまったく覚えが無かった。2回目? 今回が初めてだと思うけど……。
 その事を伝えると、今度は急に怒り出して……――
――バチンッ!!――
「忘れないでよ! 馬鹿!!」
 プリスは僕の頬を平手で叩いて、そのまま城の方へと走って行ってしまった。
 僕は何で叩かれたかも解らず……結局その日は、一匹も魚が獲れずに終った。



ロム:僕は思うんです……そう言えば、どうしてあの時プリスは……って。
GM:どうしてなんです?
ロム:さぁ?(笑) ただ――まぁ、いいか……あとで聞けば……――と、僕は予定通り自害します。
メリア:ロム!?
グリーズ:それを自分の腕を間に入れて阻止する! ブシャッと血が噴出すが、剣の刃はギリギリ筋肉で止める!
ロム:……じゃ、邪魔をしないでくれよ! 僕はプリスを……プリスを……だから僕は、僕はすぐに…彼女の元に行くんだ!!!
グリーズ:殴りつけよう。
ロム:グッ……地面に倒れる。
グリーズ:お前は結社の大事な一員だ。その体、その命、それは全て結社のもの。お前が好き勝手にできるものではない。
ロム:!?――そんな……。
グリーズ:それが結社というモノだ――刺された腕ごとロムの剣を奪い去る。
ロム:………………。
グリーズ:任務は終了だ。結社のアジトに一時帰る。ついてこい。
ロム:あんたは……あんたは何も思わないのか!? こんなことをする結社に! 約束も守らず裏切りと恐怖で人を縛る結社に! あんたはこのやり方を見ても、まだ結社の一員だって言うのかよ!!!
グリーズ:ロムを見つめます。
ロム:睨んでいます。
グリーズ:……これが現実だ。
ロム:!!!
グリーズ:そしてロムに聞こえない声で――それに俺は、20年も前に夢から覚めちまっているんでな……――。
メリア:割って入る!――ロム、とにかく今は帰ろう? 任務は終ったんだしこれ以上ここに居るのは……ね?
ロム:故郷もプリスも失った……もう僕に大切なものはない。結社に従う理由も無い……。
メリア:そんな事無い! 私はロムが一緒に居てくれる方が良いよ! せっかく仲間になれたんだもん!!
ロム:……仲間?
メリア:そう♪ だから一緒に……帰ろう?
ロム:僕は………………わかった。一緒に帰るよ。でもそれはキミ達を仲間だと思ったからじゃない……僕には何も残っていないから……命さえ僕の自由にならないとしたら……僕はやっぱり、どこにもいないんだ……。




●次のページ
⇒⇒⇒第13章



当サイトへのリンクはフリーです。
なお、掲載されている記事・写真・イラストの無断転用、加工、直接の引用等は禁止とさせていただきます。
(C)トミーウォーカー/新紀元社